こんにちは。今回はぷらちなクリエイティブさんの「そのサークル、地雷ですよ?」をご紹介します。

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★favo
ジャンル:同人活動の光と闇をコメディタッチで描くノベルゲーム
プレイ時間:4時間
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2019/5
備考:ティラノゲームフェス2019準グランプリ作品


前回の2周年記事で触れた作品ですね。あれだけべた褒めしておきながらレビューしていなかったので記事に書くことにしました。
先週書いた通り、本作は3年前にティラノゲームフェス参加作の中から適当に作品を探していた時にたまたま見つけた作品です。めちゃくちゃ面白かったのに当時コメントが一つしかついておらず、多くの人に知られないのはもったいない作品だなあと思ったのはよく覚えています。というわけで今回は絶賛するだけの記事となります。


まずはあらすじを簡単に説明しましょう。主人公の緋色(ひいろ)は絵を描くのが大好きな高校3年生。将来はイラストレーターとして仕事をしたいと考えています。しかし母親がそれに大反対。勉強をして進学するように言ってくるので毎日のように喧嘩。そんな母親を説得するために、妹の黒亜(くろあ)と相談して考えた作戦は、1年以内に同人活動で目に見える成果を作って説得材料にしようというもの。早速同人サークル探しに励む緋色であったが、彼女が見つけるサークルは毎回地雷なのであった……。




私がブログを始めてすぐの時に、レビューについてという記事を書きました。そこで、最近のフリーゲームは商業ものと見まがうようなクオリティーの高いものが多くあるけれども、フリーゲームらしい粗削りで尖った、あるいは同人でなければ表現しえないものにも強く惹かれるという風に書きました。本作はまさに"フリーゲームらしさ"という点で満点だと思うのです。細かく見たらいろいろツッコむべきところはあるし、もし本作がコンシューマで発売されたら私もなんか違うなと思うでしょうし、バグ多すぎなどと酷評すらされるかもしれませんが、本作にはそれを補って余りあるフリーゲームらしさ、同人制作の魅力が詰まっているでしょう。この手作り感、キャラクターへの愛、そして自サークルで起こったアクシデントさえ作品に取り込んでコンテンツとして昇華させる強かさ。これが満点以外に何点を付けられるでしょう。


具体的な内容について書いていきましょう。
本作の良かったところの1つとして、魅力的な登場人物たちが挙げられるでしょう。
主人公の直井緋色はいわゆる天然。お勉強は苦手だけれども、小さいころから夢だったイラストレーターになるために色々と努力を重ねているいい子です。しかし天然ゆえ、努力が空回りしたり方向が間違っていることもしばしば。同人活動で実績を上げようとサークルを探しては加入してみるものの、揉めたり自然消滅したりといったことを繰り返し、進路を考えるぎりぎりの高校3年生になってしまいます。
そんな緋色が助けを求めたのが妹の黒亜。しっかり者のキャラクターで、同人活動では声優として一定の成功を残し、なんと芸能事務所への所属も決まっています。実力に加えて同人サークルをうまく運営するためのコツも緋色より詳しいようです。そんな彼女は毒舌キャラ。緋色のことは「アホ姉」呼ばわり。サークルの選び方から変えないと成功は見込めないときっぱり言い捨てますがツンデレ属性も持ち合わせているので結局は姉と一緒にサークル加入までしてしまう優しい子なのでした。
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メインはこの2人ですが、プロローグや章間で登場するお母さんも相当の曲者です。
イラストレーターになるの1点張りの緋色に対して、そんなの無理だからおとなしく勉強して大学に行きなさいと毎日バトルを繰り返しています。緋色が返事をしないと泣き落としもするし、脅迫まがいのこともするある意味本作中最強の人物です。緋色(と黒亜)はそんなお母さんを説得するためにどうしても1年以内に同人活動で実績を上げなくてはならないのです。



さて、本作のメイン部分は5章構成になっています。各章で緋色と黒亜は同人サークルに加入していきますが、なぜかどこに入ってもトラブル続き。問題を解決するために、というよりは一癖も二癖もあるサークルメンバーたちを説得するために奔走する分かりやすい構成になっています。

