フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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コメディ

こんにちは。今回はぷらちなクリエイティブさんの「そのサークル、地雷ですよ?」をご紹介します。

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★favo
ジャンル:同人活動の光と闇をコメディタッチで描くノベルゲーム
プレイ時間:4時間
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2019/5
備考:ティラノゲームフェス2019準グランプリ作品


前回の2周年記事で触れた作品ですね。あれだけべた褒めしておきながらレビューしていなかったので記事に書くことにしました。
先週書いた通り、本作は3年前にティラノゲームフェス参加作の中から適当に作品を探していた時にたまたま見つけた作品です。めちゃくちゃ面白かったのに当時コメントが一つしかついておらず、多くの人に知られないのはもったいない作品だなあと思ったのはよく覚えています。というわけで今回は絶賛するだけの記事となります。


まずはあらすじを簡単に説明しましょう。主人公の緋色(ひいろ)は絵を描くのが大好きな高校3年生。将来はイラストレーターとして仕事をしたいと考えています。しかし母親がそれに大反対。勉強をして進学するように言ってくるので毎日のように喧嘩。そんな母親を説得するために、妹の黒亜(くろあ)と相談して考えた作戦は、1年以内に同人活動で目に見える成果を作って説得材料にしようというもの。早速同人サークル探しに励む緋色であったが、彼女が見つけるサークルは毎回地雷なのであった……。




私がブログを始めてすぐの時に、レビューについてという記事を書きました。そこで、最近のフリーゲームは商業ものと見まがうようなクオリティーの高いものが多くあるけれども、フリーゲームらしい粗削りで尖った、あるいは同人でなければ表現しえないものにも強く惹かれるという風に書きました。本作はまさに"フリーゲームらしさ"という点で満点だと思うのです。細かく見たらいろいろツッコむべきところはあるし、もし本作がコンシューマで発売されたら私もなんか違うなと思うでしょうし、バグ多すぎなどと酷評すらされるかもしれませんが、本作にはそれを補って余りあるフリーゲームらしさ、同人制作の魅力が詰まっているでしょう。この手作り感、キャラクターへの愛、そして自サークルで起こったアクシデントさえ作品に取り込んでコンテンツとして昇華させる強かさ。これが満点以外に何点を付けられるでしょう。


具体的な内容について書いていきましょう。
本作の良かったところの1つとして、魅力的な登場人物たちが挙げられるでしょう。
主人公の直井緋色はいわゆる天然。お勉強は苦手だけれども、小さいころから夢だったイラストレーターになるために色々と努力を重ねているいい子です。しかし天然ゆえ、努力が空回りしたり方向が間違っていることもしばしば。同人活動で実績を上げようとサークルを探しては加入してみるものの、揉めたり自然消滅したりといったことを繰り返し、進路を考えるぎりぎりの高校3年生になってしまいます。
そんな緋色が助けを求めたのが妹の黒亜。しっかり者のキャラクターで、同人活動では声優として一定の成功を残し、なんと芸能事務所への所属も決まっています。実力に加えて同人サークルをうまく運営するためのコツも緋色より詳しいようです。そんな彼女は毒舌キャラ。緋色のことは「アホ姉」呼ばわり。サークルの選び方から変えないと成功は見込めないときっぱり言い捨てますがツンデレ属性も持ち合わせているので結局は姉と一緒にサークル加入までしてしまう優しい子なのでした。
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メインはこの2人ですが、プロローグや章間で登場するお母さんも相当の曲者です。
イラストレーターになるの1点張りの緋色に対して、そんなの無理だからおとなしく勉強して大学に行きなさいと毎日バトルを繰り返しています。緋色が返事をしないと泣き落としもするし、脅迫まがいのこともするある意味本作中最強の人物です。緋色(と黒亜)はそんなお母さんを説得するためにどうしても1年以内に同人活動で実績を上げなくてはならないのです。



さて、本作のメイン部分は5章構成になっています。各章で緋色と黒亜は同人サークルに加入していきますが、なぜかどこに入ってもトラブル続き。問題を解決するために、というよりは一癖も二癖もあるサークルメンバーたちを説得するために奔走する分かりやすい構成になっています。

