フリーゲームの森

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コメディ

今回は、ENTRANCE SOFTさんのおみコン!をご紹介します。タイトルで検索すると、お見合い関連のサービスばっかり出てきますが、本作の"おみ”はお見合いではなくてお見舞いの意味ですね。

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★favo
ジャンル:病院コメディ系(?)ノベルゲーム
プレイ時間:3時間半
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2011/9


本作は、簡単に言うと個性的なキャラクターたちの掛け合いが楽しめる長編コメディです。
主人公の宮下圭吾はこれからの高校生活に夢を膨らませる新入生。しかし下校中になぜか気絶してしまった圭吾は"妹のようなもの"の由菜に「変態だから入院させる」というトンデモな理由で強制的に入院させられ、実質監禁状態になってしまいます。そこで毎日診察(?)に来る医師の希沙やお見舞い(?)に来る由菜たちとの嚙み合わないやりとりや、なんとか脱出しようと画策する圭吾の様子を眺めて楽しむ典型的なコメディになっています。

本作でまず特徴的なのは、登場人物たちのキャラの濃さです。やっぱりインパクトがある人物だと、その日常も楽しくなりますね。主人公の圭吾はかわいそうなツッコミ役(この手のシナリオの作品では主人公がツッコミになるのはお約束ですね)。そして変態(と由菜に宣言される)。由菜は圭吾の"妹のようなもの"で、同居もしている。最初は意味が分かりませんでしたが、途中で挿入される回想でその経緯が明らかになります。こういう演出、いいですよね。圭吾を身体的に拘束して入院させることからも分かる通りいわゆるジコチューな性格。メイドの伊織は極度の人見知り。しかし明らかに圭吾へ好意を持っていて、ラブコメ的展開もあります。友人の凛は中二病で不登校。だが成績は良い。学校には行きたがらないが健気なところがあり、圭吾のことは「お兄ちゃん」と慕っている。医師の希沙は自身のことを「天才美人女医」と称する自信満々な人物。その割にティーバッグの使い方を知らないなど、常識に偏りがあるが自信は全く崩れない。
そして先輩にあたる千晶ですが、彼女だけちょっと浮いているというか、周りの濃さに比べてちょっとキャラが薄いかなと感じました。もちろん、漫才が好きで自分でもネタを考えるなど挑戦している(けど下手くそ)など、特徴はあるのですが、中盤まであまり登場しないせいもあってやはり影の薄さは否定できないかなと感じます。その中盤の登場シーンでも若干唐突感があったので、なんとか前半部分でも絡みが欲しかったかなと思います。後半で登場することで物語の重要なカギを握る人物でもあるので、前半に出てこない理由があると言えばあるのですが、圭吾のモノローグで時々思い出すなどがあったら良かったかなとは思います。また、比較的常識人キャラとして圭吾と若干キャラがかぶっているのもその原因でしょうか。圭吾とほかの人物との会話もコントじみたところがあるので、漫才が千晶の特徴づけとして弱いということもあるかもしれませんね。

さて、本作はプロローグ、1~7章、エピローグからなっています。2章までは導入に近いです。3章では凛、4章では伊織にクローズアップして、彼女らとのコントのような会話を楽しみながら、抱えている問題を解決していき距離を縮めていきます。ただ笑えるだけではなく、きちんと彼女らの抱える問題を解決するという目的があって、その過程で彼女らとの距離が縮まっていくというのがとても気持ちよく感じました。1つ1つのエピソードが良くできているんですよね。一応ネタバレにならないようにぼかしますが、特に凛がただ中二病な妄想に浸っているだけでなく、しっかりと圭吾との関係を築いているんだなと感じさせるエピソードが好きです。

