フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

こんにちは。今回はNeutralさんの「LEVEL」のご紹介となります。

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オススメ!
ジャンル:謎解き脱出ゲーム
プレイ時間:私の初見ノーヒントプレイで2時間半
分岐:なし
ツール:Unity
リリース:2024/12


一昨日公開されたばかりのNeutralさんの最新作です。Neutralさんといえば寿司打をはじめとするタイピングゲームが大変有名かと思いますが、脱出ゲームも作られておりそのクオリティもまた高いのです。
Flash時代の脱出ゲームが好きでフリゲ2023で投票したりもしました。

そんなNeutralさんの新作発表と聞き早速行ってみると、難易度は★3つ(じっくり)とのこと。腰を据えて挑む必要があるなと構えていたのですが、プレイしだすと面白くて一日で一気にクリアしてしまいました。


本作は脱出ゲームのお約束通り、見覚えのない密室で目を覚ますところから始まります。
部屋には回転する動物のイラストや何かがぴったりはまりそうな穴、アルファベットの書かれた引き出しなど、いかにもな仕掛けがありそうです。こういう風に、ここに謎がありますよ~!と主張してくれると解く側としてもそこに集中できていいですね。
難しい脱出ゲームは得てして細かいクリックポイント探しになったり、背景に同化して見つけづらいアイテムを取得しなくてはならなかったりになりがちですが、本作では解くためのヒントが見つからなくてイライラするというような時間がほとんどありませんでした。限られたヒントでしっかり正解を導き出せるような上質な仕掛けになっていると思いました。
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とはいっても本作の難易度はNeutral作品の中でも難しめの★3。簡単だというわけではありません。
ボリュームはかなりありますし、何気なく画面に入り込んでいたあれがヒントだったのか!といった気付きも必要になってきてしっかりと手ごたえと達成感を得られる難易度です。
私は2部屋目の光るアイコンのギミックが一番好きでした。なるほどそこを見るのかといった発想と、それさえ分かってしまえば少し考えるだけで済むシンプルさが良いですね。
ちなみに本作の謎を解くにあたりメモ帳などは必須と言っていいと思います。出てきた図形や文字のヒントを紙に書き起こしてじっくり考察しましょう。計算要素もあるのでよほど記憶力と暗算力に自信のある方以外はメモなしで挑むのは無謀だと思います。


さて、FlashからUnityへと開発ツールが移行されたのに伴い、画面は3Dのグラフィックとなっています。部屋の中の仕掛けが移動したり回転したり、アイテムを自由な向きから観察することができます。
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上のスクリーンショットはアイテムの観察中です。画面をドラッグすることで自由にアイテムを回転させることができます。この機能を使用しないと解けない謎もいくつもあり、3Dのメリットをふんだんに生かしたギミックとなっているのも良いですね。逆に言うと立体図形を頭の中で組み立てたり回転させたりするのが苦手だという方にはかなり難しいギミックもあるかもしれません。パズルの力が試されるものも複数あります。

しかし謎解きが苦手な方もご安心ください。なんとYouTubeに公式のヒント&答え動画があるのです。自力で解けたときの感慨は失われてしまうと思うので、一度じっくり悩んでからにするのがおすすめではありますが、ゲームページの上部にリンクが張られているのでどうしても困った場合はそちらから動画を見てみると良いでしょう。
私は今回はやらなかったですが、謎解き系のゲームで詰まった時はセーブして一晩二晩くらい放置し、別の日にやってみると案外するっと解けたりするのでそれもおすすめです。本作にもセーブ機能はついているのでお試しあれ。


また、アイテムの金属光沢までグラフィックが作り込まれていて素晴らしいです。
今回の記事に出てきた部屋はゲーム開始直後にいる場所ですが、本作クリアまでには雰囲気の違う部屋があと3部屋も残っています。謎解きに頭をひねりながらも、ぜひグラフィックも堪能していただきたいと思います。


というわけで今回は「LEVEL」でした。脱出ゲームの定番なギミックからやや型破りな珍しい仕掛け(特に一番最後の暗証番号のところは脱出ゲームの謎として解くのは初めてでした)までボリューム満点でありながら、ありがちなストレスを排したプレイしやすい作品となっていると思いますので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。前回の更新から1か月以上空いてしまいました。
今回はフリーゲーム以外でプレイしたゲームについて5本まとめて書いていきたいと思います。

ビート・チェリー・クエスト!

まずは丘の上のカテドラルさんのビート・チェリー・クエスト!です。
フリーゲームだとワケありの暴君さんが有名なサークルさんですね。
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プレイ時間4時間ほどの簡単ファンタジーRPGです。DLsiteBoothで販売中。現在Ci-enにてフォロー中だとクーポンが配布中なのでお得にゲットできます。

