フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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こんにちは。今回は鳥籠さんの「何も事件は起こらなかった」のレビューです。

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ジャンル:微ホラー探索アドベンチャー
プレイ時間:30分
分岐:エンディング3種
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2016/12
備考:第12回ふりーむ!ゲームコンテスト短編部門銅賞受賞作


さて、最近は新しめの作品が続いていましたが、今回はやや古め、2016年公開の短編ホラーとなります。
では簡単なあらすじ紹介からまいりましょう。

主人公のレンは小学1年生。公園で友達の志乃と遊んでいましたが、夕方になりお姉ちゃん(真弓)が迎えに来ます。家に帰ってからも一見平和そうなものの、たまに現れる幽霊のような影や不気味な現象。表に見せない苦悩を抱えていそうな真弓。
果たして幽霊の正体は何なのでしょうか。真弓とレンの間には何があったのでしょうか。幽霊のいう「ここにいてはいけない」はどういう意味だったのでしょうか…

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ゲーム開始時点では平穏そのものであり、怪しい洋館に肝試しに行ったり異世界に迷い込んだりするわけではない本作ですが、すぐにホラーの面が見えてきます。
家の中で、廊下や子供部屋、書斎など様々な場所で幽霊のような影に出会います。影たちはしきりに「お前はだれだ」「ここは悲しい家だ」「ここにいてはいけないから帰れ」などと伝えてきます。それほど怖いわけではありませんが、例えば「この家で過去に事件や事故があったんじゃないか」とか、「主人公は本当に生きた人間なのか、彼岸の使者が迎えに来ているのではないか」などの想像が膨らみます。

家の中がこのような状態であるのに対し、真弓は明らかに明るすぎるというか、空元気のような感じがします。この違和感は、真弓に対しても「この人は何かを隠しているんじゃないだろうか」という疑念を抱かせてきます。そしてその疑問はGOOD ENDによって意外な方向に解決されることとなります。


このエンディング分岐についてです。
GOOD, NORMAL, BADの3種類があることや、いずれも1周目から回収できることはゲームの開始時点で案内されています。となると多くの方は初見からGOODエンドを目指してプレイしていくのではないでしょうか。ところが本作は分岐の仕掛けが特殊であり、ほとんどの場合最初はBADにたどり着くのではないでしょうか。少なくとも初見GOODはほぼ無理だと思います。

BADエンドでは、レンも真弓もすべての疑問を忘れ去ってそのままおしまいになってしまいます。穏やかではあるけれども何も真実が明らかにならないルートです。このルートを見たうえでちょっと試してみればNORMALエンドにも簡単に行くことができるでしょう。こちらではレンは前を向いて進んでいくことができます。真弓の口からも本当のことが述べられますが前を向くことができず、なんともむずむずする結末になってしまいます。

というわけで皆さんにはぜひGOODエンドまで見て欲しいのですが、これは分かってしまえば簡単とはいえ気付くのは相当難しいと思います。人によっては永遠に気付かないかもしれません。
この分岐方法に私は非常に驚き、類を見ない仕掛けだなと大変感心しました。それは盲点だったよ…。
そしてたどり着いたGOODエンドでは2人とも現実を受け入れて前に進んでいくだけでなく、本作のタイトルであった「何も事件は起こらなかった」の意味も明らかになる大変気持ちの良いエンディングです。本編内で登場機会のなかった両親に関する気持ちなどを含めて解決されるのが素晴らしい。
このエンディングを見て初めて、幽霊の言葉だったりNORMALエンドでの会話だったりがプレイヤーに効果的にミスリードを誘っていることが分かるのです。

どうしても分からなかった場合、ヒントの見方がReadMeに書いてありますのでよく読んでみてください。それでも分からない場合、下に攻略を畳んで書いておくのでクリックして読んでください。この作品はGOODエンドまで見ないと評価できません。そしてエンディング回収後にはこの仕掛けが良くできていることに驚き、温かい結末に感動することができるでしょう。

