フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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ノベルゲーム

こんにちは。今回はKITTENSさんの「マイ・スイート・トマト」をご紹介します。

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★favo
ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:オートプレイで45分ほど
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2004/9
備考:第11回ふりーむ!ゲームコンテスト健闘賞受賞作


本作はノベルゲームという形式になっていますが、その他のノベルゲームとはもはや違うジャンルなのではないかと思わせる特徴があります。言葉で書くとそのすごさがあまり伝わらないのですが、まず第一にグラフィックはすべて一枚絵からなります。つまり背景+立ち絵という構成はありません。そして第二にフルボイス。主人公のエミやその他の人物にも声があるのはもちろんのこと、なんとセリフではない地の文にまでボイスが入っているのです。これは他に見たことのない演出で、ノベルゲームをプレイしているというよりは、紙芝居による読み聞かせを聞いているような気分になります。そうした意味でも本作をプレイするときは、オートモードにすることをお勧めします。アニメーションも豊富についており、眺めるだけで見た目にも楽しい作品となっています。



本作を起動してすぐ、かわいらしいトマトちゃんの生活ぶりが紹介されます。トマトの形をした家でトマトの栽培をしていて、さらに採れたてのトマトを生み出す超能力も使えて、でもベジタブル村にはリンゴさんとパセリくんなどの天敵がいて……。しかし突然、「そんなものはいなーい!」と普通の女子中学生エミによってトマトちゃんのファンタジー世界は崩され、日常世界に戻されます。ふむふむ。どうやらこのエミちゃんがベジタブル村の物語の生みの親であるようだ…ということが分かってきます。
しかしこのエミちゃん、なんとトマトは大の苦手で味もにおいも食感も見た目も嫌い。ケチャップすら無理というので嫌い具合は相当です。

そんなトマト嫌いのエミちゃんがなぜトマトをモチーフにしたキャラクターを作ったのか、昔は好きだったけど何かトラウマができて嫌いになったのかなとか、トマトちゃんを作ったのはエミ本人ではなかったのかなとか気になってきますよね。結論から言うと、昔は好きだったというのが正解なのですが、その事件が問題です。すごく悲しいけど、めちゃくちゃよく起こりそうな出来事なんです。小学生ってこういうこと、すごくあると思うんです。決して、ものすごい悪意があってやっていることじゃない。単なるいたずらのつもりでしょう。しかしそのいたずらは、時にいたずらされた側に対し大きなトラウマを残します。ここのところが悲しすぎて、すごく印象的でした。

トマトちゃんの場合、事件になったのは漫画でした。しかし、同様のことはフリーゲーム界隈でも、もっと言えば創作関連の趣味全般でも起こりうることです。本作の事件に似た理由で創作をやめてしまったという方もいるでしょう。私はこうしてレビューを書いている程度にはフリーゲームが好きなので、作者さんが筆を折ってしまうのは寂しいことです。

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そして創作活動を停止することに伴って悲しい思いをするのは作者や読者だけではありませんでした。ここがファンタジーである本作の見せどころです。トマトちゃんの創造主たるエミが止まってしまったことに伴い、作品は永遠に完結することがなくなりました。そうなったとき、キャラクターたちに人格があったら何を思うのか。ここもすごく良かったです。
ノベルゲームでもその他の媒体でも、心に残る作品ってすごくキャラクターが生き生きしてるんです。物語の都合で動かされているのではなく、キャラクター自身が自ら動き、感情を表現し、成長していきます。本作におけるエミとトマトちゃんはこの点で素晴らしかったです。ほのぼのとした物語を作ろうとしたが、その世界の人物は意外と大変な苦労をしていることに気付いたエミ。創作の"設定"に悩まされるトマトちゃん。物語の作者と作内の登場人物の邂逅というファンタジーの手法によって、彼女らの悩みが逆にリアルに、説得力をもって感じられ、素晴らしい作品に仕上がっていると思います。

ちょっと暗い感じになってしまいましたが、エンディングついてはしっかりと希望を持てる内容となっていて本当に良かったです。エンディング到達後は、おまけも解放されるのでそちらもぜひ見てみてください。BGM・スチルの鑑賞にとどまらず、なんと没セリフ集というコーナーがあります。すべての文についてボイス付きなのは冒頭でも述べましたが、採用されたセリフ以外にもこんなにたくさん録っているんだなというのが分かり、作者さんの意気込みに感服しました。