ゲームの中身としてはごくオーソドックスなコマンド選択式ターン制RPGなのですが、本作が個性的なのは作者さんが何度もアピールしている通り、そう、乳首です。大事なことなので文字を大きくしておきました。
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作中で何十回と乳首二本突きを炸裂させたことか。なにしろ公式の売り文句が
男のTKBを鍛えろ!コメディ全開!男女カップルのファンタジーRPG!
ですからね。
主人公リナナは新米ハンターで右も左もわからない状態なのですが、ひょんなことからベテランのハンターで討伐ランキングのトップを走るアウレスに気に入られ、パーティーを組むことになります。ベテランと組めるのはありがたいことではありますが、このアウレスというやつはとても思い込みが強く、
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乳首が自分の唯一の弱点であり、これを鍛えれば最強になれるとなぜか信じているのです。リナナのことは"乳首の師匠"扱い。そんな2人が繰り広げるコメディシナリオが本作の魅力となっています。乳首のこと以外でもボケまくり。リナナはそれにツッコんだりボケを重ねたり。物語中盤でイリオノーレが仲間になってからはさらに賑やかに。そして本作のセールスポイント(?)であるシステム、乳首トレーニング、略してちくトレが解禁されます。やるたびにステータスが上がるのでゲージがたまり次第やるといいのですが、毎回迫真の乳首二本突きを見ることに。このくだらなさを笑いに変えられる方なら全編通して楽しむことができるでしょう。

システム面はツクールでよく見るシステムそのものですが、細かいところでプレイヤーへの気配りが感じられます。イベント発生個所は分かりやすいようにマップ上に示されていますし、回復ポイントを使うとゲームプレイ上のTIPSが表示されたり、ダンジョン最奥部からはワープ魔法陣で脱出できるなど、ストレスフリーでゲームを進められるようになっています。
戦闘アニメーションなんかも豊富で動きも軽いのでぜひそのあたりにも注目してみてください。
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To my forever Love

続いてToAgeさんのTo my forever Loveです。Steamでの頒布となります。
こちらは最近プレイ動画をYouTubeに投稿したりしたアクションゲームです。
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ルールはいたってシンプルで、自機(手紙)をゴールへと運ぶだけです。できる操作は最初は左クリックで自機を弾くだけですが、途中から右クリックによるワイヤーアクションのような操作も可能になります。
グラフィックはシンプルで見栄えがするタイプではありませんが、シンプル故にヘルプ不要でゲームのルールやギミックの動作を理解できる作りとなっているのが嬉しい。ピクトグラムの待っている矢印の方向が進行方向であること、!マークのついている黄色い部分は危険で触れてはならないことなどが言われずとも分かります。
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最初のうちは簡単なのですが、ステージが進行するにつれて動くギミックが登場したり、連続で狙い良く右クリックをしなければならなかったり、重力の向きを変更したり、細かな力加減が必要になってきたりしてどんどん難しくなります。

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↑私がかなり苦戦した面です。どう進むのが正解かを考えるのに加え、その考えたルートを実現するのにも正確な操作力と判断力が必要になります。

特に後半になってくると何十回もやり直して練習する必要が出てくると思いますが、次第に操作が上手くなって思い通りに自機を操縦できるような感触も得られて、アクションゲームのツボをしっかりと押さえた作品になっていると思います。この達成感のおかげで、1回クリアした後も何度もプレイして最小手数クリアを目指してやり込んだほどです。私がYouTubeに投稿した動画はそのやり込みの結果です。
最高/最低手数がゲーム内で記録されるので、ぜひやり込んでみてください。今のところ私の記録(1st:148, 2nd:264, 3rd:468)が最高スコアだと思うので、抜いた方はぜひ報告ください。



マヨイヒツジの果樹園

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続いてはnamaageさんのマヨイヒツジの果樹園です。DLsiteで公開されているプレイ時間にして3時間程度のノベルゲームです。
フリーゲームではBlue*Doubt!が有名かと思います。Doubt!の終盤のドロドロ具合が印象に残っていた私は、本作はいったいどんな闇を抱えた作品なんだろうと期待してプレイし始めました。

舞台となるのは孤島に存在する不思議な学園。主人公の山田一郎は新任教師として着任したばかりです。
この学園の生徒は皆頭上に天使の輪のような金属質の物体を浮かべています。それだけでなく、何か重大な秘密が存在していることを山田は知っているようですが、それがプレイヤーに明かされるのはまだ先のことです。

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生徒一人一人に”担当教師”が付くという独特のシステムがあり、一郎は天真爛漫キャラのキャセロール(画像右)の担当となります。生徒の身体面、精神面双方にわたって手厚くサポート。何事もなく過ぎてゆく学園生活。臨海学校なんていう楽しそうなイベントの計画も進みます。ところどころ不穏な匂わせはありますがこのまま不思議なラブコメとして展開してもよさそうな雰囲気は、Episode. 5にて完全に壊されます。

「幸福は義務」というおかしな校則も、「進んでこの職に就く教師はいない」というネガティブな発言も、そして何より生徒の頭上に絶えず浮いている”ワッカ”の正体も、これらの謎はすべてそこで解けることとなります。そして同時にこの圧倒的な理不尽と倫理的な不合理に震えることになるでしょう。しかしわずかながらそこには確かに正当な理由と目的も存在していたのです。
このショックを体感しない事には本作の内容について語ったり聴いたりすることはできません。本作はなんと全体の半分程度に相当するこの章まで体験版で無料でプレイすることができるので、興味を持った方はぜひ自分の手でプレイしていただきたいです。

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タイトルから容易に連想されるように、本作にはキリスト教的な罪の概念が登場します(背景に鳥居があるのが宗教に寛容な日本らしい)。生徒が抱える”幸福”という義務。ではそれに相当する罪とは何なのでしょうか。
それ以外にもSF的設定が含まれており、最後の最後まで分岐の鍵を握るなど設定が複雑で、台詞回しも(特に生徒のいないシーン)やたら意味深な難しい作品ではありますが、ぜひ多くの方に味わっていただきたい作品だと思います。前半で無意味にアホな言動をしていた一郎にも、やたら気さくな同僚のリャンにも、なぜか生徒と同じ制服を着ている学園長のマツリにも、大きな秘密と裏の目的があったりします。エンディングは3種類。ぜひすべての結末を見届けてあげてください。

