フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
記事一覧ページを作りました。記事探しはこちらから。Twitterはこちら。リンク等はご自由に。

こんにちは。今回はポロンテスタさんの「道徳ビデオ」のレビューをしていきたいと思います。

doutoku1

★favo
ジャンル:いじめを描いた群像劇鬱ノベル
プレイ時間:45分
分岐:1か所
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/7


ポロンテスタさんと言えば、私は「ポルノ地獄・完全版」(18禁)をプレイしたことがあり、ブラックな世界観の中にも良心をのぞかせるような独特な作風が印象に残っていました。そして最近になって本作「道徳ビデオ」が公開されました。色々な所で好意的な評価を見ますし私も気になってプレイしてみたところ、非常に印象的な作品でしたのでご紹介したいと思います。刺激的な内容を含みますが全年齢対象の作品となります。


作品ページの紹介などでも明らかにされていますが、本作は「いじめ更生委員会」が制作するいじめ防止のための教材「道徳ビデオ」に関する内容で、既にお分かりかと思いますがかなりブラックな要素を含みます。しかし単に風刺的だったり皮肉的だったりするだけでなく、読み終えてすっきりするような、いじめのはびこる社会はろくでもないけど、それでも希望だってあるんだという気持ちにさせてくれる作品ですので、ぜひ抵抗感を持たずにプレイしてみてください。


本作は主要な登場人物3人の視点が交互に入れ替わるようにして進行していきます。
まず最初に登場するのが「いじめ更生委員会」から教材用のビデオ、「道徳ビデオ」を作成するために星の砂小学校に派遣された潮見ヒヨリです。6年2組の児童に出演してもらってビデオの撮影を行います。クラスでの説明の時には表向きの理由を明るく説明し、子供たちにも受け入れられているようですが、彼女にはビデオを作る真の理由があることが序盤早々に明かされます。一体その目的とは何なのでしょうか。


続いて舞台は唐突に8年後の現在へ。ビデオにはいじめっ子役で出演した黒瀧ナギトがヒヨリに連絡してくる場面から始まります。彼が言うには、いじめられっ子役の成海ミナミを殺してしまったというのです。いったい道徳ビデオの撮影現場で何があったのか。親友であったはずの彼ら二人がその後8年間かけても修復できないほどに関係が歪んでしまったのはなぜか。ヒヨリはそれを聞いてどうするのか。
彼らに幸せな未来はあるのでしょうか……

doutoku3



さて、本来は教材撮影のための演技であったはずのいじめですが、実際のところ演技の範囲を超えてエスカレートし、いじめられっ子役であったミナミに深い傷を残したということは容易に想像できると思います。ナギトがミナミに対してわざと聞こえるように悪口を言う。台本にあるものだとしても気持ちよいことではないでしょうし、次第にナギトはアドリブと称して台本にない悪口をぶつけていくようになります。

日本語には言霊(ことだま)という言葉があります。手元で明鏡国語辞典を引くと、「古代日本で、ことばに宿ると信じられていた神秘的な霊力。」とあります。本当に魔法のような力があるわけではありませんが、本気ではないはずの言葉がいつの間にか本当にそう思うようになっていた、というような力が言葉には込められていると思うのです。おそらく無意識のうちに影響を受けているのでしょう。自分で発さなくても、繰り返し告知を見せたり聞かせたりといった宣伝に効果があるのはまさにその効果の応用でしょうし、逆にある対象に対してネガティブな発言を聞いているだけでいつの間にか自分も嫌いになっていたりします。怖いものです。

道徳ビデオの撮影においては、最初は演技であったはずの台詞が無意識下においても作用し、ミナミをいじめる方向に傾いてしまったのでしょう。台本にない悪口を、カメラが回っていないところでも、……こうしてエスカレートしていくわけです。