それでは。

こんにちは。今回はばするぅむさんの「かえりみち」です。今回についてはいつものレビュー回というよりコラム回のノリに近くなると思いますがご了承ください。

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★favo
ジャンル:ノスタルジー系恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:1時間
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2012/4


まずはいつも通り大まかなあらすじをご紹介しましょう。
主人公の高木圭一は鹿児島県の霧島町(現・霧島市)に住む高校3年生。同学年で家の近い小湊ほのかとは小学生のころからの縁で、田舎特有の長い通学路をずっと一緒に通ってきた。しかし進路のことを考えなくてはならない年齢になり、この関係ももう長くは続かないことを寂しく感じていた……。

という感じでしょう。まさにタイトルの通り"かえりみち"にほのかと会話しながら帰ってくるというのが物語の大部分を占めるテーマでもあります。
さて本作ですが、プレイしていて大変驚いたところがあるので最初にそれについて書きましょう。

作風が完全に「むきりょくかん。」の作品のそれ!!!

はい、プレイ開始前にReadMeを読んだときに、背景画像提供としてむきりょくかん。のクレジットがあり、さらに本作のメッセージウィンドウが「ごがつのそら。」「ほしのの。」のそれと似ていたので気にはしていたんですが(ただしゲームエンジンは異なる)、そんな表面的なところにとどまらないほどにそっくりです。特定の目的なく緩やかなおしゃべりをするシーンが根底にある、文章は1人称で時折ノスタルジックな発言やその他の感想のような文が入る、ピアノ曲中心のBGM選曲、舞台となった実在の地名が明らかにされる、シーンの切り替わりで情景描写が入る、などなど何をとってもむきりょくかん。を連想する要素のオンパレード。中盤で"「ほしのの。」という映画"の感想の話が出てきたところで、本当にこれ別人だよな、むきりょくかん。の吉村さんの別名義とかじゃないよなと途中でサークルのHPを確認に行ってしまったほどです。

その結果、ばするぅむさんのサイトトップにはあの懐かしのツッコミフォーム(by むきりょくかん。)が! (注:コメント送信用CGI)
さらにハンドルネームで検索すると、作者の成井芳織さんはむきりょくかん。の日記へのコメント常連であったことが分かって、ファンが高じて自作にこんなに明確な影響を受けることもあるんだなと感じました。

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本作の話に戻ります。そんなことがあって雰囲気が似ているのもあり、私は本作の雰囲気がかなり好きなんですよ。何らの目的もなく続くような日常の描写って、往々にして飽きてしまうようなことがありますが本作はそんなこともなく、圭一とほのかの距離感だったり、受験や進路に向けて何となく考えていることだったり、そう言ったシーンを微笑ましく眺めることができました。


というようなことばっかり言っていると、他者の作品の劣化コピーなのかと思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。本作の場合、独自の魅力としてまず幼馴染ものという要素がありますね。子供のころは帰り道でこんな寄り道をした、とか、中学校のスクールバスが懐かしいとかの表現によって、キャラクターに立体感が生まれるのです。当然ですがプレイヤーは登場人物について、作内で描写される情報しか持っていません。単純にシーンを順に脚本のように紡いでいっても、キャラクターの平面的な部分しか見ることができませんが、思い出のシーンなどが入ることによってキャラクターに過去からの流れという新たな次元が交わり、より多角的に魅力を受け取ることができるように感じます。

また、本作は帰り道にだらだらと喋りながら歩いていくという、誰にでも経験のあるシーンがテーマとなっています。物語は基本的に何でも主人公の立場になって読むタイプの私にとって、これは非常に感情移入しやすい内容でした。私の場合残念ながら、毎日一緒に通った幼馴染がいたわけではないのですが、それでも部活の後で友人と歩いて帰り、受験のこととかも考えなきゃな~とか思っていたのは今となっては貴重な出来事だったと思い出させてくれました。
舞台となった地域の描写がしっかりしているのも、2人の空間を想像しやすくなってよかったと思います。本作内の時間は2005年(公開は2012年です)。調べたところこれは旧霧島町が実際に市町村合併で霧島市となった年でした。作内でその描写もあるなど、現実に忠実であることによって舞台のリアルさが増し、私をより深く圭一とほのかの世界へと連れて行ってくれたのではないでしょうか。

