フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

こんにちは。今回はRtt Projectさんの「プリンキピア・アルケミア」のレビューとなります。

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ジャンル:プログラミング錬金パズルゲーム
プレイ時間:メインストーリークリアまでで1時間程度
分岐:なし
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2021/2


本作は3年前に公開された作品で、私が本作を初めて知ったのは2021年のフリーゲームCMコレクションだったと記憶しています。私が得意そうな雰囲気を読み取れ興味を持ってはいたのですが、DLせずにそのまま3年経過していたようです。先日何のきっかけだったかは忘れたのですがフリーゲーム夢現で本作を発見し、ようやく実際にプレイしてみました。ゲーム説明から期待されるパズル的な面白さはもちろんのこと、コストの最適化に関して考察しがいのある作品だったので今回ご紹介しようと思います。



本作は基本的にはストーリーモードとパズルモードが交互に進行していきます。主人公は19世紀のイギリスで錬金術で商売しています。自分の工房を拡張したり、客からの依頼に応じたりするために錬金術を使っていくことになります。
この錬金を行うパートがパズルの面になっています。このパズルが少々癖のあるものになっていまして、プログラミングの素養のある方ならパッと飲み込めると思いますが、そうでない場合そもそも「入力」「出力」「スタック」などの意味から日常用語と違っていて困惑するかもしれません。この辺りはチュートリアルステージをやりながら覚えていくしかないでしょう。私は以前Wikipediaでなんとなく難解プログラミング言語の一覧を見ていたとき、Befungeという2次元的にソースコードを記述する言語の存在を知っていたので、システムの理解は容易でした。
今このWikipedia記事を読んでみると想像以上に本作の仕様と同じ(その拡張)になってますね。Befungeの言語仕様のうち<>^v#&+%`\$あたりの文字を使えるようにして、元素の結合/分解という操作を付け加えたゲームという感じでしょうか。作者さんもBefungeに影響を受けて作ったゲームであることをあとがきで明言していました。

という背景情報はありつつも、本作のパズル自体は特に前提知識なく解くことができます。
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やることは格子状のフィールドにユニットを配置し下の実行ボタン(右向き三角形)を押すだけ。
スタート地点から順に通った地点にあるユニットに応じて錬金素材の取得と操作、生成物の出力などを行います。その結果出てきたものが目的物と一致すればクリア。上の画像の問題の場合、ガスを2分子取り込んで片方を分解、火の元素を一つ捨てて結合したものを出力すればOK、というのを回路にしたのが正解となります。
このあたりの操作は慣れればすぐできるようになるのですが、条件分岐を使うようになってから難易度が一段階上昇します。

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この問題では入力される素材が一部ランダムとなっています。その中から空気だけを抽出して出力するには、中央にイコールの記号のある制御ユニットを使う必要があります。プログラミングでif文を使うように、スタックに積んだ元素が一致しているかどうかで処理を分けることができるのです。
この画像の場合、取ってきた分子が空気と一致しているならそのまま出力、そうでなければ分解して全部廃棄としています。

これができるようになると格段に回路設計の自由度が増し、様々な問題を解くことができるようになっていきます。

とはいえメインストーリー中の問題はどれもクリアだけを目指す分にはそう難しくありません。私もとりあえずスマートに解くのが難しそうなら力押しの方法でクリアしており、いったん本作はやりつくしたかなと思っていたのです。
しかし作者さんがHPなどで公開している追加問題を見て、本作の秘めた可能性と私のやり残しに気付きました。
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これは作者さん本人のおすすめ問題”金の糸”の私なりの最適解です。金の元素を6個生成してつなぎ合わせる必要があるのですが、ちょうど6個というのが曲者でなかなか苦労しました。これもコストに目をつけずとにかくクリアできればいいというやり方ならさほど難しくはないのですが、追加問題には配布時に目標コストが設定されており、それがこの問題では300Gでした。私のごり押し解法では800Gほどかかっておりコスト削減のし甲斐があるなあと思い3日ほどたった日、6回ループを行う方法の天啓がおりてきました。開始時に出力用金属元素以外にカウンタ変数用の元素をスタックに積んでおき、ループごとに1回変成することによって回路の構造化が可能になると!
これを思いついてしまえばあとは2次元のフィールド上にどうやってこの手順を実現するかを考えるのみ。300Gは多少の試行錯誤で達成することができました。さらに高価なユニットである変成を1か所にまとめて通る向きの縦横で処理を識別するなどの工夫により270Gを達成。Twitter等に上がっている情報を見る限りこれが最適っぽい気がしています。