GOOD ENDを見る方法(クリックで展開) トイレに起きた後おまじないをせずにそのまま眠り、翌朝真弓と話している最中に登場する幽霊に従って、話し続ける真弓を無視してリビングを出てください。→キー長押ししながらzもしくはEnterキーを押してメッセージを送っていけばよいです。
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さて、本作をホラーゲームとして見た場合、やや物足りなく感じるかもしれません。プレイ時間は短いですし、幽霊に話しかけられること以外に怖いことは起こりません(一か所だけ視覚的に怖いシーンがありますが、よほどホラーが苦手な方でなければ大丈夫でしょう)。
ゲームの進行も、家の中をノーヒントで探索して特定のものを調べる必要があったりと、すこし不親切というかお遣い感のある探索だなあと正直なところ感じました。
しかしそれでもエンディングのきれいさがそれらをすべてカバーできるすごい作品だなと感じました。

ややマニアックだけれども良かった点として、バックログが可能な点を挙げておきましょう。
ウディタ製のADVゲームにおいてバックログが使える作品は私はほとんど知らないのですが、本作にはばっちり実装されています。
イベント中に参照できないのは不便ですが、探索中はxキーで表示できるメニューからいつでも会話履歴をさかのぼって確認することが可能です。大変珍しい機能で私的には高ポイントです。


というわけで今回は「何も事件は起こらなかった」でした。
ぜひGOODエンドまで見てください。そうでないとこの作品を楽しんだことにならないのではないか、そのくらいのパワーがありますので頑張って攻略してみてください。

それでは。

こんにちは。今回は水温25℃さんの「月明かりと夜風のワルツ」のレビューとなります。

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ジャンル:魔術師ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:1時間弱
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8


本作についてはTwitter上などで制作過程を拝見していました。絵が割と私の好みのタイプであり、作者さんの過去作「はこにわのみこ」が良かったので公開を楽しみにしていました。結局プレイするまでに公開からしばらく時間がかかってしまいましたが先日読了したのでレビューという形にしておきたいと思います。


本作の舞台となるのは街のあらゆる場面で魔術の飛び交うルーナ王国です。空気中に漂う魔素を魔力に変換してエネルギー源として使用することで動く工業製品も身近な存在で、魔術を職業にすることのない一般人でも日常で魔術を使っています。
主人公のリシュア(ver1.02以降名前変更可能)は魔術学校に通う3年生。卒業研究に励みながらも、間近に迫った学校の創立記念ダンスパーティーに誰を誘うか迷っています。住み込みのお手伝いさんであるレナートのことが気になりますが、去年のパーティーへ誘ったところ断られてしまったため、声をかける勇気が出ないようです。二人の間を隔てる線とは何なのでしょうか。魔術学校を卒業するまでにその関係性に変化は訪れるのでしょうか…


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さて、本作の良かったところを簡単に説明していきますが、まず絵が可愛らしいですよね。最初にも書きましたがかなり私の好きな絵柄です。短編で登場人物の数も少なめですがみないい子たちで、登場機会の少ないサブキャラまで表情豊かに描かれています。私は何かしらの失敗をして涙目になったレナートが好きです(笑)
メインの画面に表示される立ち絵だけでなく、左下にいる主人公もまばたきしていて良く作りこまれてます。この主人公の顔グラですがかなりアップで表示されていますね。これまでプレイしてきた作品の中でも一番かも。それくらい存在感があります。

立ち絵やスチルのみならず、背景やUIなんかもきれいに統一された雰囲気をまとっていて素敵ですね。メニューや文字色などが主人公のテーマカラーと一緒になっていて気持ちいいですし、メニューアイコンも大きくて一見して意味が分かります。ゲーム内からヘルプや2次利用ガイドラインなどが読める仕組みまで整っています。これは過去作でもそうだったかな?
URLをクリックしても直接サイトへ飛ばない(クリップボードにコピーされた状態になる)のは掲載サイトの規約対策でしょうか。確かふりーむが最近その辺非常に厳しかったはずです。ちなみに私がこの記事を書く際に公式サイトにリンクを張るときにURLのコピーが一瞬でできて便利だったなんていうちょっとどうでもいい話もあります。



