フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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ノベルゲーム

こんにちは。今回はcomodoさんの「お菓子の国のガトー・ソルシエ」です。

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ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:ボイスを全部聞いて1時間程度
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8


comodoさんと言えば、私は「コミュ障女子の告白」が好きでフリゲ2023で投票したりもしました。他には「美少年の下僕になりました(?)」や「陽だまりノクターン」など、いずれも乙女ゲームを作っているサークルさんというイメージだったのですが、本作はあまり恋愛要素にフォーカスは当たりません。やや意外に感じましたが本作もいい作品だったのでご紹介します。


まず軽く本作の内容をまとめておきましょう。

物語の舞台となるのはお菓子の王国、アマンディーヌ。美味しいお菓子産業が評判で主要な輸出品でもあり、まさにお菓子の国と言われるだけのことはあります。そんなアマンディーヌには通常の工程でなく、魔法によってお菓子を作り出すことのできる職人たちがいます。ガトー・ソルシエと呼ばれる彼らが作ったお菓子は単においしいだけでなく、食べた人の持つ前向きな感情を後押しするという素敵な効果があるそうです。主人公のマヤはそんな王国での王宮御用達ガトー・ソルシエ。弟のカノンやその他2名の職人と王宮内で洋菓子店を構えています。

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順風満帆かに見えたマヤですが、ある日突然スランプに陥ってしまいます。いつも通りシャルムと呼ばれる液体から魔法でクッキーを生成したのですが、おいしそうな見た目に反して全く味がしません。その日から売り物になるお菓子を全く作れなくなってしまったマヤとカノンはスランプの原因を探すことに。たどり着いた結論は、2人の複雑な過去にありました…

こんな感じでしょうか。
まず本作に関しては気になったところから書こうと思います。

全3章からなる本作ですが、第1章は世界観の説明や人物紹介のようなパートとなり、スランプの発生は第2章に入ってからとなります。ボイスを飛ばして読んだ場合30分程度の短いシナリオなのですが、そのうち最初の10分ほどで物語が動く感じがせず平坦な印象を受けました。美味しいお菓子を作れ、王宮での信頼も厚くお客さんも絶えない、そしてカノンとの関係も良好、といった流れが最初から続くと、理想的な世界でわいわい楽しくやっている様子をただ見ているだけ、というようなある種の疎外感のようなものを私は感じてしまいました。
よんひくいちは」の記事などでゲーム開始の直後の初速から面白かったと書きましたが、本作に関しては逆にスロースターターといった印象を受けました。



しかし第2章で物語が動き始めてからは一気に面白くなってきました。
冒頭で、マヤたちはお菓子を普通に作る職人ではなく、魔法で作る魔法使いなのだという説明がありました。魔法で作られたお菓子には前向きな気持ちになれるような効果も付随しているということも。
スランプの原因を調査する中で、次第に魔法の秘密であったりマヤとカノンの過去が現在につながっているのが分かり、そのあたりの設定が上手いなと感じました。

マヤはかなりカノンに依存しているように見えますが、第1章の段階でその理由は明らかにされません。私はその部分をつまらなく、あるいは不自然に感じてしまったわけですが、2人の過去を知るとやむを得ないというかむしろ当然のように思えます。

また、2人が試行錯誤を重ねる間に何回か回想シーンが挿入されます。この使い方が上手かったように感じます。試しにマヤ1人でクッキーを作って失敗したとき。出来上がったのは見た目もおいしそうで甘いクッキー。事情を知らない私が見るとこれがなぜ失敗なのか分かりません。しかしここでマヤの過去が明らかになることによって、ゲーム開始直後のショッキングなシーンの意味を理解することができる構成となっていたのです。もちろん、作ったクッキーが失敗である理由も一緒に。

第1章が平坦だとは先に述べましたが、冒頭にこの一見意味が分からない悲しいシーンを持ってきたのは、作品全体でメリハリをつける意味でも成功なんじゃないかなと思います。

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食べた人の前向きな気持ちを後押しするという設定も良く活きているんですよね。
こんなお菓子だったからこそ勇気を出してスランプの原因追究に臨めたというのもありますし、後押しすべき感情もない状態からは魔法でどうしようもなかったりといった説明が自然です。そしてそもそも魔法でお菓子を作ることの根幹にかかわってくるんですよね。なるほどと思いました。



問題が解決する段になって、私が第1章の頃に感じていたマヤとカノンの不自然な共依存関係にもメスが当てられます。2人で協力してお菓子を作ってきたことは事実だけれど、それゆえに一人では何もできないとか、相手にどこかに行かれてしまうんじゃないかという強迫観念みたいなものは捨てた方が良いんですよね。2人がお互いを見つめ合っているだけでなく、同じ方向を向いて進んでいけるようなエンディングに私の心も温かくなりました。


