フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
記事一覧ページを作りました。記事探しはこちらから。Twitterはこちら。リンク等はご自由にどうぞ。
YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

2023年06月

こんにちは。今回はくろいのうとさんの「Sample087」のご紹介をしようと思います。

sample1

ジャンル:短編脱出ホラー
プレイ時間:30分以内
分岐:なし(ゲームオーバーあり)
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2015/8


今回の作品は王道な脱出ホラーものとなります。
主人公の黄瀬花香は怪しげな実験施設のような場所で目を覚まします。ベッドと机と小さな箱が1つしかない殺風景な部屋に閉じ込められている花香は、机の上にあった不穏な置き書きのようなものを発見します。そんな置き書きから目を離してみると、部屋の隅から謎のスライムが侵入してくるではありませんか。
命の危険を察知した花香はこの施設からの脱出を試みます。果たして無事に帰ることはできるのでしょうか…


このように本作の筋はいたってシンプルです。
敵キャラ(?)であるスライムは一瞬触れただけで即ゲームオーバーなので、操作を誤らないよう慎重に進みましょう。初見殺しの箇所もいくつかあるのでセーブは細かく分けておきましょう。

脱出のヒントとなる謎解き部分もオーソドックスなもので、この手のゲームに慣れた方なら迷わずに解くことができるでしょう。難しいわけでもないので不慣れな方でも安心です。

sample2


こんな感じで、本作はいたって普通な脱出ホラーといった作品なのですが、それだけだったらレビューを書こうとは思わなかったと思います。プレイ時間にして20~30分の中で、いいなと感じた点が2つありました。順に説明していきましょう。


まず1つ目。本作には体力・思考力というパラメーターが存在しています。初期状態では両方とも40です。そして探索中に水やカンパンなどの食料を発見することがあります。それらをアイテム一覧から使用することによって、体力・思考力を回復することができるのです。

本作には戦闘要素は一切ありません。敵に何らかの攻撃をして退治する場面などはありませんし、敵に一瞬でも接触されたら即ゲームオーバーです。ではこのパラメーターは何に使われるのかというと、探索なのです。
sample3

脱出のためにはいくつかの謎を解いていかなくてはなりません。置き書きを読んだり、謎のポスターを観察したり、室内のアイテムを見つけていったりするわけですが、その際に得られる情報量が思考力の影響を受けるのです。思考力40の初期状態では見たままの情報しか得られなかったのが、カンパンを使ってすこし思考力が増した状態だと、隅に書かれた小さい文字まで読めたりといった細かい設定がされているのです。これは非常に珍しい仕掛けだなと思いました。
基本的にパラメーターが高くて損をすることはないので、見つけた食料は有効活用していきましょう。

体力も同様で、体力が低い状態では解決に手間がかかった仕掛けをパワーで解決するといったことが可能な場面があります。なかなか面白いですね。



そしてもう1点。これは本作の最後の最後で明らかになります。

突然このような危険な施設に監禁され、この世界の理不尽を呪っていた花香ですが、最後の部屋で脱出へのかすかな希望でさえ打ち砕かれて絶望に染まってしまいます。結局どんなに手を尽くしても脱出は叶わないのか。そんな悲しいエンディングを迎える本作……しかし、本作には実は脱出エンドが存在しています。この際花香が希望を取り戻す演出がとても気持ち良かったです。BGMも切り替わり、花香の生きのびるという決意が感じられます。その場面でふつう選ばないだろうという選択肢を試したりもしたのですが、そういう時のメッセージもしっかり設定されていて良かったです。

おそらく初見で脱出成功させるのは難しいと思います。最後の部屋にたどり着いた段階で戻ることはできなくなってしまうので、詰んだと思ったら少し前のセーブデータからやり直してみましょう。

脱出成功後にTo be continued...の表示が出るのに(しかも続編で意味を持ってくると思われるロッカーのパスワードまで入手できるのに)結局続編にあたる作品が出てなさそうなのだけ残念です。



