フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
記事一覧ページを作りました。記事探しはこちらから。Twitterはこちら。リンク等はご自由にどうぞ。
YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

コメディ

こんにちは。今回はTwitterでもツイートしました(と書いているうちにXとかいう識別性の低すぎる名前になってしまった)、「未来エイゴウ昔のことは」とその元となった「七月革命」をまとめてご紹介しようと思います。

どちらもこのブログでは最多タイの3度目の登場となる晴好雨奇一丁目(静本はる)さんの作品で、「七月革命」は2014年公開です。その後2016年に前日談として「未来エイゴウ昔のことは」が公開されたということですが、当時私はそれを知らず、私が晴好雨奇一丁目さんを知った時にはすでに非公開となっていました。今回それが再公開となったのでプレイしてみたところ、とても良かったのでレビューを書いていこうと思います。


まずは「七月革命」です。
7gatu1

ジャンル:掌編学園コメディ
プレイ時間:5分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2014/7

こちらは夏らしく爽やかな短編コメディです。同じ作者さんの「MY HOBBY IS 短編版」も以前レビューした作品で短編のコメディでしたが、本作はあれほどぶっ飛んだギャグなどは出てきません。

教室にエアコンが付いていないことに業を煮やしたミライ川(すごい名前)は、ムカシ田に向かって革命を起こすと宣言。いつの間にか大量の同志を引き連れて職員室へと直訴に向かいます。
7gatu2

こうやって書いてしまうと話の筋は本当にシンプルなんですが、この作者さんのすごいところは演出法ですね。その他の作品でもそうだったのですが、とにかく軽快に見せる手腕に優れていて、革命を起こそうと燃えるミライ川のエネルギーやそれと対比して冷静なムカシ田の様子が非常に際立っています。
大勢の生徒を引き連れたカットインなどもミライ川の動きとともに右へ左へ動き回ります。こうした見た目の楽しさとお約束のようなギャグがぴったりとかみ合って、笑える作品となっています。
タイトル画面やメッセージウィンドウ右下で回転する扇風機の羽も涼しげでいい感じ。
冷めた目で見ているようなムカシ田も、完全に見捨てているわけじゃなくて最後にちゃんとフォローしてあげる関係性なのも爽やか。



続いて「未来エイゴウ昔のことは」です。
(9/10追記:現在本作品は再度非公開となっています)

mirai1

ジャンル:ノスタルジック短編青春物語
プレイ時間:20分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:初公開2016/8、一時非公開後2023/7に再公開


こちらが今週再公開された作品で、私が今回の記事を書くきっかけにもなりました。
主な登場人物は七月革命で出てきたミライ川とムカシ田。それにミライ川のおばあちゃんです。

ミライ川の快活なキャラクターは変わらないのでこちらもコメディなのかと思いきや、本作はノスタルジックでしんみりとした展開が多く含まれています。舞台は2年さかのぼって2人が高校1年の夏休み。

七月革命では全く出てきませんでしたが、ムカシ田は実は野鳥の観察が趣味。オミルリという珍しい青い鳥がミライ川のおばあちゃんの家の近くにいるということで、ミライ川に半ば無理やりおばあちゃんの家に連れてこられます。
北の山にきれいなオミルリがたくさんいると聞いて必死に探すムカシ田。案内をしつつ自分の興味の赴くままに山で遊ぶミライ川。当時はほぼ交友の無かったはずの2人がどのようにしてお互いを理解し、七月革命の時のような確かな信頼を得ていったのかが分かるような描写がうまい。
mirai2

そして本作においてもう一人登場する重要な人物がミライ川のおばあちゃんです。
両親不在のミライ川にとっておばあちゃんは唯一の心許せる肉親。しかし村でのおばあちゃんの立場はそんなに良くありません。このあたりは田舎独特の風習がそれっぽく描かれ、単に元気なだけじゃない別の雰囲気を本作に与えてくれます。