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あとシンプルに制服が可愛いし立ち絵もきれいですしね。
ビジュアル面、そしてBGMやテーマ曲といった部分に関しても力が入っており、値段以上の価値があります。システムも快適です。オープニングテーマどこかで販売してたりしないのかな…


召喚術の授業は××な魔物と、(上)

続いては内向的ぼっちさんの召喚術の授業は××な魔物と、(上)です。
この作品は主にDLsiteおよびBoothで正式版を頒布しており、PLiCyフリーゲーム夢現では体験版相当を無料公開しているようです。また、本作は12推となっています。
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本作の物語は、主人公のyが魔術学校で初めて召喚術の実践授業を受けるところから始まります。
魔法陣を描いて魔界と"門"を繋げ、魔物を人間界へと召喚する、そんな初級の授業でyが召喚した蝶のような魔物はyの目の前で破裂してしまうのでした。
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失敗に気を落とすyは魔力の安定を意識して次の授業でもリス型の魔物の召喚を試みますが、同じように失敗してしまいます。2度も召喚に失敗し魔物を破裂させたとなると周囲からも不気味がられ疎まれるようになってしまいます。
1年間個別授業で魔力の制御を慎重に行い、魔物を安定して召喚できるようになりクラスでの召喚実習に復帰した矢先、yは自ら作った門に引きずり込まれ、亜空間へと飛ばされてしまいます。そこで出会うのがタイトル画面にいる緑色の目の魔物。彼と出会って物語は大きく動き出します。


こんな話を読んで私は、これは魔界で何とかサバイバルして人間界へ帰る魔法ファンタジーものか、あるいは異世界転生してチート魔法を習得するような流行りものに近い作品かなと思っていました。しかし読み進めるごとに私の想像はいい意味で裏切られ、意外なテーマへとつながっていく作品であると感じました。

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なんというか、魔物との異種間ロマンスのような雰囲気をまとっているのです。緑目の魔物は出会った直後からどう見ても人間界の言葉でいうツンデレ発言を繰り返します。yは自らを魔界へと引きずり込んだ魔物への警戒は怠らないものの、魔界の中に作られた亜空間でかいがいしく世話をしてくれる緑目に次第に心を許していきます。そして魔力の採取がなんか…エロいんです。直接的な行為だったりそうしたイラストが出てくるわけではなく、やっていることはあくまで人間であるyから魔力を抜き取ることなのですが(だからこそ全年齢(12推)に収まっている)、魔力の搾取がしやすくなるために用いる毒薬であったり、緑目がyに触れて何とか機嫌を取ろうとする描写であったりに色気を感じ取りました。魔物の性別が明示されない(そもそもないのかも)のでちょっと違うかもしれないんですが、BL的な面白さがあるように思います。

本作が意外だったのはその点のみではありません。人間界と魔界の自然環境の違いのみならず、生態系や魔力の性質の違いなどがストーリーに絡められていて設定がよく練られています。
しっかりと警戒心を持つyは緑目の魔界での博愛的な行動に対しても批判的な思考を忘れませんが、緑目のその行動はそのまま人間界で人間が生態系に関与することだったり人間第一の倫理観を形成することに相当するのだと思い至ったりと、いろいろな視点を提供してくれるんです。

また、文章表現と背景のリンクの仕方が独特だったりします。ここに挙げた画像のように、背景はないか抽象的なものが多いのですが、たまにシナリオに出てきた修辞に対応する画像が出てきたりしてこのような表現もあるのかと感じました。木蓮の蕾のように笑った、というシーンで蕾がビジュアル的に登場したのがなかなか印象的でした。

このように短い間にいろいろと印象を変えてくれる作品で、yは無事に人間界に帰れるのかという軸もしっかりしているため、どんどん先に読み進めていきたくなる内容でした。

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本作のシステムも独特です。
読み進めているとたびたびストーリーキーというものを入手できます。yの心境に大きな変化があった場面などで鍵のかかった扉が現れるので、そこで適切なキーを選択してやることで物語が進行するというものです。失敗しても持っているキーを自動で試してくれる時もあるのでそこまで難易度は高くないはずです。
このキー入手はいくつかの候補の中から1つ選ぶ場合があり、はずれのキーを選んでしまうとそれが必要な扉で詰んでしまうことがあります。進めなくなった場合、その扉で使えそうなキーを入手できる場面がなかったかを考え、それを取ってくる必要があるのです。

試みとしては面白く一定の効果を上げているように思えますが、私にはバグの温床となっているというデメリットの方が大きいように感じました。1章を読んでいたはずなのに扉を開けたら3章に飛んでいたりといったこともあったので、ここはぜひ解消してほしく思います。
プレイ時間はいろいろキーに迷ったりしながらで3時間程度でした。

Reverse Defenders

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最後に、LibragamesさんのReverse Defendersをご紹介しようと思います。Eight Defender'sというフリーのブラウザゲームを公開されていた方で、2020年のFlash終了に伴い旧作の公開は終了していました。2022年に続編となる本作Reverse DefendersがSteamにて公開されています。

