フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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アドベンチャーゲーム

こんにちは。今回はまんまるくまさんの「PROTOCOL」をご紹介します。

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オススメ!
ジャンル:長編本格SF脱出アドベンチャー
プレイ時間:6時間
分岐:なし
ツール:Flash
リリース:2017/5



今回ご紹介する作品は、個人製作とは思えないほど作りこまれた大作で、その良さをどこから語っていったらいいか迷ってしまうほどです。
まずはあらすじの説明をしましょう。主人公はある宇宙船の中で目を覚まします。周囲に人の気配はなく、何らかの事故に遭ったと思しき状況ですが、記憶を失っている主人公には避難方法が分かりません。なんとか小型のポッドを調べて人工知能チップを見つけた主人公は、AI"レア"と協力して生還への道を求めて探索を続けていきます。次第に明らかになっていく船内の状況と過去の事故。果たして生還は叶うのか……



上のスクリーンショットを見てもらっても分かると思いますが、本作のグラフィックはかなりハイレベルです。宇宙空間を漂う宇宙船だったり、目の前に浮かび上がるスクリーンだったり、episode 2の終わりで登場するアンドロイドだったりとあらゆる面でその技術が発揮され、作品世界に入り込みやすいのです。
他にもいくつかゲーム画面を見ていただきましょう。
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さらにはスクリーンショットでは伝わらないようなアニメーションも凝っており、登場する人工知能であるレアなどにはボイスまでついています。プロモーションムービーも魅力的なので貼り付けておきましょう。


このような美しいグラフィックで全編描かれたフリーゲームというだけで驚異的ですが、脱出のためのギミックやストーリーといった面でも高水準な作品です。
脱出ゲームの定番のギミックと言えば、なぜか散らばったキーアイテムを収集したり、暗号として残されたヒントを解読したりといった内容になると思いますが、本作では事故のあった宇宙船から避難するというストーリーになっているため状況に不自然さが感じられません。プレイヤーが主人公になり切って脱出を目指すための強いモチベーションになります。やや発想が難しいギミックもありますが、人工知能と協力するということができるので、ヒントをもらいつつ世界観に浸りやすくなっています。


ストーリーの面においても良くできていて、人間である主人公と人工知能であるレアが協力して脱出・生還を目指す展開は気持ちが良いです。人工知能であることを活かしてデバイスを移行したり、かなり人間に近いアンドロイドであることを活かして主人公との信頼関係などといった内容を描いたりもできるのが素晴らしいところで、ゲーム的なギミックとの組み合わせも生かされていて大変に魅力的な内容になっていると思います。


本作の脱出ゲームとしての難易度ですが、総合的に見るとかなり高く、ボリュームもあるのでやりごたえ満点といったところでしょう。episode 1から5までの5章構成となっていて、1では宇宙船への入船、2では食糧確保のための居住区への移動など各章で目的が決まっています。そしてそれぞれの章で難易度が結構異なります。episode 4がおそらく最難関で、事故のあった宇宙船の細くて入り組んだ通路の中をマッピングしながら探索し、適切な場所でアイテムを使ったり謎解きをしたり、SF要素を活かして時間を飛び越えたりしなくてはなりません。
しかしマップ上で意味のある地点は色付きになるなど、難しいだけでなくプレイヤーに親切であるのも確かです。


難易度を高くしているのは、本作の独特のシステムであるコマンド選択方式もあると思います。
通常の脱出ゲームの場合、対象のアイテムを観察したり文字を読んだり、持ち上げてみたりアイテムを取得してみたり使用してみたりといった行動は全てクリックで行うと思います(稀にドラッグというパターンもありますね)。しかし本作の場合は対象をクリックする前に使用するコマンドを選択しておかなくてはなりません。調べる、動かす、開ける、取るなど、事前に適切なアクションを選択しておく必要があるため、とにかく画面をクリックしてみるといった方法での進行が難しいのです。
さらにクリックポイントもややシビアなので、あきらめずにいろいろ試行錯誤してみる必要があります。

