フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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ノベルゲーム

こんにちは。今回は、九州壇氏さんの君と再会した日をご紹介します。

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★favo
ジャンル:同窓会でしんみり系ノベルゲーム
プレイ時間:40分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2011/12


本作は15年前に卒業した小学校の思い出と同窓会での出来事を描いたノベルゲームです。立ち絵はなく、背景は基本モノクロ写真と大変シンプル。本作の画面を見た方の多くは、地味だなと感じるでしょう。しかしこの作品には、地味だからこその良さが詰まっています。丁寧に、素朴に描かれた主人公のモノローグがすんなりとプレイヤーに受け止められるのは、シナリオだけでない作品全体の雰囲気が落ち着いているからでしょう。


主人公日野村健太は人づきあいが苦手な子供だった。クラスの輪にはなかなかなじめずにいたが、クラス替えで同じクラスになった宮田さんも自分と同じように人づきあいが得意でない雰囲気を感じ取り、うれしくなって彼女とも少しずつ親しくなっていった。しかし小学校を卒業してからは何度か手紙のやり取りをしたものの次第に疎遠になり、今となっては連絡先も分からない。宮田さんに会えるかもしれない同窓会という機会に期待しながらもどこか感傷的になる主人公。このあたりの描写がすごくいいです。本作では星空を見上げるシーンが思い出深く重要な役割を担っていますが、この一人で空を見上げるという行為と過去を振り返ってモノローグを語らせるのって相性がいいですよね。人は考え事をするときに無意識に上を向いてしまうなどとも言いますし、現在の時間と回想シーンの思い出をうまくつなぐ架け橋みたいな感じがします。
また、変に飾られていない分、自分に置き換えて読んだりすることが容易です。最初はぎこちないやり取りだったけど、ちょっとしたきっかけで会話のタネができればどんどん距離が縮んでいったとか、同窓会で出会ったクラスメートが大きく変わっていて、うれしいような切ないような気持ちになるとか、自分のことと思いやすいですよね。別に作品になるようなロマンチックだったりドラマチックな子供時代を送っていなくても、大人ならほとんどの人が同窓会に行った経験はあるはずです。私は大体どんな物語でも主人公になり切って読むタイプなので、本作ではそれがしやすく私の胸の中にスーッと入ってきました。
文章は丁寧というだけでなく、ちょっと気の利いた表現なんかもあって、ゲームというより小説に近い文体かもしれません。「顔を上げると、そこにはオリオン座。昔と少しも変わることのないその姿が、今は憎らしく思えた。」とか、変わってしまった宮田さんとの対比が好きですし、「それはまるで、湖に沈殿していた泥がゆっくりと巻き上げられるような感覚。」なんかも、日野村の受けたショックと暗い気持ちがすごく伝わってくる感じがします。この文はラストシーンにもまた似た表現が出てきて、気付くとにやりとできます。

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さて、本作の魅力は心情描写だけではありません。あまり細かく書くとネタバレになってしまいますが、本作には前半からちょっとした伏線が張られています。その張り方が特殊で面白いんです。普通物語の伏線と言ったら、さりげない記述が実は後から判明する事実によって別の意味を持ってくるとか、そういった形が多いと思うのですが、本作の伏線はさりげないという感じはしません。もちろんあからさまというわけではなく、出てきた当時は別の意味でしっかり必要性のある描写になっており、構造が二重になっているのです。それが明らかになったときは結構びっくりしました。計算されたシナリオ構成だったのだなあと感じました。ただ、井上さんとの会話で真実が明らかになるシーンにはなんというか、やきもきしました。そんなに宮田さんのこと好きだったならもっと早く気づけよ! と。実際には、日野村は全然気付かないで思いにふけっているので、プレイヤーが事実に気付いた後にも主人公がわからないなあと頭をひねっているじれったいような時間が続いてしまっています。
本作にもう一つ注文を付けるとしたらサウンド面でしょう。BGMの選曲は割と私の好みなんですが、音周りの細かい部分に手が届いていない感じがするのです。具体的には、冒頭で本作は音楽ないのかなと思ったくらいのところで曲が突然始まるなど、無音の時間が目立つ感じがします。音楽のあるなしによる対比で印象的なシーンを演出するという作戦はあると思いますが、本作ではあまり力を発揮していない気がします。音楽のあるシーンとないシーンを作るにしても、その境目には多少のフェードを入れるなどすればシーンのぶつ切り感みたいなものは生まれなかったのではないかと思います。また、駅や電車内のシーンなどでは効果音もあるといいかなという気がします。そんなサウンド周りの細かい点が改善されれば、本作はさらに素晴らしい作品になったんじゃないでしょうか。