そしてエンドロール後のエピローグ。上の方で恋愛要素は薄めですなんて書いちゃいましたがここにきての糖度アップ。油断してたのでびっくりしちゃいました。カノンくん意外と積極的なのね。
本作に関してはボイスも付いていますから破壊力は強いです。

ボイスと言えばcomodoさんの作品ではお馴染みですが、クリア後のおまけ画面から短い前日談・後日談のほかにキャストトークが聞けます。やっぱり声優さんってすごいなあと感じられるのでクリアした後はぜひ聞いてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はりっとさんの「スノードームは夢を見るか?」のレビューです。

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ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:Live Maker
リリース:2015/3


本作は実は同作者の前作「snow date」の続編となっているので、前作を先にプレイするのが推奨されています。「snow date」は10分から15分程度の短い作品なので手軽に読めるでしょう。

「snow date」では、「この世界はスノードームの中なのよ」という印象的だけれども単体で意味の分からない台詞が出てきます。本作は同じ世界観の中で、この台詞がどういう意味だったのかが次第に明らかとなっていくお話と言えるでしょう。


さて、本作の主人公の少女は非常に癖の強い人物です。ある雪の日、町でこれまた素直じゃなくてややこしい男の子とぶつかり転んでしまいます。お互いに罵り合ってその日は別れた2人でしたが、翌日同じところでまた顔を合わせることに。気まずい沈黙かと思いきやまたも口げんかが始まるのでした。
お互いにうっとおしいと思いながらも先に立ち去るのはなんか負けた気がして意地でもどかない2人。何時間経っても雪が降り積もっても寒さに耐えながら絶対に動かない2人、もはやツンデレとかいう域を超えてバカというか仲良しというかなんというか…

物語の序盤はこんな感じで素直とは正反対の2人がお互いをバカにしたりいたずらしたりしながらも、次第になくてはならない存在へと変化していく様子がじっくりと描かれます。不本意そうにしながらもお礼を言うことを覚えたシーンなんかは偉いね~とほめてあげたくなります。ラブコメのような状態で見ていて楽しいのですが、これは本作の導入部分にすぎません。

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クリスマスの前の日、どうせ一人ぼっちで寂しいんだろなどといつものように突っかかっていく二人。話し相手くらいにならなってやらないこともない、と何とも遠回しに明日も会う約束をします。
そんな翌日、女の子はいつものようにベンチで待っているのですが、男の子はいつになっても現れません。その日は妙な胸騒ぎがするまま帰宅することにしますがやはり不安。翌日、森の方で見たという目撃証言をもとに探しに行くことにします。しかし結局見つけることは叶わず、彼の家に帰った痕跡もなく、完全に行方不明となってしまうのです。

失意の中帰宅した女の子のもとへ、突然「願いを叶えてやってもいいんだぜ」などと言う怪しい男が現れます。怪しいとは思いつつも藁にも縋る思いで彼を返して欲しいと望んだ少女は、クリスマスの2日前、彼と喋っているところに戻ってきます。そう、本作はループものであったことがここで明らかになるのです。



ループものに慣れた皆さんなら大体予想がつくでしょう。何度ループを繰り返そうと、簡単に彼を救うことはできません。森へ行かないよう忠告したり、見張ったりもしますがことごとく失敗してしまいます。そんな彼女がたどり着く真相とは一体どんなものなのでしょうか。


ループという形式をとる作品は他にも多くあります。当然ながら同じ時間を何度も繰り返すことになるため、中にはその繰り返しの描写が単調でダレてきてしまう作品もあるのですが、本作は本筋に必須な描写だけに絞ってテンポよく進んでいくのが長所の1つかなと感じました。

2周目の段階では森へ行くなと忠告し、それ以外はいつものように彼とじゃれ合っていたところまで書かれていますが、再度救出に失敗して以降はもう各周回ごとの様子が細かく出てくることはありません。その分女の子の頭の中には彼を救出することだけしかない様子がプレイヤーにも伝わってくるのです。

その後もメインのストーリーに絡んでくるシーンだけが細かく描写されるので本筋が掴みやすく、また途中で飽きたりすることなく読み進められるのです。
本質でない部分が省かれている分密度が高く、プレイ時間のわりに大作をプレイした気分にもなれます。