とこのように高難度である本作ですが、攻略中に詰まった場合ゲーム内の"システム"にある"思考モード"を使うとヒントがもらえます。調べればよい箇所などを教えてもらえるので詰まったらどんどん使っていきましょう。
それでも分からなければ、フリーゲーム夢現の公開サイト内で攻略関連のコメント一覧を見るといろいろな情報が見られます。どうしてもわからないところを質問してみるのもアリでしょう。



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逆にepisode 3は探索要素が少なくて一番簡単な章です。小さなチップだったAIのレアがアンドロイドの体を得て、突然ラブコメが始まったのかというくらいほのぼのとした雰囲気になります。
しかし単なる息抜きだけでなく、ストーリー上重要なポイントが詰め込まれています。前述したコマンド選択制であることを活かしたギミックもあって、感動ポイントの1つとなっています。



本作で唯一欠点に感じられるのは動作の重さでしょうか。これだけ独自のシステムや綺麗なアニメーションなどが搭載されていたら仕方ないかもしれませんが、スペックが低いPCだと辛いかもしれません。
あとは一部のギミックに前提知識が必要であるように感じましたが、作内のヒントを使えば乗り越えられるでしょう。


エンディングを迎えた後で作内の世界観などの解説が聞けるモードがあるなど、SFの世界観を見事に表現している本作、大変お勧めですのでぜひプレイしてみてください。
ちなみに本作の制作にはFlashが使われていますが、ブラウザを介さずに起動できるので現在でもプレイに支障はありません。

それでは。

こんにちは。今回はどこかの箱庭さんの「螢火の庭」のレビューをお送りします。

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ジャンル:和風ホラーアドベンチャー
プレイ時間:初回3時間程度/フルコンプまで5時間程度
分岐:ED4種
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2017/8
備考:第13回ふりーむゲームコンテスト​探索アドベンチャー部門銀賞受賞作



本作は、主人公の秋月ほたるが盗まれた祖父の遺品を取り返すために彼岸を探索して回る和風のホラーアドベンチャーゲームとなっています。

いきなりですが、ホラーゲームの主人公ってだいたいかわいそうな運命を背負っていたりします。作内で物語を進めているうちにそうした境遇が分かってくるタイプのものが多いように感じるのですが、本作では作品の導入段階でほたるの不遇さが明らかになります。

両親は家族の反対を押し切って結婚し、娘のほたるも誕生し幸せに暮らしていたのですが、交通事故に遭い2人とも亡くなってしまいます。結局結婚に反対していた家族たちに引き取られて生活するようになるのですが、祖父以外の叔父や叔母には疎ましく思われています。
しかし唯一の見方であった祖父の晴臣もその後他界。それまで家族で揃って行っていたお祭りの螢火流しも留守番しているようにと言われてしまいます。そんな留守番中、お祭りに乗じて彼岸からやってきた妖怪たちに大切な祖父の遺品を盗まれ、ほたる自身もさらわれてしまいます。妖怪の手から逃れ、おじいちゃんの遺品を回収して此岸に帰ってくることはできるのでしょうか…。


このような導入になっているので、私は本作をプレイし始めてから早い段階でほたるを応援しながらゲームを進めることができました。別に主人公には酷い目に遭っていて欲しいというわけではないのですが、ほたるがおじいちゃんの思い出の品と約束を守って健気に進んでいくさまを見るとやはり私も前向きな気持ちになることができます。
立ち絵やマップ上のドットも可愛らしいですしね。
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他の登場人物たちも和服を着てますし、マップ上の雰囲気も含めて和風ホラーの演出が上手いなと感じます。