こうしていじめは苛烈を極めただろうことは容易に読み取れるのですが、本作の中では具体的ないじめ行為は悪口を言う以上の内容は一切描かれません。これは本作をゲームとしての娯楽作品として成立させるために計算して設定した限界だったのではないでしょうか。
ニュースで報道されるようないじめ事件で起こっていたこととか、暴力事件とか、具体的な行為を描こうとしたらもっとずっと細かく、鮮明に、ショッキングな内容を込められたはずです。しかしそうするともはや本作自体が”教材”、あるいはドキュメンタリーになってしまうんですよ。
誰もが目をそむけたくなるようないじめを描いて、いじめは良くないことであると伝える。そういう(ゲーム以外を含めた)作品は多くありますし、フリーゲームでもいくつか知っています。しかし本作がそうした作品と一線を画していると感じるのは、あえて具体的で過激な行為の描写を排したことで娯楽作品としての魅力を保ったことだと思うのです。過激な内容はあえてプレイヤーに想像させるにとどめ(本当にありありと想像されるんですよ、作内で描かれるよりもずっとひどい行為があったと)、説教臭いと感じさせることなくこの重いテーマを描き切り、幸せになれる選択肢を提示してくれたこの作品の価値は大きなものであると感じています。


さて、道徳ビデオの撮影中、ナギトが不必要に辛らつな言葉を吐くたび、最初のうちは担任のリン先生はきちんとたしなめていましたし、ヒヨリはミナミへの精神的フォローをしっかりと行っていました。良識ある大人が目を光らせ、厳格に演技の内容を監督した場合はあそこまでの事態にはならなかったでしょう。途中からミナミへのフォローがおろそかになってしまった理由は、本作の最終章で語られます。

ヒヨリが「道徳ビデオ」を作ろうとしたきっかけは、かつて自分をいじめたものに対する見せしめ・復讐のためでした。彼らに合法的にダメージを与えるために。あるいは裏でこっそりと手を回すための布石として。そんな打算的な目的で道徳ビデオ事業に乗り出したヒヨリでしたが、打算的であるがゆえに理性的でもありました。撮影の最中に出演児童へのカウンセリングを怠り、精神的ダメージを与えたりして最悪撮影が完遂できなかったら元も子もありません。
しかしヒヨリから復讐の執念を解消してくれた人物がいました。リン先生です。リン先生の行為は非難されるようなことではないし、むしろ良き先生でしょう。ところがそれゆえにヒヨリが道徳ビデオへ注力するのを妨げてしまったのです。復讐にしか生きがいを見出せなかったヒヨリに、別の生産的な生きる理由を与えてくれたリン先生。「今が幸せだから過去を許せる」という意味の台詞が出てきますが、これは本当にそうだと思います。余裕がある人なら別に復讐に執着しなくても良いはずです。いじめに限らず、例えば犯罪被害者(の遺族など)だったり、あるいは社会に対して一方的に逆恨みしている人でさえ、人並みの幸せを得られれば怒りの矛を収められるという人は多いと思います。福祉の役割とはこういうところにもあるのだなあと思わされます。

doutoku2

道徳ビデオ撮影時の事件をきっかけに、それまで親友であったはずのナギトとミナミの間には決定的な溝が生じ、8年後に至っても解消されない歪みが起きています。いじめっ子役であったナギトは当時の申し訳なさから、もう何年もほとんどミナミの言いなりになっています。ここで大事なことは、「事件の後罪悪感から何年も相手の要求を断れずに言いなりになる程度には良心のある人物でさえ、演技のはずのいじめがエスカレートしていった」という事実です。報道されるようないじめ事件を耳にすると、なんと酷いやつだ、あいつらには人の心ってものがないんだ、と感じます。しかしそれが事実かどうかは分からないんですよね。
撮影開始前にはナギトはいじめなんて当然いけないし自分がすることもあり得ないと思っていました。実際、ちょっと言葉遣いは悪いですがミナミとは確かな信頼関係が築かれています(あの遊びはちょっと歪んでるとは思うけど…)。しかし、平常心を持っていればいじめなど行わなかったであろう人物も、”演技”という大義名分を得てストッパーが外れた結果事件を起こします。環境さえ整えば善良な市民でも凶悪な行動に至ることがあるのだから、いじめや犯罪は潜在的な犯罪者に機会を与えないことによって未然に防ぐことが大切。この考え方は犯罪機会論と呼ばれるらしいです。

