フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
記事一覧ページを作りました。記事探しはこちらから。Twitterはこちら。リンク等はご自由にどうぞ。
YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

ノベルゲーム

こんにちは。今回は禁飼育さんの「家畜おじさん」のレビューをしていきたいと思います。

katicu1

ジャンル:道端でおじさんを拾うガールミーツボーイ系(?)ノベルゲーム
プレイ時間:2時間弱
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:NScripter
リリース:2012/1
注意:暴力的な描写あり


禁飼育さんの作品と言えば、以前本ブログで「スレガル」(18禁)を扱いました。尋常でないねちっこさの偏愛とその裏返しの悪意、直接的な性暴力描写など非常に刺激的で取扱注意な作品でした。本作はその禁飼育らしさは失われることなく全年齢相当のマイルドな表現となった作品でなかなか唸らされましたのでぜひご紹介しようと思います。

ただしReadMeにも
【対象年齢】みんなプレイできるけど、不安ならプレイしない方がよいぜ
【ジャンル】まったりほのぼのはんざいぎりぎりあうつさくひん
と書かれる程度には人を選ぶと思いますので、その点承知の上プレイしてみてください。(禁飼育作品の中で随一のマイルドさであることは間違いありません)


いつも通りまずはあらすじ紹介から。
本作の主人公は(多分)小学生の晴々くもり(はればれ・くもり。この作者さんの登場人物は変わった名前が定番ですね)。2か月前に交通事故で両親を亡くしてしまったため、現在はほぼ一人暮らし。お金の管理や食べ物の用意は近所に住む伯父さん(おっちゃん)にやってもらっていますがあまり仲が良くないためほとんど必要最低限の事務的な会話しかしていません。ちょっと帰りが遅くなっただけで怒ってくるし、自分の言い分を聞いてもくれないおっちゃんにイライラする毎日。そんなくもりはある雨の日、家の前の塀に見知らぬおじさんがぐったりともたれかかっているのを目にします。帰るところもないというおじさんを放っておけないと感じたくもりはとりあえず家で雨宿りしつつ一泊してもらうことに。こっちの言う事を聞く気もないおっちゃんと違い、遠慮がちにもお礼を言ってくれたし意思疎通もできたおじさんに少しだけ心を許したくもり。おじさんの正体は何者なのか、おっちゃんとの関係は改善できるのか。くもり自身は大人と触れ合うことを通して成長していくことができるのでしょうか……

katicu2


本作の良かったところとしてまず、家族愛というテーマがしっかり描かれていて感動的なエンディングにつながっているところをあげたいと思います。あらすじのところでも書いたように、くもりは実の両親を亡くし、親権者であるおっちゃんとはうまく行っていません。だから必要な時以外は別れて暮らしているけれど、寂しさは埋まることはない。その状況でおじさんを拾って家に上げ、何気ない会話(おじさんは喋れないので筆談だけれど)や家事のやり取りをする中で、家に家族がいて誰かのためにご飯を用意したり、ちょっとした出来事を報告したりといったささやかな幸せの良さを再発見していく流れがいい。さっき知り合ったばかりのおじさんだからこそ日ごろの不満を吐き出したり、ちょっと素直にしゃべってみたりができたんですね。
それに、おっちゃんだってくもりに意地悪をしようとしているわけではありません。あんまり懐いてくれないくもりとの距離感がうまくつかめなくてすれ違いを起こしちゃってるだけなんですよね。おじさんを最初は敵視していたおっちゃんも、町内会のやり取りなどをしていく中でくもりとの関係を見つめなおす機会をおじさんにもらうことになる。この化学反応が気持ちいいんです。