そんな他の人物たちも少し紹介しましょう。
まずはほたるが此岸に帰れるように全体を通して協力してくれる朽名(くちな)さん。なぜか常にお面をかぶっています。人間の子をしっかりと此岸まで送り届けるのが仕事だと言ってほたるを送ってくれるだけでなく、祖父の遺品”螢火のおくりもの”探しも手伝ってくれます。彼の素顔は一体どんなものでしょうか。
異国の薔薇貴族もなかなかインパクトがあります。紳士的だが女好きがひどすぎて周りから距離を置かれるようになり、いまでは屋敷で引きこもっているそうです。彼もまた胸の内に隠した思いがあるようですが一体何なのか、それは物語の後半で明らかになります。
その他にも姉妹の温泉宿の女将さんとか、なぜか動いて喋る人形とかお面とか、いろいろな人物(?)が登場しますが、みな可愛らしくて良いですね。


本作のエンディングはゲームオーバーを除いて4つあります。終焉4については序盤のうちに分岐します。せっかく此岸に帰ってくることができてもこれではあまりにも浮かばれないだろうという結果。ぜひ大切な品は回収してから帰りましょう。
その他のエンディングについては中盤以降に分岐します。初見だとそこで分岐するとは分からない箇所もあると思いますので、セーブはいくつかに分けておくといいでしょう。回収できなければ同梱のヒントが役に立ちます。
終焉2と4についてはほとんど同じ展開になりますが、最後の最後で結末が変わってきます。分岐したシーンは時間にして30秒とかそれくらいだと思いますが、このシーンの有無で後味が全然違いました。やはり物語の締めって大事だなあと思わされます。ぜひベストな結末を目指して探索してください。



ホラーや探索アドベンチャーとして見たときの謎解きやアクション要素の難易度は高くはないといったところでしょう。全体を探索していればきちんとヒントとなるものが出てきますし、理不尽な初見殺し要素などもありません。ただし謎解きに関しては公式でヒントが用意されていないので詰まると大変かも。エンディング分岐についてはすぐ上で書いたようにホームページや同梱のテキストに詳しく記載されているので、迷ったら読んでみるとよいでしょう。
ホラー具合についてもゆるめで、ホラーがやや苦手な私でも問題なく最後までプレイできる程度でした。突然怖い画像が表示されるとか大きい音が出るとか、何かに追いかけられるとかはないです。暗いマップを探索したり、予告があっての追いかけられ要素だったり、物が落ちる・窓が割れる程度の表現などはあります。


というわけで今回は「螢火の庭」でした。ホラー要素というよりは雰囲気重視系の作品なので、よっぽど苦手な方じゃなければプレイしやすいと思います。ぜひほたるの物探しを手伝ってあげてください。泣ける!というタイプのシナリオではないですが、じんと心が温かくなるような結末があなたを待っています。

それでは。

こんにちは。今回のレビューはゆきはなさんの「虚ろ町ののばら」です。

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ジャンル:異界探索ホラーゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:1周3時間/フルコンプまで6時間程度
分岐:ED4種、その他ゲームオーバーあり
ツール:RPGツクール
リリース:2018/10
備考:12推


本作は和と洋の雰囲気の混ざった不思議な異世界からの帰還を描いた作品です。
主人公の境のばらはおばあちゃん大好きな少女。今日もおばあちゃんに会いに行くためにバス停でバスを待っていたのですが……気付いたらバスは壊れているし異常に汚いし、人の形をした亡霊のようなものが出口をふさいでいる始末。この不気味な世界”虚ろ町”で出会った少年、守崎十夜(もりさき・とおや)とともに元の世界への帰還を目指します。


この作品の魅力の1つはそう、圧倒的なビジュアルです。スクリーンショットを見ていただければお分かりでしょう。スチル・立ち絵のみにとどまらず、背景、マップやUI部品に至るまでかわいいというよりは美しいと言える作りこみ。もう何枚かスクリーンショットを貼るのでその美しさを味わってください。
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やっぱり見た目がきれいだと、ゲームを進める原動力にもなりますし、こうして魅力もお伝えしやすいですね。ホラーゲームである以上美しい景色だけでなく、抜け落ちた床や積みあがったゴミ、さびた電車なども登場しますが、それらも単に気持ち悪いだけでなく、どこか綺麗に描かれているのがすごいところです。


