フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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2023年09月

こんにちは。
普段私はこのブログで、フリーゲームの紹介・レビューを行い、たまに攻略とか考察系のコラムなどを執筆してきました。今回は初めて書籍の紹介記事を書きたいと思います。
フリーゲーム含むオタク文化に関わる人はぜひ知っておきたい法律関連の解説書、「オタク六法」(小林航太著、KADOKAWA)です。


私はいつも様々なところからフリーゲームに関する情報を入手して、配布サイト等からダウンロードして自分でプレイし、感想をツイートしたりレビューを投稿したりしています。フリーゲーム文化にどっぷり浸かっているわけですが、この界隈特有の揉め事やトラブルも時折耳にします。具体例は挙げませんが、盗作だトレパクだといった著作権関連のものから侮辱・誹謗中傷の類、他にもわいせつ物や暴力表現の規制と表現の自由の対立だったりと、すぐに思い浮かぶものでもこんなにあります。


幸い私自身がこれまでに何らかのトラブルに巻き込まれたことはないのですが、身近にこうした揉め事が存在しているのは嫌ですし、Twitter上で繋がりのある方がトラブルになっているのを見ると当事者でない私でも辛い気持ちになってしまいます。
トラブルの発生自体を完全に防ぐのは無理だとしても、なるべく少なくしたい、万一問題が生じても自信を持って交渉できるようにしたいという思いから著作権法などの知的財産権に関する法律などを軽く勉強しておきたいなと思っていたところで見つけたのが本書でした。どのような内容なのかとどの辺が良かったかを書いていきたいと思います。



本書は5つの章からなっており、「作るときの法律」「見る・見せるための法律」など大まかな場面ごとに分類して解説がなされています。「著作権法」「刑法」「民法」などのように法律ごとの解説ではなく、起こりうるトラブルの事例ごとに解説があるため、勉強のための本や専門書というよりは実用書
といった印象です。その分普段法律に触れない人でも読みやすい内容だと思います。

私が個人的にフリーゲーム関連コミュニティでよく見る揉め事だと思っているのは、著作権関連・誹謗中傷関連の2つだと思っているのでこれらについて本書でどう解説されているかを軽く紹介しましょう。


まずは著作権について。
一言で著作権といっても様々な権利が内包されており、狭義の著作権(著作財産権)・著作者人格権・著作隣接権に分類されます。狭義の著作権もさらに多数の権利の集合体であり、例えばイラストをパクられた、無断転載されたといった場合は具体的には複製権や公衆送信権の侵害となります。
二次創作も厳密には翻案権の侵害となる場合がありますが、原作を盛り上げる意味もあることから現状多くの場合は黙認されています(著作権侵害は親告罪であるため著作権者が黙認する場合罪に問われない)。ゲーム実況についてはもっと黒よりですがこちらも大体の場合は黙認されていますね。
このような事案について、写真パクリ事件同人誌無断転載事件など具体的な裁判例を交えて解説が加えられています。

このあたりの具体的な権利を確かめていくと、例えばふりーむのめちゃくちゃ長い利用規約を読み解くときの助けにもなるでしょう。

また、そもそも何が著作物に該当するのかの判断も難しいという話もありました。描かれたイラスト自体は著作物ではあるが、作者の画風などは著作物ではなく保護対象にならない、キャラクターの絵なら著作物だがキャラクター自体は著作物ではないなどとても分かりにくいです。このあたりの解像度を上げて勉強するには個別の事例を見ていき空気を感じ取るしかないのかなと思いました。

