こんにちは。今回のレビューはルピナスパレットさんの「インビジブル」です。

オススメ!
ジャンル:現代異能ファンタジーノベルゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:10時間
分岐:エンディング2種、その他GAME OVERあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:製品版あり
本作は割と有名な作品かと思うのですが、長大なプレイ時間とあまり私の趣味ではないジャンルを見てなかなか手が出せなかった作品になります。しかし今週プレイしてみたところ本当によくできていて、10時間があっという間と思えるような作品でしたので、ぜひ今回ご紹介しようと思ってレビューを書くことにしました。
いつも通り本作のあらすじを説明しましょう。
初花市では奇妙な都市伝説が広く言い伝えられています。地下鉄の初花駅から環状線を一周すると自分のドッペルゲンガーに出会うことができ、そのドッペルゲンガーを殺すと願いが叶うという、なんとも気味が悪いお話です。さらにはその都市伝説を実行した人が次々と行方不明になっているというのです。
主人公の如月(きさらぎ)つぐみはそんな初花市のとある喫茶店で記憶喪失の状態で目を覚まします。店を出て当てもなくさまよっていると、突然謎の深い霧に飲み込まれ、その中で謎の化け物が少女を襲っているのを発見します。偶然居合わせた朝岡蓮(あさおか・れん)と一緒に何とかその少女、白崎茉莉花(しらさき・まりか)を救出することに成功します。自分の正体も、謎の霧で襲ってきた化け物の正体も分からない3人は、自称オカルト研究家の坂倉出(さかくら・いづる)に助けを求めます。坂倉の言うことには、都市伝説を実行した人間は”インビジブル”と呼ばれる異能を習得し、さらにはその研究のために設立された組織”アンノウン”が存在するというのです。
果たして都市伝説は本当なのか、なぜ黒い霧が襲ってくるのか、つぐみの記憶は戻るのか。いくつもの謎を解決するため、3人はアンノウンの本部へと向かうのだった…

本作はプレイ時間にして10時間ほどとかなり長い作品ですので、上の説明でも物語の冒頭1割くらいの内容になります。長編作品の難しいところの1つとして、読者を飽きさせないような展開、上手く引き付けておくための情報開示の仕方といったところがあると思います。本作はこれらの点において非常に上手く作られていると思うんですよね。
全6章+プロローグ・エピローグという構成を持つ本作ですが、最初に生まれた直接的な危険である黒い霧の能力に関しては物語半ばの3章でいったんの解決を見ます。しかしそのころには別の謎がつぐみたちとプレイヤーを悩ませており、全く飽きるポイントがないんですよね。異能の正体、黒霧を操っていた黒幕の正体、つぐみの記憶にアンノウンの目的など様々な謎が提示され、そして絡まり合いながら最後に解決していくさまはお見事というほかありません。
この情報や謎の提示の仕方、それを適度に引っ張りながら順に解決していく物語の組み立てのうまさは、古典的名作である「ひとかた」を連想させます。本作にはループ要素はないわけですが、異能ファンタジーも妖怪と戦う伝奇物語というジャンルと似ているかもしれませんね。
本作では5章までですべての謎につながる情報は開示され、5章後半からは解決編といった流れになります。私は、異能とはどのようにして得られるのか、都市伝説を実行した結果何が起きたのかについては
解決編前に察することができて大変気持ち良かったのですが、それは本作がうまく読者への情報提供と誘導を行っていたからでしょう。
そして最終章ではラスボスとの対決が待っています。アクションシーンの描き方も一級品です。
ノベルゲームというのはやはりどうしても動きのあるシーンの迫力を演出するのが難しいと思うのですが、本作は文字だけで緊張感のある戦闘シーンを描くことに成功していると感じます。なぜか。それを考えたときに思い当たったのは、私の本作への感情移入度の高さでした。
本作では解決編に至るまでの間、異能に関する謎解きと並行してキャラクターの掘り下げが巧みに行われています。美弥子の怒りも、霧島の性格も、蓮の意地も、篠塚の思いも、すべてを理解して突入したラスボス戦だからこそプレイヤーもつぐみたちを全力で応援できるんですよね。迫力のある動画コンテンツなどなくても、私の登場人物への思いが想像をかき立ててくれます。戦闘中に相手を挑発したり、心理描写に文字数を割いたりといった表現の仕方もプレイヤーに緊張感と想像力を与える助けになっているでしょう。さらにそれ自体がラスボスを倒す切り札への布石になっているのだから大したものです。
さて、その登場人物の掘り下げがどのように行われているかです。
都市伝説に関わる謎がメインテーマであることは間違いない本作ですが、その謎を解いていくには構造上登場人物たちの悩みであったり、心の傷であったりといったものを明らかにし、それを乗り越えていかなくてはならないという仕掛けが組み込まれています。
ドッペルゲンガーを殺して手に入る異能は個人ごとに異なります。ところがその異能はランダムに付与されるわけではなく、都市伝説を実行した張本人が抱えている悩みやトラウマが反映されたものになりやすいというのです。ということは必然的に、異能に関する秘密を明らかにしていくには能力者自身の過去や精神状態に迫っていく必要が生じる。このように本筋に絡めながら各キャラクターの背景を描き、成長していく姿を見せるという手法にはなるほどと思わされました。

