こんにちは。今回はTwincle Dropさんの「Brass Restoration」のレビューです。


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★favo
ジャンル:古の正統派学園ギャルゲー(後述)
プレイ時間:各ルート3時間/コンプリートまでで12時間ほど
分岐:攻略対象4人、それぞれでさらに数種類に分岐、計21エンド
ツール:吉里吉里
リリース:2004/7


今回は2004年公開と、この間の「魔王物語物語」よりさらに古い作品のご紹介となります。
ジャンルに古と書きましたが、ギャルゲーの"お約束"のオンパレードかつそれぞれのお約束が大変濃いのである種時代すら感じさせるような気がします。どういうことか一つずつ説明しましょう。

まずは主人公の瀧口了です。プロの打楽器奏者の父を持ち、自身も高校生ながら将来を嘱望される実力の持ち主。しかし両親を早くに亡くし、物語の冒頭で列車の事故から自身も左腕を失い、以前のような演奏ができなくなってしまいます。ということでお約束ポイント①「高校生ながら一人暮らし」。
そして、②意味不明なギャグ(?)を大量投入。
この時点では、一人暮らしはよくあるけど設定が重いなあという程度の感想でした。

続いて幼馴染の蘭実梨(あららぎ・みのり)です。これがまた強烈でした。お約束ポイント③幼馴染が毎日起こしに来る、④極度の天然ボケ(卵焼きをエッチなものだと思っているなど)、⑤謎の口癖(にゅにゅぅ)、⑥殺人料理(BSE入りはマジでシャレにならんので止めてくれ)、とこんな感じ。
実梨と了は毎日一緒に登校する仲ですが、⑦実梨がそういうそぶりを見せるのに了は全く恋愛対象として見ない。そして扱いがひどい。バカ呼ばわりは当たり前。変なことを言ったときはビシビシ叩きまくる、ことごとく実梨の立てたフラグを折る、しまいには立ち絵がモザイクになる(!)とやりたい放題。
ギャグがほとんど意味不明なのと合わせて、正直このあたりであまりにもひどいなと感じてプレイの継続を断念しかける程度でした。ちなみに意味不明なギャグとはこんな感じ。
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と、本作の序盤の印象はいいとは言えませんでしたが、結局最後までプレイしてよかったなという感想を持つに至りました。ではどこがよかったのかという話をしていきましょう。

上記のような突飛な設定のイメージが先行すると、作品全体がギャグであって、シナリオの出来云々よりも笑いのセンスが合うかどうかが重要という直感が働きます。しかし本作の本質はギャグとは程遠いマジの恋愛ものだったのです。
ギャグの部分を除いてみると、シナリオは実に王道の仕上がり。各攻略対象と恋愛関係になるかどうかという点だけでなく、その後2人の間に問題が発生し、それを乗り越えていくというまさにシリアス系ギャルゲーという内容となっています。私はこのギャップに騙され、そして本作の評価を見直すきっかけとなりました。


まず攻略対象の説明をしておきましょう。幼馴染の実梨は同じクラスでなおかつ部活も同じ吹奏楽部に属しています。美音(よしね)先輩はプロ級の腕前を持つフルート奏者でお嬢様な吹奏楽部の先輩。小瓜(こうり)は打楽器は未経験ながら優れたリズム感をもつ吹奏楽部の後輩。そして歌唱において類まれなる才能を持つ軽音楽部所属のボーイッシュ同級生、唯の4人です。攻略対象の属性もまさにザ・ギャルゲーといった感じですが、各キャラクターごとのルートでは私が前半で受けた印象とは全く違うシリアスさを抱えた内容になっています。

私が最初に入ったのは美音先輩ルートです。このルートでは、了に音楽の道をあきらめてほしくないという思いから美音先輩が義手をプレゼントしてくれます。再び音楽への希望を取り戻す了。しかし義手では演奏に限界があることを感じ、美音先輩の期待にも応えられないという意識を持つようになります。了は音楽や義手のこととは切り離しても美音先輩が好きなのか、といった自問自答や、美音先輩に思いを寄せる人物は了だけではなかったことから生じた昼ドラも真っ青のドロドロ具合。これらは序盤2~3時間のネガティブな印象を覆すのに十分でした。

