こんにちは。今回は伽那ノ光さんの二酸化テルルをご紹介します。

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ジャンル:現代乙女ゲーム
プレイ時間:1周20分、フルコンプまでで2時間以内
分岐:4種類
ツール:吉里吉里
リリース:2013/7
備考:第9回ふりーむ!ゲームコンテスト女性向けゲーム部門銀賞受賞作


こんにちは。今回ご紹介するのは現代舞台の乙女ゲームですがちょっと変わった雰囲気の作品です。中学校が舞台だけど普通の学園ものとは違う。そう、本作は生徒である天音セレンと理科教師仁志輝流(にし・きりゅう)の間の物語なのです。禁断の恋という感じでフォーカスされているわけではないのでそこを求める方には物足りないかもしれませんが、生徒と先生、コドモとオトナの対等でない関係の間でどう展開するのかは見どころの一つでしょう。


さて、本作が変わっているのは生徒と先生という関係性だけではありません。タイトルを見てお気付きになるかと思いますが、本作には化学物質の名前がタイトルとして与えられています。そこからもわかる通り、化学が本作のストーリーを支える大切な要素になっています。とはいっても難しい話は出てこないので大丈夫。主人公天音セレンは中学3年生なので、中学校の範囲の内容しか出てきませんし、シナリオ中では適宜出てきた用語などについての解説が入ります。ちなみにこの解説は、仁志先生がさらっと格好よくしてくれるパターンと、シナリオを中断して注釈が入るような形で解説してくれるパターンがあります。出てくる用語自体は義務教育の範囲内ですが、付随するうんちくなんかも語ってくれたりするので理系の方も退屈しないと思いますよ。作者の伽那ノ光さんは医師とのことで、専門性を生かしたシナリオになっています。
逆に、科学的な(理屈っぽい)語り口などにアレルギーがある方だと本作を楽しむのは難しいかもしれませんね。昔習ったことを忘れてしまったという程度ならセレンと一緒にプレイヤーも生徒側に回ればいいのですが、酸素を作るとか電気分解するとかいった話題自体が苦手なら本作はお勧めしません。


そんなことを言っていると、本作は理屈をこねて難しい話を続けるようなゲームかと思われるかもしれませんが、それは違います。主人公セレンがとる選択肢は必ず科学的・空想的という対になっていてどちらも選ぶことができます。そしてどちらを選んだ回数が多いかによってエンディングが分岐するのです。理科の先生が攻略対象だからと言って、科学しまくれば良いエンディングにたどり着けるのかというとそうではありません。科学エンド、空想エンド、そして中間にあたる中道エンドのどれもがそれぞれ少しずつ違って優劣のない結末を見せてくれます。科学を押し付けることがないようなこの態度はなかなか好感が持てます。
そうした作品の構成だけでなく、文章表現でも詩的で素敵だなあと思える魅力もあったりします。私は「職員室にナッツのようなカラメルのような香りが広がる。たちまち、灰色だった部屋に赤みがさしこんだ。」「先生のほほえみは、準備室に広がったクリームの香りのように甘かった。わたしはその笑顔に、どきりとした。」などが気が利いていて好きだなあと思いました。


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さて、上の画像を見るとわかりますが、本作のイラストは非常にきれいです。セレンがかわいらしいのはもちろん、仁志先生もいいですね。教師という立場でクールに振る舞いますが、笑顔も見たくなる。そして3つのエンディングではそれぞれ専用スチルもあるのでぜひ集めてみましょう。ちなみに残り1つのエンディングは実質ゲームオーバーなのでスチルはありません。
もう一つ上の画像で特徴的だと思うのは、会話ウィンドウの配置です。普通のノベルゲームでは画面下部にウィンドウが1つあり、地の文も会話文もそこに表示されると思うのですが、本作では会話文は通常のテキストウィンドウとは別に立ち絵から吹き出しが出て表示されるのです。大変独特で慣れるまでは読みにくいかもしれません。しかしシステム面はしっかりと作りこまれているのでシステムに由来するプレイしにくさはかなり少ないですよ。ちなみにメニューバーの操作説明ボタンを押すと、作者さんの過去作せつなゆ魂のキャラクターが本作の操作法を解説してくれます。


本編中では仁志先生はあくまで先生であり、セレンがいくらアプローチしても大人の対応で、セレンは仁志先生のトクベツ課題を受けていることをうれしく思いながらも、いち生徒としてしか見られていないんじゃないかと寂しく感じたりします。このあたりの描写って、乙女ゲームとしてのすごくいいところだと思ってます。しかしそれだけでは物足りなく感じてしまうのも事実。結局セレンの恋は実らないのかと思うと残念だったりもしてしまいます。ですが心配は無用。2人の甘々っぷりはエンディングとエピローグでたっぷりと味わえます。特に恋する理科ノートの話では、セレンの脳みそが沸騰したところで私の脳みそも沸騰しそうでした。表情の変化も細かくていいですね。注文を付けるとしたら、エンディングでなぜ仁志先生がこれまでの態度を翻してセレンの気持ちに応えてくれたのか、の部分を読んでみたかったというところでしょう。エピローグは本編から時間が経っての話ですし、話のつながりのようなものよりは1つのシーンの魅力が大事だと思うのでセレンと仁志がラブラブになっていてもいいと思うんですが、本編エンディングではその部分が少し気になりました。

最後にどうでもいい蛇足なんですが、美術室に行ったときの回想で、セレンが課題で「わたしがいる風景」を描くために悩んでいるとき、仁志先生がキイロイトリの絵を描いたというシーンがありました。偶然だとは思うんですが、この題材が、三善晃作曲の混声合唱とギターのための組曲「クレーの絵本 第1集」の終曲「黄色い鳥のいる風景」を連想させてちょっとびっくりしました(元になった詩は谷川俊太郎のものです)。

さて、今日は少し変わった乙女ゲームのご紹介でした。大変クオリティの高い作品で、実は隠しイベントもあったりするので気になった方はぜひプレイしてみてください。隠しイベントのヒントは、周期表(タイトル画面に表示されている、元素をその性質をもとに並べた表)です。2人の名前の由来や作内に登場した科学知識の補足、セレンの過去などの話が聞けます。特にこのセリフ。

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作内の登場人物がしっかり背景を伴って生き生きと描かれているのって大事な要素ですよね。
本イベントへの入り方の答えはここには書きませんので、頑張って探してみてください。

それでは。