さて、それではシナリオの話に入りましょう。
のばらたちが虚ろ町で出会った影のような生物たちはみな、何かに執着している様子。彼らの様子を観察したり、話の通じる者たちにたずねたりしているうちに、どうやらこの”虚ろ町”は現世に心残りのある死者たちのさまよう、彼岸と此岸の境目にある町らしいことが分かってきます。この町を治める”虚ろ様”の所に行って、何とか現世に帰れないかと助けを請うのばらと十夜。
子守唄をねだる子供たちの霊を鎮めるなどの役目をこなして現世への帰り道を教えてもらった2人だったが、虚ろ様によればのばらが無事に帰れるかどうかは微妙なところだという。その原因は現世でののばらの境遇と本人の性格にあった…。

プレイ時間の短くない本作ですが、綺麗なマップを探索していると自然とストーリーが進んで頭に入っていき、長さを感じさせません。そして虚ろ町の探索をする合間に、のばらが現世へと帰れるかの鍵となる過去回想がはいるのが上手いところです。そしてこの過去回想がねぇ、切ないんですよ。「しっかりなんて……できないよ!!」本当にその通りです。本人の性格もあるとはいえ小学生にはつらい境遇でしょう。
その分、ED4での十夜との再会と帰還、そして現世で一歩踏み出したラストシーンは感慨深いものになっているでしょう。


物語冒頭で説明される通り、本作にはいくつかのエンディングがあり、青と赤のエフェクトの数が重要になってきます。虚ろ町の住人に寄り添ってその心残りを解消してあげれば物語はいい方向へ。最低限の探索でストーリーを進めたり、住人を傷つければ悪い方向へ進みます。しかしED3やED4を見るためにはそれに加えて特定のイベントをこなしてフラグを立てねばならず、難易度は高いです。というか初見で(特にED4)到達は無理でしょう。これは、まずはバッドエンドを見て欲しいという作者さんの意向なんじゃないかと勘ぐってしまいます。実際、私も先にED1や2を見ていたからこそのばらちゃんの成長に感動できたところがある気がします。
バッドエンドを見たときには悔しい、歯がゆい思いをすると思いますが、その分気持ちの良いハッピーエンドもありますので、ぜひ安心してプレイしてください。

そうそう、攻略情報についてはおまけルーム内や同梱テキストファイルに細かく記載されているので、詰まってしまう心配もありません。親切ですね。


では一応気になった点も書いておきましょう。
1つはコメディ要素が微妙かなという点です。不気味な街の探索だったり、現世の出来事を受け止めたりと基本的にはシリアスなシーンが続く本作ですが、たまに軽い感じのギャグっぽい展開があったりします。のばらと十夜の交流や距離感を描くという意味では良いのかなという気はしつつ、突然そのBGMでギャグ始まったらホラーの雰囲気ぶっ飛んじゃわない? と思う回数の方が私は多かったです。ホラー色の薄い街でのイベント(楽譜が挟まった本のタイトルとか)ならあまり気にならないんですけどね。

もう一つ、本作の操作はマウスを前提にしているとのことですが、ツクールMVのマウスでのマップ移動って使いにくいと思うんですよね……。特に終盤の影をかわしながら進む場面などでは、マウス操作では移動経路が指定できないのが致命的。結局私はセーブ・ロード以外はほぼすべてキーボード操作でプレイしました。