ジャンルとしては村を襲う魔物を倒していく防衛ゲームで、魔物の通り道が固定されているタイプのものになります。道の両脇にサーヴァントを3人配置し、侵攻してくる魔物へ攻撃します。魔物を倒すと経験値とお金を得られ、これを使うことでサーヴァントをレベルアップさせることができます。

本作のシステムとして独特なものがいくつか。
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まず第一に瞑想システムでしょう。これはFlash時代から採用されていたものです。
上の画像で左上の剣を持ったサーヴァント(ファイター)以外は暗く表示されています。これは瞑想中であることを示します。wave中に瞑想ゲージを溜めると敵を倒して得られるものとは別に経験値を得ることができるのです。必要のある時だけサーヴァントを攻撃状態で配置し、戦力が余りそうだったり攻撃範囲から外れているときは瞑想させることで経験値を溜め、次以降のwaveを有利に進めることができるのです。

同じくFlash時代から引き継がれたシステムにクラスがあります。これはRPGの職業をイメージするといいでしょう。クラスごとに攻撃力や攻撃速度、攻撃範囲が異なり、それぞれに得手不得手があります。一定レベルになると上級職へと転職が可能となり、ステータスの上昇や特殊効果の習得ができるのです。初期職3、中級職6、上級職12とかなり選択肢が豊富で、それぞれに違った強みがあるのです。

そんなクラスの特色をさらに引き出すのが今回から搭載されたリバースシステムです。
配置されたサーヴァントと同じ地点に別のクラスを同時に配置して、裏表をひっくり返すようにwave中に入れ替えることができるのです。これによって敵のタイプに応じて対処が得意なクラスへ変更するなど戦略の幅が広がります。さらには各クラスにはそれが裏に存在するクラスへと特殊効果をもたらす、裏特性というものがあり、これをフルに活用することによって攻略を目指していくのです。


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また、本作は多数のステージから構成されています。ステージを攻略したり宝箱を開けたり、ボスを倒したりすることによって攻撃力などのステータスにボーナスを加算していき、より難しいステージへと挑む構成になっているのです。
このバランス調整がよくできていて、慣れないうちはクリアできなくて、ボーナスをマシマシにしてようやく突破したあのステージが、コツをつかんできたころには最低限のボーナスで倒せるようになっており、ターンを節約して攻略することが可能なのです。

行き詰まったら”次の世界線へ”進むことができます。その世界線で得たボーナスポイントを使うことでいわゆる強くてニューゲーム状態に。そうしてプレイヤーの技量とボーナスを積み重ねてラスボスへと挑むことになります。


本作は防衛ゲームにしてはwave中の操作(瞑想/復帰やリバース、ハモナイズという特殊効果の発動など)が相当忙しく、サーヴァントの配置やクラス構成、初見殺しへの対応なども複雑でかなり難しい部類に入ると思いますが、その分自分の上達を実感できますし達成感を強く感じることができるでしょう。

あとはグラフィックもFlash版より進化しています。可愛い女の子2人とマスコットキャラ(?)。それにサーヴァントの絵も棒人間だった時より進化、視認性もアップしています。
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ステージの合間にはちょっとした会話イベントが。ゲームの進行にかかわる重要なヒントの時もあればギャグ回もあり、ちょっとした人生観みたいなのが感じられる話題もあり。
その他操作性やユーザビリティの面でもよくできていると思います。前述のようにwave中も忙しいのでキー操作一つでリバースや瞑想できるのは便利。ステージのやり直しだったりクラス特性の確認、細かな表示の設定など痒い所に手が届く印象。

難しいステージに対してどう頭をひねって攻略していくかというのが主眼のためライトゲーマーにはやや厳しく、コアなゲーマー向けかと思いますがおすすめです。


というわけで5本一気に紹介してきました。
有料の作品は、本当に気軽にDLできる無料の作品と違ってある程度のクオリティを期待することになると思いますが、今日紹介した作品はジャンルは違えどどれも面白かったです。ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はRtt Projectさんの「プリンキピア・アルケミア」のレビューとなります。

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ジャンル:プログラミング錬金パズルゲーム
プレイ時間:メインストーリークリアまでで1時間程度
分岐:なし
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2021/2


本作は3年前に公開された作品で、私が本作を初めて知ったのは2021年のフリーゲームCMコレクションだったと記憶しています。私が得意そうな雰囲気を読み取れ興味を持ってはいたのですが、DLせずにそのまま3年経過していたようです。先日何のきっかけだったかは忘れたのですがフリーゲーム夢現で本作を発見し、ようやく実際にプレイしてみました。ゲーム説明から期待されるパズル的な面白さはもちろんのこと、コストの最適化に関して考察しがいのある作品だったので今回ご紹介しようと思います。



本作は基本的にはストーリーモードとパズルモードが交互に進行していきます。主人公は19世紀のイギリスで錬金術で商売しています。自分の工房を拡張したり、客からの依頼に応じたりするために錬金術を使っていくことになります。
この錬金を行うパートがパズルの面になっています。このパズルが少々癖のあるものになっていまして、プログラミングの素養のある方ならパッと飲み込めると思いますが、そうでない場合そもそも「入力」「出力」「スタック」などの意味から日常用語と違っていて困惑するかもしれません。この辺りはチュートリアルステージをやりながら覚えていくしかないでしょう。私は以前Wikipediaでなんとなく難解プログラミング言語の一覧を見ていたとき、Befungeという2次元的にソースコードを記述する言語の存在を知っていたので、システムの理解は容易でした。
今このWikipedia記事を読んでみると想像以上に本作の仕様と同じ(その拡張)になってますね。Befungeの言語仕様のうち<>^v#&+%`\$あたりの文字を使えるようにして、元素の結合/分解という操作を付け加えたゲームという感じでしょうか。作者さんもBefungeに影響を受けて作ったゲームであることをあとがきで明言していました。