本作はそんな心温まるシーンだけでなく、禁飼育作品らしいどす黒い感情やややこしい出来事もあったりします。その担当が学校で出会うがびょう先生と、明らかに変な宗教か怪しいオカルトチックな格好に身を包んだきもいおっさんです。がびょう先生は初登場時は爽やかな感じだけれどふたを開けてみればどうしようもないロリコン。「スレガル」のジドノ先生ほどとは言いませんが危険な男です。
きもいおっさんは(本当に作内でそうとしか呼ばれない。ちょっとかわいそう)いかにも怪しい風貌ですが、くもりに注意喚起と数珠をくれます。この辺少しごちゃごちゃしてるんですが、それぞれのキャラが立っていて読むのに退屈しません。

katicu3

そして最終的にそのごちゃごちゃした人物たちや出来事が収束してあのエンディングに向かうのはびっくりです。途中がびょう先生のあたりで不穏な雰囲気が強まったりはしたけど、万事解決のこのラストシーンは読後感もよく、心からよかったねと言えるような内容でした。
しかもそれらが、きちんと家族愛の形というテーマに結び付いているんですよね。おじさんは結局何者だったのかとか、きもいおっさんの警告は何だったのかとか、途中で出てきてただのギャグ要因だと思っていた変な猫までがごまかされずに一つの真実に収斂していく様は見ていて気持ちのいいものでした。


またタイトル画面にもちょっとした仕掛けがあります。物語の進行に応じて変化するタイトル画面でキャラクターをクリックすると、その時点でのキャラ紹介が読めるのです。どのタイミングでどう変化するのかまで私は全部追えていないので、その辺を注意しながらプレイしてみるのも楽しいと思います。

攻略について、単純にやると引っかかるかもしれないのでそこは注意です。詰まったらReadMeをちゃんと読めばヒントがあります。

不穏なシーンだけでなく、独特なギャグセンスなどももしかしたら人を選ぶかもしれませんが、エンディングの綺麗さ、家族っていいものだよなと思わせてくれる温かいテーマはきっと多くの方に刺さると思いますので、作品紹介を見て面白そうと思った方はぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はソロフィリアさんの「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」のレビューとなります。

paint1

ジャンル:芸術家の百合ノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2024/8


本作は今年の夏のコミケで知った作品になります。一目で百合と分かるインパクトあるイラストを中央に持ってきたチラシ、しかもいい紙に印刷されているものを貰い、後でプレイしようと会場で名前を覚えたサークルさんです。実際にプレイするまで1か月かかってしまいましたが、単に可愛らしい女の子同士がイチャイチャしている作品ではなくしっかりとしたテーマと確かな文章力のある作品でしたのでご紹介します。


まずはいつも通りあらすじをご説明。

主人公の六華嗣治(読みは りっか・つぐはる でいいのかな?)は大金持ちの家系に生まれ、一応投資家を生業としているものの稼ぎを出さなくても問題ないため自由にやっているというなんともうらやましい人物です。祖父が芸術系の高校である六華学園に多額の出資をしており、嗣治は学園祭に招待されていました。そんな彼が学園祭で出会ったのは月崎若葉という生徒。彼女の描く絵に一目ぼれした彼は、経済的支援は惜しまないからぜひ芸大へ進んでほしいと提案。さらに大学へ進んだ彼女を住み込みの家政婦として雇い、屋敷の家事を任せる代わりにアトリエや画材を好きに使ってもらうことにします。
そして3年後、同じく若葉の絵に心を動かされて六華学園に進んだ親戚の茶山モカは嗣治へ金銭支援を依頼しに来た日、彼の屋敷で絵を描く若葉と対面。弟子にしてほしいと頼み込みます。そんなモカを追ってきた彼女の友人の黄原めるも混ざって屋敷は突然の百合入り乱れ。彼女らがこれまで積み重ねてきた経験と信念をもとに芸術論を交わし、そして開花する絵画への熱意と才能。芸術を軸に絡まりあって成長する百合物語が始まるのだった…

こんな感じでしょうか。


本作の序盤はコメディ的雰囲気多めで進行していきます。ヒロイン若葉は機械が苦手でコーヒーメーカーから白湯を出したりしてますし、なぜか趣味でメイド服を着ています。嗣治は悪い人ではないですが何かとからかわれがちなキャラ。お金持ちなのに家電選びが異様に優柔不断ですし、学園祭で初めて若葉にあった時には変態扱いされて(実際かなり奇特な行動でしょう)、モカちゃんには引きこもりとか暇人とか言われたい放題。特にこのモカちゃんはかなり気の強い毒舌キャラなため、彼女との絡みは特に笑えます。まあ、それは言いすぎじゃない?っていうのもありますが…
そんなモカが若葉と出会うシーン。ここから物語が大きく動き始めます。

