フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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2024年10月

こんにちは。今回はRtt Projectさんの「プリンキピア・アルケミア」のレビューとなります。

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ジャンル:プログラミング錬金パズルゲーム
プレイ時間:メインストーリークリアまでで1時間程度
分岐:なし
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2021/2


本作は3年前に公開された作品で、私が本作を初めて知ったのは2021年のフリーゲームCMコレクションだったと記憶しています。私が得意そうな雰囲気を読み取れ興味を持ってはいたのですが、DLせずにそのまま3年経過していたようです。先日何のきっかけだったかは忘れたのですがフリーゲーム夢現で本作を発見し、ようやく実際にプレイしてみました。ゲーム説明から期待されるパズル的な面白さはもちろんのこと、コストの最適化に関して考察しがいのある作品だったので今回ご紹介しようと思います。



本作は基本的にはストーリーモードとパズルモードが交互に進行していきます。主人公は19世紀のイギリスで錬金術で商売しています。自分の工房を拡張したり、客からの依頼に応じたりするために錬金術を使っていくことになります。
この錬金を行うパートがパズルの面になっています。このパズルが少々癖のあるものになっていまして、プログラミングの素養のある方ならパッと飲み込めると思いますが、そうでない場合そもそも「入力」「出力」「スタック」などの意味から日常用語と違っていて困惑するかもしれません。この辺りはチュートリアルステージをやりながら覚えていくしかないでしょう。私は以前Wikipediaでなんとなく難解プログラミング言語の一覧を見ていたとき、Befungeという2次元的にソースコードを記述する言語の存在を知っていたので、システムの理解は容易でした。
今このWikipedia記事を読んでみると想像以上に本作の仕様と同じ(その拡張)になってますね。Befungeの言語仕様のうち<>^v#&+%`\$あたりの文字を使えるようにして、元素の結合/分解という操作を付け加えたゲームという感じでしょうか。作者さんもBefungeに影響を受けて作ったゲームであることをあとがきで明言していました。

という背景情報はありつつも、本作のパズル自体は特に前提知識なく解くことができます。
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やることは格子状のフィールドにユニットを配置し下の実行ボタン(右向き三角形)を押すだけ。
スタート地点から順に通った地点にあるユニットに応じて錬金素材の取得と操作、生成物の出力などを行います。その結果出てきたものが目的物と一致すればクリア。上の画像の問題の場合、ガスを2分子取り込んで片方を分解、火の元素を一つ捨てて結合したものを出力すればOK、というのを回路にしたのが正解となります。
このあたりの操作は慣れればすぐできるようになるのですが、条件分岐を使うようになってから難易度が一段階上昇します。

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この問題では入力される素材が一部ランダムとなっています。その中から空気だけを抽出して出力するには、中央にイコールの記号のある制御ユニットを使う必要があります。プログラミングでif文を使うように、スタックに積んだ元素が一致しているかどうかで処理を分けることができるのです。
この画像の場合、取ってきた分子が空気と一致しているならそのまま出力、そうでなければ分解して全部廃棄としています。

これができるようになると格段に回路設計の自由度が増し、様々な問題を解くことができるようになっていきます。

とはいえメインストーリー中の問題はどれもクリアだけを目指す分にはそう難しくありません。私もとりあえずスマートに解くのが難しそうなら力押しの方法でクリアしており、いったん本作はやりつくしたかなと思っていたのです。
しかし作者さんがHPなどで公開している追加問題を見て、本作の秘めた可能性と私のやり残しに気付きました。
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これは作者さん本人のおすすめ問題”金の糸”の私なりの最適解です。金の元素を6個生成してつなぎ合わせる必要があるのですが、ちょうど6個というのが曲者でなかなか苦労しました。これもコストに目をつけずとにかくクリアできればいいというやり方ならさほど難しくはないのですが、追加問題には配布時に目標コストが設定されており、それがこの問題では300Gでした。私のごり押し解法では800Gほどかかっておりコスト削減のし甲斐があるなあと思い3日ほどたった日、6回ループを行う方法の天啓がおりてきました。開始時に出力用金属元素以外にカウンタ変数用の元素をスタックに積んでおき、ループごとに1回変成することによって回路の構造化が可能になると!
これを思いついてしまえばあとは2次元のフィールド上にどうやってこの手順を実現するかを考えるのみ。300Gは多少の試行錯誤で達成することができました。さらに高価なユニットである変成を1か所にまとめて通る向きの縦横で処理を識別するなどの工夫により270Gを達成。Twitter等に上がっている情報を見る限りこれが最適っぽい気がしています。

