こんにちは。更新が2週間空いてしまいました。
今回はカビ布団さんの「そしてパンになる」の紹介となります。

ジャンル:パン作りに燃える部活&恋愛ノベルゲーム…と思いきや…
プレイ時間:1ルート3時間/フルコンプまで8時間程度
分岐:メインはヒロインごとに1つで3ルート+おまけ(真)ルート、実質バッドエンドあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/4 (R15版ver1)、2021/12(R18版)
備考:ノベコレ版は15禁、エロゲと饗版は18禁。今回は18禁版でプレイ
さて、本作については私がプレイする前からノベコレ版の評判を耳にしておりました。ほかに例を見ないような衝撃的な内容だと。
尖ったものが出しやすいのがフリーゲームの魅力の一つだというのはブログ開設当初にも述べてきた私ですが、ここまで驚きの展開というのを売りにされてしまうと私としてはプレイしないわけにはいかないかなと思っていたところ、たまたま18禁版のリリースを知りその場でダウンロード。どんな意味で衝撃的なのか、というのを確かめるような心持ちでプレイを開始しました。
本作の舞台はパン作りが主要産業で皆パン大好きな八紘町(はっこうちょう。パン作りに欠かせない"発酵"からの命名でしょうか)。主人公の波良嶋亮は御多分に漏れず大のパン好きで、どうしたらおいしいパンが作れるか日々研究を重ねています。幼馴染の八千代心音とともに部員を集めてベーカリー研究同好会を立ち上げ、部活としてもパン作りに取り掛かっていきます。部員になってくれたのは亮と心音のほかには学友会(生徒会のようなもの)も兼任するまじめな小頭(おず)さん、メロンパンの髪留めが目を引く帆那(はんな)さん、一風変わった味のパンを作る粕田(かすた)さんの3人。ギャルゲーらしく、本作はそれぞれのヒロインごとにルート分岐があります。
作者さんがお勧めする攻略順があるようなので、私はそれに従ってプレイしました。まずは帆那さんです。本作の中では最も王道系と言えるルートでしょう。パン作りに熱心な帆那さんとどうやらそれをよく思っていないらしい帆那さんの父親。父親をどう説得して帆那さんにはどんなサポートをするのか、といったあたりが見どころで、本作の中で亮が最も強かな感じがするルートともいえるでしょう。

問題は次の心音ルートです。ここにきて本作の"衝撃的"の部分が徐々に明らかになっていきます。帆那さんルートでもほんの少しふれられた"八紘町の都市伝説"の話や、亮や心音の両親たちがそれにかかわっていそうなことが次第に明らかになります。このあたりをプレイしているときは、正直に言うと
「フリーゲーム史上類を見ないとまで言うほどか…? 確かに規模が大きいし亮にとって驚愕の事実というのは確かだけど誇大広告では?」
といった感想でした。しかしこの感想は心音ルート終盤で改められることになります。さすがにあの展開は想像できませんでした。その結末を前に亮と同様に呆然とすること3分。ようやく私も状況を飲み込みました。そして様々なことを理解するわけです。都市伝説について誰に聞いても歯切れの悪い答えしか返ってこなかった理由。パン大好きだった兄が突然パン嫌いになってしまった理由。
そして黒幕への怒りに震えるだけの私と違い、亮はもう一つ大切なことに気付いていました。"世界一おいしいパンとは何か"。作内で散々出てくるこの言い回しですが、ここにきてただの部活の目標とかの域を超えて別の意味を帯びてきます。いや、意味というより、もはや呪いでしょうか。
真実を知ることで苦しむという展開を含む作品はたびたび目にします。しかし本作では、そうした苦悩とはまた性質を異にしています。心音ルート最後の選択肢で、片方を選ぶと亮は完全にパン作りへの情熱を失い抜け殻になってしまいます。この展開、私結構好きなんですよね。極めてしまったゆえの絶望と諦観。このあたりが逆に亮の職人魂みたいなものを感じさせてくれました。