私はいつもこのブログでフリーゲームのレビューを行っており、その際ゲームのスクリーンショットを掲載し、あらすじなどをまとめ、一部の文言はそのまま記事内で使用したりしています。一応著作権侵害にならないよう、引用の要件を満たす範囲で掲載するように心がけています。本書でも解説がありますが、スクリーンショットなどをそのまま掲載しても合法な引用となる要件は以下の通りです。
  • 引用部分がほかとはっきりと区別されていること
  • 主従関係が明確であること
  • 引用をする必然性があること
  • 改変されていないこと
私の場合、スクリーンショットが引用なのは明らかですし、ゲーム内の文章、ReadMeの文章などを拝借するときは必ず注を入れるかblockquoteなどのhtmlタグを使用して私が書いた部分と区別できるようにしています。また記事内のほとんどの文章は私が書いたものであり引用部分の割合は高くありません(私が書いた部分が主であり、引用部分が従である)。掲載するスクリーンショットなどは作品の雰囲気や特徴などの掴めるシーンを選んで記事内で述べる論点を具体的にイメージしてもらうために使っており(引用の必然性がある)、基本的に改変をせずに掲載しています。
と、一応黙認されるだけでなく合法であるように心がけています。(専門家じゃないから実は厳密に見たらアウトな箇所はあるかも。もちろん作者から苦情が来たら対応はします)

Twitter上で感想をつぶやく、というだけだとあまりこの辺の厳密性を気にせずにスクリーンショットを掲載してしまいますね…作者さんに訴えられるようなことは書いていないと思いますが、皆これくらいやってるしいいだろうと気楽にやっている面は否定できないです。

引用というと、私は数年前までは学生で大学にいたものですから学術論文での引用の感覚でいるので、どんどん引用したらいいと思っています。学術論文では先行研究を引用するのは当たり前です。むしろ何も引用しないというのは過去の知見を一切利用しないということですからね。もちろん入学時に不正な引用や剽窃を(意図する/しないに関わらず)しないよう気をつけろというガイダンスをしつこいほど聞かされました。


さて、パクリ疑惑に並んで多いと感じる誹謗中傷事件についてです。
誹謗中傷への対応で法的に根拠にできるのは名誉棄損・侮辱の2つです。刑事上の名誉棄損の成立には事実の摘示が必要なのに対し、侮辱では不要であり刑罰も名誉棄損の方が重くなっています。
民事上の侮辱の場合、被害者の社会的評価を低下させる言動だけでなく、名誉感情を侵害した場合にも適用されるというのは私の知らない内容でした。
これらを踏まえたうえで、「ショップのレビューに暴言と低評価を書きこまれた」「絵をさらしてへたくそと言われた」「VTuberに対して根も葉もないリプが飛んでくる」などの事例に対して一般的な解釈を解説してくれます。

「これらの行為が名誉棄損や侮辱、あるいは脅迫等に該当する」と分かった次の段階、具体的な対処方法についても解説があります。発信者情報開示請求は従来はWebサイト運営者とプロバイダーにそれぞれ別の裁判を起こさなくてはいけませんでしたが、2022年10月以降は一度の手続きで済む新制度が施行されたということで、手続きの負担が軽減されたようです。助かりますね。


Twitterにおいては、誹謗中傷を受けたら裁判を起こして慰謝料をぶんどろう! という内容の投稿がたびたびバズりますが、手続きの負担が軽減されたとはいえ本書を読んだうえでもそんなに簡単ではないぞと思っています。どんな内容の投稿が違法なのか、違法だとして開示請求ができるのか、裁判に勝ったとしても本当に慰謝料を取れるのかなど様々な壁が高く、とても気軽に慰謝料取りに行く、という気持ちになれないと感じました。
とはいえ知識を持っておくだけでも心の支えになる面はあると思いますし、そういう意味では非常に役立つでしょう。いざ弁護士に相談するときの事前準備や心構えといった内容も書かれています。



さて、本書で解説されている内容を少し見てきましたが、その他の点で良いところを2つほど挙げておきましょう。

まず初版発行が昨年11月とかなり新しい点です。上述した開示請求の新制度や、昨年4月の民法改正(18歳成人のやつ)の解説など新しい内容がかなり含まれています。画像生成AIについても触れられていますが、法律が未整備で判例もなく、明確な基準を示すのが難しいんだろうなと感じました。その他、ゆっくり茶番劇騒動やインボイス制度などについての記述もあります。
世間一般の事情もどんどん変わっていきますので、新しい内容がふんだんに含まれるのはとてもありがたいと思います。