ここまでくると、単にプログラミングの問題を解いているのとは違った、2次元的に回路を組み上げて最適化するという楽しみ、そしてコスト削減で競い合うという楽しみが加わって本作の魅力を倍にしてくれました。追加問題はまだまだたくさんあるので、やり込みの道は長そうです。

この追加問題を取り込む手順はちょっと面倒かもしれません。問題ファイルをダウンロードし実行ファイルと同階層にUserDataフォルダを作ってそこに配置。ゲームを起動してカスタム問題のフィールド上で右クリック→問題を読込をクリック→ファイル名を入力、としてようやく遊べるようになります。理想的には問題ファイルをゲーム画面上にドラッグ&ドロップしたら上記の手順を勝手にやってくれる、といった機能が欲しいですがウディタの仕様上難しいんでしょうか。手動でUserDataフォルダに配置したら自動的にカスタム問題に並ぶ、という機能でもあったら嬉しいです。

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それ以外のシステムについては不満ありません。ストーリーモード、パズルモードどちらにしても動作は軽快でクリックのレスポンスもいいですし、ストーリーを後から読み返せる機能もついているのがうれしいところです(画像の吹き出しクリックで再生できる)。これができない作品はかなり多いので好印象。
回路の仕様で引っかかった点が1点。条件分岐で、初見の時は結合した分子に対する判定を期待していたので想定していた動作にならず困惑しました。(スタックがA-B A-BならYes, A-A A-BならNoというように分子単位で判定すると思っていたが、実際にはA-Bの部分だけ見てNoと判定されたりA-Aの部分だけ見てYesと判定されたりしているようで、回路の設計を一からやり直す必要が生じてしまった)
あとは初回の名前設定時に最初にEnterを押してしまったらそのまま名前が空で進行してしまったのは微妙かなと思いました。デフォルト名とか欲しいかも。

ちなみに本作のバージョン名がv1.618033と非常に細かい値になっていますが、これは更新ごとに黄金比φ(=(1+√5)/2)の近似値を一桁ずつ増やした結果のようです。Twitter検索では誰も触れてなさそうだったのでちょっとした秘密に気付いた気分でした。


というわけで今回は「プリンキピア・アルケミア」のご紹介でした。
一通りクリアした後はぜひ各ステージのコスト最小化を目指してやり込んでみてください。頭をひねり続けて試行錯誤して、効率的な回路を考え付いた時の達成感は最高です。できればランキングなどあるとさらなるモチベーションになったかも。

それでは。

こんにちは。今回はソロフィリアさんの「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」のレビューとなります。

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ジャンル:芸術家の百合ノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2024/8


本作は今年の夏のコミケで知った作品になります。一目で百合と分かるインパクトあるイラストを中央に持ってきたチラシ、しかもいい紙に印刷されているものを貰い、後でプレイしようと会場で名前を覚えたサークルさんです。実際にプレイするまで1か月かかってしまいましたが、単に可愛らしい女の子同士がイチャイチャしている作品ではなくしっかりとしたテーマと確かな文章力のある作品でしたのでご紹介します。