という背景情報はありつつも、本作のパズル自体は特に前提知識なく解くことができます。
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やることは格子状のフィールドにユニットを配置し下の実行ボタン(右向き三角形)を押すだけ。
スタート地点から順に通った地点にあるユニットに応じて錬金素材の取得と操作、生成物の出力などを行います。その結果出てきたものが目的物と一致すればクリア。上の画像の問題の場合、ガスを2分子取り込んで片方を分解、火の元素を一つ捨てて結合したものを出力すればOK、というのを回路にしたのが正解となります。
このあたりの操作は慣れればすぐできるようになるのですが、条件分岐を使うようになってから難易度が一段階上昇します。

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この問題では入力される素材が一部ランダムとなっています。その中から空気だけを抽出して出力するには、中央にイコールの記号のある制御ユニットを使う必要があります。プログラミングでif文を使うように、スタックに積んだ元素が一致しているかどうかで処理を分けることができるのです。
この画像の場合、取ってきた分子が空気と一致しているならそのまま出力、そうでなければ分解して全部廃棄としています。

これができるようになると格段に回路設計の自由度が増し、様々な問題を解くことができるようになっていきます。

とはいえメインストーリー中の問題はどれもクリアだけを目指す分にはそう難しくありません。私もとりあえずスマートに解くのが難しそうなら力押しの方法でクリアしており、いったん本作はやりつくしたかなと思っていたのです。
しかし作者さんがHPなどで公開している追加問題を見て、本作の秘めた可能性と私のやり残しに気付きました。
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これは作者さん本人のおすすめ問題”金の糸”の私なりの最適解です。金の元素を6個生成してつなぎ合わせる必要があるのですが、ちょうど6個というのが曲者でなかなか苦労しました。これもコストに目をつけずとにかくクリアできればいいというやり方ならさほど難しくはないのですが、追加問題には配布時に目標コストが設定されており、それがこの問題では300Gでした。私のごり押し解法では800Gほどかかっておりコスト削減のし甲斐があるなあと思い3日ほどたった日、6回ループを行う方法の天啓がおりてきました。開始時に出力用金属元素以外にカウンタ変数用の元素をスタックに積んでおき、ループごとに1回変成することによって回路の構造化が可能になると!
これを思いついてしまえばあとは2次元のフィールド上にどうやってこの手順を実現するかを考えるのみ。300Gは多少の試行錯誤で達成することができました。さらに高価なユニットである変成を1か所にまとめて通る向きの縦横で処理を識別するなどの工夫により270Gを達成。Twitter等に上がっている情報を見る限りこれが最適っぽい気がしています。

ここまでくると、単にプログラミングの問題を解いているのとは違った、2次元的に回路を組み上げて最適化するという楽しみ、そしてコスト削減で競い合うという楽しみが加わって本作の魅力を倍にしてくれました。追加問題はまだまだたくさんあるので、やり込みの道は長そうです。

この追加問題を取り込む手順はちょっと面倒かもしれません。問題ファイルをダウンロードし実行ファイルと同階層にUserDataフォルダを作ってそこに配置。ゲームを起動してカスタム問題のフィールド上で右クリック→問題を読込をクリック→ファイル名を入力、としてようやく遊べるようになります。理想的には問題ファイルをゲーム画面上にドラッグ&ドロップしたら上記の手順を勝手にやってくれる、といった機能が欲しいですがウディタの仕様上難しいんでしょうか。手動でUserDataフォルダに配置したら自動的にカスタム問題に並ぶ、という機能でもあったら嬉しいです。

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それ以外のシステムについては不満ありません。ストーリーモード、パズルモードどちらにしても動作は軽快でクリックのレスポンスもいいですし、ストーリーを後から読み返せる機能もついているのがうれしいところです(画像の吹き出しクリックで再生できる)。これができない作品はかなり多いので好印象。
回路の仕様で引っかかった点が1点。条件分岐で、初見の時は結合した分子に対する判定を期待していたので想定していた動作にならず困惑しました。(スタックがA-B A-BならYes, A-A A-BならNoというように分子単位で判定すると思っていたが、実際にはA-Bの部分だけ見てNoと判定されたりA-Aの部分だけ見てYesと判定されたりしているようで、回路の設計を一からやり直す必要が生じてしまった)
あとは初回の名前設定時に最初にEnterを押してしまったらそのまま名前が空で進行してしまったのは微妙かなと思いました。デフォルト名とか欲しいかも。

ちなみに本作のバージョン名がv1.618033と非常に細かい値になっていますが、これは更新ごとに黄金比φ(=(1+√5)/2)の近似値を一桁ずつ増やした結果のようです。Twitter検索では誰も触れてなさそうだったのでちょっとした秘密に気付いた気分でした。