さて、シナリオの方に話を移しましょう。
本作の特徴として、物語開始時点からすでに主人公リシュアがレナートへ(恋愛的な意味で)好意を抱いているのが明らかというところが挙げられるでしょう。しかしそれに対して、レナートはそもそもリシュアのことは恋愛対象ではないといった様子。お手伝いさんと雇い主の娘という関係としては良好なので微笑ましいシーンがほとんどを占めるのですが、それ以外の個人的な関係についてはレナートが遠慮しているというか拒否しているように見えます。したがってリシュアの片思い的な面が強く、乙女ゲームとしての糖度は控えめな感じです。


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そんな本作のシナリオにおいて優れた点は、はっきりとした世界観の説明や設定が存在していること、それに基づいて登場人物の思いや行動が描写されていることでしょう。
舞台となっているルーナ王国では魔術が広く普及していることは最初に述べましたが、それはいわゆる魔法のように何でも好きなことができる、科学を無視したような特異な能力が使えるといったものではありません。大気中に存在している魔素を吸収して魔力に変換する、魔力を動力源として仕掛けを動かし、加熱器具にしたり玩具にしたりといった理屈が存在しているのです。

魔素の吸収効率に個人差がある、国家として定められた資格としての魔術師や魔導士などの肩書がある、といった設定が丁寧に説明されるからこそ、レナートが主人公の誘いに首を縦に振らない理由や主人公の父親トヴァルの矜持・信念といったものが理解できるのです。
科学との比較がされるシーンもあり、SFというにはファンタジー感が強いですがそれくらい設定がしっかりしており、だからこそ登場人物の心情が読者に伝わってくる構造になっていて、良く作られているなあと感じます。リシュアが卒業研究に力を入れている理由も分かりますし、授業のシーンはないですが魔術学校(高校卒業後に入学するということなので大学相当でしょう)に通っている必然性があるんですよね。学校が都合のいい行事が存在するだけの空想上の存在になっておらず、理由のある設定としてスムーズに受け入れられるようになっています。

先ほどシステムが整っていると言いましたが、その中の用語説明機能はこの点の理解にも寄与しているでしょう。右上のメニューボタンの下にある本のアイコンをクリックすると、作中に出てきた用語の解説を読むことができます。必要な部分だけをまとめて見られますし、UIもかわいくていい感じ。


物語終盤ではちょっとした事件が起こります。心を痛め、最善の選択ができなかったと悩むリシュア。そんな中でのレナートとの会話が、2人の信条を活かした内容になっていて上手いよなあと感じます。
事件をきっかけに決意をしてくれたレナート。優しいけれどもちょっぴりドジで、よくリシュアに慰められていた彼が初めてたくましく、かっこよく見えた瞬間でした。

そんなエンドロール後のエピローグ。あの台詞にはシリアスな雰囲気が吹き飛んで文字通り吹き出してしまいました。そして突然の糖度UP。これまでが爽やかなレモネードだとしたらガムシロップくらい甘いです(私は何を言ってるんだ?)。切実にスチル閲覧モードの実装を希望します!
(同日追記:スチル閲覧モードはチャプター選択画面の左上アイコンから行けるようです! 作者のななづこさんに直々に教えていただきました。ありがとうございます。)


というわけで今回は「月明かりと夜風のワルツ」でした。
エピローグまでちゃんと見て幸せな気分になってくださいね!

それでは。

こんにちは。今回は成瀬紫苑さんの「人間裏街道」のレビューをお送りします。

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オススメ!
ジャンル:探索ホラーアドベンチャー
プレイ時間:エンディングまで3時間、フルコンプまで6時間程度
分岐:エンディング7種
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2023/3
備考:15禁、自殺/殺人描写あり



先週に引き続き、フリーゲーム夢現で見つけた作品になります。以前から気になっていたのですがようやくプレイすることができました。シナリオにグラフィックにとてもよくできていて、ゲーム初制作とのことでしたがそれでこの出来栄えなら才能ある方なんだなと思える作品です。