全体的に暗い雰囲気の漂うシナリオですが、読後感はむしろすっきりして希望を感じられるような作品ですので、ぜひ宮田さんの真実を見届けてください。

それでは。

今回は、ENTRANCE SOFTさんのおみコン!をご紹介します。タイトルで検索すると、お見合い関連のサービスばっかり出てきますが、本作の"おみ”はお見合いではなくてお見舞いの意味ですね。

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★favo
ジャンル:病院コメディ系(?)ノベルゲーム
プレイ時間:3時間半
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2011/9


本作は、簡単に言うと個性的なキャラクターたちの掛け合いが楽しめる長編コメディです。
主人公の宮下圭吾はこれからの高校生活に夢を膨らませる新入生。しかし下校中になぜか気絶してしまった圭吾は"妹のようなもの"の由菜に「変態だから入院させる」というトンデモな理由で強制的に入院させられ、実質監禁状態になってしまいます。そこで毎日診察(?)に来る医師の希沙やお見舞い(?)に来る由菜たちとの嚙み合わないやりとりや、なんとか脱出しようと画策する圭吾の様子を眺めて楽しむ典型的なコメディになっています。

本作でまず特徴的なのは、登場人物たちのキャラの濃さです。やっぱりインパクトがある人物だと、その日常も楽しくなりますね。主人公の圭吾はかわいそうなツッコミ役(この手のシナリオの作品では主人公がツッコミになるのはお約束ですね)。そして変態(と由菜に宣言される)。由菜は圭吾の"妹のようなもの"で、同居もしている。最初は意味が分かりませんでしたが、途中で挿入される回想でその経緯が明らかになります。こういう演出、いいですよね。圭吾を身体的に拘束して入院させることからも分かる通りいわゆるジコチューな性格。メイドの伊織は極度の人見知り。しかし明らかに圭吾へ好意を持っていて、ラブコメ的展開もあります。友人の凛は中二病で不登校。だが成績は良い。学校には行きたがらないが健気なところがあり、圭吾のことは「お兄ちゃん」と慕っている。医師の希沙は自身のことを「天才美人女医」と称する自信満々な人物。その割にティーバッグの使い方を知らないなど、常識に偏りがあるが自信は全く崩れない。
そして先輩にあたる千晶ですが、彼女だけちょっと浮いているというか、周りの濃さに比べてちょっとキャラが薄いかなと感じました。もちろん、漫才が好きで自分でもネタを考えるなど挑戦している(けど下手くそ)など、特徴はあるのですが、中盤まであまり登場しないせいもあってやはり影の薄さは否定できないかなと感じます。その中盤の登場シーンでも若干唐突感があったので、なんとか前半部分でも絡みが欲しかったかなと思います。後半で登場することで物語の重要なカギを握る人物でもあるので、前半に出てこない理由があると言えばあるのですが、圭吾のモノローグで時々思い出すなどがあったら良かったかなとは思います。また、比較的常識人キャラとして圭吾と若干キャラがかぶっているのもその原因でしょうか。圭吾とほかの人物との会話もコントじみたところがあるので、漫才が千晶の特徴づけとして弱いということもあるかもしれませんね。

