フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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2021年03月

今回はHojamaka Gamesさんのマモノスイーパーをご紹介します。
これまではノベルゲームを続けてご紹介してきましたが、今回はパズルです。mamono1


★favo
ジャンル:マインスイーパー系パズルゲーム
プレイ時間:1プレイ1分~
ツール:HTML5(ブラウザゲーム、スマホ可ただし相当プレイしにくい(後述))、Androidアプリ版もあり
リリース:2016/8(HTML5版。Flash版は2010年)


マインスイーパーというパズルゲームをご存じでしょうか。盤面を地雷原に見立て、マスに書かれた数字を基に地雷の位置を推理して地雷以外のマスを全て開くとクリアとなるゲームで、Windows7までのPCに標準搭載されていました。先日閉幕したティラノフェスでも、ティラノスクリプトでこのゲームを再現してしまったという作品(ありすすいーぱー、レビューはこちら)が話題になりました。
そんなマインスイーパーですが、オリジナルのルールでは残機のような概念はなく、一度でも地雷を踏むとゲームオーバー、最初からやり直しでした。また、地雷の種類のようなものもありませんでした。このマモノスイーパーは端的に説明すると、マインスイーパーに敵の強さと自身のレベル・体力というRPG的な要素を加えたパズルゲームです。
すなわち、盤面に潜んでいる魔物たちには1~5のレベルがあります。そしてマスの数字は、周囲8マスに潜む魔物のレベルの合計を表すのです。普通のマインスイーパーでは、5という数字を引いたら周囲8マスのうち5マスは地雷が埋まっていることが確定します。しかしマモノスイーパーでは、レベル1のスライムが5匹隠れているかもしれませんし、レベル5のドラゴン1体かもしれません。こんな感じで、単調だったマインスイーパーにより可能性と戦略性が増して面白いゲームになっているのです。誰でも思いつきそうだけど今まで見たことなかった、そんなアイデアを実現した作品です。

自分のレベルは最初は1です。この状態ではスライムならノーダメージで倒せますが、レベル2以上の魔物に当たるとダメージを食らいます。体力に多少余裕はあるものの、何度も当たると死んでしまうので、スライムを一定数倒してレベルアップしておく必要があります。すると今度はレベル2のゴブリンもノーダメージで倒せるようになるのです。これを繰り返して、最終的にすべての魔物を倒せばクリアです。
と、長々文章で説明してきましたが、実際にやってみれば一発で分かるのでとりあえずやってみてください。

本家では旗を立てることによって地雷の目印をつけることができましたが、本作では右クリックでマスに数字を書いて敵のレベルをマークしておくことができます。スクリーンショットで黄緑色の数字として表示されているものがそれです。マーキングしたい数字と同じ回数右クリックしなくてはいけないのが若干面倒ですが、クリアには実質必須(特に難易度の高いモード)なので確定したマスには必ず印をつけましょう。

記事冒頭の画像はEASYモードのものですが、それよりサイズの大きいものもあります。HUGEモードだとこんな感じです。
mamono2
単に盤面が大きいだけでなく、魔物の最大レベルも9となっており、より足し算も大変になっています。その他、魔物の密度が増したEXTREMEモード、自身のレベルが0のため魔物を一切倒せないBLINDモードもあり、さらにHUGE×BLINDモードなどの超高難易度モードも用意され、上級者も満足の内容でしょう。BLINDモードはオリジナルのマインスイーパーに近い仕様ですね(本作の方が難しいですが)。

さて、ある程度マインスイーパーをやったことがある方なら、次のような場面に見覚えがあるはずです(本家の画像です)
minesweeper2
地雷が右上と左下にある可能性と、左上と右下にある場合の2通りがあって論理的に絞れないパターンですね。上級盤面の最後にこれが残って、
あああ!2択を外してクリア逃したチクショー!!!
となった経験のある方も多いでしょう。しかし本作ではこの現象は起こりにくくなっています。なぜなら、地雷(魔物)の強さの差によって判別できる可能性があるからです。
また、こんな状態もよくありますよね。
mamono7
空きマスの右か左にレベル7の魔物がいる可能性のある状態です。自身のレベルが6以下のときは安全にマスを開く方法が無いように思えます。実際、オリジナルのマインスイーパーではこの状態は運を天に任せるしかありません。しかし本作では、すでに倒した魔物をクリックすることで、数字マスと同じようなヒントを得ることができるのです。