このおばあちゃんとのやり取りや関係性を通してミライ川の行動原理や主義が見えてくるのがまた気持ちいい。作中で起こる出来事は決してほほえましいだけではありませんが、後味良好なのはミライ川の明るい性格を行動原理まできっちりと書ききっているからでしょう。

mirai3

また、本作は背景が加工なしの写真になっています。「ほしのの。」「かえりみち」や、晴好雨奇一丁目さんの最新作である「永遠と長閑」(現在は体験版のみ)などでも写真背景を使用していますし、田舎である設定を活かした作品って写真が多い気がします。
それでいて本作では晴好雨奇一丁目さんらしい演出も生きています。背景の動かし方や音楽の切り替えなど、すごくノスタルジックな感情を刺激してくるんですよね。短編における演出手法について、この人の右に出る者はいないと感じています。



最後にオチがあって締めくくられる本作ですが、そのオチもまた使い方が上手いです。今度は釣りに興味を持ったムカシ田。そこでタイトル画面に戻ってきて、とても綺麗なまとめ方です。
エンドロールがないのがちょっとだけ寂しいかな。

テキストファイルで後書きも同梱されているのでプレイ後にはぜひ読んでみてくださいね。


というわけで今回は「七月革命」「未来エイゴウ昔のことは」でした。
合計しても30分で読み終わり、すっきりと爽やかな気分になれますよ。この時期にぴったり。

それでは。

こんにちは。
今回はPetitさんの「怒ると死にます。」のレビューをお送りします。

okoshi1

ジャンル:幼馴染系ラブコメ
プレイ時間:30分
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2020/5
備考:ティラノゲームフェス2020コメディ部門優秀賞受賞作


本作はタイトル通り、怒ると死んでしまう奇病に侵されたヒロインを救うため、主人公が奮闘する分かりやすいラブコメとなっています。

冒頭のシーンでいきなりそんなぶっ飛んだ設定を説明されて困惑する主人公の七見直(ななみ・なお)はちょっとひねくれた性格の持ち主です。人は結局一人で生き、一人で死ぬのだから人類皆孤独。友情とか、恋愛とかそんなものはまやかしだ。うざったい。
そんなことばかり言っているので幼馴染でヒロインの葵美喜(あおい・みき)の最初の台詞も「ナオは相変わらず酷い人」と散々です。


そんな直に対して美喜は序盤から好意丸出しで非常に分かりやすい。「怒ると死ぬ」という設定が強烈ですから、その他は王道というのがちょうどいいですね。
「愛」を得ることによって怒りゲージ(?!)の許容量を増やして死の危機から救われると聞いた彼女はもう直への愛を隠すことをしません(若干ツンデレ風味の台詞はありますが…)。
病院から帰ったその日の夜、美喜は直の部屋にやってきて、「明日デートしよう」と提案。対する直は、「あいつとデデ、デートだと!?」とひどい動揺ぶり。いやもうこれどう見ても両想いじゃん!
むしろ直の方がツンデレでは?


というツッコミは置いといてデート当日に進みましょう。
待ち合わせ場所で早々にナンパ男に絡まれている美喜。直はさらりと美喜を連れ出すことには成功するが、ナンパ男たちとけんかになり、またすぐに病院に逆戻りです。こんなデートは散々だー、と一度は思ったものの、美喜ちゃんに看病してもらってこんな表情まで見られるならこんなデートイベントもアリなのかな~と思ってしまいます。

okoshi2



上のスクリーンショットをみて分かる方もいるかもしれませんが、本作のヒロイン美喜の立ち絵はLive2Dなので大きくアニメーションします。口パクだけでなく頭も揺らすし髪もなびく。ちょっと恥ずかしがるときに両手を口に当てるしぐさなんかも可愛くて良いですね。やっぱりアニメーションってコメディには特に威力を発揮するよなあと思います。



本作の笑えるポイントとして特徴的なのは、上のようなヒロインの可愛らしいシーンやちょっと恋人らしいシーンと、それを吹っ飛ばすようなギャグシーンの切り替えがスピーディーなところでしょうか。
特にドイツ帰りの医者が強烈でした。直と美喜が良い感じになりそうなところで何度雰囲気ぶち壊しの台詞を投げつけてきたことか! この急ハンドルを楽しめる方には特におすすめですね。ボイスの破壊力も満点です。
しかし医療器具を鼻に突っ込むのは医者としてどうなんだ! とだけ言いたい。