今回は短めですがここまでです。
短い中に面白いギミックを仕込んだ作品だと思うので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回のレビューはルピナスパレットさんの「インビジブル」です。

invisible1

オススメ!
ジャンル:現代異能ファンタジーノベルゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:10時間
分岐:エンディング2種、その他GAME OVERあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:製品版あり


本作は割と有名な作品かと思うのですが、長大なプレイ時間とあまり私の趣味ではないジャンルを見てなかなか手が出せなかった作品になります。しかし今週プレイしてみたところ本当によくできていて、10時間があっという間と思えるような作品でしたので、ぜひ今回ご紹介しようと思ってレビューを書くことにしました。

いつも通り本作のあらすじを説明しましょう。

初花市では奇妙な都市伝説が広く言い伝えられています。地下鉄の初花駅から環状線を一周すると自分のドッペルゲンガーに出会うことができ、そのドッペルゲンガーを殺すと願いが叶うという、なんとも気味が悪いお話です。さらにはその都市伝説を実行した人が次々と行方不明になっているというのです。
主人公の如月(きさらぎ)つぐみはそんな初花市のとある喫茶店で記憶喪失の状態で目を覚まします。店を出て当てもなくさまよっていると、突然謎の深い霧に飲み込まれ、その中で謎の化け物が少女を襲っているのを発見します。偶然居合わせた朝岡蓮(あさおか・れん)と一緒に何とかその少女、白崎茉莉花(しらさき・まりか)を救出することに成功します。自分の正体も、謎の霧で襲ってきた化け物の正体も分からない3人は、自称オカルト研究家の坂倉出(さかくら・いづる)に助けを求めます。坂倉の言うことには、都市伝説を実行した人間は”インビジブル”と呼ばれる異能を習得し、さらにはその研究のために設立された組織”アンノウン”が存在するというのです。
果たして都市伝説は本当なのか、なぜ黒い霧が襲ってくるのか、つぐみの記憶は戻るのか。いくつもの謎を解決するため、3人はアンノウンの本部へと向かうのだった…

invisible2

本作はプレイ時間にして10時間ほどとかなり長い作品ですので、上の説明でも物語の冒頭1割くらいの内容になります。長編作品の難しいところの1つとして、読者を飽きさせないような展開、上手く引き付けておくための情報開示の仕方といったところがあると思います。本作はこれらの点において非常に上手く作られていると思うんですよね。




全6章+プロローグ・エピローグという構成を持つ本作ですが、最初に生まれた直接的な危険である黒い霧の能力に関しては物語半ばの3章でいったんの解決を見ます。しかしそのころには別の謎がつぐみたちとプレイヤーを悩ませており、全く飽きるポイントがないんですよね。異能の正体、黒霧を操っていた黒幕の正体、つぐみの記憶にアンノウンの目的など様々な謎が提示され、そして絡まり合いながら最後に解決していくさまはお見事というほかありません。

この情報や謎の提示の仕方、それを適度に引っ張りながら順に解決していく物語の組み立てのうまさは、古典的名作である「ひとかた」を連想させます。本作にはループ要素はないわけですが、異能ファンタジーも妖怪と戦う伝奇物語というジャンルと似ているかもしれませんね。


本作では5章までですべての謎につながる情報は開示され、5章後半からは解決編といった流れになります。私は、異能とはどのようにして得られるのか、都市伝説を実行した結果何が起きたのかについては
解決編前に察することができて大変気持ち良かったのですが、それは本作がうまく読者への情報提供と誘導を行っていたからでしょう。