まずはいつも通りあらすじをご説明。

主人公の六華嗣治(読みは りっか・つぐはる でいいのかな?)は大金持ちの家系に生まれ、一応投資家を生業としているものの稼ぎを出さなくても問題ないため自由にやっているというなんともうらやましい人物です。祖父が芸術系の高校である六華学園に多額の出資をしており、嗣治は学園祭に招待されていました。そんな彼が学園祭で出会ったのは月崎若葉という生徒。彼女の描く絵に一目ぼれした彼は、経済的支援は惜しまないからぜひ芸大へ進んでほしいと提案。さらに大学へ進んだ彼女を住み込みの家政婦として雇い、屋敷の家事を任せる代わりにアトリエや画材を好きに使ってもらうことにします。
そして3年後、同じく若葉の絵に心を動かされて六華学園に進んだ親戚の茶山モカは嗣治へ金銭支援を依頼しに来た日、彼の屋敷で絵を描く若葉と対面。弟子にしてほしいと頼み込みます。そんなモカを追ってきた彼女の友人の黄原めるも混ざって屋敷は突然の百合入り乱れ。彼女らがこれまで積み重ねてきた経験と信念をもとに芸術論を交わし、そして開花する絵画への熱意と才能。芸術を軸に絡まりあって成長する百合物語が始まるのだった…

こんな感じでしょうか。


本作の序盤はコメディ的雰囲気多めで進行していきます。ヒロイン若葉は機械が苦手でコーヒーメーカーから白湯を出したりしてますし、なぜか趣味でメイド服を着ています。嗣治は悪い人ではないですが何かとからかわれがちなキャラ。お金持ちなのに家電選びが異様に優柔不断ですし、学園祭で初めて若葉にあった時には変態扱いされて(実際かなり奇特な行動でしょう)、モカちゃんには引きこもりとか暇人とか言われたい放題。特にこのモカちゃんはかなり気の強い毒舌キャラなため、彼女との絡みは特に笑えます。まあ、それは言いすぎじゃない?っていうのもありますが…
そんなモカが若葉と出会うシーン。ここから物語が大きく動き始めます。

自身に進路を決意させた若葉を前にして心酔した様子のモカ。対する若葉の方も、強い決意や行動力を秘めたモカの姿に胸を高鳴らせます。出会って早々に百合カップルの誕生か…? と思いきやそう簡単に事は運びません。今度はとにかくモカのことが大好きな少女黄原めるが乱入しまさかの百合三角関係が発生するのでした。
しかも翌朝には、若葉の趣味で女の子は全員メイド服姿に。めるはいいとして若干不満そうな表情ながらもきっちりメイド服を着こなしたモカを見てなんか笑っちゃいました。

これ、その時の立ち絵自体がふざけていて面白いのかというとそうではなくて、モカのキャラクター性と衣装の不一致(あと表情と台詞)が面白いんです。つまり、これは本作において各キャラクターが活き活きと描かれていることの証左だと思うのです。そして、それぞれの人物がどのような背景と考え方を持っているのかという描写は、後半の展開へとつながるカギとなります。


とはいえここまで読んだ私の感想としては、これは可愛い女の子たちがイチャイチャしてるのを眺める萌え系コメディだろうと思っていたのです。実際この後もしばらくは甘々ラブコメが続いていきます。
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作品ページのサムネイルにも使われているこのキスシーン。なんという甘さでしょうか。
モカちゃんの方から勢い余ってしてしまったという、いかにもラブコメでありそうな展開なのですが、このあたりから本作の別の顔が見えてくるのです。


翌日、画材を買いに行く道中で若葉がモカの過去を聞いたり、モカに若葉の新しい絵のモデルになってもらったりといった過程で次第に明らかになってくる皆の絵画への思いと人生観。若葉がなぜメイドにこだわるのか、モカの強気な性格の源泉は何なのか、絵画の作風と表現対象への思い入れ。そういった要素が物語としての展開や人間関係につながってくるところが非常にうまいと感じました。


