フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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ノベルゲーム

今回は、静本はるさんのMY HOBBY IS 短編版のレビューをお送りします。


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オススメ!
ジャンル:掌編ドタバタコメディノベルゲーム
プレイ時間:5分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2016/7


初めてオススメの印をつけてご紹介するのは、爆笑必至の短編コメディ、「MY HOBBY IS 短編版」です。
本作を最初に見た時、まずはタイトル画面の勢いに驚かされました。上のスクリーンショットはクリア後のものなので若干違うのですが、読む前からワクワクさせてくれるような勢いのある点は変わりません。スクリーンショットだと動きが伝わらないのがもどかしい!

STARTボタンをクリックしてすぐに、これまた躍動感のあるイラストがテロップと共にバシッと登場。もうこの時点で私の期待と興奮は相当なレベルまで高まっていました。そしてその期待を裏切らない密度で次々に飛んでくるギャグとぶっ飛んだ展開。短編版と名前にもある通り実際にもかなり短いゲームなのですが、体感としてはほんの一瞬の間にすべてを詰め込まれて笑い転げるような感じがしました。

基本的には文字を読ませるものというノベルゲームの枠組みとドタバタアクションというジャンルはもともとあまり相性が良いものとは思えません。しかしそんなことを感じさせる間もないほど立ち絵もカットインも動くこと動くこと、まるでギャグ漫画を眺めているかのような気分になります。漫画風のコマ割りとかオノマトペの配置とかもありますし、作者さんは相当に漫画を意識されたのではないでしょうか。通常のノベルゲームではあまり見ないこの演出が、本作では非常に効果を上げています。キレのある音楽や効果音もさらに勢いを盛り上げてくれます。文章ではなくグラフィックや効果音で状況を伝えるような手法も取られ、とにかく勢いを殺さずに徹底的にテンポよく進んでいくのが本作の魅力を高めているのは間違いありません。

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本作のシナリオも、人殺しが趣味(!)というジャックが絶対に死なないし怪我もしない体質(!)のリサと出会い、殺そうと執着するというギャグ漫画にぴったりのぶっ飛び具合。後半にリサの通う高校で事件が起こるのですが、そこからの怒涛の展開とアクションシーンからはあのトムとジェリーを思い起こしました。不審者がドン引きしているシーンがお気に入りです。表情の変化も細かくて、いったいこの作品を作るのにどれだけの絵を描いたのだろうと思ってしまうほどです。かっこいい音楽と共に大量のラフ画が見られるエンドロールも魅力たっぷりです。


さて、普通に本作をプレイするだけでは気付かないかもしれない隠し要素(?)を3つご紹介しましょう。
①セリフ内に時々含まれる赤い単語をクリックすると、ちょっとしたネタが見られます(以前チェス殺人事件で紹介したのと同じシステムです)。
②背景に時々作者さんの過去作ネタが挟まってます。
③おまけはスチル閲覧とキャラ紹介だけではありませんよ。

そんな感じで大変面白く欠点も見当たらないような本作ですが、一つあげるとしたら、最後にリサが掴むバットの向き逆じゃないか?、という所でしょうか。その向きだとうまく掴めずにすっぽ抜けてしまう気が…。


ギャグ漫画なんてくだらない!という方でなければ本作を読んで損した気分になることはないでしょう。オートモードでプレイするのもお薦めです。気に入った方はぜひ作者さんサイトで公開されている2話3話(仮)をダウンロードしてプレイしながら私と一緒に完全版の公開を待ちましょう。

それでは。

今回は、ねこのさんのありすすいーぱーをご紹介します。

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ジャンル:パズル&ノベルゲーム
プレイ時間:30分
分岐:バッドエンドあり
ツール:ティラノスクリプト(ブラウザ可)
リリース:2020/4
備考:ティラノゲームフェス2020技術部門優秀賞受賞作


前回の記事で少し話題に出した作品です。
本作はパズルパートとノベルパートからなっていて、パズルパートはマインスイーパーそのものです。ステージ1から3があり、それぞれ本家マインスイーパーの初級、中級、上級に対応します。ノベルパートはパズルへの導入といった感じで、はっきりしたシナリオのようなものはありません。しかしとにかくすべてが可愛らしい作りになっていて、それが本作の魅力となっています。

本作の主人公ありすは作者さんの前作(ありすとーく)でも出てきたキャラクターなのですが、ありすとーくの段階ではボイスはおろか立ち絵もなかったので、かわいらしいのイラストにかわいらしい声がついた本作を最初に見たときは結構驚きました。しかも、イラストが本当に多彩なんです。ノベルパートでの立ち絵とは別に、パズルパートでは画面の左側でデフォルメされたありすが見守っていてくれますし、パズルを間違えると泣き顔になるなど芸が細かい。