そして、文章力も確かですね。比喩を用いた表現などが多用され、どちらかというとゲームというか小説寄りのテキストかもしれません。私が好きなのは、受験が終わって帰るときの「色のない街の中を帰っていた。」ですね。私も大学入学を機に地元を離れた経験があるので、あの時の希望と不安と緊張が綯い交ぜになったような気持ちを思い出したりしました。

さて、本作をプレイしていて気になった点もあります。まずは、シーン同士の繋がりがあまり感じられなかったように思います。例えばお祭りの場面。圭一はほのかを怒らせてしまいますが、その前ぶれだったりフォローだったりという部分が十分でなかったのではないでしょうか。一応なぜそんなに怒っていたのかは判明しますし、翌日謝って許してもらったというような描写はありますが、その後の展開に結びついていないように感じてしまいました。ここだけ孤立していて、なかったとしても成立してしまいそうな感じです。ほかにもところどころ、話の流れから独立してしまっていると感じる場面がありました。
しかしそれらのシーンも個別の場面としてみれば、圭一とほのかの関係性が浮かんでくる良いシーンだなとも思えるので惜しいところです。

そしてエンディングも、確かにまとまってはいるんですが、そこはオーソドックスに1年後の話をして欲しかった。これは単に私の好みというレベルではありますが……。


というわけで、脱線も多くなりましたが今回は「かえりみち」でした。
田舎で幼馴染ものというワードに惹かれる方、地元にノスタルジーを覚える方、むきりょくかん。(特に「ごがつのそら。」)のファンの方は読んで損のない作品だと思います。

それでは。

こんにちは。更新が2週間空いてしまいました。
今回はカビ布団さんの「そしてパンになる」の紹介となります。

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ジャンル:パン作りに燃える部活&恋愛ノベルゲーム…と思いきや…
プレイ時間:1ルート3時間/フルコンプまで8時間程度
分岐:メインはヒロインごとに1つで3ルート+おまけ(真)ルート、実質バッドエンドあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/4 (R15版ver1)、2021/12(R18版)
備考:ノベコレ版は15禁、エロゲと饗版は18禁。今回は18禁版でプレイ


さて、本作については私がプレイする前からノベコレ版の評判を耳にしておりました。ほかに例を見ないような衝撃的な内容だと。
尖ったものが出しやすいのがフリーゲームの魅力の一つだというのはブログ開設当初にも述べてきた私ですが、ここまで驚きの展開というのを売りにされてしまうと私としてはプレイしないわけにはいかないかなと思っていたところ、たまたま18禁版のリリースを知りその場でダウンロード。どんな意味で衝撃的なのか、というのを確かめるような心持ちでプレイを開始しました。


本作の舞台はパン作りが主要産業で皆パン大好きな八紘町(はっこうちょう。パン作りに欠かせない"発酵"からの命名でしょうか)。主人公の波良嶋亮は御多分に漏れず大のパン好きで、どうしたらおいしいパンが作れるか日々研究を重ねています。幼馴染の八千代心音とともに部員を集めてベーカリー研究同好会を立ち上げ、部活としてもパン作りに取り掛かっていきます。部員になってくれたのは亮と心音のほかには学友会(生徒会のようなもの)も兼任するまじめな小頭(おず)さん、メロンパンの髪留めが目を引く帆那(はんな)さん、一風変わった味のパンを作る粕田(かすた)さんの3人。ギャルゲーらしく、本作はそれぞれのヒロインごとにルート分岐があります。