主人公のアリスは”死にたがり”の高校3年生。生きる目的を失い、自宅で練炭自殺をしようと思い立ちます。道具もそろえていざ実行するにあたり恐怖を感じたその瞬間、鏡の向こうから謎の少年メイに裏街道へといざなわれます。表(現実世界)の反対であるという裏街道は暗く静かな場所で、住人たちも他人との関わりを避けているようですが、その分厄介な人間関係に悩まされることもなくのびのびと自由に暮らしています。
裏街道で一緒に遊んでとメイにせがまれたアリスは、夏休みが終わるまでという約束でそれを了承します。自殺を決行するまでの1か月間、メイと遊ぶついでに裏街道を探検することにしたアリスは一体何を見つけるのでしょうか。裏街道とはどんなところで、住人たちはどんな人なのでしょうか。彼らに未来はあるのでしょうか……


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本作の良かったところの1つ目として、まずはシナリオを挙げようと思います。本作の主人公であるアリスは先ほども述べましたが相当な死にたがりです。ゲーム開始時点で上のような状態ですし、裏街道へ行ってからも基本的には夏休みの最後の日に表に帰って死ぬという決意は揺らぎません。それでいて、何かプレイヤーの同情を誘うような深刻な理由が語られることはありません。つまり、感情移入しやすいタイプの主人公ではないのです。
このブログでも何度か書いていると思いますが、私は物語を楽しむときはおおむね主人公になり切って読むタイプです。本作のように何を考えているのか分かりにくかったりして感情移入できない主人公はあまり好きではなく、実際ゲーム序盤における印象もさほど良くありませんでした。

しかしゲーム中盤終盤と進み、エンディングを回収するころには最初の印象は完全に覆されていました。その理由の一つとして、裏街道で出会ったガラクとの相性の良さがあるでしょう。裏街道に住んで長いというガラクはメイの扱いにも慣れていて、メイの世話をしながらもアリスに今後の生活についてアドバイスをしてくれます。
そんなガラクはアリスと対照的な”生きたがり”。生きたがりのガラクがどんな経緯で裏街道に来ることになったかはゲーム終盤で明らかになります。理不尽な現実に悩まされたガラクの事情を知れば人生に絶望しても仕方がないと思えるのと同時に、何とか希望を見失わないで欲しいという気持ちが生まれます。

そのガラクが表に戻って生きたいという希望を叶えるために必要だったのがアリスの存在だったのでした。裏街道に来て日が浅いアリスはまだ表での生き方を忘れておらず、さらには死を覚悟したゆえの危険を顧みない行動力があります。本やスマホを取りに1回表に戻ったり、メイの行動を不審に思ってガラクに相談したり。そういったアリスの行動が意図せずにガラクの計画の手助けとなっていたのです。
このあたりの伏線の張り方が上手いですね。



逆にアリスにとってもガラクは欠かすことのできない存在になりました。死んでもいいやと思っているアリスが生きていくにあたり、生きたがりのガラクが表で生活するのを助けるという具体的で小さな目標が非常に大切だったのです。

人生における夢のような大きな目標を持って、それに向かって努力している人を見ると立派だなあ感じます。しかし胸を張って宣言できるような立派な夢を持っている人ばかりではありません。まして死にたがりのアリスにはそのようなものは全くありませんでした。
裏街道に長居しすぎたために表での生活に支障をきたしたガラクを手助けするというのは、人に誇るようなことではないかもしれないけれど確実にアリスに活きる理由を与えてくれます。立派な理由がなくても、目の前の毎日に手いっぱいだったとしても、小さな目標があるだけで生きるエネルギーになるんだと思うと同時に、我々も現実世界を生きることに高いハードルを感じなくてもいいんだよというメッセージのように受け取れました。


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さて、次にビジュアル面が良かったことについて書きましょう。
ここまでに載せたスクリーンショットでもわかると思いますが大変綺麗ですね。それに加えて本作においては、裏街道には日が昇ることはなく、ガラクがくれた特殊なメガネをかけないと色の判別も難しい程度に暗いという設定があります。ネタバレになってしまうので詳しくは言及しませんが、その点が反映されたスチルや立ち絵になっているのがとても良いですね。