1章では歌い手サークル"怨恨のレクイエム"にイラストレーター・ナレーターとして加わることになった緋色と黒亜。メールの返信などは丁寧で問題なさそうなサークルですが、2回も通話してみるとこのサークルの抱える問題がプレイヤーにも伝わってきます。
そう、どう考えてもサークルの代表・ボーカルである"漆黒の誰彼"とミックス担当の"アイスターちゃん"が親密すぎて他のメンバーとの温度差がひどいのです。それだけならまだしも、(名前から想像できる通り)漆黒の誰彼はかなりの中二病。そしてこだわりが非常に強いタイプ。話し合いをするにしてもアイスターちゃんが絶対的な味方となってしまうため、他人の意見が耳に入らないその性質が助長されていたのです。

しかし緋色はそのヤバさに全く気付く様子がありません。この様子では確かにいろいろなサークルでトラブルに巻き込まれても気付かなそうだな~と若干気の毒になってしまいます。そこで毒舌黒亜の出番。緋色を地雷サークルの沼から引き抜くためには、そのサークルが地雷である証拠を集め、メンバーの反感をできるだけ買わないように問題点をズバリ指摘する必要があります。黒亜の毒舌は姉だけでなく他のサークルメンバーにも炸裂。ボケ担当(?)のサークルメンバーと黒亜のやり取りが大変勢いがよく本当に笑ってしまいます。そして険悪になりそうなときにはちゃんと緋色が黒亜にストップをかけてくれるので安心。
この「立証パート」がスムーズに進むかどうかはプレイヤーの選択次第。一定回数ミスするとメンバーの怒りが爆発してゲームオーバーとなってしまいます。セーブは分けておきましょう。

立証パートを初見でクリアするのはやや難しいくらいの難易度でしょう。会話中に数回ツッコミチャンスが来るので適切なタイミングで待ったをかけ、その発言が信頼できない証拠を突き付けましょう。
(やったことないので分からないんですが、逆転裁判ってこんな感じですか?)

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↑立証パート中。発言に突っ込むかスルーするかを選択します


無事に怨恨のレクイエムでのトラブルを解決した2人はまた新たなサークルを求めて掲示板を眺める日々を過ごすのですが、この章間ですら息をつかせる間もなく笑いのネタが降ってきます。
まずは何としても勉強をさせたいお母さんとのバトル。問題集を進めるか針を飲むかを選ばせるなどやりたい放題。サークルの”地雷”たちには毒舌全開の黒亜にもお母さんは手に負えないのでした。3章の後の心理学バトルが大好きです。
そして次回予告や自由通話パートも見逃せません。
「擬人化したマヨネーズ」「おち〇ちんクーデター」のパワーワードが強烈に脳裏に焼き付いています。(※下ネタが多いわけじゃないです)



2章以降もそれぞれ同人サークルに入ってみるは良いものの地雷続き。毎度サークル員の濃さに驚き、黒亜の毒舌のバラエティーに笑い、緋色のさりげないフォローとひたむきな姿勢に癒されながら物語は進んでいきます。


オタサーの姫問題であったり、自分の設定を押し通そうとする人をどうやって説得するか、そのうえで趣味としての同人活動を楽しく続けていくにはどうするのか、といった問題が、同人制作活動をしたことのない私にもわかりやすく、かつ共感しやすい形でたくさん登場します。このあたりの内容は、本作がフリーゲームとして制作され、公開されているからこそ説得力を持つ部分でしょう。後書きまで読めばわかりますが、本作を作るにあたって作者のぷらちなクリエイティブさんの中でも問題が発生していたようです。ボイス付きとなっている本作ですが、ゲーム制作中にまさかの事態に。それを作中のネタに盛り込み、人も足りない中、良い作品を作ろうと努力し完成・公開にこぎつけた作者さんの汗の結晶がはっきりと読み取れます。私がフリーゲームをプレイしていて最も嬉しいのはこのような瞬間なのです。




