フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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2022年11月

こんにちは。もうハロウィンは1か月前に終わってしまったので若干時期遅れな気もしますが、今回は灰色さんの「10月32日のハロウィン」のご紹介となります。ちなみにタイトルのわりにハロウィン要素は薄めとなっています。

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ジャンル:シリアス系ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:20分程度
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2019/2



まずは本作のあらすじを軽くご紹介しましょう。
主人公は独特な喋り方をするキュルビスという子供。記憶を失い迷い込んだ”タマシイ”に過去の行いを思い出させ、”テンゴク”か”ジゴク”に送り届けるのが仕事です。いつも通り魂の記憶に触れると、なぜかこれまでに感じたことのないほど自分の感情に動きが現れたのです。魂の正体とは、キュルビスの行う仕事の意味とは…?


本作の文章は3人称視点で紡がれ、キュルビスだったり魂たちだったりの心情が本人から直接描写されることがありません。ノベルゲームではやや珍しいかなと思いますが、本作のシナリオに施された仕掛けにピッタリの表現方法になっていると思います。キュルビスはどうも感情が自由そうな感じがしません。果たしてそれはどういった由来があるのか、人間らしい感情はあるのか。こういった謎が不自然に感じない範囲で主張してきます。


さて、話を読み進めていきましょう。
少し進めば、魂の持つ記憶が悲しいものであることが分かってきます。最初は微笑ましく見えたやり取りも、ここまでくると害悪としか言いようがありません。生前の彼女は弱すぎました。そして相手は傲慢でした。

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キュルビスが魂の記憶を開放していくお話のため、シナリオのメインは魂だけとなった彼女がどんな過去を過ごしたかという内容なのかと思っていました。しかし話が進むにつれ、この物語は自然にキュルビスと魂のお話になっていきます。ここが面白かったですね。


しかしだからと言って幸せな方向に進むわけではありません。この物語に救いのある結末は結局最後まで提示されずに終わってしまいます。それでも私は美しいなと感じました。こんな悲しい家族愛があるかと。キュルビスが、あるいは魂が、もう少し強かったら、もう少し知恵を持っていたら、と思わずにはいられません。


本編を読み終わると、男の視点からの話を読むことができます。これはかなりひどい内容ですのでそれなりの覚悟を持って読んだ方が良いかもしれません。


さて、本作の雰囲気を演出するうえで、ビジュアル面での出来も良かったなと感じました。
ファンタジックな街並みやキュルビスの様子は明るく。回想シーンにおける線画では悲しい感情が自然に湧き出る書き方。あるいは背景にうっすらと描かれた植物もいい雰囲気を出しています。

逆に少し気になったのが動作の安定性です。BGMがループ時にぶちっと切れたり、クリア後のタイトル画面の挙動(数秒後に画面が変わる)などはあまりプレイヤーに優しくないように感じます。しかし本作は短編ですから、プレイに支障があるという感じでもないでしょう。


今回は短めですがここまでとなります。
劇的な展開の話ばかりだと疲れますし、”いい話”なタイプを続けて読んでいても飽きるので、本作のようなほんのりとダークなお話を楽しんでみてはいかがでしょう。

こんにちは。今回は時雨屋さんの「黄昏が落ちてくる街に」のレビューとなります。

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ジャンル:ループ系短編RPG
プレイ時間:エンディングまで4時間/1周10分~
分岐:なし
ツール:RPGツクール
リリース:2022/10



以前紹介した「1000文字勇者」と同じ作者さんの作品ですが、ほぼコメディだったあの作品とは違ってシリアス系のシナリオとなっています。


本作の開始時点では設定はほとんど明かされず、プレイヤーは何もわからないまま主人公の”天使サマ”を操作していくことになります。
片腕と片方の羽を失っていることは冒頭で分かりますが、それ以上のことは街を調べながら察していくしかありません。どうやら自分が目覚めることはもうないと思われていたらしい、この世界の文字の読み方を忘れてしまったらしい……など。

街を探索しているうちに、本作には時刻という概念があることに気付くでしょう。物語開始時点で朝の7時。時間は常に経過し続け、1時間ごとに時刻を示す時計のイラストが表示されます。リアルタイムで時間が過ぎるのはRPGには珍しい仕掛けかなと思います。

単純に数字が動いていくだけでなく、時間の経過に応じて天気が変わったり、夕方になったら西日が差してきたり、このような部分まできれいに演出されていてとてもいいなと感じました。マップがきれいなんですよね。時間になったらパッと切り替わるのではなく、フェードがかかるように自然に変化していくこの作り込みは本作の魅力の1つと言ってよいでしょう。