自身に進路を決意させた若葉を前にして心酔した様子のモカ。対する若葉の方も、強い決意や行動力を秘めたモカの姿に胸を高鳴らせます。出会って早々に百合カップルの誕生か…? と思いきやそう簡単に事は運びません。今度はとにかくモカのことが大好きな少女黄原めるが乱入しまさかの百合三角関係が発生するのでした。
しかも翌朝には、若葉の趣味で女の子は全員メイド服姿に。めるはいいとして若干不満そうな表情ながらもきっちりメイド服を着こなしたモカを見てなんか笑っちゃいました。

これ、その時の立ち絵自体がふざけていて面白いのかというとそうではなくて、モカのキャラクター性と衣装の不一致(あと表情と台詞)が面白いんです。つまり、これは本作において各キャラクターが活き活きと描かれていることの証左だと思うのです。そして、それぞれの人物がどのような背景と考え方を持っているのかという描写は、後半の展開へとつながるカギとなります。


とはいえここまで読んだ私の感想としては、これは可愛い女の子たちがイチャイチャしてるのを眺める萌え系コメディだろうと思っていたのです。実際この後もしばらくは甘々ラブコメが続いていきます。
paint2

作品ページのサムネイルにも使われているこのキスシーン。なんという甘さでしょうか。
モカちゃんの方から勢い余ってしてしまったという、いかにもラブコメでありそうな展開なのですが、このあたりから本作の別の顔が見えてくるのです。


翌日、画材を買いに行く道中で若葉がモカの過去を聞いたり、モカに若葉の新しい絵のモデルになってもらったりといった過程で次第に明らかになってくる皆の絵画への思いと人生観。若葉がなぜメイドにこだわるのか、モカの強気な性格の源泉は何なのか、絵画の作風と表現対象への思い入れ。そういった要素が物語としての展開や人間関係につながってくるところが非常にうまいと感じました。


これについてはあまり書きすぎるとネタバレになるので1つだけ挙げておきましょう。
若葉が幼いころに聞いたおとぎ話には決まってお嬢様とそのお世話をするメイドが登場しました。しかしどんなお話もお嬢様は王子様に見初められ、最後には結婚して幸せに暮らすのです。そこに彼女を支えてきたメイドの姿はありません。そんなお決まりの運命に逆らうために、若葉はメイドとお嬢様だけの物語を紡ぐことを決めたのでした。
なるほどここまで聞くと、彼女がメイドの姿で美少女の絵を描き、嗣治に対してもメイドを演じる理由が分かります。しかしこの設定はそれだけではないのです。

おとぎ話の世界から綺麗なお嬢様を絵画という形で顕現させるのが自分の使命だと思っていた若葉。ファンタジーの世界から形ある絵としてこの世に生み出すという方法でこれまで制作を行っていたため、彼女の絵にもともとモデルは不要だったのです。しかしそこに突然現れたモカはあまりに彼女の理想とするお嬢様に近すぎました。”可憐でありながら、湧き出るマグマのように力強い瞳を持った少女”であるモカに自身の理想を重ねて同一視するようになります。これはモカにとっては残念なことでありました。

初登場時に出てきたように、モカは若葉の描く絵に惚れたのです。そんな彼女が絵を描くことへの興味を失い、モカの存在を見るだけになってしまった。しかも彼女が見ているのはそれまでの人生と人脈と芸術観を持った個性ある人間としてのモカではなく、若葉の脳内に存在する理想のお嬢様の残像でしかないのです。このすれ違いが明らかになりモカはショックを受けて一人自宅へと帰ってしまうのです。


このシーン、私はすごく唸らされたんです。ついさっきまで仲良し百合を見せられていたのに、しかも2人とも美術という同じ業界にいることに意気投合していたのに。こんなことになるとは想像できなかった。しかし同時に納得感のある展開でもあるんです。それぞれの人物の考え方がしっかり伝わるシナリオとなっている故でしょう。このように、人物にまつわる設定が発展してほかの人物と絡まりあって物語を前進させていく、そうしたところに本作の良さが詰まっているように感じるのです。