例えば、初めて会った時からなんだかんだでそりが合わず、口喧嘩の絶えなかった蓮と茉莉花の2人は2章でついに茉莉花の一言で完全に決裂してしまいます。茉莉花には何も考えていないクルクル扱いされていた蓮ですが、彼は彼なりに弟との関係について深く悩んでいたのです。
そのように迷いを抱えた中で、そして仲間との信頼関係がまだ出来上がっていない中で1章で現れた黒い霧は再び襲ってきます。目の前に迫った危機に対し、不器用ながらも仲間を信じることを覚え、何とか危機を脱して一皮むけたように成長した彼らを見ていくのは何とも気持ちいいものです。
3章に入ったころには、蓮も茉莉花もしっかりと相手に向き合うことができるようになっています。茉莉花に至っては、自分が自信を持つようになれたのはつぐみのおかげであるとはっきり伝えられるようになりました。このような、思春期らしい悩みを乗り越えて成長していく青春物語を私は予期していなかったため、意外に思いながらも楽しく読み進めていくことができました。
さて、本作ではラスボス戦以外にも途中で何回か戦闘シーンが挟まります。どれも緊張感のある展開で、それぞれいくつかの選択肢が出現します。間違えるとゲームオーバーになる箇所もありますが、多くはそれまでの展開をきっちり覚えていれば正解できるものになっています。
そして選択肢はラスボスを倒した後の最後にも。明らかに分岐すると分かる重要な選択肢です。ぜひ2つの結末を両方見届けてあげましょう。
BGMはおそらく自作で、場面の雰囲気に合ったものが選定されている印象です。音程の無い不気味な感じの曲が好きでしたがどのシーンで使われてたのか思い出せない…
グラフィックも、衣装差分も含めて多くのキャラクターが登場してすごいなあと思わされるところです。あと純粋に可愛らしいですしね。私も蓮と律のほっぺを引っ張ってみたいししーちゃんに冷たい目を向けられてみたい(笑)
スチル閲覧モードが切実に欲しいところです。

最後に製品版の紹介を少しだけしておきましょう。
パートボイス仕様だったフリー版をフルボイスにし、追加シナリオが読めるようになったバージョン、「インビジブル 蒼のフラグメント」が公開中です。私はまだプロローグまでしかプレイしていないので細かいことは分かりませんが、幕間シナリオやギャラリーも解放されているようなので、ゆっくりと楽しみにしておきたいと思います。一部テキストの修正やUI配置等の改善も入っているようですね。
フリー版でも十分きれいに完結した物語が楽しめますので、ぜひプレイしてみてください。そして都市伝説の秘密を解き明かしましょう。
全部プレイするにはかなりの時間がかかりますが、それに見合った満足感が得られるはずです。
それでは。