そして最終章ではラスボスとの対決が待っています。アクションシーンの描き方も一級品です。
ノベルゲームというのはやはりどうしても動きのあるシーンの迫力を演出するのが難しいと思うのですが、本作は文字だけで緊張感のある戦闘シーンを描くことに成功していると感じます。なぜか。それを考えたときに思い当たったのは、私の本作への感情移入度の高さでした。
本作では解決編に至るまでの間、異能に関する謎解きと並行してキャラクターの掘り下げが巧みに行われています。美弥子の怒りも、霧島の性格も、蓮の意地も、篠塚の思いも、すべてを理解して突入したラスボス戦だからこそプレイヤーもつぐみたちを全力で応援できるんですよね。迫力のある動画コンテンツなどなくても、私の登場人物への思いが想像をかき立ててくれます。戦闘中に相手を挑発したり、心理描写に文字数を割いたりといった表現の仕方もプレイヤーに緊張感と想像力を与える助けになっているでしょう。さらにそれ自体がラスボスを倒す切り札への布石になっているのだから大したものです。



さて、その登場人物の掘り下げがどのように行われているかです。
都市伝説に関わる謎がメインテーマであることは間違いない本作ですが、その謎を解いていくには構造上登場人物たちの悩みであったり、心の傷であったりといったものを明らかにし、それを乗り越えていかなくてはならないという仕掛けが組み込まれています。
ドッペルゲンガーを殺して手に入る異能は個人ごとに異なります。ところがその異能はランダムに付与されるわけではなく、都市伝説を実行した張本人が抱えている悩みやトラウマが反映されたものになりやすいというのです。ということは必然的に、異能に関する秘密を明らかにしていくには能力者自身の過去や精神状態に迫っていく必要が生じる。このように本筋に絡めながら各キャラクターの背景を描き、成長していく姿を見せるという手法にはなるほどと思わされました。
invisible3

例えば、初めて会った時からなんだかんだでそりが合わず、口喧嘩の絶えなかった蓮と茉莉花の2人は2章でついに茉莉花の一言で完全に決裂してしまいます。茉莉花には何も考えていないクルクル扱いされていた蓮ですが、彼は彼なりに弟との関係について深く悩んでいたのです。
そのように迷いを抱えた中で、そして仲間との信頼関係がまだ出来上がっていない中で1章で現れた黒い霧は再び襲ってきます。目の前に迫った危機に対し、不器用ながらも仲間を信じることを覚え、何とか危機を脱して一皮むけたように成長した彼らを見ていくのは何とも気持ちいいものです。

3章に入ったころには、蓮も茉莉花もしっかりと相手に向き合うことができるようになっています。茉莉花に至っては、自分が自信を持つようになれたのはつぐみのおかげであるとはっきり伝えられるようになりました。このような、思春期らしい悩みを乗り越えて成長していく青春物語を私は予期していなかったため、意外に思いながらも楽しく読み進めていくことができました。



さて、本作ではラスボス戦以外にも途中で何回か戦闘シーンが挟まります。どれも緊張感のある展開で、それぞれいくつかの選択肢が出現します。間違えるとゲームオーバーになる箇所もありますが、多くはそれまでの展開をきっちり覚えていれば正解できるものになっています。
そして選択肢はラスボスを倒した後の最後にも。明らかに分岐すると分かる重要な選択肢です。ぜひ2つの結末を両方見届けてあげましょう。



BGMはおそらく自作で、場面の雰囲気に合ったものが選定されている印象です。音程の無い不気味な感じの曲が好きでしたがどのシーンで使われてたのか思い出せない…
グラフィックも、衣装差分も含めて多くのキャラクターが登場してすごいなあと思わされるところです。あと純粋に可愛らしいですしね。私も蓮と律のほっぺを引っ張ってみたいししーちゃんに冷たい目を向けられてみたい(笑)
スチル閲覧モードが切実に欲しいところです。
invisible4



最後に製品版の紹介を少しだけしておきましょう。
パートボイス仕様だったフリー版をフルボイスにし、追加シナリオが読めるようになったバージョン、「インビジブル 蒼のフラグメント」が公開中です。私はまだプロローグまでしかプレイしていないので細かいことは分かりませんが、幕間シナリオやギャラリーも解放されているようなので、ゆっくりと楽しみにしておきたいと思います。一部テキストの修正やUI配置等の改善も入っているようですね。


フリー版でも十分きれいに完結した物語が楽しめますので、ぜひプレイしてみてください。そして都市伝説の秘密を解き明かしましょう。
全部プレイするにはかなりの時間がかかりますが、それに見合った満足感が得られるはずです。

