こんにちは。今回は★Blue Cometさんの「クロノスの箱庭」のご紹介です。

ジャンル:ループ系学園ものノベルゲーム
プレイ時間:1時間/すべてのルートを読むと1時間半くらい
分岐:細かな分岐は多数。エンディングは2つ
ツール:NScripter
リリース:2022/2
今回もなかなか面白い作品を見つけました。いつも通り、本作のあらすじを最初にご紹介します。
猪苗代朝日は石郷岡高校の1年生で生徒会の会計担当。友人の小暮日奈太や生徒会の先輩たちと楽しく過ごしていたが、生徒総会を間近に控えた10月18日、日奈太が校舎から転落して死んでしまう事故に遭遇する。ショックを受ける朝日だが、翌日起きたらなんと事故の日が繰り返していた! どうにかして日奈太を生き残らせようとする朝日。何か知っている風な生徒会の会長。彼らが笑って10月19日を迎えることはできるのか…
といったところでしょう。というわけで今回はループものです。かなり久々に出会った気がします。
この手の作品では、ループという通常あり得ない現象がテーマになっているので、当然ながらその理由や解決方法に焦点が当たります。詳細は後述しますが、本作はこの点でもよくできていたように感じました。
さて、朝日はある夜日奈太が死んでいるのを目撃する嫌な夢を見るシーンが冒頭にあるのですが、本作はその暗さを感じさせないような明るさやスピード感といったものにあふれています。これを可能にしているのは、日奈太のあまりにも一直線で友達想いな性格付けが第一でしょう。朝日は石郷岡には高校から入学していますが、幼稚舎から存在し多くの児童・生徒がエスカレーター式に進学する石郷岡では、先輩・後輩の垣根を感じさせないほど生徒同士の距離感が近いのです。逆に朝日にしてみれば、いつもくっついてきたり、生徒会長を"お花ちゃん"とあだ名で呼ぶ日奈太の言動を馴れ馴れしくて不遜と感じたりするわけです。このような、ちょっとクールな主人公とべったりくっついてくる頭が弱い系(?)の友人という組み合わせはよく見ますが、それに至った背景などに筋が通っていて本作はよいですね。ちなみに日奈太は一見バカっぽいですが、勉強はできるようでとくに理系科目が得意のようですね。この辺はおまけショートストーリーでも楽しめるのでぜひ読んでみてください。

もう一つ、優れた演出という面も見逃せません。本作はNScripterを使った作品です。NScripterと言えばシンプルに必要最低限のシステムを備えたソフトという印象が大きいですが、本作はかなり演出に力が入っています。立ち絵が左右にも上下にもよく動いたり、ロード時の画面が設定されていたり、雨が降っているシーンの背景がアニメーションしていたり、人物の初登場時にカットインが入って自然に紹介していたり、といった工夫によって、とても読みやすく物語にも入り込みやすくなっているように感じます。重要なのは、この演出がやりすぎているのではなく、動作が重くならず、またしつこくならない範囲でしっかり要所で効いているというところです。日奈太が朝日を引っ張って連れていくシーンで立ち絵もビューンと引っ張られているのを見ると、文章とイラストの両面からそのシーンが頭に入ってくるのですらすらと読み進めやすいのです。
そして重要なシナリオです。本作ではループに至ってしまう条件は日奈太の死亡です。ショッキングな出来事であり、それによって普段は感情をあまり表に出さないタイプの朝日が動揺したり、様々な対策を尽くしても死んでしまうことにあきらめモードになったり、でも先輩や日奈太本人との交流から何とか解決の糸口を見つけようとするのがよくできていたように思います。ややネタバレになりますが、本作のループには、生徒会の"呪い"が関わっています。代々続いてきたこの呪いについて、先輩方が朝日たちよりも情報を持っているというのは自然ですし、過去の事例も明らかになっていくにつれ、徐々に呪いの核心に迫っていく感覚が得られました。多くの登場人物がいる本作ですが、その各人が呪い解決に向けた役割を果たし、朝日と日奈太を救おうとするのは見ていて気持ちよくさえあります。
ところで、この登場人物が多いという点は同時に気になった点でもあります。物語冒頭で朝日と日奈太の2人、その後すぐに会長の緒花、副会長のはじめと計4人が登場。通常なら一度に出てくるのはこのくらいの人数までかなと思いますが、本作ではさらにその後また立て続けに生徒会メンバー5人が登場。流石にこの人数になると覚えられません。例えば、サッカー部と野球部があって…みたいに大まかに属性を分けられると覚えやすいのかなという気はしますが、本作では全員生徒会所属。生徒会の会議ということで大人数が集まるというのは分かるのですが、ここでちょっとついていけないなあと感じてしまいました。
とはいえおそらく作者さんも気にしたのか、人物初登場時には名前、立ち絵、役職や学年の記載のあるカットインが入ります。この演出も軽快で大変気持ちよく、覚えやすくするための工夫だなあとは思いましたが、それでも開始5分以内に9人も登場するのは無茶と感じました。本作のテンポの良さもこの点については災いしているでしょう。