本作において、単純になにを考えているのか分からない悪人が問題を引き起こすのではなく、各人物が自分の行動原理に基づいて行動した結果、悲劇的な結果を引き起こしてしまいます。物語を進めるための壁や障害、悪人が単なる舞台装置としてでなく、生きたキャラクターであるために同情的な感情も想起させ、より物語へ引き込む力となっているのですよね。ずっと前に「まい、ルーム」のレビューでも指摘したことですが、この点は私が物語を読むにあたって重点を置くポイントのようです。


本作のエンディングは2つ。選択肢は1か所です。どちらが幸せな未来へと繋がっているかは一目瞭然でしょう。正解の選択肢を選べば、どん底であったナギトへ一筋の光が差し込みます。8年後の未来にどうなっているか。エンディングタイトルを含めて素晴らしい内容だと思います。
1つだけ気になるのは、独特な絵柄から人物の年齢が読み取りにくいことでしょうか。本作の時間軸は頻繁に8年前と現在を切り替えており、登場人物の年齢層も小学生と先生ということで離れています。しかし大きく表示される立ち絵から時間の経過や人物の世代差が読み取りにくいんですよね。”ヒヨリお姉さん”のお姉さんらしさをアピールする一つの手段になると思うのでちょっともったいない気がしました。
しかし1人のキャラクターとみれば可愛らしいですし、タイトル画面のグラフィックなどもダークな世界観を表現しているようでいいと思います。


と、このように1時間未満で様々なところまで思いをはせることのできる作品でした。
この重いテーマをしっかりと最後まで描き切り、かつ希望を感じさせるエンディングが気持ちいい類まれなる作品だと思います。この手の作品にありがちなご都合主義も私は感じませんでした。ぜひプレイしてみてください。


それでは。

こんにちは。今回はTwitterでもツイートしました(と書いているうちにXとかいう識別性の低すぎる名前になってしまった)、「未来エイゴウ昔のことは」とその元となった「七月革命」をまとめてご紹介しようと思います。

どちらもこのブログでは最多タイの3度目の登場となる晴好雨奇一丁目(静本はる)さんの作品で、「七月革命」は2014年公開です。その後2016年に前日談として「未来エイゴウ昔のことは」が公開されたということですが、当時私はそれを知らず、私が晴好雨奇一丁目さんを知った時にはすでに非公開となっていました。今回それが再公開となったのでプレイしてみたところ、とても良かったのでレビューを書いていこうと思います。


まずは「七月革命」です。
7gatu1

ジャンル:掌編学園コメディ
プレイ時間:5分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2014/7

こちらは夏らしく爽やかな短編コメディです。同じ作者さんの「MY HOBBY IS 短編版」も以前レビューした作品で短編のコメディでしたが、本作はあれほどぶっ飛んだギャグなどは出てきません。

教室にエアコンが付いていないことに業を煮やしたミライ川(すごい名前)は、ムカシ田に向かって革命を起こすと宣言。いつの間にか大量の同志を引き連れて職員室へと直訴に向かいます。
7gatu2

こうやって書いてしまうと話の筋は本当にシンプルなんですが、この作者さんのすごいところは演出法ですね。その他の作品でもそうだったのですが、とにかく軽快に見せる手腕に優れていて、革命を起こそうと燃えるミライ川のエネルギーやそれと対比して冷静なムカシ田の様子が非常に際立っています。
大勢の生徒を引き連れたカットインなどもミライ川の動きとともに右へ左へ動き回ります。こうした見た目の楽しさとお約束のようなギャグがぴったりとかみ合って、笑える作品となっています。
タイトル画面やメッセージウィンドウ右下で回転する扇風機の羽も涼しげでいい感じ。
冷めた目で見ているようなムカシ田も、完全に見捨てているわけじゃなくて最後にちゃんとフォローしてあげる関係性なのも爽やか。



続いて「未来エイゴウ昔のことは」です。
(9/10追記:現在本作品は再度非公開となっています)

mirai1

ジャンル:ノスタルジック短編青春物語
プレイ時間:20分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:初公開2016/8、一時非公開後2023/7に再公開