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ちなみに町での最初のBGMがRamineさんの「southern cross」で個人的に好きな曲だったのでその点でも良かったです。タイトル画面は同じくRamineさんの「45度だけ開けた世界」ですね。


さて、黄昏が落ちてきた午後7時、町の様子は一変します。町はどこもかしこも大炎上。さらには大量の悪魔が押し寄せ、天使サマは無惨にも死んでしまいます。そこで本作のループが発動します。2周目も同じように朝7時から開始しますが、この周回からは街の人を連れて町の外に出ることができるようになります。目的地は4つの聖堂。戦闘も含まれ、RPGらしくなってきます。

本作の戦闘部分はノンフィールドRPGの要領で各聖堂ごとにザコ敵と6戦、その後にボス戦があります。ボスを倒したら一緒に討伐を行った人物からスキルを教わることができます。このスキルが非常に重要です。中にはエンディング到達に事実上必須なものもあるくらいです。
仲間とともにボスを倒すことでスキルを習得できるというのは、本作の先頭部分を面白くしているポイントだと思うのでぜひいろいろな仲間を連れて冒険してみてください。

主人公と一緒に戦ってくれるメンバーは街の中から毎回一人選べますが、この世界はループしているため彼らのレベルは次の周回時には戻ってしまいます。しかし主人公のレベルと覚えたスキルは引き継がれます。初期状態ではラスボスはおろか最初の中ボスに立ち向かうのも困難なので、どんどんループを繰り返してスキルを覚えていきましょう。
単純にクリアするだけでは物足りない場合、ループ回数を最小化する縛りプレイなんていう遊び方も可能かなと思いました。

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さて、町を探索したり中ボスを倒したりしていくと”記憶のカケラ”という特殊なアイテムが手に入ることがあります。これを使用すると、主人公の隠された記憶を思い出していき、ストーリーを進めることができます。さらに最大MPが上昇するので、手に入れたら即使いましょう。ストーリーはのちに自宅から鑑賞しなおすこともできます。
天使が人間を守ってきた歴史やそれに対する天使の認識、そして悪魔との闘いといった内容ですが、この内容がRPGの戦闘部分、特にラスボス戦に生きていてすごく良かったです。


最後に攻略ヒント的なものを少々。

  • 初期状態では文字は全く読めないので張り紙や図書館を調べるのは全くの無駄足。学校で3回授業に出ると読めるようになる。その状態で図書館の魔法書を調べるとスキルを習得できる(時間はかかる)
  • 街にいる人はそれぞれ強さが全く違う。セントクレア、ムラサキあたりはだいぶ強い。
  • 装備品は購入できない。強い装備を持つ人をいったん仲間にして装備を外し、その後本命の仲間を誘って装備しなおすことができる。お勧めはムラサキ(着物)、ホウセンカ(クナイ)など
  • 習得をお勧めするスキルを教えてくれる人
    • 実質必須級なスキル
      • ミッドナイト(聖堂内)…各ボス戦の位置まで瞬間移動できる
      • クラリッサ(病院内)…毒を無効化する
      • テンプル(宿屋内)…1ターンのみ全ての攻撃を無効化できる
      • ネレス(図書館内)…自動回復の強化
      • モリアン(聖堂のそば)…戦闘不能回復
    • ボス戦に有利なスキル
      • セントクレア(門番)…ボス戦時などに攻撃力が上昇する
      • クリス(墓場内)…強力なデバフスキル
      • リッツ(床屋内)…強力なバフスキル
      • シャルル(噴水の隣)…状態異常耐性
    • ザコ戦で有利なスキル
      • マルタ(墓場の北)…戦闘開始前に1撃できる
      • アオギリ(薬屋内)…全体攻撃スキル
シナリオとシステムに一貫性があって効果を上げている作品だと思いますので、気になった方はぜひプレイしてみてください。 それでは。

こんにちは。今回はamorosoさんの「CHOICE」のレビューです。

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ジャンル:ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:フルコンプまで6時間程度
分岐:大きく攻略対象2人に分岐。エンディング計11種
ツール:吉里吉里
リリース:2011/4
備考:15禁。攻略対象の増えたシェア版もあり。本記事はフリー版でのレビュー