私が本作をプレイして一番すごいと思ったのは、ステージ間のカットインです。ストーリーモードでステージをクリアするとちょっとしたカット(タイトルコール)が入ります。本編プレイ時には2回しか見ることのないシーンですが、本編クリア後にタイトル画面のおまけ("えくすとら"とは別に"おまけ"があります)からギャラリーを見ると、このカットインがなんと14種類も並んでいたのです。普通にプレイしただけでは到底見る機会のないイラストをよくこれだけ用意したなと感心しました。

ボイスの方も負けてはいません。異なるカットインごとにきちんと表情の違うタイトルコールが設定されていたり、あらゆるボタンをクリックした際にボイスがついていたり、もはや単なるフルボイスというレベルではないくらい声が入っています。本作プレイ後に「ありすとーく」を再プレイしたら、ありすの可愛らしい声が脳内再生されました。特に、本作でよく聞いた口癖なんかは完全に脳内で再現できちゃうんですよ。

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パズルの面では、本当によくマインスイーパーを再現しています。左右同時クリックで周囲のマスを開く機能も実装されており、かなり解きやすくなっています。ただ、最初に開くマスが0のマスとなる本家の仕様はティラノスクリプトでは難しかったのか、再現されていません。代わりにスタート時に地雷でないマスが1つ与えられていますが、特に上級ではこのマスを開いても特に次に開くべきマスのヒントになる情報が無く、最初から運任せになってしまう場面が多かったように思います。スタート時に与えられるマスを非地雷マスではなく、0のマスの中からランダムで選ぶ仕様にするだけでこのあたりの理不尽感はだいぶ軽減されるのではないでしょうか。

私はパズルには相当慣れているので、マインスイーパーの解き方に困ることはなかったのですが、本作では初心者のための親切な救済システムとして"お願い☆目星"という機能も実装されています。使うとまだチェックを付けていない地雷マスをランダムで一つ教えてくれるという機能で、解き方が分からなくなった時には活躍してくれるでしょう。この機能を使わずにステージ3をクリアすると得られる実績がありますが、初心者だとちょっと厳しい、上級者でも運に左右されるレベルです。

ちなみに、ステージを失敗するとありすは転んでしまい、バッドエンド行きとなります。この時に本作につけられたとあるタグの意味が分かる展開が待ってます。作者さんの過去作「ヒトナツの夢」をプレイされた方なら、聖地ゲーといえば通じるでしょうか。瑞菜ちゃんよりは大分大胆な姿勢・構図のスチルが待ってます。個人的にはちょっと大胆過ぎるような気が……。変な転び方してけがを悪化させなくて良かったですね。
あと気になったのは、時々挟まれる下ネタっぽいのはいらなかったんじゃないか、ということくらいでしょうか。

これらの失敗展開やその他のスチルの回想モードがある、クリア後はタイムアタックモードとしてパズルだけのモードがプレイできるなどシステム面は痒い所に手が届く仕様で不満ありません。もちろんノベルパートも、スキップやオート、バックログはもちろんボイスリプレイやテキスト速度変更なども可能で大変プレイしやすいです。ノベルゲーム用ツールでパズルを作る技術力はさすがだなと感じました。


普段パズルはやらない方も、逆にガチ勢の方も、息抜きにちょうど良い作品ではないでしょうか。ぜひありすの可愛らしさに癒されていってください。

それでは。

こんにちは。
今回は、まゆげさんのまい、ルームをご紹介です。
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★favo
ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:1周目15分以内。フルコンプまで1時間半
分岐:5つ。1周目ルート制限あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2016/12
備考:15禁、猟奇的描写あり、ティラノゲームフェス2017準グランプリ作品


これまでは比較的おとなしめの作品の紹介でしたが、今回のはちょっと刺激的です。一見そうは見えないんですけどね……。
まずは、公式からあらすじを引用してみましょう。
マイとメルは仲の良い双子。
最近体調が悪く、部屋に篭りきりのマイのために今日もメルは部屋を訪れる。
これだけです。とりあえず双子が出てきて片方がもう片方のお見舞いに行くのかな、というのは分かります。これだけ頭に入れてゲームを起動してみましょう。

