こんにちは。今回は、先月公開の静本はるさんの新作「カッテナキミヘ」をレビューします。

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★favo
ジャンル:とあるアニメに関する短編集
プレイ時間:30分前後
分岐:なし。3本読むと最後のエピソードが解禁
ツール:吉里吉里
リリース:2022/5


以前レビューで取り上げた静本はるさんの「MY HOBBY IS 短編版」も素晴らしかったですが、本作に関しても非常に心揺さぶられるところがありました。コメディだったMY HOBBY ISとは違って本作はドキュメンタリー風ですが、広いジャンルでセンスを感じさせる作者さんだなと思っています。

本作には3本(+1本)の短編が入っており、それぞれ10分以内くらいのボリュームとなっています(公式の案内で3~5分となっていますが、5分よりはかかるんじゃないかなと思います)。その短編がどれも、視点人物は変わりながらもアニロボという架空の少年向け人気長寿アニメ(原作は漫画)に関する内容となっています。

短編はどの順で読んでもいいですが、私は左側から順に読みました。
最初は佐藤まさる編です。

まさるが小学校に通っていたころにアニロボは少年誌で連載開始し、たちまち人気漫画となってアニメ放送も開始します。毎回夢中になって漫画を読み、アニメを見ては学校の友達とアニロボの感想を言い合っていたまさる。しかし時がたち中学校に入るころには、「子供っぽい」という周囲の声に影響を受けてアニロボのことは忘れていくようになります。
アニロボを忘れて数年、彼が大学2年生になったころ、たまたまアニロボのシーズン6が放送開始されるという広告を見て、かつてアニロボにハマっていたころのことを思い出します。懐かしいなと思う程度の思い入れしかなかったが、深夜にシーズン1から全話再放送をするというニュースを見て視聴しているうちにアニロボに再度ハマっていく…

もうね、この展開がすごく「あるある~」「分かる!」「まさにそれ」のオンパレードなんですよ。
子供のころに夢中になったものはいつまで経っても忘れない(私の場合はそれがフリーゲームだったわけです)、中学生くらいになると、中二病とまではいかないまでもみんな背伸びしたくなって子供向けのものをバカにする傾向がある、むしろ大学生くらいだと懐かしんだり堂々と見たりする。周囲に子供っぽいとバカにされるんじゃないかと隠していたけど実際にはみんなそんなに冷たくない。むしろ話に乗ってくる。


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↑分かるよ~私もほしのの。エピローグのBGMがごがつのそら。テーマのオルゴール編曲なのに気付いた時は半日泣いたし、緑のRPGエピローグで緑の姫君のエンディングのピアノ編曲が流れてきたときにはまさるみたいになってました。


つづいて吉田なな編です。
ななはいわゆる腐女子です。アニロボは主に二次創作の同人誌を読んでいます。推しの作家の新刊は真っ先にゲット。24ページしかない薄い本を3時間もかけて読み、感謝の長文感想をしたためます。
そんな彼女、最近たまに妙な視線のようなものを感じることがあるそうです。その正体は、自分がメインターゲットではないことが明らかな子供向けアニメでBL妄想を繰り返し、推しのカツヨシが出てこないことに文句を言っていたことへの潜在的な負い目でした。

昔のように純粋な気持ちでアニロボを見ることができなくなってしまったなな。友人のにしちゃんには、"そういう層"向けの作品を教えてもらうがどうもハマれない。このあたりがなるほどポイントでしたね。私はあまり作品をカップリングで見ることをしないのですが(それよりは、ある特定のキャラクターが好き! とか、このシーンが好き!とかの方が多い)、ななの独白を見るとこうした心情もすごく納得できるんですよね。

そしてにしちゃんからシーズン6放送開始の報をもらった後。これがすごい。
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もうオタクの世界の解像度が高すぎて素晴らしい。何かを猛烈に好きだとアピールする文章(別に媒体は文章に限らないけど)って魅力的じゃないですか。それが実在のものではなくても。
私がただ好きなフリーゲームについて語るだけのブログを興味を持って読みに来てくれる方なら、この描写には必ず清々しさや微笑ましさ、そして共感を抱くはずです。最後に爆発したところで私も本作への理解が高まって爆発してしまいました。そう、私だってBrass Restorationで了が実梨に素直に謝って和解したところで「よくやった!」と机を拳でたたいたどころか、有名なコロンビアのアスキーアートみたいなポーズ取ってましたもん。(通じなかったらごめんなさい)


そして木村てるひこ編です。
最初の佐藤まさるが光のオタクだとすれば、木村てるひこは闇のオタクです。かつてアニロボが始まったころ小学生だったてるひこは、友達と一緒にアニロボに夢中になった。彼にとって原作アニロボ漫画とアニメのシーズン1はかけがえのない思い出です。しかし時がたてば様々なものが変わってきます。シーズン2以降のアニロボは、彼に言わせれば未就学児しか楽しまないようなワンパターンで、原作者を侮辱するような内容です。そしてその問題点を日々SNSに綴って同志との意見交換をしています。

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もう、光のオタクのみならず闇のオタクに関しても再現度が高すぎてびっくりする限り。こういう人いるよな~というのがすごく納得できるんです。私だって、プレイしたフリーゲームが全部が全部素晴らしいものだとは思っていないし、たまに面白さが全く分からなかったと感じることもあります。でもSNSでぼろくそには書かないし、ましてやファンのことをバカ呼ばわりしたりはしません。しかしいるんですよね、こういう人。彼らは執拗なまでの文句を言いながら毎週必ず視聴します。まるでケチをつけるのが目的であるかのように。今まではその心理が良く分かりませんでしたが、本作を見て、そういう心理からアンチになるのはたしかに分かる気がするかも、となりました。

てるひこ編最後の展開も実に"ありそう"なんですよ。もう何年も前の記憶って、そんなもんですよね。それでも思い出というのは大切なものです。彼がその後光に向かって歩みだせたのか、気になります。


そしてこの3編を読み終えると、最後のシナリオが始まります。これについては細かいことを述べるのはやめておきましょう。今回の主人公はこれまでの3人と違いオタクという訳ではありません。そんな彼はアニロボとどう交わり、何を思い、そしてどんな影響を受けるのか。希望を持てる最終話であることは間違いありません。

そして最後にこれを読了してからタイトル画面に戻ってくる流れが素晴らしい。一応ネタバレにならないよう少しぼかしますが、背景画像から心象を表現したり、音楽や環境音で場の流れを表現したりといった部分にセンスの鋭さを感じます。そのうえでタイトル画面とBGMの変化。よく見るとタイトルも変わってます。なるほどそういう意味が込められていたのね。
改めて漫画・アニメをはじめとした日本のオタク文化の持つ力を感じられます。


という訳で、私の文章をここまで読むような方はプレイして絶対に損しないので早くダウンロードしましょう。BoothはDLにPixivのアカウントが必要なので、なければ準備してください。
(8/31追記:本日付でふりーむからも公開されました。ふりーむ版はアカウントの登録などが不要なのでpixivアカウントの無い方はぜひこちらからプレイを!)