オススメ!
ジャンル:現代異能ファンタジーノベルゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:10時間
分岐:エンディング2種、その他GAME OVERあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:製品版あり
本作は割と有名な作品かと思うのですが、長大なプレイ時間とあまり私の趣味ではないジャンルを見てなかなか手が出せなかった作品になります。しかし今週プレイしてみたところ本当によくできていて、10時間があっという間と思えるような作品でしたので、ぜひ今回ご紹介しようと思ってレビューを書くことにしました。
いつも通り本作のあらすじを説明しましょう。
初花市では奇妙な都市伝説が広く言い伝えられています。地下鉄の初花駅から環状線を一周すると自分のドッペルゲンガーに出会うことができ、そのドッペルゲンガーを殺すと願いが叶うという、なんとも気味が悪いお話です。さらにはその都市伝説を実行した人が次々と行方不明になっているというのです。
主人公の如月(きさらぎ)つぐみはそんな初花市のとある喫茶店で記憶喪失の状態で目を覚まします。店を出て当てもなくさまよっていると、突然謎の深い霧に飲み込まれ、その中で謎の化け物が少女を襲っているのを発見します。偶然居合わせた朝岡蓮(あさおか・れん)と一緒に何とかその少女、白崎茉莉花(しらさき・まりか)を救出することに成功します。自分の正体も、謎の霧で襲ってきた化け物の正体も分からない3人は、自称オカルト研究家の坂倉出(さかくら・いづる)に助けを求めます。坂倉の言うことには、都市伝説を実行した人間は”インビジブル”と呼ばれる異能を習得し、さらにはその研究のために設立された組織”アンノウン”が存在するというのです。
果たして都市伝説は本当なのか、なぜ黒い霧が襲ってくるのか、つぐみの記憶は戻るのか。いくつもの謎を解決するため、3人はアンノウンの本部へと向かうのだった…

本作はプレイ時間にして10時間ほどとかなり長い作品ですので、上の説明でも物語の冒頭1割くらいの内容になります。長編作品の難しいところの1つとして、読者を飽きさせないような展開、上手く引き付けておくための情報開示の仕方といったところがあると思います。本作はこれらの点において非常に上手く作られていると思うんですよね。
全6章+プロローグ・エピローグという構成を持つ本作ですが、最初に生まれた直接的な危険である黒い霧の能力に関しては物語半ばの3章でいったんの解決を見ます。しかしそのころには別の謎がつぐみたちとプレイヤーを悩ませており、全く飽きるポイントがないんですよね。異能の正体、黒霧を操っていた黒幕の正体、つぐみの記憶にアンノウンの目的など様々な謎が提示され、そして絡まり合いながら最後に解決していくさまはお見事というほかありません。
この情報や謎の提示の仕方、それを適度に引っ張りながら順に解決していく物語の組み立てのうまさは、古典的名作である「ひとかた」を連想させます。本作にはループ要素はないわけですが、異能ファンタジーも妖怪と戦う伝奇物語というジャンルと似ているかもしれませんね。
本作では5章までですべての謎につながる情報は開示され、5章後半からは解決編といった流れになります。私は、異能とはどのようにして得られるのか、都市伝説を実行した結果何が起きたのかについては
解決編前に察することができて大変気持ち良かったのですが、それは本作がうまく読者への情報提供と誘導を行っていたからでしょう。
そして最終章ではラスボスとの対決が待っています。アクションシーンの描き方も一級品です。
ノベルゲームというのはやはりどうしても動きのあるシーンの迫力を演出するのが難しいと思うのですが、本作は文字だけで緊張感のある戦闘シーンを描くことに成功していると感じます。なぜか。それを考えたときに思い当たったのは、私の本作への感情移入度の高さでした。
本作では解決編に至るまでの間、異能に関する謎解きと並行してキャラクターの掘り下げが巧みに行われています。美弥子の怒りも、霧島の性格も、蓮の意地も、篠塚の思いも、すべてを理解して突入したラスボス戦だからこそプレイヤーもつぐみたちを全力で応援できるんですよね。迫力のある動画コンテンツなどなくても、私の登場人物への思いが想像をかき立ててくれます。戦闘中に相手を挑発したり、心理描写に文字数を割いたりといった表現の仕方もプレイヤーに緊張感と想像力を与える助けになっているでしょう。さらにそれ自体がラスボスを倒す切り札への布石になっているのだから大したものです。
さて、その登場人物の掘り下げがどのように行われているかです。
都市伝説に関わる謎がメインテーマであることは間違いない本作ですが、その謎を解いていくには構造上登場人物たちの悩みであったり、心の傷であったりといったものを明らかにし、それを乗り越えていかなくてはならないという仕掛けが組み込まれています。
ドッペルゲンガーを殺して手に入る異能は個人ごとに異なります。ところがその異能はランダムに付与されるわけではなく、都市伝説を実行した張本人が抱えている悩みやトラウマが反映されたものになりやすいというのです。ということは必然的に、異能に関する秘密を明らかにしていくには能力者自身の過去や精神状態に迫っていく必要が生じる。このように本筋に絡めながら各キャラクターの背景を描き、成長していく姿を見せるという手法にはなるほどと思わされました。

