こんにちは。今回は現屋さんの「よんひくいちは」のレビューとなります。

ジャンル:不思議な友情ものノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2014/3
フリゲ2023の審査進行表を見ていて本作の名前を見つけました。プレイしたことはないけれどなんか聞いたことのあるタイトルだなと思ってググってみると、道玄斎さんのレビュー記事がヒットして、ああここで見たことがあったのかと納得(ついでにシートにDL先URLをコメント追加)。せっかくなのでプレイしてみることにしました。すると思いのほか良い作品だったのでここでご紹介しようと思います。
主人公の伊勢部宥太(いせべ・ゆうた)は高校2年生。中学時代に突然「未来予知ができる」という不思議な力を得た彼は、表面的な友人付き合いに意味を見出せなくなっていつも一人で過ごしていました。そんな彼はある日クラスメイトの後先凌太(あとさき・りょうた)が1か月以内に主人公になる、という突拍子もない予言を得て彼に興味を持ち、久しぶりの友人関係が始まります。さらには「伊勢部宥太は世界を救う」というとんでもない未来予知まで登場。愛敬寛(あいきょう・さとる)、門馬黒助(とば・くろすけ)という仲間も加わり、通常の意味での友人もできていく中、突然始まった自分だけの非日常をどのように生き抜いていくのでしょうか…
さて、本作を読了した私は先述の道玄斎さんのレビューを読んでみました。すると私が感じたこととかなり近い感想が書かれておりびっくり。
まず、本作は出だしから物語に引き込む力が強いんです。冒頭に意味深な回想シーンが少しだけあり、その後はすぐに登校シーンとなるのですが、この日常的なシーンだけでプレイヤーに強く興味を引かせる内容になっています。「しばらくは自転車を使わないこと」などの不自然な指示だったりまるで後ろから親戚のおじさんが来るのが分かっていたかのような書きぶりだったり。明言しなくてもこれだけで、「あ、これは何らかの能力があるパターンかな」というように理解できます。
その後もちろん未来予知ができることは明らかにされるのですが、それまでの段階で既に(この物語は面白いぞ)という予感(これは予知ではないでしょう)を強く感じさせてくれるんです。

そしてこの未来予知という力も万能ではありません。誰が何をするか、というのははっきりと分かるものの、場所や時期は不明な場合もあります。そして冒頭で書いたように「主人公になる」「世界を救う」といった曖昧なものまで。こうした設定によって、予知された未来が回避できるかどうか不明といったドキドキする展開につながっていくのです。
さらには文章力も確かで、予知という能力の開花によってやたら冷めた人物となってしまった宥太にぴったりの、堅めで時には皮肉的な文章にうならされます。メッセージウィンドウではなく全面に文章を表示するシステムを取っているのも文体にマッチしているでしょう。文章がやや難しいなと感じる作品ではありますが、これもゲームというより小説的だと思うと合点がいきます。
こうした要素が重なり合って、もう私は開始5分とか10分とかの段階で「これはすごいからレビューを書こう」という気持ちになっていたんです。このくらい”面白さの初速”が速い作品ってなかなか珍しいと思うんですよね。私が最近読んだ作品でいうと「インビジブル」とか「道徳ビデオ」とかがこのタイプなんですが、本作は開始5分でこれらに負けないようなワクワク感を見せてくれました。
さて、本作にはこの未来予知という大きな設定があるわけなんですが、軸となっているのは予知に関するミステリーだったりサスペンスではなく、宥太の友情なんです。物語開始時点の宥太は私から見ると”嫌なヤツ”です。冷淡だし、予知を元に危機回避をしてくれる時も単に指示を出すだけ。(本人も自覚してますが)あの言い方だと「コイツ、すげ~」ではなく「なんかヤベー奴がいるから逆らわないでおこう」と私だったら感じるでしょう。しかしそれは宥太がもともとそういう性格だったわけではなく、予知能力に目覚めてしまってから身に着けた処世術みたいなものだったのです。
そんな宥太が”主人公の予知”をきっかけとして、最初は打算的なところがありつつも普通の友情を築いていくさまは見ていて気持ちが良いです。普通の人に自分の能力について話したところで気持ち悪がられるだけです。そんな能力について追及するでもなく、また否定するでもなく。そんな適度な距離間で接してくれる凌太たちは本当に良い友達ですね。