この後に粕田さんルートを読むと大変平和ですね。最もギャルゲーらしく、バランスも良いルートと言えるでしょう。帆那さんルートなどでもそうでしたが、パン作りのための課題は技術的な内容よりも粕田さん自身が自分の力量に自信をもつという精神的な面に帰着します。このあたりが上手かったですね。もしパン作りをする上での壁と打開策が技術的なものだったとしたら、おそらく私には専門的過ぎて理解できなかったでしょう。しかし主眼をメンタルの方に置くことによって、パン作りの経験などなくても理解できるし、そのうえでベーカリー研究同好会という設定がないがしろにされているとも感じないようになっていると思います。さらに、部活での関係を自然に恋愛につなげるのにぴったりです。
気になる点としては、食レポの方はもうちょっと具体的にしてほしいかなと感じたところでしょうか。「私の作ったパンおいしい?」「うん、おいしいよ」といったやり取りばかりになってしまうと、部活とか関係なしにただイチャイチャしてるだけじゃねーか、と思えてしまいます。まあ、ここを専門的で難しい指摘ばかりにしても先ほどと同じ問題がありますから、バランスが大事といったところでしょうか。
さて、これらのルートをすべて読むと、おまけルートに入ることができます。……という情報をもとにプレイしていたら、全然おまけなんかじゃないシナリオの量と内容でした。ここまで読み終えないと本作をプレイしたとは言えないでしょう。私は小頭さんルートと呼んでます。
このルートでは、部員で立ち絵もあるのになぜか攻略できないと思っていた小頭さんとの関係を進めることができ、事件についても心音ルート以上に真実に迫ることになります。というわけで、心音ルートを読んだ方はこのルートまですべて読むことを強く推奨します。
この作品をプレイするうえで気になる点も多かったので少し挙げます。
まずは、部活としての導入だったのにそれが物語後半で完全に忘れ去られていると感じた点です。例えば、小頭さんルートではちょっとだけ触れられますが、学園祭関連の描写が審査会以降全くないところなどは違和感がありました。普通学園祭本番がメインイベントであって、出展団体の審査を行う部分はあくまで通過点、中間目標でしかないでしょう。しかし本作では審査会終了後「目標がなくなってしまった」という空気になるのが理解できませんでした。学園祭の模擬店を成功させることを目標に設定したうえで、各人が技術向上に励む中で課題を見つける(あるいは、事件に迫る必要性を感じる)という展開で良かったのでは?
あとは、シーンごとの繋がりがわかりにくいと感じる回数も多かったです。寝たら日付が翌日に飛んだり、1週間後に飛んだりするので作内の時間がつかみにくかったり、あるいは登校したと思ったのに次のシーンではいつの間にか学園が終わっていたりといった混乱は、回数が重なると確実に読み手の没入感を阻害します。
長編ということを鑑みても誤字が非常に多いところや、バッドエンドはともかく正規のエンディングまでがあまりにも素っ気ないのも気になるところです。
といろいろ書いてきましたが、R15版公開からR18版・R15版ver2の公開までに立ち絵の追加のみならずシステム面の改善などもされているようで、今後に期待できる作者さんかなと思っています。旧verで書かれた他の方のレビューを見ると、文字表示速度の変更ができないといった記述がありましたが、私がDLしたバージョンではできるようになっていました。
最後にどうでもいいことを一つ。
"学園"はエロゲのお約束なんですかね? 商業作だと18歳未満は出せないから高校という名称は使えず、代わりに学園と呼ぶのがお約束といううわさを聞いたことがあるのですが、商業作をやらない私には分かりませんでした。私がいくつかプレイしたR18フリーゲームでは普通に高校生が出てきたような記憶があります。誰か詳しい方いたら教えてください……
本作ではR15版でも学園のようです。
私は以前、衝撃的なシナリオを持つ作品として「まい、ルーム」をレビューしました。本作にはあの時の衝撃とはまた違った驚きが詰まっています。さらにはこのテーマでしか語りえないメッセージ性を含む作品となっているので、気になった方はぜひプレイしてください。
それでは。