作者さんがお勧めする攻略順があるようなので、私はそれに従ってプレイしました。まずは帆那さんです。本作の中では最も王道系と言えるルートでしょう。パン作りに熱心な帆那さんとどうやらそれをよく思っていないらしい帆那さんの父親。父親をどう説得して帆那さんにはどんなサポートをするのか、といったあたりが見どころで、本作の中で亮が最も強かな感じがするルートともいえるでしょう。
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問題は次の心音ルートです。ここにきて本作の"衝撃的"の部分が徐々に明らかになっていきます。帆那さんルートでもほんの少しふれられた"八紘町の都市伝説"の話や、亮や心音の両親たちがそれにかかわっていそうなことが次第に明らかになります。このあたりをプレイしているときは、正直に言うと
「フリーゲーム史上類を見ないとまで言うほどか…? 確かに規模が大きいし亮にとって驚愕の事実というのは確かだけど誇大広告では?」
といった感想でした。しかしこの感想は心音ルート終盤で改められることになります。さすがにあの展開は想像できませんでした。その結末を前に亮と同様に呆然とすること3分。ようやく私も状況を飲み込みました。そして様々なことを理解するわけです。都市伝説について誰に聞いても歯切れの悪い答えしか返ってこなかった理由。パン大好きだった兄が突然パン嫌いになってしまった理由。
そして黒幕への怒りに震えるだけの私と違い、亮はもう一つ大切なことに気付いていました。"世界一おいしいパンとは何か"。作内で散々出てくるこの言い回しですが、ここにきてただの部活の目標とかの域を超えて別の意味を帯びてきます。いや、意味というより、もはや呪いでしょうか。
真実を知ることで苦しむという展開を含む作品はたびたび目にします。しかし本作では、そうした苦悩とはまた性質を異にしています。心音ルート最後の選択肢で、片方を選ぶと亮は完全にパン作りへの情熱を失い抜け殻になってしまいます。この展開、私結構好きなんですよね。極めてしまったゆえの絶望と諦観。このあたりが逆に亮の職人魂みたいなものを感じさせてくれました。

この後に粕田さんルートを読むと大変平和ですね。最もギャルゲーらしく、バランスも良いルートと言えるでしょう。帆那さんルートなどでもそうでしたが、パン作りのための課題は技術的な内容よりも粕田さん自身が自分の力量に自信をもつという精神的な面に帰着します。このあたりが上手かったですね。もしパン作りをする上での壁と打開策が技術的なものだったとしたら、おそらく私には専門的過ぎて理解できなかったでしょう。しかし主眼をメンタルの方に置くことによって、パン作りの経験などなくても理解できるし、そのうえでベーカリー研究同好会という設定がないがしろにされているとも感じないようになっていると思います。さらに、部活での関係を自然に恋愛につなげるのにぴったりです。
気になる点としては、食レポの方はもうちょっと具体的にしてほしいかなと感じたところでしょうか。「私の作ったパンおいしい?」「うん、おいしいよ」といったやり取りばかりになってしまうと、部活とか関係なしにただイチャイチャしてるだけじゃねーか、と思えてしまいます。まあ、ここを専門的で難しい指摘ばかりにしても先ほどと同じ問題がありますから、バランスが大事といったところでしょうか。


さて、これらのルートをすべて読むと、おまけルートに入ることができます。……という情報をもとにプレイしていたら、全然おまけなんかじゃないシナリオの量と内容でした。ここまで読み終えないと本作をプレイしたとは言えないでしょう。私は小頭さんルートと呼んでます。
このルートでは、部員で立ち絵もあるのになぜか攻略できないと思っていた小頭さんとの関係を進めることができ、事件についても心音ルート以上に真実に迫ることになります。というわけで、心音ルートを読んだ方はこのルートまですべて読むことを強く推奨します。


この作品をプレイするうえで気になる点も多かったので少し挙げます。
まずは、部活としての導入だったのにそれが物語後半で完全に忘れ去られていると感じた点です。例えば、小頭さんルートではちょっとだけ触れられますが、学園祭関連の描写が審査会以降全くないところなどは違和感がありました。普通学園祭本番がメインイベントであって、出展団体の審査を行う部分はあくまで通過点、中間目標でしかないでしょう。しかし本作では審査会終了後「目標がなくなってしまった」という空気になるのが理解できませんでした。学園祭の模擬店を成功させることを目標に設定したうえで、各人が技術向上に励む中で課題を見つける(あるいは、事件に迫る必要性を感じる)という展開で良かったのでは?
あとは、シーンごとの繋がりがわかりにくいと感じる回数も多かったです。寝たら日付が翌日に飛んだり、1週間後に飛んだりするので作内の時間がつかみにくかったり、あるいは登校したと思ったのに次のシーンではいつの間にか学園が終わっていたりといった混乱は、回数が重なると確実に読み手の没入感を阻害します。
長編ということを鑑みても誤字が非常に多いところや、バッドエンドはともかく正規のエンディングまでがあまりにも素っ気ないのも気になるところです。


といろいろ書いてきましたが、R15版公開からR18版・R15版ver2の公開までに立ち絵の追加のみならずシステム面の改善などもされているようで、今後に期待できる作者さんかなと思っています。旧verで書かれた他の方のレビューを見ると、文字表示速度の変更ができないといった記述がありましたが、私がDLしたバージョンではできるようになっていました。

