フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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ファンタジー

こんにちは。今回はcomodoさんの「お菓子の国のガトー・ソルシエ」です。

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ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:ボイスを全部聞いて1時間程度
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8


comodoさんと言えば、私は「コミュ障女子の告白」が好きでフリゲ2023で投票したりもしました。他には「美少年の下僕になりました(?)」や「陽だまりノクターン」など、いずれも乙女ゲームを作っているサークルさんというイメージだったのですが、本作はあまり恋愛要素にフォーカスは当たりません。やや意外に感じましたが本作もいい作品だったのでご紹介します。


まず軽く本作の内容をまとめておきましょう。

物語の舞台となるのはお菓子の王国、アマンディーヌ。美味しいお菓子産業が評判で主要な輸出品でもあり、まさにお菓子の国と言われるだけのことはあります。そんなアマンディーヌには通常の工程でなく、魔法によってお菓子を作り出すことのできる職人たちがいます。ガトー・ソルシエと呼ばれる彼らが作ったお菓子は単においしいだけでなく、食べた人の持つ前向きな感情を後押しするという素敵な効果があるそうです。主人公のマヤはそんな王国での王宮御用達ガトー・ソルシエ。弟のカノンやその他2名の職人と王宮内で洋菓子店を構えています。

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順風満帆かに見えたマヤですが、ある日突然スランプに陥ってしまいます。いつも通りシャルムと呼ばれる液体から魔法でクッキーを生成したのですが、おいしそうな見た目に反して全く味がしません。その日から売り物になるお菓子を全く作れなくなってしまったマヤとカノンはスランプの原因を探すことに。たどり着いた結論は、2人の複雑な過去にありました…

こんな感じでしょうか。
まず本作に関しては気になったところから書こうと思います。

全3章からなる本作ですが、第1章は世界観の説明や人物紹介のようなパートとなり、スランプの発生は第2章に入ってからとなります。ボイスを飛ばして読んだ場合30分程度の短いシナリオなのですが、そのうち最初の10分ほどで物語が動く感じがせず平坦な印象を受けました。美味しいお菓子を作れ、王宮での信頼も厚くお客さんも絶えない、そしてカノンとの関係も良好、といった流れが最初から続くと、理想的な世界でわいわい楽しくやっている様子をただ見ているだけ、というようなある種の疎外感のようなものを私は感じてしまいました。
よんひくいちは」の記事などでゲーム開始の直後の初速から面白かったと書きましたが、本作に関しては逆にスロースターターといった印象を受けました。



しかし第2章で物語が動き始めてからは一気に面白くなってきました。
冒頭で、マヤたちはお菓子を普通に作る職人ではなく、魔法で作る魔法使いなのだという説明がありました。魔法で作られたお菓子には前向きな気持ちになれるような効果も付随しているということも。
スランプの原因を調査する中で、次第に魔法の秘密であったりマヤとカノンの過去が現在につながっているのが分かり、そのあたりの設定が上手いなと感じました。

マヤはかなりカノンに依存しているように見えますが、第1章の段階でその理由は明らかにされません。私はその部分をつまらなく、あるいは不自然に感じてしまったわけですが、2人の過去を知るとやむを得ないというかむしろ当然のように思えます。

また、2人が試行錯誤を重ねる間に何回か回想シーンが挿入されます。この使い方が上手かったように感じます。試しにマヤ1人でクッキーを作って失敗したとき。出来上がったのは見た目もおいしそうで甘いクッキー。事情を知らない私が見るとこれがなぜ失敗なのか分かりません。しかしここでマヤの過去が明らかになることによって、ゲーム開始直後のショッキングなシーンの意味を理解することができる構成となっていたのです。もちろん、作ったクッキーが失敗である理由も一緒に。

第1章が平坦だとは先に述べましたが、冒頭にこの一見意味が分からない悲しいシーンを持ってきたのは、作品全体でメリハリをつける意味でも成功なんじゃないかなと思います。

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食べた人の前向きな気持ちを後押しするという設定も良く活きているんですよね。
こんなお菓子だったからこそ勇気を出してスランプの原因追究に臨めたというのもありますし、後押しすべき感情もない状態からは魔法でどうしようもなかったりといった説明が自然です。そしてそもそも魔法でお菓子を作ることの根幹にかかわってくるんですよね。なるほどと思いました。



問題が解決する段になって、私が第1章の頃に感じていたマヤとカノンの不自然な共依存関係にもメスが当てられます。2人で協力してお菓子を作ってきたことは事実だけれど、それゆえに一人では何もできないとか、相手にどこかに行かれてしまうんじゃないかという強迫観念みたいなものは捨てた方が良いんですよね。2人がお互いを見つめ合っているだけでなく、同じ方向を向いて進んでいけるようなエンディングに私の心も温かくなりました。


そしてエンドロール後のエピローグ。上の方で恋愛要素は薄めですなんて書いちゃいましたがここにきての糖度アップ。油断してたのでびっくりしちゃいました。カノンくん意外と積極的なのね。
本作に関してはボイスも付いていますから破壊力は強いです。

