こんにちは。今回はP.o.l.c.さんの「SAKANA」をご紹介します。

ジャンル:日常の大切さに気付くノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2006/5
P.o.l.c.さんは以前から知っていて、「手紙」(NScripter版)と「星の王子さま」は読んだことがあるのですが、その他の作品は読んだことがありませんでした。最近「透明な優しさ」を読んで結構いいなと思ったので、今回の「SAKANA」もレビューで取り上げてみることにしました。
本作のストーリーを簡単にまとめましょう。
主人公の小早川誠は無気力な大学生。講義中の居眠りは当たり前。何かのサークルや部活動に所属するでもなく毎日を過ごしている。友人の愛美とザキ(岬祐一)らとくだらない話をしたりしながら代り映えのしない日々を送っていたが、ある日誠は帰宅すると不思議な喋る魚に出会う。誠にとっては面白みのない日常でも、魚にとっては人間の世界は新たな発見にあふれていることに気付いていく…
といった感じです。一つのファンタジーな出会いによって、日常のありがたみなどを自覚していくというのは「手紙」にも共通するテーマという感じがします。
さて、「最初から始める」で読み始めると、まず冒頭に意味深なプロローグがあります。真っ暗な中で道を探している…といった感じです。昔の作品だとこのように謎めいた導入がある作品って多いですよね(本作は2006年公開なので16年前です)。そうした作品の中には最後まで読んでも、結局何を表現しているのか分からなかった、というものも多いでしょう。
本作に関してはその意味が読んでいる途中で分かるのが良かったですね。そしてこの場面のBGMがめちゃくちゃ聞き覚えのある「southern cross」で個人的に好きでした。
そんなプロローグが終わると、誠、愛美、ザキの日常の大学生活が始まります。講義中はいつも寝ている誠。ザキとくだらない下ネタを言ったりもしています。このような描写だけだとかったるいなと感じそうな展開ですが(本作に関してはギャグセンスは私には合わなかった。あと、時事ネタがだいぶ時代を感じさせる)、愛美の存在がまた物語に一つコントラストを与える役割を果たしてくれた気がします。別に恋人関係だとか、告白されるみたいな劇的なイベントがあるわけではありません。くだらないことを言い合っている日常の中で、ちょっとだけ真面目な会話があると際立ちますね。冒頭の意味深なシーンと合わせて、これから何か不思議なことが起こるんだろうなと予感させてくれます。

この"予感"みたいなものって物語を楽しむうえで大切な要素の一つであるように思います。以前Twitterで、「最後のどんでん返しでプレイヤーを驚かせることはできるがそれは一瞬だ。どんでん返しが起こるであろうという期待と予感を長い間抱かせると物語全体の楽しさが上がる」といった趣旨のツイートを見たことがあります。私もこれには同感で、さらに衝撃的な展開にも限らない話でないかと感じるのです。主人公の苦悩も、その先に救われる展開があることを期待できるから読者を引っ張る力になる。不可思議なシーンも、先を読み進めていくことですっきり解決されることを望むから物語にのめりこむ。不思議なシーンがあるだけでは、意味わかんねーよ、と次第に心が離れていってしまうことがあると思いますが本作においては、その期待にしっかり応えてくれた感じがして良かったです。短編であるのに比して余韻が長く続いたのは、この点が大きいかもしれません。
そんな予感を経て誠は魚に出会います。真っ暗な世界で喋る魚と二人だけになった誠。彼を"さかな"と名付け交流し、そして現実に戻ってきた誠。帰ってくると、なんと誠の体はさかなの意識によって動くようになっていました。
さかなのたっての希望で翌日そのまま大学に行くことにした誠。とうぜんさかなにとっては知らないことばかり。愛美やザキとの会話も、中身が別人(別魚?)なことがバレないかどうかひやひや。そんな中で受けた大学の講義で、さかなは"歴史を作ること"について学びを得ます。休み時間に誠と話すさかな。今まで講義をぼんやり受けていた誠も、大学に入った当初の志を思い起こすわけです。
2限目の講義には愛美もいます。真面目に講義を受けている誠(さかな)を見て、愛美もなんだか違うなと気付きます。講義の内容も受けてのその後の誠、愛美、ザキの会話などは、現実世界を生きるプレイヤーにも気づきを与えてくれるでしょう。
最後のまとめ方も期待通りの綺麗さで満足でした。こういう作品に奇抜さとかびっくりとかはいらないですね。若干説教臭く感じて苦手な人はいるでしょうが、私はこの愛美との関係性なども交えた結論は好きだなと感じました。読んだ人それぞれで違うメッセージを受け取ることができるような内容ではないでしょうか。立ち絵などもなくエンターテインメント性は低めの本作ですが、読み終わって明日を生きていくための活力をくれるような、そんな作品だと思います。