1章では歌い手サークル"怨恨のレクイエム"にイラストレーター・ナレーターとして加わることになった緋色と黒亜。メールの返信などは丁寧で問題なさそうなサークルですが、2回も通話してみるとこのサークルの抱える問題がプレイヤーにも伝わってきます。
そう、どう考えてもサークルの代表・ボーカルである"漆黒の誰彼"とミックス担当の"アイスターちゃん"が親密すぎて他のメンバーとの温度差がひどいのです。それだけならまだしも、(名前から想像できる通り)漆黒の誰彼はかなりの中二病。そしてこだわりが非常に強いタイプ。話し合いをするにしてもアイスターちゃんが絶対的な味方となってしまうため、他人の意見が耳に入らないその性質が助長されていたのです。

しかし緋色はそのヤバさに全く気付く様子がありません。この様子では確かにいろいろなサークルでトラブルに巻き込まれても気付かなそうだな~と若干気の毒になってしまいます。そこで毒舌黒亜の出番。緋色を地雷サークルの沼から引き抜くためには、そのサークルが地雷である証拠を集め、メンバーの反感をできるだけ買わないように問題点をズバリ指摘する必要があります。黒亜の毒舌は姉だけでなく他のサークルメンバーにも炸裂。ボケ担当(?)のサークルメンバーと黒亜のやり取りが大変勢いがよく本当に笑ってしまいます。そして険悪になりそうなときにはちゃんと緋色が黒亜にストップをかけてくれるので安心。
この「立証パート」がスムーズに進むかどうかはプレイヤーの選択次第。一定回数ミスするとメンバーの怒りが爆発してゲームオーバーとなってしまいます。セーブは分けておきましょう。

立証パートを初見でクリアするのはやや難しいくらいの難易度でしょう。会話中に数回ツッコミチャンスが来るので適切なタイミングで待ったをかけ、その発言が信頼できない証拠を突き付けましょう。
(やったことないので分からないんですが、逆転裁判ってこんな感じですか?)

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↑立証パート中。発言に突っ込むかスルーするかを選択します


無事に怨恨のレクイエムでのトラブルを解決した2人はまた新たなサークルを求めて掲示板を眺める日々を過ごすのですが、この章間ですら息をつかせる間もなく笑いのネタが降ってきます。
まずは何としても勉強をさせたいお母さんとのバトル。問題集を進めるか針を飲むかを選ばせるなどやりたい放題。サークルの”地雷”たちには毒舌全開の黒亜にもお母さんは手に負えないのでした。3章の後の心理学バトルが大好きです。
そして次回予告や自由通話パートも見逃せません。
「擬人化したマヨネーズ」「おち〇ちんクーデター」のパワーワードが強烈に脳裏に焼き付いています。(※下ネタが多いわけじゃないです)



2章以降もそれぞれ同人サークルに入ってみるは良いものの地雷続き。毎度サークル員の濃さに驚き、黒亜の毒舌のバラエティーに笑い、緋色のさりげないフォローとひたむきな姿勢に癒されながら物語は進んでいきます。


オタサーの姫問題であったり、自分の設定を押し通そうとする人をどうやって説得するか、そのうえで趣味としての同人活動を楽しく続けていくにはどうするのか、といった問題が、同人制作活動をしたことのない私にもわかりやすく、かつ共感しやすい形でたくさん登場します。このあたりの内容は、本作がフリーゲームとして制作され、公開されているからこそ説得力を持つ部分でしょう。後書きまで読めばわかりますが、本作を作るにあたって作者のぷらちなクリエイティブさんの中でも問題が発生していたようです。ボイス付きとなっている本作ですが、ゲーム制作中にまさかの事態に。それを作中のネタに盛り込み、人も足りない中、良い作品を作ろうと努力し完成・公開にこぎつけた作者さんの汗の結晶がはっきりと読み取れます。私がフリーゲームをプレイしていて最も嬉しいのはこのような瞬間なのです。