ゴブリンをクリックするとこんな感じになります。
mamono8
すると、上のドラゴン(レベル5)と新たに得られた6の情報から、空きマスの右側にはスライム(レベル1)がいることが分かり、安全に開くことができるのです。この6のマスをもう一度クリックすれば、元に戻すこともできます。

こんな風に、マインスイーパーでは頻繁に現れる論理的に解けない状況を、このマモノスイーパーではかなりの割合で回避して解ききることができます。パズル好きの方にとってはたまらないのではないでしょうか。

UIについては、少々改善の余地があるでしょうか。ズーム機能があるだけで相当プレイしやすくなると思います(ブラウザのズームで代用はできる)。また、画面下に表示される残り魔物数カウントを、倒したものだけでなくマーキングしたものも減らしてくれるとより終盤に悩むことが減るように思います。BLINDモードではこの仕様なのになぜほかのモードでは違う仕様になっているのでしょうか。本家では実装されている、マウスの左右両方のボタンを同時に押すことで周囲のマスをまとめて開く機能もあると嬉しいところです。マーキングした数字未満のレベルのときはそのマスを開けないのは、誤クリックの危険性を緩和してくれる良い仕様ですね。

このゲームはもともとFlashで制作されており、そのままだと遊べなくなってしまう所でしたが、HTML5移植版が制作され、現在も遊べるようになっています。作者の方に感謝です。
ちなみにブラウザゲームなのでスマートフォンのブラウザ上でもプレイできますが、右クリックがしづらい、マスが小さく誤タップが多発するなどの理由であまりお勧めしません。スマートフォンから遊びたい場合は、UIがスマホ向けとなったAndroidアプリ版をDLしましょう(残念ながらiPhone版は現在はなさそうです)。

また、効果音やBGMなどはないので、好みに応じて音楽などを聴きながらプレイするといいでしょう(Android版は効果音のみあり)。いつの間にか時間を忘れて夢中になっていること間違いなしです。

それでは。

こんにちは。
今回は、まゆげさんのまい、ルームをご紹介です。
mroom1


★favo
ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:1周目15分以内。フルコンプまで1時間半
分岐:5つ。1周目ルート制限あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2016/12
備考:15禁、猟奇的描写あり、ティラノゲームフェス2017準グランプリ作品


これまでは比較的おとなしめの作品の紹介でしたが、今回のはちょっと刺激的です。一見そうは見えないんですけどね……。
まずは、公式からあらすじを引用してみましょう。
マイとメルは仲の良い双子。
最近体調が悪く、部屋に篭りきりのマイのために今日もメルは部屋を訪れる。
これだけです。とりあえず双子が出てきて片方がもう片方のお見舞いに行くのかな、というのは分かります。これだけ頭に入れてゲームを起動してみましょう。

シナリオはマイの視点で、夜にメルがお見舞いに来てくれて嬉しいという場面から始まります。ここでの2人のやり取りは非常に微笑ましく、お互いのことを想い合っている良い双子だなと感じられます。他愛もない日常会話を退屈させずに読ませるというのは力量がいることだと思うのですが、本作はその点ばっちりです。信頼関係があるからこそのちょっとした意地悪や、メルヘンチックな想像シーンなどで読者を引っ張ってくれます。病気になってしまい思うように活動できない中で、子供の頃の思い出を振り返り、無邪気な想像をするシーンもなかなか胸にくるものがあります。
mroom2

さて、本作には途中何度か選択肢があります。勘が鋭い人や、素直じゃない人ならこの小さな幸せの物語に違和感を抱くはずです(私は気づかないタイプの人間でした)。どちらの方も2周目を始めてみてください。
どんなに鈍い方でもこれは単純な物語ではないことに気付くはずです。冒頭のアレは何なんだ、とか、そもそもそこでそんな選択肢不自然じゃないか?、とか。
ここで、先ほど選ばなかった選択肢を選び、END1,2,3をすべて見ておいてください。私と同じタイプの方は初見ではEND1に行くと思うのですが、END2,3は衝撃的でしょう。しかしこれだけでは単に理不尽なだけ。ここからが本番です。

