こんにちは。
普段私はこのブログで、フリーゲームの紹介・レビューを行い、たまに攻略とか考察系のコラムなどを執筆してきました。今回は初めて書籍の紹介記事を書きたいと思います。
フリーゲーム含むオタク文化に関わる人はぜひ知っておきたい法律関連の解説書、「オタク六法」(小林航太著、KADOKAWA)です。
私はいつも様々なところからフリーゲームに関する情報を入手して、配布サイト等からダウンロードして自分でプレイし、感想をツイートしたりレビューを投稿したりしています。フリーゲーム文化にどっぷり浸かっているわけですが、この界隈特有の揉め事やトラブルも時折耳にします。具体例は挙げませんが、盗作だトレパクだといった著作権関連のものから侮辱・誹謗中傷の類、他にもわいせつ物や暴力表現の規制と表現の自由の対立だったりと、すぐに思い浮かぶものでもこんなにあります。
幸い私自身がこれまでに何らかのトラブルに巻き込まれたことはないのですが、身近にこうした揉め事が存在しているのは嫌ですし、Twitter上で繋がりのある方がトラブルになっているのを見ると当事者でない私でも辛い気持ちになってしまいます。
トラブルの発生自体を完全に防ぐのは無理だとしても、なるべく少なくしたい、万一問題が生じても自信を持って交渉できるようにしたいという思いから著作権法などの知的財産権に関する法律などを軽く勉強しておきたいなと思っていたところで見つけたのが本書でした。どのような内容なのかとどの辺が良かったかを書いていきたいと思います。
本書は5つの章からなっており、「作るときの法律」「見る・見せるための法律」など大まかな場面ごとに分類して解説がなされています。「著作権法」「刑法」「民法」などのように法律ごとの解説ではなく、起こりうるトラブルの事例ごとに解説があるため、勉強のための本や専門書というよりは実用書
といった印象です。その分普段法律に触れない人でも読みやすい内容だと思います。
私が個人的にフリーゲーム関連コミュニティでよく見る揉め事だと思っているのは、著作権関連・誹謗中傷関連の2つだと思っているのでこれらについて本書でどう解説されているかを軽く紹介しましょう。
まずは著作権について。
一言で著作権といっても様々な権利が内包されており、狭義の著作権(著作財産権)・著作者人格権・著作隣接権に分類されます。狭義の著作権もさらに多数の権利の集合体であり、例えばイラストをパクられた、無断転載されたといった場合は具体的には複製権や公衆送信権の侵害となります。
二次創作も厳密には翻案権の侵害となる場合がありますが、原作を盛り上げる意味もあることから現状多くの場合は黙認されています(著作権侵害は親告罪であるため著作権者が黙認する場合罪に問われない)。ゲーム実況についてはもっと黒よりですがこちらも大体の場合は黙認されていますね。
このような事案について、写真パクリ事件、同人誌無断転載事件など具体的な裁判例を交えて解説が加えられています。
このあたりの具体的な権利を確かめていくと、例えばふりーむのめちゃくちゃ長い利用規約を読み解くときの助けにもなるでしょう。
また、そもそも何が著作物に該当するのかの判断も難しいという話もありました。描かれたイラスト自体は著作物ではあるが、作者の画風などは著作物ではなく保護対象にならない、キャラクターの絵なら著作物だがキャラクター自体は著作物ではないなどとても分かりにくいです。このあたりの解像度を上げて勉強するには個別の事例を見ていき空気を感じ取るしかないのかなと思いました。
私はいつもこのブログでフリーゲームのレビューを行っており、その際ゲームのスクリーンショットを掲載し、あらすじなどをまとめ、一部の文言はそのまま記事内で使用したりしています。一応著作権侵害にならないよう、引用の要件を満たす範囲で掲載するように心がけています。本書でも解説がありますが、スクリーンショットなどをそのまま掲載しても合法な引用となる要件は以下の通りです。