というわけで今回は「プリンキピア・アルケミア」のご紹介でした。
一通りクリアした後はぜひ各ステージのコスト最小化を目指してやり込んでみてください。頭をひねり続けて試行錯誤して、効率的な回路を考え付いた時の達成感は最高です。できればランキングなどあるとさらなるモチベーションになったかも。

それでは。

こんにちは。今回はソロフィリアさんの「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」のレビューとなります。

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ジャンル:芸術家の百合ノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2024/8


本作は今年の夏のコミケで知った作品になります。一目で百合と分かるインパクトあるイラストを中央に持ってきたチラシ、しかもいい紙に印刷されているものを貰い、後でプレイしようと会場で名前を覚えたサークルさんです。実際にプレイするまで1か月かかってしまいましたが、単に可愛らしい女の子同士がイチャイチャしている作品ではなくしっかりとしたテーマと確かな文章力のある作品でしたのでご紹介します。


まずはいつも通りあらすじをご説明。

主人公の六華嗣治(読みは りっか・つぐはる でいいのかな?)は大金持ちの家系に生まれ、一応投資家を生業としているものの稼ぎを出さなくても問題ないため自由にやっているというなんともうらやましい人物です。祖父が芸術系の高校である六華学園に多額の出資をしており、嗣治は学園祭に招待されていました。そんな彼が学園祭で出会ったのは月崎若葉という生徒。彼女の描く絵に一目ぼれした彼は、経済的支援は惜しまないからぜひ芸大へ進んでほしいと提案。さらに大学へ進んだ彼女を住み込みの家政婦として雇い、屋敷の家事を任せる代わりにアトリエや画材を好きに使ってもらうことにします。
そして3年後、同じく若葉の絵に心を動かされて六華学園に進んだ親戚の茶山モカは嗣治へ金銭支援を依頼しに来た日、彼の屋敷で絵を描く若葉と対面。弟子にしてほしいと頼み込みます。そんなモカを追ってきた彼女の友人の黄原めるも混ざって屋敷は突然の百合入り乱れ。彼女らがこれまで積み重ねてきた経験と信念をもとに芸術論を交わし、そして開花する絵画への熱意と才能。芸術を軸に絡まりあって成長する百合物語が始まるのだった…

こんな感じでしょうか。


本作の序盤はコメディ的雰囲気多めで進行していきます。ヒロイン若葉は機械が苦手でコーヒーメーカーから白湯を出したりしてますし、なぜか趣味でメイド服を着ています。嗣治は悪い人ではないですが何かとからかわれがちなキャラ。お金持ちなのに家電選びが異様に優柔不断ですし、学園祭で初めて若葉にあった時には変態扱いされて(実際かなり奇特な行動でしょう)、モカちゃんには引きこもりとか暇人とか言われたい放題。特にこのモカちゃんはかなり気の強い毒舌キャラなため、彼女との絡みは特に笑えます。まあ、それは言いすぎじゃない?っていうのもありますが…
そんなモカが若葉と出会うシーン。ここから物語が大きく動き始めます。

自身に進路を決意させた若葉を前にして心酔した様子のモカ。対する若葉の方も、強い決意や行動力を秘めたモカの姿に胸を高鳴らせます。出会って早々に百合カップルの誕生か…? と思いきやそう簡単に事は運びません。今度はとにかくモカのことが大好きな少女黄原めるが乱入しまさかの百合三角関係が発生するのでした。
しかも翌朝には、若葉の趣味で女の子は全員メイド服姿に。めるはいいとして若干不満そうな表情ながらもきっちりメイド服を着こなしたモカを見てなんか笑っちゃいました。

これ、その時の立ち絵自体がふざけていて面白いのかというとそうではなくて、モカのキャラクター性と衣装の不一致(あと表情と台詞)が面白いんです。つまり、これは本作において各キャラクターが活き活きと描かれていることの証左だと思うのです。そして、それぞれの人物がどのような背景と考え方を持っているのかという描写は、後半の展開へとつながるカギとなります。


とはいえここまで読んだ私の感想としては、これは可愛い女の子たちがイチャイチャしてるのを眺める萌え系コメディだろうと思っていたのです。実際この後もしばらくは甘々ラブコメが続いていきます。
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作品ページのサムネイルにも使われているこのキスシーン。なんという甘さでしょうか。
モカちゃんの方から勢い余ってしてしまったという、いかにもラブコメでありそうな展開なのですが、このあたりから本作の別の顔が見えてくるのです。


翌日、画材を買いに行く道中で若葉がモカの過去を聞いたり、モカに若葉の新しい絵のモデルになってもらったりといった過程で次第に明らかになってくる皆の絵画への思いと人生観。若葉がなぜメイドにこだわるのか、モカの強気な性格の源泉は何なのか、絵画の作風と表現対象への思い入れ。そういった要素が物語としての展開や人間関係につながってくるところが非常にうまいと感じました。


これについてはあまり書きすぎるとネタバレになるので1つだけ挙げておきましょう。
若葉が幼いころに聞いたおとぎ話には決まってお嬢様とそのお世話をするメイドが登場しました。しかしどんなお話もお嬢様は王子様に見初められ、最後には結婚して幸せに暮らすのです。そこに彼女を支えてきたメイドの姿はありません。そんなお決まりの運命に逆らうために、若葉はメイドとお嬢様だけの物語を紡ぐことを決めたのでした。
なるほどここまで聞くと、彼女がメイドの姿で美少女の絵を描き、嗣治に対してもメイドを演じる理由が分かります。しかしこの設定はそれだけではないのです。