今回はカビ布団さんの「そしてパンになる」の紹介となります。

ジャンル:パン作りに燃える部活&恋愛ノベルゲーム…と思いきや…
プレイ時間:1ルート3時間/フルコンプまで8時間程度
分岐:メインはヒロインごとに1つで3ルート+おまけ(真)ルート、実質バッドエンドあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/4 (R15版ver1)、2021/12(R18版)
備考:ノベコレ版は15禁、エロゲと饗版は18禁。今回は18禁版でプレイ
さて、本作については私がプレイする前からノベコレ版の評判を耳にしておりました。ほかに例を見ないような衝撃的な内容だと。
尖ったものが出しやすいのがフリーゲームの魅力の一つだというのはブログ開設当初にも述べてきた私ですが、ここまで驚きの展開というのを売りにされてしまうと私としてはプレイしないわけにはいかないかなと思っていたところ、たまたま18禁版のリリースを知りその場でダウンロード。どんな意味で衝撃的なのか、というのを確かめるような心持ちでプレイを開始しました。
本作の舞台はパン作りが主要産業で皆パン大好きな八紘町(はっこうちょう。パン作りに欠かせない"発酵"からの命名でしょうか)。主人公の波良嶋亮は御多分に漏れず大のパン好きで、どうしたらおいしいパンが作れるか日々研究を重ねています。幼馴染の八千代心音とともに部員を集めてベーカリー研究同好会を立ち上げ、部活としてもパン作りに取り掛かっていきます。部員になってくれたのは亮と心音のほかには学友会(生徒会のようなもの)も兼任するまじめな小頭(おず)さん、メロンパンの髪留めが目を引く帆那(はんな)さん、一風変わった味のパンを作る粕田(かすた)さんの3人。ギャルゲーらしく、本作はそれぞれのヒロインごとにルート分岐があります。
作者さんがお勧めする攻略順があるようなので、私はそれに従ってプレイしました。まずは帆那さんです。本作の中では最も王道系と言えるルートでしょう。パン作りに熱心な帆那さんとどうやらそれをよく思っていないらしい帆那さんの父親。父親をどう説得して帆那さんにはどんなサポートをするのか、といったあたりが見どころで、本作の中で亮が最も強かな感じがするルートともいえるでしょう。

問題は次の心音ルートです。ここにきて本作の"衝撃的"の部分が徐々に明らかになっていきます。帆那さんルートでもほんの少しふれられた"八紘町の都市伝説"の話や、亮や心音の両親たちがそれにかかわっていそうなことが次第に明らかになります。このあたりをプレイしているときは、正直に言うと
「フリーゲーム史上類を見ないとまで言うほどか…? 確かに規模が大きいし亮にとって驚愕の事実というのは確かだけど誇大広告では?」
といった感想でした。しかしこの感想は心音ルート終盤で改められることになります。さすがにあの展開は想像できませんでした。その結末を前に亮と同様に呆然とすること3分。ようやく私も状況を飲み込みました。そして様々なことを理解するわけです。都市伝説について誰に聞いても歯切れの悪い答えしか返ってこなかった理由。パン大好きだった兄が突然パン嫌いになってしまった理由。
そして黒幕への怒りに震えるだけの私と違い、亮はもう一つ大切なことに気付いていました。"世界一おいしいパンとは何か"。作内で散々出てくるこの言い回しですが、ここにきてただの部活の目標とかの域を超えて別の意味を帯びてきます。いや、意味というより、もはや呪いでしょうか。
真実を知ることで苦しむという展開を含む作品はたびたび目にします。しかし本作では、そうした苦悩とはまた性質を異にしています。心音ルート最後の選択肢で、片方を選ぶと亮は完全にパン作りへの情熱を失い抜け殻になってしまいます。この展開、私結構好きなんですよね。極めてしまったゆえの絶望と諦観。このあたりが逆に亮の職人魂みたいなものを感じさせてくれました。