さて、本作のキャラクターには一部ボイスがついています。フルボイスではなく、キャラクターへの呼びかけとか、感嘆詞とか、一部の台詞をしゃべるだけですがキャラクターのイメージに合っていてちょうどいいんじゃないかなと思います。全部に声がついていると聞くのに時間がかかってテンポが悪くなるという面もありますからね。
ちなみにおまけ部屋から何でも許せる方用と称したギャグ一直線のおまけシナリオを見ることができます。私はこのおまけシナリオ冒頭の
「良い子のみんな~~!  本編、はじまるよ~~~~!」
の声を聞いて、脳内には瞬時に「その恋、保留につき、」シリーズの姪浜さんが浮かんでしまいました。のばらと同じ声優さんだったのね…。本編中で思い浮かぶこと全然なかったのに…。そのくらい本編と違った温度感になっていますので、バッドエンドで気が滅入ったぜ、という方はぜひやってみてください。POPOさんがコメディ極振りで作品作ったらこんな感じになりそう。

それでは。

こんにちは。今回はアコックソフトさんの「だびぽん」をレビューしていきます。

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ジャンル:デジタルオカルトホラーADV
プレイ時間:1周2時間、フルコンプまで6時間程度
分岐:大きく2つ、1周目ルート制限あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2016/10
備考:15推


前回レビューの「絶望の螺旋」に引き続きオカルト系の作品となります。穏やか目ではありますが一応ホラー表現があるので苦手な方は注意。


さて、いつも通り大まかにあらすじを説明しましょう。
主人公継見(つぐみ)ヒロキは大学生。友人の茅野凛太郎(かやの・りんたろう)はオカルトマニアかつコンピュータの技術もあり、大学のある禎尾(さだび)町にある心霊スポットをテーマにしたオンラインゲーム「SADABI怪談オンライン」をほぼ一人で開発している。ヒロキはテストプレイヤーとして開発チームに参加しているところだったが、なんと最終マップのモチーフとなる「禎尾森放送局」へと取材に行った茅野が消息不明に。放送局まで彼を探しに行ったヒロキは頭から血を流して地面に横たわる茅野を発見。幸い息はあるようだったが、少し目を離した隙に茅野の姿を見失ってしまった。自力で遠くに逃げるなど到底不可能そうに見えた茅野はなぜ消えたのか。直後に姿を現し、何か知っていそうな発言をした女子高生の正体は? 禎尾森放送局のマスコットキャラクター、だびぽんに関するオカルトめいた噂との関係は? 誰が味方なのかもわからない中、同じく開発メンバーの橘三鷹(たちばな・みたか)とともに茅野の捜索を続けるヒロキの努力は報われるのか……

といったところでしょう。

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本作におけるオカルトの特徴として、"デジタル"が挙げられるでしょう。だびぽんの持つ力は、携帯電話やパソコンなどを通して現実世界に発現します。オンラインゲームの製作などを行っていた茅野らはまさにいい餌食です。
しかし電子機器に触れたものが全員呪われるわけではありません。いったい何がトリガーとなっているのか、だれがどんな目的で力を行使しているのか、といったあたりの情報は隠されていて、終盤にならないと明らかになりません。この辺の情報の隠し方、提示の仕方が上手い作品だなと感じました。

だびぽんの謎については、かなり複雑な真相になっていると言えます。1周では真実にたどり着くことはできないでしょう。というかシステム上できません。本作のルートはメニュー内のフローチャートに示される通り大きく分けてA,Bの2つ。それぞれにさらに2~3のエンディングと多数の一発ゲームオーバーがありますが、初回ではBルートへの選択肢は出現しません。AのNormalエンドを見ることによって解放されます。若干メタ的な内容も含むので、変則ループものともいえるかもしれません。