そんなこんなで色々ありつつ物語はエンディングへ向かうのですが、ここできちんと直が美喜を怒らせ続けてきたきっかけも明らかになって、そのうえで2人が前に進んでいけるのが気持ちいい内容です。直の言動は本当に酷かったですからね。あれは誰でも怒ります。外れ選択肢の台詞なんか口にした日にはラブコメ主人公でも彼女との関係が終わりかねないです…
そんな直がきちんと美喜に向き合っていくきっかけとなる出来事があるのですが、ゲームらしく非常に分かりやすい展開となっているのが良いですね。まああの人は現実では絶対にお近づきになりたくないタイプの人物ですが。


そう、本作の選択肢は落ち着いて読めばどっちが正解かは明らかです。普通の常識がある人なら心配ありません。しかしタイトル画面から難易度を上げて挑むと、制限時間が短くなったり選択肢が移動していたりして物理的に難しくなります。難易度によってシナリオの変化はありませんが、高難易度をクリアするとおまけのイラストが多く解放されるのでぜひ高難易度も攻略してみてください。




ちなみに、本作のBGMには誰でも1度は聴いたことがあるような超有名クラシック曲が使われています。
タイトル画面はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。本編が始まってからもショパンの子犬のワルツやモーツァルトのトルコ行進曲といった有名曲がいっぱい。それらの中でたまに曲名が分かると面白いネタが仕込まれていてそこも楽しいポイントでした。
病気を治すのに愛が必要だと言われたシーンではエルガーの「愛の挨拶」、時間切れで死んでしまった(ゲームオーバー)時はショパンの「葬送行進曲」、怒らせないように選択するところではヴェルディのレクイエムより「Dies Irae」(日本語で"怒りの日")など。選択肢を間違えたときにはモーツァルトのDies Iraeも使われていましたね。知っていればにやりとできるポイントでしょう。



というわけで今回は王道展開が楽しめるラブコメ、「怒ると死にます。」でした。
ぜひ美喜の機嫌を取りながらエンディングを迎え、幸せ全開のタイトル画面を眺めてください。

それでは。

こんにちは。今回はぷらちなクリエイティブさんの「そのサークル、地雷ですよ?」をご紹介します。

sonokuru1


★favo
ジャンル:同人活動の光と闇をコメディタッチで描くノベルゲーム
プレイ時間:4時間
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2019/5
備考:ティラノゲームフェス2019準グランプリ作品


前回の2周年記事で触れた作品ですね。あれだけべた褒めしておきながらレビューしていなかったので記事に書くことにしました。
先週書いた通り、本作は3年前にティラノゲームフェス参加作の中から適当に作品を探していた時にたまたま見つけた作品です。めちゃくちゃ面白かったのに当時コメントが一つしかついておらず、多くの人に知られないのはもったいない作品だなあと思ったのはよく覚えています。というわけで今回は絶賛するだけの記事となります。


まずはあらすじを簡単に説明しましょう。主人公の緋色(ひいろ)は絵を描くのが大好きな高校3年生。将来はイラストレーターとして仕事をしたいと考えています。しかし母親がそれに大反対。勉強をして進学するように言ってくるので毎日のように喧嘩。そんな母親を説得するために、妹の黒亜(くろあ)と相談して考えた作戦は、1年以内に同人活動で目に見える成果を作って説得材料にしようというもの。早速同人サークル探しに励む緋色であったが、彼女が見つけるサークルは毎回地雷なのであった……。