おとぎ話の世界から綺麗なお嬢様を絵画という形で顕現させるのが自分の使命だと思っていた若葉。ファンタジーの世界から形ある絵としてこの世に生み出すという方法でこれまで制作を行っていたため、彼女の絵にもともとモデルは不要だったのです。しかしそこに突然現れたモカはあまりに彼女の理想とするお嬢様に近すぎました。”可憐でありながら、湧き出るマグマのように力強い瞳を持った少女”であるモカに自身の理想を重ねて同一視するようになります。これはモカにとっては残念なことでありました。

初登場時に出てきたように、モカは若葉の描く絵に惚れたのです。そんな彼女が絵を描くことへの興味を失い、モカの存在を見るだけになってしまった。しかも彼女が見ているのはそれまでの人生と人脈と芸術観を持った個性ある人間としてのモカではなく、若葉の脳内に存在する理想のお嬢様の残像でしかないのです。このすれ違いが明らかになりモカはショックを受けて一人自宅へと帰ってしまうのです。


このシーン、私はすごく唸らされたんです。ついさっきまで仲良し百合を見せられていたのに、しかも2人とも美術という同じ業界にいることに意気投合していたのに。こんなことになるとは想像できなかった。しかし同時に納得感のある展開でもあるんです。それぞれの人物の考え方がしっかり伝わるシナリオとなっている故でしょう。このように、人物にまつわる設定が発展してほかの人物と絡まりあって物語を前進させていく、そうしたところに本作の良さが詰まっているように感じるのです。

演出手法についてもよく考えられていて、前半におとぎ話とか映画に関連するエピソードが出てきたのを受けて、終盤でレトロ映画風のシーンが挟まったりといった気持ちよさが随所に感じられます。

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ここまでレビューであまり触れてこなかっためるについても同様です。むしろ終盤は彼女の見せ場。感情が高ぶれば校舎や校門にまで絵を描いて歯止めが利かない問題児のめるでしたが、その独特な芸術観と感情の機微を見逃さない観察眼はすれ違いを起こした若葉とモカを救ってくれました。猪突猛進で多少言葉が悪かったりもしますが、彼女の熱意がなければ若葉とモカはあそこから前に進むことはできなかったでしょう。本当にいいキャラしてるなと思います。

そんな3人がこの件をどのように消化して芸術への糧にするのか、それはぜひ皆さんの手で見届けてあげてください。


話は変わりまして本作のイラストなどシナリオ以外の部分について。
絵を描く少女たちの話なだけあって大変可愛らしい立ち絵がそろっています。メイド服も細かいところまで書き込まれていて凄い。制服立ち絵だけ左右反転時に胸ポケットの位置が矛盾するのが気になる、といったところでしょうか。
背景は写真素材です。お屋敷や美術館の品のある感じが演出されていてピッタリなんじゃないでしょうか。BGMに関してはピアノ曲中心でやや渋めの選曲。これも芸術というテーマにマッチしているように感じます。
システムに関してはもう少し頑張ってほしかったというところでしょうか。レビュー執筆のために特定のシーンを読み返そうと文章スキップしたらフリーズしたとか、背景が真っ黒で動かないとかの状況が多発してしまいました。


というわけで今回は「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」でした。
以前ちらっと言った、ノベルゲームの総合芸術的な面が生きた作品となっていますので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は落柿さんの「アカイロマンション ~ホラー編~」です。

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ジャンル:超常現象系ホラーノベルゲーム
プレイ時間:1週目2時間程度。エンディングコンプまでその2~3倍程度。
分岐:多数。エンディング23種
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:製品版あり


こちらはしばらく前に知った作品で、プレイする機会をうかがっていました。結局DLしてからプレイするまでにかなり時間がかかってしまいましたが、よい作品でしたのでご紹介します。


まずはあらすじを簡単にご説明しましょう。

大学4年生の良(名前変更可)は夢の一人暮らしのために学生寮から格安マンション「赤石マンション」へと引っ越すことになった。周辺の家賃相場に比べてあまりに安い理由が気になる良だったが、その理由は引っ越し初日から思い知らされることとなる。住人の自治を重視するというオーナーの意向の元で1000回以上も続いているという住民会議。それに参加する癖の強すぎる住民たち。そして15年前にあったという連続殺人事件の現場の一つであったというこの土地。
そんな中で起きる不可解な事件。殺人鬼がうろつくマンションに閉じ込められてしまった良たちは15年前の事件の被害者の呪いを解いて生還することができるのでしょうか……

こんな感じでしょうか。

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さて、本作の特徴の一つとして、ストーリー中の選択肢がかなり多めという事が挙げられるでしょう。
当然ですが物語前半のうちは真相につながる手がかりをほとんど持っていません。その中で呪いや犯人の目星をつけ、ほかの住人と一緒に対処法を考えていく、といったホラー・サスペンス的な展開を盛り上げるのに一役買っているといえるでしょう。