ここまでくると、単にプログラミングの問題を解いているのとは違った、2次元的に回路を組み上げて最適化するという楽しみ、そしてコスト削減で競い合うという楽しみが加わって本作の魅力を倍にしてくれました。追加問題はまだまだたくさんあるので、やり込みの道は長そうです。

この追加問題を取り込む手順はちょっと面倒かもしれません。問題ファイルをダウンロードし実行ファイルと同階層にUserDataフォルダを作ってそこに配置。ゲームを起動してカスタム問題のフィールド上で右クリック→問題を読込をクリック→ファイル名を入力、としてようやく遊べるようになります。理想的には問題ファイルをゲーム画面上にドラッグ&ドロップしたら上記の手順を勝手にやってくれる、といった機能が欲しいですがウディタの仕様上難しいんでしょうか。手動でUserDataフォルダに配置したら自動的にカスタム問題に並ぶ、という機能でもあったら嬉しいです。

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それ以外のシステムについては不満ありません。ストーリーモード、パズルモードどちらにしても動作は軽快でクリックのレスポンスもいいですし、ストーリーを後から読み返せる機能もついているのがうれしいところです(画像の吹き出しクリックで再生できる)。これができない作品はかなり多いので好印象。
回路の仕様で引っかかった点が1点。条件分岐で、初見の時は結合した分子に対する判定を期待していたので想定していた動作にならず困惑しました。(スタックがA-B A-BならYes, A-A A-BならNoというように分子単位で判定すると思っていたが、実際にはA-Bの部分だけ見てNoと判定されたりA-Aの部分だけ見てYesと判定されたりしているようで、回路の設計を一からやり直す必要が生じてしまった)
あとは初回の名前設定時に最初にEnterを押してしまったらそのまま名前が空で進行してしまったのは微妙かなと思いました。デフォルト名とか欲しいかも。

ちなみに本作のバージョン名がv1.618033と非常に細かい値になっていますが、これは更新ごとに黄金比φ(=(1+√5)/2)の近似値を一桁ずつ増やした結果のようです。Twitter検索では誰も触れてなさそうだったのでちょっとした秘密に気付いた気分でした。


というわけで今回は「プリンキピア・アルケミア」のご紹介でした。
一通りクリアした後はぜひ各ステージのコスト最小化を目指してやり込んでみてください。頭をひねり続けて試行錯誤して、効率的な回路を考え付いた時の達成感は最高です。できればランキングなどあるとさらなるモチベーションになったかも。

それでは。

こんにちは。今回はソロフィリアさんの「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」のレビューとなります。

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ジャンル:芸術家の百合ノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2024/8


本作は今年の夏のコミケで知った作品になります。一目で百合と分かるインパクトあるイラストを中央に持ってきたチラシ、しかもいい紙に印刷されているものを貰い、後でプレイしようと会場で名前を覚えたサークルさんです。実際にプレイするまで1か月かかってしまいましたが、単に可愛らしい女の子同士がイチャイチャしている作品ではなくしっかりとしたテーマと確かな文章力のある作品でしたのでご紹介します。


まずはいつも通りあらすじをご説明。

主人公の六華嗣治(読みは りっか・つぐはる でいいのかな?)は大金持ちの家系に生まれ、一応投資家を生業としているものの稼ぎを出さなくても問題ないため自由にやっているというなんともうらやましい人物です。祖父が芸術系の高校である六華学園に多額の出資をしており、嗣治は学園祭に招待されていました。そんな彼が学園祭で出会ったのは月崎若葉という生徒。彼女の描く絵に一目ぼれした彼は、経済的支援は惜しまないからぜひ芸大へ進んでほしいと提案。さらに大学へ進んだ彼女を住み込みの家政婦として雇い、屋敷の家事を任せる代わりにアトリエや画材を好きに使ってもらうことにします。
そして3年後、同じく若葉の絵に心を動かされて六華学園に進んだ親戚の茶山モカは嗣治へ金銭支援を依頼しに来た日、彼の屋敷で絵を描く若葉と対面。弟子にしてほしいと頼み込みます。そんなモカを追ってきた彼女の友人の黄原めるも混ざって屋敷は突然の百合入り乱れ。彼女らがこれまで積み重ねてきた経験と信念をもとに芸術論を交わし、そして開花する絵画への熱意と才能。芸術を軸に絡まりあって成長する百合物語が始まるのだった…