演出手法についてもよく考えられていて、前半におとぎ話とか映画に関連するエピソードが出てきたのを受けて、終盤でレトロ映画風のシーンが挟まったりといった気持ちよさが随所に感じられます。

paint3

ここまでレビューであまり触れてこなかっためるについても同様です。むしろ終盤は彼女の見せ場。感情が高ぶれば校舎や校門にまで絵を描いて歯止めが利かない問題児のめるでしたが、その独特な芸術観と感情の機微を見逃さない観察眼はすれ違いを起こした若葉とモカを救ってくれました。猪突猛進で多少言葉が悪かったりもしますが、彼女の熱意がなければ若葉とモカはあそこから前に進むことはできなかったでしょう。本当にいいキャラしてるなと思います。

そんな3人がこの件をどのように消化して芸術への糧にするのか、それはぜひ皆さんの手で見届けてあげてください。


話は変わりまして本作のイラストなどシナリオ以外の部分について。
絵を描く少女たちの話なだけあって大変可愛らしい立ち絵がそろっています。メイド服も細かいところまで書き込まれていて凄い。制服立ち絵だけ左右反転時に胸ポケットの位置が矛盾するのが気になる、といったところでしょうか。
背景は写真素材です。お屋敷や美術館の品のある感じが演出されていてピッタリなんじゃないでしょうか。BGMに関してはピアノ曲中心でやや渋めの選曲。これも芸術というテーマにマッチしているように感じます。
システムに関してはもう少し頑張ってほしかったというところでしょうか。レビュー執筆のために特定のシーンを読み返そうと文章スキップしたらフリーズしたとか、背景が真っ黒で動かないとかの状況が多発してしまいました。


というわけで今回は「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」でした。
以前ちらっと言った、ノベルゲームの総合芸術的な面が生きた作品となっていますので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は落柿さんの「アカイロマンション ~ホラー編~」です。

aka1


ジャンル:超常現象系ホラーノベルゲーム
プレイ時間:1週目2時間程度。エンディングコンプまでその2~3倍程度。
分岐:多数。エンディング23種
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:製品版あり


こちらはしばらく前に知った作品で、プレイする機会をうかがっていました。結局DLしてからプレイするまでにかなり時間がかかってしまいましたが、よい作品でしたのでご紹介します。


まずはあらすじを簡単にご説明しましょう。

大学4年生の良(名前変更可)は夢の一人暮らしのために学生寮から格安マンション「赤石マンション」へと引っ越すことになった。周辺の家賃相場に比べてあまりに安い理由が気になる良だったが、その理由は引っ越し初日から思い知らされることとなる。住人の自治を重視するというオーナーの意向の元で1000回以上も続いているという住民会議。それに参加する癖の強すぎる住民たち。そして15年前にあったという連続殺人事件の現場の一つであったというこの土地。
そんな中で起きる不可解な事件。殺人鬼がうろつくマンションに閉じ込められてしまった良たちは15年前の事件の被害者の呪いを解いて生還することができるのでしょうか……

こんな感じでしょうか。

aka2

さて、本作の特徴の一つとして、ストーリー中の選択肢がかなり多めという事が挙げられるでしょう。
当然ですが物語前半のうちは真相につながる手がかりをほとんど持っていません。その中で呪いや犯人の目星をつけ、ほかの住人と一緒に対処法を考えていく、といったホラー・サスペンス的な展開を盛り上げるのに一役買っているといえるでしょう。

また、このマンションの住人は新しく引っ越してきた良を含めて7人います。上述したようにこのマンションにおける意思決定は「住民投票」により行われます。呪いへの対処をどうするのか、根本原因の解明のための調査法は?など様々な議題が持ち上がり、その多くは実際にプレイヤーが投票内容を選択することによって進行していくのです。
住人達(+良の友人の春奈)の合計8人(途中で被害者がでて数人脱落しますが…)というやや多めの登場人物の数とマッチしたシステムになっており、臨場感のある展開を作り出すことに成功していると感じます。
臨場感を演出するという点でみると、本作で登場人物に立ち絵がないのもプラスに働いているでしょう。「1999ChristmasEve」のレビューで指摘したのと近いですね(ジャンルも似てるし)。