こちらが今週再公開された作品で、私が今回の記事を書くきっかけにもなりました。
主な登場人物は七月革命で出てきたミライ川とムカシ田。それにミライ川のおばあちゃんです。

ミライ川の快活なキャラクターは変わらないのでこちらもコメディなのかと思いきや、本作はノスタルジックでしんみりとした展開が多く含まれています。舞台は2年さかのぼって2人が高校1年の夏休み。

七月革命では全く出てきませんでしたが、ムカシ田は実は野鳥の観察が趣味。オミルリという珍しい青い鳥がミライ川のおばあちゃんの家の近くにいるということで、ミライ川に半ば無理やりおばあちゃんの家に連れてこられます。
北の山にきれいなオミルリがたくさんいると聞いて必死に探すムカシ田。案内をしつつ自分の興味の赴くままに山で遊ぶミライ川。当時はほぼ交友の無かったはずの2人がどのようにしてお互いを理解し、七月革命の時のような確かな信頼を得ていったのかが分かるような描写がうまい。
mirai2

そして本作においてもう一人登場する重要な人物がミライ川のおばあちゃんです。
両親不在のミライ川にとっておばあちゃんは唯一の心許せる肉親。しかし村でのおばあちゃんの立場はそんなに良くありません。このあたりは田舎独特の風習がそれっぽく描かれ、単に元気なだけじゃない別の雰囲気を本作に与えてくれます。

このおばあちゃんとのやり取りや関係性を通してミライ川の行動原理や主義が見えてくるのがまた気持ちいい。作中で起こる出来事は決してほほえましいだけではありませんが、後味良好なのはミライ川の明るい性格を行動原理まできっちりと書ききっているからでしょう。

mirai3

また、本作は背景が加工なしの写真になっています。「ほしのの。」「かえりみち」や、晴好雨奇一丁目さんの最新作である「永遠と長閑」(現在は体験版のみ)などでも写真背景を使用していますし、田舎である設定を活かした作品って写真が多い気がします。
それでいて本作では晴好雨奇一丁目さんらしい演出も生きています。背景の動かし方や音楽の切り替えなど、すごくノスタルジックな感情を刺激してくるんですよね。短編における演出手法について、この人の右に出る者はいないと感じています。



最後にオチがあって締めくくられる本作ですが、そのオチもまた使い方が上手いです。今度は釣りに興味を持ったムカシ田。そこでタイトル画面に戻ってきて、とても綺麗なまとめ方です。
エンドロールがないのがちょっとだけ寂しいかな。

テキストファイルで後書きも同梱されているのでプレイ後にはぜひ読んでみてくださいね。


というわけで今回は「七月革命」「未来エイゴウ昔のことは」でした。
合計しても30分で読み終わり、すっきりと爽やかな気分になれますよ。この時期にぴったり。

それでは。

こんにちは。今回はぱすてぃぶソフトさんの「魔女をたずねてコンビニバイト」をレビューしていこうと思います。

majocon1

ジャンル:魔女っ娘ラブコメノベルゲーム
プレイ時間:1時間半
分岐:1か所。終盤で3つのエンディングへ分岐
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/6



はい、今回はぱすてぃぶソフトさんの新作です。
あの強烈なデビュー作をプレイしていた私は、本作をプレイするにあたってもいつ事件が起こるのかと警戒しながらプレイする手を進めていたわけですが、本作は安心安全の全編コメディ仕様で広く皆さんにお勧めできそうな作品でしたのでご紹介します。大事件が起きてプレイヤーの期待を裏切ってくるタイプの作品も好きですが、そればかりだとプレイするのも疲れますからね。幸せな作品でエネルギーを蓄えましょう。


本作の主人公は高校2年生の早乙女永一(さおとめ・えいいち)。父親と不仲で実家を出てボロアパートで一人暮らし中なので、生活費のためにコンビニでバイトをしています。ある日バイト仲間の佐藤さんの代わりにヘルプで入ってきたのがヒロインの阿澄莉奈(あすみ・りな)。少し親しくなってきたところ、何と彼女は実は魔女であるという衝撃の告白を受けます。
60年前に魔法の国から人間界へ行ったきり会えていないという妹のニーナを探しに人間界へやってきたというリナ。それを聞いて永一は妹探しを手伝うことを約束します。果たして無事に妹を見つけ出すことはできるのか。なぜリナを置いて人間界へ行ってしまったのか。永一をめぐる恋模様の行方は?
ちょっぴりファンタジーなラブコメ物語が始まる…