そんな感じで結構な分量のある作品なのですが、この間ずっと登場人物に名前がないのはさすがに寂しいなと感じました。レビューでも男の子とか女の子としか書けませんし、作内でも常にお互いのことを「あいつ」「おまえ」のように呼んでいます。15分の短編とかならそれでも十分かもしれませんが、2時間ほどそのままだと名前がないのがかわいそうな気もします。あとはたまにどっちのセリフか分かりにくくて一瞬考えないといけなかったりといった場面も出てきます。

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さて、本作をプレイしていいと感じたところの1つとして、優しい雰囲気を挙げておきましょう。
先述したようにこの物語に出てくる人物はきつい性格をしているわけですが、そんな2人の交流からこんなに優しいというか微笑ましい空気感になるとは驚きでした。表面上の冷たい態度だけでなく、内心の友情や良心みたいなところがしっかりと描写されているおかげだと思います。子供って変なところで意地を張ることがあるよね~、と温かく見守りながらプレイしていくことができます。ツンデレ系の恋愛ものなどとはここが決定的に読み心地が異なるかなと感じました。

また、世界観もそれに合わせて優しく、程よくファンタジックに作られています。私は以前、同じ作者さんの作品で「わたしの愛する、壊れたせかい」や「空っぽたまごは泥を見る」などをプレイしているのですが、本作もこれらに近い雰囲気で進行します。本作には悪役っぽい人物(?)も登場するわけですが、それ以外の町の人なんかは皆優しく良識のある大人たちといった感じで安心して読み進められますね。童話風の世界観とスノードームというアイテムの相性もばっちりだと思います。


逆に少し気になる点は、結局この世界で2人がどうなるのか、謎の男の正体は何なのか、といったところにはっきりした答えが与えられないまま終わってしまうところでしょうか。意味深なセリフによってプレイヤーの興味を引いたり、「男の言う対価とは何だろう」みたいな疑問を引っ張って物語の推進力にしたりといったあたりは上手いなあと感じるのですが、最終的に疑問の解消に向かわない印象を受けました。
私はどちらかというと「プレイヤーの想像にお任せします」タイプの作品よりははっきりした結論が提示されるものの方が好きなんですよね。

ついでにもう一つ、序盤の特定のBGMがひどい音割れを起こしているのはさすがに気になりました。テストプレイしたら気付かないはずはないだろうというレベルだったのでもしかしたら私の環境の問題なんでしょうか?
選曲などの意味では雰囲気に合っているなと思ったので少しもったいなく感じました。

ちなみに本作には立ち絵はありません。しかし大変想像力をかき立ててくれる文章ですので寂しさを感じたりすることもなく、物語に合っているように思います。


こんなところでしょうか。強情ツンデレ少年少女が心を開いていくさまを見たければ本作以上の適任はいないと思います。おまけで男の子視点の方も読める仕掛けも良いですよ! ぜひプレイしてください。

それでは。

こんにちは。今回は現屋さんの「よんひくいちは」のレビューとなります。

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ジャンル:不思議な友情ものノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2014/3


フリゲ2023の審査進行表を見ていて本作の名前を見つけました。プレイしたことはないけれどなんか聞いたことのあるタイトルだなと思ってググってみると、道玄斎さんのレビュー記事がヒットして、ああここで見たことがあったのかと納得(ついでにシートにDL先URLをコメント追加)。せっかくなのでプレイしてみることにしました。すると思いのほか良い作品だったのでここでご紹介しようと思います。


主人公の伊勢部宥太(いせべ・ゆうた)は高校2年生。中学時代に突然「未来予知ができる」という不思議な力を得た彼は、表面的な友人付き合いに意味を見出せなくなっていつも一人で過ごしていました。そんな彼はある日クラスメイトの後先凌太(あとさき・りょうた)が1か月以内に主人公になる、という突拍子もない予言を得て彼に興味を持ち、久しぶりの友人関係が始まります。さらには「伊勢部宥太は世界を救う」というとんでもない未来予知まで登場。愛敬寛(あいきょう・さとる)、門馬黒助(とば・くろすけ)という仲間も加わり、通常の意味での友人もできていく中、突然始まった自分だけの非日常をどのように生き抜いていくのでしょうか…



さて、本作を読了した私は先述の道玄斎さんのレビューを読んでみました。すると私が感じたこととかなり近い感想が書かれておりびっくり。

まず、本作は出だしから物語に引き込む力が強いんです。冒頭に意味深な回想シーンが少しだけあり、その後はすぐに登校シーンとなるのですが、この日常的なシーンだけでプレイヤーに強く興味を引かせる内容になっています。「しばらくは自転車を使わないこと」などの不自然な指示だったりまるで後ろから親戚のおじさんが来るのが分かっていたかのような書きぶりだったり。明言しなくてもこれだけで、「あ、これは何らかの能力があるパターンかな」というように理解できます。
その後もちろん未来予知ができることは明らかにされるのですが、それまでの段階で既に(この物語は面白いぞ)という予感(これは予知ではないでしょう)を強く感じさせてくれるんです。

