こんにちは。今回のレビューはゆきはなさんの「虚ろ町ののばら」です。

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ジャンル:異界探索ホラーゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:1周3時間/フルコンプまで6時間程度
分岐:ED4種、その他ゲームオーバーあり
ツール:RPGツクール
リリース:2018/10
備考:12推


本作は和と洋の雰囲気の混ざった不思議な異世界からの帰還を描いた作品です。
主人公の境のばらはおばあちゃん大好きな少女。今日もおばあちゃんに会いに行くためにバス停でバスを待っていたのですが……気付いたらバスは壊れているし異常に汚いし、人の形をした亡霊のようなものが出口をふさいでいる始末。この不気味な世界”虚ろ町”で出会った少年、守崎十夜(もりさき・とおや)とともに元の世界への帰還を目指します。


この作品の魅力の1つはそう、圧倒的なビジュアルです。スクリーンショットを見ていただければお分かりでしょう。スチル・立ち絵のみにとどまらず、背景、マップやUI部品に至るまでかわいいというよりは美しいと言える作りこみ。もう何枚かスクリーンショットを貼るのでその美しさを味わってください。
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やっぱり見た目がきれいだと、ゲームを進める原動力にもなりますし、こうして魅力もお伝えしやすいですね。ホラーゲームである以上美しい景色だけでなく、抜け落ちた床や積みあがったゴミ、さびた電車なども登場しますが、それらも単に気持ち悪いだけでなく、どこか綺麗に描かれているのがすごいところです。


さて、それではシナリオの話に入りましょう。
のばらたちが虚ろ町で出会った影のような生物たちはみな、何かに執着している様子。彼らの様子を観察したり、話の通じる者たちにたずねたりしているうちに、どうやらこの”虚ろ町”は現世に心残りのある死者たちのさまよう、彼岸と此岸の境目にある町らしいことが分かってきます。この町を治める”虚ろ様”の所に行って、何とか現世に帰れないかと助けを請うのばらと十夜。
子守唄をねだる子供たちの霊を鎮めるなどの役目をこなして現世への帰り道を教えてもらった2人だったが、虚ろ様によればのばらが無事に帰れるかどうかは微妙なところだという。その原因は現世でののばらの境遇と本人の性格にあった…。

プレイ時間の短くない本作ですが、綺麗なマップを探索していると自然とストーリーが進んで頭に入っていき、長さを感じさせません。そして虚ろ町の探索をする合間に、のばらが現世へと帰れるかの鍵となる過去回想がはいるのが上手いところです。そしてこの過去回想がねぇ、切ないんですよ。「しっかりなんて……できないよ!!」本当にその通りです。本人の性格もあるとはいえ小学生にはつらい境遇でしょう。
その分、ED4での十夜との再会と帰還、そして現世で一歩踏み出したラストシーンは感慨深いものになっているでしょう。


物語冒頭で説明される通り、本作にはいくつかのエンディングがあり、青と赤のエフェクトの数が重要になってきます。虚ろ町の住人に寄り添ってその心残りを解消してあげれば物語はいい方向へ。最低限の探索でストーリーを進めたり、住人を傷つければ悪い方向へ進みます。しかしED3やED4を見るためにはそれに加えて特定のイベントをこなしてフラグを立てねばならず、難易度は高いです。というか初見で(特にED4)到達は無理でしょう。これは、まずはバッドエンドを見て欲しいという作者さんの意向なんじゃないかと勘ぐってしまいます。実際、私も先にED1や2を見ていたからこそのばらちゃんの成長に感動できたところがある気がします。
バッドエンドを見たときには悔しい、歯がゆい思いをすると思いますが、その分気持ちの良いハッピーエンドもありますので、ぜひ安心してプレイしてください。

そうそう、攻略情報についてはおまけルーム内や同梱テキストファイルに細かく記載されているので、詰まってしまう心配もありません。親切ですね。


では一応気になった点も書いておきましょう。
1つはコメディ要素が微妙かなという点です。不気味な街の探索だったり、現世の出来事を受け止めたりと基本的にはシリアスなシーンが続く本作ですが、たまに軽い感じのギャグっぽい展開があったりします。のばらと十夜の交流や距離感を描くという意味では良いのかなという気はしつつ、突然そのBGMでギャグ始まったらホラーの雰囲気ぶっ飛んじゃわない? と思う回数の方が私は多かったです。ホラー色の薄い街でのイベント(楽譜が挟まった本のタイトルとか)ならあまり気にならないんですけどね。

もう一つ、本作の操作はマウスを前提にしているとのことですが、ツクールMVのマウスでのマップ移動って使いにくいと思うんですよね……。特に終盤の影をかわしながら進む場面などでは、マウス操作では移動経路が指定できないのが致命的。結局私はセーブ・ロード以外はほぼすべてキーボード操作でプレイしました。


さて、本作のキャラクターには一部ボイスがついています。フルボイスではなく、キャラクターへの呼びかけとか、感嘆詞とか、一部の台詞をしゃべるだけですがキャラクターのイメージに合っていてちょうどいいんじゃないかなと思います。全部に声がついていると聞くのに時間がかかってテンポが悪くなるという面もありますからね。
ちなみにおまけ部屋から何でも許せる方用と称したギャグ一直線のおまけシナリオを見ることができます。私はこのおまけシナリオ冒頭の
「良い子のみんな~~!  本編、はじまるよ~~~~!」
の声を聞いて、脳内には瞬時に「その恋、保留につき、」シリーズの姪浜さんが浮かんでしまいました。のばらと同じ声優さんだったのね…。本編中で思い浮かぶこと全然なかったのに…。そのくらい本編と違った温度感になっていますので、バッドエンドで気が滅入ったぜ、という方はぜひやってみてください。POPOさんがコメディ極振りで作品作ったらこんな感じになりそう。

それでは。