こんな感じでしょうか。


本作の序盤はコメディ的雰囲気多めで進行していきます。ヒロイン若葉は機械が苦手でコーヒーメーカーから白湯を出したりしてますし、なぜか趣味でメイド服を着ています。嗣治は悪い人ではないですが何かとからかわれがちなキャラ。お金持ちなのに家電選びが異様に優柔不断ですし、学園祭で初めて若葉にあった時には変態扱いされて(実際かなり奇特な行動でしょう)、モカちゃんには引きこもりとか暇人とか言われたい放題。特にこのモカちゃんはかなり気の強い毒舌キャラなため、彼女との絡みは特に笑えます。まあ、それは言いすぎじゃない?っていうのもありますが…
そんなモカが若葉と出会うシーン。ここから物語が大きく動き始めます。

自身に進路を決意させた若葉を前にして心酔した様子のモカ。対する若葉の方も、強い決意や行動力を秘めたモカの姿に胸を高鳴らせます。出会って早々に百合カップルの誕生か…? と思いきやそう簡単に事は運びません。今度はとにかくモカのことが大好きな少女黄原めるが乱入しまさかの百合三角関係が発生するのでした。
しかも翌朝には、若葉の趣味で女の子は全員メイド服姿に。めるはいいとして若干不満そうな表情ながらもきっちりメイド服を着こなしたモカを見てなんか笑っちゃいました。

これ、その時の立ち絵自体がふざけていて面白いのかというとそうではなくて、モカのキャラクター性と衣装の不一致(あと表情と台詞)が面白いんです。つまり、これは本作において各キャラクターが活き活きと描かれていることの証左だと思うのです。そして、それぞれの人物がどのような背景と考え方を持っているのかという描写は、後半の展開へとつながるカギとなります。


とはいえここまで読んだ私の感想としては、これは可愛い女の子たちがイチャイチャしてるのを眺める萌え系コメディだろうと思っていたのです。実際この後もしばらくは甘々ラブコメが続いていきます。
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作品ページのサムネイルにも使われているこのキスシーン。なんという甘さでしょうか。
モカちゃんの方から勢い余ってしてしまったという、いかにもラブコメでありそうな展開なのですが、このあたりから本作の別の顔が見えてくるのです。


翌日、画材を買いに行く道中で若葉がモカの過去を聞いたり、モカに若葉の新しい絵のモデルになってもらったりといった過程で次第に明らかになってくる皆の絵画への思いと人生観。若葉がなぜメイドにこだわるのか、モカの強気な性格の源泉は何なのか、絵画の作風と表現対象への思い入れ。そういった要素が物語としての展開や人間関係につながってくるところが非常にうまいと感じました。


これについてはあまり書きすぎるとネタバレになるので1つだけ挙げておきましょう。
若葉が幼いころに聞いたおとぎ話には決まってお嬢様とそのお世話をするメイドが登場しました。しかしどんなお話もお嬢様は王子様に見初められ、最後には結婚して幸せに暮らすのです。そこに彼女を支えてきたメイドの姿はありません。そんなお決まりの運命に逆らうために、若葉はメイドとお嬢様だけの物語を紡ぐことを決めたのでした。
なるほどここまで聞くと、彼女がメイドの姿で美少女の絵を描き、嗣治に対してもメイドを演じる理由が分かります。しかしこの設定はそれだけではないのです。

おとぎ話の世界から綺麗なお嬢様を絵画という形で顕現させるのが自分の使命だと思っていた若葉。ファンタジーの世界から形ある絵としてこの世に生み出すという方法でこれまで制作を行っていたため、彼女の絵にもともとモデルは不要だったのです。しかしそこに突然現れたモカはあまりに彼女の理想とするお嬢様に近すぎました。”可憐でありながら、湧き出るマグマのように力強い瞳を持った少女”であるモカに自身の理想を重ねて同一視するようになります。これはモカにとっては残念なことでありました。

初登場時に出てきたように、モカは若葉の描く絵に惚れたのです。そんな彼女が絵を描くことへの興味を失い、モカの存在を見るだけになってしまった。しかも彼女が見ているのはそれまでの人生と人脈と芸術観を持った個性ある人間としてのモカではなく、若葉の脳内に存在する理想のお嬢様の残像でしかないのです。このすれ違いが明らかになりモカはショックを受けて一人自宅へと帰ってしまうのです。


このシーン、私はすごく唸らされたんです。ついさっきまで仲良し百合を見せられていたのに、しかも2人とも美術という同じ業界にいることに意気投合していたのに。こんなことになるとは想像できなかった。しかし同時に納得感のある展開でもあるんです。それぞれの人物の考え方がしっかり伝わるシナリオとなっている故でしょう。このように、人物にまつわる設定が発展してほかの人物と絡まりあって物語を前進させていく、そうしたところに本作の良さが詰まっているように感じるのです。