シナリオはマイの視点で、夜にメルがお見舞いに来てくれて嬉しいという場面から始まります。ここでの2人のやり取りは非常に微笑ましく、お互いのことを想い合っている良い双子だなと感じられます。他愛もない日常会話を退屈させずに読ませるというのは力量がいることだと思うのですが、本作はその点ばっちりです。信頼関係があるからこそのちょっとした意地悪や、メルヘンチックな想像シーンなどで読者を引っ張ってくれます。病気になってしまい思うように活動できない中で、子供の頃の思い出を振り返り、無邪気な想像をするシーンもなかなか胸にくるものがあります。
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さて、本作には途中何度か選択肢があります。勘が鋭い人や、素直じゃない人ならこの小さな幸せの物語に違和感を抱くはずです(私は気づかないタイプの人間でした)。どちらの方も2周目を始めてみてください。
どんなに鈍い方でもこれは単純な物語ではないことに気付くはずです。冒頭のアレは何なんだ、とか、そもそもそこでそんな選択肢不自然じゃないか?、とか。
ここで、先ほど選ばなかった選択肢を選び、END1,2,3をすべて見ておいてください。私と同じタイプの方は初見ではEND1に行くと思うのですが、END2,3は衝撃的でしょう。しかしこれだけでは単に理不尽なだけ。ここからが本番です。

再びタイトル画面からスタートすると、メルの視点での話が読めるようになります。ここにきてようやくプレイヤーにこの物語の舞台設定と双子の置かれた状況が明かされるのです。この手の、読者に重要な情報を隠して驚かせるという手法は、やり方によっては下品に感じられることがあるのですが、本作ではそんなことはありませんでした。きちんと前兆を与えて読者に心構えと期待をさせる。一度に情報を明かし過ぎずに順を追って物語の核心に迫る。そして何より、だれか一人の悪人によってもたらされた悲劇ではなく、登場人物皆が少しずつ歪んでいたがために生じる人間関係の問題があったという点。
ファンタジーが前提でありながら人間ドラマとして非常に興味深いです。まさに本作の、"身勝手な人達の物語"というコピーが本質であったことに、この時初めて気付くのです。本編では悪役に近いあの人も、マイやメルと大差ないことはside storyまで読めば分かります。そうしてすべてを理解したうえで冒頭の場面に戻ってきたとき、あらゆる感情で私の体は震えていました。もう2人の言葉の重みが桁違いです。
ただし、さすがに(ネタバレの為反転)マイが病死する展開は急すぎるのではないでしょうか。なにかもうワンクッション欲しかった。

グラフィックや音楽も私の好みでした。立ち絵はファンタジーな雰囲気に合っていると思いますし、音楽ではフルコンプ後タイトル画面BGMの「おそろい」は私に強烈な印象を残し、3年後にプレイした別の作品で再び聴いたとき、即座に本作を連想したほどです。

ツールはティラノスクリプトですが、必要な機能はしっかりそろっており、EDリストから回想可、2度目以降エンドロールスキップ可など随所にプレイしやすい工夫が施されています。起動が重いことが玉に瑕でしょうか。
エンディングを迎えるごとにタイトル画面が変わっていく仕掛けも良いですね。

べた褒めしてきた本作ですが、人を選ぶ作品であることは間違いありません。ショッキングなシーンはありますし、人間の汚い部分まで怖いほどに描き出されたシナリオです。視覚的にもインパクトのあるスチルはありますが、そこまでグロテスクな絵はありません(ただし流血描写は多数)。

15歳以上でレビューを読んで興味を持った方はぜひプレイしてください。強烈な印象を残すことを保証します。

今回は、ひまゲームズさんのチェス殺人事件をご紹介します。

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ジャンル:お手軽ミステリーノベルゲーム
プレイ時間:15分
分岐:バッドエンドあり
ツール:HTML5(ブラウザゲーム、スマホ可)
リリース:不明(2011年?)


これまでは、PCにダウンロードしてプレイするタイプのゲームを紹介してきましたが、今回はブラウザゲームです。かつてはAndroidアプリ版も公開していたようですが、2021年3月現在は公開終了しているようです。

最初に難点から書いてしまうのですが、本作はかなり古いようで、最新のブラウザ(私の環境はWindows10,Chrome88です)だとかなりレイアウトが崩れてしまいます。AndroidのChrome89では大きなレイアウト崩れはありませんでした。また、昔プレイした時はBGMが一部ついていたように記憶しているのですが、今プレイすると再生されませんでした。