それでは。

こんにちは。今回のレビューは川澄シンヤさんの「リバース・ゲーム」です。

rebirth1

ジャンル:“死”と向き合い、乗り越えるノベルゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:Normal Endまで2時間、フルコンプまで5時間程度
分岐:エンディング11種(Ver2.00以降。うちバッドエンド7)
ツール:LiveMaker
リリース:2017/8
備考:15推、暴力・流血表現あり。第13回ふりーむ!ゲームコンテストアドベンチャー部門銀賞受賞作



本作のタイトルを見た私は、はじめその意味を"Reverse game"だと捉えました。何らかのゲームで負けを目指す、あるいは時間を逆行するとかゲームの側からプレイヤーに働きかけてくるメタな内容とか、そういうものをイメージしたんです。しかし本作の”リバース”は違う意味でした。”Rebirth game”、つまり生まれ変わりをかけたゲームだったのです。


というわけで本作の概要はこんな感じです。
主人公の加藤智紀(かとう・ともき)は高校一年生。夏休みの初日に散歩していたところ、なんと車にひかれて死んでしまう。そこに現れたのは天使を名乗る不気味な仮面の男、バース。彼曰く、”リバース・ゲーム”に参加して勝利すれば生き返ることができるという。そのゲームのルールは、時間内に(1人以上の)協力者を見つけ、その人と定期的に意思疎通を続けて無事に5日間過ごすこと。簡単そうに見えるが、まずは最初の協力者探しが最初の関門。果たして智紀は無事にゲームをクリアすることができるのか、そしてバースの目的は一体何なのか。5日間のゲームが幕を開ける…


といったところでしょう。
先週レビューした「終わりの鐘が鳴る前に」も生き返りをかけたゲームでしたが、特に狙ったわけではありません。たまたまです。
そして作品のメインとなるテーマも異なります。恋愛要素の大きかった「終わりの鐘が鳴る前に」に対し、本作「リバース・ゲーム」はよりデスゲーム的要素の強い作品となります。殺し合いをしたり心理戦を仕掛けたりするわけではありませんが、自分の生死がかかっているという緊張感の漂う作品です。ゲームをクリアするためには智紀のこれまで築き上げた人間関係が重要となってくるのですが、これが意外な方向に効いていて面白かったですね。

rebirth2


さて、ゲームを進めていきましょう。
智紀がリバース・ゲームへの参加を承諾すると、ゲームのサポート役を務める天使の相原はるかが現れます。智紀と同年代の普通の少女にしか見えませんが、間違いなく天使であるというはるかは実体化/霊体化を切り替えることができます。霊体化した場合、ゲームのプレイヤーや協力者以外の普通の人間には見えなくなるのです。デスゲームらしい要素が見えてきましたね。


ところが、序盤においては緊張感はあまり感じられません。ゲームの場は智紀の生活圏内と変わりませんし、はるかはどう見ても普通の少女。さらにゲームの細かいルール説明を聞くために入った喫茶店では、濃いキャラクターのマスターがお出迎えしてくれます。ラブコメかな?と思うような個所もありますが、実際に協力者を探す段になって本作はシリアスさを増していきます。


誰かを協力者とするには、まずは自分の置かれた状況を相手に信じてもらわなくてはなりません。なるほど、これは確かに難しそうです。交通事故に遭って一度死んだが、リバース・ゲームに勝てば生き返らせてくれるんだ、なんて話普通の人は信じません。また、もしこのような状況に立たされたなら、はるかが忠告する通り最も身近にいる人である家族を協力者に立ててクリアを目指すのが常識的な考え方でしょう。しかし智紀は頑なに両親を頼ろうとしません。何らかのすれ違いがあったのでしょうが、ここでその詳細が語られることはありません。この詳細は本作のクライマックスにおいて感動的な形で明らかにされることになります。ここが本作において一番の肝というか、上手い部分と言えるでしょう。