物語は5章で最終章を迎えます。前後編に分かれたこの最終章がまた熱くて良いんです。
最終章では、数字にしか興味がないサークルリーダー、ユーキとの対決という構図になっています。サークルのメンバーに一切の興味がなく、駒としか思っていないユーキですが、実力はありプロとのコネクションもあります。実の妹ですら作品制作のための歯車としか思っていない様子はいかにもな悪役ですが、実力と人脈を兼ね備えた彼女にゲームコンテストで勝つのは容易ではありません。ユーキの妹でサウンドクリエイターのココロと一緒に良い作品を完成させることを誓う緋色と黒亜。しかしイラスト・サウンド・ボイス担当だけいてもゲームは完成させられません。そこで、4章までに加入してきた同人サークルの知り合いに協力を仰ぎます。この流れが本当に魅力的。

これまでのサークルを散々「地雷」と酷評し毒舌をかましてきた黒亜ですが、人当たりも良くて情熱もある緋色のおかげで個人的に仲良くなれたメンバーが何人もいます。彼らを集めてプロクリエイターとの対決に挑む。まさに少年漫画のような友情・努力・情熱の展開で大変気持ちいい。
メンバー集めまでの段階ではこれまでと変わらないコメディ路線で大いに笑えるのですが、制作に取り掛かってからは本当にシリアスに、真剣に良い作品を作るために議論を戦わせ、コンテストで受賞するために作る、その先にあるプロへの道を目指すという内容が描かれるのです。



物語の前半ではいやいや姉に付き合わされて活動していた黒亜も、ここまで来たら本当に良い作品を作って実績を出す・ユーキを見返すということに熱意を感じる活躍ぶり。
「ヒーローはお姉ちゃんにしかできないんだ。だから私は、ダークヒーローになってやる。」
この覚悟を感じる台詞がとても好きです。

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最終的に8人にまで膨らんだサークルメンバー。それぞれの章でしっかりとキャラクターの性格や同人活動への姿勢、抱えていた問題点などを描いていたおかげで、最終章で全員集合しても誰一人キャラとして死んでいません。ただの天然に見える緋色も実は人を観察する能力に長けており、このサークルメンバーでどう役割分担をし、制作進行を行えばスムーズな完成が望めるかを的確に指摘。個性の強いメンバーを扱いやすいように王道に持っていくのではなく、彼らの作りたいもの、内に秘めた野望を解放させたうえで上手いこと全体のバランスをとっていきます。こんなフリーゲームができたら最高でしょう。緋色たちが完成させるノベルゲーム"サクナロク"を本当にプレイしたくなりました。

彼らが語る創作論やゲームを完成させる上での注意点なんかは、本当に作者さんが経験したり日々考えたりしていることなのだろうなというのを強く感じさせてくれます。ここも私が本作を大好きな理由の一つです。


本作をプレイしていてどうしても直してほしいと思うのは1点だけ。ノベコレのコメントにも書きましたが動作の安定性が低いところです。特に幕間で操作が効かなくなって再起動を余儀なくされることが何度か。特に2章の立証パート後のタイミングで何度やっても止まってしまい、一時はプレイ続行をあきらめようかと思いました。しかしとても良い作品だという予感がすでにあったためどうにかして続きをできないかと試行錯誤するうちに、マウスホイールクリックによるメニュー呼び出しは効くことに気付き、そこからメッセージスキップ選択で進むことができました。同様の現象に見舞われた方は参考にしてください。




目を見張るほどの美しいイラストがあったりとか、緻密に構成された伏線があったりするタイプの作品ではなく、ぱっと見で多くの人を呼び込める作品ではないのかもしれませんが、私の心にめちゃくちゃ深く突き刺さった作品です。今まで何かを作った経験はないけれど、同人制作楽しそうだな、いいなあと思える大変温かい内容と感動的なエンディング、そしてたっぷりの笑いを楽しめます。埋もれてしまうのはもったいない傑作だと思っているので、ぜひプレイしてみてください。
裏タイトル画面から読める後書きも大好きなので、プレイ後はそちらもお忘れなく!