物語は5章で最終章を迎えます。前後編に分かれたこの最終章がまた熱くて良いんです。
最終章では、数字にしか興味がないサークルリーダー、ユーキとの対決という構図になっています。サークルのメンバーに一切の興味がなく、駒としか思っていないユーキですが、実力はありプロとのコネクションもあります。実の妹ですら作品制作のための歯車としか思っていない様子はいかにもな悪役ですが、実力と人脈を兼ね備えた彼女にゲームコンテストで勝つのは容易ではありません。ユーキの妹でサウンドクリエイターのココロと一緒に良い作品を完成させることを誓う緋色と黒亜。しかしイラスト・サウンド・ボイス担当だけいてもゲームは完成させられません。そこで、4章までに加入してきた同人サークルの知り合いに協力を仰ぎます。この流れが本当に魅力的。

これまでのサークルを散々「地雷」と酷評し毒舌をかましてきた黒亜ですが、人当たりも良くて情熱もある緋色のおかげで個人的に仲良くなれたメンバーが何人もいます。彼らを集めてプロクリエイターとの対決に挑む。まさに少年漫画のような友情・努力・情熱の展開で大変気持ちいい。
メンバー集めまでの段階ではこれまでと変わらないコメディ路線で大いに笑えるのですが、制作に取り掛かってからは本当にシリアスに、真剣に良い作品を作るために議論を戦わせ、コンテストで受賞するために作る、その先にあるプロへの道を目指すという内容が描かれるのです。



物語の前半ではいやいや姉に付き合わされて活動していた黒亜も、ここまで来たら本当に良い作品を作って実績を出す・ユーキを見返すということに熱意を感じる活躍ぶり。
「ヒーローはお姉ちゃんにしかできないんだ。だから私は、ダークヒーローになってやる。」
この覚悟を感じる台詞がとても好きです。

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最終的に8人にまで膨らんだサークルメンバー。それぞれの章でしっかりとキャラクターの性格や同人活動への姿勢、抱えていた問題点などを描いていたおかげで、最終章で全員集合しても誰一人キャラとして死んでいません。ただの天然に見える緋色も実は人を観察する能力に長けており、このサークルメンバーでどう役割分担をし、制作進行を行えばスムーズな完成が望めるかを的確に指摘。個性の強いメンバーを扱いやすいように王道に持っていくのではなく、彼らの作りたいもの、内に秘めた野望を解放させたうえで上手いこと全体のバランスをとっていきます。こんなフリーゲームができたら最高でしょう。緋色たちが完成させるノベルゲーム"サクナロク"を本当にプレイしたくなりました。

彼らが語る創作論やゲームを完成させる上での注意点なんかは、本当に作者さんが経験したり日々考えたりしていることなのだろうなというのを強く感じさせてくれます。ここも私が本作を大好きな理由の一つです。


本作をプレイしていてどうしても直してほしいと思うのは1点だけ。ノベコレのコメントにも書きましたが動作の安定性が低いところです。特に幕間で操作が効かなくなって再起動を余儀なくされることが何度か。特に2章の立証パート後のタイミングで何度やっても止まってしまい、一時はプレイ続行をあきらめようかと思いました。しかしとても良い作品だという予感がすでにあったためどうにかして続きをできないかと試行錯誤するうちに、マウスホイールクリックによるメニュー呼び出しは効くことに気付き、そこからメッセージスキップ選択で進むことができました。同様の現象に見舞われた方は参考にしてください。




目を見張るほどの美しいイラストがあったりとか、緻密に構成された伏線があったりするタイプの作品ではなく、ぱっと見で多くの人を呼び込める作品ではないのかもしれませんが、私の心にめちゃくちゃ深く突き刺さった作品です。今まで何かを作った経験はないけれど、同人制作楽しそうだな、いいなあと思える大変温かい内容と感動的なエンディング、そしてたっぷりの笑いを楽しめます。埋もれてしまうのはもったいない傑作だと思っているので、ぜひプレイしてみてください。
裏タイトル画面から読める後書きも大好きなので、プレイ後はそちらもお忘れなく!

それでは。