と、一応黙認されるだけでなく合法であるように心がけています。(専門家じゃないから実は厳密に見たらアウトな箇所はあるかも。もちろん作者から苦情が来たら対応はします)
Twitter上で感想をつぶやく、というだけだとあまりこの辺の厳密性を気にせずにスクリーンショットを掲載してしまいますね…作者さんに訴えられるようなことは書いていないと思いますが、皆これくらいやってるしいいだろうと気楽にやっている面は否定できないです。
引用というと、私は数年前までは学生で大学にいたものですから学術論文での引用の感覚でいるので、どんどん引用したらいいと思っています。学術論文では先行研究を引用するのは当たり前です。むしろ何も引用しないというのは過去の知見を一切利用しないということですからね。もちろん入学時に不正な引用や剽窃を(意図する/しないに関わらず)しないよう気をつけろというガイダンスをしつこいほど聞かされました。
さて、パクリ疑惑に並んで多いと感じる誹謗中傷事件についてです。
誹謗中傷への対応で法的に根拠にできるのは名誉棄損・侮辱の2つです。刑事上の名誉棄損の成立には事実の摘示が必要なのに対し、侮辱では不要であり刑罰も名誉棄損の方が重くなっています。
民事上の侮辱の場合、被害者の社会的評価を低下させる言動だけでなく、名誉感情を侵害した場合にも適用されるというのは私の知らない内容でした。
これらを踏まえたうえで、「ショップのレビューに暴言と低評価を書きこまれた」「絵をさらしてへたくそと言われた」「VTuberに対して根も葉もないリプが飛んでくる」などの事例に対して一般的な解釈を解説してくれます。
「これらの行為が名誉棄損や侮辱、あるいは脅迫等に該当する」と分かった次の段階、具体的な対処方法についても解説があります。発信者情報開示請求は従来はWebサイト運営者とプロバイダーにそれぞれ別の裁判を起こさなくてはいけませんでしたが、2022年10月以降は一度の手続きで済む新制度が施行されたということで、手続きの負担が軽減されたようです。助かりますね。
Twitterにおいては、誹謗中傷を受けたら裁判を起こして慰謝料をぶんどろう! という内容の投稿がたびたびバズりますが、手続きの負担が軽減されたとはいえ本書を読んだうえでもそんなに簡単ではないぞと思っています。どんな内容の投稿が違法なのか、違法だとして開示請求ができるのか、裁判に勝ったとしても本当に慰謝料を取れるのかなど様々な壁が高く、とても気軽に慰謝料取りに行く、という気持ちになれないと感じました。
とはいえ知識を持っておくだけでも心の支えになる面はあると思いますし、そういう意味では非常に役立つでしょう。いざ弁護士に相談するときの事前準備や心構えといった内容も書かれています。
さて、本書で解説されている内容を少し見てきましたが、その他の点で良いところを2つほど挙げておきましょう。
まず初版発行が昨年11月とかなり新しい点です。上述した開示請求の新制度や、昨年4月の民法改正(18歳成人のやつ)の解説など新しい内容がかなり含まれています。画像生成AIについても触れられていますが、法律が未整備で判例もなく、明確な基準を示すのが難しいんだろうなと感じました。その他、ゆっくり茶番劇騒動やインボイス制度などについての記述もあります。
世間一般の事情もどんどん変わっていきますので、新しい内容がふんだんに含まれるのはとてもありがたいと思います。
もう一つ、時々ちょっとふざけた内容のコラムなどがあって読んでいて面白いです。「漫画などでよく見かけるヒーローの仕事は法的には業務委託?」とか、コラムではありませんが自筆証書遺言の解説で「要件を満たしてさえいれば、語尾が「ぴょん」になっていてもかまいません。」などと真面目に書いてあって笑ってしまいました。
今回は初めての試みとして書籍を紹介してみましたがいかがだったでしょうか。
私のブログを読んで下さる方は多かれ少なかれオタク文化に触れている方だと思いますので、ぜひ読んでみてください。
それでは。