と、システム回りに不備はありますが短編なのでそれほど気にならないでしょう。
本作の内容は、殺人現場に残されたダイイングメッセージの謎が解けない金沢先輩の相談に乗った主人公が、見事に隠された意味を暴き出すというシンプルなものです。シンプルなだけに、その残された謎の出来に作品全体の出来が左右されますが、しっかり筋が通っていて面白かったです。解決にはチェスの知識を若干必要としますが、必要な分は作内でしっかり金沢先輩(が持ってきた本)が解説してくれます。
ちなみに、私は初見では解けませんでした。チェスのルールは知っているからと解説部分を流し読みしていたのが敗因でしょうか。3回目くらいで気付き、ああそういう事かと膝を打ったのを覚えています。この謎を解いたときの爽快感がミステリーの醍醐味ですよね。かなりお手軽に読める本作ですが、その点がしっかりしていて好印象です。

しかし肝心の推理を披露する場面の「これ以外の解釈は可能です」は不可能ですの間違いではないでしょうか。意味が正反対なだけに痛い脱字です。

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上のスクリーンショットを見ると分かりますが、テキスト中に時々クリックできる単語があります。クリックすると、作品の内容とは関係ない解説が読めるのですが、これが結構高頻度で仕込まれていて面白かったです。そんなに高級なチェスの駒があるとは思いもしませんでした。

さて、普通のミステリーだったら謎を解いて事件が解決したところで話は終わるのですが、本作はちょっとした続きがあります。そこで第2の質問が出てくるのです。この仕掛けには少し驚きました。この質問の答えは選択式ではなく自分で入力しなければならないのですが、ちょっと考えればわかります(わからない場合でも、2回間違えるとさらに露骨なヒントが出てくるようです)。この答えを踏まえることで、推理する場面で普通あり得ない選択肢を選んだ時の展開に納得がいきました。
セーブ機能がない代わりに、オープニングや事件の状況など各パートごとにスキップすることが可能など、周回プレイへの配慮はきっちり行き届いているので、ぜひこの選択肢も試してみてください。

というわけで、チェス殺人事件のご紹介でした。
謎解きや推理小説が好きな方は一発正解を目指して、それ以外の方も気軽に読めるのでぜひプレイしてみてください。

今回は、今門楽々さんのギワク★ラヴァーズをご紹介します。

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ジャンル:2人の視点から見るラブコメノベルゲーム
プレイ時間:両方の視点から読んで20分程度
分岐:なし
ツール:WOLF RPGエディター
リリース:2018/5


前回はほんのり心温まる系の優しいお話でしたが、今度は王道のラブコメです。
はじめからをクリックするとまず青井明太と白銀小百合の2人から主人公を選ばされます。この2人は付き合っていてデートをするのですが、それをどちらの視点から見るかを選べるわけです。2周して両方読むことで、片方から見ただけではわからなかったもう一人の思いも分かり、2人の考えていることがちょうどすれ違っているのが笑いを誘う、ラブコメにぴったりの仕様です。クリア後に2周目をプレイすると、1周目では描写されなかったヒロインの視点も時々挿入されて物語が補完されるといった仕掛けの作品はいろいろありますが、最初からどちらの視点でもOK、しかもすべてのシーンで両方の視点が用意されているといった仕様は見たことが無く、斬新に思えました。ちなみに、私は明太視点を先に読みましたが、どちらから読んでも楽しめると思います。

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本作のあらすじは、付き合ってはいるけれどもお互いに相手の気持ちが自分に向いているか不安な明太と小百合が、相手の気持ちを確かめるためにダブルデートをするという一文で説明できます。作内の時間もほぼ1日のみの短い作品なのでやや物足りなさを感じましたが、その中でクスリと笑えるシーンがいくつもありました。明太が先輩である姫に対して失礼な口を利くところとか、殴りかかってきた連と姫が返り討ち(?)にされるところとか。そして最後。まさに"要介護夫婦"ですね。本人たちからしたら本気で悩んでいることでも、はたから見たらあまりに滑稽で笑えてしまいます。普段私はどんなバカップルを見ても微笑ましいなと感じるタイプなのですが、本作の明太と小百合に関しては「リア充爆発しろ!」と思ってしまいました(これもう死語か?)

さて、明太視点のときは、冒頭で小百合に対して不信を抱く理由が明らかになります。しかし小百合視点でははっきりしした理由がなさそうなので、何でそこまで不安になっちゃったんだろうかとやや疑問に思いましたが、全体がコメディ調なので気にせずに流してしまえる範囲でしょう。

珍しくウディタ製のノベルゲームですが、システムがしっかりとノベルゲーム用に作り込まれておりプレイするに際してストレスを感じることはありません。オートモードやスキップはもちろん、文字表示速度の変更まで可能です。

短い時間でサクッと楽しめる作品なので、ラブコメ好きの方にお薦めです。
それでは。

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