私がブログを始めてすぐの時に、レビューについてという記事を書きました。そこで、最近のフリーゲームは商業ものと見まがうようなクオリティーの高いものが多くあるけれども、フリーゲームらしい粗削りで尖った、あるいは同人でなければ表現しえないものにも強く惹かれるという風に書きました。本作はまさに"フリーゲームらしさ"という点で満点だと思うのです。細かく見たらいろいろツッコむべきところはあるし、もし本作がコンシューマで発売されたら私もなんか違うなと思うでしょうし、バグ多すぎなどと酷評すらされるかもしれませんが、本作にはそれを補って余りあるフリーゲームらしさ、同人制作の魅力が詰まっているでしょう。この手作り感、キャラクターへの愛、そして自サークルで起こったアクシデントさえ作品に取り込んでコンテンツとして昇華させる強かさ。これが満点以外に何点を付けられるでしょう。


具体的な内容について書いていきましょう。
本作の良かったところの1つとして、魅力的な登場人物たちが挙げられるでしょう。
主人公の直井緋色はいわゆる天然。お勉強は苦手だけれども、小さいころから夢だったイラストレーターになるために色々と努力を重ねているいい子です。しかし天然ゆえ、努力が空回りしたり方向が間違っていることもしばしば。同人活動で実績を上げようとサークルを探しては加入してみるものの、揉めたり自然消滅したりといったことを繰り返し、進路を考えるぎりぎりの高校3年生になってしまいます。
そんな緋色が助けを求めたのが妹の黒亜。しっかり者のキャラクターで、同人活動では声優として一定の成功を残し、なんと芸能事務所への所属も決まっています。実力に加えて同人サークルをうまく運営するためのコツも緋色より詳しいようです。そんな彼女は毒舌キャラ。緋色のことは「アホ姉」呼ばわり。サークルの選び方から変えないと成功は見込めないときっぱり言い捨てますがツンデレ属性も持ち合わせているので結局は姉と一緒にサークル加入までしてしまう優しい子なのでした。
sonokuru2

メインはこの2人ですが、プロローグや章間で登場するお母さんも相当の曲者です。
イラストレーターになるの1点張りの緋色に対して、そんなの無理だからおとなしく勉強して大学に行きなさいと毎日バトルを繰り返しています。緋色が返事をしないと泣き落としもするし、脅迫まがいのこともするある意味本作中最強の人物です。緋色(と黒亜)はそんなお母さんを説得するためにどうしても1年以内に同人活動で実績を上げなくてはならないのです。



さて、本作のメイン部分は5章構成になっています。各章で緋色と黒亜は同人サークルに加入していきますが、なぜかどこに入ってもトラブル続き。問題を解決するために、というよりは一癖も二癖もあるサークルメンバーたちを説得するために奔走する分かりやすい構成になっています。

1章では歌い手サークル"怨恨のレクイエム"にイラストレーター・ナレーターとして加わることになった緋色と黒亜。メールの返信などは丁寧で問題なさそうなサークルですが、2回も通話してみるとこのサークルの抱える問題がプレイヤーにも伝わってきます。
そう、どう考えてもサークルの代表・ボーカルである"漆黒の誰彼"とミックス担当の"アイスターちゃん"が親密すぎて他のメンバーとの温度差がひどいのです。それだけならまだしも、(名前から想像できる通り)漆黒の誰彼はかなりの中二病。そしてこだわりが非常に強いタイプ。話し合いをするにしてもアイスターちゃんが絶対的な味方となってしまうため、他人の意見が耳に入らないその性質が助長されていたのです。

しかし緋色はそのヤバさに全く気付く様子がありません。この様子では確かにいろいろなサークルでトラブルに巻き込まれても気付かなそうだな~と若干気の毒になってしまいます。そこで毒舌黒亜の出番。緋色を地雷サークルの沼から引き抜くためには、そのサークルが地雷である証拠を集め、メンバーの反感をできるだけ買わないように問題点をズバリ指摘する必要があります。黒亜の毒舌は姉だけでなく他のサークルメンバーにも炸裂。ボケ担当(?)のサークルメンバーと黒亜のやり取りが大変勢いがよく本当に笑ってしまいます。そして険悪になりそうなときにはちゃんと緋色が黒亜にストップをかけてくれるので安心。
この「立証パート」がスムーズに進むかどうかはプレイヤーの選択次第。一定回数ミスするとメンバーの怒りが爆発してゲームオーバーとなってしまいます。セーブは分けておきましょう。