rebirth3


死んだ人が全員リバース・ゲームに参加できるわけではありません。何らかの心残りがある人だけがリバース・ゲームに招待され、そして生き返るに値する人間なのかを”審査”する。バースはそう言いました。智紀にとってはそれが両親との関係をやり直すことだったわけです。だからこそ、True Endにおいて”ルール変更”が正当であったことが分かります。このあたりのロジックがしっかりと描かれていて、気持ちのいいポイントの1つとなっています。
家族と正面から向き合うこと、過去を受け入れて未来へと歩んでいくこと。そういったともすれば説教臭くなってしまうような問題を、デスゲームの形をとることで感動的な演出として組み込む手腕はなかなか大したものでしょう。



上の書き方だと、生き返りをかけたゲームであるというのは形式的なものにすぎないように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。
ゲーム初日、智紀はなんとか幼馴染である山内慶一(やまうち・けいいち)に協力者になってもらうことに成功します。5年も会っていなかった智紀の頼みを聞いてくれるなんていい人ですね。
協力者をみつけて意思疎通も果たし、あとは10時間の間を開けないように会話なり電話なりをすればよいということになってクリアできそうという空気になりますが、そう簡単には行きません。最終日である5日目には電話がつながらないというアクシデントが発生します。

……いや、これは本当にアクシデントなのだろうか。もし慶一がリバース・ゲームのことを心から信じているわけではなかったら。あるいは実は智紀のことを恨んでいる理由があるのなら…。こういった疑心暗鬼な展開はデスゲームにおける典型的な見せ場と言えるでしょう。


また、リバース・ゲームの参加者は智紀1人ではありません。ゲームの途中には作業服の男性やまだ小学生に見える少女など他の参加者にも出会います。彼らとの出会いがどう智紀の心情に影響していくのかといったところも見どころの1つです。



さて、本作はいわゆる1周目ルート制限ありの作品です。
初回プレイではどんなに頑張ってもNormal End(かBad End)にしか行くことができません。その後2周目以降でその他のエンディングが解放されていきます。この方針はものによっては面倒くさいだけだったりしますが、本作においてはそうならないような工夫がしっかりと施されているように感じます。
2周目においてはゲーム進行中の天界での出来事などが語られたりしますが、これはまずはNormal Endを見るくらいはプレイしておかないと意味が分からないので、ルート制限をかける必要性もあったでしょう。後書きを読むと分かりますが、作者としての意図もしっかりしており、それゆえの成功例だと感じました。既読スキップは正確で高速ですので、エンディング回収にもそれほど手間がかかりませんしね。

そうして苦労してたどり着いたTrue Endでは悩みを断ち切りしっかりと前を向いている智紀の姿に、私も頑張って良かったなあと感じさせてくれます。バースの目的なども含めてしっかりと回収されるのが良いですね。
バースの正体が明らかになるところは、その瞬間の感動が(プレイヤーにとっては)薄いので、事前に写真を見せておくなどでプレイヤーにもそれと分かるような仕掛けがあった方が良いだろうなあと思います。智紀の感動とプレイヤーの感動のタイミングがずれてしまうのでそこだけ惜しいように感じました。(ネタバレに配慮して書くのが難しい…)


話は本作とは若干ズレますが、私が作者の川澄シンヤさんを知ったのは3年前のティラノゲームフェスで、「女のフリしてゲーム作ったら、女装することになりました」を見たのがきっかけです。タイトルから分かる通りのコメディ作品で、私の好みでもあったのでノベコレにコメントを書いたりもしました。その際過去作とは作風が全然違っているというような紹介文を読んだ記憶があったので、私は「リバース・ゲーム」はシリアスに振った作品で、間違っても女装少年なんて出てこないだろうと思っていたのです。