本作の物語を簡単にまとめるとこんな感じでしょう。
筋となる部分はもちろんリナがニーナとの再会を目指して調べていく部分なのですが、それ以上に永一をめぐるラブコメシーンや、人間としてはちょっぴり常識知らずなリナのギャグシーンなどが楽しい作品となっています。


というわけでコメディシーンを演じる登場人物たちをご紹介しましょう。
主人公の永一はラブコメのテンプレと言ってもいい激ニブ男。クラスメイトの珠美が明らかにラブラブ光線を送っているにもかかわらず当の本人は「突然の玉泉さんの奇怪な行動にわけがわからない」などと言っています。


majocon2
メインヒロインのリナは正真正銘の魔女っ娘。変化魔法が得意だけれども他の魔法はてんでダメ。町で面倒な男に絡まれたときは男をバッタに変えて助けてくれましたが、冷蔵庫の中身を変化させて料理を作った時は大失敗。
また、どうやら魔女たちの住む魔法の国には男は存在しないようで、男女関係についてはほとんど何も知らないようです。見事にギャルゲーメインヒロインの属性を兼ね備えていますね。


majocon3
永一の妹麻祐理(まゆり)は小さいころから頭が切れるようで、父親に可愛がられている立場をうまく利用して永一を助けてくれたブラコン気質もあります。
永一が父親を見限って一人暮らしを始めてからは自分も不良ぶっていますが、本性が良い子なのはクラスの子にもバレバレの模様。本作におけるツンデレ担当でしょうか。


majocon4
クラスメイトの玉泉珠美(たまいずみ・たまみ)はどう見ても永一が大好き。アルバイトで時間がなかった時にいつも宿題を写させてもらってますが、今日はやってきたから大丈夫だよと伝えるとなぜか少しだけ残念そう。(いや明らかにフラグ立ってるだろ!)


そんな彼らは妹と離れ離れになってしまったリナの事情を聞き、人探し(魔女探し?)を手助けすることを約束します。
しかしどうも全員永一のことを好きなようでちょっとだけ複雑な関係だったりも。
昼休みの教室では、麻祐理と珠美は(頼まれてもいないのに)手作り弁当を持ってきてくれて永一は2食分食べる羽目になったり、リナに”タマタマ”と危ないあだ名をつけられそうになった珠美が全力で拒否したり。
こうした分かりやすくてお約束なギャグ展開が続いて非常に読みやすい作品になっています。


私が好きなのは、使い魔のアルキマによってリナの年齢がバレて慌てるシーンです。
いや、その年齢は(人類の視点では)おばあちゃんとかいう次元を超えてるよ…ロリババアってやつだね…。

あとはリナの無邪気な発言によって珠美が勘違いして倒れちゃうシーンとかも笑いました。
嫉妬に狂うとかじゃなくて、単純にショックを受けて暴走しちゃうのが可愛くて良いですね。チーンという効果音が聞こえるだけでなんか笑っちゃうようになりました。


さて、そんなほのぼのした空気の中で妹探しはつづき、下級生の宮藤静流(みやふじ・しずる)から有力な情報が得られます。彼女の祖父がずっと昔魔女と思われる人物にあったという日記があるというのです。静流の協力を取り付けた永一たちは、皆で魔女の目撃されたという山へ向かいます。

旅館ではみんなで兄弟のフリをしたりイナゴを食べたりと楽しいシーンが続きますが、翌日はちょっぴりシリアス。リナは突然姉である自分を置いて人間界へ行ってしまったニーナが果たして突然会いに来た自分を受け入れてくれるのか悩んでいます。実はリナに不満があって魔法の国を飛び出してしまったのではないかと。
そんなナーバスなリナに対し、永一は自分の経験をもとにリナを励ましていきます。実家で父親とうまくいかず家を飛び出した永一。麻祐理はその影響で不良ぶるように。それでも麻祐理はよく会いに来てくれるし、家族の繋がりが消えたわけじゃない。兄弟とはいっても言葉を交わさなければ伝わらないから変に悪い想像をして悲観することはない。
確かにその通りで、永一本人の経験に基づく分説得力があります。私は以前恋愛ものの高校生主人公はどれくらい一人暮らしをしているのか調べてネタにした記事を書いたりもしましたが、本作では高校生の一人暮らしに単なる物語の都合以上の理由があって、そのためにリナや麻祐理とのやり取りにリアルさが生じているんですよね。