演出手法についてもよく考えられていて、前半におとぎ話とか映画に関連するエピソードが出てきたのを受けて、終盤でレトロ映画風のシーンが挟まったりといった気持ちよさが随所に感じられます。

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ここまでレビューであまり触れてこなかっためるについても同様です。むしろ終盤は彼女の見せ場。感情が高ぶれば校舎や校門にまで絵を描いて歯止めが利かない問題児のめるでしたが、その独特な芸術観と感情の機微を見逃さない観察眼はすれ違いを起こした若葉とモカを救ってくれました。猪突猛進で多少言葉が悪かったりもしますが、彼女の熱意がなければ若葉とモカはあそこから前に進むことはできなかったでしょう。本当にいいキャラしてるなと思います。

そんな3人がこの件をどのように消化して芸術への糧にするのか、それはぜひ皆さんの手で見届けてあげてください。


話は変わりまして本作のイラストなどシナリオ以外の部分について。
絵を描く少女たちの話なだけあって大変可愛らしい立ち絵がそろっています。メイド服も細かいところまで書き込まれていて凄い。制服立ち絵だけ左右反転時に胸ポケットの位置が矛盾するのが気になる、といったところでしょうか。
背景は写真素材です。お屋敷や美術館の品のある感じが演出されていてピッタリなんじゃないでしょうか。BGMに関してはピアノ曲中心でやや渋めの選曲。これも芸術というテーマにマッチしているように感じます。
システムに関してはもう少し頑張ってほしかったというところでしょうか。レビュー執筆のために特定のシーンを読み返そうと文章スキップしたらフリーズしたとか、背景が真っ黒で動かないとかの状況が多発してしまいました。


というわけで今回は「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」でした。
以前ちらっと言った、ノベルゲームの総合芸術的な面が生きた作品となっていますので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は落柿さんの「アカイロマンション ~ホラー編~」です。

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ジャンル:超常現象系ホラーノベルゲーム
プレイ時間:1週目2時間程度。エンディングコンプまでその2~3倍程度。
分岐:多数。エンディング23種
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:製品版あり


こちらはしばらく前に知った作品で、プレイする機会をうかがっていました。結局DLしてからプレイするまでにかなり時間がかかってしまいましたが、よい作品でしたのでご紹介します。


まずはあらすじを簡単にご説明しましょう。

大学4年生の良(名前変更可)は夢の一人暮らしのために学生寮から格安マンション「赤石マンション」へと引っ越すことになった。周辺の家賃相場に比べてあまりに安い理由が気になる良だったが、その理由は引っ越し初日から思い知らされることとなる。住人の自治を重視するというオーナーの意向の元で1000回以上も続いているという住民会議。それに参加する癖の強すぎる住民たち。そして15年前にあったという連続殺人事件の現場の一つであったというこの土地。
そんな中で起きる不可解な事件。殺人鬼がうろつくマンションに閉じ込められてしまった良たちは15年前の事件の被害者の呪いを解いて生還することができるのでしょうか……

こんな感じでしょうか。

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さて、本作の特徴の一つとして、ストーリー中の選択肢がかなり多めという事が挙げられるでしょう。
当然ですが物語前半のうちは真相につながる手がかりをほとんど持っていません。その中で呪いや犯人の目星をつけ、ほかの住人と一緒に対処法を考えていく、といったホラー・サスペンス的な展開を盛り上げるのに一役買っているといえるでしょう。

また、このマンションの住人は新しく引っ越してきた良を含めて7人います。上述したようにこのマンションにおける意思決定は「住民投票」により行われます。呪いへの対処をどうするのか、根本原因の解明のための調査法は?など様々な議題が持ち上がり、その多くは実際にプレイヤーが投票内容を選択することによって進行していくのです。
住人達(+良の友人の春奈)の合計8人(途中で被害者がでて数人脱落しますが…)というやや多めの登場人物の数とマッチしたシステムになっており、臨場感のある展開を作り出すことに成功していると感じます。
臨場感を演出するという点でみると、本作で登場人物に立ち絵がないのもプラスに働いているでしょう。「1999ChristmasEve」のレビューで指摘したのと近いですね(ジャンルも似てるし)。


そんな本作はプレイヤーの選択によって合計23ものエンディングに分岐します。そのうち19はバッドエンド(ほとんど主人公の死亡や住人の全滅です)、残り4つが生存エンドになっています。それぞれの選択肢は、直後の展開が変わるだけのダミー選択肢や間違うと即分岐系のバッドエンド分岐もあれば、終盤になって初めて選択が効いてくるもの、中盤以降の捜査の展開が大きく変わるものなどさまざまあり、全体の構造をつかむには何周もする必要があると思います。