それでは。

こんにちは。今回は一限はやめさんの「ホラー大好きヒミカさん」をご紹介します。

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ジャンル:ホラーゲームあるあるネタ風コメディ
プレイ時間:45分
分岐:なし(後述)
ツール:RPGツクール(要RTP)
リリース:2020/4

今回ご紹介する作品は、上のタイトル画面のスクリーンショットやそこでのBGMは全力でホラーと主張していますが、中身としては日常ギャグ系となっています。

本作は、ほぼすべてが主人公の陽菜と友達のひみかが部屋でおしゃべりしている場面で構成されています。タイトルから分かる通りひみかはかなりのホラーゲームやオカルト系マニアの大学2年生。ホラーゲームにありがちな状況や台詞の引き出しが異常に多く、超ハイテンポでネタを放出します。対する陽菜は比較的普通の子でツッコミ役。あっちこっちに話が飛ぶひみかを毎回軌道修正して話を進めてくれます。しかしたまにひみかのフリにのっていくことも。そんな2人のやり取りを見ながら、あるある~~といったり、そんなのねーよとツッコんだりするのが本作の楽しみ方の一つになります。


さて、本作には地の文だったり、ナレーション役といったものは存在しませんが、ショートコントのタイトルのような感じで数分くらいの間隔で暗転とタイトルアナウンスが入ります。とはいっても登場人物も場所も変わらないのですが、この仕組みで話の切り替わりがわかりやすくなっています。ずっと同じ2人が話すだけではそのあたりがあいまいになったり、息をつく暇がなくなりますからこれはいい構成だなと感じます。ちなみに、その場面転換の間でのみセーブが可能になっています。

まず最初は「怖い話」。ストレートですが、怪談って人気ですよね。私は怪談やホラーが特別好きというわけではありませんが、ゲームをやっているとよく出会うジャンルということもあり、有名なものは結構知っているつもりです。
しかし本作では当然ながら正面から怪談について語ったりはしません。
「1日3食をすべてお菓子の「じがりこ」で過ごした話」
から始まり、
「田舎に残る怖い風習」
というまさによくある風の怪談が始まるかと思いきや
「女子間の、されるのがわかりきった「サプライズ」のし合いの方が怖い風習」
と一刀両断。この急カーブで笑えるならば本作を最初から最後まで余すところなく楽しめるでしょう。
「何でも田舎のせいにするな」との主張、心得ました。

そんな感じでホラーや怪談を題材にしつつも様々な方向に振れた話題を楽しめる本作ですが、メタな話題も結構含まれます。本作のシナリオがゲームという媒体で紡がれることからもそれは必然かもしれませんね。
先ほどの話で、「地元が田舎って、どの辺?」という振りに対し、「かなりの田舎と言ってしまった以上、傷つく人がいるかもしれないので具体的な地名は出さない」は流石です。「視聴率」発言も笑いました。確かにそうかも。

ひみかはかなりマイペースな性格で、同じお題に対して陽菜があきれるほど多くの例を挙げたり、逆にいつの間にか話題が変わっていたりします。そしてどんどんホラーとは関係ないテーマに進んで行ったりもします。”ホラー大好き"というのはひみかさんの趣味に関する話であって、本作全体のテーマというわけではないのです。軽めの下ネタもけっこうあります。かなり自由にいろいろな話題に飛ぶので、ホラーの話という導入から離れて女子会をのぞき見しているような気分すら味わえるかもしれません。

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さらには突然の水着シーンあり。その後に1度だけある選択肢によっては以後がすべて水着での会話になっており、一気にツッコミどころが倍増して楽しいですよ。立ち絵と一部の会話が変わるくらいで、シナリオに影響はありません。

また、上のような2人の駄弁りだけでなく、本作には時折前触れなしに「なりきりコーナー」が挿入されます。アルバイトの接客ごっこだったり、ゲーム内でよくあるシチュエーションごっこだったり、実在作品のオマージュだったりと様々。私は「探偵」での陽菜のスピード感あるツッコミが好きです。
なりきりコーナー中は、結構シリアスな場面もあったりします。ファンタジー系のゲームやアニメでめちゃくちゃありそうなシーンで、これも結構面白かったです。ひみかの方は相当な変わり者なのでよくわからないですが、陽菜も割とノリノリでこの遊びに付き合っているのを見ると、仲良くていいな~と思いますね。説明なしで寸劇が出来上がっていて、以心伝心している感じがすごい。
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しかし立ち絵の表情と場面の悲壮さがかみ合ってなかったりする。これは、全編を通してコメディ調である本作の味ですね。しかもその直後に(以前の選択によっては)何事もなかったかのように水着で登場するので、シュールさが加速してます。