そんな本作はプレイヤーの選択によって合計23ものエンディングに分岐します。そのうち19はバッドエンド(ほとんど主人公の死亡や住人の全滅です)、残り4つが生存エンドになっています。それぞれの選択肢は、直後の展開が変わるだけのダミー選択肢や間違うと即分岐系のバッドエンド分岐もあれば、終盤になって初めて選択が効いてくるもの、中盤以降の捜査の展開が大きく変わるものなどさまざまあり、全体の構造をつかむには何周もする必要があると思います。

これらのエンディングを何個も見ていくうちに事件の背景だったり呪いの正体や手がかりを得ていくことになり、真実のパズルがはまっていくような気持ちよさを味わえるシステムになっていると思います。
逆に言うと一つの生還エンドを見ただけで事件の全体像が把握できるような構造にはなっていないため、ここが弱点にもなりうるシナリオだと思いました。
私は運よく(?)1回即分岐バッドエンドを踏んだ以外は一発でEND23(呪いを鎮めて事件が解決するエンディング)までたどり着いたのですが、やけにあっさりと解決してしまったような印象を受けました。その後ほかのエンディングを回収する中で、あの時他の人物が何をしていたのかとか、過去の事件についての情報とかを知っていくこととなり、そこで初めて知るようなことも多くそこがちょっと微妙かなと感じました。1周目にルート制限があり、ある程度特定のエンディングを見ていくと真実への道が開ける、というタイプの分岐システムがあると最高だったかなという気がします。あるいは1周目でも到達は可能だがフラグが厳しくて、初見でたまたまたどり着くことがないようにするとか。
真相が明らかになるエンディングは全体の構造が見えてくると、後味もよくしっかりと謎が解決しているものだったのでややもったいないと思ってしまいました。

aka3

本作のBGMはピアノ曲中心に構成されており、ホラーっぽさを醸し出しながら聞いていて不快にはならない感じでちょうどよかったと思います。長編作品でBGMがずっと不穏、というのは意外と疲れるのでこの調整は絶妙だったのではないでしょうか。
演出面でいうと写真背景なのもよかったと思います。マンションという我々にもなじみのある舞台でのホラーなのでプレイしながらどれだけ現場の状況を想像しながら読み進められるか、というのは物語への没入感を左右する重要な要素だと思うので、具体的な背景写真が使われている本作はその点でも成功しているかなと思います。
ただ写真の種類はそれほど多くなく、マンションの構造が分かるようなものがなかったため、どこかで建物全体の地図などを見せてほしかったとは感じました。
この人たちが飲み会してる駐輪場ってどこにあるんだろう?扉が開かなくて外に出られないといってるんだから建物の中なのは分かる、だけど中で花見なんてするか? 中庭みたいなのがあるとしてそこから移動できる範囲ってどのへんなのか想像つかない…あと駐輪場って中庭とは別の場所にあるの? みたいな感じで解決できない疑問を保留にしながら読み進めないといけないのはややしんどい



ホラー的演出については、起動時に強めに警告されますが突然怖い画像が表示されたり大きな音が鳴ったりという事もなくテキストだけ(あと若干の血しぶき)で進むのでよほどホラーが苦手でないなら大丈夫かなと思います。
わらべうたをモチーフにした呪いの電話とか、子供の霊や殺人鬼といった不気味さを演出する要素はそこかしこに散りばめられており、こうした要素から想像して恐怖を感じていたい、というタイプのホラー好きの方にピッタリでしょう。

あとシステム面に関してはやや不満ありです。セーブ&ロード、スキップにバックログなど最小限のシステムはきちんと用意されているのですが(特にバックログでさかのぼれる範囲が広いのはありがたい)、動作の安定性が低いです。プレイ中にフリーズすることが何度か。そのためこまめなセーブを挟んでプレイすることをお勧めします。選択肢の数も多いですしセーブスロットも豊富ですからこまめにセーブして損はありません。
タイトル画面から行けるエンディングリスト画面も謎です。スチル一覧画面のようなレイアウトで各エンディング画面が見られるのですが特に絵があったりするわけでもなく文字だけ。クリックするとその画面を拡大して見られるのですが特に文字を拡大してもうれしいことはなく、クリックできるなら分岐確定後のシーンにジャンプするような機能を期待するのでなんだこれは、と思ってしまいました。