さて、本作はプロローグ、1~7章、エピローグからなっています。2章までは導入に近いです。3章では凛、4章では伊織にクローズアップして、彼女らとのコントのような会話を楽しみながら、抱えている問題を解決していき距離を縮めていきます。ただ笑えるだけではなく、きちんと彼女らの抱える問題を解決するという目的があって、その過程で彼女らとの距離が縮まっていくというのがとても気持ちよく感じました。1つ1つのエピソードが良くできているんですよね。一応ネタバレにならないようにぼかしますが、特に凛がただ中二病な妄想に浸っているだけでなく、しっかりと圭吾との関係を築いているんだなと感じさせるエピソードが好きです。

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人物へのクローズアップが続いたので、5章もそうかなと思っていたら、5章以降は思いもよらなかった展開を見せます。ずっと圭吾が準備していた脱出作戦が成功するのです。ここから一転、物語はシリアスな展開を迎えます。由菜による監禁の真意、圭吾の過去などが次々と明らかになっていきます。この、笑える展開でキャラクターへの理解を深めてからのシリアス転換は私の大好物ではあるのですが、本作ではこの転換がいささか突然すぎるように思えました。前半部分で伏線を張っておくなりしたらまた印象は違ったでしょうか。シリアスな展開でありながら、会話は今まで通りのコント風だったり、由菜のわがまま全開なのも違和感の原因かもしれません。コメディの雰囲気なら多少無茶な展開でも気にせずに笑えるし、現実にこんなことはできないだろうなどと考えたりはしないのですが、やはりシリアスな話になるとそこは大切ですからね。ご都合主義だなあと一歩引いた感想が出てきてしまいました。具体的には7章で由菜がわがままを通したところが感動的に演出されるのは、ちょっと違うんじゃないかと感じました。単純に清二がとばっちりを食らっただけでかわいそうというのもありますね。

それでもコメディとして見たら十分面白いし、意外性があるという点では効果を上げているように思います。先述しましたが、圭吾とほかの人物との会話が本当に漫才やコントのように勢いがあり、ギャグも高密度で織り込まれていて、会話を眺めているだけでたくさん笑えるんですよ。アニメネタが多いので、よくアニメを見る方ならより楽しめるんじゃないでしょうか(私はアニメには明るくないので、私が気付いていないネタもあるかもしれません)。あとは、この各シーンで笑えるだけでなく、シリアスな展開まで含めて物語のつながりが良くできていれば完璧だったように思います。

細かいですがあと一つ気になったのは、立ち絵の統一感がないことです。担当された方が違ったのでしょうか。
エンドロールは大変珍しい形式で、印象に残りました。面白い試みで、とてもいいと思います。


いろいろと偉そうなことも書いてしまいましたが、favoの印をつけた通り私としてはとても楽しめた作品でした。わりと高頻度で出てくる変態ネタを楽しめる方なら、プレイして損をしない作品だと思います(とはいっても、全年齢対象だしガチの下ネタはないですよ!)。まずは作者さんサイトの作品紹介ページにあるQ&Aを読んでみてください。各キャラクターの紹介を兼ねながら小ネタもぶち込んでくる秀逸な内容だと思います。本編も大体このノリなので、ここで笑えた方なら本作にはドハマりするでしょう。

それでは。

今回は、フリーゲーム讃歌さんのcranky・appleをご紹介します。


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ジャンル:透明人間と交流する不思議系ノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2011/6


最近刺激的な作品が続いたので、今回はゆっくり心温まるタイプのシナリオの作品をご紹介します。本作はネット小説として公開されていたシナリオを、ノベルゲームにリメイクした作品ということです。

主人公のミドリが学校の保健室で、透明人間のさっちゃんと出会うところから物語は始まります。ミドリにはなぜか透明人間が見えますが、さっちゃんの方は人に見られたのが初めてなので口をポカーンと開けて驚くわけです。初めてexeファイルを起動したときにいきなりこの場面から始まったので私もちょっとびっくりしましたが、プロローグの後はきちんとタイトル画面になりました。なかなか珍しい演出ですね。