もう一つ、時々ちょっとふざけた内容のコラムなどがあって読んでいて面白いです。「漫画などでよく見かけるヒーローの仕事は法的には業務委託?」とか、コラムではありませんが自筆証書遺言の解説で「要件を満たしてさえいれば、語尾が「ぴょん」になっていてもかまいません。」などと真面目に書いてあって笑ってしまいました。




今回は初めての試みとして書籍を紹介してみましたがいかがだったでしょうか。
私のブログを読んで下さる方は多かれ少なかれオタク文化に触れている方だと思いますので、ぜひ読んでみてください。


それでは。

こんにちは。今回はDanQさんの「学ぼう! 精神医学 -うつ病編-」をレビューしていこうと思います。

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ジャンル:精神医学をカジュアルに学べるノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8



本作はフリーゲーム夢現を巡回していて見つけた作品になります。タイトルから分かる通り、精神科での診療や精神疾患についての初歩を学んでいける作品となっており、全体的に非常にまじめに作られています。それでは作品内容の紹介に移りましょう。


本作の主人公(名前変更可。デフォルトは朝宮)は総合病院に勤める2年目の研修医。今回初めて精神科に配置され、患者さんの診察や治療に携わることになります。とはいってもこれまで内科などでの勤務経験しかない主人公は精神科で必要な知識が十分ではありません。指導医の夏川先生に教えてもらいながら患者さんを診ていくことになります。



主人公が最初に見ることになった患者さんは永野さんという男性でした。
1か月ほど前から気分が落ち込み仕事にも身が入らず、家族の目から見てもずっとしんどそうにしていると言います。永野さんへの診察と治療を通して、主人公と一緒に読者も精神医学について学んでいける構成となっています。


さて、私は医学に関する知識は素人なので(過去に診断されたことのある病気について調べたりはする、という程度です)、上で永野さんの訴える症状を聞いてもうつ病くらいしか候補を考えられないのですが(本作のタイトルからのメタ読みもありますが)、本作を最後まで読めば精神科では他の様々な可能性も考慮しながら最終的な診断や治療を行っていることが分かります。


例えば、夏川先生に最初に教えてもらう講義の内容は「精神科ではなぜ病歴が大事なのか?」です。
レントゲンを撮ったら骨が折れていることが分かった、などのように検査で明確な原因が把握しづらい精神科における診断では、現在の状況だけでなく過去もさかのぼって考慮したうえで適切な判断をする必要があるというのです。これは、今までの私には全くなかった視点でした。

作内で永野さんの診察を行う際には、今の仕事や家庭での様子のみにとどまらず、子供のころからの成育歴や病歴などについてを含む細かい聞き取りが行われています。知らなければ、医師というよりはカウンセラーみたいな人の仕事なのでは? と思ってしまったりしますがこれも精神科医の大切な仕事の1つだということでした。
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もう一つ例を挙げましょう。精神科においても血液検査などの検査を行うことは多いようです。しかしそれは例えば、うつ病になると血液検査のこの項目で数値が高くなる! のような項目をチェックするためのものではなく、他の原因を除外するためであるというのです。
なるほど、確かに脳外科とか内分泌科とかの他の科にかかるべき真の原因があったのにうつ病と診断して精神科的アプローチで治療を試みても良くなるとは思えません。こうした病気以外にも、例えば薬物の影響で気分症状が現れることがあるのは私も知識としては知っていたはずですが、うつ病の診断をしようという段になって頭の中に残ってはいませんでした。