さて、そんな本作ですがタイトルに「ホラー編」とついている通りシリーズとなっています(単独でも完結しています)。「アカイロマンション完全版」が有料にて販売中です。無料の体験版もノベコレ版よりエンディングが増えているようです。私は完全版購入済みですがまだプレイできていません…。エンディング数もプレイ時間も倍増しているようで楽しみです。


難点の指摘も長くなりましたが、適度な緊張感をもってどんどん先へ先へと楽しく読み進められた作品であることは間違いないので是非プレイしてみてください。
複数ある生還エンドでそれぞれ後味が違いながらも納得感と爽快感があるホラーは結構貴重だと思いますよ。

それでは。

こんにちは。今回はtales&Vividさんの「コーヒーって、甘いですか?」のレビューとなります。

coffee1

★favo
ジャンル:喫茶店をめぐる日常系ノベルゲーム
プレイ時間:40分
分岐:なし
ツール:Artemis Engine
リリース:2024/8


こちらの作品は昨年行われた第4回crAsM.Mビジュアルノベルオンリーで知って注目していた作品でした。当時はまだ体験版の扱いで2話までしかプレイできなかったのですがとても印象深い作品で、完成版の公開をずっと楽しみにしていました。できればフリゲ2023に投票したいなと思っていましたが結局間に合わず。
しかしつい先週、本作が正式に公開されましたので完成版でプレイしなおし満を持してのレビュー執筆となります。


郷土資料館の職員を務める主人公の溝手は喫茶店でコーヒーを飲んだり自分で淹れたりするのが趣味。仕事帰りに寄れる近所の店や、休日にお出かけした先で知っている店などいくつもの喫茶店を知っています。そんな溝手がコーヒーを飲みまくるのが本作の内容なわけです。
そんな本作の良さはなんといってもおいしそうな描写が上手いところでしょう。


ゲームファイルを起動して1話を読み始め、主人公が昼休みに職場近くの喫茶店に入るシーン。
coffee2
コーヒーカップが大きく写された写真の上に透過率高めなメッセージウィンドウ。しっかりと本作のウリであるコーヒーが印象に残る構図になっています。
そして主人公溝手による食レポもしっかりと入ります。店ごとに、豆ごとに、淹れ方の違いで、コーヒーの味わいがどんな風に変わるのかを体験談のような形式で読んでいくことができ、コーヒーの奥深さ、嗜好品たる所以を感じ取ることができます。

料理や食べ物がテーマとして扱われる作品はたびたび見かけます。本ブログで取り扱った中でいうと、「そしてパンになる」や「お菓子の国のガトー・ソルシエ」が該当しますが、料理そのものというよりはパンを作ったりお菓子を作ったりしていく中で恋愛方面の出来事があったり、トラウマを乗り越えたりといった方向に物語が進んでいきます。それに対し本作はコーヒーを味わう事そのものがテーマとなっているため食レポの深さが段違いになるのです。

coffee3
それに加えて私が驚いたのは2話の自宅でコーヒーを淹れるシーン。豆を挽いて熱湯を注ぎ、抽出したコーヒーをマグカップに移す。そんな一連の流れがなんと動画で楽しめます。スクリーンショットでは伝わらないのでぜひプレイして確かめてほしい。Spaceキーでメッセージウィンドウを隠せばお湯から立ち上る湯気までばっちり、まるでコーヒーの匂いまでしてくるようです。ノベルゲームの背景に動画を映す、こんな使い方があるのかと思ったのをよく覚えています。動きのあるシーンはシステム的に苦手なノベルゲームに動画を挿入しちゃおうという試みは見たことがありますが、本作はその手法における一つの到達点と言えるのではないでしょうか。メッセージウィンドウの表示タイミングやシーンの切り替わる位置もよく調整されていて、画面越しに自分が淹れているような感じさえします。
そうして出来上がったコーヒーを美味しそうに飲む溝手。これがまた嬉しい。やっぱり登場人物、特に主人公が幸せそうにしていると読んでいる側も幸せになれますよね。