最後に、私が好きだったネタを3つ挙げましょう。
  • 飲み会の断り方
  • そのやり方は……確かに効果的かもしれないけどいろいろ大事なものを失いそう。少なくとも私はやりたくないなあ。陽菜の感想ももっともだし。
  • テレビをつけたら…
  • 私が実際に友達の家に行ってテレビをつけてそんな感じだったらかなりビビる。しばらくは微妙な空気になりそう。
  • 名前の読みがな
  • レビュー内でルビを振らないようにしましたが、陽菜は"ハルナ"です。作内ではあだ名などから読みを判断できるとはいえ”ヒナ"も一般的な読みだなと思っていたところ、それもネタにされていたのでさすがです。
というわけで「ホラー大好きヒミカさん」のご紹介でした。脱力系とでもいうのか、洗練されたギャグとはまた違った笑いが楽しめる作品です。独特の雰囲気のある作品なので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は時雨屋さんの「1000文字勇者」のご紹介です。

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ジャンル:メタネタ多めのコメディADV
プレイ時間:クリアまで30分程度
分岐:ゲームオーバーあり
ツール:RPGツクール
リリース:2016/12


今回紹介する「1000文字勇者」は、RPGの形式をとりながらRPGのお約束を逆手に取った挑戦的なシステムで謎解きゲームのようなプレイ感を生み出した、RPGと見せかけたADVのような意欲作です。

本作のシナリオというかコンセプトは単純明快。ふりーむに載っている3行の説明で十分です。

この勇者は千文字読むと爆発します。
がんばって魔王を倒しましょう。
千文字喫茶参加中。


通常私たちがRPGをプレイするとき、町で出会った人にはとりあえず話しかけることが多いはずですし、それがセオリーでもあります。ただの村人からでも、戦闘のアドバイスとか、隠しアイテムのありかのヒントとか、イベント進行フラグとかの情報が得られたりしますよね。「装備品はメニューから装備しないと効果を発揮しないよ」と教えてくれる人とかはどのゲームを見ても最初のほうの町に住んでいる気がします。
ところが本作はなんと主人公が1000文字読む(メッセージウィンドウに表示される)と爆発する呪いがかかっていて、強制的にゲームオーバーになってしまいます。当然、全部の村人に話しかけている余裕なんてありません。とりあえず初回プレイでは手当たり次第に話しかけていくしかありませんが、これではクリアできるわけはありません。話しかけて得られた反応からイベント進行に必須な人を判別し、極力無駄を排して話を進める必要がある、まるで謎解きゲームのような内容になっています。


本作はRPGでもあるので、戦闘シーンもあります。しかしまともに戦っては容易に文字数制限をオーバーしてしまうので、なんと勇者はどんな敵でもワンパンで倒せる能力を持っているのです! その代償の呪いは大変きついものですが…
戦闘において厳しいのは、戦闘前に無駄なことばっかり喋ってくるいやがらせのような敵。何とか回避する方法を見出さなくてはいけません。こうした敵に笑わされたり、無駄な文字にイライラしたり、なんとか回避して進めないか探索してみたりと、試行錯誤できるのが面白いですね。
ちなみに厄介なのは敵だけではありません。
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こういった面倒くさい奴をどう処理するか、必須なイベントやフラグをしっかりと見定める必要があります。1000文字という制限には多少の余裕はあるものの、100文字を超えるような長話はしっかりとスキップしていかないとクリアできないバランスです。フラグが立つ箇所を見つけてはセーブ時点に戻りストレートにフラグへ向かう、そんなプレイングが求められるでしょう。必須イベントだけを起こして進んでいけばクリアまで5分程度というシナリオですが、その正解ルートを見つけるために村人に聞き込みをする、怪しい場所を調べる、そうした作業を楽しめる方にはぴったりです。シナリオ進行にかかわる情報は、台詞内で目立つようにオレンジ色に着色されているので、ゲームの難易度としては高くありません。

ちなみに私が考えたところでは、魔王討伐後に姫に会う場面で216文字残しが最高値かなと思うのですがどうでしょうか。まだ削れる文字数があるよっていう方は教えてください。