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茅野の捜索、そして呪いの解消のためにはノベル形式の選択肢だけでなく、探索や謎解きを成功させなくてはなりません。上の画像のように、部屋内の調査をしてパスワードの手がかりを探してみたり、あるいはほかの開発メンバーとSADABI怪談オンライン上でイベントを進行させたりといった内容があるのですが、難易度的には高くありません。クリックできる範囲でくまなく調査すればヒントはすべて手に入りますし、そこからパスワードを導き出すのも簡単でしょう。壁を調べると出てくる落書きの中にもヒントが隠されていて親切です。
むしろ本作において難しいのはノベルパートで適切な選択肢を選ぶことです。すぐにそれとわかる一発ゲームオーバー選択肢以外にも、どっちが正解か分かりにくいものや、そもそも今後の分岐に影響するようには見えないけれども正解は一つしかない選択肢などもあり、一発で正規のエンディングに行くのすらだいぶ難しいでしょう。また、本作は序章~第9章までの章ごとの構成となっているのですが、分岐は章内だけでなく、過去の章での選択の影響もうけます。第6章あたりでゲームオーバーになっちゃうな~と思ったら、直前ではなくもっと前のセーブデータからやり直してみるとよいでしょう。

TRUEエンドへの道はさらに厳しいものとなります。ゲームオーバー選択肢は当然すべて回避したうえで、全員生存させるための各キャラクターの行動を考えなくてはなりません。正直エンディング回収後も何が必要なフラグだったのかつかめていない状態だったので、もう少しやさしくするなり攻略情報をどこかに書いておくなりしてくれたら親切だったなと思いました。
しかしこれだけ苦労した甲斐あって、気持ちの良いエンディングが見られます。まあ、そんな簡単に許せるん? と思わなくはないですが、このくらいなら十分ありでしょう。


本作をプレイしていて少し気になったのは、時々挿入されるミニゲームです。主人公たちがオンラインゲームの開発とプレイをしていて、それが本筋の謎にかかわってくるからゲームという世界観を表現しておきたいというような意図は分かるのですが、突然謎のすごろくが始まったり終盤の重要なイベントが結局運ゲーだったりすると、これはなんのゲームだったっけ? となってしまった感は否めません。だびぽんが勝手にオンラインゲーム上でのイベントを開いて、ヒロキたちで対処という仕掛けはいいと思うので、そこだけちょっと惜しいかなと思います。
あとは、分岐多数で難易度が高いので、既読スキップは欲しかったというところでしょう(スキップはあるが既読も未読も全部飛ばされてしまう)。



というわけで今回はだびぽんのご紹介でした。
誰が味方かもわからない中、目まぐるしく入れ替わる状況とホラーならではの緊張感。そうしたものが好きな方ならきっと本作を十分楽しめるでしょう。ボイスもついてますよ。
それでは。

こんにちは。今回は窓際ななみさんの「絶望の螺旋」のご紹介です。

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ジャンル:オカルトサスペンス
プレイ時間:2時間
分岐:基本1本道
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/5
備考:15推


今回の作品はまた特殊で記事のジャンル分類にも悩みました。基本的にはノベルゲームかなと思いますが、通常のノベルゲームでは絶対に必要のない攻略要素があるため今回はアドベンチャーゲーム扱いとしています。
その特殊な要素ですが……まずはこちらのゲーム画面を見ていただければわかると思います。

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なんとゲーム画面が常に4分割されています。それぞれの画面は普通のノベルゲーム的に動かすことができます。上の状況では、今は右上のターンです。ある程度話が進むとまた全体から話を進める人物を選択しシナリオが進行していくことになります。
4分割されたこの画面構成を見て、私はEYEZMAZEさんのMEET INを思い出しました。
MEET INでは4人家族で協力して謎解きをして集合することを目指すミニゲームでしたが、本作ではある学園で起こった呪いを解消するために試行錯誤して調査するという内容であり、MEET INと比較するとボリュームもかなりあります。

