こんにちは。今回は月の側面さんの「夕暮れ叙事詩」のご紹介です。


ジャンル:現代探索ホラーアドベンチャー
プレイ時間:1時間半
分岐:なし(ゲームオーバーあり)
ツール:RPGツクール
リリース:2017/8

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本作は、一人の小説家にかかわる物語を追うアドベンチャーゲームとなっています。最近はホラー系の作品の記事が続いています。本作はその中でも割としっかりホラー要素がありますが、そんなに得意でもない私でも十分クリアできたので、苦手な方でも物語を楽しめる範囲でしょう。


本作の物語は、主人公の高月秋乃が謎の少女から「近くの石碑に来て」という電話を受けるところから始まります。不審に思ったもののその声にどこか聞き覚えがあるようにも感じた秋乃は、指示通り石碑に向かいます。そこで何かを埋めた跡を発見した秋乃は掘り返してみると、なんと先ほど電話をかけてきたと思しい少女の遺体が埋まっているのだった…。
さらに電話で謎の男から、少女の名前は帷(とばり)ということを聞き、また帷の遺体を持って家に来いと要求される秋乃。困惑しながらも指示に従って男の家に行くと、なんと目を離した隙に帷が動き出した。さらには家の中に散在していた帷の日記らしきメモ。男に監禁されていたと読めるそのメモの内容に、秋乃は帷を救うことを決意する。

このあたりまでが本作の導入部分と言えるでしょう。帷はなぜ男の家にいたのか、そもそも何者なのかといったあたりは物語の大切なテーマとなります。
本作ではそれ以外に、"戸隠桂馬"という作家の人物像や、その作品たちも非常に大きな役割を果たします。彼はどうやって作品を書いていたのか、帷とはどういう関係なのかというあたりが物語中盤以降の肝となってくるでしょう。


概要の説明はこのあたりにしておいて、本作をプレイした感想としてまず思うのは、雰囲気などの演出が優れているなというところです。冒頭の、秋乃が石碑のところに向かう場面。山道を歩いていくのがオープニングムービーを兼ねるような演出となっており、単純ながら面白い手法だなと感じました。イラストもすごくかわいらしいですね。土の中に埋まっていたはずの帷ですが、どこか美しいと感じられるスチル。動き出してからの寡黙なキャラクター性も謎に包まれた感じを出していてストーリーに合っていたと思います。
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その他でいうと、メモの中で足音が迫ってくる場面。帷のメモがそのまま秋乃たちの世界に影響してコツ、コツと得体の知れない足音が迫ってくるのが上手かったと思います。その後はそのまま探索ホラー定番の追いかけっことなるのですが、狭い場所で切り返して脱出する必要があり結構難しいです。その他にも何度か追いかけっこのシーンがありますが、当然どれも一発ミスれば死亡の上追手の速度も速いので、そこに来るまでの探索中にしっかりとマップの通路を把握しておかないと逃げきれないでしょう。頻繁なセーブで自衛しましょう。
また、終盤の病院で患者たちを避けるところもかなり難しかったです。ちょっと観察すれば、簡単な行動パターンをしていることがわかるので、落ち着いて安全なルートを考察し出口に向かいましょう。


さて、本作の特徴的な要素として、ストーリー中の多くの場面で見ることのできる"フェイスチャット"があります。進行フラグを進めるとよく左下に、その場面のタイトルっぽかったり、人物の感想っぽかったりするテキストが表示されます。私は初回プレイでは、フラグが進行したことを示したり、行動指針のための親切な設計なのかなと思っていたのですが、後からそこをクリックできることに気付きました。吹き出しアイコンをクリック、あるいはキーボードのC押下でちょっとした会話を見ることができます。なかなか面白い仕掛けですが、いかんせん気付きにくい。readmeにもこの機能の紹介は一応あるのですが、イベントの発生のさせ方が書いていなかったのでスルーしちゃってました。というわけで皆さんは見逃さないようにしてくださいね。


本作において様々な怪奇現象やホラー的要素が現れる原因としては、"小説を書く者の恨み"のような部分があります。ファンレターはたくさん来るが、その中にはどれ一つとっても作家である自分を理解してくれる内容はない。こうした状況がまた孤独感を強めたとも読めます。なるほどと思いますし、本作における帷の悲劇性をよく表しているなとも感じるのですが、同時にゲームの作者もこうした感情を持つことがあるのだろうかと少しだけ気になりました。私は小説ではありませんが、ゲームについてこうして感想やレビューを書いているのであまり他人事ともいえないですね。もし私が書いた内容が作者の意図からして的外れだったとしても、そう感じる人もいるんだなあくらいに思ってもらえたらうれしいです。


脱線はこのくらいにしておいて、本作の重要な登場人物は他にも、秋乃の親戚(はとこ)の朱莉と、その友人の千歳がいます。彼女らもキャラクターが立っていて、フェイスチャットの会話の幅が広がり良いですね。さらに終盤では彼女らの友情、過去といったところに帷が干渉していきます。この展開については、なぜ帷は朱莉にも手を加えるのだろうという疑問が先立ってしまいます。帷が秋乃にこだわる理由については納得感もあったし、良い話だなと思えたのですが朱莉と千歳の過去も知っているとなるとこれは単なる超能力ではないかと感じてしまいます。秋乃については(中盤くらいで見当がつくと思いますが)プレイヤーにしっかりと因果関係が見えて気持ち良いです。私はやっぱり、ゲームの中といえどなんでそうなるか全くわからない理不尽な部分はあまり好きになれないみたいです(そのシュールさが逆に笑えるコメディなら別なのですが)。


といろいろ書きましたが、エンディングがとても綺麗で、冒頭部分の秋乃の行動が回収されていたので(私はそれまですっかり忘れていました)、読後感もすっきり良好な作品です。きちんと理解者に出会えてよかったですね。

それでは。