こんにちは。今回は、おととい公開されたばかりのベルカゲさんの最新作泡沫の花が散るをご紹介します。

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ジャンル:ミステリー&百合ノベルゲーム
プレイ時間:ノーマルモードですべて読んで1時間半くらい。フルコンプまで2時間ほど
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト、ブラウザ版あり
リリース:2021/7
備考:12推


チェス殺人事件以来のミステリーのご紹介になります。チェス殺人事件では手掛かりとなるのは人物情報とチェスのルールだけというお手軽さでしたが、本作は事件に至る状況の描写とか捜査パートもあり、力の入った作品になっています。

まずはあらすじを簡単にご説明しましょう。本作の主人公はミッション系の女子高、ロータス女学院に通う2年生の綾小路花蓮。唯一の正当な文芸部員として活動している。幼馴染で1年生の嘉手納向日葵(かでなひまわり)は写真部所属。クラスメイトの演劇部員に頼まれて、合宿中の撮影係として同行することに。3年生の不知火(しらぬい)あやめの別荘の豪華さと演技力の高さに驚いたり、彼女をめぐる人間関係のごたごたに巻き込まれたりしながらも無事に1日目を終え眠りにつく。2日目にいつまで経っても来ないあやめを探していると、なんと彼女は温室の中で無残な姿で発見された。しかし山奥のため夕方のバスの時間まで外部に連絡することもできない。花蓮は何としてもこの違和感のある事件の真相を見つけて向日葵を安心させるんだと心に決めるが……

と、こんな感じです。ミステリーの王道的な展開でしょう。この説明を読んで気付いた方も多いと思いますが、本作の登場人物は皆花に関係した名前になっています。主人公の名前には花という字が入っていますし、その他にも向日葵、朝顔、夕顔、あやめ、のばら、菊華に竜胆と様々な花の名前がそろいます。人名としては見慣れないものもありますが、各登場人物の髪の色が花の色に対応している感じのキャラクターデザインなので大変覚えやすく、特にミステリーにおいては大きなメリットでしょう。
さて、ミステリーにおいて魅力となってくるのは事件のトリックの意外性やそれを解き明かす体験だけでなく、ぐちゃぐちゃした人間関係やそこから生まれる事件への動機といった面も大きいでしょう。本作はその点において評価が高いです。
みんなの尊敬の的であったあやめの過去と悩み、彼女へ恋愛感情を持つ生徒とそれを快く思わない者の存在、妙な違和感のある不知火家の別荘の間取り。これらが本作はミステリーであることをしっかりと主張してきて、期待感を高めてくれます。

今、「え、主人公たちって女子高の生徒じゃなかった?」と思った方は鋭いですね。そうです。本作では女の子同士で恋愛感情を持ったり付き合ったり、さらには依存したりといったことが普通に行われています。つまり本作はミステリーでありながら百合ゲーとしても楽しめるわけです。作者のベルカゲさんは乙女ゲー作ったりギャルゲー作ったりBL作ったりと様々な方向で作品を発表しているのが特徴的なサークル。ミステリーを作ったと聞いて今回は違う方向性なのかなと思ったりもしたのですが(事実、恋愛面を除いたら過去作とはかなり印象が違いました)、きちんとベルカゲ節は発揮されているのでした。ちなみに百合といっても、「女の子同士なんて…」みたいな葛藤や周囲からの横槍が一切なく純粋にお互いのことを好きあっているのがこの作者さんの特徴。ともすれば殺伐とした空気になってしまうミステリーにおいてほっと一息つける場を提供してくれます。

BGMはクラシックなどの落ち着いた雰囲気の曲が多めで、お屋敷の豪華さや先輩たちの演技力なんかを音から引き立てています。私は終盤で使われていたチャイコフスキーの金平糖の精の踊りの不気味な感じがするアレンジが気に入ったので、クレジットを見てこれはポケットサウンドのクラシックアレンジシリーズに違いないと思って探したのですが(クラシック名曲サウンドライブラリーはアレンジはしていない)、違いました。DOVA-SYNDROMEのHuppleさんでした。