ところが! 2周目プレイ時はなんとゲーム序盤で智紀のワンピース姿が!!
可愛いじゃないですか! 間瀬くんに負けてませんよ
個人的には1周目で見せて欲しかったな! 特にネタバレとか関係ないシーンだし。
あとはレイナのおしおきシーンも明らかに作者さんの性癖山盛り! 大好きです、ありがとうございました。(注:これらの表現は全年齢向けです。本作が15推なのはあくまでデスゲームに関連する暴力表現のためです)
こうした下品な感じの無い可愛くてほんのちょっとえっちな展開好きなんですよね……ちょうど今開催中のDLsite公式ジャンルリクエストキャンペーンで全年齢向けジャンルをリクエストしてしまったくらいには。

というわけで私はこのスチルにハマってしまいました。ここに画像は貼らないのでぜひ皆さんご自身の目で確かめてみてください。



最後に隠しルートの話を少しだけしておきましょう。
2周目以降、特定の選択肢を選んでいくと5日目の展開に変化が現れます。その他のルートとは明らかに一線を画すこの狂気、怖いです。でも実際に自分がこんな生死をかけたゲームに参加させられたらこのような思考になるのも無理はないかもしれません。
そして(ver2.00以降)、隠しルートコンプ後にとあるエンディングが解放されます。作者の警告やエンディングの分類から察することはできますが、ここだけゲームのジャンルが変わったかのような衝撃の展開…とだけ言っておきましょう。このルートに入るのは難しいですが、同梱のヒントを参考にすれば数回の試行錯誤でたどり着くことができるでしょう。

ただ個人的には隠しルートに入る苦労と、その結果繰り広げられるあのシーンの後味の悪さが釣り合ってないんじゃないか、という気がしてしまいます。



というわけで今回は「リバース・ゲーム」でした。
一見破綻していても確かに存在する家族愛、人はどういう時に前を向いて生きていこうという希望を見出すのか、というあたりが気持ちいい作品です。ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はCynical Honeyさんの「終わりの鐘が鳴る前に Chapter.1」をご紹介しようと思います。

owakane1


※期間限定無料作品
ジャンル:学園ラブコメ
プレイ時間:4時間(ボイスを全て聞くともっと長いと思います)
分岐:基本1本道
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2022/2
備考:Chapter.2公開以降有料化。今年夏予定
(9/10追記:現在本作品の無料公開は終了しています。Chapter.2の販売も開始しています)


昨年の冬に私がTwitterを見ようとしたとき、本作の作者であるCynical Honeyさんのアカウントからフォローされていることに気付きました。プロフィールを確認したところ、公開中というノベルゲーム(本作)が面白そうだったのでとりあえずDLしてプレイしたところ、かなり面白い作品でした。普段だったらレビューを書くかなというところだったのですが、私がこれまで書いてこなかったのは本作が純粋なフリーゲームではないからです。
というのも本作は昨年の2月にChapter.1が公開され、その時から現在までノベコレふりーむBooth等で無料で配布されていますが、Chapter.2の公開と同時に(Chapter.1含め)有料化されることが宣言されていたからです。

一応本ブログではフリーゲームを専門に扱っているので(一部有料のものもありますが、それらもフリー版で十分完結まで楽しめるもののみです)、本作を取り上げることにややためらいがありました。しかし先日Twitterのフォロワーに需要がありそうなことが分かったので、今回こうしてレビューを書くことにしました。普段のフリーゲームに比べるとやや厳しめの評価になっているかとは思いますが、大変いい作品ですのでぜひプレイしてみてください。



さて、本作のあらすじを説明しましょう。
主人公の長谷部涼平は高校2年生。友人の日高進や戸松香澄らと楽しい高校生活を送っています。
しかしある日、涼平の前に死神を自称する少女モトが現れ、同級生の菅野雪乃に年内に心から幸せを感じさせなければ涼平は死ぬと無理難題を押し付けられます。
途方に暮れる涼平は偶然にも雪乃が日高に恋心を抱いているのを知り、条件達成のチャンスと見て雪乃の恋愛をサポートすることを思いつきます。しかし校内で男勝りでワイルドと評判の彼女は恋愛に疎いようでその道は苦難の連続です。さらには何と肝心の日高が実は香澄のことが好きであることも発覚し、涼平は2人の板挟みになりながらもなんとか雪乃が幸せになれるようサポートします。
果たして雪乃の恋は実るのか、幸せにすることはできるのか。そして幸せとは何なのか。文字通り涼平の生死をかけた4か月間が始まる…