ジャンル:日常の大切さに気付くノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2006/5
P.o.l.c.さんは以前から知っていて、「手紙」(NScripter版)と「星の王子さま」は読んだことがあるのですが、その他の作品は読んだことがありませんでした。最近「透明な優しさ」を読んで結構いいなと思ったので、今回の「SAKANA」もレビューで取り上げてみることにしました。
本作のストーリーを簡単にまとめましょう。
主人公の小早川誠は無気力な大学生。講義中の居眠りは当たり前。何かのサークルや部活動に所属するでもなく毎日を過ごしている。友人の愛美とザキ(岬祐一)らとくだらない話をしたりしながら代り映えのしない日々を送っていたが、ある日誠は帰宅すると不思議な喋る魚に出会う。誠にとっては面白みのない日常でも、魚にとっては人間の世界は新たな発見にあふれていることに気付いていく…
といった感じです。一つのファンタジーな出会いによって、日常のありがたみなどを自覚していくというのは「手紙」にも共通するテーマという感じがします。
さて、「最初から始める」で読み始めると、まず冒頭に意味深なプロローグがあります。真っ暗な中で道を探している…といった感じです。昔の作品だとこのように謎めいた導入がある作品って多いですよね(本作は2006年公開なので16年前です)。そうした作品の中には最後まで読んでも、結局何を表現しているのか分からなかった、というものも多いでしょう。
本作に関してはその意味が読んでいる途中で分かるのが良かったですね。そしてこの場面のBGMがめちゃくちゃ聞き覚えのある「southern cross」で個人的に好きでした。
そんなプロローグが終わると、誠、愛美、ザキの日常の大学生活が始まります。講義中はいつも寝ている誠。ザキとくだらない下ネタを言ったりもしています。このような描写だけだとかったるいなと感じそうな展開ですが(本作に関してはギャグセンスは私には合わなかった。あと、時事ネタがだいぶ時代を感じさせる)、愛美の存在がまた物語に一つコントラストを与える役割を果たしてくれた気がします。別に恋人関係だとか、告白されるみたいな劇的なイベントがあるわけではありません。くだらないことを言い合っている日常の中で、ちょっとだけ真面目な会話があると際立ちますね。冒頭の意味深なシーンと合わせて、これから何か不思議なことが起こるんだろうなと予感させてくれます。

この"予感"みたいなものって物語を楽しむうえで大切な要素の一つであるように思います。以前Twitterで、「最後のどんでん返しでプレイヤーを驚かせることはできるがそれは一瞬だ。どんでん返しが起こるであろうという期待と予感を長い間抱かせると物語全体の楽しさが上がる」といった趣旨のツイートを見たことがあります。私もこれには同感で、さらに衝撃的な展開にも限らない話でないかと感じるのです。主人公の苦悩も、その先に救われる展開があることを期待できるから読者を引っ張る力になる。不可思議なシーンも、先を読み進めていくことですっきり解決されることを望むから物語にのめりこむ。不思議なシーンがあるだけでは、意味わかんねーよ、と次第に心が離れていってしまうことがあると思いますが本作においては、その期待にしっかり応えてくれた感じがして良かったです。短編であるのに比して余韻が長く続いたのは、この点が大きいかもしれません。
そんな予感を経て誠は魚に出会います。真っ暗な世界で喋る魚と二人だけになった誠。彼を"さかな"と名付け交流し、そして現実に戻ってきた誠。帰ってくると、なんと誠の体はさかなの意識によって動くようになっていました。
さかなのたっての希望で翌日そのまま大学に行くことにした誠。とうぜんさかなにとっては知らないことばかり。愛美やザキとの会話も、中身が別人(別魚?)なことがバレないかどうかひやひや。そんな中で受けた大学の講義で、さかなは"歴史を作ること"について学びを得ます。休み時間に誠と話すさかな。今まで講義をぼんやり受けていた誠も、大学に入った当初の志を思い起こすわけです。
2限目の講義には愛美もいます。真面目に講義を受けている誠(さかな)を見て、愛美もなんだか違うなと気付きます。講義の内容も受けてのその後の誠、愛美、ザキの会話などは、現実世界を生きるプレイヤーにも気づきを与えてくれるでしょう。
最後のまとめ方も期待通りの綺麗さで満足でした。こういう作品に奇抜さとかびっくりとかはいらないですね。若干説教臭く感じて苦手な人はいるでしょうが、私はこの愛美との関係性なども交えた結論は好きだなと感じました。読んだ人それぞれで違うメッセージを受け取ることができるような内容ではないでしょうか。立ち絵などもなくエンターテインメント性は低めの本作ですが、読み終わって明日を生きていくための活力をくれるような、そんな作品だと思います。