本作にはストーリーのメインにかかわってくるキャラクターのみでなく、探索時に会話などをすることができるサブキャラも多数存在しています。彼らについても立ち絵が用意されているだけでなく、専用のスチルまであったりしてこれは相当な力の入れ具合だと思います。このスチルはそのキャラクターのサブシナリオをクリアすることで見ることができるようになります。

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これらのスチルは一度見たものはおまけ部屋で再度閲覧可能になっています。同時にそのシーンで印象的なBGMと合わせて鑑賞できるシステムは何気に初めて見たかもしれません。曲名なども同時に表示されていて、私のような音楽素材マニアには大変うれしいシステムです。



本作の攻略についてです。
公式サイトなどの記載では難易度は低いとのことでしたが、エンディングをすべて回収しようとすると私には難しく感じられました。簡単というよりは”余計なことをしない”というタイプの分岐条件になっているのです。分岐ありの探索ADVにおいては特定のアイテムを入手するとか謎を解くとかの分岐条件になっているものが大多数ですから、本作はややトリッキーな分岐条件をしている分難しいなと感じられました。もちろん、そのうえで必須のフラグは立てておかなくてはなりません。自力では難しいなと思ったら素直に公式サイトにあるヒントを見ることをお勧めします。
とはいえ、ゲームオーバーを避けてエンディングまで進むのは(いくつか不意打ちポイントがあるとはいえ)簡単ですので、まずは自力で回収できるだけやってみるのがよいでしょう。

ストーリー進行に必須でないサブクエストについてはさらに難しいです。9部屋あるアパートの一部屋一部屋を丹念に調査しないといけなかったり、非常に早いタイミングで必須フラグを取る必要があったり、当然のように時限イベントのクリアを要求されたりします。こちらは一部のイベントについてはおまけ部屋でヒントが見られます。分岐しうると私が認識していないタイミングでのフラグなどもあって、理不尽とまでは言いませんがやや不親切かなと感じました。

あとはマップ上で領域の指定が上手くいっていないのか木などをすり抜けてしまう箇所がいくつかあるのも少し気になったでしょうか。
マップの表現自体は面白く、ソファに座っている状態がわざわざ用意されているのはなごみますし、そんなモザイクの使い方あるのか、と驚かされもしました。

ホラー要素はそこまででもなく、あまり得意でない私でも最後までプレイできました。ただし過激ではないとはいえ脅かし表現はありますし、そこそこグロい絵もあるので血とか無理~という方はやめておいた方が無難でしょう。



というわけで今回は「人間裏街道」でした。
死にたがりが裏街道で見つけた目標とは。生きていく理由とは。大変に後味の良いエンディングとなっているのでぜひあなたの手で見つけてください。

それでは。

こんにちは。
普段私はこのブログで、フリーゲームの紹介・レビューを行い、たまに攻略とか考察系のコラムなどを執筆してきました。今回は初めて書籍の紹介記事を書きたいと思います。
フリーゲーム含むオタク文化に関わる人はぜひ知っておきたい法律関連の解説書、「オタク六法」(小林航太著、KADOKAWA)です。


私はいつも様々なところからフリーゲームに関する情報を入手して、配布サイト等からダウンロードして自分でプレイし、感想をツイートしたりレビューを投稿したりしています。フリーゲーム文化にどっぷり浸かっているわけですが、この界隈特有の揉め事やトラブルも時折耳にします。具体例は挙げませんが、盗作だトレパクだといった著作権関連のものから侮辱・誹謗中傷の類、他にもわいせつ物や暴力表現の規制と表現の自由の対立だったりと、すぐに思い浮かぶものでもこんなにあります。


幸い私自身がこれまでに何らかのトラブルに巻き込まれたことはないのですが、身近にこうした揉め事が存在しているのは嫌ですし、Twitter上で繋がりのある方がトラブルになっているのを見ると当事者でない私でも辛い気持ちになってしまいます。
トラブルの発生自体を完全に防ぐのは無理だとしても、なるべく少なくしたい、万一問題が生じても自信を持って交渉できるようにしたいという思いから著作権法などの知的財産権に関する法律などを軽く勉強しておきたいなと思っていたところで見つけたのが本書でした。どのような内容なのかとどの辺が良かったかを書いていきたいと思います。



