こんにちは。今回はフリーゲーム周辺の話題をお届けする回です。

さて、昨年の末頃にTwitterにて、東大のミュージカルサークルがホラーゲームのIbを原作とした舞台をやるという情報が回ってきまして、観劇の申し込みをしていました。今日はその際の動画を観賞しましたので、その感想なんかについて書いていきたいと思います。
ミュージカルを見たことは数えるほどしかなく技術的なことも分かりませんので、原作との比較とかそのうえで公演の良さみたいなことを中心にしていきます。



まずその公演「Ib -the Musical-」を行ったのは、東京大学ミュージカルサークルClavisさんです。該当公演の特設ページはこちら。原作となった「Ib」はkouriさんによって2012年に公開された超有名フリーホラーアドベンチャーゲームなので、このブログを見る方はご存じの方が多いでしょう。一応軽くまとめておくと、両親と一緒に美術館へ"ゲルテナ展"を見に来たイヴが絵画の中の世界に迷い込んでしまい、そこで出会ったギャリーやメアリーと一緒に不条理な世界からの脱出を目指すという内容です。本公演は、原作者kouriさんに許諾をもらったうえで舞台化したものということで、きちんとしてるなと思うと同時にその珍しい試みが大変興味を引きました。
原作の魅力の1つに、美術館内に多数登場する絵画や彫刻などの作りこまれた世界観があります。ゲームというデジタル媒体で築かれたこの世界をどう舞台に落とし込むのか、というところに注目しようと思ってみていました。

一応注意しますが、本記事・本公演は原作のネタバレ多数なので、ネタバレが嫌な方はぜひ先に原作をプレイしてください。













ネタバレOKですね? いきますよ。
見終わってですね、まず思うのは、原作リスペクトしてるな~という心地よさです。例えば幕が上がって間もなくの場面から登場する赤青黄のドレスの三人組。原作を最後にプレイしたのは多分5年位前だと思うのですが、一発で「無個性」だと分かりました。再現度たけ~。
もう一つ挙げると、「赤色の目」でしょうか。原作前半のトラウマシーンで有名なところですね。こうした"それ知ってる!"となるシーンがあるというのも、"物語の先が気になる!"と同じように作品の魅力になるんだなあと感じました。
他にも、ここでイヴが登場してギャリーの薔薇を集めるんだ! とか、ここで「聞き耳」がいてメアリーに「告げ口」するんだ! とか、ファンならたまらない箇所が満載でしょう。

さて、ミュージカルの要素と言えば脚本だけじゃないですね。音楽・歌も欠かせません。本公演内では、原作内で使われていたBGMの編曲による楽曲とオリジナルの楽曲が両方使われているようです。
公演冒頭のシーン。イヴが母親とゲルテナ展に来るところですが、このシーンの音楽は原作をプレイした人ならピンと来るはず。そう、原作内で同じシーンで使われていた曲です。そして先ほど述べた「無個性」を見つけたりして、原作そのままなのかな~なんて思っていたら、きちんとミュージカルらしく歌が始まります。しかしそのメロディラインは先ほどのBGMと同じ。なるほど、素材を編曲して歌詞をつけたんですね。先ほどまで私の頭はゲームになっていましたが、これによってシームレスにミュージカルの世界へと誘い込まれた感じがします。ただ、ちょっと音域が低くて歌いにくそうな役者さんが多いかなとも感じました。女性が多いみたいですし、原曲から多少移調しておいた方がよかったのではないかな。私が合唱に取り組んでいるせいで評価が厳しくなっているのかもしれませんが。感染対策のフェースシールドのせいで歌声がこもっちゃうとかもあるかも。

