こんにちは。今回は成瀬紫苑さんの「人間裏街道」のレビューをお送りします。

オススメ!
ジャンル:探索ホラーアドベンチャー
プレイ時間:エンディングまで3時間、フルコンプまで6時間程度
分岐:エンディング7種
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2023/3
備考:15禁、自殺/殺人描写あり
先週に引き続き、フリーゲーム夢現で見つけた作品になります。以前から気になっていたのですがようやくプレイすることができました。シナリオにグラフィックにとてもよくできていて、ゲーム初制作とのことでしたがそれでこの出来栄えなら才能ある方なんだなと思える作品です。
主人公のアリスは”死にたがり”の高校3年生。生きる目的を失い、自宅で練炭自殺をしようと思い立ちます。道具もそろえていざ実行するにあたり恐怖を感じたその瞬間、鏡の向こうから謎の少年メイに裏街道へといざなわれます。表(現実世界)の反対であるという裏街道は暗く静かな場所で、住人たちも他人との関わりを避けているようですが、その分厄介な人間関係に悩まされることもなくのびのびと自由に暮らしています。
裏街道で一緒に遊んでとメイにせがまれたアリスは、夏休みが終わるまでという約束でそれを了承します。自殺を決行するまでの1か月間、メイと遊ぶついでに裏街道を探検することにしたアリスは一体何を見つけるのでしょうか。裏街道とはどんなところで、住人たちはどんな人なのでしょうか。彼らに未来はあるのでしょうか……

本作の良かったところの1つ目として、まずはシナリオを挙げようと思います。本作の主人公であるアリスは先ほども述べましたが相当な死にたがりです。ゲーム開始時点で上のような状態ですし、裏街道へ行ってからも基本的には夏休みの最後の日に表に帰って死ぬという決意は揺らぎません。それでいて、何かプレイヤーの同情を誘うような深刻な理由が語られることはありません。つまり、感情移入しやすいタイプの主人公ではないのです。
このブログでも何度か書いていると思いますが、私は物語を楽しむときはおおむね主人公になり切って読むタイプです。本作のように何を考えているのか分かりにくかったりして感情移入できない主人公はあまり好きではなく、実際ゲーム序盤における印象もさほど良くありませんでした。
しかしゲーム中盤終盤と進み、エンディングを回収するころには最初の印象は完全に覆されていました。その理由の一つとして、裏街道で出会ったガラクとの相性の良さがあるでしょう。裏街道に住んで長いというガラクはメイの扱いにも慣れていて、メイの世話をしながらもアリスに今後の生活についてアドバイスをしてくれます。
そんなガラクはアリスと対照的な”生きたがり”。生きたがりのガラクがどんな経緯で裏街道に来ることになったかはゲーム終盤で明らかになります。理不尽な現実に悩まされたガラクの事情を知れば人生に絶望しても仕方がないと思えるのと同時に、何とか希望を見失わないで欲しいという気持ちが生まれます。
そのガラクが表に戻って生きたいという希望を叶えるために必要だったのがアリスの存在だったのでした。裏街道に来て日が浅いアリスはまだ表での生き方を忘れておらず、さらには死を覚悟したゆえの危険を顧みない行動力があります。本やスマホを取りに1回表に戻ったり、メイの行動を不審に思ってガラクに相談したり。そういったアリスの行動が意図せずにガラクの計画の手助けとなっていたのです。
このあたりの伏線の張り方が上手いですね。
逆にアリスにとってもガラクは欠かすことのできない存在になりました。死んでもいいやと思っているアリスが生きていくにあたり、生きたがりのガラクが表で生活するのを助けるという具体的で小さな目標が非常に大切だったのです。
人生における夢のような大きな目標を持って、それに向かって努力している人を見ると立派だなあ感じます。しかし胸を張って宣言できるような立派な夢を持っている人ばかりではありません。まして死にたがりのアリスにはそのようなものは全くありませんでした。
裏街道に長居しすぎたために表での生活に支障をきたしたガラクを手助けするというのは、人に誇るようなことではないかもしれないけれど確実にアリスに活きる理由を与えてくれます。立派な理由がなくても、目の前の毎日に手いっぱいだったとしても、小さな目標があるだけで生きるエネルギーになるんだと思うと同時に、我々も現実世界を生きることに高いハードルを感じなくてもいいんだよというメッセージのように受け取れました。

さて、次にビジュアル面が良かったことについて書きましょう。
ここまでに載せたスクリーンショットでもわかると思いますが大変綺麗ですね。それに加えて本作においては、裏街道には日が昇ることはなく、ガラクがくれた特殊なメガネをかけないと色の判別も難しい程度に暗いという設定があります。ネタバレになってしまうので詳しくは言及しませんが、その点が反映されたスチルや立ち絵になっているのがとても良いですね。
本作にはストーリーのメインにかかわってくるキャラクターのみでなく、探索時に会話などをすることができるサブキャラも多数存在しています。彼らについても立ち絵が用意されているだけでなく、専用のスチルまであったりしてこれは相当な力の入れ具合だと思います。このスチルはそのキャラクターのサブシナリオをクリアすることで見ることができるようになります。