これらのエンディングを何個も見ていくうちに事件の背景だったり呪いの正体や手がかりを得ていくことになり、真実のパズルがはまっていくような気持ちよさを味わえるシステムになっていると思います。
逆に言うと一つの生還エンドを見ただけで事件の全体像が把握できるような構造にはなっていないため、ここが弱点にもなりうるシナリオだと思いました。
私は運よく(?)1回即分岐バッドエンドを踏んだ以外は一発でEND23(呪いを鎮めて事件が解決するエンディング)までたどり着いたのですが、やけにあっさりと解決してしまったような印象を受けました。その後ほかのエンディングを回収する中で、あの時他の人物が何をしていたのかとか、過去の事件についての情報とかを知っていくこととなり、そこで初めて知るようなことも多くそこがちょっと微妙かなと感じました。1周目にルート制限があり、ある程度特定のエンディングを見ていくと真実への道が開ける、というタイプの分岐システムがあると最高だったかなという気がします。あるいは1周目でも到達は可能だがフラグが厳しくて、初見でたまたまたどり着くことがないようにするとか。
真相が明らかになるエンディングは全体の構造が見えてくると、後味もよくしっかりと謎が解決しているものだったのでややもったいないと思ってしまいました。

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本作のBGMはピアノ曲中心に構成されており、ホラーっぽさを醸し出しながら聞いていて不快にはならない感じでちょうどよかったと思います。長編作品でBGMがずっと不穏、というのは意外と疲れるのでこの調整は絶妙だったのではないでしょうか。
演出面でいうと写真背景なのもよかったと思います。マンションという我々にもなじみのある舞台でのホラーなのでプレイしながらどれだけ現場の状況を想像しながら読み進められるか、というのは物語への没入感を左右する重要な要素だと思うので、具体的な背景写真が使われている本作はその点でも成功しているかなと思います。
ただ写真の種類はそれほど多くなく、マンションの構造が分かるようなものがなかったため、どこかで建物全体の地図などを見せてほしかったとは感じました。
この人たちが飲み会してる駐輪場ってどこにあるんだろう?扉が開かなくて外に出られないといってるんだから建物の中なのは分かる、だけど中で花見なんてするか? 中庭みたいなのがあるとしてそこから移動できる範囲ってどのへんなのか想像つかない…あと駐輪場って中庭とは別の場所にあるの? みたいな感じで解決できない疑問を保留にしながら読み進めないといけないのはややしんどい



ホラー的演出については、起動時に強めに警告されますが突然怖い画像が表示されたり大きな音が鳴ったりという事もなくテキストだけ(あと若干の血しぶき)で進むのでよほどホラーが苦手でないなら大丈夫かなと思います。
わらべうたをモチーフにした呪いの電話とか、子供の霊や殺人鬼といった不気味さを演出する要素はそこかしこに散りばめられており、こうした要素から想像して恐怖を感じていたい、というタイプのホラー好きの方にピッタリでしょう。

あとシステム面に関してはやや不満ありです。セーブ&ロード、スキップにバックログなど最小限のシステムはきちんと用意されているのですが(特にバックログでさかのぼれる範囲が広いのはありがたい)、動作の安定性が低いです。プレイ中にフリーズすることが何度か。そのためこまめなセーブを挟んでプレイすることをお勧めします。選択肢の数も多いですしセーブスロットも豊富ですからこまめにセーブして損はありません。
タイトル画面から行けるエンディングリスト画面も謎です。スチル一覧画面のようなレイアウトで各エンディング画面が見られるのですが特に絵があったりするわけでもなく文字だけ。クリックするとその画面を拡大して見られるのですが特に文字を拡大してもうれしいことはなく、クリックできるなら分岐確定後のシーンにジャンプするような機能を期待するのでなんだこれは、と思ってしまいました。


さて、そんな本作ですがタイトルに「ホラー編」とついている通りシリーズとなっています(単独でも完結しています)。「アカイロマンション完全版」が有料にて販売中です。無料の体験版もノベコレ版よりエンディングが増えているようです。私は完全版購入済みですがまだプレイできていません…。エンディング数もプレイ時間も倍増しているようで楽しみです。


難点の指摘も長くなりましたが、適度な緊張感をもってどんどん先へ先へと楽しく読み進められた作品であることは間違いないので是非プレイしてみてください。
複数ある生還エンドでそれぞれ後味が違いながらも納得感と爽快感があるホラーは結構貴重だと思いますよ。