本書は5つの章からなっており、「作るときの法律」「見る・見せるための法律」など大まかな場面ごとに分類して解説がなされています。「著作権法」「刑法」「民法」などのように法律ごとの解説ではなく、起こりうるトラブルの事例ごとに解説があるため、勉強のための本や専門書というよりは実用書
といった印象です。その分普段法律に触れない人でも読みやすい内容だと思います。

私が個人的にフリーゲーム関連コミュニティでよく見る揉め事だと思っているのは、著作権関連・誹謗中傷関連の2つだと思っているのでこれらについて本書でどう解説されているかを軽く紹介しましょう。


まずは著作権について。
一言で著作権といっても様々な権利が内包されており、狭義の著作権(著作財産権)・著作者人格権・著作隣接権に分類されます。狭義の著作権もさらに多数の権利の集合体であり、例えばイラストをパクられた、無断転載されたといった場合は具体的には複製権や公衆送信権の侵害となります。
二次創作も厳密には翻案権の侵害となる場合がありますが、原作を盛り上げる意味もあることから現状多くの場合は黙認されています(著作権侵害は親告罪であるため著作権者が黙認する場合罪に問われない)。ゲーム実況についてはもっと黒よりですがこちらも大体の場合は黙認されていますね。
このような事案について、写真パクリ事件同人誌無断転載事件など具体的な裁判例を交えて解説が加えられています。

このあたりの具体的な権利を確かめていくと、例えばふりーむのめちゃくちゃ長い利用規約を読み解くときの助けにもなるでしょう。

また、そもそも何が著作物に該当するのかの判断も難しいという話もありました。描かれたイラスト自体は著作物ではあるが、作者の画風などは著作物ではなく保護対象にならない、キャラクターの絵なら著作物だがキャラクター自体は著作物ではないなどとても分かりにくいです。このあたりの解像度を上げて勉強するには個別の事例を見ていき空気を感じ取るしかないのかなと思いました。

私はいつもこのブログでフリーゲームのレビューを行っており、その際ゲームのスクリーンショットを掲載し、あらすじなどをまとめ、一部の文言はそのまま記事内で使用したりしています。一応著作権侵害にならないよう、引用の要件を満たす範囲で掲載するように心がけています。本書でも解説がありますが、スクリーンショットなどをそのまま掲載しても合法な引用となる要件は以下の通りです。
  • 引用部分がほかとはっきりと区別されていること
  • 主従関係が明確であること
  • 引用をする必然性があること
  • 改変されていないこと
私の場合、スクリーンショットが引用なのは明らかですし、ゲーム内の文章、ReadMeの文章などを拝借するときは必ず注を入れるかblockquoteなどのhtmlタグを使用して私が書いた部分と区別できるようにしています。また記事内のほとんどの文章は私が書いたものであり引用部分の割合は高くありません(私が書いた部分が主であり、引用部分が従である)。掲載するスクリーンショットなどは作品の雰囲気や特徴などの掴めるシーンを選んで記事内で述べる論点を具体的にイメージしてもらうために使っており(引用の必然性がある)、基本的に改変をせずに掲載しています。
と、一応黙認されるだけでなく合法であるように心がけています。(専門家じゃないから実は厳密に見たらアウトな箇所はあるかも。もちろん作者から苦情が来たら対応はします)

Twitter上で感想をつぶやく、というだけだとあまりこの辺の厳密性を気にせずにスクリーンショットを掲載してしまいますね…作者さんに訴えられるようなことは書いていないと思いますが、皆これくらいやってるしいいだろうと気楽にやっている面は否定できないです。

引用というと、私は数年前までは学生で大学にいたものですから学術論文での引用の感覚でいるので、どんどん引用したらいいと思っています。学術論文では先行研究を引用するのは当たり前です。むしろ何も引用しないというのは過去の知見を一切利用しないということですからね。もちろん入学時に不正な引用や剽窃を(意図する/しないに関わらず)しないよう気をつけろというガイダンスをしつこいほど聞かされました。