ずっと探していたニーナとの対面シーンでは、リナにとってショッキングな事実と物語の設定が明らかになります。60年もの間ニーナは一体何をしていたのか。なぜリナとのコンタクトを絶っていたのか。それはぜひあなたの目で確かめてください。
驚くような真実ではあるものの、決して後味の悪いタイプではない優しい結論です。最後の最後でこうロマンチックな雰囲気を出してくるのが上手いですね。


そして最後の最後に分岐があります。なんと物語序盤にあった1か所の選択肢で分岐するようです。
どのエンディングも永一が再び希望を見出せるような内容で良かったなとは思いますが、なぜそうなったかの途中経過が抜け落ちていて説明不足な感は否めません。もう少しフォローが欲しかったなという気がします。

しかし分岐の回収のために既読シーンを丸ごと飛ばす機能が実装されていて非常に回収しやすかったです。エンディング以外の部分は変わらないようなので、大変ありがたい機能だなと思いました。



というわけで今回は「魔女をたずねてコンビニバイト」でした。
微妙と書いた部分もありましたが、最後のリナの笑顔が眩しくて素晴らしいのでそんなことはどうでもよくなると思います。ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はAZULDROP;さんの「TABOO.」をレビューしていきたいと思います。

taboo1

ジャンル:ホラー探索アドベンチャー
プレイ時間:エンディング回収までで4時間前後
分岐:4種。他ゲームオーバー多数
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2015/4
備考:12推、暴力・流血描写あり


さて、本作の作者であるAZULDROP;さんは「神無月の遣い」の作者として知っていました(最近Twitterでも呟きましたね)。しかし作風がかなり異なるように感じられ、作者以外の事前情報なしでプレイした私は驚く場面が多数ありました。

では具体的な中身の話に移りましょう。
とある私立図書館で行方不明者が立て続けに発生したといううわさ話から始まります。噂は事実であり行方不明者の数は3年間で4人。そのことを不気味に思った人たちは噂に尾ひれをつけ、彼らは図書館で死んだ、彼らの幽霊が出る、犯人は図書館の管理人だ、などいろいろな情報が飛び交っています。
主人公のヴィンスはそんな図書館の管理人。閉館時間になったので館内を見回って戸締りをします。その過程で不審なメモ書きや幽霊のような人物を見かけます。
一方この図書館に潜んで行方不明者の調査を行っているティアも怪しい書物や幽霊を目にすることになります。果たしてこの図書館で過去に何があったのか、幽霊の正体は、そして行方不明事件との関係はいかに……


と、このように探索ホラーゲームとして王道の導入と言っていいでしょう。
短編和風乙女ゲームだった「神無月の遣い」と全然雰囲気が違っていてびっくりというところです。この違和感はプレイ開始当初私に悪い方向に作用していました。
taboo2

マップはあまりきれいに見えませんし(ただし立ち絵は相変わらず綺麗)、ホラー的な初見殺しの驚かし方がワンパターンです。また探索中に手に入るメモなども意味深なものばかりで謎が解決していく様子が感じられなかったので、これは微妙かな~と思っていました。
しかし最後までプレイしてみるといい作品だったなという感想になったからこそ今こうしてレビューを書いています。どうやって最初の印象が覆されたのかについて順にお話ししていきましょう。

まず私は本作のクリアまでの時間を見誤っていました。他の作品の印象から本作も30分以内程度の短編だと思っていたのです。そのため図書館と行方不明事件の謎がエンディングまでに解決する見通しが立たずに微妙かなと感じていました。
しかし実際には本作はTrue End到達まで迷わずに進めても1時間、実際に攻略しながら他のエンディングも回収して…と進めていくと4時間くらいはかかるボリュームがあったので、終盤ではしっかりと行方不明事件の謎についてもヴィンスとティアの関係についても解決していて良かったです。