この後に粕田さんルートを読むと大変平和ですね。最もギャルゲーらしく、バランスも良いルートと言えるでしょう。帆那さんルートなどでもそうでしたが、パン作りのための課題は技術的な内容よりも粕田さん自身が自分の力量に自信をもつという精神的な面に帰着します。このあたりが上手かったですね。もしパン作りをする上での壁と打開策が技術的なものだったとしたら、おそらく私には専門的過ぎて理解できなかったでしょう。しかし主眼をメンタルの方に置くことによって、パン作りの経験などなくても理解できるし、そのうえでベーカリー研究同好会という設定がないがしろにされているとも感じないようになっていると思います。さらに、部活での関係を自然に恋愛につなげるのにぴったりです。
気になる点としては、食レポの方はもうちょっと具体的にしてほしいかなと感じたところでしょうか。「私の作ったパンおいしい?」「うん、おいしいよ」といったやり取りばかりになってしまうと、部活とか関係なしにただイチャイチャしてるだけじゃねーか、と思えてしまいます。まあ、ここを専門的で難しい指摘ばかりにしても先ほどと同じ問題がありますから、バランスが大事といったところでしょうか。
さて、これらのルートをすべて読むと、おまけルートに入ることができます。……という情報をもとにプレイしていたら、全然おまけなんかじゃないシナリオの量と内容でした。ここまで読み終えないと本作をプレイしたとは言えないでしょう。私は小頭さんルートと呼んでます。
このルートでは、部員で立ち絵もあるのになぜか攻略できないと思っていた小頭さんとの関係を進めることができ、事件についても心音ルート以上に真実に迫ることになります。というわけで、心音ルートを読んだ方はこのルートまですべて読むことを強く推奨します。
この作品をプレイするうえで気になる点も多かったので少し挙げます。
まずは、部活としての導入だったのにそれが物語後半で完全に忘れ去られていると感じた点です。例えば、小頭さんルートではちょっとだけ触れられますが、学園祭関連の描写が審査会以降全くないところなどは違和感がありました。普通学園祭本番がメインイベントであって、出展団体の審査を行う部分はあくまで通過点、中間目標でしかないでしょう。しかし本作では審査会終了後「目標がなくなってしまった」という空気になるのが理解できませんでした。学園祭の模擬店を成功させることを目標に設定したうえで、各人が技術向上に励む中で課題を見つける(あるいは、事件に迫る必要性を感じる)という展開で良かったのでは?
あとは、シーンごとの繋がりがわかりにくいと感じる回数も多かったです。寝たら日付が翌日に飛んだり、1週間後に飛んだりするので作内の時間がつかみにくかったり、あるいは登校したと思ったのに次のシーンではいつの間にか学園が終わっていたりといった混乱は、回数が重なると確実に読み手の没入感を阻害します。
長編ということを鑑みても誤字が非常に多いところや、バッドエンドはともかく正規のエンディングまでがあまりにも素っ気ないのも気になるところです。
といろいろ書いてきましたが、R15版公開からR18版・R15版ver2の公開までに立ち絵の追加のみならずシステム面の改善などもされているようで、今後に期待できる作者さんかなと思っています。旧verで書かれた他の方のレビューを見ると、文字表示速度の変更ができないといった記述がありましたが、私がDLしたバージョンではできるようになっていました。
最後にどうでもいいことを一つ。
"学園"はエロゲのお約束なんですかね? 商業作だと18歳未満は出せないから高校という名称は使えず、代わりに学園と呼ぶのがお約束といううわさを聞いたことがあるのですが、商業作をやらない私には分かりませんでした。私がいくつかプレイしたR18フリーゲームでは普通に高校生が出てきたような記憶があります。誰か詳しい方いたら教えてください……
本作ではR15版でも学園のようです。
私は以前、衝撃的なシナリオを持つ作品として「まい、ルーム」をレビューしました。本作にはあの時の衝撃とはまた違った驚きが詰まっています。さらにはこのテーマでしか語りえないメッセージ性を含む作品となっているので、気になった方はぜひプレイしてください。
それでは。
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