こんにちは。前回の予告通り、今回は星くずのお茶会さんの「Lived happily, ever after」のレビューとなります。
実はおよそ1年前にプレイ済みだった作品なのですが、ティラノゲームフェス10の機会に読み返してみたところどんどん好きになりましたのでご紹介します。

ジャンル:シリアスファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:2時間半
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2025/3
備考:15推
久々のレビュー記事で若干書き方を忘れてますが、まずはあらすじを簡単にまとめておきましょう。
舞台となるのは魔王や吸血鬼が存在する洋風ファンタジー世界。主人公のメーベルはその生まれ持っての黒い髪の毛が魔王を思わせるという事で幼いころから理不尽な仕打ちに耐えてきました。町はずれにある吸血鬼の屋敷への給仕に向かわされることとなり、そこで出会うのが吸血鬼のシオンです。確かに普通の人間とは違う性質のある彼ですが世間一般に思われているような恐ろしい雰囲気は一切感じさせない親切な彼にメーベルは惹かれていきます。しかし人間と吸血鬼の恋愛が簡単に成就するはずはなく、世間からの差別も強烈です。そのような中で2人は少しずつ絆を深め、味方を増やして愛をはぐくんでいくのでした…
本作の世界観は洋風の童話そのものです。童話の世界ってシンデレラにしても白雪姫にしても非常に不憫な環境だったりしますが、本作も例にもれずメーベルの扱いは散々なものです。ただ髪が黒いだけでいわれのない罵倒を受け、まともな職にも就けず腫れもの扱いされる日々。屋敷での給仕というのも実質的には「吸血鬼のいけにえになって来い」という命令です。
とこのようにシビアな状況なわけですが、本作が童話と違うのは、このひどい扱いが意地悪な継母や嫉妬深い魔女によるものではなく、一般大衆が悪意なく抱えている偏見や差別心によるものだということです。現実世界でも個別には悪意と呼ぶほどでもないものが集積した結果、特定の人物に致命的なダメージを与える現象はたびたび起こります。「指先で世界を見る(tales&Vivid)」などの作品が思い浮かびます。一人の悪者を成敗すれば解決、と行かないところは童話よりも大人向けのシナリオと言えるでしょう。

そんなメーベルが出会う吸血鬼のシオンは、吸血鬼という恐ろしいイメージとはかけ離れた優しい人物でした。吸血鬼であるという事自体は間違いではないのですが、人を襲う事のないように人里離れた屋敷に住み、動物の血で渇きをしのいで過ごし、メーベルやシオンを差別する人たちよりよほど温かい心を持っているのです。
世間から厄介者扱いされていた彼らはお互いの境遇に共感し、惹かれ合うようになります。これだけの扱いを受けていた中での出会いなら運命的なものに感じられるだろうな、という納得感があります。
このまま2人がデートを重ねて結ばれるストーリーなら、いわゆる「理解のある彼くん」が突然現れて幸せになる話とも分類できそうですが、本作がすごいのはここからです。
他人に迷惑をかけるわけでもなく静かに暮らしている2人ですが、その平穏すら許してくれません。もともとは普通の人間であったシオンが吸血鬼となったのは、両親の魔王討伐の失敗に起因するものでした。討伐自体はあきらめなんとか封印を施すことには成功したのですが、その際にシオンが呪いを受けてしまったのです。そんなシオンにとって、人の血を飲みたい衝動を抑えるのは大変な困難を伴うものでした。
見かねたメーベルが自分の血なら吸ってもらっても構わないからと身を差し出すシーンはなかなか印象的です。まだ物語前半の出来事なのですが、この時点では既にメーベルはシオンと運命を共にする覚悟を決めています。シオンはシオンで血を飲み干してしまいたい欲望にあらがって数滴に留め、メーベルを気遣います。これだけお互いのことを思いながら嘘もなく生活しているなら、普通の乙女ゲームならもうゴールと言っていいでしょう。しかし本作はその先。2人の愛と絆を試すかのように差別や呪い、政治的思惑などが彼らを襲う、そうしたシビアな状況の中でどのように幸せを見出していくかという物語なのです。
具体的にどのような困難が彼らを待ち受けているのかはここでは語りませんが、どれもかなり絶望的なものです。それも、過去に魔王がもたらした呪いだったり、近くに吸血鬼が住んでいることに対する政治的判断だったりと本人にはどうしようもないものばかりです。普通の恋愛ものにおいて恋愛成就のハードルになりがちな2人の間のすれ違いだったり身の回りの人間の説得だったりといった事象とは質的に異なるのが特徴的で、もしかしたら受け入れがたく感じる方もいるかもしれません。このひどい運命が物語中で前触れなく明らかになるのも唐突感があるようにも思います。
何度も述べてきたように本作におけるメーベルやシオンの置かれた環境は大変厳しいものですが、登場人物たちはみな優しい心をもちと自分の信念を貫く素敵な人物であることは特筆すべきでしょう。吸血鬼の討伐を目的にやってきたシエラでさえ2人に害をなすことに固執することなく、状況と自らの使命とを照らし合わせながら人道的な判断を下しています。物語後半となり味方が増えてくると、避けがたい巨大な運命を相手にどうやって幸せになるかを協力して考えている感がありなかなか感動的です。