さて、本作の前半部分では、図書館の戸締りをするヴィンスのターンになります。この段階では図書館内の鍵を拾って部屋に入って暗証番号のヒントを見つけて…と謎解きとしては一直線で簡単な部類だと感じます。アイテムに触れるとたまに幽霊が追いかけてくるのですぐに違うフロアまで逃げましょう。基本的にマップが切り替わればそれ以上追ってくることはなくなります。ほとんどの場合初見殺し的に追いかけっこイベントが発生するため、セーブは頻繁にしましょう。

taboo3

戸締りを終えて管理人室に帰ったらティアのターンになります。物置に隠れていた彼女は、この図書館で行方不明になったエレナを探して図書館内を探索します。エレナの幽霊に導かれ、小部屋の奥の迷路のような部屋を探索します。ここでも初見殺しトラップは健在なのでこまめにセーブしましょう。


ティアがヴィンスと合流したら後半戦です。2人が目撃した幽霊の正体を探しに行きます。
このフェーズでは謎解きが本格化し、前半のアイテム探しに比べて脱出ゲーム感が強まります。

4つの石を配置して隠し部屋への通路を発見してからは解決編です。この図書館で起きた事件の真実について、探索中にも匂わせるようなヒントは得られますが、この隠し部屋で明らかになる惨状を見たら驚くでしょう。館内の様々な場所に散らばっていた不老不死に関するメモが、このような悲しい事件に結びついているとは思いませんでした。
行方不明4人のうち2人はまあそうなっても仕方がないというか本人たちが望んだ結果でもあるんですが、残り2人に関しては本当にかわいそうです。そんな真実を知ったティアがどう動くのか。ヴィンスはどうするのか。True Endではこれらの要素がきちんと絡み合ってエンディングに行くのが良くできた作品だと思います。

taboo4

本作の攻略についてですが、前述した通り初見殺しが多数あるのでセーブは30秒ごとにしてもやりすぎではありません。慣れていたとしてもセーブなしで本作をクリアするのは至難でしょう。ただしその初見殺しパターンはアイテムを調べる・特定の場所に近付いた瞬間に幽霊に追いかけられるという1つのみですので、怖さ的には大したことはないでしょう(だから私も1人で最後までプレイできました)。
また、特に後半の探索については図書館全体を調べる必要が出てくるので、ヒントが示す場所がどこなのかを広い目で探してみましょう。

エンディング回収も難しいです。本作のエンディングはGame Overを除いて4種。攻略情報なしでコンプリートするのは非常に難しいと思います。というのも、特定の行動をしないという進行条件がある・前半での入手アイテムが終盤で分岐に影響するなどといった要素があるからです。
というわけでエンディング回収できないなと思ったら作者さんサイトの攻略情報を見ましょう…と言いたいところなんですがすでに消滅しているんですよね…。Web Archiveを使えばまだ見られるので困ったら参照しましょう。
このヒントを見てもちょっと分岐に迷ったのでここにも少しだけヒントを書いておきます。
END 03とTRUE ENDの分岐点 公式サイトにあったヒントだけでは分かりにくいですが、どちらのエンディングに向かうとしても後半戦開始時点でヴィンスは人形を所持しています(でないとティアがヴィンスにあう前にGame Overになる)。解決編の後の最後の追いかけっこの時、管理人室の2階にある人形を回収していくことでTRUE ENDに、スルーすることでEND 03へ行きます。

というわけで今回はTABOO.でした。
当初の想像よりずっと深いシナリオと攻略要素が絡んだ作品です。TRUE END後に見られるアフターストーリーもきれいなのでぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はまなとマナさんの「死してなお僕は」をご紹介します。

shiboku1

ジャンル:ファンタジー探索アドベンチャー
プレイ時間:エンディング回収までで1時間以内
分岐:True,Normal,Bad3
ツール:RPGツクール
リリース:2020/8
備考:12推、要RPGツクールVX Ace RTP