ボイスと言えばcomodoさんの作品ではお馴染みですが、クリア後のおまけ画面から短い前日談・後日談のほかにキャストトークが聞けます。やっぱり声優さんってすごいなあと感じられるのでクリアした後はぜひ聞いてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はりっとさんの「スノードームは夢を見るか?」のレビューです。

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ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:Live Maker
リリース:2015/3


本作は実は同作者の前作「snow date」の続編となっているので、前作を先にプレイするのが推奨されています。「snow date」は10分から15分程度の短い作品なので手軽に読めるでしょう。

「snow date」では、「この世界はスノードームの中なのよ」という印象的だけれども単体で意味の分からない台詞が出てきます。本作は同じ世界観の中で、この台詞がどういう意味だったのかが次第に明らかとなっていくお話と言えるでしょう。


さて、本作の主人公の少女は非常に癖の強い人物です。ある雪の日、町でこれまた素直じゃなくてややこしい男の子とぶつかり転んでしまいます。お互いに罵り合ってその日は別れた2人でしたが、翌日同じところでまた顔を合わせることに。気まずい沈黙かと思いきやまたも口げんかが始まるのでした。
お互いにうっとおしいと思いながらも先に立ち去るのはなんか負けた気がして意地でもどかない2人。何時間経っても雪が降り積もっても寒さに耐えながら絶対に動かない2人、もはやツンデレとかいう域を超えてバカというか仲良しというかなんというか…

物語の序盤はこんな感じで素直とは正反対の2人がお互いをバカにしたりいたずらしたりしながらも、次第になくてはならない存在へと変化していく様子がじっくりと描かれます。不本意そうにしながらもお礼を言うことを覚えたシーンなんかは偉いね~とほめてあげたくなります。ラブコメのような状態で見ていて楽しいのですが、これは本作の導入部分にすぎません。

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クリスマスの前の日、どうせ一人ぼっちで寂しいんだろなどといつものように突っかかっていく二人。話し相手くらいにならなってやらないこともない、と何とも遠回しに明日も会う約束をします。
そんな翌日、女の子はいつものようにベンチで待っているのですが、男の子はいつになっても現れません。その日は妙な胸騒ぎがするまま帰宅することにしますがやはり不安。翌日、森の方で見たという目撃証言をもとに探しに行くことにします。しかし結局見つけることは叶わず、彼の家に帰った痕跡もなく、完全に行方不明となってしまうのです。

失意の中帰宅した女の子のもとへ、突然「願いを叶えてやってもいいんだぜ」などと言う怪しい男が現れます。怪しいとは思いつつも藁にも縋る思いで彼を返して欲しいと望んだ少女は、クリスマスの2日前、彼と喋っているところに戻ってきます。そう、本作はループものであったことがここで明らかになるのです。



ループものに慣れた皆さんなら大体予想がつくでしょう。何度ループを繰り返そうと、簡単に彼を救うことはできません。森へ行かないよう忠告したり、見張ったりもしますがことごとく失敗してしまいます。そんな彼女がたどり着く真相とは一体どんなものなのでしょうか。


ループという形式をとる作品は他にも多くあります。当然ながら同じ時間を何度も繰り返すことになるため、中にはその繰り返しの描写が単調でダレてきてしまう作品もあるのですが、本作は本筋に必須な描写だけに絞ってテンポよく進んでいくのが長所の1つかなと感じました。

2周目の段階では森へ行くなと忠告し、それ以外はいつものように彼とじゃれ合っていたところまで書かれていますが、再度救出に失敗して以降はもう各周回ごとの様子が細かく出てくることはありません。その分女の子の頭の中には彼を救出することだけしかない様子がプレイヤーにも伝わってくるのです。

その後もメインのストーリーに絡んでくるシーンだけが細かく描写されるので本筋が掴みやすく、また途中で飽きたりすることなく読み進められるのです。
本質でない部分が省かれている分密度が高く、プレイ時間のわりに大作をプレイした気分にもなれます。


そんな感じで結構な分量のある作品なのですが、この間ずっと登場人物に名前がないのはさすがに寂しいなと感じました。レビューでも男の子とか女の子としか書けませんし、作内でも常にお互いのことを「あいつ」「おまえ」のように呼んでいます。15分の短編とかならそれでも十分かもしれませんが、2時間ほどそのままだと名前がないのがかわいそうな気もします。あとはたまにどっちのセリフか分かりにくくて一瞬考えないといけなかったりといった場面も出てきます。

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さて、本作をプレイしていいと感じたところの1つとして、優しい雰囲気を挙げておきましょう。
先述したようにこの物語に出てくる人物はきつい性格をしているわけですが、そんな2人の交流からこんなに優しいというか微笑ましい空気感になるとは驚きでした。表面上の冷たい態度だけでなく、内心の友情や良心みたいなところがしっかりと描写されているおかげだと思います。子供って変なところで意地を張ることがあるよね~、と温かく見守りながらプレイしていくことができます。ツンデレ系の恋愛ものなどとはここが決定的に読み心地が異なるかなと感じました。