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そしてこの未来予知という力も万能ではありません。誰が何をするか、というのははっきりと分かるものの、場所や時期は不明な場合もあります。そして冒頭で書いたように「主人公になる」「世界を救う」といった曖昧なものまで。こうした設定によって、予知された未来が回避できるかどうか不明といったドキドキする展開につながっていくのです。

さらには文章力も確かで、予知という能力の開花によってやたら冷めた人物となってしまった宥太にぴったりの、堅めで時には皮肉的な文章にうならされます。メッセージウィンドウではなく全面に文章を表示するシステムを取っているのも文体にマッチしているでしょう。文章がやや難しいなと感じる作品ではありますが、これもゲームというより小説的だと思うと合点がいきます。

こうした要素が重なり合って、もう私は開始5分とか10分とかの段階で「これはすごいからレビューを書こう」という気持ちになっていたんです。このくらい”面白さの初速”が速い作品ってなかなか珍しいと思うんですよね。私が最近読んだ作品でいうと「インビジブル」とか「道徳ビデオ」とかがこのタイプなんですが、本作は開始5分でこれらに負けないようなワクワク感を見せてくれました。


さて、本作にはこの未来予知という大きな設定があるわけなんですが、軸となっているのは予知に関するミステリーだったりサスペンスではなく、宥太の友情なんです。物語開始時点の宥太は私から見ると”嫌なヤツ”です。冷淡だし、予知を元に危機回避をしてくれる時も単に指示を出すだけ。(本人も自覚してますが)あの言い方だと「コイツ、すげ~」ではなく「なんかヤベー奴がいるから逆らわないでおこう」と私だったら感じるでしょう。しかしそれは宥太がもともとそういう性格だったわけではなく、予知能力に目覚めてしまってから身に着けた処世術みたいなものだったのです。

そんな宥太が”主人公の予知”をきっかけとして、最初は打算的なところがありつつも普通の友情を築いていくさまは見ていて気持ちが良いです。普通の人に自分の能力について話したところで気持ち悪がられるだけです。そんな能力について追及するでもなく、また否定するでもなく。そんな適度な距離間で接してくれる凌太たちは本当に良い友達ですね。

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こうした男の子たちの友情を描いた作品って意外と思い当たりません。女の子が出てきて恋愛がらみの描写が含まれていたり、あるいはBL的な展開になったりといった作品が多い中でなかなか新鮮に感じられました。
さらに本作で珍しいと思うのは、主人公の母親がそれに積極的に影響してくることでしょう。
以前、主人公の親ってあんまり出てこないよね~っていう記事を書いたりもしました。ちょっと不自然でも海外出張に行っていることにされちゃったりして物語中に一切登場しないことも多い両親ですが、それだけ思春期真っただ中の中高生からしてみればうっとおしくて、いない方が物語上都合がいいということでしょう。

しかし本作においては母親は結構重要な役割を果たします。宥太は予知能力に関する折り合いの付け方を母親を介して身に着けていったんだろうなと感じられますし、その母親が息子である宥太をなぜ信じているのか、といったところが宥太が友人との間に不要な猜疑心を持たなくてよい、といった学びにつながっていくのです。このように本質的な意味で主人公の成長に影響する作品は貴重だなと思います。これも私がプレイした作品でいうと「あなたの命の価値」以来でしょうか(あの作品においては負の影響でしたが)。


本作は基本的に写真背景と全面に表示されるテキストで画面が構成されていますが、時折重要なシーンで登場する一枚絵がまた印象的です。立ち絵もあるんですが使用回数が控えめなので、大きな動きのあるシーンでいきなり絵が出てくるとなかなかインパクトがあるんですよね。最後の黒助とのシーンなんかは表情もいいなあと思います。

そんな本作ですが、途中で発生した謎がすっきり解決しておしまい、といったタイプの物語ではないです。もちろんふんわりとした答えみたいなものは与えられていて、またこの不思議なタイトル(ググると計算結果を教えてくれます)の意味するところも分かってくるのですが、答えを求めるタイプの人はちょっともやもやの残るエンディングと感じるでしょう(私もどっちかというとこのタイプ)。
”世界を救う”についても、謎が明らかにされるというよりは空から答えが降ってきたという感じの回収方法になっているのでSFみたいにかっちりした設定みたいなものを期待していると肩透かしを食らうかもしれません。
しかし宥太たちの友情関係であったりタイトルの意味からすると一つの物語としてまとまっており、このエンディングも不思議な世界観の演出に一役買っているともいえるでしょう。