普段私はこのブログで、フリーゲームの紹介・レビューを行い、たまに攻略とか考察系のコラムなどを執筆してきました。今回は初めて書籍の紹介記事を書きたいと思います。
フリーゲーム含むオタク文化に関わる人はぜひ知っておきたい法律関連の解説書、「オタク六法」(小林航太著、KADOKAWA)です。
私はいつも様々なところからフリーゲームに関する情報を入手して、配布サイト等からダウンロードして自分でプレイし、感想をツイートしたりレビューを投稿したりしています。フリーゲーム文化にどっぷり浸かっているわけですが、この界隈特有の揉め事やトラブルも時折耳にします。具体例は挙げませんが、盗作だトレパクだといった著作権関連のものから侮辱・誹謗中傷の類、他にもわいせつ物や暴力表現の規制と表現の自由の対立だったりと、すぐに思い浮かぶものでもこんなにあります。
幸い私自身がこれまでに何らかのトラブルに巻き込まれたことはないのですが、身近にこうした揉め事が存在しているのは嫌ですし、Twitter上で繋がりのある方がトラブルになっているのを見ると当事者でない私でも辛い気持ちになってしまいます。
トラブルの発生自体を完全に防ぐのは無理だとしても、なるべく少なくしたい、万一問題が生じても自信を持って交渉できるようにしたいという思いから著作権法などの知的財産権に関する法律などを軽く勉強しておきたいなと思っていたところで見つけたのが本書でした。どのような内容なのかとどの辺が良かったかを書いていきたいと思います。
本書は5つの章からなっており、「作るときの法律」「見る・見せるための法律」など大まかな場面ごとに分類して解説がなされています。「著作権法」「刑法」「民法」などのように法律ごとの解説ではなく、起こりうるトラブルの事例ごとに解説があるため、勉強のための本や専門書というよりは実用書
といった印象です。その分普段法律に触れない人でも読みやすい内容だと思います。
私が個人的にフリーゲーム関連コミュニティでよく見る揉め事だと思っているのは、著作権関連・誹謗中傷関連の2つだと思っているのでこれらについて本書でどう解説されているかを軽く紹介しましょう。
まずは著作権について。
一言で著作権といっても様々な権利が内包されており、狭義の著作権(著作財産権)・著作者人格権・著作隣接権に分類されます。狭義の著作権もさらに多数の権利の集合体であり、例えばイラストをパクられた、無断転載されたといった場合は具体的には複製権や公衆送信権の侵害となります。
二次創作も厳密には翻案権の侵害となる場合がありますが、原作を盛り上げる意味もあることから現状多くの場合は黙認されています(著作権侵害は親告罪であるため著作権者が黙認する場合罪に問われない)。ゲーム実況についてはもっと黒よりですがこちらも大体の場合は黙認されていますね。
このような事案について、写真パクリ事件、同人誌無断転載事件など具体的な裁判例を交えて解説が加えられています。
このあたりの具体的な権利を確かめていくと、例えばふりーむのめちゃくちゃ長い利用規約を読み解くときの助けにもなるでしょう。
また、そもそも何が著作物に該当するのかの判断も難しいという話もありました。描かれたイラスト自体は著作物ではあるが、作者の画風などは著作物ではなく保護対象にならない、キャラクターの絵なら著作物だがキャラクター自体は著作物ではないなどとても分かりにくいです。このあたりの解像度を上げて勉強するには個別の事例を見ていき空気を感じ取るしかないのかなと思いました。
私はいつもこのブログでフリーゲームのレビューを行っており、その際ゲームのスクリーンショットを掲載し、あらすじなどをまとめ、一部の文言はそのまま記事内で使用したりしています。一応著作権侵害にならないよう、引用の要件を満たす範囲で掲載するように心がけています。本書でも解説がありますが、スクリーンショットなどをそのまま掲載しても合法な引用となる要件は以下の通りです。
- 引用部分がほかとはっきりと区別されていること
- 主従関係が明確であること
- 引用をする必然性があること
- 改変されていないこと