とまあこんな感じでしょう。
つまるところ本作は、「雪乃の恋路を応援する」というお話になります。ラブコメによくある展開で、他人の恋愛を応援するというと最近完結したことで話題の「その恋、保留シリーズ」が思い浮かびますね。あの作品では恋愛を応援する理由はお節介によるものが大きかったですが、本作においては恋愛の成否が文字通り生死に関わるという明確な理由があり、物語をよりシリアスな方向にしていると言えるでしょう。

owakane4

この無理難題を仕掛けてくるモトはかなり変わった人物(人ですらない?)です。常時涼平の行動を監視しているようで、たまに姿を現しては涼平に話しかけてきます。淡々とした口調でありながら条件達成について厳しく問い詰めてきます。幸せを感じさせるのは一時的でもいいのだから、自分の生死がかかっているのに常に誠実であろうとするのは非効率ではないか。そんな風にささやき涼平をいらだたせる様は死神というより悪魔のようです。

しかしやはりモトがいるからこそ本作の物語は成立しているんですよね。涼平の行動の理由はモトの存在があってこそですし、2人の対話から誠実であろうとする涼平の人柄も見えてきます。
こうしたシリアスめな青春物語というものは、登場人物の関係性であるとか性格であるとか、行動原理などが描けたうえで魅力的になるものだと思うのですが、本作はそのあたりの描写がしっかりしていて面白く感じられるのです。


ちなみに本作はシリアス一辺倒ではなく、時々漫画やアニメのネタが出てきたりといったギャグポイントもあります。
プロローグの時点でもすでにデスノートや北斗の拳と分かる台詞があったりして、相当な密度で組み込まれています。あまり詳しくない私でもたびたび出てくるなと感じたくらいなので、知っている方が見たら本当に多くのネタを拾えるんじゃないでしょうか。

あとは同級生の平野亜希による涼平の毒舌いじりなんかもギャグに分類されるでしょうか。ただあれは私にはちょっとやりすぎに感じました。流石にあそこまでの性格ならば何らかの理由付けとか説明が必要なんじゃないでしょうか。小学生の妹にもひどいことを言わせてますし…。

owakane2


さて、いったん本作のシナリオから離れてみます。
するとやはり目に付くのは、タイトル画面などからも分かるイラストの綺麗さです。ここに描かれたキャラクター以外にも多数の人物が登場する本作ですが、みな可愛らしくきれいに描かれていて製作者の気合を感じます。
イラスト面において私が特に良いなと感じたのは背景です。学校、自宅、喫茶店に遊園地といくつもの場所が登場しますが、それぞれ本作の立ち絵に合ったテイストで描かれていてとても綺麗。教室の画像なんかはモブの人物まで書き込まれていたりします。これは私が今までプレイしてきた作品の中でも珍しいんじゃないかと感じました。

また、本作では主人公以外の台詞にはすべて声が付いています。みなさん演技もうまいですし、普通のフリーの作品の範囲を超えているなあと思わされます。
そのキャラクターごとのボイス音量調整などシステム面においても機能は整っています。ただしメニュー画面の呼び出しが遅いのはストレスを感じるポイントでした。私の環境(OS: Win10Home 22H2, CPU: AMD Ryzen 7 4700U, メモリ: 16GB)ではメニュー呼び出しに平均6秒以上かかっています。特にクイックセーブ以外の通常セーブはメニューを経由しなければならないのでさすがにしんどかったです。メニュー呼び出しに時間がかかるなら、通常のメッセージウィンドウから直接セーブ/ロードできるだけでかなり違ったでしょう。欲を言えばセーブスロットも現状の6よりは多い方が良いかなと思います。
このあたりはChapter.2以降でUIの刷新も計画されているようですし今後に期待といったところでしょう。