さて、透明人間との交流となると全体的にほんわかした感じなのかなと思う所なのですが、序盤はそんなことはありません。さっちゃんがなかなかミドリに気を許さないのです。さっちゃんはなんと養護教諭の秋尾先生に惚れ込んで保健室に住み着いた(?)というなかなかの変わり者。秋尾先生とは幼い頃から友達のような関係で、「椿くん」「ミドリ」と下の名前で呼び合う関係のミドリには初っ端からライバル心を燃やしまくりです。相当に嫉妬深く、気難しい(cranky)透明人間なのでした。

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というように、最初のうちはさっちゃんのインパクトが強かった本作なのですが、ミドリの方も実は相当の変わり者であることが次第にわかってきます。そしてそのミドリの成長こそが本作の主眼なのです。ここの展開がなかなかうまいなと感じました。例えば、普通の人との人間関係で悩みを抱えているけれども、透明人間となら自然になれるし悩みも相談できる、とかならありそうかな、と思うのですが、本作でミドリが成長する方向(というか出発点)は私にとってかなり意外でした。そしてミドリがさっちゃんに変わるように諭す場面はなかなかの名シーンだと思います。これは本気で相手のことを考えていないと透明人間の口からは出せない言葉でしょう。そこからのミドリの努力はなかなか微笑ましく、人は努力によって前進できるんだなあと勇気をもらえるようでした。ここの部分はとても大事だと思うので、もう少し尺を取って丁寧に描写しても良かったのではないでしょうか。ミドリがさっちゃんに会えず落ち込んでから、こうしちゃいられないと行動に移すあたりもやや駆け足気味に感じました。

この、ミドリが成長していくという物語のためには必要なものだとは思うのですが、前半での2人の関係性はやや不自然に感じてしまいました。ミドリはさっちゃんにどんなに邪険にされてもさっちゃんloveの姿勢を崩しませんし、さっちゃんの考えることはあまり理解できません。その意味で、感情移入して読むというのが難しいシナリオではないかと感じます。

イラストは水彩風で、ゲームではあまり見ないタイプの絵柄だと思うのですが、不思議な雰囲気を持った本作にはあっているように感じました。特に、ほとんど台詞ごとに変わる立ち絵の表情には注目です。相当の枚数描かれたのではないでしょうか。
ただ、背景が加工写真の時と一枚絵の時でちょっと統一感に欠ける印象はあります。

ちょっと難点の指摘が長くなりましたが、読み終わって前向きな気持ちになれるような、ミドリを応援したくなるような爽やかさのあるエンディングです。ラストのスチルがすごく良かったので、ぜひ皆さんプレイして、それを見て温かい気持ちになってください。

それでは。

今回は、むきりょくかん。さんのごがつのそら。です。

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オススメ!
ジャンル:のんびり日常ちょっぴり恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:基本一本道
ツール:NScripter
リリース:2005/8(NScripter版)


今回は、5月になったら扱おうと温めていた作品です。むきりょくかん。さんは私がノベルゲームに出会うきっかけとなったサイトで、強い思い出補正のある好きなサイトの1つです。本作も大好きで、もう10回以上は読んでいます。というわけで、レビューというよりは好きなものについて語るだけになってしまった感じがありますが、ご容赦ください。



