今回は、フリーゲーム讃歌さんのcranky・appleをご紹介します。


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ジャンル:透明人間と交流する不思議系ノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2011/6


最近刺激的な作品が続いたので、今回はゆっくり心温まるタイプのシナリオの作品をご紹介します。本作はネット小説として公開されていたシナリオを、ノベルゲームにリメイクした作品ということです。

主人公のミドリが学校の保健室で、透明人間のさっちゃんと出会うところから物語は始まります。ミドリにはなぜか透明人間が見えますが、さっちゃんの方は人に見られたのが初めてなので口をポカーンと開けて驚くわけです。初めてexeファイルを起動したときにいきなりこの場面から始まったので私もちょっとびっくりしましたが、プロローグの後はきちんとタイトル画面になりました。なかなか珍しい演出ですね。

さて、透明人間との交流となると全体的にほんわかした感じなのかなと思う所なのですが、序盤はそんなことはありません。さっちゃんがなかなかミドリに気を許さないのです。さっちゃんはなんと養護教諭の秋尾先生に惚れ込んで保健室に住み着いた(?)というなかなかの変わり者。秋尾先生とは幼い頃から友達のような関係で、「椿くん」「ミドリ」と下の名前で呼び合う関係のミドリには初っ端からライバル心を燃やしまくりです。相当に嫉妬深く、気難しい(cranky)透明人間なのでした。

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というように、最初のうちはさっちゃんのインパクトが強かった本作なのですが、ミドリの方も実は相当の変わり者であることが次第にわかってきます。そしてそのミドリの成長こそが本作の主眼なのです。ここの展開がなかなかうまいなと感じました。例えば、普通の人との人間関係で悩みを抱えているけれども、透明人間となら自然になれるし悩みも相談できる、とかならありそうかな、と思うのですが、本作でミドリが成長する方向(というか出発点)は私にとってかなり意外でした。そしてミドリがさっちゃんに変わるように諭す場面はなかなかの名シーンだと思います。これは本気で相手のことを考えていないと透明人間の口からは出せない言葉でしょう。そこからのミドリの努力はなかなか微笑ましく、人は努力によって前進できるんだなあと勇気をもらえるようでした。ここの部分はとても大事だと思うので、もう少し尺を取って丁寧に描写しても良かったのではないでしょうか。ミドリがさっちゃんに会えず落ち込んでから、こうしちゃいられないと行動に移すあたりもやや駆け足気味に感じました。

この、ミドリが成長していくという物語のためには必要なものだとは思うのですが、前半での2人の関係性はやや不自然に感じてしまいました。ミドリはさっちゃんにどんなに邪険にされてもさっちゃんloveの姿勢を崩しませんし、さっちゃんの考えることはあまり理解できません。その意味で、感情移入して読むというのが難しいシナリオではないかと感じます。

イラストは水彩風で、ゲームではあまり見ないタイプの絵柄だと思うのですが、不思議な雰囲気を持った本作にはあっているように感じました。特に、ほとんど台詞ごとに変わる立ち絵の表情には注目です。相当の枚数描かれたのではないでしょうか。
ただ、背景が加工写真の時と一枚絵の時でちょっと統一感に欠ける印象はあります。

ちょっと難点の指摘が長くなりましたが、読み終わって前向きな気持ちになれるような、ミドリを応援したくなるような爽やかさのあるエンディングです。ラストのスチルがすごく良かったので、ぜひ皆さんプレイして、それを見て温かい気持ちになってください。

それでは。