と、一応黙認されるだけでなく合法であるように心がけています。(専門家じゃないから実は厳密に見たらアウトな箇所はあるかも。もちろん作者から苦情が来たら対応はします)
Twitter上で感想をつぶやく、というだけだとあまりこの辺の厳密性を気にせずにスクリーンショットを掲載してしまいますね…作者さんに訴えられるようなことは書いていないと思いますが、皆これくらいやってるしいいだろうと気楽にやっている面は否定できないです。
引用というと、私は数年前までは学生で大学にいたものですから学術論文での引用の感覚でいるので、どんどん引用したらいいと思っています。学術論文では先行研究を引用するのは当たり前です。むしろ何も引用しないというのは過去の知見を一切利用しないということですからね。もちろん入学時に不正な引用や剽窃を(意図する/しないに関わらず)しないよう気をつけろというガイダンスをしつこいほど聞かされました。
さて、パクリ疑惑に並んで多いと感じる誹謗中傷事件についてです。
誹謗中傷への対応で法的に根拠にできるのは名誉棄損・侮辱の2つです。刑事上の名誉棄損の成立には事実の摘示が必要なのに対し、侮辱では不要であり刑罰も名誉棄損の方が重くなっています。
民事上の侮辱の場合、被害者の社会的評価を低下させる言動だけでなく、名誉感情を侵害した場合にも適用されるというのは私の知らない内容でした。
これらを踏まえたうえで、「ショップのレビューに暴言と低評価を書きこまれた」「絵をさらしてへたくそと言われた」「VTuberに対して根も葉もないリプが飛んでくる」などの事例に対して一般的な解釈を解説してくれます。
「これらの行為が名誉棄損や侮辱、あるいは脅迫等に該当する」と分かった次の段階、具体的な対処方法についても解説があります。発信者情報開示請求は従来はWebサイト運営者とプロバイダーにそれぞれ別の裁判を起こさなくてはいけませんでしたが、2022年10月以降は一度の手続きで済む新制度が施行されたということで、手続きの負担が軽減されたようです。助かりますね。
Twitterにおいては、誹謗中傷を受けたら裁判を起こして慰謝料をぶんどろう! という内容の投稿がたびたびバズりますが、手続きの負担が軽減されたとはいえ本書を読んだうえでもそんなに簡単ではないぞと思っています。どんな内容の投稿が違法なのか、違法だとして開示請求ができるのか、裁判に勝ったとしても本当に慰謝料を取れるのかなど様々な壁が高く、とても気軽に慰謝料取りに行く、という気持ちになれないと感じました。
とはいえ知識を持っておくだけでも心の支えになる面はあると思いますし、そういう意味では非常に役立つでしょう。いざ弁護士に相談するときの事前準備や心構えといった内容も書かれています。
さて、本書で解説されている内容を少し見てきましたが、その他の点で良いところを2つほど挙げておきましょう。
まず初版発行が昨年11月とかなり新しい点です。上述した開示請求の新制度や、昨年4月の民法改正(18歳成人のやつ)の解説など新しい内容がかなり含まれています。画像生成AIについても触れられていますが、法律が未整備で判例もなく、明確な基準を示すのが難しいんだろうなと感じました。その他、ゆっくり茶番劇騒動やインボイス制度などについての記述もあります。
世間一般の事情もどんどん変わっていきますので、新しい内容がふんだんに含まれるのはとてもありがたいと思います。
もう一つ、時々ちょっとふざけた内容のコラムなどがあって読んでいて面白いです。「漫画などでよく見かけるヒーローの仕事は法的には業務委託?」とか、コラムではありませんが自筆証書遺言の解説で「要件を満たしてさえいれば、語尾が「ぴょん」になっていてもかまいません。」などと真面目に書いてあって笑ってしまいました。
今回は初めての試みとして書籍を紹介してみましたがいかがだったでしょうか。
私のブログを読んで下さる方は多かれ少なかれオタク文化に触れている方だと思いますので、ぜひ読んでみてください。
それでは。