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こんな感じで全体的にまじめに作られた作品ですが、かわいらしいイラストやコミカルな音楽もついてカジュアルな雰囲気を保っています。診察に入る前のプロローグであったり、True Endで永野さんが快復したときなんかは登場人物のキャラクター性が出た会話シーンなんかもあったりして、ゲームとして気楽に楽しめるような内容になっていると言えるでしょう。
もちろん完全な娯楽作品のようにゲラゲラと笑ったり感動シーンに涙したりといった展開にはなりませんが、勉強のハードルを下げてくれているという点が大きく評価できるポイントだと思います。立ち絵がスッと入れ替わったり、講義スライドが挟まったりといった演出の仕方もささやかながら間違いなく本作の取っつきやすさに貢献しているでしょう。

ネットを使って医学のことについて調べようとすると、怪しい情報が大量に出てきて私のような素人では信頼できる情報を見分けるのが大変ですからね。公的機関や大学などが出している情報はさすがに信じていいだろうと思いますが、そういったページって大体堅苦しくて難しいんですよね。その点本作ではうつ病や精神医学についての最低限の知識を読みやすく、そして正しく(作者さんは現役のお医者さんということですし、診断基準等の引用元も作内で示されています)伝えてくれる点が嬉しかったですね。


ところで少し上でさらっとTrue Endと書きました。本作にはいくつかの選択肢が存在しています。
全問正解しないとTrue Endには行けないのですが、いずれの選択肢も夏川先生の話をきちんと聞いていれば正しいものを選べるものですし(常識で考えても大体は正解を選べるはず)、難しくありません。
逆に1つでも間違えるとNormal Endに行くようですが、こちらでも永野さんの病状が悪くなったりはしませんでした。夏川先生のフォローがしっかりしていたということでしょう。こうした作品でわざと間違い選択肢を選ぶのは私は心理的に強い抵抗があるのですが、レビュー書くんだからちゃんと他のエンディングも見ておこうかと思ってみてみました。辛い結果にならなくて良かったです。


というわけで今回は「学ぼう! 精神医学 -うつ病編-」でした。
勉強するぞ!という気持ちにならなくてよいのでぜひ気軽に読んでみてください。

それでは。

こんにちは。今回はPOPODOTさんの「ゾンビーデ☆バンビーナ」のご紹介になります。

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ジャンル:2Dゾンビアクションゲーム
プレイ時間:難易度ノーマルで2時間程度
分岐:1か所(後述)
ツール:RPGツクール
リリース:2017/8
備考:15禁。流血等グロテスクな表現あり。第13回ふりーむゲームコンテスト萌え部門金賞受賞作


本作品を紹介するうえでジャンルの分類に少し迷いました。
装備や食べ物で自身を強化していくRPG的要素もあり、目的地まで様々なマップを探索して進んでいくADV的要素も強く、ストーリー重視な作品でもあります。しかし私がプレイした感想としては、(特に高難易度では)いかに敵を避けながら進むか、少ない弾で効率的に相手を倒すかというアクション要素が重要になってくる感じがしたので、本ブログではアクションゲームとして分類することにしました。実は初めてのアクションゲームのレビューとなります。



本作の物語は、突然地球に隕石が衝突するところから始まります。地割れなどの被害にとどまらず、なんと隕石に付着していたゾンビウイルスが人々をゾンビ化してしまったのです。そんな阿鼻叫喚の中、主人公のラーラはゾンビウイルスから身を守るためのイエローハッピーワクチンを求め、ゾンビと戦いながら病院を目指すのでした。


相棒となるマークと一緒にゾンビを倒しながら探索していき、たまにボスを倒す必要があるのですが、これが結構難しい!
開始時に難易度を3段階から設定できるので、アクションゲームが得意でないなという方はイージーを選びましょう。私はノーマルから始めたのですが、慣れないうちは弾切れになったりして割と大変でした。難易度ベテランでは入手できる弾の数がかなり少なくなっており、初見の方にはお勧めできません。