例えば、初めて会った時からなんだかんだでそりが合わず、口喧嘩の絶えなかった蓮と茉莉花の2人は2章でついに茉莉花の一言で完全に決裂してしまいます。茉莉花には何も考えていないクルクル扱いされていた蓮ですが、彼は彼なりに弟との関係について深く悩んでいたのです。
そのように迷いを抱えた中で、そして仲間との信頼関係がまだ出来上がっていない中で1章で現れた黒い霧は再び襲ってきます。目の前に迫った危機に対し、不器用ながらも仲間を信じることを覚え、何とか危機を脱して一皮むけたように成長した彼らを見ていくのは何とも気持ちいいものです。
3章に入ったころには、蓮も茉莉花もしっかりと相手に向き合うことができるようになっています。茉莉花に至っては、自分が自信を持つようになれたのはつぐみのおかげであるとはっきり伝えられるようになりました。このような、思春期らしい悩みを乗り越えて成長していく青春物語を私は予期していなかったため、意外に思いながらも楽しく読み進めていくことができました。
さて、本作ではラスボス戦以外にも途中で何回か戦闘シーンが挟まります。どれも緊張感のある展開で、それぞれいくつかの選択肢が出現します。間違えるとゲームオーバーになる箇所もありますが、多くはそれまでの展開をきっちり覚えていれば正解できるものになっています。
そして選択肢はラスボスを倒した後の最後にも。明らかに分岐すると分かる重要な選択肢です。ぜひ2つの結末を両方見届けてあげましょう。
BGMはおそらく自作で、場面の雰囲気に合ったものが選定されている印象です。音程の無い不気味な感じの曲が好きでしたがどのシーンで使われてたのか思い出せない…
グラフィックも、衣装差分も含めて多くのキャラクターが登場してすごいなあと思わされるところです。あと純粋に可愛らしいですしね。私も蓮と律のほっぺを引っ張ってみたいししーちゃんに冷たい目を向けられてみたい(笑)
スチル閲覧モードが切実に欲しいところです。

最後に製品版の紹介を少しだけしておきましょう。
パートボイス仕様だったフリー版をフルボイスにし、追加シナリオが読めるようになったバージョン、「インビジブル 蒼のフラグメント」が公開中です。私はまだプロローグまでしかプレイしていないので細かいことは分かりませんが、幕間シナリオやギャラリーも解放されているようなので、ゆっくりと楽しみにしておきたいと思います。一部テキストの修正やUI配置等の改善も入っているようですね。
フリー版でも十分きれいに完結した物語が楽しめますので、ぜひプレイしてみてください。そして都市伝説の秘密を解き明かしましょう。
全部プレイするにはかなりの時間がかかりますが、それに見合った満足感が得られるはずです。
それでは。
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