最後にどうでもいいことを一つ。
"学園"はエロゲのお約束なんですかね? 商業作だと18歳未満は出せないから高校という名称は使えず、代わりに学園と呼ぶのがお約束といううわさを聞いたことがあるのですが、商業作をやらない私には分かりませんでした。私がいくつかプレイしたR18フリーゲームでは普通に高校生が出てきたような記憶があります。誰か詳しい方いたら教えてください……
本作ではR15版でも学園のようです。


私は以前、衝撃的なシナリオを持つ作品として「まい、ルーム」をレビューしました。本作にはあの時の衝撃とはまた違った驚きが詰まっています。さらにはこのテーマでしか語りえないメッセージ性を含む作品となっているので、気になった方はぜひプレイしてください。
それでは。

こんにちは。今回は一限はやめさんの「ホラー大好きヒミカさん」をご紹介します。

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ジャンル:ホラーゲームあるあるネタ風コメディ
プレイ時間:45分
分岐:なし(後述)
ツール:RPGツクール(要RTP)
リリース:2020/4

今回ご紹介する作品は、上のタイトル画面のスクリーンショットやそこでのBGMは全力でホラーと主張していますが、中身としては日常ギャグ系となっています。

本作は、ほぼすべてが主人公の陽菜と友達のひみかが部屋でおしゃべりしている場面で構成されています。タイトルから分かる通りひみかはかなりのホラーゲームやオカルト系マニアの大学2年生。ホラーゲームにありがちな状況や台詞の引き出しが異常に多く、超ハイテンポでネタを放出します。対する陽菜は比較的普通の子でツッコミ役。あっちこっちに話が飛ぶひみかを毎回軌道修正して話を進めてくれます。しかしたまにひみかのフリにのっていくことも。そんな2人のやり取りを見ながら、あるある~~といったり、そんなのねーよとツッコんだりするのが本作の楽しみ方の一つになります。


さて、本作には地の文だったり、ナレーション役といったものは存在しませんが、ショートコントのタイトルのような感じで数分くらいの間隔で暗転とタイトルアナウンスが入ります。とはいっても登場人物も場所も変わらないのですが、この仕組みで話の切り替わりがわかりやすくなっています。ずっと同じ2人が話すだけではそのあたりがあいまいになったり、息をつく暇がなくなりますからこれはいい構成だなと感じます。ちなみに、その場面転換の間でのみセーブが可能になっています。

まず最初は「怖い話」。ストレートですが、怪談って人気ですよね。私は怪談やホラーが特別好きというわけではありませんが、ゲームをやっているとよく出会うジャンルということもあり、有名なものは結構知っているつもりです。
しかし本作では当然ながら正面から怪談について語ったりはしません。
「1日3食をすべてお菓子の「じがりこ」で過ごした話」
から始まり、
「田舎に残る怖い風習」
というまさによくある風の怪談が始まるかと思いきや
「女子間の、されるのがわかりきった「サプライズ」のし合いの方が怖い風習」
と一刀両断。この急カーブで笑えるならば本作を最初から最後まで余すところなく楽しめるでしょう。
「何でも田舎のせいにするな」との主張、心得ました。

そんな感じでホラーや怪談を題材にしつつも様々な方向に振れた話題を楽しめる本作ですが、メタな話題も結構含まれます。本作のシナリオがゲームという媒体で紡がれることからもそれは必然かもしれませんね。
先ほどの話で、「地元が田舎って、どの辺?」という振りに対し、「かなりの田舎と言ってしまった以上、傷つく人がいるかもしれないので具体的な地名は出さない」は流石です。「視聴率」発言も笑いました。確かにそうかも。

ひみかはかなりマイペースな性格で、同じお題に対して陽菜があきれるほど多くの例を挙げたり、逆にいつの間にか話題が変わっていたりします。そしてどんどんホラーとは関係ないテーマに進んで行ったりもします。”ホラー大好き"というのはひみかさんの趣味に関する話であって、本作全体のテーマというわけではないのです。軽めの下ネタもけっこうあります。かなり自由にいろいろな話題に飛ぶので、ホラーの話という導入から離れて女子会をのぞき見しているような気分すら味わえるかもしれません。

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さらには突然の水着シーンあり。その後に1度だけある選択肢によっては以後がすべて水着での会話になっており、一気にツッコミどころが倍増して楽しいですよ。立ち絵と一部の会話が変わるくらいで、シナリオに影響はありません。