気になるのはそのエンディングにてムービーが再生されないことです。ReadMe内では、Windows8ではクリックしないと進まないかも、みたいな表記があったのでいろいろクリックしたり互換モードで起動したりしてみたのですが、私の環境(Windows 10 Home 22H2)では真っ白な状態のまま動かなくなってしまいました。その後ゲーム再起動したらタイトル画面が変わっていたので、エンディングに到達したことは正しく判定されていそうなのですが…。


というわけで今回は「よんひくいちは」でした。
とりあえずDLして読み始めてみれば、きっと5分で本作のすごさに気付くでしょう。ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は妹れっぐぅおーまーさんの「Be alive ~What is your precious~」のレビューをしていこうと思います。
私は好きですが、本作はかなり人を選ぶ作品であることは間違いないので、注意書きなどをよく読んだうえで納得された方のみプレイしてください。

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★favo
ジャンル:王道学園ものエロゲ
プレイ時間:1ルート2~3時間。フルコンプまで5~6時間程度
分岐:攻略対象3人。計8エンド
ツール:NScripter
リリース:2006/12
備考:18禁。特定ルートで凌辱シーンあり。見たくない場合回避パッチを当てる事(後述)


さて、2年半ほど前にこのブログを開設し、週一弱のペースでレビューを書き続けてきましたが、今回で記念すべき100本目となります(コラム等があるため総記事数は128本となっています)。何か思い入れのある作品を取り上げたいなと思って考えていたのですが、私が初めてやり込んだフリーゲーム(カサハラン.COMさんの「漢字迷路三国志」です)はFlash製で既にプレイできなくなっていますし、ノベルゲームとの出会いのきっかけとなったむきりょくかん。さんの「ほしのの。」については過去に取り上げました。他に私に大きな影響を与えた作品と言えば、私が将棋を始めるきっかけとなったペットボトルココアさんの「夏ゆめ彼方」がありますがこれも以前にレビューしています。
色々考えた結果、今回は私が初めてプレイしたアダルトゲームであって大変印象に残っている本作を取り上げることにしました。というわけで1月にTetraScopeさんの「桜哉」の記事を書いた時以来の18禁作品となります。通常のレビューに比べて私の思い出話みたいなものも長くなるかもしれません。


本作は2006年のコミケが初出とかなり古く、現在公式ページのダウンロードリンクはミラーを含めすべて無効になっているため今からの入手はちょっと大変かもしれません。一応Wayback Machineでアーカイブをたどれば今でもダウンロードできることは確認しています。公開当時はエロゲと饗はおろかBOOTH(pixiv)すらなかったので配布場所は相当限られていたはずで、しょうがない面もあるとは思いますが昔の作品がプレイできなくなってしまうのは寂しいですね。


さて、では本作のあらすじ紹介に参りましょう。
主人公の藤原伸一は高校2年生。両親が海外出張中(お約束)のため、同じ高校に通う1年生の妹、千佳と一緒に家事を切り盛りして生活しています。学校では幼馴染の坂野恵理、悪友の北沢明と一緒になんだかんだ上手くやっています。最近では委員長キャラの榊原奏とも親しくなって、5人で楽しく高校生活を送っていました。期末試験のために勉強を教えてもらったり、試験終わりにゲームセンターで遊んだり。しかし時期はもう高校2年生の冬。受験勉強や卒業後のことを考えるとみんなで遊んでいられる時間もそれほど長くはありません。彼女らとの関係を一歩進めることはできるのでしょうか…。


と、こんな感じで基本的な設定を説明すると非常にオーソドックスな内容になっていると思います。
しかしこれまで文字通り健全なゲームしかプレイしていなかった私には、これがエロゲのノリなのか! と思った個所がいくつかありました。(もちろん、エロゲは全部そうだというわけではないのは今は知っているわけですが)

まず画面がピンク色!
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タイトル画面の色味もそうですし、この学校の制服はなぜか男女問わずピンク色のようで、立ち絵やスチルが自然とその色になっていきます。別に肌の露出が多かったりするわけではないのですが、なんか独特だなと思ってました。


そしてなぜか同性の悪友キャラ(明)がキモい。コイツ、何なんだ? というか公式サイトの攻略ページの中で作者にネタにされてるし…
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また、何でもないシーンでのサービスカット(?)が多い。最初の学食でのシーンからモブの女の子が普通にパンチラしているなど、そういった要素のあるスチルが多めです。