立証パートを初見でクリアするのはやや難しいくらいの難易度でしょう。会話中に数回ツッコミチャンスが来るので適切なタイミングで待ったをかけ、その発言が信頼できない証拠を突き付けましょう。
(やったことないので分からないんですが、逆転裁判ってこんな感じですか?)

sonokuru3
↑立証パート中。発言に突っ込むかスルーするかを選択します


無事に怨恨のレクイエムでのトラブルを解決した2人はまた新たなサークルを求めて掲示板を眺める日々を過ごすのですが、この章間ですら息をつかせる間もなく笑いのネタが降ってきます。
まずは何としても勉強をさせたいお母さんとのバトル。問題集を進めるか針を飲むかを選ばせるなどやりたい放題。サークルの”地雷”たちには毒舌全開の黒亜にもお母さんは手に負えないのでした。3章の後の心理学バトルが大好きです。
そして次回予告や自由通話パートも見逃せません。
「擬人化したマヨネーズ」「おち〇ちんクーデター」のパワーワードが強烈に脳裏に焼き付いています。(※下ネタが多いわけじゃないです)



2章以降もそれぞれ同人サークルに入ってみるは良いものの地雷続き。毎度サークル員の濃さに驚き、黒亜の毒舌のバラエティーに笑い、緋色のさりげないフォローとひたむきな姿勢に癒されながら物語は進んでいきます。


オタサーの姫問題であったり、自分の設定を押し通そうとする人をどうやって説得するか、そのうえで趣味としての同人活動を楽しく続けていくにはどうするのか、といった問題が、同人制作活動をしたことのない私にもわかりやすく、かつ共感しやすい形でたくさん登場します。このあたりの内容は、本作がフリーゲームとして制作され、公開されているからこそ説得力を持つ部分でしょう。後書きまで読めばわかりますが、本作を作るにあたって作者のぷらちなクリエイティブさんの中でも問題が発生していたようです。ボイス付きとなっている本作ですが、ゲーム制作中にまさかの事態に。それを作中のネタに盛り込み、人も足りない中、良い作品を作ろうと努力し完成・公開にこぎつけた作者さんの汗の結晶がはっきりと読み取れます。私がフリーゲームをプレイしていて最も嬉しいのはこのような瞬間なのです。




物語は5章で最終章を迎えます。前後編に分かれたこの最終章がまた熱くて良いんです。
最終章では、数字にしか興味がないサークルリーダー、ユーキとの対決という構図になっています。サークルのメンバーに一切の興味がなく、駒としか思っていないユーキですが、実力はありプロとのコネクションもあります。実の妹ですら作品制作のための歯車としか思っていない様子はいかにもな悪役ですが、実力と人脈を兼ね備えた彼女にゲームコンテストで勝つのは容易ではありません。ユーキの妹でサウンドクリエイターのココロと一緒に良い作品を完成させることを誓う緋色と黒亜。しかしイラスト・サウンド・ボイス担当だけいてもゲームは完成させられません。そこで、4章までに加入してきた同人サークルの知り合いに協力を仰ぎます。この流れが本当に魅力的。

これまでのサークルを散々「地雷」と酷評し毒舌をかましてきた黒亜ですが、人当たりも良くて情熱もある緋色のおかげで個人的に仲良くなれたメンバーが何人もいます。彼らを集めてプロクリエイターとの対決に挑む。まさに少年漫画のような友情・努力・情熱の展開で大変気持ちいい。
メンバー集めまでの段階ではこれまでと変わらないコメディ路線で大いに笑えるのですが、制作に取り掛かってからは本当にシリアスに、真剣に良い作品を作るために議論を戦わせ、コンテストで受賞するために作る、その先にあるプロへの道を目指すという内容が描かれるのです。