また、上のような2人の駄弁りだけでなく、本作には時折前触れなしに「なりきりコーナー」が挿入されます。アルバイトの接客ごっこだったり、ゲーム内でよくあるシチュエーションごっこだったり、実在作品のオマージュだったりと様々。私は「探偵」での陽菜のスピード感あるツッコミが好きです。
なりきりコーナー中は、結構シリアスな場面もあったりします。ファンタジー系のゲームやアニメでめちゃくちゃありそうなシーンで、これも結構面白かったです。ひみかの方は相当な変わり者なのでよくわからないですが、陽菜も割とノリノリでこの遊びに付き合っているのを見ると、仲良くていいな~と思いますね。説明なしで寸劇が出来上がっていて、以心伝心している感じがすごい。
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しかし立ち絵の表情と場面の悲壮さがかみ合ってなかったりする。これは、全編を通してコメディ調である本作の味ですね。しかもその直後に(以前の選択によっては)何事もなかったかのように水着で登場するので、シュールさが加速してます。


最後に、私が好きだったネタを3つ挙げましょう。
  • 飲み会の断り方
  • そのやり方は……確かに効果的かもしれないけどいろいろ大事なものを失いそう。少なくとも私はやりたくないなあ。陽菜の感想ももっともだし。
  • テレビをつけたら…
  • 私が実際に友達の家に行ってテレビをつけてそんな感じだったらかなりビビる。しばらくは微妙な空気になりそう。
  • 名前の読みがな
  • レビュー内でルビを振らないようにしましたが、陽菜は"ハルナ"です。作内ではあだ名などから読みを判断できるとはいえ”ヒナ"も一般的な読みだなと思っていたところ、それもネタにされていたのでさすがです。
というわけで「ホラー大好きヒミカさん」のご紹介でした。脱力系とでもいうのか、洗練されたギャグとはまた違った笑いが楽しめる作品です。独特の雰囲気のある作品なので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。
今回はフリーホラーゲーム界の古典的名作と名高い、PIA少尉さんの「1999ChristmasEve」をお送りします。ver. 1が出たのが2000年末なのでなんと20世紀の作品となりますが、今プレイしても十分楽しめました。
ちなみに、私は本作をVectorからダウンロードしておいたような記憶があるのですが、今検索したら見つかりませんでした。もうweb archiveを使うしか入手法はないかもしれません。それもいつまであるかわからないので、興味のある方はお早めにダウンロードしておくことをお勧めします。

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ジャンル:山奥の教会(?)で散々な目に遭う典型的ミステリーホラーノベルゲーム
プレイ時間:攻略情報を参考にストレートでED回収すれば4~5時間? 私の自力プレイでは10時間以上
分岐:無数に存在。大きくAlive EndingとDeath Endingに分かれる。
ツール:吉里吉里
リリース:2000/12



本作はフリーノベルゲーム界においてはかなりの有名作なので、以前から存在は知っていたのですが、「とにかく難しい」「しかも長い」という評判を聞くのでなかなか手が出せませんでした。しかし思い立ってプレイしてみると、確かに有名になるだけの面白さのある作品だなあと感じます。

まずあらすじを簡単に説明しましょう。
主人公の明(名前変更可)はイブの夜に友人の由美香(こちらも変更可)を長野のスキー場に誘う。しかし現地に向かう途中で車が突然故障。電話も通じない山奥だったため、近くにあった教会に電話を借りに行くが、そこはこの世のものと思えぬ怨霊たちの住む恐ろしい場所だった……。そんな教会から何とか生還し由美香との関係を進めることができるのか。そして教会と怨霊たちの正体・真実を見つけて鎮めてやることはできるのか。


本作をプレイして特徴的だと思うのは、無数にある分岐の作りこみです。序章から最終話(第8話)までに分かれている本作ですが、序章のうちからとんでもない量の選択肢が出てきます。突然車のエンジンがかからなくなったトラブルの対処から、ドライブ中の他愛もない会話、ラジオで聞く音楽にまで選択肢が出ます。これらのすべてが物語の進行に関係があるわけではありませんが、その分量に私は圧倒されました。