最終的に立ち絵のあるメインの人物は12人にも及びます。これは1時間程度の短編ということをのぞいて考えてもかなり多い部類に入るでしょう。この人数それぞれに活躍の場を与えるのは相当大変だと思うのですが、本作はそれをやり遂げているのも評価したいです。エンディングは2種類ですが、途中の選択肢は多数ある本作、選択次第で同じ結果に向かってはいるが呪いへのアプローチが変わったり、話を聞いてくれる先輩が変わったりなど、周回プレイを楽しみながらキャラクターの魅力に気付いていくことができるでしょう。スキップも軽快でUIもきれいなので、ぜひ全部のルートを巡ってみてください。
学年ごとのつながり、生徒会内の役職での繋がり、石郷岡に入った時期などがだんだん把握できてくると、彼らの個性が感じられて素晴らしいなと感じてきます。エンディング到達後に見ることができるおまけシナリオでは各キャラクターにフォーカスしたコメディ調のショートストーリーが見られます。相当に作りこまれていますよ。私は由香と安純の話が好きです。
ちなみにおまけのキャラクター紹介では、立ち絵をクリックすると短い台詞が出てきます。人物ごとに3種類あるようなのでいろいろクリックしてみるといいでしょう。
細かいですがもう一つ気になったのは、いわゆる心の声が区別しづらいという点です。
本作は地の文がなく、すべてが台詞か心の声で進行します。声に出した時とそうでないときでは一応吹き出しの角が丸くなったりといった違いはあるのですが、台詞にかぎかっこがついているわけではないのでちょっとわかりにくい。このせいで、緒花に心の声を読まれた!みたいな表現が分かりにくい(というかその後で今のは声に出してなかったんだと気づくことも何度も…)という状態です。吹き出しの背景色を暗めにするとかの方が分かりやすいかな。
というわけで今回は「クロノスの箱庭」でした。1時間程度で密度の高い満足感が得られると思いますよ。

ジャンル:ループ系学園ものノベルゲーム
プレイ時間:1時間/すべてのルートを読むと1時間半くらい
分岐:細かな分岐は多数。エンディングは2つ
ツール:NScripter
リリース:2022/2
今回もなかなか面白い作品を見つけました。いつも通り、本作のあらすじを最初にご紹介します。
猪苗代朝日は石郷岡高校の1年生で生徒会の会計担当。友人の小暮日奈太や生徒会の先輩たちと楽しく過ごしていたが、生徒総会を間近に控えた10月18日、日奈太が校舎から転落して死んでしまう事故に遭遇する。ショックを受ける朝日だが、翌日起きたらなんと事故の日が繰り返していた! どうにかして日奈太を生き残らせようとする朝日。何か知っている風な生徒会の会長。彼らが笑って10月19日を迎えることはできるのか…
といったところでしょう。というわけで今回はループものです。かなり久々に出会った気がします。
この手の作品では、ループという通常あり得ない現象がテーマになっているので、当然ながらその理由や解決方法に焦点が当たります。詳細は後述しますが、本作はこの点でもよくできていたように感じました。
さて、朝日はある夜日奈太が死んでいるのを目撃する嫌な夢を見るシーンが冒頭にあるのですが、本作はその暗さを感じさせないような明るさやスピード感といったものにあふれています。これを可能にしているのは、日奈太のあまりにも一直線で友達想いな性格付けが第一でしょう。朝日は石郷岡には高校から入学していますが、幼稚舎から存在し多くの児童・生徒がエスカレーター式に進学する石郷岡では、先輩・後輩の垣根を感じさせないほど生徒同士の距離感が近いのです。逆に朝日にしてみれば、いつもくっついてきたり、生徒会長を"お花ちゃん"とあだ名で呼ぶ日奈太の言動を馴れ馴れしくて不遜と感じたりするわけです。このような、ちょっとクールな主人公とべったりくっついてくる頭が弱い系(?)の友人という組み合わせはよく見ますが、それに至った背景などに筋が通っていて本作はよいですね。ちなみに日奈太は一見バカっぽいですが、勉強はできるようでとくに理系科目が得意のようですね。この辺はおまけショートストーリーでも楽しめるのでぜひ読んでみてください。

もう一つ、優れた演出という面も見逃せません。本作はNScripterを使った作品です。NScripterと言えばシンプルに必要最低限のシステムを備えたソフトという印象が大きいですが、本作はかなり演出に力が入っています。立ち絵が左右にも上下にもよく動いたり、ロード時の画面が設定されていたり、雨が降っているシーンの背景がアニメーションしていたり、人物の初登場時にカットインが入って自然に紹介していたり、といった工夫によって、とても読みやすく物語にも入り込みやすくなっているように感じます。重要なのは、この演出がやりすぎているのではなく、動作が重くならず、またしつこくならない範囲でしっかり要所で効いているというところです。日奈太が朝日を引っ張って連れていくシーンで立ち絵もビューンと引っ張られているのを見ると、文章とイラストの両面からそのシーンが頭に入ってくるのですらすらと読み進めやすいのです。
