こんにちは。今回はChloroさんの「西暦2236年の秘書」のレビューをお届けします。

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ジャンル:可愛いAIとの交流を描くややコメディ風SF
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:Unity
リリース:2017/4


本作の舞台となるのはタイトルから分かる通り、23世紀。つまりSFです。
この世界ではスマートツールスと呼ばれる、形を自由に変形して用途ごとにカスタマイズできる携帯情報端末が広く普及しています。そして人工知能搭載の個人向け秘書システム"PASS"も5年前に開発され、現在ではほとんどの人が持つようになっています。本作はそんな未来感のあふれる世界における主人公ヨツバとそのPASSマスコの交流を描いた作品となっています。


私がまずそんな未来感の演出について注目したのは本作のグラフィックやUI部分です。
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マスコのシンボルカラーである緑を基調として統一感のある配色。画面右端で表示/非表示を選択できるセーブ/ロード等の操作パネル。スタイリッシュでSF感にあふれてますよね。私はどちらかというと文字を排してシンプルなアイコンのみに絞ったUIよりも、比較的文字が多めで文字を読めば機能が分かるデザインの方が好みなのですが、本作に関してはシナリオのストーリーと繋がっていて良いなんじゃないかなと思いました。この辺までこだわっている作品って、やっぱり力作が多いですね。Ren'Pyの作品に似た操作感になっている気がしましたが、使用ツールはUnityのようです。


本作の物語の始まりは2236年の元日。マスコがもらってきた3000コイン分のカードを見たら、なんと実は3億コイン分だった! という衝撃のシーンです。訳が分からず、とりあえずちょっとだけ使ってみようとうまい棒(電子版)を買ってみるヨツバとマスコ。(電子版うまい棒って何?) しかしきちんと使えているようで表示だけバグっているわけではなさそう。

そこからはしばらくコメディ調で進んでいきます。夢か~と現実逃避してお正月遊びをして寝たり、マスコにバニーガールの衣装を着せて遊んだり。お着換えシーンのアレは個人的にはツボでした。SFだからこその表現ですね。


そんなこんなで楽しい正月が描かれた後、物語はヨツバとマスコが出会った頃にさかのぼります。
2人が出会ったのはおよそ5年前。PASSが開発された時期までさかのぼります。マスコは世界で最初に一般用として販売されたPASS8台のうちの1つだったのです。抽選でマスコの使用権を得たヨツバは緊張しながらデータをダウンロードし、マスコを起動させます。この起動時のデザインと音声が(笑)アレンジうまいな~。
2231年の話なら多分前世の記憶どころか前前前世くらいまで行かないと分からなそう。

マスコにはテレパシーが通じないことに気付き、見た目は人間だけど中身はプログラムに過ぎないんだなと実感するヨツバ。この辺はAIものSFでは避けて通れない話題ですね。これに関しては本作の終盤でも大きな意味を持ってくることになります。
ところでテレパシーについて説明していませんでした。23世紀では人々は音声として表現することなく、HT理論という媒体に乗せて意思疎通ができるようになっています。このあたりの説明はメッセージウィンドウとは別で補足説明が入るのが親切です。

とはいえ見た目が可愛い女の子であるマスコに対しては緊張もありなかなか打ち解けられないヨツバ。マスコを立体化させたり夢を見たりしながら次第に繋がりを感じていくさまがコメディ調で描かれ、微笑ましく感じられます。

さて、ヨツバがマスコの"秘密"を知って打ち解けてきたあたりで、人工知能にいい感情を持たない人物、ヒメ先輩が登場します。先ほど述べたAIものSFのテーマともいえる点に関わってくるので、ここはあまり深く語らない方がいいでしょう。そこで出会った彼女のPASS、ヨシナガさんも重要な役割を果たします。ぜひご自身でプレイして確かめてみてください。コメディな雰囲気を維持したままテーマに迫っていくあたりが上手いと思います。

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そして物語は2236年に帰ってきます。忘れそうでしたが本作は謎の3億コインを手に入れた(?)ところから始まったのでした。ここにきてようやくその事件の真相が明らかになるわけですが、なるほどねえ。しっかりSFの設定を活かし、ヒメ先輩とヨシナガさんも関連付けながら解決していく気持ちよさがあります。
"AIと人間の違い"についてもここにきて語られます。絶妙に気味の悪さを感じるようなBGMも非常に印象的で効果的だったと思います。ただ、似た気味の悪さを思わせる曲が全体を通して多用されていたところがちょっともったいなく感じました。あの曲はテーマのシーンに絞って聞かせた方が強く印象に残ると思うんですよね。あとは単純にプレイ中に長く聞いているには向かないので…。
創作の世界だけでなく、現実の世界においてもAIが果たす役割がどんどん大きくなってきている今、本作でヨツバが感じた問題を真剣に議論しなくてはならない時期も近づいているでしょう。あるいはすでに研究されているのかな。



本編をすべて読み終えると、エクストラが解放されます。本作は「西暦2236年」から派生して作られた作品のようで、こちらの作品のPVと体験版のような内容になっています。
本作を作ったChloroさんと言えば、私は「私は女優になりたいの」をプレイしたことがある程度なのですが、あちらが実写ムービーを多用した非常に個性的な雰囲気の作品だったのを思い出しました。本作でも登場した"テレパシー"に関する興味を引く導入と、あの非常に独特なムービーのセンスを見て非常にプレイ欲が掻き立てられる内容でした。こちらは有料の作品となっていますが、時間を見つけてプレイしたいなと思っています。

それでは。