さて、パクリ疑惑に並んで多いと感じる誹謗中傷事件についてです。
誹謗中傷への対応で法的に根拠にできるのは名誉棄損・侮辱の2つです。刑事上の名誉棄損の成立には事実の摘示が必要なのに対し、侮辱では不要であり刑罰も名誉棄損の方が重くなっています。
民事上の侮辱の場合、被害者の社会的評価を低下させる言動だけでなく、名誉感情を侵害した場合にも適用されるというのは私の知らない内容でした。
これらを踏まえたうえで、「ショップのレビューに暴言と低評価を書きこまれた」「絵をさらしてへたくそと言われた」「VTuberに対して根も葉もないリプが飛んでくる」などの事例に対して一般的な解釈を解説してくれます。

「これらの行為が名誉棄損や侮辱、あるいは脅迫等に該当する」と分かった次の段階、具体的な対処方法についても解説があります。発信者情報開示請求は従来はWebサイト運営者とプロバイダーにそれぞれ別の裁判を起こさなくてはいけませんでしたが、2022年10月以降は一度の手続きで済む新制度が施行されたということで、手続きの負担が軽減されたようです。助かりますね。


Twitterにおいては、誹謗中傷を受けたら裁判を起こして慰謝料をぶんどろう! という内容の投稿がたびたびバズりますが、手続きの負担が軽減されたとはいえ本書を読んだうえでもそんなに簡単ではないぞと思っています。どんな内容の投稿が違法なのか、違法だとして開示請求ができるのか、裁判に勝ったとしても本当に慰謝料を取れるのかなど様々な壁が高く、とても気軽に慰謝料取りに行く、という気持ちになれないと感じました。
とはいえ知識を持っておくだけでも心の支えになる面はあると思いますし、そういう意味では非常に役立つでしょう。いざ弁護士に相談するときの事前準備や心構えといった内容も書かれています。



さて、本書で解説されている内容を少し見てきましたが、その他の点で良いところを2つほど挙げておきましょう。

まず初版発行が昨年11月とかなり新しい点です。上述した開示請求の新制度や、昨年4月の民法改正(18歳成人のやつ)の解説など新しい内容がかなり含まれています。画像生成AIについても触れられていますが、法律が未整備で判例もなく、明確な基準を示すのが難しいんだろうなと感じました。その他、ゆっくり茶番劇騒動やインボイス制度などについての記述もあります。
世間一般の事情もどんどん変わっていきますので、新しい内容がふんだんに含まれるのはとてもありがたいと思います。

もう一つ、時々ちょっとふざけた内容のコラムなどがあって読んでいて面白いです。「漫画などでよく見かけるヒーローの仕事は法的には業務委託?」とか、コラムではありませんが自筆証書遺言の解説で「要件を満たしてさえいれば、語尾が「ぴょん」になっていてもかまいません。」などと真面目に書いてあって笑ってしまいました。




今回は初めての試みとして書籍を紹介してみましたがいかがだったでしょうか。
私のブログを読んで下さる方は多かれ少なかれオタク文化に触れている方だと思いますので、ぜひ読んでみてください。


それでは。

こんにちは。今回はDanQさんの「学ぼう! 精神医学 -うつ病編-」をレビューしていこうと思います。

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ジャンル:精神医学をカジュアルに学べるノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8



本作はフリーゲーム夢現を巡回していて見つけた作品になります。タイトルから分かる通り、精神科での診療や精神疾患についての初歩を学んでいける作品となっており、全体的に非常にまじめに作られています。それでは作品内容の紹介に移りましょう。


本作の主人公(名前変更可。デフォルトは朝宮)は総合病院に勤める2年目の研修医。今回初めて精神科に配置され、患者さんの診察や治療に携わることになります。とはいってもこれまで内科などでの勤務経験しかない主人公は精神科で必要な知識が十分ではありません。指導医の夏川先生に教えてもらいながら患者さんを診ていくことになります。



主人公が最初に見ることになった患者さんは永野さんという男性でした。
1か月ほど前から気分が落ち込み仕事にも身が入らず、家族の目から見てもずっとしんどそうにしていると言います。永野さんへの診察と治療を通して、主人公と一緒に読者も精神医学について学んでいける構成となっています。