これらのスチルは一度見たものはおまけ部屋で再度閲覧可能になっています。同時にそのシーンで印象的なBGMと合わせて鑑賞できるシステムは何気に初めて見たかもしれません。曲名なども同時に表示されていて、私のような音楽素材マニアには大変うれしいシステムです。
本作の攻略についてです。
公式サイトなどの記載では難易度は低いとのことでしたが、エンディングをすべて回収しようとすると私には難しく感じられました。簡単というよりは”余計なことをしない”というタイプの分岐条件になっているのです。分岐ありの探索ADVにおいては特定のアイテムを入手するとか謎を解くとかの分岐条件になっているものが大多数ですから、本作はややトリッキーな分岐条件をしている分難しいなと感じられました。もちろん、そのうえで必須のフラグは立てておかなくてはなりません。自力では難しいなと思ったら素直に公式サイトにあるヒントを見ることをお勧めします。
とはいえ、ゲームオーバーを避けてエンディングまで進むのは(いくつか不意打ちポイントがあるとはいえ)簡単ですので、まずは自力で回収できるだけやってみるのがよいでしょう。
ストーリー進行に必須でないサブクエストについてはさらに難しいです。9部屋あるアパートの一部屋一部屋を丹念に調査しないといけなかったり、非常に早いタイミングで必須フラグを取る必要があったり、当然のように時限イベントのクリアを要求されたりします。こちらは一部のイベントについてはおまけ部屋でヒントが見られます。分岐しうると私が認識していないタイミングでのフラグなどもあって、理不尽とまでは言いませんがやや不親切かなと感じました。
あとはマップ上で領域の指定が上手くいっていないのか木などをすり抜けてしまう箇所がいくつかあるのも少し気になったでしょうか。
マップの表現自体は面白く、ソファに座っている状態がわざわざ用意されているのはなごみますし、そんなモザイクの使い方あるのか、と驚かされもしました。
ホラー要素はそこまででもなく、あまり得意でない私でも最後までプレイできました。ただし過激ではないとはいえ脅かし表現はありますし、そこそこグロい絵もあるので血とか無理~という方はやめておいた方が無難でしょう。
というわけで今回は「人間裏街道」でした。
死にたがりが裏街道で見つけた目標とは。生きていく理由とは。大変に後味の良いエンディングとなっているのでぜひあなたの手で見つけてください。
それでは。

オススメ!
ジャンル:探索ホラーアドベンチャー
プレイ時間:エンディングまで3時間、フルコンプまで6時間程度
分岐:エンディング7種
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2023/3
備考:15禁、自殺/殺人描写あり
先週に引き続き、フリーゲーム夢現で見つけた作品になります。以前から気になっていたのですがようやくプレイすることができました。シナリオにグラフィックにとてもよくできていて、ゲーム初制作とのことでしたがそれでこの出来栄えなら才能ある方なんだなと思える作品です。
主人公のアリスは”死にたがり”の高校3年生。生きる目的を失い、自宅で練炭自殺をしようと思い立ちます。道具もそろえていざ実行するにあたり恐怖を感じたその瞬間、鏡の向こうから謎の少年メイに裏街道へといざなわれます。表(現実世界)の反対であるという裏街道は暗く静かな場所で、住人たちも他人との関わりを避けているようですが、その分厄介な人間関係に悩まされることもなくのびのびと自由に暮らしています。
裏街道で一緒に遊んでとメイにせがまれたアリスは、夏休みが終わるまでという約束でそれを了承します。自殺を決行するまでの1か月間、メイと遊ぶついでに裏街道を探検することにしたアリスは一体何を見つけるのでしょうか。裏街道とはどんなところで、住人たちはどんな人なのでしょうか。彼らに未来はあるのでしょうか……