それでは。

こんにちは。今回はtales&Vividさんの「コーヒーって、甘いですか?」のレビューとなります。

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★favo
ジャンル:喫茶店をめぐる日常系ノベルゲーム
プレイ時間:40分
分岐:なし
ツール:Artemis Engine
リリース:2024/8


こちらの作品は昨年行われた第4回crAsM.Mビジュアルノベルオンリーで知って注目していた作品でした。当時はまだ体験版の扱いで2話までしかプレイできなかったのですがとても印象深い作品で、完成版の公開をずっと楽しみにしていました。できればフリゲ2023に投票したいなと思っていましたが結局間に合わず。
しかしつい先週、本作が正式に公開されましたので完成版でプレイしなおし満を持してのレビュー執筆となります。


郷土資料館の職員を務める主人公の溝手は喫茶店でコーヒーを飲んだり自分で淹れたりするのが趣味。仕事帰りに寄れる近所の店や、休日にお出かけした先で知っている店などいくつもの喫茶店を知っています。そんな溝手がコーヒーを飲みまくるのが本作の内容なわけです。
そんな本作の良さはなんといってもおいしそうな描写が上手いところでしょう。


ゲームファイルを起動して1話を読み始め、主人公が昼休みに職場近くの喫茶店に入るシーン。
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コーヒーカップが大きく写された写真の上に透過率高めなメッセージウィンドウ。しっかりと本作のウリであるコーヒーが印象に残る構図になっています。
そして主人公溝手による食レポもしっかりと入ります。店ごとに、豆ごとに、淹れ方の違いで、コーヒーの味わいがどんな風に変わるのかを体験談のような形式で読んでいくことができ、コーヒーの奥深さ、嗜好品たる所以を感じ取ることができます。

料理や食べ物がテーマとして扱われる作品はたびたび見かけます。本ブログで取り扱った中でいうと、「そしてパンになる」や「お菓子の国のガトー・ソルシエ」が該当しますが、料理そのものというよりはパンを作ったりお菓子を作ったりしていく中で恋愛方面の出来事があったり、トラウマを乗り越えたりといった方向に物語が進んでいきます。それに対し本作はコーヒーを味わう事そのものがテーマとなっているため食レポの深さが段違いになるのです。

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それに加えて私が驚いたのは2話の自宅でコーヒーを淹れるシーン。豆を挽いて熱湯を注ぎ、抽出したコーヒーをマグカップに移す。そんな一連の流れがなんと動画で楽しめます。スクリーンショットでは伝わらないのでぜひプレイして確かめてほしい。Spaceキーでメッセージウィンドウを隠せばお湯から立ち上る湯気までばっちり、まるでコーヒーの匂いまでしてくるようです。ノベルゲームの背景に動画を映す、こんな使い方があるのかと思ったのをよく覚えています。動きのあるシーンはシステム的に苦手なノベルゲームに動画を挿入しちゃおうという試みは見たことがありますが、本作はその手法における一つの到達点と言えるのではないでしょうか。メッセージウィンドウの表示タイミングやシーンの切り替わる位置もよく調整されていて、画面越しに自分が淹れているような感じさえします。
そうして出来上がったコーヒーを美味しそうに飲む溝手。これがまた嬉しい。やっぱり登場人物、特に主人公が幸せそうにしていると読んでいる側も幸せになれますよね。


そんなコーヒー大好きな主人公の溝手ですが、昔からそうだったわけではありませんでした。大学生のころにバイト先であまりのコーヒーを飲んでみたらめちゃくちゃまずかった、なんてちょっと笑えるエピソードもあります。私は普段コーヒーを飲まないのでこういった点は親しみやすかったです。
今では毎日のように飲んでいる溝手もコーヒーを極めたという状態ではない様子。コーヒーの味わいを表現するのによく使われる「苦味」「酸味」そして「甘み」。今はまだ「甘い」と表現される味がどんなものなのかわからないけれども、いくつもの喫茶店で様々な豆や淹れ方のものを試していくうちに、それらの言葉が意味するものをつかんでいく、そんな描写もあり、コーヒーという趣味の楽しいところを門外漢の私に教えてくれました。
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このシーン、読んでいてうんうんと頷きながらマウスを持つ手を進めていたんです。インスタントコーヒーを飲むことがある、という程度の私にはあの苦いコーヒーに「甘い」と言われる部分があるなんて想像もつきません。そんなコーヒー素人にも読んでいて楽しい作品になっていると思います。
そういえばコーヒー以外にも、例えば日本酒だったりワインだったりの嗜好品にも独特な用語が使われるように感じます。「甘口」「辛口」と言われる日本酒がどんな味に対応するのか私は分からないのですが、これらにもきっと深い趣味の世界があるのでしょう。