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人物へのクローズアップが続いたので、5章もそうかなと思っていたら、5章以降は思いもよらなかった展開を見せます。ずっと圭吾が準備していた脱出作戦が成功するのです。ここから一転、物語はシリアスな展開を迎えます。由菜による監禁の真意、圭吾の過去などが次々と明らかになっていきます。この、笑える展開でキャラクターへの理解を深めてからのシリアス転換は私の大好物ではあるのですが、本作ではこの転換がいささか突然すぎるように思えました。前半部分で伏線を張っておくなりしたらまた印象は違ったでしょうか。シリアスな展開でありながら、会話は今まで通りのコント風だったり、由菜のわがまま全開なのも違和感の原因かもしれません。コメディの雰囲気なら多少無茶な展開でも気にせずに笑えるし、現実にこんなことはできないだろうなどと考えたりはしないのですが、やはりシリアスな話になるとそこは大切ですからね。ご都合主義だなあと一歩引いた感想が出てきてしまいました。具体的には7章で由菜がわがままを通したところが感動的に演出されるのは、ちょっと違うんじゃないかと感じました。単純に清二がとばっちりを食らっただけでかわいそうというのもありますね。

それでもコメディとして見たら十分面白いし、意外性があるという点では効果を上げているように思います。先述しましたが、圭吾とほかの人物との会話が本当に漫才やコントのように勢いがあり、ギャグも高密度で織り込まれていて、会話を眺めているだけでたくさん笑えるんですよ。アニメネタが多いので、よくアニメを見る方ならより楽しめるんじゃないでしょうか(私はアニメには明るくないので、私が気付いていないネタもあるかもしれません)。あとは、この各シーンで笑えるだけでなく、シリアスな展開まで含めて物語のつながりが良くできていれば完璧だったように思います。

細かいですがあと一つ気になったのは、立ち絵の統一感がないことです。担当された方が違ったのでしょうか。
エンドロールは大変珍しい形式で、印象に残りました。面白い試みで、とてもいいと思います。


いろいろと偉そうなことも書いてしまいましたが、favoの印をつけた通り私としてはとても楽しめた作品でした。わりと高頻度で出てくる変態ネタを楽しめる方なら、プレイして損をしない作品だと思います(とはいっても、全年齢対象だしガチの下ネタはないですよ!)。まずは作者さんサイトの作品紹介ページにあるQ&Aを読んでみてください。各キャラクターの紹介を兼ねながら小ネタもぶち込んでくる秀逸な内容だと思います。本編も大体このノリなので、ここで笑えた方なら本作にはドハマりするでしょう。

それでは。

今回は、静本はるさんのMY HOBBY IS 短編版のレビューをお送りします。


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オススメ!
ジャンル:掌編ドタバタコメディノベルゲーム
プレイ時間:5分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2016/7


初めてオススメの印をつけてご紹介するのは、爆笑必至の短編コメディ、「MY HOBBY IS 短編版」です。
本作を最初に見た時、まずはタイトル画面の勢いに驚かされました。上のスクリーンショットはクリア後のものなので若干違うのですが、読む前からワクワクさせてくれるような勢いのある点は変わりません。スクリーンショットだと動きが伝わらないのがもどかしい!

STARTボタンをクリックしてすぐに、これまた躍動感のあるイラストがテロップと共にバシッと登場。もうこの時点で私の期待と興奮は相当なレベルまで高まっていました。そしてその期待を裏切らない密度で次々に飛んでくるギャグとぶっ飛んだ展開。短編版と名前にもある通り実際にもかなり短いゲームなのですが、体感としてはほんの一瞬の間にすべてを詰め込まれて笑い転げるような感じがしました。

基本的には文字を読ませるものというノベルゲームの枠組みとドタバタアクションというジャンルはもともとあまり相性が良いものとは思えません。しかしそんなことを感じさせる間もないほど立ち絵もカットインも動くこと動くこと、まるでギャグ漫画を眺めているかのような気分になります。漫画風のコマ割りとかオノマトペの配置とかもありますし、作者さんは相当に漫画を意識されたのではないでしょうか。通常のノベルゲームではあまり見ないこの演出が、本作では非常に効果を上げています。キレのある音楽や効果音もさらに勢いを盛り上げてくれます。文章ではなくグラフィックや効果音で状況を伝えるような手法も取られ、とにかく勢いを殺さずに徹底的にテンポよく進んでいくのが本作の魅力を高めているのは間違いありません。