さて、この4つの画面で見られる話は、1つの物語をそれぞれ別の人物の視点で見たものになります。つまりは群像劇の同時進行的なものと思ってもらえるとよいです。
さらに、これらの4つの画面はお互いの進行に影響しています。ある一つの画面の話だけを進めようと思っても、「まだ時間になっていない」というような感じで止まってしまいます。ほかの画面のイベントを見て話が同期していくと再度進行できるようになっていくのです。
それだけでなく、特定の視点でタイミングがそろうとその2人(以上)の話が合流し、5つ目の画面イベントが起こることもあります。これこそが複数画面で物語を同時進行する本作の真骨頂と言えるでしょう。
終盤における呪いの根本原因対処のためには、操作可能なすべての画面で特定のシーンに持ってきたうえで行動を起こす必要があります。割と条件が厳しめなので、最初の数回は見逃してループになる方も多いでしょう。この仕組み、川崎部さんのSCE2のエンディングを思い起こします。
ゲームの作りが特殊なためか若干動作が重いように感じられますが、それに見合うだけの演出効果のある仕掛けとなっているでしょう。

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↑画面連動イベント中


話の内容にも触れましょう。
舞台となっているのは琴羽(ことはね)学園。2年生の樫山勇治(かしやま・ゆうじ)と若咲千草(わかさき・ちぐさ)は幼馴染。最初のうちはすれ違い系ラブコメか?というような感じで進めていたのですが、なんとゲーム内初日にして超絶修羅場に遭遇してしまいます。……え?これってそういう話だったの?
この事件で大きなショックを受けた千草に、謎の少女が誘惑をかけます。「彼を奪われたくはないだろう…?」と。その誘惑にあらがえなかった千草は”絶望の螺旋”へと引きずり込まれることになります。

それと時を同じくして、学園長から”学校のトキコさん”が出るといううわさの調査を依頼された睦月十歌(むつき・とおか)と天乃川夕美(あまのがわ・ゆみ)。霊能力という力の存在が認められるようになったこの世界で霊能力関係の事件を引き受ける探偵である彼女らは、学園へ調査に乗り込みます。
順調に視察を進める中、一人になった隙を突かれて誘拐されてしまった夕美は、霊能力について熟知している彼女にすら信じがたい話を聞かされるのだった。

ここから先は、先述したように各画面を同期させて攻略しなければ同じ内容をループしてしまいます。ぜひあなたの目で確かめてください。何もかもすっきり解決してハッピーエンドとはいきませんが、勇治と夕美がお互いに干渉できた理由などが夕美の聞かされた謎の話と一緒に説明されたりするのでそのあたりが気持ちいいポイントですね。
この謎をどれだけ早い段階で解けたかで本作のプレイ時間は大きく左右されるでしょう。


さて、本作をプレイして気になった点ですが、まずはこの特殊なシステムのために通常のノベルゲームでは使用可能なシステムが使えない点はやはり痛いです。具体的には、文章のスキップができません。また、セーブは一応できるもののかなり不自由。またバックログも全画面分まとめて少し表示されるだけなので、プレイしにくいと感じたことは否定できません。
もう一つは、やや世界観の説明不足を感じたという点です。冒頭で霊能力の存在が明かされますが、ほとんどの人には使えないし役にも立たない、ごくわずかの人には凄いことができる、という程度の説明で、では一体何ができるのか、都市伝説との関係は?といったあたりが不十分だったのではないでしょうか。なので最後の解決法が若干力業のように感じます。これは本作内における設定がかなりスケールが大きいものを含んでいて回収しきれていないのも関係ありそうです。黒い霧や謎の計画について解決していないので、これは続編で解決とかのパターンかな?という読後感です。


とはいえこれらの点は、4画面を同時進行して話を進め、しかも単に並列で進むのではなく相互に影響して謎解きをするという本作の本質的魅力には関わらない部分ですので、気になった方はぜひプレイしてみることをお勧めします。15推ということで、ゲーム起動時に警告文章があったりしますが、直接的なグラフィックなどはなくそこまでショッキングなシーンもないためプレイしやすいと思います。
また、画面が常に分割されて表示される仕様のため、画面サイズは大きめにしてプレイすることを推奨します。

それでは。

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