本作はあまりはっきりしたあらすじはなく、登場人物ののんびりとした会話をずっと眺めているような展開が続きます。主人公の溝口春樹は大学を出たての新社会人。5月病でやる気が出ずにふらふら歩いていると、神社でピアノを弾いていた巫女バイトの高校生神明みのりに出会い、そこから2人の交流が始まります。この出会いの場面では当然ですがみのりはよそよそしく、溝口さんとは距離を感じます。しかし、溝口さんが暇つぶしにみのりのピアノを聞きに来るたびに、次第に距離を縮めていきます。このあたりの描写がとても丁寧なんですよね。いわゆるギャルゲーでは、ヒロインは出会った当初から主人公に好感度MAX、みたいな作品も多いですが(もちろんそういう作品も楽しいです)、本作では主人公もヒロインも割と普通で(みのりはちょっと暴力的な気がしないでもないですが)、心を通わせていく様子がしっかり示されることで感情移入しやすい作品になっていると思います。何か派手な出来事が起きるわけではないけど、日常シーンを通して交流を深めていく、この雰囲気・空気感の演出が抜群なんです。

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この2人が徐々に近づいていく様子が、ビジュアルの面でも同時に表現されているのは素晴らしい仕掛けですね。本作はかなりの部分が、溝口さんとみのりが神社の石段に腰かけてだべるシーンで構成されますが、2人の心理的距離感がそのまま物理的距離に比例して描かれているのです。これはほかの作品ではあまり見ることのない演出ではないでしょうか。本編読了後にはスチル閲覧モードが解放されるので、ぜひみのりの位置が次第に溝口さんに寄っているのを確認してみてください。

さて、こうした丁寧な文章描写とビジュアルの演出に加え、音楽もかなりいい仕事をしています。みのりがピアノを弾くという設定もあってか、本作のBGMはほぼすべてピアノ曲で構成されています。特に、2人が出会った時にみのりが弾いていた「世界が色づき始めるとき」は本作のテーマでもあり、なかなか印象的です。私は趣味でピアノを弾くので、作曲者のfokaさんのサイトに楽譜が公開されているのを見つけると、自分でも練習して弾けるようになりました。同じく本作のBGMに使われている「緑の小道」と、「これまでも これからも」(こちらは本作には使われていませんが)もあわせて、今でも時々弾いています。

こうしたテキスト・ビジュアル・音楽の合わせ技が最も有効に働いたのは、なんといっても4話ラストのシーンでしょう。作者さん自身が"とどめの一枚"と呼んだスチルと、ずいぶん柔らかくなったみのりの態度、そして幻想的で暖かな音楽。これらの織り成す雰囲気に呑まれ、"他人以上、友達未満で……恋人"な2人の関係で交わされる言葉を大変切なく感じました。

本編読了後には、おまけシナリオである「はちがつのゆき」がプレイ可能になります。こちらは本編よりずっと甘々な恋愛ものとなっているので、本編じゃあちょっと淡泊だと感じた方も、晴れて恋人同士となった溝口さんとみのりのやり取りににやにやできるでしょう。神社の外の話なので当然みのりの服装が普段と違ったり、背景写真が加工なしになっているなどといった意味でも本編と違いがあります。

さて、本作をプレイして唯一気になった点は、雲の話です。2人が空を見上げて、あれは巻層雲っていうんだよ、というようなシーンがあるのですが、巻層雲は別名をうす雲とも言うように薄く層状に広がる雲で、あまりきれいな雲というイメージが無かったので、物語中のイメージとあまり合わなかったかな、という。一般的にイメージされる雲といえばだいたい積雲(わた雲)ですし、巻層雲と同じく高い位置にできるという意味なら巻雲(すじ雲)の方がきれいかな、と思っています。該当シーンの背景写真もどちらかというと巻雲っぽいですし。まあ、非常にマニアックな話ですが、ちょうど私が高校で地学を習って出てきた範囲だったりしたので、そこは印象に残っています。


また、本作は株式会社テンクロスによってスマートフォンアプリ版が開発されました(かつてはガラケーアプリ版もありました)。こちらは前編無料、後編有料という形なのでフリーゲームとは言えませんが、"スタンプ集め"をすることで後編も無料でプレイ可能なので、気になった方はぜひプレイしてみてください(要は広告に出てくるアプリをいくつかインストールすればよい)。プレイ中にバナー広告や動画広告を見せられることが無いので、結構快適にプレイできますよ。
シナリオはほとんど原作と変更がありませんが、ビジュアルと音楽は一新されています。また、おまけシナリオにはほしのの。の2人がゲスト出演しているので、ほしのの。好きの方はプレイして損はないと思います。