さて、話を本筋に戻して肝心の事件とその捜査・推理パートを見てみましょう。
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捜査パートでは、マップに従って屋敷内で聞き取りや証拠集めをしていきます。選択肢を全部試せば証拠収集できるので難しくはありませんが、証拠の数が大変多い! 捜査開始前に証拠品一覧画面を見た私はその空欄の数に圧倒されました。そんな証拠品ごとにアイコン用イラストが用意されていたり、状況を記録した写真とか、現場の見取り図とかがきちんと用意されていて、大変な作りこみようだなあと感心しました。
推理パートにおいては、議論中の話題ごとに適切な証拠品や証言を選択していきます。間違った選択をするとLIFEが1減り、0になってしまうとゲームオーバーです。しかし花蓮が話題を誘導してくれるので、それに従って進めていけばそれほど難しくはないでしょう(推理パートに入る前に事件のあらましが分かったという方がいたらすごいです)。ただ、2~3個くらいの証拠のどれでもよさそうだなと感じる場面でも正解は一つだけのようで、私はそのシーンなどでLIFEをゴリゴリ削られました。
こうした要素が苦手な方のためには、イージーモードが用意されています。証拠選択シーンが全証拠からの選択ではなく3択になり、LIFE切れになっても半分の値で復活可能。また捜査パートにおいてダミー証拠をつかむことがなくなります。配慮はかなり行き届いているといっていいでしょう。推理が苦手な方向けだけではなく、例えば周回プレイ用に事件に直接関係のない部分を省けるあらすじモード搭載、証拠選択画面になる前に予告がある、証拠選択画面でもバックログなどの参照可(意外とこれができない作品は多かったりする)、右上に議題が出るのでスキップ使用時でも流れの把握が容易など、多方面でプレイしやすくなる配慮がされており、周回プレイもストレスフリーにできる工夫があらゆる場面でなされています。ぜひSSランククリアを目指して周回してください。

推理の内容やトリックはどうだったかというと、正直なところよくできているとまでは言えない感じがしました。ほとんど状況証拠しかない中であっさりと自白しちゃうし(ただしこれは動機を考えれば納得できる気もする)、ちょっとそこに発想の飛躍ない? と思ったところもありました(論理の飛躍とか破綻ってわけじゃないのでそこまで気にするほどでもないかも)。しかし私は本格推理小説を読むつもりでプレイしたわけではないですし、推理をする花蓮の堂々とした態度は大変魅力的だったように感じます。現状は一つの事実によって力ずくでゴールに向かっていった感じがあるので、何かもう一つ、まさかと思わせるトリックがあると立体感が出てきて一気にミステリーとしての魅力が上がるような気がします。
事件に関して私の評価ポイントが高いのは、主人公たちがミッション系の女子高に通っているという設定が活きていたことですね。冒頭のチャペルでのシーンが素敵だから、みたいな理由ではなくきちんと事件の一つの要因になっていたというのはうまいと思います。あとは、制服もかわいいしね!
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さて、先ほどベルカゲさんの特徴は性別なんて気にしないおおらかな恋愛描写だというようなことを描きましたが、もう一つ重大な特徴があります。ネタバレを考えて具体的には言いませんが、過去作をプレイしてきた方ならお分かりと思うあの要素です。それがまさかねえ、エピローグからおまけ小話にかけてぶつけられてくるとはねえ…油断しました。ここでもベルカゲ節は炸裂です。油断した私が悪いんですが、ここはもう少し後味よくしてくれたほうが個人的な好みには合いました。
そうそう、あとがきでも書かれている通り小話は第2の本編とも言えるようなおまけの充実ぶりもベルカゲさんの特徴でした。立ち絵ギャラリーで遊べたりもするのでぜひやってみてください。

最後に私の推しキャラの話をしましょう。Twitterにも書きましたが、エアコン騒動でパジャマ姿で震える向日葵ちゃんが可愛い!
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スクリーンショットでは分かりませんが文字通り震えてるんでぜひプレイして確かめてください。
そしておまけ座談会にパジャマパーティーあり。需要分かってるなあ。

それでは。