正直に言うとプレイしていた時には、これらの要素は良く分からないな、こういうノリなのかなと思って流していました。別にえっちなゲームじゃなくていいかと感じていたのです。しかし最後までプレイしてみると、私に強烈な印象と感動を残していったすごい作品だったのでした。それに関しては後述します。



さて、複数ヒロインである本作は当然、共通ルートと個別ルートに分かれています。クリスマス前までが共通ルート、それ以降が個別ルートとなっていますが、本作の特徴として共通ルートの比重が重めということが言えるでしょう。分岐直前まで5人で集まって遊んでいたりするので、複数ヒロインものでありがちな「後半で他のヒロインの存在感がなくなる」ような流れになりません。ヒロイン同士の掛け合いも描かれるなど、ただの賑やかし要員になっておらず丁寧に作られているんだなと感じられます。
個別ルートに入ってからも、きちんと友人同士の付き合いであった今までの関係性を踏まえた展開になっており好感を持てます。各ルートで恋人エンドと友人エンドにさらに分岐するわけですが、これはどちらに行っても言えるでしょう。

逆に言うと、恋愛ものとして見たときのどきどき感みたいなものはやや物足りないと感じるかもしれません。共通ルートの間の単なる友人としての関係が長く、その間は異性としての意識などは描かれないため終盤で突然恋愛ものになってしまう印象はぬぐえません。
その面で一番良くできていたと感じたのが委員長キャラである榊原ルートでした。幼馴染である恵理や妹である千佳とは違って、榊原だけはゲーム開始時点ではほとんどしゃべったことのない相手です。その状態から、何となく相手のことが気になるとか、少しずつ態度が軟化していくとかいった変化がほかのルートよりも濃く描かれていたように思います。このルートだけヒロイン視点が描かれているのも私の好みに合致するようでした。ご両親が良い人で良かったですね。
そしてルートの最後で18禁シーンがあります。初めて読んだ私は、なるほどそんなもんか(良く分からん)なんて思っていました。

千佳ルートについてはどちらのエンディングに行っても微笑ましい内容となっており、実の兄弟での近親相姦的な展開はありません。途中何回も伸一のことをシスコン扱いしたネタがありますが、このルートを読むとむしろ千佳の方が重度のブラコンでは? なんて思ったりします。

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ここまででも「良くできた作品」であると思いますが、これだけだとおそらく私にここまで強い印象を与えなかったでしょうし、正直わざわざ18禁の作品をやらなくても良かったかなと感じたでしょう。しかし本作は幼馴染の恵理ルートで本性を現します。

ヒロインが3人いて恵理ルートだけ1周目ルート制限がかかっています。1回目では強制的に友人エンドに。2周目で初めて「ホテルに入る」という選択肢が登場します。当然そこで恵理と行為に及ぶわけですが、問題はその後です。ずっとほのぼのとしていたこの作品の雰囲気はここで一気に反転します。

念のため再度警告しますが、このルートの先ではかなりショッキングな展開が続きます。具体的な暴行が行われるシーンはパッチ適用により飛ばす選択肢を有効化できますが、このルートの主題は事件によって深い心理的なダメージを受けた人物たちがその後どのように生きていくかです。鬱ゲーは受け付けないという方のプレイもお勧めしません。
気にしないという方もシナリオの加筆が若干あるためパッチ適用をお勧めします。公式サイトからver1.01パッチをDL・解凍し、作品フォルダのnscript.datを上書きしてください。パッチ適用後も該当のシーンを飛ばさずに読むこともできます。



このルートでは、伸一と恵理を追っていた千佳が暴漢に襲われてしまいます。それに感付いて現場に向かった伸一も犯人の手にかかって意識不明の大けがをさせられることになります。
幸いにも命に別状はなかった2人ですが、同時に負ったであろう精神的ショックの深さは計り知れません。そんな中で行われる千佳と恵理のあの会話シーン。愛し合っていたからこその行動だったのに、友達を大切に感じていたからこその気遣いだったのに、どうしてこう現実は悪い方向に進んでしまうのでしょうか。あの時こうしていればよかった、自分のせいでこんなことになってしまったという後悔が絶え間なくあふれ出てきて、優しさがあるからこその悲しみを際立たせるシーンです。しかし恵理の悲鳴交じりの決死の説得も届かないほど、千佳の心はずたずたに壊されてしまっていたのです。