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スマートフォンアプリ版のお話をしましたが、本作には実はinsaniさんによる英語版もあります。この英語版は完全無料です。高校時代にダウンロードして日本語版と同時に起動し、英語の勉強を兼ねて読んだのは良い思い出です。教科書で見るような正確な英語ばかりでなく、砕けた表現なども多く結構大変でした。
ちなみに、日本語版で終盤に「この格子戸を開けると、私の恋は終了する」というみのりの台詞があります。この台詞自体も綺麗だなと思ったのですが、その英訳が”When I rise and open that door, I ... close the door on my love.”でなかなか美しいなと感動した覚えがあります。


というわけで、蛇足も多かったですが今回はごがつのそら。のご紹介でした。私がこの作品に出合った時にはみのりより年下だったのに、いつの間にか溝口さんよりも年上になってしまいました。それだけ時間が経っても、最初に読んだ時の感動はよく覚えています。皆さんもぜひその感動を味わってください。

こんにちは。今回は、まゆげさんのStrange meeting!をご紹介します。

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ジャンル:現代舞台の爽やか乙女ゲーム
プレイ時間:1時間
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/4
備考:15推、非倫理的・軽度な性的描写あり

先月紹介したまい、ルームの作者の方の新作です。そちらもなかなか刺激的な作品でしたが、本作はそれ以上のように感じました。皆様、くれぐれも注意書きには従うようにしましょう。

さて、注意喚起をしたところで、本作のあらすじの紹介に移りましょう。主人公で花屋店員の百井ハル(名前変更可)は上京して2年。家庭の事情で大学を中退せざるを得なるなど順風満帆とはいかないまでも、職場での人間関係や喫茶店巡りの趣味など充実した生活をしている。最近の悩みは付き合っている彼氏がやたらお金の無心をしてきて関係がぎくしゃくしてきたこと。そんな中、喫茶店でたまたま出会った不思議な男性、順(すなお)に惹かれていく……。

このすなおがまた爽やかでいい人なんですよ。ハルも評したように子供っぽいところもあるんですが、それが欠点に感じない、むしろまっすぐな人で安心できるような感じなんです。そして主人公のハルもまた素直で可愛らしい。自分の分がないことを忘れてお客さんに傘を貸してしまうくらいのお人よし。こんな2人の恋路ならいくらでも応援してやる!という気持ちでプレイしていました。

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特に好きだったのは、ハルが薦めた映画に関するくだりです。やっぱり自分が好きなものについて語って相手の方にも受け取ってもらうのってすごくうれしいじゃないですか。だからこそ私はこうしてレビューを書いているわけです。
そんな映画ですが、実はすなおはもともと映画に何の興味もなかったことが妹によって暴露されます。つまり、ハルと話をしたくてちょっとした噓をついていたのです。このシーン、読んでいるこっちまで恥ずかしくなってしまうようですごく良かったです。

さて、そんなハルとすなおですが、ハルの彼氏、順(じゅん)はなかなかひどい人物です。ホワイトデーのデートの誘いを断るのみならず、その日に借金の依頼をするとは物語冒頭から全力で読者の好感度を下げにかかってます。ハルもお人よしだからそれに応じてしまいます。第三者の視点に立てば、いやそんな彼氏とはさっさと別れろよ、と思うのですが、自分の問題となるとなかなか簡単には割り切れないですよね。彼が優しくて気持ちがハルに向いていた頃のことを思い出しては現状とのズレに落胆する描写はなかなかリアルだと感じました。