そんなコーヒー大好きな主人公の溝手ですが、昔からそうだったわけではありませんでした。大学生のころにバイト先であまりのコーヒーを飲んでみたらめちゃくちゃまずかった、なんてちょっと笑えるエピソードもあります。私は普段コーヒーを飲まないのでこういった点は親しみやすかったです。
今では毎日のように飲んでいる溝手もコーヒーを極めたという状態ではない様子。コーヒーの味わいを表現するのによく使われる「苦味」「酸味」そして「甘み」。今はまだ「甘い」と表現される味がどんなものなのかわからないけれども、いくつもの喫茶店で様々な豆や淹れ方のものを試していくうちに、それらの言葉が意味するものをつかんでいく、そんな描写もあり、コーヒーという趣味の楽しいところを門外漢の私に教えてくれました。
coffee4

このシーン、読んでいてうんうんと頷きながらマウスを持つ手を進めていたんです。インスタントコーヒーを飲むことがある、という程度の私にはあの苦いコーヒーに「甘い」と言われる部分があるなんて想像もつきません。そんなコーヒー素人にも読んでいて楽しい作品になっていると思います。
そういえばコーヒー以外にも、例えば日本酒だったりワインだったりの嗜好品にも独特な用語が使われるように感じます。「甘口」「辛口」と言われる日本酒がどんな味に対応するのか私は分からないのですが、これらにもきっと深い趣味の世界があるのでしょう。


coffee5
本作は全6話構成。1話あたりじっくり読んでも10分かからないと思います。
最終話ではにぎわう喫茶店内で恐る恐るコーヒーに口をつける中高生たちに出会います。タイトルにある「コーヒーの甘さとは?」という問いに自分なりの答えを見つけた溝手は、コーヒーに不慣れな若者たちにコーヒーの魅力を伝えることができるのでしょうか。
そして店を出てエンディングテーマがかかってからスタッフロールに入るまでの流れもスムーズでいいですね。ボーカル入りのエンディングテーマはYouTubeでも聴けるので是非こちらもどうぞ。


というわけで今回は「コーヒーって、甘いですか?」でした。
ノベルゲームを通じてほかの趣味を体験できるようなこの感触はプレイしてみないとわからないでしょう。ぜひ皆さんもご自分の手でプレイしてみてください。全くの素人だった私でも興味がわいてくるような体験ができました。

それでは。

こんにちは。今回はHase im Hausさんの「おさななじみ Childhood Love」をレビューしていきたいと思います。

osana1

ジャンル:幼馴染系短編乙女ゲーム
プレイ時間:1ルート10分、フルコンプまで1時間程度
分岐:ED10種
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2024/5
備考:16歳以上対象



本作はTwitterをなんとなく見ていて目に留まった作品になります。大きく可愛らしいヒロインが描かれたサムネイルとストレートなタイトル。変に凝った作品より逆に印象に残りやすかったかもしれません。

では本作をプレイしての感想の話などに移る前に……ひとつ謝らなくてはならないことがあります。
これまでに数多くのフリーゲームをプレイしてきて得た嗅覚によって私は、「この子、どんな風に闇落ちするのかな~」という気持ちでプレイし始めたのです!

薄めのピンクで統一されたイラスト、ロゴ、UIでこれでもかと乙女チックに演出されたタイトル画面。Readmeにて確かな存在感を放つ「対象年齢: 16歳以上(ほんのり大人の会話有)」の記述。そしてタイトル画面左下に控えめに鎮座するRESETボタン。
これまでの経験から、これはルート選択によってはヒロインが闇落ちorヤンデレ化してタイトル画面がホラーになるやつや…とそこそこ高い確信度を持っていました。しかし! それは私の心が汚れてしまっていただけでした。ルート分岐は多めで進展があるルートも喧嘩に至るようなルートもあるもののどれも微笑ましい内容となっており、純粋に幼馴染ものの乙女ゲームをお求めの方にぴったりだなと思いましたのでレビューを書くことにしました。