物語の前半ではいやいや姉に付き合わされて活動していた黒亜も、ここまで来たら本当に良い作品を作って実績を出す・ユーキを見返すということに熱意を感じる活躍ぶり。
「ヒーローはお姉ちゃんにしかできないんだ。だから私は、ダークヒーローになってやる。」
この覚悟を感じる台詞がとても好きです。

sonokuru4

最終的に8人にまで膨らんだサークルメンバー。それぞれの章でしっかりとキャラクターの性格や同人活動への姿勢、抱えていた問題点などを描いていたおかげで、最終章で全員集合しても誰一人キャラとして死んでいません。ただの天然に見える緋色も実は人を観察する能力に長けており、このサークルメンバーでどう役割分担をし、制作進行を行えばスムーズな完成が望めるかを的確に指摘。個性の強いメンバーを扱いやすいように王道に持っていくのではなく、彼らの作りたいもの、内に秘めた野望を解放させたうえで上手いこと全体のバランスをとっていきます。こんなフリーゲームができたら最高でしょう。緋色たちが完成させるノベルゲーム"サクナロク"を本当にプレイしたくなりました。

彼らが語る創作論やゲームを完成させる上での注意点なんかは、本当に作者さんが経験したり日々考えたりしていることなのだろうなというのを強く感じさせてくれます。ここも私が本作を大好きな理由の一つです。


本作をプレイしていてどうしても直してほしいと思うのは1点だけ。ノベコレのコメントにも書きましたが動作の安定性が低いところです。特に幕間で操作が効かなくなって再起動を余儀なくされることが何度か。特に2章の立証パート後のタイミングで何度やっても止まってしまい、一時はプレイ続行をあきらめようかと思いました。しかしとても良い作品だという予感がすでにあったためどうにかして続きをできないかと試行錯誤するうちに、マウスホイールクリックによるメニュー呼び出しは効くことに気付き、そこからメッセージスキップ選択で進むことができました。同様の現象に見舞われた方は参考にしてください。




目を見張るほどの美しいイラストがあったりとか、緻密に構成された伏線があったりするタイプの作品ではなく、ぱっと見で多くの人を呼び込める作品ではないのかもしれませんが、私の心にめちゃくちゃ深く突き刺さった作品です。今まで何かを作った経験はないけれど、同人制作楽しそうだな、いいなあと思える大変温かい内容と感動的なエンディング、そしてたっぷりの笑いを楽しめます。埋もれてしまうのはもったいない傑作だと思っているので、ぜひプレイしてみてください。
裏タイトル画面から読める後書きも大好きなので、プレイ後はそちらもお忘れなく!

それでは。

こんにちは。今回は一限はやめさんの「ホラー大好きヒミカさん」をご紹介します。

himika1

ジャンル:ホラーゲームあるあるネタ風コメディ
プレイ時間:45分
分岐:なし(後述)
ツール:RPGツクール(要RTP)
リリース:2020/4

今回ご紹介する作品は、上のタイトル画面のスクリーンショットやそこでのBGMは全力でホラーと主張していますが、中身としては日常ギャグ系となっています。

本作は、ほぼすべてが主人公の陽菜と友達のひみかが部屋でおしゃべりしている場面で構成されています。タイトルから分かる通りひみかはかなりのホラーゲームやオカルト系マニアの大学2年生。ホラーゲームにありがちな状況や台詞の引き出しが異常に多く、超ハイテンポでネタを放出します。対する陽菜は比較的普通の子でツッコミ役。あっちこっちに話が飛ぶひみかを毎回軌道修正して話を進めてくれます。しかしたまにひみかのフリにのっていくことも。そんな2人のやり取りを見ながら、あるある~~といったり、そんなのねーよとツッコんだりするのが本作の楽しみ方の一つになります。


さて、本作には地の文だったり、ナレーション役といったものは存在しませんが、ショートコントのタイトルのような感じで数分くらいの間隔で暗転とタイトルアナウンスが入ります。とはいっても登場人物も場所も変わらないのですが、この仕組みで話の切り替わりがわかりやすくなっています。ずっと同じ2人が話すだけではそのあたりがあいまいになったり、息をつく暇がなくなりますからこれはいい構成だなと感じます。ちなみに、その場面転換の間でのみセーブが可能になっています。