そんなシーンの後、無音で始まるモノローグ。そこで事件がもたらした影響の大きさを再度実感させられることになります。伸一・千佳のみならず恵理や明、榊原を巻き込んで、事件から立ち直るための必死のリハビリが始まるのです。
確かに恵理は伸一とちょっと特別な関係になることを望みました。しかしそれは5人の友情を壊してまで望むものではありません。実際恵理は事件の前にも、これからもいつも通りで、と伸一に告げています。ところがそんな希望は事件によって完全に破壊され、悲痛な運命を甘んじて受け入れるしかなくなります。
生半可な友情だったらここで終わりになってしまうかもしれません。私だったらすべてをあきらめて自分の心も壊れてしまうかもしれません。しかし5人の友情はそうではありませんでした。恵理は自分にとって何が一番大事だったかに気付いたのです。まさに本作の副題にあるWhat is your preciousとは5人で遊んで楽しく過ごした日々、皆を思う友情であったのです。ほのぼの系の作品だったら何となく受け流してしまうであろう友情描写であったとしても、どうしようもなく悲しいこの状況だからこそ、こうも心に深く刻まれるものなのか、というのを強く感じたのを覚えています。
序盤のシーンではただの同級生でしかなかった榊原も、彼女がいないことに悪態をついてばっかりだった明も、こうも献身的に恵理や伸一を支えてくれます。こんな健気な友情だからこそ、全員を全力で応援しながら物語を読み進める手は止まりません。

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その後の学校のシーンなどは、今になって冷静に考えてみれば現実的ではないでしょう。しかしそんなことがどうでもよくなるほど私はこの作品に夢中になっていました。愛を越えた先にあるものをこんな形で描くことができるのかということに。そしてこの展開は同人の18禁作品でしか許されないだろうとも感じていました。

最後にクリスマスの日の会話などが伏線となって真実に気付くあの展開も良く作られています。私が最初に読んだときはこれが後で効いてくるなどとは全く思っていなかった何気ないシーンなのですが、そこまで計算されていたことに気付いてまた深く驚くのです。これも、伸一が恵理や千佳を大切に思っていて、しっかり観察していたゆえでしょう。

ラストシーンにはver1.01で加筆されたシナリオが出てきます。やや説明的過ぎるかなという感じもしますが、ここにきてようやくひと段落したと安心できる内容になっていて、全ルートの総まとめとしての終止感をしっかりと纏ったエンディングです。このエンドロールだけ振り返り的にこれまでのスチルがついていたりもしますしね。1つ注文を付けるとしたら、最後に全員で笑っているスチルとかあったらより感動的だな、というところでしょうか。
若干ネタバレ(クリックで展開) まさかタイトル画面の時点で盛大にあの展開を示していたとはね…全然気づきませんでした。

ちなみに本作の攻略は簡単です。攻略したいヒロインの選択肢を選び続ければよいです。優柔不断な選択をしているとノーマルエンドに行きます。


というわけで今回は「Be alive ~What is your precious~」でした。
本作が私にとって初めての18禁ゲームだったからこそ、単にえっちなシーンがあるだけでなく話のテーマに大きくかかわってくるような内容を含む作品が好きになったのかもしれません。この辺のことは「桜哉」で語りましたね。
あのルートを受け入れられる人はそう多くはないかもしれませんが、私を深く感動させたのもあのルートであることに間違いありません。鬱展開に耐性がある方、ぜひプレイしてみてください。このルートに出会ったからこそ、私はエロゲにもシナリオの良さやテーマ性を求めているといっても良いでしょう。

それでは。

こんにちは。今回はmisosioさんの「じごくのインターネッツ」をご紹介します。

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ジャンル:インターネットオカルトノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:ED3種
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/6


さて、misosioさんといえば2020年のティラノゲームフェスでグランプリを獲得した「お前のスパチャで世界を救え」が有名ですね。私もフェス期間中にプレイした覚えがあります。そんなmisosioさんの2作目である本作については存在は知っていながら長らくプレイしていませんでした。今週ようやくプレイしまして、前作にもまして面白い切り口から楽しませてくれる作品だなと思いましたのでレビューという形にしておこうと思います。
ところでReadMeにあった作者サイトに行ったらWordPressのサンプルページのままなのはさすがに何とかしていただきたい…リンクは貼らないでおきます



本作の主人公は、就職活動をしながらも副業としてブログを書いているフリーター。きくらげというハンドルネームでいわゆるいかがでしたか系の記事を量産しています。
ある日怪談系の記事を書き終えた後散歩に出かけると、謎の声に導かれ、「奈落ちゃんの出張占い室」にたどり着きます。奈落ちゃん曰く、明日は雨が降り槍も降り最悪の一日になるでしょうとのこと。特に信じてもいなかったきくらげですが、翌日スマホに妙な通知が。注文してもいないウーマーイーツの配達がやってきて、顔のない配達員に襲われてしまう……、自分が書いた根も葉もない記事にそっくりの状況に怖くなり、奈落ちゃんに助けを求めます。無事に配達員を追い払って平穏な日常を取り戻すことができるのでしょうか…