さて、話は本作のシナリオに戻ります。
私が本作を気持ちよくプレイできた理由の一つとして、1つ1つのシーンが全体のストーリーに活きていて、キャラクターの心情や関係性を掴みやすかったというのがあるでしょう。
例えば本作の中盤くらいで涼平が雪乃を傷つけてしまうシーンがあります。事情を知っている私(プレイヤー)の目から見ればある程度仕方のないことでしたが、雪乃から見たらショックでしょう。涼平としては当然雪乃との関係を修復していかなくてはならないのですが、その時にきちんと過去の出来事などが前提としてあって、だからこそ雪乃と仲直りできたんだなと感じられる展開になっています。詳細は述べませんが、お悩みボックスに関する話とか、(雪乃の友人である)悠木さんとの信頼とか。そのあたりのことが意味を持ってくる分読んでいて気持ちがいいし、話にご都合主義というか作為的なものを感じないのです。
このように物語が1つの線につながり、因果もはっきりすることで人物の心の揺れ動きがより鮮明に見えてくるのでしょう。

これは物語冒頭のモノローグの部分もそうです。意味深な語り出しから始まる物語は多いですが、本作では冒頭で語られた「人は大切なものを失うことに怯える」というような内容の言葉の意味するところを涼平はしっかりと痛感させられます。やはり丁寧に作られた作品だなと思いました。
owakane3


ストーリー自体の話とはちょっと違いますが、本作の文章表現もなかなか面白いでしょう。ちょっとした比喩表現などが多用され、情景を思い描きやすくなっています。私が好きなのは、「バイブ機能が付いた携帯電話みたいに、菅野は小刻みに震えだした。」などでしょうか。

しかし文章表現は本作において気になった点の1つでもありました。やたらと複雑だったり、一文が非常に長かったり、前提が省略されていたりといった場面がしばしばみられます。
例えば、雪乃が涼平に対して何らかの手助けを申し出た場面の「彼女自身からしてみればフェアではないが、どちらかというと俺からしてみれば利用している形になっているので、後ろめたさもあった。」は「(涼平が見返りなしで雪乃の手助けをするという状況は)彼女自身からしてみればフェアではないが、(実は死神の条件達成のためにむしろ涼平が雪乃を)利用している形になっているので、(涼平は)後ろめたさもあった。」などと主語を補完しないといけない箇所が大分多いように感じます。おそらく読点の前後で主語が変わっているのに両方とも省略されているからややこしく感じるのでしょう。

また、誤字・誤変換・助詞の間違いなどが非常に多いです。文章が複雑な件と合わさり、意味の理解に時間がかかる文がたびたび出てきてゲーム体験を阻害していると言えるでしょう。


ちょっと厳しめの意見が続きましたが、印象的なセリフなどもあって文章も全体的には上手いのも確かです。「私の友達のためにあんなに怒ってくれてありがとう」とか、意外なところでスッといい台詞が出てくる印象があるんですよね。



そんな本作は雪乃が遊園地で日高に告白してクライマックスを迎えます。涼平は当事者ではないのでまさにそのシーンが描かれることはないのですが、私までドキドキしてしまうような描写にびっくりです。周囲の人の状況や台詞の描写だけであれだけ印象的なシーンになるんだなというのが驚きでした。

そしてその後、雪乃はどうするのか。Chapter.2に期待といった展開になっています。
雪乃の件だけでなく、涼平の過去についてなども意図的に隠された情報があるのでそれも合わせて楽しみにしておきましょう。沢城先生がなぜ涼平の進路にうるさいのか。涼平自身が恋愛をする気にならないというのはどういうことか。今後明らかになっていくのでしょう。



繰り返しますが本作の無償提供は期間限定なので興味のある方はお早目のプレイをお勧めします。
にぎやかだけどどこか切ない青春物語を楽しみたい方に。これが無料でプレイできるのか、と驚くこと間違いなしです。そしてChapter.2の公開を楽しみにしましょう。

それでは。

↑このページのトップヘ