まず最初は「怖い話」。ストレートですが、怪談って人気ですよね。私は怪談やホラーが特別好きというわけではありませんが、ゲームをやっているとよく出会うジャンルということもあり、有名なものは結構知っているつもりです。
しかし本作では当然ながら正面から怪談について語ったりはしません。
「1日3食をすべてお菓子の「じがりこ」で過ごした話」
から始まり、
「田舎に残る怖い風習」
というまさによくある風の怪談が始まるかと思いきや
「女子間の、されるのがわかりきった「サプライズ」のし合いの方が怖い風習」
と一刀両断。この急カーブで笑えるならば本作を最初から最後まで余すところなく楽しめるでしょう。
「何でも田舎のせいにするな」との主張、心得ました。

そんな感じでホラーや怪談を題材にしつつも様々な方向に振れた話題を楽しめる本作ですが、メタな話題も結構含まれます。本作のシナリオがゲームという媒体で紡がれることからもそれは必然かもしれませんね。
先ほどの話で、「地元が田舎って、どの辺?」という振りに対し、「かなりの田舎と言ってしまった以上、傷つく人がいるかもしれないので具体的な地名は出さない」は流石です。「視聴率」発言も笑いました。確かにそうかも。

ひみかはかなりマイペースな性格で、同じお題に対して陽菜があきれるほど多くの例を挙げたり、逆にいつの間にか話題が変わっていたりします。そしてどんどんホラーとは関係ないテーマに進んで行ったりもします。”ホラー大好き"というのはひみかさんの趣味に関する話であって、本作全体のテーマというわけではないのです。軽めの下ネタもけっこうあります。かなり自由にいろいろな話題に飛ぶので、ホラーの話という導入から離れて女子会をのぞき見しているような気分すら味わえるかもしれません。

himika3
さらには突然の水着シーンあり。その後に1度だけある選択肢によっては以後がすべて水着での会話になっており、一気にツッコミどころが倍増して楽しいですよ。立ち絵と一部の会話が変わるくらいで、シナリオに影響はありません。

また、上のような2人の駄弁りだけでなく、本作には時折前触れなしに「なりきりコーナー」が挿入されます。アルバイトの接客ごっこだったり、ゲーム内でよくあるシチュエーションごっこだったり、実在作品のオマージュだったりと様々。私は「探偵」での陽菜のスピード感あるツッコミが好きです。
なりきりコーナー中は、結構シリアスな場面もあったりします。ファンタジー系のゲームやアニメでめちゃくちゃありそうなシーンで、これも結構面白かったです。ひみかの方は相当な変わり者なのでよくわからないですが、陽菜も割とノリノリでこの遊びに付き合っているのを見ると、仲良くていいな~と思いますね。説明なしで寸劇が出来上がっていて、以心伝心している感じがすごい。
himika2
しかし立ち絵の表情と場面の悲壮さがかみ合ってなかったりする。これは、全編を通してコメディ調である本作の味ですね。しかもその直後に(以前の選択によっては)何事もなかったかのように水着で登場するので、シュールさが加速してます。


最後に、私が好きだったネタを3つ挙げましょう。
  • 飲み会の断り方
  • そのやり方は……確かに効果的かもしれないけどいろいろ大事なものを失いそう。少なくとも私はやりたくないなあ。陽菜の感想ももっともだし。
  • テレビをつけたら…
  • 私が実際に友達の家に行ってテレビをつけてそんな感じだったらかなりビビる。しばらくは微妙な空気になりそう。
  • 名前の読みがな
  • レビュー内でルビを振らないようにしましたが、陽菜は"ハルナ"です。作内ではあだ名などから読みを判断できるとはいえ”ヒナ"も一般的な読みだなと思っていたところ、それもネタにされていたのでさすがです。
というわけで「ホラー大好きヒミカさん」のご紹介でした。脱力系とでもいうのか、洗練されたギャグとはまた違った笑いが楽しめる作品です。独特の雰囲気のある作品なので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は時雨屋さんの「1000文字勇者」のご紹介です。