さて、本作では呪いを解いて文字数制限を撤廃したモードで思う存分人に話しかけることもできます。このモードへの入り方は、一回通常モードでクリアするとわかるので頑張ってクリア目指してください。2回話しかけると台詞が変わっている人も結構います。彼らが何をしゃべるかは、クリア後のお楽しみですね。
また、最後のシーンがちょっと変わる程度ではありますが、本作は一応マルチエンディングになっています。どこで分岐するのかは比較的わかりやすいと思うので、ぜひ全パターン試してみてください。


今回は「1000文字勇者」のご紹介でした。お約束を逆手に取ったメタな話に笑える方、RPGのフラグ管理がいつも気になってしまう方、ダンジョンでは外れの方の分かれ道まで全て探索してしまう方にお勧めです。最後にこのゲームの本質を伝えるスクリーンショットをお見せしますね。
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…ということです。それでは。

こんにちは。今回は、HACKMOCKさんの「ロイヤルベルを鳴らして」のご紹介です。

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ジャンル:洋風ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:1ルート30分程度。フルコンプまで1時間半
分岐:3人の攻略対象ごとに複数+ノーマルエンド
ツール:吉里吉里
リリース:2012/2


さて、まずは本作のあらすじを簡単にご紹介しましょう。主人公のユーリ(名前変更可)はヴィンボーナ王国の王女。しかし国が貧しいため贅沢はできず、庶民的な暮らしをしている。緊張すると頭の中が真っ白になってとんでもないことを口走ってしまうというおっちょこちょいな面があり、国民からも親しまれている。父親のヴィンボーナ王は何とか国を豊かにするために、隣国のカネモティアの2人の王子のどちらかと政略結婚させたいと思案し、王子の別荘に忍び込んでアプローチをかけるよう指示するのだが……

いきなりですが本作の魅力は一つ。ユーリが可愛い! そして面白い! これに尽きます。本当にかわいいんですよ。やってみてください。

…これではレビューにならないんでもう少し真面目に話しますね。
本作の冒頭は、ぎっくり腰になった父の代わりにユーリがカネモティア王子の誕生パーティーに出席している場面から始まります。公務の場に慣れていないユーリは緊張しまくり。カネモティア第一王子のアルト様がかっこいいな~と思っていたが、実際に話しかけられるとまともなことは何一つしゃべれず、「ミドリムシの生まれ変わりなので光合成しなきゃいけない」などと意味不明な言い訳を残しその場から逃げてしまいます。この時のユーリの表情がすごい。酔っぱらってもこうはならんだろというくらい真っ赤で可愛いんですよ。そしてころころと表情を変えるので見た目にも楽しい。この表情差分の数も魅力ですね。
創作の世界でよく"アホの子"というのがありますが、ユーリの場合はそれとはちょっと違って、自分のしでかした言動が常識に照らして突拍子もなさすぎるということには気づいているので、そのことについて恥じているシーンが多いんです。だからこそ笑えるだけの作品ではなく、思わずユーリを応援したくなるような、そんな物語に引き込まれる作品に仕上がっているように感じます。

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さて、本作には3人の攻略対象がいます。冒頭のシーンでも登場するカネモティア王子のアルト様、その弟のアキバル様、そして自国の大臣のセナです。それぞれ分類するなら、アルトは乙女ゲームの王道的ルート、アキバルは変わり者・癖のあるルート、セナは幼馴染ルートといえるでしょう。ちなみに個別ルートに入れなかったノーマルエンドもあります。これらのルートがそろって乙女ゲームとしてのバランスという意味でもよくできているでしょう。

これらのルートの中で私が好きなものを挙げるとしたら、なんといってもアルト様ルートでしょう。この王道な感じがたまらない。
アルト様は公の場では品行方正で美しい立ち居振る舞いで多くの女性から大人気なわけですが、会話を重ねるにつれ素の彼は俺様タイプだったことがわかります。そんな彼がどうしてユーリに気を許すのか、そのあたりもきちんと描かれているんですよね。恋愛ゲームに関してこの"なぜお互いが惹かれ合うのか"ってめちゃくちゃ大事な要素ですよね。そこのツボをしっかり押さえています。そしてユーリの行動は相変わらず。恋愛もコメディーもどちらもたっぷり味わえます。ぐいぐいくるアルト様に、ユーリだけでなく私まで心ときめかせてしまいました。そしてEND2のエンディングタイトル。ここまでの流れが本当にうまい。ユーリの「貧乏神」発言を生かしたこの展開にはうならされました。