物語のエンディングでは魔王の呪いを解くために代償をささげるかを決断することになります。大切な人や物を守るために自身の何かしらをささげるという構造はよく見るものですが、本作においてはその結果二人が人類の平和を願うという方向へ決着するのが印象的。幾度とない差別にも平和的な解決を望んできた二人の"らしさ"がよく出ているなと思うのです。そんな"優しい人"である彼らが重い代償を伴う決断をしなくてはならないというのは皮肉的ではあるのですが、だからこそ二人の間で築かれた確固たる愛を強調しているようにも感じられます。
本作はシナリオやイラストだけでなく音楽も自作のようで、特にエンディングテーマは作中の世界で使われている設定の架空言語による歌詞がついている凝りようです。一度エンディングを迎えた後はおまけ画面から日本語版も選択できるようになりますので、ぜひ聴いてみてください。この日本語版はJOYSOUNDでの配信もされていますので、カラオケに行ったら歌えます! フリーゲームで自作主題歌がカラオケ配信されているという例はかなり珍しいでしょう。
さて、実は本作は同作者によるファンタジーRPG作品「canvasぷろじぇくと」のスピンオフとして制作されたノベルゲームとのことです。残念ながら本編はまだ体験版のみの公開のようですが、興味を持たれた方はぜひこちらもチェックしてみてください。
というわけで今回は「Lived happily, ever after」のレビューでした。
とにかく二人に厳しい運命が襲い掛かるシナリオは多少人を選ぶかもしれませんが、この困難を乗り越え無邪気な愛をひたすらに描き続ける物語を見届けたあなたは間違いなく愛という希望を信じて前向きに生きる力をもらえるはずです。
それでは。
実はおよそ1年前にプレイ済みだった作品なのですが、ティラノゲームフェス10の機会に読み返してみたところどんどん好きになりましたのでご紹介します。

ジャンル:シリアスファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:2時間半
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2025/3
備考:15推
久々のレビュー記事で若干書き方を忘れてますが、まずはあらすじを簡単にまとめておきましょう。
舞台となるのは魔王や吸血鬼が存在する洋風ファンタジー世界。主人公のメーベルはその生まれ持っての黒い髪の毛が魔王を思わせるという事で幼いころから理不尽な仕打ちに耐えてきました。町はずれにある吸血鬼の屋敷への給仕に向かわされることとなり、そこで出会うのが吸血鬼のシオンです。確かに普通の人間とは違う性質のある彼ですが世間一般に思われているような恐ろしい雰囲気は一切感じさせない親切な彼にメーベルは惹かれていきます。しかし人間と吸血鬼の恋愛が簡単に成就するはずはなく、世間からの差別も強烈です。そのような中で2人は少しずつ絆を深め、味方を増やして愛をはぐくんでいくのでした…
本作の世界観は洋風の童話そのものです。童話の世界ってシンデレラにしても白雪姫にしても非常に不憫な環境だったりしますが、本作も例にもれずメーベルの扱いは散々なものです。ただ髪が黒いだけでいわれのない罵倒を受け、まともな職にも就けず腫れもの扱いされる日々。屋敷での給仕というのも実質的には「吸血鬼のいけにえになって来い」という命令です。
とこのようにシビアな状況なわけですが、本作が童話と違うのは、このひどい扱いが意地悪な継母や嫉妬深い魔女によるものではなく、一般大衆が悪意なく抱えている偏見や差別心によるものだということです。現実世界でも個別には悪意と呼ぶほどでもないものが集積した結果、特定の人物に致命的なダメージを与える現象はたびたび起こります。「指先で世界を見る(tales&Vivid)」などの作品が思い浮かびます。一人の悪者を成敗すれば解決、と行かないところは童話よりも大人向けのシナリオと言えるでしょう。