本作の良かったところの1つ目として、まずはシナリオを挙げようと思います。本作の主人公であるアリスは先ほども述べましたが相当な死にたがりです。ゲーム開始時点で上のような状態ですし、裏街道へ行ってからも基本的には夏休みの最後の日に表に帰って死ぬという決意は揺らぎません。それでいて、何かプレイヤーの同情を誘うような深刻な理由が語られることはありません。つまり、感情移入しやすいタイプの主人公ではないのです。
このブログでも何度か書いていると思いますが、私は物語を楽しむときはおおむね主人公になり切って読むタイプです。本作のように何を考えているのか分かりにくかったりして感情移入できない主人公はあまり好きではなく、実際ゲーム序盤における印象もさほど良くありませんでした。
しかしゲーム中盤終盤と進み、エンディングを回収するころには最初の印象は完全に覆されていました。その理由の一つとして、裏街道で出会ったガラクとの相性の良さがあるでしょう。裏街道に住んで長いというガラクはメイの扱いにも慣れていて、メイの世話をしながらもアリスに今後の生活についてアドバイスをしてくれます。
そんなガラクはアリスと対照的な”生きたがり”。生きたがりのガラクがどんな経緯で裏街道に来ることになったかはゲーム終盤で明らかになります。理不尽な現実に悩まされたガラクの事情を知れば人生に絶望しても仕方がないと思えるのと同時に、何とか希望を見失わないで欲しいという気持ちが生まれます。
そのガラクが表に戻って生きたいという希望を叶えるために必要だったのがアリスの存在だったのでした。裏街道に来て日が浅いアリスはまだ表での生き方を忘れておらず、さらには死を覚悟したゆえの危険を顧みない行動力があります。本やスマホを取りに1回表に戻ったり、メイの行動を不審に思ってガラクに相談したり。そういったアリスの行動が意図せずにガラクの計画の手助けとなっていたのです。
このあたりの伏線の張り方が上手いですね。
逆にアリスにとってもガラクは欠かすことのできない存在になりました。死んでもいいやと思っているアリスが生きていくにあたり、生きたがりのガラクが表で生活するのを助けるという具体的で小さな目標が非常に大切だったのです。
人生における夢のような大きな目標を持って、それに向かって努力している人を見ると立派だなあ感じます。しかし胸を張って宣言できるような立派な夢を持っている人ばかりではありません。まして死にたがりのアリスにはそのようなものは全くありませんでした。
裏街道に長居しすぎたために表での生活に支障をきたしたガラクを手助けするというのは、人に誇るようなことではないかもしれないけれど確実にアリスに活きる理由を与えてくれます。立派な理由がなくても、目の前の毎日に手いっぱいだったとしても、小さな目標があるだけで生きるエネルギーになるんだと思うと同時に、我々も現実世界を生きることに高いハードルを感じなくてもいいんだよというメッセージのように受け取れました。

さて、次にビジュアル面が良かったことについて書きましょう。
ここまでに載せたスクリーンショットでもわかると思いますが大変綺麗ですね。それに加えて本作においては、裏街道には日が昇ることはなく、ガラクがくれた特殊なメガネをかけないと色の判別も難しい程度に暗いという設定があります。ネタバレになってしまうので詳しくは言及しませんが、その点が反映されたスチルや立ち絵になっているのがとても良いですね。
本作にはストーリーのメインにかかわってくるキャラクターのみでなく、探索時に会話などをすることができるサブキャラも多数存在しています。彼らについても立ち絵が用意されているだけでなく、専用のスチルまであったりしてこれは相当な力の入れ具合だと思います。このスチルはそのキャラクターのサブシナリオをクリアすることで見ることができるようになります。

これらのスチルは一度見たものはおまけ部屋で再度閲覧可能になっています。同時にそのシーンで印象的なBGMと合わせて鑑賞できるシステムは何気に初めて見たかもしれません。曲名なども同時に表示されていて、私のような音楽素材マニアには大変うれしいシステムです。
本作の攻略についてです。
公式サイトなどの記載では難易度は低いとのことでしたが、エンディングをすべて回収しようとすると私には難しく感じられました。簡単というよりは”余計なことをしない”というタイプの分岐条件になっているのです。分岐ありの探索ADVにおいては特定のアイテムを入手するとか謎を解くとかの分岐条件になっているものが大多数ですから、本作はややトリッキーな分岐条件をしている分難しいなと感じられました。もちろん、そのうえで必須のフラグは立てておかなくてはなりません。自力では難しいなと思ったら素直に公式サイトにあるヒントを見ることをお勧めします。
とはいえ、ゲームオーバーを避けてエンディングまで進むのは(いくつか不意打ちポイントがあるとはいえ)簡単ですので、まずは自力で回収できるだけやってみるのがよいでしょう。
ストーリー進行に必須でないサブクエストについてはさらに難しいです。9部屋あるアパートの一部屋一部屋を丹念に調査しないといけなかったり、非常に早いタイミングで必須フラグを取る必要があったり、当然のように時限イベントのクリアを要求されたりします。こちらは一部のイベントについてはおまけ部屋でヒントが見られます。分岐しうると私が認識していないタイミングでのフラグなどもあって、理不尽とまでは言いませんがやや不親切かなと感じました。
あとはマップ上で領域の指定が上手くいっていないのか木などをすり抜けてしまう箇所がいくつかあるのも少し気になったでしょうか。
マップの表現自体は面白く、ソファに座っている状態がわざわざ用意されているのはなごみますし、そんなモザイクの使い方あるのか、と驚かされもしました。
ホラー要素はそこまででもなく、あまり得意でない私でも最後までプレイできました。ただし過激ではないとはいえ脅かし表現はありますし、そこそこグロい絵もあるので血とか無理~という方はやめておいた方が無難でしょう。
というわけで今回は「人間裏街道」でした。
死にたがりが裏街道で見つけた目標とは。生きていく理由とは。大変に後味の良いエンディングとなっているのでぜひあなたの手で見つけてください。
それでは。