1000yusha1


ジャンル:メタネタ多めのコメディADV
プレイ時間:クリアまで30分程度
分岐:ゲームオーバーあり
ツール:RPGツクール
リリース:2016/12


今回紹介する「1000文字勇者」は、RPGの形式をとりながらRPGのお約束を逆手に取った挑戦的なシステムで謎解きゲームのようなプレイ感を生み出した、RPGと見せかけたADVのような意欲作です。

本作のシナリオというかコンセプトは単純明快。ふりーむに載っている3行の説明で十分です。

この勇者は千文字読むと爆発します。
がんばって魔王を倒しましょう。
千文字喫茶参加中。


通常私たちがRPGをプレイするとき、町で出会った人にはとりあえず話しかけることが多いはずですし、それがセオリーでもあります。ただの村人からでも、戦闘のアドバイスとか、隠しアイテムのありかのヒントとか、イベント進行フラグとかの情報が得られたりしますよね。「装備品はメニューから装備しないと効果を発揮しないよ」と教えてくれる人とかはどのゲームを見ても最初のほうの町に住んでいる気がします。
ところが本作はなんと主人公が1000文字読む(メッセージウィンドウに表示される)と爆発する呪いがかかっていて、強制的にゲームオーバーになってしまいます。当然、全部の村人に話しかけている余裕なんてありません。とりあえず初回プレイでは手当たり次第に話しかけていくしかありませんが、これではクリアできるわけはありません。話しかけて得られた反応からイベント進行に必須な人を判別し、極力無駄を排して話を進める必要がある、まるで謎解きゲームのような内容になっています。


本作はRPGでもあるので、戦闘シーンもあります。しかしまともに戦っては容易に文字数制限をオーバーしてしまうので、なんと勇者はどんな敵でもワンパンで倒せる能力を持っているのです! その代償の呪いは大変きついものですが…
戦闘において厳しいのは、戦闘前に無駄なことばっかり喋ってくるいやがらせのような敵。何とか回避する方法を見出さなくてはいけません。こうした敵に笑わされたり、無駄な文字にイライラしたり、なんとか回避して進めないか探索してみたりと、試行錯誤できるのが面白いですね。
ちなみに厄介なのは敵だけではありません。
1000yusha3

こういった面倒くさい奴をどう処理するか、必須なイベントやフラグをしっかりと見定める必要があります。1000文字という制限には多少の余裕はあるものの、100文字を超えるような長話はしっかりとスキップしていかないとクリアできないバランスです。フラグが立つ箇所を見つけてはセーブ時点に戻りストレートにフラグへ向かう、そんなプレイングが求められるでしょう。必須イベントだけを起こして進んでいけばクリアまで5分程度というシナリオですが、その正解ルートを見つけるために村人に聞き込みをする、怪しい場所を調べる、そうした作業を楽しめる方にはぴったりです。シナリオ進行にかかわる情報は、台詞内で目立つようにオレンジ色に着色されているので、ゲームの難易度としては高くありません。

ちなみに私が考えたところでは、魔王討伐後に姫に会う場面で216文字残しが最高値かなと思うのですがどうでしょうか。まだ削れる文字数があるよっていう方は教えてください。


さて、本作では呪いを解いて文字数制限を撤廃したモードで思う存分人に話しかけることもできます。このモードへの入り方は、一回通常モードでクリアするとわかるので頑張ってクリア目指してください。2回話しかけると台詞が変わっている人も結構います。彼らが何をしゃべるかは、クリア後のお楽しみですね。
また、最後のシーンがちょっと変わる程度ではありますが、本作は一応マルチエンディングになっています。どこで分岐するのかは比較的わかりやすいと思うので、ぜひ全パターン試してみてください。


今回は「1000文字勇者」のご紹介でした。お約束を逆手に取ったメタな話に笑える方、RPGのフラグ管理がいつも気になってしまう方、ダンジョンでは外れの方の分かれ道まで全て探索してしまう方にお勧めです。最後にこのゲームの本質を伝えるスクリーンショットをお見せしますね。
1000yusha4

…ということです。それでは。

↑このページのトップヘ