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ゾンビの倒し方については、最初に作中作の形式をとって丁寧なチュートリアルがあります。武器を装備した状態でDキー押下で向いている方向(四方に固定)へ発砲します。弾丸は消耗品なのでやたらに乱射しているとすぐに弾切れになってしまうので注意です。きちんと狙いをつけて発砲するようにしましょう。


序盤の敵は体当たりしてくるくらいしか攻撃手段を持っていませんが(とはいっても近づくと突然スピードアップして向かってくるので油断禁物です)、中盤以降の敵は機動力が高かったり飛び道具を持っていたりと厄介なパターンが多いです。特に難易度ベテランでは、それらの敵を相手にしていると一瞬で弾切れとなってしまうので、マップをある程度覚えておき、どうしても倒す必要のある敵以外は走り抜けてかわすような動きを要求されます。このあたりが非常にアクションゲームらしいんですよね。

ボス戦については攻撃をかわし続けても終わらないため、ある程度の弾数を用意しておかなくてはなりません。どのボスも遠距離攻撃の手段を持っており簡単ではありませんが、行動パターンはさほど多くないので何度か挑んでいくうちに上達して勝てるようになっていくでしょう。

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そんなわりとハードなシステムとなっている本作ですが、ストーリーの方も大事です。
前半のうちは、ギャル風でゾンビにも物怖じしない強気のラーラと怖がりで前衛に立っての戦闘を避けてアイテム合成などで協力するマークの対比が面白く、ギャグイベントもよく仕込まれています。

しかし中盤でマークは一人で戦わなければならない状況に陥ります。ビビりながらもゾンビを倒していくマークを見ているとなんだか頼もしく感じていきます。ついさっき出会ったばかりのラーラではあるけれども守ってやりたい、そんな気持ちが表れていてとても応援したい気持ちになりますね。

終盤にはPOPODOTではお馴染みの温泉イベントあり。今回はラーラは温泉には入らないみたいだけれど…?

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さて、ラーラとマークが協力してラスボスを倒し、エンディングイベントに突入する直前、1か所だけ選択肢が登場します。明らかに分岐すると分かる内容で、しかもどちらが正解かもわかりやすいと思います。他の作品をプレイしたことがある方なら分かるかと思いますが、2つのエンディングは結構落差が激しいので覚悟のうえでぜひ両方とも見てください。直前にセーブ画面に入るのが親切ですぐに回収できます。
両方見たらおまけ部屋でエピローグなどが見られるのでそちらもお忘れなく。


ところで私がDLしてプレイしたバージョンは古めで1.6だったのですが、その後バージョンアップが重ねられて現在v3.0が公開されているようです。チャック(ラーラの兄)編や新ボスなども追加されているということなので私もこれからやってみたいなと思います。


というわけで今回は「ゾンビーデ☆バンビーナ」でした。
イラストはかわいらしいけれども世界は世紀末。アクションはハード。
そんな中でラーラはワクチンを手に入れて目的を果たすことができるのか。ぜひあなたの目で確かめてください。

それでは。

こんにちは。今回はTeam囲碁RPGさんの「囲碁RPG」のご紹介です。

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★favo
ジャンル:オーソドックスなターン制RPG+詰碁問題集
プレイ時間:ラスボス撃破までで10時間程度
分岐:なし
ツール:RPGツクール
リリース:2023/7(ふりーむへのDL版掲載日)
注意:囲碁の棋力が10級以上の方推奨


本作「囲碁RPG」はタイトルから分かる通り、囲碁がテーマとなっているRPGです。単にシナリオに囲碁が使われているというだけでなく、詰碁(部分的な石の死活を問う問題。詰将棋に対応するもの)を解いて進むギミックも多数用意されているなどかなり凝っています。
このギミックのため囲碁未経験者ではクリアはほぼ不可能でしょう。公式の説明欄にもありますが、10級程度の棋力は最低限欲しいところです。私の棋力は碁会所で三段程度、ネット碁では囲碁クエスト(Android版/iOS版)で四段、野狐囲碁で二段程度です。有段者なら本作の囲碁に関するギミックで困ることはないでしょう。
囲碁に関するギミックで詰まってしまう場合、「囲碁RPG 入門編」があるのでそちらのプレイをお勧めします。