こうした男の子たちの友情を描いた作品って意外と思い当たりません。女の子が出てきて恋愛がらみの描写が含まれていたり、あるいはBL的な展開になったりといった作品が多い中でなかなか新鮮に感じられました。
さらに本作で珍しいと思うのは、主人公の母親がそれに積極的に影響してくることでしょう。
以前、主人公の親ってあんまり出てこないよね~っていう記事を書いたりもしました。ちょっと不自然でも海外出張に行っていることにされちゃったりして物語中に一切登場しないことも多い両親ですが、それだけ思春期真っただ中の中高生からしてみればうっとおしくて、いない方が物語上都合がいいということでしょう。
しかし本作においては母親は結構重要な役割を果たします。宥太は予知能力に関する折り合いの付け方を母親を介して身に着けていったんだろうなと感じられますし、その母親が息子である宥太をなぜ信じているのか、といったところが宥太が友人との間に不要な猜疑心を持たなくてよい、といった学びにつながっていくのです。このように本質的な意味で主人公の成長に影響する作品は貴重だなと思います。これも私がプレイした作品でいうと「あなたの命の価値」以来でしょうか(あの作品においては負の影響でしたが)。
本作は基本的に写真背景と全面に表示されるテキストで画面が構成されていますが、時折重要なシーンで登場する一枚絵がまた印象的です。立ち絵もあるんですが使用回数が控えめなので、大きな動きのあるシーンでいきなり絵が出てくるとなかなかインパクトがあるんですよね。最後の黒助とのシーンなんかは表情もいいなあと思います。
そんな本作ですが、途中で発生した謎がすっきり解決しておしまい、といったタイプの物語ではないです。もちろんふんわりとした答えみたいなものは与えられていて、またこの不思議なタイトル(ググると計算結果を教えてくれます)の意味するところも分かってくるのですが、答えを求めるタイプの人はちょっともやもやの残るエンディングと感じるでしょう(私もどっちかというとこのタイプ)。
”世界を救う”についても、謎が明らかにされるというよりは空から答えが降ってきたという感じの回収方法になっているのでSFみたいにかっちりした設定みたいなものを期待していると肩透かしを食らうかもしれません。
しかし宥太たちの友情関係であったりタイトルの意味からすると一つの物語としてまとまっており、このエンディングも不思議な世界観の演出に一役買っているともいえるでしょう。
気になるのはそのエンディングにてムービーが再生されないことです。ReadMe内では、Windows8ではクリックしないと進まないかも、みたいな表記があったのでいろいろクリックしたり互換モードで起動したりしてみたのですが、私の環境(Windows 10 Home 22H2)では真っ白な状態のまま動かなくなってしまいました。その後ゲーム再起動したらタイトル画面が変わっていたので、エンディングに到達したことは正しく判定されていそうなのですが…。
というわけで今回は「よんひくいちは」でした。
とりあえずDLして読み始めてみれば、きっと5分で本作のすごさに気付くでしょう。ぜひプレイしてみてください。
それでは。

ジャンル:不思議な友情ものノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2014/3
フリゲ2023の審査進行表を見ていて本作の名前を見つけました。プレイしたことはないけれどなんか聞いたことのあるタイトルだなと思ってググってみると、道玄斎さんのレビュー記事がヒットして、ああここで見たことがあったのかと納得(ついでにシートにDL先URLをコメント追加)。せっかくなのでプレイしてみることにしました。すると思いのほか良い作品だったのでここでご紹介しようと思います。
主人公の伊勢部宥太(いせべ・ゆうた)は高校2年生。中学時代に突然「未来予知ができる」という不思議な力を得た彼は、表面的な友人付き合いに意味を見出せなくなっていつも一人で過ごしていました。そんな彼はある日クラスメイトの後先凌太(あとさき・りょうた)が1か月以内に主人公になる、という突拍子もない予言を得て彼に興味を持ち、久しぶりの友人関係が始まります。さらには「伊勢部宥太は世界を救う」というとんでもない未来予知まで登場。愛敬寛(あいきょう・さとる)、門馬黒助(とば・くろすけ)という仲間も加わり、通常の意味での友人もできていく中、突然始まった自分だけの非日常をどのように生き抜いていくのでしょうか…
さて、本作を読了した私は先述の道玄斎さんのレビューを読んでみました。すると私が感じたこととかなり近い感想が書かれておりびっくり。
まず、本作は出だしから物語に引き込む力が強いんです。冒頭に意味深な回想シーンが少しだけあり、その後はすぐに登校シーンとなるのですが、この日常的なシーンだけでプレイヤーに強く興味を引かせる内容になっています。「しばらくは自転車を使わないこと」などの不自然な指示だったりまるで後ろから親戚のおじさんが来るのが分かっていたかのような書きぶりだったり。明言しなくてもこれだけで、「あ、これは何らかの能力があるパターンかな」というように理解できます。
その後もちろん未来予知ができることは明らかにされるのですが、それまでの段階で既に(この物語は面白いぞ)という予感(これは予知ではないでしょう)を強く感じさせてくれるんです。