さて、私は医学に関する知識は素人なので(過去に診断されたことのある病気について調べたりはする、という程度です)、上で永野さんの訴える症状を聞いてもうつ病くらいしか候補を考えられないのですが(本作のタイトルからのメタ読みもありますが)、本作を最後まで読めば精神科では他の様々な可能性も考慮しながら最終的な診断や治療を行っていることが分かります。


例えば、夏川先生に最初に教えてもらう講義の内容は「精神科ではなぜ病歴が大事なのか?」です。
レントゲンを撮ったら骨が折れていることが分かった、などのように検査で明確な原因が把握しづらい精神科における診断では、現在の状況だけでなく過去もさかのぼって考慮したうえで適切な判断をする必要があるというのです。これは、今までの私には全くなかった視点でした。

作内で永野さんの診察を行う際には、今の仕事や家庭での様子のみにとどまらず、子供のころからの成育歴や病歴などについてを含む細かい聞き取りが行われています。知らなければ、医師というよりはカウンセラーみたいな人の仕事なのでは? と思ってしまったりしますがこれも精神科医の大切な仕事の1つだということでした。
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もう一つ例を挙げましょう。精神科においても血液検査などの検査を行うことは多いようです。しかしそれは例えば、うつ病になると血液検査のこの項目で数値が高くなる! のような項目をチェックするためのものではなく、他の原因を除外するためであるというのです。
なるほど、確かに脳外科とか内分泌科とかの他の科にかかるべき真の原因があったのにうつ病と診断して精神科的アプローチで治療を試みても良くなるとは思えません。こうした病気以外にも、例えば薬物の影響で気分症状が現れることがあるのは私も知識としては知っていたはずですが、うつ病の診断をしようという段になって頭の中に残ってはいませんでした。

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こんな感じで全体的にまじめに作られた作品ですが、かわいらしいイラストやコミカルな音楽もついてカジュアルな雰囲気を保っています。診察に入る前のプロローグであったり、True Endで永野さんが快復したときなんかは登場人物のキャラクター性が出た会話シーンなんかもあったりして、ゲームとして気楽に楽しめるような内容になっていると言えるでしょう。
もちろん完全な娯楽作品のようにゲラゲラと笑ったり感動シーンに涙したりといった展開にはなりませんが、勉強のハードルを下げてくれているという点が大きく評価できるポイントだと思います。立ち絵がスッと入れ替わったり、講義スライドが挟まったりといった演出の仕方もささやかながら間違いなく本作の取っつきやすさに貢献しているでしょう。

ネットを使って医学のことについて調べようとすると、怪しい情報が大量に出てきて私のような素人では信頼できる情報を見分けるのが大変ですからね。公的機関や大学などが出している情報はさすがに信じていいだろうと思いますが、そういったページって大体堅苦しくて難しいんですよね。その点本作ではうつ病や精神医学についての最低限の知識を読みやすく、そして正しく(作者さんは現役のお医者さんということですし、診断基準等の引用元も作内で示されています)伝えてくれる点が嬉しかったですね。


ところで少し上でさらっとTrue Endと書きました。本作にはいくつかの選択肢が存在しています。
全問正解しないとTrue Endには行けないのですが、いずれの選択肢も夏川先生の話をきちんと聞いていれば正しいものを選べるものですし(常識で考えても大体は正解を選べるはず)、難しくありません。
逆に1つでも間違えるとNormal Endに行くようですが、こちらでも永野さんの病状が悪くなったりはしませんでした。夏川先生のフォローがしっかりしていたということでしょう。こうした作品でわざと間違い選択肢を選ぶのは私は心理的に強い抵抗があるのですが、レビュー書くんだからちゃんと他のエンディングも見ておこうかと思ってみてみました。辛い結果にならなくて良かったです。


というわけで今回は「学ぼう! 精神医学 -うつ病編-」でした。
勉強するぞ!という気持ちにならなくてよいのでぜひ気軽に読んでみてください。

それでは。

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