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教会にたどり着いてからが第1話。ここからが本番です。鐘が鳴っているし人はいるはずなのに姿が見えない、この不気味な教会を探索していくことになります。どんな順番で探索するか、突然現れた怨霊や謎の殺人鬼にどう対処するか、動転してしまった由美香になんと声をかけるのかなどあらゆる選択の連続で、普通のノベルゲームからは一線を画すゲーム性がある作品となっています。選択肢を選ぶだけでなく、後半には自分でテキストを入力しないと進めない部分まであります(一字一句同じでないと通過できないわけではなく、複数の単語や表記ゆれにも対応していてすごい)。理不尽な点もありますが、自分の行動を変えることでストーリーが180度変わってくることもあるので、ゲーム世界に没入して自分が主人公になったかのような緊張感と恐怖を味わうことができます。

この、自分が物語の主人公として動いているという感覚、ゲームを楽しむうえで非常に大切だと思うのですが、本作はその点が非常によくできていたと思います。立ち絵や分かりやすい背景画像のない本作ですが、その分テキストで周囲の状況や自分の心理状態などもしっかり描写され、教会の内部を想像しながら読み進めることができます。
この感じ、私はとてもTRPGに似ていると感じました。TRPGをご存じない方のために一応説明しておくと、通常RPGと言えばコンピューターゲームを指すのに対し、TRPG(テーブルトークRPG)とは、シナリオとゲームマスター(GM)を用意し数人で集まって、プレイヤー自身がキャラクターの役割を演じながら進めていくゲームのことです。プレイヤーの想像力とGMの裁定次第でコンピュータRPGではできない柔軟性のあるゲームになるのが魅力なのですが、本作はこれに迫る"当事者感"といいますか、自分が探検しているんだという感覚が得られたのですね。多くのノベルゲームをプレイしてきた私ですが、これは初めての体験でした。
そう思うと、グラフィックや演出が簡素なのは、プレイヤーに想像を促すという点で非常に効果的であるように感じました。かわいらしい立ち絵がついて、さらにはボイスまでついて、といった大変に作りこまれた作品が最近は多いですが、そうするとどうしても"物語を傍観している"というような意識になってしまうんですね。ドラマとかアニメを見ている感じです。もちろんそれも素晴らしいのですが、それとは別の種類の魅力が本作には詰まっていると思いました。

簡単に分類すると本作のシナリオは第5話くらいまでで謎と情報がそろってきて、第7話以降が解決編といった形になっています(第6話は特殊)。途中までは次々に押し寄せてくる恐ろしい現象に恐怖しつつ、正直こんなに謎ばっかり提示しちゃって回収できるのかなとも思っていたのですが、7話で救われました。もうね、この展開を見ただけで、これまで頑張って攻略してきてよかったなと思ったんですよ。讃美歌の話とか、うまいですね。5話までの出来事がしっかりと解決されて大変気持ち良かったです。難易度の高い本作ですが、ぜひ謎が解決し、怨霊を鎮めるところまでプレイしてほしいと思います。


攻略についても少し述べましょう。作内でAlive Endingを迎えるたび、支配人のメッセージとして真エンディングへのヒントが少しだけ表示されます。これはこれで参考になるのですが、これだけで攻略するのは相当大変です。実際私は攻略に10時間近くかけたと思います。自力で解くことにこだわらない方は、攻略情報を探したほうがいいなと思う難易度です。公式サイトはすでに消滅しているのですが(一応web archiveを使えば見れます)、有名作なので検索すれば今でも非公式の攻略サイトが出てきます。
そこでは完全に答えが書いてあるので、私の方で自分が詰まったポイントをいくつかヒントとして書いておきます。以下、クリックで必要な部分を展開してください。

森の迷路が越えられない 迷路を抜ける方法は、大樹か教会にたどり着くしかありません。第3話に進めるのは教会の方です。作内ヒントでいわれる通り4話に進むには最短ルートでたどり着く必要がありますが、一見同じ距離に見えるルートでもかかる時間が違うことがあるので注意です。5分間に進める距離が倍になっている箇所があります。また第2話のAlive Ending回収には、大樹にたどり着く前にあるアイテムを回収しておく必要があります。

第5話に進めない 第4話序盤の選択肢で旅行者カップルを助けに行くわけですが、ここで由美香から課される6連4択が難関。作内ヒントでは、信頼が得られる選択をせよと言われますが、これは分かりやすく言えば「カッコつけるな」です。

第7話で隠し通路が見つからない 自分ばかり探索するのではなく、少し遠慮して由美香にお任せするのもありかもしれません。

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