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タイトルを見ればわかる通り、本作はインターネットでのあるあるをオカルト風のネタにした内容となっています。フリーゲームを遊ぶ人というのは大抵ネットからゲームをダウンロード、あるいはブラウザからプレイするわけで、なかなか相性のいいテーマだなと感じます。よく見るインターネットスラングやネット上の流行が元ネタになっていると分かるシーンも多数出てきて、ほとんどのフリーゲーマーには伝わるネタになっていると思います。

本作は大きく4つの章に分かれており、第1章では上述の顔のない配達員事件が発生します。
主人公が勝手にでっち上げたオカルト記事が現実になってしまい大変なことに、という内容ですが、実際我々が見るインターネットの世界でも無責任で情報量の無い記事に戸惑うことも多々あるわけで、あるある~とうなずきながら読み進めることができます。
最近だとTwitter(X)で収益配分が始まってから、青バッジ付きアカウントがインプレッション稼ぎのために無意味なコピペツイートでリプ欄やトレンドを汚染しているのを見ると本当にどうにかしてほしいと思いますよね。見かけるたびにブロックしてるんですが全然減りません…。以前は公式の証であったマークが今やbotの目印みたいになっちゃってます。

話をゲームに戻しまして、主人公は自分が広げてしまった偽情報に対抗するために、世間が偽情報への関心を失うまで出前アプリのレビューを延々と続けて正しい情報を広めなくてはならなくなってしまいます。この展開、現実のインターネットと同じで面白いですね(現実においては対抗しなくてはならないのは偽情報を流した本人ではないことが多いのが難しいところですが…)。過去の自分が調子に乗ってやったことに苦しめられるというのは、ある意味のび太が毎回ひみつ道具でやらかしてしまうドラえもんのお約束に通じるなあと感じました。そういった古典的王道展開を現代風にアレンジしてフリーゲームの世界になじませた手腕は見事だと言えるでしょう。

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こんな感じで2章、3章と物語は進んでいきます。それぞれ宇宙猫とちいかわが元ネタと思われます。毎日インターネットに触れている方ならまず見たことがあるでしょう。それにしてもどちらも長いこと人気を集め続けてますよね。本作に関係ないですが宇宙猫にWikipedia記事があってびっくりしました。

この章でも主人公の過去のやらかしなどに奈落ちゃんと一緒に対処していくのですが、ブログでいい加減なことを書きなぐっていたことは反省したようで、一件一件地道に処理していきます。こうした対応を見ていくと、インターネットの世界って本当に大変だよなあと思えます。一回広まったものは完全に消し去るのはほぼ不可能ですし、どんないい加減な事でも言ったもの勝ちみたいな側面だってあります。この辺までくると主人公のことはのび太とバカにできないし、いつ自分が当事者になってもおかしくないよなあという気分で読み進めることができます。


4章で最終章に入る本作。そこで主人公はある選択を迫られることになります。
願いが叶う力があると言われるトンネルに取材に行くことにした主人公。奈落ちゃんと話しながらこれまでのやらかしを振り返り、インターネットなんて最悪だよと悪態をついてしまいます。もっとましな世界はないのかなと思いながらトンネルを抜けた先にあったのは、美しいインターネットの世界でした。
悪意のあるコメントはなく、アフィリエイト狙いの量産型記事に悩まされることもない。コツコツとブログ投稿を続けた甲斐があってメディアから寄稿の依頼や面接の誘いまで。理想的な世界に見えますがどこか違和感があります。このままこの美しい世界に住むことにするのか、それとも奈落ちゃんと事件を解決したあの世界に戻るのか。
ここでの選択によってエンディングが分岐しますが、どれを選んでもBAD ENDということはなく、それなりに幸せな結末が待っています。くだらないことばっかりで嘘だってたくさんあるし問題も多いインターネットの世界だけれど、だからこそ面白いものに出会える。笑顔でそう言える奈落ちゃんが素敵です。私もインターネットの中に面白いものがあると思っているからこそ、フリーゲームを探してプレイしたり、こうしてレビューを書いたりしているわけですからね。この記事が作内でいわれているようなスカスカのクソ記事でないことを祈ります。

zigokuno4


というわけで、今回は「じごくのインターネッツ」でした。
わざわざフリーゲームに関するブログを読んでくれる方にはうなずいてもらえる内容が多数あると思います。インターネットの面倒くさいところ、楽しいところを含めて受け止められる方、プレイして損はないですよ。

では。

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