今回ご紹介する作品は、主人公のジェンスが”死の世界”から無事に帰還するために探索して進めていくアドベンチャーゲームとなっています。と言ってもグロテスクな絵が出てきたりといったホラー要素はほとんどなく全年齢対象であり、ホラーの苦手な方でも十分楽しめると思います。
一応暴力的なシーンはあるので12歳以上推奨にはなっています。

shiboku2

こちらがその主人公のジェンス。頭に包帯を巻いて皮膚はつぎはぎ、心臓が飛び出ていていかにもゾンビっぽい造形ですが、絵柄が可愛らしいので怖さはあまり感じませんね。
そんなジェンスが目を覚ますと、案内役をしてくれるクローバーが、ここは”死の世界”であり、長くいすぎてはいけないから隙を見て脱出するといいと教えてくれます。”死の世界”の住人である”魔ビト”たちは攻撃的な態度をとってきたりはしませんが、脱出を企てていることがバレると全力で牙を向けてくるため、何の気なしの散歩を装いながら情報収集し、脱出を目指していくことになります。



…と書いてきましたが、本作は”魔ビト”に脱出を悟られないように真相を探るサスペンス的要素は薄めです。ジェンスがあからさまな発言をしたりしなければ脱出の企てが露見することはありませんし、推理要素などもなくストーリーが進行していくので気軽にプレイしていくことができます。

代わりに、というわけではありませんが、探索を進めていくと次第に本作の世界観や生前のジェンスのことが明らかになっていきます。ジェンスが目覚めた建物はどうやら病院のようです。”死の世界”に来る前は医者であったらしいジェンスですが、どうも今の彼はその過去を忘れている、あるいは思い出すのを拒否しているように思えます。
さらには病院内の所々から見つかる不穏な文書やメモ書き、ジェンスの断片的な記憶。そしてなぜかジェンスのことを”天使”と呼ぶ魔ビトたち。これらの謎を解明するための手がかりとモチベーションをくれるのがジェンスの元患者・アンジェです。

shiboku3

アンジェはジェンスに信頼を寄せているようですが、生前の彼らの関係はどのようなものだったのでしょうか。彼女は脱出のためのヒントをくれつつ、ジェンスを見守っていてくれます。

玄関のカギを入手したらここが分岐点。すぐに脱出するか、見かけた怪しい人影を追うかです。ゲームに慣れた方なら大方想像がつくでしょう。即脱出すればノーマルエンド、人影を追って地下に行くとトゥルーエンドへ向かいます。


地下に入るとそれまでの普通の病院の待合室のような雰囲気とは打って変わり、暗い部屋と廊下に粗暴な魔ビト、怪しい薬品類など一気に不穏さを増しホラー味を帯びてきます。とはいっても冒頭で述べた通り怖い絵もプレイヤーを驚かしてくるような演出もないためホラー苦手な方でも安心。
”魔ビト”が言っていた”天使”とはいったい何のことを指すのか、この病院で行われていた怪しい出来事は何だったのか、そしてそれとジェンスやアンジェの関係はあったのか、といった物語の核心に迫っていきます。


ここで明らかになる真実はやはりショッキングなものですが、地上を含めたこれまでの探索時にうすうす察することができる内容なので、私自身あまり辛い気持ちにならずに済みました。むしろジェンスとアンジェが短い時間で築き上げた確かな信頼関係を感じ取ることができ、感動的なエンディングに仕上がっていると思います。今度の”約束”は守れるといいですね。


難易度について。本作の攻略は易しい部類に入るでしょう。探索時にヒントが得られる地点にはほとんど光るマークがついていますし、アクション要素が求められるシーンもありません。謎解きも同じフロア内で完結するように作られているため、さほど迷わずに進められるでしょう。
前半(2階)のイベントは本筋にあまり絡んでこない(アンジェの登場は重要だが)のでややお遣い感があると言えるでしょうか。


というわけで今回は「死してなお僕は」でした。
死んでもまだ叶えたい願いとは何だったのか。なぜそのような願いを持つに至ったのか。あなたの目で確かめてください。

それでは。

↑このページのトップヘ