また、このマンションの住人は新しく引っ越してきた良を含めて7人います。上述したようにこのマンションにおける意思決定は「住民投票」により行われます。呪いへの対処をどうするのか、根本原因の解明のための調査法は?など様々な議題が持ち上がり、その多くは実際にプレイヤーが投票内容を選択することによって進行していくのです。
住人達(+良の友人の春奈)の合計8人(途中で被害者がでて数人脱落しますが…)というやや多めの登場人物の数とマッチしたシステムになっており、臨場感のある展開を作り出すことに成功していると感じます。
臨場感を演出するという点でみると、本作で登場人物に立ち絵がないのもプラスに働いているでしょう。「1999ChristmasEve」のレビューで指摘したのと近いですね(ジャンルも似てるし)。


そんな本作はプレイヤーの選択によって合計23ものエンディングに分岐します。そのうち19はバッドエンド(ほとんど主人公の死亡や住人の全滅です)、残り4つが生存エンドになっています。それぞれの選択肢は、直後の展開が変わるだけのダミー選択肢や間違うと即分岐系のバッドエンド分岐もあれば、終盤になって初めて選択が効いてくるもの、中盤以降の捜査の展開が大きく変わるものなどさまざまあり、全体の構造をつかむには何周もする必要があると思います。

これらのエンディングを何個も見ていくうちに事件の背景だったり呪いの正体や手がかりを得ていくことになり、真実のパズルがはまっていくような気持ちよさを味わえるシステムになっていると思います。
逆に言うと一つの生還エンドを見ただけで事件の全体像が把握できるような構造にはなっていないため、ここが弱点にもなりうるシナリオだと思いました。
私は運よく(?)1回即分岐バッドエンドを踏んだ以外は一発でEND23(呪いを鎮めて事件が解決するエンディング)までたどり着いたのですが、やけにあっさりと解決してしまったような印象を受けました。その後ほかのエンディングを回収する中で、あの時他の人物が何をしていたのかとか、過去の事件についての情報とかを知っていくこととなり、そこで初めて知るようなことも多くそこがちょっと微妙かなと感じました。1周目にルート制限があり、ある程度特定のエンディングを見ていくと真実への道が開ける、というタイプの分岐システムがあると最高だったかなという気がします。あるいは1周目でも到達は可能だがフラグが厳しくて、初見でたまたまたどり着くことがないようにするとか。
真相が明らかになるエンディングは全体の構造が見えてくると、後味もよくしっかりと謎が解決しているものだったのでややもったいないと思ってしまいました。

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本作のBGMはピアノ曲中心に構成されており、ホラーっぽさを醸し出しながら聞いていて不快にはならない感じでちょうどよかったと思います。長編作品でBGMがずっと不穏、というのは意外と疲れるのでこの調整は絶妙だったのではないでしょうか。
演出面でいうと写真背景なのもよかったと思います。マンションという我々にもなじみのある舞台でのホラーなのでプレイしながらどれだけ現場の状況を想像しながら読み進められるか、というのは物語への没入感を左右する重要な要素だと思うので、具体的な背景写真が使われている本作はその点でも成功しているかなと思います。
ただ写真の種類はそれほど多くなく、マンションの構造が分かるようなものがなかったため、どこかで建物全体の地図などを見せてほしかったとは感じました。
この人たちが飲み会してる駐輪場ってどこにあるんだろう?扉が開かなくて外に出られないといってるんだから建物の中なのは分かる、だけど中で花見なんてするか? 中庭みたいなのがあるとしてそこから移動できる範囲ってどのへんなのか想像つかない…あと駐輪場って中庭とは別の場所にあるの? みたいな感じで解決できない疑問を保留にしながら読み進めないといけないのはややしんどい



ホラー的演出については、起動時に強めに警告されますが突然怖い画像が表示されたり大きな音が鳴ったりという事もなくテキストだけ(あと若干の血しぶき)で進むのでよほどホラーが苦手でないなら大丈夫かなと思います。
わらべうたをモチーフにした呪いの電話とか、子供の霊や殺人鬼といった不気味さを演出する要素はそこかしこに散りばめられており、こうした要素から想像して恐怖を感じていたい、というタイプのホラー好きの方にピッタリでしょう。

あとシステム面に関してはやや不満ありです。セーブ&ロード、スキップにバックログなど最小限のシステムはきちんと用意されているのですが(特にバックログでさかのぼれる範囲が広いのはありがたい)、動作の安定性が低いです。プレイ中にフリーズすることが何度か。そのためこまめなセーブを挟んでプレイすることをお勧めします。選択肢の数も多いですしセーブスロットも豊富ですからこまめにセーブして損はありません。
タイトル画面から行けるエンディングリスト画面も謎です。スチル一覧画面のようなレイアウトで各エンディング画面が見られるのですが特に絵があったりするわけでもなく文字だけ。クリックするとその画面を拡大して見られるのですが特に文字を拡大してもうれしいことはなく、クリックできるなら分岐確定後のシーンにジャンプするような機能を期待するのでなんだこれは、と思ってしまいました。


さて、そんな本作ですがタイトルに「ホラー編」とついている通りシリーズとなっています(単独でも完結しています)。「アカイロマンション完全版」が有料にて販売中です。無料の体験版もノベコレ版よりエンディングが増えているようです。私は完全版購入済みですがまだプレイできていません…。エンディング数もプレイ時間も倍増しているようで楽しみです。


難点の指摘も長くなりましたが、適度な緊張感をもってどんどん先へ先へと楽しく読み進められた作品であることは間違いないので是非プレイしてみてください。
複数ある生還エンドでそれぞれ後味が違いながらも納得感と爽快感があるホラーは結構貴重だと思いますよ。

それでは。

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