そして重要なシナリオです。本作ではループに至ってしまう条件は日奈太の死亡です。ショッキングな出来事であり、それによって普段は感情をあまり表に出さないタイプの朝日が動揺したり、様々な対策を尽くしても死んでしまうことにあきらめモードになったり、でも先輩や日奈太本人との交流から何とか解決の糸口を見つけようとするのがよくできていたように思います。ややネタバレになりますが、本作のループには、生徒会の"呪い"が関わっています。代々続いてきたこの呪いについて、先輩方が朝日たちよりも情報を持っているというのは自然ですし、過去の事例も明らかになっていくにつれ、徐々に呪いの核心に迫っていく感覚が得られました。多くの登場人物がいる本作ですが、その各人が呪い解決に向けた役割を果たし、朝日と日奈太を救おうとするのは見ていて気持ちよくさえあります。
ところで、この登場人物が多いという点は同時に気になった点でもあります。物語冒頭で朝日と日奈太の2人、その後すぐに会長の緒花、副会長のはじめと計4人が登場。通常なら一度に出てくるのはこのくらいの人数までかなと思いますが、本作ではさらにその後また立て続けに生徒会メンバー5人が登場。流石にこの人数になると覚えられません。例えば、サッカー部と野球部があって…みたいに大まかに属性を分けられると覚えやすいのかなという気はしますが、本作では全員生徒会所属。生徒会の会議ということで大人数が集まるというのは分かるのですが、ここでちょっとついていけないなあと感じてしまいました。
とはいえおそらく作者さんも気にしたのか、人物初登場時には名前、立ち絵、役職や学年の記載のあるカットインが入ります。この演出も軽快で大変気持ちよく、覚えやすくするための工夫だなあとは思いましたが、それでも開始5分以内に9人も登場するのは無茶と感じました。本作のテンポの良さもこの点については災いしているでしょう。
最終的に立ち絵のあるメインの人物は12人にも及びます。これは1時間程度の短編ということをのぞいて考えてもかなり多い部類に入るでしょう。この人数それぞれに活躍の場を与えるのは相当大変だと思うのですが、本作はそれをやり遂げているのも評価したいです。エンディングは2種類ですが、途中の選択肢は多数ある本作、選択次第で同じ結果に向かってはいるが呪いへのアプローチが変わったり、話を聞いてくれる先輩が変わったりなど、周回プレイを楽しみながらキャラクターの魅力に気付いていくことができるでしょう。スキップも軽快でUIもきれいなので、ぜひ全部のルートを巡ってみてください。
学年ごとのつながり、生徒会内の役職での繋がり、石郷岡に入った時期などがだんだん把握できてくると、彼らの個性が感じられて素晴らしいなと感じてきます。エンディング到達後に見ることができるおまけシナリオでは各キャラクターにフォーカスしたコメディ調のショートストーリーが見られます。相当に作りこまれていますよ。私は由香と安純の話が好きです。
ちなみにおまけのキャラクター紹介では、立ち絵をクリックすると短い台詞が出てきます。人物ごとに3種類あるようなのでいろいろクリックしてみるといいでしょう。
細かいですがもう一つ気になったのは、いわゆる心の声が区別しづらいという点です。
本作は地の文がなく、すべてが台詞か心の声で進行します。声に出した時とそうでないときでは一応吹き出しの角が丸くなったりといった違いはあるのですが、台詞にかぎかっこがついているわけではないのでちょっとわかりにくい。このせいで、緒花に心の声を読まれた!みたいな表現が分かりにくい(というかその後で今のは声に出してなかったんだと気づくことも何度も…)という状態です。吹き出しの背景色を暗めにするとかの方が分かりやすいかな。
というわけで今回は「クロノスの箱庭」でした。1時間程度で密度の高い満足感が得られると思いますよ。
コメント
コメント一覧 (4)
まずは素敵なレビューをありがとうございました。
そして改善点なども挙げていただいて大変ためになりました。
UI改善版、誤字など変更して修正版も作ろうかなと思うほどです。
とても演出に気を使ったので、気付いていただいて本当に嬉しいです。
「NScripterでもここまで出来んだぞ!」というのをやりたくて作りました。
余談になりますが、おまけに使用音楽も入れようとしたのですが諦めてしまったのですが、音楽にもかなり「曲のタイトル」に気を遣って選びました。
OPに使用している曲(ループ最後の日に流れる曲)は『届かなかった願い(ポケットサウンドさん)』という曲名になっています。
素敵なレビューに拍手を何回でも送りたい気分です。
本当にありがとうございました。
tohganfrige
が
しました