本作の世界観では、囲碁の技術である”棋術”(聞いたことがないので本作の造語でしょう)がそのまま(物理的な)戦闘の技術になっています。碁の強い者が通常のRPGの意味でも強いのです。戦闘では打撃(通常物理攻撃)のほかに棋術(魔法攻撃に相当)を使って敵を打ち倒していきます。
そんな本作は主人公の星宙かやが囲碁の養成所を卒業するシーンで始まります。卒業試験をパスしたかやは養成所からのプレゼントとして最新の棋術を教わるため、棋術習得用カプセルに入ります。ところがその棋術習得の最中に”幻庵”と名乗る人物が乱入。養成所は荒らされ、同級生の安否も分からない中かやは何とか魔法陣を起動してワープし見知らぬ村、”アキスミ村”で目を覚まします。どうやら”秘密結社INOUE”が何かを企んで悪さをしている模様。かやは同級生を助けるため、秘密結社INOUEに挑むべく旅を始めるのだった…


本作のオープニングはこんな感じなのですが、これまでですでに囲碁にまつわるネタが3つも含まれています。
まず、幻庵というのは戦国時代の武将、北条幻庵のことのようです。今回調べて知ったのですが、幻庵は囲碁にまつわる逸話のある武将ということです。そしてアキスミ村。アキスミというのは文字通り空いている、つまりまだ石が全く置かれていない(碁盤の)隅のことで、たいていの場合初手で着手される地点になります。すなわち”はじまりの村”みたいな意味合いですね。
そして秘密結社INOUEというのは囲碁の家元四家のうちの一つ、井上家のことでしょう。江戸時代、徳川将軍の前で行われた対局、御城碁で争った四家が家元四家で、本因坊家、井上家、安井家、林家の4つです。本因坊だけが実力制となって現代のタイトル戦に名を残していますね。

安井算知

このように、本作内において非常に濃い密度で囲碁に関する分かると面白いネタがちりばめられています。しかもネタの分野が広いです。
例えば主人公かやの仲間になる最初の人物は”秀策”ですが、これは本因坊秀策のことです。ヒカルの碁にも出てきたのでご存じの方も多いかもしれませんね。続いて仲間になるのは”算知”ですが、これは同じく江戸時代の棋士である安井算知のこと。天地明察に登場したことで知っている方もいるかもしれません。
4人パーティーの最後の一人は”リーラ”と名乗ります。これはフリーのコンピュータ囲碁ソフトLeelaのことでしょう。さっきまで江戸時代の話だったのに急に現代のAIの話が出てきてちょっとびっくりしましたが、これも囲碁が分かる人ならではのネタでしょう。

IGORPG2
他にも、敵のキャラクターは全て囲碁用語だったり、囲碁周辺の元ネタがあったりします。
例えばこちらの”アキサンカク”ですが、これは漢字で書けば”空き三角”。自分の石が三角形の形につながった状態のことで、働きの乏しい愚形の代表例です。

IGORPG3
こちらの”モクサン”は目算。自分と相手の陣地の数を脳内で数えることです。これが正確にできるのは高段者でしょう(私はできません)。

その他、装備品名や村人のセリフなどにも大量の囲碁用語が登場。分かる方にはとても納得できる使われ方だと思います。
鉄柱、亀の甲羅、一間高などの囲碁用語のついた装備品。玄玄碁経、官子譜、發陽論などの古典的書物。秀策、算知をはじめ赤星因徹や本因坊丈和などの江戸時代の棋士である登場人物。ノギツネ城(野狐囲碁という中国のネット対局サイト)、絶芸(野狐で対局しているAI)、AyaXbot(囲碁クエストというアプリ内で常駐しているAI)など、現代の囲碁界に関するものまで本当に幅広いです。
ラスボス戦が対AIになるの熱い展開で良いですね。

IGORPG5
(ところで「魔王のメガネ」の魔王って井山裕太さんのことですよね?)