とか思いつつも続いていく公演で続々登場するオリジナル楽曲と歌たち。歌詞によって伝えられる内容って、台詞だったりテキストだったりとかよりも直接的に私たちに訴えかけてくる力があるように思います。それを一番感じたのは、クライマックスともいえる"最後の舞台"のシーンです。「あああーーここで分岐あるんだよぉ」と思ってみていた私。額縁を通り抜け現実世界に戻ったギャリーと、すぐ隣で甘い言葉で引き留めるお母さん。ここすごく良かったですね。現実からのギャリーの叫びの迫真、何とかして美術品の中にとどめようという執念の誘い文句。普段ドラマなどを見ない私ですが、素直に演技がいいと感じました。
歌が一番うまかったと思ったのはゲルテナです。ほかの役者さんと一線を画すような歌い上げだと感心しました。”あの子の願いは”の場面ですね。メアリーがあのような最期を迎えた後でのしっとりした歌声、イヴに問いかける内容の歌詞。完璧と感じます。「うん」「すごく」の返答が曲に心地よく溶け込み高音と低音の対比を生んで、編曲もよいですね。「約束したの。メアリーが憧れた外の世界を大切に生きていくって」名台詞だ。
変わった歌の枠では、蟻の歌が好きですね。カッコいい自分の絵に見惚れる蟻。調子のいい感じのキャラクター性を出した歌い方と、薔薇の花びらがライフになっているというゲームシステムを説明してしまうというアイデアが面白かったです。流石にそのカッコいい絵を踏みつけるあのイヤ~なギミックは組み込めなかったか。


キャラクターでいうとギャリーが好きでした。原作で特に推しとかいう感じには思ってなかったんですが、公演見て好きになりましたね。オネエ口調だったのとビビりだったのは覚えてますが、あんないい人だったっけ。"人間と美術品"のところの歌や演技がよかったと感じました。また、イヴを先導して頑張るんだっていう意思が全編であふれてますよね。原作でどんな感じだったか確かめなければ。

そして、雰囲気を作るという点では、"傀儡道化"のシーンが好きです。外の世界に出ても望みは叶わないと知ってしまったメアリー。自分を置いて出ていこうとするイヴとギャリーに対する憎悪へと進み、美術品全体がイヴの選択を非難する。世界そのものがメアリーによって変化したり、彼女に対しても理不尽な現実があったり、といった世界観は原作でも大きな魅力でした。そこをうまくミュージカルという形式で表現していると感じます。


全体として、原作の思い出を想起させてくれると同時に、ミュージカルという媒体の表現力についても良さを感じさせてくれる内容でとても楽しめました。現実派のノベルゲームとかならともかく、怪奇現象のあるホラーゲームなんて普通にやったらその内容を舞台の上で表現するなんて無理じゃないかと感じちゃいます。しかし、シーンの取捨選択に始まり、台詞や歌詞のほかにしぐさや表情で状況を伝える手段。音響効果や照明器具の使い方にも伝える力があるんだなと思いました。物語のカギとなる絵はプロジェクターで表示したりといった使い方は想定内でしたが、場面の連続や移り変わりを照明の具合によって自然に感じ取れたりするのはなるほどと思いましたし、蟻の表現方法についても面白かったです。

こうしたものを見ると、私が好きなほかのゲームも違う媒体で味わえないかななんて言う妄想もはかどりますね。「夏ゆめ彼方」や「ビューティフルパフォーマー」はぜひドラマで見たいし、「1999ChristmasEve」や「ひとかた」がアクションゲームになったらそれも名作になる気がします。

いつもと違う感じで記事を書いてきました。全美術品を登録するくらいにはやりこんだIbですが、最後にプレイしたのはもうずいぶん昔なので忘れているかな~と思っていましたが、公演を見ると何のシーンか一発でわかる。それほどまでの表現力がありました。気になるという方、Ibが好きという方はぜひ特設サイトの申し込みフォームから申し込んで、公開URLをもらってください。2/27までの公開予定ということですよ。
Ibの方も公開10周年となる今年にリメイク版の発表を予定しているとのことなので、そちらも気になりますね。

それでは。