再びタイトル画面からスタートすると、メルの視点での話が読めるようになります。ここにきてようやくプレイヤーにこの物語の舞台設定と双子の置かれた状況が明かされるのです。この手の、読者に重要な情報を隠して驚かせるという手法は、やり方によっては下品に感じられることがあるのですが、本作ではそんなことはありませんでした。きちんと前兆を与えて読者に心構えと期待をさせる。一度に情報を明かし過ぎずに順を追って物語の核心に迫る。そして何より、だれか一人の悪人によってもたらされた悲劇ではなく、登場人物皆が少しずつ歪んでいたがために生じる人間関係の問題があったという点。
ファンタジーが前提でありながら人間ドラマとして非常に興味深いです。まさに本作の、"身勝手な人達の物語"というコピーが本質であったことに、この時初めて気付くのです。本編では悪役に近いあの人も、マイやメルと大差ないことはside storyまで読めば分かります。そうしてすべてを理解したうえで冒頭の場面に戻ってきたとき、あらゆる感情で私の体は震えていました。もう2人の言葉の重みが桁違いです。
ただし、さすがに(ネタバレの為反転)マイが病死する展開は急すぎるのではないでしょうか。なにかもうワンクッション欲しかった。

グラフィックや音楽も私の好みでした。立ち絵はファンタジーな雰囲気に合っていると思いますし、音楽ではフルコンプ後タイトル画面BGMの「おそろい」は私に強烈な印象を残し、3年後にプレイした別の作品で再び聴いたとき、即座に本作を連想したほどです。

ツールはティラノスクリプトですが、必要な機能はしっかりそろっており、EDリストから回想可、2度目以降エンドロールスキップ可など随所にプレイしやすい工夫が施されています。起動が重いことが玉に瑕でしょうか。
エンディングを迎えるごとにタイトル画面が変わっていく仕掛けも良いですね。

べた褒めしてきた本作ですが、人を選ぶ作品であることは間違いありません。ショッキングなシーンはありますし、人間の汚い部分まで怖いほどに描き出されたシナリオです。視覚的にもインパクトのあるスチルはありますが、そこまでグロテスクな絵はありません(ただし流血描写は多数)。

15歳以上でレビューを読んで興味を持った方はぜひプレイしてください。強烈な印象を残すことを保証します。

今回は、ひまゲームズさんのチェス殺人事件をご紹介します。

チェス殺1


ジャンル:お手軽ミステリーノベルゲーム
プレイ時間:15分
分岐:バッドエンドあり
ツール:HTML5(ブラウザゲーム、スマホ可)
リリース:不明(2011年?)


これまでは、PCにダウンロードしてプレイするタイプのゲームを紹介してきましたが、今回はブラウザゲームです。かつてはAndroidアプリ版も公開していたようですが、2021年3月現在は公開終了しているようです。

最初に難点から書いてしまうのですが、本作はかなり古いようで、最新のブラウザ(私の環境はWindows10,Chrome88です)だとかなりレイアウトが崩れてしまいます。AndroidのChrome89では大きなレイアウト崩れはありませんでした。また、昔プレイした時はBGMが一部ついていたように記憶しているのですが、今プレイすると再生されませんでした。

と、システム回りに不備はありますが短編なのでそれほど気にならないでしょう。
本作の内容は、殺人現場に残されたダイイングメッセージの謎が解けない金沢先輩の相談に乗った主人公が、見事に隠された意味を暴き出すというシンプルなものです。シンプルなだけに、その残された謎の出来に作品全体の出来が左右されますが、しっかり筋が通っていて面白かったです。解決にはチェスの知識を若干必要としますが、必要な分は作内でしっかり金沢先輩(が持ってきた本)が解説してくれます。
ちなみに、私は初見では解けませんでした。チェスのルールは知っているからと解説部分を流し読みしていたのが敗因でしょうか。3回目くらいで気付き、ああそういう事かと膝を打ったのを覚えています。この謎を解いたときの爽快感がミステリーの醍醐味ですよね。かなりお手軽に読める本作ですが、その点がしっかりしていて好印象です。