しかし、あの「まい、ルーム」を作ったまゆげさんのことだから、これだけのことのためにあんな注意書きは書かないだろうと私は警戒を怠らないようにしてプレイしていました。すると、やはり後半で本当にひどい発言が彼の口から飛び出します。単純にひどいだけでなく、倫理観どうなってるんだと疑うような内容です。
しかしハルは強かった。じゅんのこの発言で吹っ切れた彼女は、ようやく別れを切り出すことができます。イライラや悲しい気持ちから、何の落ち度もないすなおに当たってしまう場面もありますが、すぐに自分の失言に気付いて謝れる。本当にいい子ですね。

この、じゅんがどうして付き合いだした頃から変わってしまったのか、という点に対する描写が全然ないので、そこは物足りなく感じました。クリア後のキャラクター紹介を読むと、結構細かい裏設定があるようなので、そのあたりのエピソードをうまく本編中に組み込んでいけば説得力のある展開になったのではないかなと思います。
キャラクター紹介自体は意外な設定なんかもあって楽しめました。猟師と孫なんか可愛くていいですね。美容師の方は…なかなか壮絶な経験をしてますね。

本作は基本シリアスな展開が続きますが、ところどころ息抜きのようなシーンもあります。特徴的なのは変顔の多さでしょう。びっくりしたときやショックを受けた時の顔は、これ乙女ゲーか?となるほど笑えます。その他にも時々クスリとできる会話があります。「ネカマだと思った」ネタとか好きです。

というわけで、今回はStrange meeting!を紹介しました。だいぶクソな男に嫌なこと言われますが、最後のハルの笑顔を見ると幸せそうでいいなという気分になれますよ。髪を切ってさっぱりしたところで、おっかわいいなんて思ったりしていました。


さて、以下はレビューとは言えない私の感想の羅列です。
ネタバレ全開ですので、おまけまですべてプレイしスチルリストを埋めた方のみ読んでください。

クリックで展開 くれぐれもフルコンプした方のみの閲覧でお願いします。


クリックで展開







騙されたあぁあああぁ゛あああぁぁ

うわぁぁあああん(発狂)

なんだお前!!!
絶っっ対に許さねぇからなァ!
なにがすなおだよ、とんだ嘘つきじぇねえか
どの口で
StrMee3
こんなこと言ってんだよおおぉォォ!


…………失礼しました。理性がどこかに行ってしまいました。
にしても今回はすごかったです。もうこの胸糞悪さは私がプレイした作品の中では、禁飼育さんの処女失格(18禁)と一二を争うレベルと感じました。

しかし騙された私が悪いです。だっておまけに入る前に作者さんはこんなに
StrMee4
警告してくれたんですから!

そういえばTwitterでも"前作「ヤンデレ的×日常ごっこ」のおまけが大丈夫な方向け"と書いてありました。前作でも確かにおまけはこんな感じだったのですが、ここまでショックは受けなかった。なぜだろうと考えたときに、やはり私は油断していたという結論になりました。上述したように私は、本作の"人を選ぶ要素"とはじゅんが「体を売ってでも金を稼いでよこせ」と言ってくるところだと思ってしまいました。結果、今回のこの警告の"人を選ぶ要素"は、「まい、ルーム」のおまけでそうだったような、シリアスブレイク要素だと思ってしまったんです。
また、前作では本編エンディングがかなり闇なんですよ。だからおまけも胸糞悪いだろうなというのは見当がついたんですが、本作では本編エンディングがあの爽やかさですからね……落差が半端ない。

とかいろいろ書いてきましたが、私はこの作品は騙された点も含めてとても楽しめました。ハルには何とか幸せになってもらいたい。ただ作者さんにうまくしてやられた点だけが悔しい(笑)
にしても乙女ゲーやるつもりだったのにモールス信号とか文字化け解析とかやることになるとは思いませんでしたよ。
次回作も期待しています。次は絶対に最後まで警戒を怠らないぞ!という強い決意を抱えて待ってます。

それでは。


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