ちなみにアルト様ルートはもう一つ、END1もあります。END2とはかなり温度差があるのですが、アルトもユーリも先ほどのエンディングと別人な感じはしないんですよね。たまにエンディングによって同一人物なのにキャラ違うだろ! と言いたくなるような作品もあったりするのですが、本作ではアルトとユーリの気持ちの動きがしっかりと表現されているので、どんな結末にも納得感があります。甘さたっぷりで乙女ゲームとしての魅力満点なのはやはりEND2かと思いますが、こちらの分岐も存在することで成就したときの幸せをよりかみしめられるような気がします。
もちろん、アキバルやセナのルートも乙女ゲームとしての魅力、コメディとしての魅力が詰まってます。

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本編をすべて読み終わったら、ぜひEXTRAからおまけを読んでみてください。後日談や人物設定などのおまけがたっぷりあるのもプレイしていて満足感がありますね。ちなみにこの後日談ではセナルートが好きです。おとなしい感じだったセナがあんなに堂々としているのを見ればかっこいいという感想を抱かずにはいられません。また、2人の王子とは違ってセナにはユーリとのこれまでの積み重ねがありますからね。その部分がしっかり感じられてよかったです。


というわけで今回は「ロイヤルベルを鳴らして」のご紹介でした。ユーリの突飛な行動に笑いながらも乙女ゲームならではの甘いどきどきを味わえる作品で、普段乙女ゲームをプレイしない方にもお勧めできると思います。ぜひプレイしてください。

それでは。

こんにちは。今回は、劇団kolmeさんの女子トイレの殺人をご紹介します。

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ジャンル:ミステリー風コメディノベルゲーム
プレイ時間:1時間
分岐:あり。GoodEnd4、BadEnd4
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2017/8


先週、しゃん子channelというYouTubeチャンネルでフリーゲームCMコレクションという企画があり、私はそこで様々なフリーゲームのPVを見て楽しんでいました。内容盛りだくさんでクオリティの高いPVが勢ぞろいだったので、見てない人はぜひ見てみてくださいね。きっと気になる作品が見つかるはずです。
その配信の中で出た発言「フリゲは性癖博覧会」の印象が強烈でよく覚えています。実際、いろいろなフリーゲームを探していると、一歩引いてみれば変態だなあと思うような作品がかなりあることに気付きます。商業作と違って作者のさじ加減でいくらでも好きなものを詰め込めるのがフリーゲームのいいところの一つだと私も思っているので、こうした作品の中にはフリーゲームらしい良作があるだろうと思い、よくプレイしています。
さて、変態なフリーゲームは数あれど、その方向性は2つに分けられると思っています。一つは登場人物が変態な作品。もう一つは設定が変態な作品です。今回ご紹介する「女子トイレの殺人」は前者の方向性で最強だと思っています。大変強烈なキャラクターが次々登場し、登場人物の変態性という意味でこれを超える作品は見たことがありません。トイレという単語以外の下ネタなしでここまで濃い嗜好を表現することが可能なのかと驚愕させられます。


では、作品内容の紹介に移りましょう。本作のプロローグは次の一文で始まります。
「それは、俺が女子トイレの個室から出た瞬間のことだった。」
お前は男か?と初っ端からツッコみたくなりますが、先に進みましょう。主人公の助士怜人(女子トイレのアナグラムですね。無論男)は女子トイレが大好きという大変特殊な性癖の持ち主。彼曰く、人が用を足しているのを覗いたりすることに興味があるのではなく、純粋に女子トイレという空間を愛しているらしい(理解できない)。彼がいつものように公園の女子トイレから出てくるとそこには頭から血を流した男の死体が! その場に居合わせたトイレ利用客の奥竹葵("ブルーレットおくだけ"かな?)、梨木かおる(りきかおる。消臭力のことでしょう)に殺人の疑いをかけられる。しかし身に覚えのない怜人はひとまず通報はせず、この事件の犯人を当てる推理対決をすることを提案する。どうやらそれぞれ後ろめたい要素のあるらしい2人はそれに同意。かくして社会的な生存を賭けた推理バトルが始まるのであった……