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本作のシナリオも、人殺しが趣味(!)というジャックが絶対に死なないし怪我もしない体質(!)のリサと出会い、殺そうと執着するというギャグ漫画にぴったりのぶっ飛び具合。後半にリサの通う高校で事件が起こるのですが、そこからの怒涛の展開とアクションシーンからはあのトムとジェリーを思い起こしました。不審者がドン引きしているシーンがお気に入りです。表情の変化も細かくて、いったいこの作品を作るのにどれだけの絵を描いたのだろうと思ってしまうほどです。かっこいい音楽と共に大量のラフ画が見られるエンドロールも魅力たっぷりです。


さて、普通に本作をプレイするだけでは気付かないかもしれない隠し要素(?)を3つご紹介しましょう。
①セリフ内に時々含まれる赤い単語をクリックすると、ちょっとしたネタが見られます(以前チェス殺人事件で紹介したのと同じシステムです)。
②背景に時々作者さんの過去作ネタが挟まってます。
③おまけはスチル閲覧とキャラ紹介だけではありませんよ。

そんな感じで大変面白く欠点も見当たらないような本作ですが、一つあげるとしたら、最後にリサが掴むバットの向き逆じゃないか?、という所でしょうか。その向きだとうまく掴めずにすっぽ抜けてしまう気が…。


ギャグ漫画なんてくだらない!という方でなければ本作を読んで損した気分になることはないでしょう。オートモードでプレイするのもお薦めです。気に入った方はぜひ作者さんサイトで公開されている2話3話(仮)をダウンロードしてプレイしながら私と一緒に完全版の公開を待ちましょう。

それでは。

今回は、今門楽々さんのギワク★ラヴァーズをご紹介します。

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ジャンル:2人の視点から見るラブコメノベルゲーム
プレイ時間:両方の視点から読んで20分程度
分岐:なし
ツール:WOLF RPGエディター
リリース:2018/5


前回はほんのり心温まる系の優しいお話でしたが、今度は王道のラブコメです。
はじめからをクリックするとまず青井明太と白銀小百合の2人から主人公を選ばされます。この2人は付き合っていてデートをするのですが、それをどちらの視点から見るかを選べるわけです。2周して両方読むことで、片方から見ただけではわからなかったもう一人の思いも分かり、2人の考えていることがちょうどすれ違っているのが笑いを誘う、ラブコメにぴったりの仕様です。クリア後に2周目をプレイすると、1周目では描写されなかったヒロインの視点も時々挿入されて物語が補完されるといった仕掛けの作品はいろいろありますが、最初からどちらの視点でもOK、しかもすべてのシーンで両方の視点が用意されているといった仕様は見たことが無く、斬新に思えました。ちなみに、私は明太視点を先に読みましたが、どちらから読んでも楽しめると思います。

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本作のあらすじは、付き合ってはいるけれどもお互いに相手の気持ちが自分に向いているか不安な明太と小百合が、相手の気持ちを確かめるためにダブルデートをするという一文で説明できます。作内の時間もほぼ1日のみの短い作品なのでやや物足りなさを感じましたが、その中でクスリと笑えるシーンがいくつもありました。明太が先輩である姫に対して失礼な口を利くところとか、殴りかかってきた連と姫が返り討ち(?)にされるところとか。そして最後。まさに"要介護夫婦"ですね。本人たちからしたら本気で悩んでいることでも、はたから見たらあまりに滑稽で笑えてしまいます。普段私はどんなバカップルを見ても微笑ましいなと感じるタイプなのですが、本作の明太と小百合に関しては「リア充爆発しろ!」と思ってしまいました(これもう死語か?)

さて、明太視点のときは、冒頭で小百合に対して不信を抱く理由が明らかになります。しかし小百合視点でははっきりしした理由がなさそうなので、何でそこまで不安になっちゃったんだろうかとやや疑問に思いましたが、全体がコメディ調なので気にせずに流してしまえる範囲でしょう。

珍しくウディタ製のノベルゲームですが、システムがしっかりとノベルゲーム用に作り込まれておりプレイするに際してストレスを感じることはありません。オートモードやスキップはもちろん、文字表示速度の変更まで可能です。

短い時間でサクッと楽しめる作品なので、ラブコメ好きの方にお薦めです。
それでは。

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