そしてこの未来予知という力も万能ではありません。誰が何をするか、というのははっきりと分かるものの、場所や時期は不明な場合もあります。そして冒頭で書いたように「主人公になる」「世界を救う」といった曖昧なものまで。こうした設定によって、予知された未来が回避できるかどうか不明といったドキドキする展開につながっていくのです。
さらには文章力も確かで、予知という能力の開花によってやたら冷めた人物となってしまった宥太にぴったりの、堅めで時には皮肉的な文章にうならされます。メッセージウィンドウではなく全面に文章を表示するシステムを取っているのも文体にマッチしているでしょう。文章がやや難しいなと感じる作品ではありますが、これもゲームというより小説的だと思うと合点がいきます。
こうした要素が重なり合って、もう私は開始5分とか10分とかの段階で「これはすごいからレビューを書こう」という気持ちになっていたんです。このくらい”面白さの初速”が速い作品ってなかなか珍しいと思うんですよね。私が最近読んだ作品でいうと「インビジブル」とか「道徳ビデオ」とかがこのタイプなんですが、本作は開始5分でこれらに負けないようなワクワク感を見せてくれました。
さて、本作にはこの未来予知という大きな設定があるわけなんですが、軸となっているのは予知に関するミステリーだったりサスペンスではなく、宥太の友情なんです。物語開始時点の宥太は私から見ると”嫌なヤツ”です。冷淡だし、予知を元に危機回避をしてくれる時も単に指示を出すだけ。(本人も自覚してますが)あの言い方だと「コイツ、すげ~」ではなく「なんかヤベー奴がいるから逆らわないでおこう」と私だったら感じるでしょう。しかしそれは宥太がもともとそういう性格だったわけではなく、予知能力に目覚めてしまってから身に着けた処世術みたいなものだったのです。
そんな宥太が”主人公の予知”をきっかけとして、最初は打算的なところがありつつも普通の友情を築いていくさまは見ていて気持ちが良いです。普通の人に自分の能力について話したところで気持ち悪がられるだけです。そんな能力について追及するでもなく、また否定するでもなく。そんな適度な距離間で接してくれる凌太たちは本当に良い友達ですね。

こうした男の子たちの友情を描いた作品って意外と思い当たりません。女の子が出てきて恋愛がらみの描写が含まれていたり、あるいはBL的な展開になったりといった作品が多い中でなかなか新鮮に感じられました。
さらに本作で珍しいと思うのは、主人公の母親がそれに積極的に影響してくることでしょう。
以前、主人公の親ってあんまり出てこないよね~っていう記事を書いたりもしました。ちょっと不自然でも海外出張に行っていることにされちゃったりして物語中に一切登場しないことも多い両親ですが、それだけ思春期真っただ中の中高生からしてみればうっとおしくて、いない方が物語上都合がいいということでしょう。
しかし本作においては母親は結構重要な役割を果たします。宥太は予知能力に関する折り合いの付け方を母親を介して身に着けていったんだろうなと感じられますし、その母親が息子である宥太をなぜ信じているのか、といったところが宥太が友人との間に不要な猜疑心を持たなくてよい、といった学びにつながっていくのです。このように本質的な意味で主人公の成長に影響する作品は貴重だなと思います。これも私がプレイした作品でいうと「あなたの命の価値」以来でしょうか(あの作品においては負の影響でしたが)。
本作は基本的に写真背景と全面に表示されるテキストで画面が構成されていますが、時折重要なシーンで登場する一枚絵がまた印象的です。立ち絵もあるんですが使用回数が控えめなので、大きな動きのあるシーンでいきなり絵が出てくるとなかなかインパクトがあるんですよね。最後の黒助とのシーンなんかは表情もいいなあと思います。
そんな本作ですが、途中で発生した謎がすっきり解決しておしまい、といったタイプの物語ではないです。もちろんふんわりとした答えみたいなものは与えられていて、またこの不思議なタイトル(ググると計算結果を教えてくれます)の意味するところも分かってくるのですが、答えを求めるタイプの人はちょっともやもやの残るエンディングと感じるでしょう(私もどっちかというとこのタイプ)。
”世界を救う”についても、謎が明らかにされるというよりは空から答えが降ってきたという感じの回収方法になっているのでSFみたいにかっちりした設定みたいなものを期待していると肩透かしを食らうかもしれません。
しかし宥太たちの友情関係であったりタイトルの意味からすると一つの物語としてまとまっており、このエンディングも不思議な世界観の演出に一役買っているともいえるでしょう。
気になるのはそのエンディングにてムービーが再生されないことです。ReadMe内では、Windows8ではクリックしないと進まないかも、みたいな表記があったのでいろいろクリックしたり互換モードで起動したりしてみたのですが、私の環境(Windows 10 Home 22H2)では真っ白な状態のまま動かなくなってしまいました。その後ゲーム再起動したらタイトル画面が変わっていたので、エンディングに到達したことは正しく判定されていそうなのですが…。
というわけで今回は「よんひくいちは」でした。
とりあえずDLして読み始めてみれば、きっと5分で本作のすごさに気付くでしょう。ぜひプレイしてみてください。
それでは。
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