本作のうまいところの一つは、"社会的死を回避せよ"という宣伝文句にもある通り、登場人物にそれぞれ公にしたくない趣味があって、それを隠しておくためには警察からの取り調べを回避したいという利害の一致があるところでしょう。この変わった着眼点にまずなるほどと思わされました。
そしてその隠しておきたい趣味がものすごく濃い! 怜人の女子トイレ(という空間)好きも理解しがたいですが、葵の趣味もそれに負けないくらい理解不能なものです(まあ世界は広いから探せば同じようなことしてる人もいたりするのかな?)。かおるの趣味はそれらに比べたらだいぶ理解しやすいでしょう(それでも公言しにくいという点では同じかと思いますが)。そして怜人に「(キャラが)薄い!」と理不尽にツッコまれる。このあたりのツッコミもスピード感があっていいですね。

さて、本作にはもう一人強烈かつ重要な登場人物がいます。怜人のストーカーという流川乙姫(るかわおとひめ。水音出すやつですね…)です。彼女の変態さも相当なものですが、それに目覚めるきっかけとなった出来事も描かれるのが良いです。変態って、あれだけ堂々として開き直ってると人を救うこともあるんだなという謎の感動(?)に包まれました。

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本作のギャグはとにかく言葉のパワーが強すぎるんです。上の画像での「イノセント変質者」はその筆頭。他人の言い逃れを見破る術(を知っている理由)、「変態のサラブレッド」、「それ以来学校の女子トイレは出禁になってしまった」などなど…。しかも、これらのギャグとして登場したセリフが推理をする際に伏線として再度登場したりするなど、非常に芸が細かいです。

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そんなとんでもないメンバーで繰り広げられる推理バトルですが、推理部分も意外としっかりしているのも高得点です。ただのトンデモコメディーと見せかけながらしっかりとロジックが通っており、笑えるだけでなく印象に残る話になっているように感じます。また、一人の優秀な探偵役が事件の全貌を明らかにする、というタイプのミステリーではなく、その場にいる全員が協力して、時には他の探偵役の証言の不自然さを指摘しながら推理をするという形で進んでいくのですが、こういった作品は珍しいんじゃないでしょうか。
しかしそんな推理を披露するのは常人には理解不能の変態たち。ノリノリで自身の特殊性癖を暴露した人が、次の瞬間には冷静に相手の議論の穴をつく、そんなシュールさも本作の特徴でしょう。

本作がロジックの面で非常に特徴的なのは、一つの真実が用意されているわけではないというところでしょう。作中ではミステリー定番の犯人指摘シーンがあります。ここで4つのエンディングに分岐するのですが、なんと誰を犯人としてもそこそこ筋の通った論理が組み立てられ、違和感のない結論に至るのです。これは他の作品にはない珍しい仕様ではないでしょうか。それぞれのエンディングでは犯人や動機は異なれど同じようなコメディー展開が待ち構えており、まったくブレません。葵ルートだけはちょっと異質でしょうか。
ちなみに私が一番好きなルートは乙姫ルートです。さっきまで決死の犯人あてバトルをしていた変態たちが、共通の敵の出現を見て一致団結する展開と、そのあとで怜人が勝ち誇るシーンにハマりました。

さて、プレイしていて気になった点も少々あります。
一つは人物の名前もわからない段階で現場見取り図に全員の名前が書かれているところです。単純に「誰?(どっち?)」となりますし、この図は誰が書いてるんだろう、とかも気になってしまいます。あと、身長180cmは中肉中背というのだろうかとか、そこは"言及"ではなく"追及"じゃないだろうかとか、そのあたりの言葉遣いや誤字脱字も多めかなと感じます。
UI面でももう少しプレイしやすくなっていたらよかったなと思うところがあります。具体的にはバックログが非常に読みづらいです。また、1ページ分しかさかのぼれません。ボタンがトイレットペーパーになっているなどの工夫は独特で良いと思います。

さて、今回は強烈な作品の紹介でしたが、トイレ以外の下ネタは本当になく、そこまでお下品でないのでコメディー好きの方なら広く楽しめると思います。ちなみに蛇足ですが、ふりーむ!で「トイレ」でゲーム検索したら70件もヒットしてびっくりしました。みんなトイレ大好きですね(笑)

それでは。

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