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全員を攻略してみて一番好きだと感じたのは実梨ノーマルエンドです。
このルート前半での了は本当にクズ丸出しの思考をしています。実梨はどうせバカだから大丈夫、顔は可愛いしクラスでも人気あるみたいだから音楽に打ち込む代わりに恋愛してみるにはちょうどいいかな、みたいな卑劣な内心は実梨に見抜かれ、距離を置かれるようになってしまいます。そんな実梨に何とか認めてもらうため、子供のころの思い出などを頼りにどんな自分なら実梨に好きでいてもらえるかについて考えていきます。それに失敗し完全に愛想をつかされたバッドエンド。先にそれを見てからの、素直な気持ちを伝えてお互いに誤解があったことに気付くノーマルエンド。この差がとてもいいなと思ったのです。お互いに相手のことを想っていながらすれ違いがあったのが分かったあたりで思わずガッツポーズが出てしまったほどです。グッドエンドのように劇的な出来事によって心を持ち直す展開よりノーマルエンドのような展開の方が私は好きのようです。グッドエンド最後で美音先輩に助言をもらうあたりとかもすごくきれいで好きなんですけどね。


小瓜、唯ルートでもそれぞれ了との間に致命的なすれ違いが発生し、それに対して適切なアプローチができたかで分岐するのですが、音楽が生きがいだった了の苦悩や左腕の喪失に関わる問題がメインで扱われ、設定を活かした物語の構成になっているなと感じさせる内容でした。


本作において気になる点はやはり最初に述べたようにギャグが荒唐無稽すぎるのとたまに女の子の扱いがひどすぎることでしょう。いやそんなにバシバシ叩かなくても、とか、そのネタは全く伝わらないよ~とかにいちいちツッコんでしまうと物語に全く入り込めなくなってしまうでしょう。適度にスルーすることをお勧めします。
また、ギャグばかりの文章と後半のシリアスな展開はやはりマッチしません。その辺のバランス感覚ってすごく難しいと思うのですが、本作はあまりにも両者の融合を無視しすぎているように思います。
もう一つ挙げるとすると、キャラクターが全員「濃すぎる」。了と実梨については書きましたが、一番普通と感じられる小瓜でさえ「ぴきゃぅ」などの奇声といったギャルゲーでしか見ない特徴づけがあり、さすがに胃もたれしてきます。しかしこれらの登場人物が全員きちんと活躍するシナリオなのは流石といったところです。吹奏楽部でない唯は他のルートではほとんど絡みがありませんが、実梨や小瓜、美音先輩については他の人物のルートでもかなり重要な役割を果たします。こうした役割がきっちりしているゆえに、奇抜な特徴によるキャラクター付けがより不要に思えたのかもしれません。

また、攻略対象外の脇役キャラクターも脇役とは言えないレベルの活躍を見せてくれます。特に実梨の妹の蕾観(初登場時にどういう関係なのか分かりませんでしたが)や友人の航太郎はどのルートにおいても良い相談相手となり、時には衝突したり、激励を入れてくれたりとなくてはならない人物です。
特定のルートで重要な役割を果たす山口さんや幸乃さんもいい人ですね。


本作は音楽がテーマになっていることもあり、BGMはピアノ曲で固められており良い感じ。愉快な雰囲気の時に流れる、裏拍のリズムが印象的なあの曲が大好きです。
細かい推しポイントをもう一つ付け加えましょう。おまけ立ち絵鑑賞モードで複数人を同時に表示できる機能があるのって珍しくないですか?!

また、最初にあれだけ古い古い言ってきた今回のレビューですが、システム面は吉里吉里で作られており最近の作品と比べても不満がありません。既読スキップも高速ですし、セーブスロット数も十分。"直前の選択肢に戻る"という機能まで実装されており、これは相当珍しいのではないでしょうか。一つ、エンディング一覧画面が見つかりにくいところにあるのは注意です。メニューバーのヘルプ→このソフトについての画面の先にあります。多分これがないと全エンディング回収したかの判断がつきづらいんじゃないでしょうか。
私はエンディング回収はこの画面を頼りにやってきましたが、結構難しく感じたので分岐に関するアドバイスを書いておきましょう。
本作はおそらく好感度が一定以上ならグッドエンドに行けるというタイプのシステムではありません。選択シーンは相当な回数ある本作ですが、それらの大部分はルートには影響しないダミーになっていると思われます。各ルートにつき3~4個くらいの必須選択肢があり、そのフラグを立てたか否かによって分岐するのでしょう。そして、どの選択シーンがダミーなのか、そうでない場合にどの選択肢が正解なのかは初見では全く判断がつかないものが多いです。かなり前半の選択肢が必須となっている場合もあるので、エンディングが見つからないと思ったら思い切って2月上旬のデータからやり直してみるのも良いでしょう。上述したように既読スキップは優秀ですので回収も苦になりません。


最後に一つ。

私に蕾観ちゃんを攻略させろ~~!
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あ、航太郎さんとイチャイチャしてるシーンでもいいです。生き生きしてる蕾観ちゃんが見たい。