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本作は全6話構成。1話あたりじっくり読んでも10分かからないと思います。
最終話ではにぎわう喫茶店内で恐る恐るコーヒーに口をつける中高生たちに出会います。タイトルにある「コーヒーの甘さとは?」という問いに自分なりの答えを見つけた溝手は、コーヒーに不慣れな若者たちにコーヒーの魅力を伝えることができるのでしょうか。
そして店を出てエンディングテーマがかかってからスタッフロールに入るまでの流れもスムーズでいいですね。ボーカル入りのエンディングテーマはYouTubeでも聴けるので是非こちらもどうぞ。


というわけで今回は「コーヒーって、甘いですか?」でした。
ノベルゲームを通じてほかの趣味を体験できるようなこの感触はプレイしてみないとわからないでしょう。ぜひ皆さんもご自分の手でプレイしてみてください。全くの素人だった私でも興味がわいてくるような体験ができました。

それでは。

こんにちは。
先週行われたコミックマーケット(2日目)に行ってきたのでその時のまとめです。


コミケは去年の夏に初めて行きました。あの時は正午過ぎくらいにビッグサイトに到着したのですが、早いところだとすでに完売しているサークルもあったので今回はなるべく早めに入ろうと思い、午前入場開始の30分前(10時半頃)に会場へ到着しました。しかしもうその時刻には入場待ちの長い行列ができており、実際に入場できたのはその1時間以上後になりました。猶予30分では足りなかったか~。
しかし去年の反省を生かして水分を多めに(計2.5リットル)持ち込んでいたのでコンビニに並んだり自販機を探したりせずに済みました。


さて、入場して真っ先に同人ソフトのエリアに向かいます。最初に見つけたのはルピナスパレットの水原梓さんでした。以前このブログで「インビジブル」のレビューを書いたのをよく覚えていてくださって嬉しかったです。最新のレビュー記事で扱った「おさななじみ Childhood Love」の話を出したところ、「アル管理人の恋」シリーズも面白いよとの言葉をいただいたので帰宅してからDLしました。作者のMirinさんとは仲がいいとのことで、制作者同士の繋がりがあるの良いな~と思いました。
もちろんルピナスパレットさんの新作「ストレイ・メモリア」を購入してお別れしました。サウンドトラックは売り切れてしまったとのことで残念。やっぱりもっと早く来る他ないのか…


続いてClear Colorの川澄シンヤさんに会いに行きました。過去作の副読本とシナリオ付きイラスト集(漫画とは少し違う?)を購入し、「お姉さんと夜あそび」の先行版DLカードをいただきました。これらは未プレイの過去作に関する部分を除きすでに全部読んでしまいました。ツイートもしましたがレイナのコメントにあった「作者も大好き、みんなも大好き(断定)なレイナさんです」が妙に面白くて笑ってしまいました。ロシアンたこ焼きで当たりを引いたレイナのスチルが見てぇよ~
「お姉さんと夜あそび」は後日フリー版も公開されると聞いているので、余裕があったら違いを発見してみたいですね。「リバース・ゲームFinale含む)」以外の作品もまたプレイしていこうと思います。


もう順番があいまいですが浦田一香さんにもお会いしました。「世界で一番不幸せな子ども」のDLカードをいただきます。同作はノベコレでも公開されていることは知っていたのですが、コミケに行くことは決めていたのでせっかくなら会場で頂こうと思っていた作品です。
浦田さんの作品はこれまでに5作ほどプレイしていますが、どれも明確な悪意に依らない人間の怖さみたいなものを描く手法にインパクトがあって、唯一無二の作風だなと感じています。軽くそんな話をお伝えした後、またほかのサークルを回っていきました。

周辺サークルを回っていたところ、ユキハラ創作企画の雪原たかしさんにお声掛けいただきました。お話を伺っているとなんと雪原さんはノベルゲームエンジンのLight.vnの開発や運営を行っているとのことで、自サークルの作品「春に生きれば」のみならずらいとゔぃえん祭の告知なんかも受けました。確かに技術者っぽいシャツ着てるな~なんて言ったり、ツール開発のハプニングの話なんかも聞けたりして楽しかったです。帰宅して「春に生きれば」のディスクを解凍してみると、Light.vn物語のスクリプトファイルやエディターが同梱されていて、その強火のツール推し熱量を感じられました。これはノベルゲーム作れってことかな。