それに加え、先に書いたように本作では詰碁を解いて進んでいくギミックが数多く含まれています。
IGORPG4
上のスクリーンショットのように、いごまるという小さな生き物(タイトル画面の左側にいるやつ)が道をふさいでいる場面にたびたび出合います。近くには詰碁の問題があるので、これに正解すると道を開けてもらえたり、アイテムやお金がもらえたりギミックが進行したりするのです。
ゲームの進行上必須でない隠し要素については詰碁の問題が難しかったりします(とはいえ最難関でも上級程度です。有段レベルの問題はないと思います)

さらにこれらの詰碁を解くと、アイテムの「いごまる詰碁帳」に解いた問題が登録され、何度でも復習可能になります。全部で140問以上あり、解くたびにお金が少しもらえます。たまに「星屑の欠片」という錬金素材アイテムももらえるので積極的に解いていきましょう。(星もれっきとした囲碁用語です)
少し易しめの問題を一目で解けるようになるまで習熟度を上げるというのは囲碁の上達にもかなり役立つ勉強の仕方になると思います。その意味でも詰碁帳を周回するのはおすすめです。


さて、囲碁から離れて本作のRPGとしての部分を見ていきましょう。
戦闘は非常にオーソドックスなターン制でコマンド選択式。癖がなくてなじみやすいシステムと言えるでしょう。毎回戦闘終了後にMPが一定量回復するのでMP節約にあまり気を回さなくて済むのが助かります。

戦闘のバランスとしては、状態異常が強めでしょう。パラメータ的には余裕でも状態異常を食らうだけで一気にピンチになったりするので、装備で対策したり回復アイテムを買い込んだりしておくとよいでしょう。(状態異常の名前が囲碁用語になっていて少しわかりにくいので注意です。”味悪”は毒、”長考”・”駄目詰”は麻痺、”頓死”は即死のことです。その他は囲碁を知らない人でも名前からイメージできる効果だと思います)
状態異常以外においても装備の重要性は高いので、新しいダンジョンに挑む際はぜひいい装備を入手してからにしてください。

本作には錬金システムがあり、詰碁を解くと時々もらえる「星屑の欠片」を使って固有武器を強化したり、その他の装備品を作ったりすることができます。固有武器をMAXまで強化するのはかなり手間がかかりますが、強力なことは間違いありません。私はリーラの銃を真っ先に強化して攻撃力の上がる装飾を持たせ、リーラをアタッカーとして運用しました。2回攻撃はやはり強い。

いったことがある街へのワープができるシステムがないので移動がやや面倒ですが、ダンジョンは一度クリアすれば出口まで即移動できるのでそこまで大変ではないでしょう。

なかなか珍しいと思ったシステムは、「IG→経験値変換」です。IG(イゴールド)というのは本作の通貨単位です。つまり余ったお金を経験値に変換できるのです。
通常のザコ敵で経験値を稼いでレベルアップしていくのも良いのですが、本作はザコ戦で得られるIGが少ないのでこの方法ではお金不足になりやすいです。そこで「いごまる詰碁帳」を解くことで大量のIGと星屑の欠片を稼ぎ、余ったIGを経験値に変換するという方法の方が効率がよさそうです。


というわけで今回は「囲碁RPG」でした。
10級の方だとクリアに結構苦労しそうですが、5級~1級くらいの上級者の方は特に詰碁の復習もできて楽しい作品なんじゃないでしょうか。囲碁の歴史についてもちょっとだけ学べます。
囲碁やったことないよという方は入門編のほうをぜひ。

それでは。

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