しかし肝心の推理を披露する場面の「これ以外の解釈は可能です」は不可能ですの間違いではないでしょうか。意味が正反対なだけに痛い脱字です。

チェス殺2

上のスクリーンショットを見ると分かりますが、テキスト中に時々クリックできる単語があります。クリックすると、作品の内容とは関係ない解説が読めるのですが、これが結構高頻度で仕込まれていて面白かったです。そんなに高級なチェスの駒があるとは思いもしませんでした。

さて、普通のミステリーだったら謎を解いて事件が解決したところで話は終わるのですが、本作はちょっとした続きがあります。そこで第2の質問が出てくるのです。この仕掛けには少し驚きました。この質問の答えは選択式ではなく自分で入力しなければならないのですが、ちょっと考えればわかります(わからない場合でも、2回間違えるとさらに露骨なヒントが出てくるようです)。この答えを踏まえることで、推理する場面で普通あり得ない選択肢を選んだ時の展開に納得がいきました。
セーブ機能がない代わりに、オープニングや事件の状況など各パートごとにスキップすることが可能など、周回プレイへの配慮はきっちり行き届いているので、ぜひこの選択肢も試してみてください。

というわけで、チェス殺人事件のご紹介でした。
謎解きや推理小説が好きな方は一発正解を目指して、それ以外の方も気軽に読めるのでぜひプレイしてみてください。

今回は、今門楽々さんのギワク★ラヴァーズをご紹介します。

giwakura1



ジャンル:2人の視点から見るラブコメノベルゲーム
プレイ時間:両方の視点から読んで20分程度
分岐:なし
ツール:WOLF RPGエディター
リリース:2018/5


前回はほんのり心温まる系の優しいお話でしたが、今度は王道のラブコメです。
はじめからをクリックするとまず青井明太と白銀小百合の2人から主人公を選ばされます。この2人は付き合っていてデートをするのですが、それをどちらの視点から見るかを選べるわけです。2周して両方読むことで、片方から見ただけではわからなかったもう一人の思いも分かり、2人の考えていることがちょうどすれ違っているのが笑いを誘う、ラブコメにぴったりの仕様です。クリア後に2周目をプレイすると、1周目では描写されなかったヒロインの視点も時々挿入されて物語が補完されるといった仕掛けの作品はいろいろありますが、最初からどちらの視点でもOK、しかもすべてのシーンで両方の視点が用意されているといった仕様は見たことが無く、斬新に思えました。ちなみに、私は明太視点を先に読みましたが、どちらから読んでも楽しめると思います。

giwakura2


本作のあらすじは、付き合ってはいるけれどもお互いに相手の気持ちが自分に向いているか不安な明太と小百合が、相手の気持ちを確かめるためにダブルデートをするという一文で説明できます。作内の時間もほぼ1日のみの短い作品なのでやや物足りなさを感じましたが、その中でクスリと笑えるシーンがいくつもありました。明太が先輩である姫に対して失礼な口を利くところとか、殴りかかってきた連と姫が返り討ち(?)にされるところとか。そして最後。まさに"要介護夫婦"ですね。本人たちからしたら本気で悩んでいることでも、はたから見たらあまりに滑稽で笑えてしまいます。普段私はどんなバカップルを見ても微笑ましいなと感じるタイプなのですが、本作の明太と小百合に関しては「リア充爆発しろ!」と思ってしまいました(これもう死語か?)

さて、明太視点のときは、冒頭で小百合に対して不信を抱く理由が明らかになります。しかし小百合視点でははっきりしした理由がなさそうなので、何でそこまで不安になっちゃったんだろうかとやや疑問に思いましたが、全体がコメディ調なので気にせずに流してしまえる範囲でしょう。

珍しくウディタ製のノベルゲームですが、システムがしっかりとノベルゲーム用に作り込まれておりプレイするに際してストレスを感じることはありません。オートモードやスキップはもちろん、文字表示速度の変更まで可能です。

短い時間でサクッと楽しめる作品なので、ラブコメ好きの方にお薦めです。
それでは。

記念すべき初のレビューでは、mint wingsさんのココロ、そらいろ。をご紹介します。kokosora1


ジャンル:ほのぼの日常ノベルゲーム
プレイ時間:1時間弱
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2015/4