そして島の端の目立つところにスペースを構えていたポロンテスタのうめこぽんちょさんにお会いしました。昨年「道徳ビデオ」のレビューを書いたりコミケでお会いしたりといった交流はあったのですが、それをよく覚えていてくださって感激しました。道徳ビデオの製品版と新作「ヤギ症候群」(18禁)のパッケージ版を購入しました。そしてなんといつもレビューに元気と創作のエネルギーをもらっているとの嬉しい言葉とお土産のお菓子をいただいちゃいました。ありがとうございます。
基本は面白い作品を多くのプレイヤーに知ってもらいたいという気持ちで書いているレビューですが、作者の方にこうして喜んでいただけたり新作への糧になるというのならそれも大変うれしいです。
ちなみに帰宅してから開封したところ、めちゃくちゃ厳重に梱包&袋詰めされていて、そういえばYouTubeで袋詰め大好きなんて言ってたな~と思い出しました(どの動画だったかは忘れた)


→Quantize_の紅音久遠さんともお話しできました。→Quantize_と言えば「臨界天のアズラーイール」シリーズが有名かと思うのですが、私は「ラビっとはーと!」が結構好きなんですよね。新作「朱色に染まる、美しき社で」はDLカードによる販売だったのですが、カード単体でなく台紙についた状態で全体のデザインが考えられていてセンスを感じました。
えるりんごさんのスペースでは、前回と同じくM.Mさんがいらっしゃったのでレビュー見てますって話をしたり「ぽんぽんランド」よかったですよ~なんて話をしたりしました。ネームプレート(名刺?)を着けていて一目で本人と分かったのも話しかけやすかったポイントですね。新作の「魔王、エロ漫画を描く。」を購入してお別れしました。

驚いたのはその近くにいた花麒麟ソフトの方に声をかけられたときです。「純愛じゃなきゃ許せません!」の体験版を無料配布しているという事でQRコードをもらったのですが、作品紹介のところをよく見ると「そしてパンになる」(18禁)の文字を発見。意外な発見にびっくりしてつい音読してしまいました。私が過去にレビューを書いた作品ではないですか。そこで初めて花麒麟ソフトはカビ布団さんが立ち上げたサークルだという事を知りました。初めて書いたエロゲのレビューだった、みたいな細かいことまで覚えていてくださって、嬉しいのと同時に適当なこと書けないなと気の引き締まる思いもしました。
そして「純愛じゃなきゃ許せません!」がカビ布団さんの作品とすると…一体どんなとんでもない展開が待ち受けているのかと身構えてしまいますね。「私作品名で嘘はつかないんで」とはカビ布団さんの談ですが果たして…

大体知っているサークルさんは見終わってふらふらしていると、活動漫画屋さんのスペースに目が留まりました。頒布されていた「いえのかぎ」にどこか見覚えがあったのです。売り子さんに説明を聞いてとりあえず最新作の「大阪義体遊」と一緒に購入。プレイしてみたところ、これまたとんでもない作品でした。感想軽くツイートはしたのですが、もしかしたらブログでも何か書くかもしれません。
そしてどこで見たのか思い出しました。アライコウさんが最近始められたブログで紹介されていたのでした。その記事を読んでみると、同意するところも多いのと同時に私とはけた違いな分析力を感じてさすがだなと思いました。


そして今回コミケに行って最も驚いたのはLucid A96さんに出会ったことです。私は全然知らなかったのですが、あの「かたわ少女」(18禁)を作ったFour Leaf Studiosのメンバーというのです。あの後個人で同人誌を出したりしていたそうなのですが、ほぼゲームしか眼中にない私は全く知らず。しかし「かたわ少女」は素晴らしい作品だったので感想をお伝え出来てよかったです。
しかも日本語がめちゃくちゃうまかった。作品の多言語化を担当したのが彼だったのかは分かりませんが、さすが海外掲示板に投稿された日本のイラストからインスピレーションを得てゲーム制作をし、4言語対応したうえ日本のコミケにも参加される方だなと感じました。
そんなかたわ少女はつい昨日Steamでもリリースされたとのニュースがありました。私が最初にプレイしたのはもう8年ほど前で、今使っているPCにデータは残っていないので久々にプレイしてみようかなという気持ちになりました。


そのほかにもいくつかのサークルを回って最終的な戦利品はこんな感じに。
senrihin

これらを消化するだけでかなりの間楽しめそうです。
また次も行きたいなと思える楽しいイベントでよかったです。

それでは。

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