本作はちょっと変わった経緯で発見した作品です。私が何となくYouTubeを開いてみたら、本作のPVが流れてきたんです(フリーゲーム関連のものを見るアカウントには入っていないときだったのでなんで突然トップに表示されてたかは謎です)。ふりーむ等で公開されていないのでこれまで全く知らなかったのですが、面白い作品でした。


主人公は短大を卒業して派遣社員として働く桜木花梨(名前変更可)。仕事から帰ってきたところ、突然異世界に転移してしまいます。どうやら目の前にいる明らかに王子の格好をした少年が召喚魔法で呼び出したらしいことが分かります。突然召喚されて訳も分からず、とりあえず元の世界に戻すことを要求しますが、王子は何と送還に失敗。花梨は見た目5歳ほどの子供の姿になってしまったうえ、呪文の記された魔法書は焼失してしまいます。帰る術を失った花梨は、旅に出ているという王子の魔法の師匠、セフィさんの帰還まで異世界で過ごすことになるのでした……


今でこそ異世界転生ものラノベやアニメは流行していますが(とはいっても私は全然見たことないけど…)、本作の公開は2011年。10年前にこの概念あったんだな~というのが一つ学びでした。
そしてもう一つ、本作の肝となっている設定が”幼児化”。某体は子供、頭脳は大人な名探偵はもう不自然というかバレバレだろ、みたいな言動が多いですが、本作の花梨はあれよりはうまく子供を演じてます。そのうえで子供ならではの方法で交渉したり、あるいは脅迫したりと大変強かで面白かったです。


異世界の召喚されたその日、王子は喋られると面倒くさいからと花梨に声が出ない魔法をかけたうえ、第三騎士隊の隊長クラウスと副隊長ルカを呼びつけ、セフィが帰って来るまでの間子供になってしまった花梨の世話をするよう言いつけます。ここでクラウスを選択するかルカを選択するかで本作のシナリオは大きく2つに分岐します。私はまずクラウスルートに入ることにしました。


第三騎士隊の隊長を務めるクラウスは常に多忙。そして愛想のいいタイプではない上に不器用なため、花梨は冷たい人という第一印象を抱くことになります。確かに突然異世界に召喚された(見た目)5歳の子供に向こうの寝室で一人で寝ろと要求したりするのは配慮不足かもしれませんね。しかし彼はただ不器用なだけで、実際に冷淡な人というわけではないことが次第にわかってきます。この流れと花梨の心情描写が巧みでとても楽しく読めました。

こうしたシリアスな部分もありつつ、子供になってしまったという設定からコメディ的な部分もあります。お風呂一人で入れる? とか、食堂に行ったらお子様ランチが出てきた! とか。騎士たちが我先にとデザートにイチゴをあげようとしてくる場面とか、もはや花梨よりも騎士たちがかわいい!

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ルカルートではちょっと雰囲気が違います。ルカはクラウスとは違って勘もいいし愛想笑いもします。しかしその正体は大のいたずら好きでした。花梨のことを”隊長の隠し子”と言って妙な噂を流させたり、セクハラまがいの行動をして騎士たちをからかったり。そんな様子に花梨は、「子供相手なら分かるけどあたしは中身大人なのに~」みたいな感じで恥ずかしがったりというシーンがクラウスルートよりも目立ちます。私はこの感じよりクラウスみたいに冷たく見えたけどちゃんと愛情を感じる、みたいな展開の方が好きでした。(というか流石にこの行動はどうなの? と思ってしまった)


さて、どちらのルートに進んでも5日目くらいには物語が大きく動きます。ルートによって事件の詳細は違いますが、どちらにせよクラウスとルカがお互いに信頼し合ったうえで解決に動いていくのが良かったです。ルートに入ったキャラ以外がフェードアウトしてしまう作品も多いですが、それ以外のキャラとの交流なども描かれると物語の中で生きた存在として読み手の印象にも残るんじゃないでしょうか。
この事件の対処には花梨自身も重要な役割を果たします。子供の姿を利用して作戦を実行したり、大人の姿に戻ってから動いたりといろいろできるのはこの設定ならではですね。

ちなみに本作には立ち絵はありません。子供と大人の違いをビジュアル面で演出したりといったことも可能だったと思うのでそこはやや寂しく感じました。スチルはあるので余計に…。


というわけで「CHOICE」のレビューでした。異世界転生×幼児化×乙女ゲーというジャンルの可能性を感じる作品でした。全体的に男性キャラがかわいい(見た目じゃなくて行動的に)作品だと感じたので好みの方はぜひ!

それでは。

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