本作は、なんとなく学校に行きたくなくなってしまった小学校6年生の主人公いつきが、保健室登校を続ける中で同じく保健室登校のゆず、もとなりや養護教諭のあおき先生との交流を重ね、成長していくなんとも心温まるシナリオのノベルゲームです。
本作は1話5分以内で読めるような短い話が12話で構成されています。この構成の仕方がうまいです。1話1話がサクッと読めるので負担を感じずにどんどん読み進めていけます。12話で1年間の物語となる都合上、各話の間には1か月ほどのブランクがあるのですが、その間に交流が進んでいるんだろうなと感じられるのもうまい演出だと思います。

いつきたちは保健室登校を続けているということは、彼らの中に何らかの問題を抱えているということです。大人から見たら、小学生なんか無邪気で何の悩みもないように見えますし、子供のころに戻ってのんきに遊びまわりたいと思う気持ちもありますが、まさか本当に悩みがないなんてわけはありません。むしろ子供特有の問題を抱えていたりします。本作では、そんな子供たちの悩みをクローズアップしています。

みんなと同じにするのを拒んだら仲間外れにされてしまったゆず、自分が笑うなんて似合わないと決めつけてしまい笑顔を失ってしまったもとなり。そして"なんとなく"学校に行きたくなくなってしまったいつき。彼らは保健室登校を続ける中で自分の答えを見つけていき、前に進んでいくのですが、それには必ずしも大きな事件は必要ないんですね。日々学校に通う中で、同じく保健室登校の友達や先生と交流を重ねていくと、いつの間にか素直に自分の気持ちを出せるようになったり、悩みなんて大したことなかったなと気付いたりするわけです。その解決の過程を丁寧に描写してくれるので、悩みを解決して笑顔になっていく子供たちを見ていると、まるで自分のことのようにうれしくなり、最後のシーンでは泣きそうになりました。
kokosora2

グラフィックやBGMも感動の演出に一役買っています。ピアノ曲中心の柔らかい音楽、デフォルメの利いた優しい絵柄はこの作品の雰囲気にぴったりです。クリア後にスチルや音楽の鑑賞モードが解放されるのも良いですね。
システムも必要な機能がそろっていて不満なしです。

いつき、ゆず、もとなりの3人を中心に展開していく本作ですが、あおき先生の悩みが中心となる回が1つあり、そこは物語のテーマと少しずれてしまったんじゃないでしょうか。大人の悩みってそんなに簡単に何とかなる問題でもないことが多いですし……。でも、子供たちが先生を慕っているからこそ答えを出せたという意味ではメインテーマに対しても意味のある話だったようには思います。

さて、ゆずともとなりについては、不登校に至ってしまう原因が割とはっきりしています。問題がはっきりしている分それが解消してしまえば一気に視界が開けるといった感じがあり、2人の立ち直りシーンは微笑ましいだけでなく、納得感もあるものでした。しかし主人公いつきに関しては、そもそもなぜ学校に行きたくなくなってしまったか、自分がダメだと思ってしまったかに関してこれといった理由がありません。同梱のあとがきにも書かれていましたが、"ふつう"の子として描かれているのです。そうした漫然とした悩みや不安って、得てして解決が難しいものです。それが、今までのゆずやもとなりとの交流は前提にあるものの1話で解決してしまっているので、いつきの復活については何となくもやもやが残ってしまいました。それでも最後に中学校の入学式に向かういつきの様子は私にとても勇気を与えてくれるものでしたし、温かい気持ちになれることは間違いありません。

また、物語中で授業参観のシーンがありましたが、自分が小学生の時のことを思い出して懐かしい気分になりました。小学校の授業って、みんな競って手を挙げてたし、めちゃくちゃでも自分の意見を表明してたし、活気ありましたよね。私が眠気を我慢しながら授業を受けるようになったのはいつからだったでしょうか。
この回では、作者さんの過去作(モラトリアム -boys men-:BL。苦手な方は注意)とのつながりが示唆されています。

全体として派手な出来事が起きるわけでもなく、大きな感動を呼ぶ作品でもないですが、子供たちの純真さを見て癒されるような、そして優しい気持ちになれるような素敵な作品ですので、ぜひ読んでみてください。

それでは。

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