これについてはあまり書きすぎるとネタバレになるので1つだけ挙げておきましょう。
若葉が幼いころに聞いたおとぎ話には決まってお嬢様とそのお世話をするメイドが登場しました。しかしどんなお話もお嬢様は王子様に見初められ、最後には結婚して幸せに暮らすのです。そこに彼女を支えてきたメイドの姿はありません。そんなお決まりの運命に逆らうために、若葉はメイドとお嬢様だけの物語を紡ぐことを決めたのでした。
なるほどここまで聞くと、彼女がメイドの姿で美少女の絵を描き、嗣治に対してもメイドを演じる理由が分かります。しかしこの設定はそれだけではないのです。

おとぎ話の世界から綺麗なお嬢様を絵画という形で顕現させるのが自分の使命だと思っていた若葉。ファンタジーの世界から形ある絵としてこの世に生み出すという方法でこれまで制作を行っていたため、彼女の絵にもともとモデルは不要だったのです。しかしそこに突然現れたモカはあまりに彼女の理想とするお嬢様に近すぎました。”可憐でありながら、湧き出るマグマのように力強い瞳を持った少女”であるモカに自身の理想を重ねて同一視するようになります。これはモカにとっては残念なことでありました。

初登場時に出てきたように、モカは若葉の描く絵に惚れたのです。そんな彼女が絵を描くことへの興味を失い、モカの存在を見るだけになってしまった。しかも彼女が見ているのはそれまでの人生と人脈と芸術観を持った個性ある人間としてのモカではなく、若葉の脳内に存在する理想のお嬢様の残像でしかないのです。このすれ違いが明らかになりモカはショックを受けて一人自宅へと帰ってしまうのです。


このシーン、私はすごく唸らされたんです。ついさっきまで仲良し百合を見せられていたのに、しかも2人とも美術という同じ業界にいることに意気投合していたのに。こんなことになるとは想像できなかった。しかし同時に納得感のある展開でもあるんです。それぞれの人物の考え方がしっかり伝わるシナリオとなっている故でしょう。このように、人物にまつわる設定が発展してほかの人物と絡まりあって物語を前進させていく、そうしたところに本作の良さが詰まっているように感じるのです。

演出手法についてもよく考えられていて、前半におとぎ話とか映画に関連するエピソードが出てきたのを受けて、終盤でレトロ映画風のシーンが挟まったりといった気持ちよさが随所に感じられます。

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ここまでレビューであまり触れてこなかっためるについても同様です。むしろ終盤は彼女の見せ場。感情が高ぶれば校舎や校門にまで絵を描いて歯止めが利かない問題児のめるでしたが、その独特な芸術観と感情の機微を見逃さない観察眼はすれ違いを起こした若葉とモカを救ってくれました。猪突猛進で多少言葉が悪かったりもしますが、彼女の熱意がなければ若葉とモカはあそこから前に進むことはできなかったでしょう。本当にいいキャラしてるなと思います。

そんな3人がこの件をどのように消化して芸術への糧にするのか、それはぜひ皆さんの手で見届けてあげてください。


話は変わりまして本作のイラストなどシナリオ以外の部分について。
絵を描く少女たちの話なだけあって大変可愛らしい立ち絵がそろっています。メイド服も細かいところまで書き込まれていて凄い。制服立ち絵だけ左右反転時に胸ポケットの位置が矛盾するのが気になる、といったところでしょうか。
背景は写真素材です。お屋敷や美術館の品のある感じが演出されていてピッタリなんじゃないでしょうか。BGMに関してはピアノ曲中心でやや渋めの選曲。これも芸術というテーマにマッチしているように感じます。
システムに関してはもう少し頑張ってほしかったというところでしょうか。レビュー執筆のために特定のシーンを読み返そうと文章スキップしたらフリーズしたとか、背景が真っ黒で動かないとかの状況が多発してしまいました。


というわけで今回は「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」でした。
以前ちらっと言った、ノベルゲームの総合芸術的な面が生きた作品となっていますので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

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