そんなメーベルが出会う吸血鬼のシオンは、吸血鬼という恐ろしいイメージとはかけ離れた優しい人物でした。吸血鬼であるという事自体は間違いではないのですが、人を襲う事のないように人里離れた屋敷に住み、動物の血で渇きをしのいで過ごし、メーベルやシオンを差別する人たちよりよほど温かい心を持っているのです。
世間から厄介者扱いされていた彼らはお互いの境遇に共感し、惹かれ合うようになります。これだけの扱いを受けていた中での出会いなら運命的なものに感じられるだろうな、という納得感があります。
このまま2人がデートを重ねて結ばれるストーリーなら、いわゆる「理解のある彼くん」が突然現れて幸せになる話とも分類できそうですが、本作がすごいのはここからです。
他人に迷惑をかけるわけでもなく静かに暮らしている2人ですが、その平穏すら許してくれません。もともとは普通の人間であったシオンが吸血鬼となったのは、両親の魔王討伐の失敗に起因するものでした。討伐自体はあきらめなんとか封印を施すことには成功したのですが、その際にシオンが呪いを受けてしまったのです。そんなシオンにとって、人の血を飲みたい衝動を抑えるのは大変な困難を伴うものでした。
見かねたメーベルが自分の血なら吸ってもらっても構わないからと身を差し出すシーンはなかなか印象的です。まだ物語前半の出来事なのですが、この時点では既にメーベルはシオンと運命を共にする覚悟を決めています。シオンはシオンで血を飲み干してしまいたい欲望にあらがって数滴に留め、メーベルを気遣います。これだけお互いのことを思いながら嘘もなく生活しているなら、普通の乙女ゲームならもうゴールと言っていいでしょう。しかし本作はその先。2人の愛と絆を試すかのように差別や呪い、政治的思惑などが彼らを襲う、そうしたシビアな状況の中でどのように幸せを見出していくかという物語なのです。
具体的にどのような困難が彼らを待ち受けているのかはここでは語りませんが、どれもかなり絶望的なものです。それも、過去に魔王がもたらした呪いだったり、近くに吸血鬼が住んでいることに対する政治的判断だったりと本人にはどうしようもないものばかりです。普通の恋愛ものにおいて恋愛成就のハードルになりがちな2人の間のすれ違いだったり身の回りの人間の説得だったりといった事象とは質的に異なるのが特徴的で、もしかしたら受け入れがたく感じる方もいるかもしれません。このひどい運命が物語中で前触れなく明らかになるのも唐突感があるようにも思います。
何度も述べてきたように本作におけるメーベルやシオンの置かれた環境は大変厳しいものですが、登場人物たちはみな優しい心をもちと自分の信念を貫く素敵な人物であることは特筆すべきでしょう。吸血鬼の討伐を目的にやってきたシエラでさえ2人に害をなすことに固執することなく、状況と自らの使命とを照らし合わせながら人道的な判断を下しています。物語後半となり味方が増えてくると、避けがたい巨大な運命を相手にどうやって幸せになるかを協力して考えている感がありなかなか感動的です。

物語のエンディングでは魔王の呪いを解くために代償をささげるかを決断することになります。大切な人や物を守るために自身の何かしらをささげるという構造はよく見るものですが、本作においてはその結果二人が人類の平和を願うという方向へ決着するのが印象的。幾度とない差別にも平和的な解決を望んできた二人の"らしさ"がよく出ているなと思うのです。そんな"優しい人"である彼らが重い代償を伴う決断をしなくてはならないというのは皮肉的ではあるのですが、だからこそ二人の間で築かれた確固たる愛を強調しているようにも感じられます。
本作はシナリオやイラストだけでなく音楽も自作のようで、特にエンディングテーマは作中の世界で使われている設定の架空言語による歌詞がついている凝りようです。一度エンディングを迎えた後はおまけ画面から日本語版も選択できるようになりますので、ぜひ聴いてみてください。この日本語版はJOYSOUNDでの配信もされていますので、カラオケに行ったら歌えます! フリーゲームで自作主題歌がカラオケ配信されているという例はかなり珍しいでしょう。
さて、実は本作は同作者によるファンタジーRPG作品「canvasぷろじぇくと」のスピンオフとして制作されたノベルゲームとのことです。残念ながら本編はまだ体験版のみの公開のようですが、興味を持たれた方はぜひこちらもチェックしてみてください。
というわけで今回は「Lived happily, ever after」のレビューでした。
とにかく二人に厳しい運命が襲い掛かるシナリオは多少人を選ぶかもしれませんが、この困難を乗り越え無邪気な愛をひたすらに描き続ける物語を見届けたあなたは間違いなく愛という希望を信じて前向きに生きる力をもらえるはずです。
それでは。