主人公のほのか(名前変更可)は高校生(多分2年生)。学年違いではあるけれども子供のころから家族ぐるみの付き合いのあった幼馴染の海とは交流が続いています。ほのかは海のことが好きだけれども海は最近ほのかと距離を置き気味。もらったお漬物を届けに行った今日も受験生は忙しいんだと追い返されそうになる始末。ほのかは海との距離を縮めることができるのでしょうか…

osana2


さて、本作は1ルート読み終えるのに10分かからないくらいの短編ですが、その中でほのかと海の関係性がしっかりプレイヤーに伝わってくるような描写がされます。ほのかは昔から海のことが好きで、それは男も女も関係なかったあのころの気持ちとは違うんだという自覚もあるようです。しかし海から見たらほのかはまだまだ子供。そんな無邪気な様子でいられると男の欲望を抑えられなくなってしまうと危惧しています。
この、実はお互いに好きあっているのに微妙にすれ違っている関係性、いいですね。

ほのかは確かに海のことを男の子として好きなようですが、行動も発言もまだまだ子供。部屋に入れてくれーと玄関先で泣き付いたり、勉強の邪魔したり…。海のいる部屋で着替えたり寝たりすることもあるようです。確かにこう見ると、海がほのかをお子ちゃま扱いして恋愛対象と見てくれないのも当然といった感じですが、海は海でほのかのことを好いてはいるのがまたややこしい! 好きであるからこそ、ほのかが何も分かっていないうちに手を出したくないんですよね。いい子ですね。
2人がこの関係性から前進できるのかはプレイヤーの選択にかかっています。



さて、話は変わりまして本作にはボイスがついています。ゲーム開始直後には名前入力と一緒に珍しいオプション「ヒロインのボイスを付ける」が表示されます(デフォルトはON)。
確かにフルボイスゲームって主人公にも声付きのタイプとそうでないタイプがあります。これを選べるのって初めて見たかもな~と思いました。男性主人公の作品だと付いていないものが多くて、女性の場合は体感で半々くらいですかね。本作をプレイしてこの非対称性に気付きました。

ボイスについてもう一つ珍しいと感じた点があって、それはいわゆる心の声にもボイスがついていることです。心の声には、実際にしゃべった時の声と違ってリバーブが効いた音声になっているので最初はなんだこれ?と思ったのですが、心の声と台詞の区別がされているんだと気付くとなるほどと納得したのと同時に面白い演出手法だなと感じました。



本作の通常EDは9種類あります。2人が恋人関係になる"正解ルート"みたいなものが1つだけあるのが普通かなと思っていたんですが、本作は違いました。2人が親密になるルートも疎遠になるルートも複数あって、結果的には似ているんですがそれぞれ過程が違う感じになっていました。私が好きだったのはEND3です。一旦すれ違って喧嘩別れみたいになりそうなんですが、雨降って地固まる的展開が繰り広げられて最終的にはいい感じに。ちゃんと山場があるし、何より海のほうからアプローチがあったのがうれしいですね。これまで聞き分けのない子供だったほのかがちゃんとけじめをつけるのを見て、海としても覚悟を決めたのでしょう。”ほんのり大人の会話”は本当にほんのりだったけれども、2人にはこれくらいがちょうどいい気がします。
他にも多くのルートがあるので、きっと皆さんの好みな展開もあるでしょう。全ED回収後はおまけAFTER STORYも忘れずに回収してくださいね。

osana3

そう、おまけと言えばもう一つ、エンド回収ごとに思い出のガチャを1回回せます。出てきた可愛らしいアイテムをクリックすれば、2人の小さな思い出をのぞき見することができます。これも珍しい仕掛けで面白いですね。そして私はようやくタイトル画面にあったRESETボタンの意味を理解しました。このエンド回収履歴やガチャ入手アイテムをリセットするためのボタンだったんですね。闇落ちしたほのかの記憶を消してあげるボタンだと思っててごめんなさい…。

ほかにもEXTRAS画面にはいくつか仕掛けがあるので是非探してみてください。

ということで今回は「おさななじみ Childhood Love」でした。
さわやかで安心安全の乙女ゲームをお求めの方、成長に伴ってそれまでの関係性に変化が生じてきちゃった幼馴染が好物なんだ!という方、プレイして損はないと思いますよ。

それでは。

↑このページのトップヘ