また、世界観もそれに合わせて優しく、程よくファンタジックに作られています。私は以前、同じ作者さんの作品で「わたしの愛する、壊れたせかい」や「空っぽたまごは泥を見る」などをプレイしているのですが、本作もこれらに近い雰囲気で進行します。本作には悪役っぽい人物(?)も登場するわけですが、それ以外の町の人なんかは皆優しく良識のある大人たちといった感じで安心して読み進められますね。童話風の世界観とスノードームというアイテムの相性もばっちりだと思います。


逆に少し気になる点は、結局この世界で2人がどうなるのか、謎の男の正体は何なのか、といったところにはっきりした答えが与えられないまま終わってしまうところでしょうか。意味深なセリフによってプレイヤーの興味を引いたり、「男の言う対価とは何だろう」みたいな疑問を引っ張って物語の推進力にしたりといったあたりは上手いなあと感じるのですが、最終的に疑問の解消に向かわない印象を受けました。
私はどちらかというと「プレイヤーの想像にお任せします」タイプの作品よりははっきりした結論が提示されるものの方が好きなんですよね。

ついでにもう一つ、序盤の特定のBGMがひどい音割れを起こしているのはさすがに気になりました。テストプレイしたら気付かないはずはないだろうというレベルだったのでもしかしたら私の環境の問題なんでしょうか?
選曲などの意味では雰囲気に合っているなと思ったので少しもったいなく感じました。

ちなみに本作には立ち絵はありません。しかし大変想像力をかき立ててくれる文章ですので寂しさを感じたりすることもなく、物語に合っているように思います。


こんなところでしょうか。強情ツンデレ少年少女が心を開いていくさまを見たければ本作以上の適任はいないと思います。おまけで男の子視点の方も読める仕掛けも良いですよ! ぜひプレイしてください。

それでは。

こんにちは。今回は、かなり古めの懐かしいともいえる作品、太郎2さんの「Knight Night」について書いていこうと思います。

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ジャンル:コメディ系RPG
プレイ時間:一直線でエンディングまで5時間半
分岐:基本一本道
ツール:RPGツクール
リリース:2008/1


本作はかなり有名な部類だと思うのですが、これまでプレイしたことがありませんでした。今週プレイしてみて、やはり面白かったなあと思うのでご紹介します。

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主人公のアドニス(名前変更可)は”ちゃっちい王城”に仕える騎士団長。ある日王様に呼び出され命じられたのは魔王の討伐。超王道なファンタジーRPGのオープニングではありますが本作の雰囲気は一味違います。王様からの伝令で、自らの部下でもある騎士に対して「どちら様ですか」扱い。さらにはアドニスはちゃっちい王城の隣に立てたテントで生活していると言います。すでにツッコミどころ多数。このゲームでは2択の選択肢が大量に出てきますが、どちらを選んでも直後の会話が変わるだけでストーリーの流れは変わりません。それなら俺はせっかくだからカオスな方の選択肢を選ぶぜ! というマインドをお持ちの方なら本作を存分に楽しめるでしょう。

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王様バーンズ。RPGの導入でお馴染みの命令

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これすらも断れます。まあ断っても無理やり"神下ろしの儀"に進まされるのですが…


ちなみにこの神下ろしの儀、めちゃくちゃ危険でアドニスが死んでしまう可能性もあるようですが、本人や王子ゲイル、姫ミカの反対も構わずに儀式を決行してしまいます。その結果アドニスに宿ったのは神の力などではなく…やたらうるさくて自信過剰な別の世界の魔王キーファでした。
こうしたドタバタ劇の中、アドニスは魔王討伐の旅へ出ることを余儀なくされるのでした。



アドニス自発的にしゃべることは全くない(RPG主人公にありがち)のですが、道中では常にキーファが御託を並べまくっているので大変賑やか。プレイヤーに多くのツッコミどころを提供してくれます。

道中で仲間になるメンバーも曲者ぞろい。成り行きでアドニスに助けられた薬売りの娘リュカは、恩を返せていないといって半分無理やりアドニスの旅についていきます。山越えの最中で出会った魔女ナナリーはただ女装してるだけの男(でも魔女を名乗ってる)。寂しいとか言って魔王討伐の旅に同行してきます。最後に仲間になるのは賢者ケイト。アドニスが出会う前から重度の変態であることが明かされています。

こんな濃~いメンバーを抱えて進行していくストーリーですが、終盤に近付くにつれ壮大な設定が見えてきます。
本作のストーリーは主にケイトを仲間にするまで(ここでは1部と呼ぶことにしましょう)、北西諸島をクリアして魔王城を攻略するまで(2部)、エンディングまで(3部)の3つにおおよそ分けることができるでしょう。

1部では先ほど見たようなツッコミどころの嵐。賢者に会うまでに散々寄り道しなくてはならなかったり、途中で立ち寄る村がとんでもない所だったり、別の勇者一行に出会って罵り合ったり。これらのイベントを楽しみながら進めていくことになるでしょう。回復やセーブのために各ダンジョンに先回りしてくれているゲイルやミカが好きで、あの音楽ですでに笑えて来ちゃいます。バーンズはいらない(笑)
2部に入ると物語が少し不穏な雰囲気を帯びてきます。キーファが封印されてしまったり、リュカが呪われてしまったり…。しかし全体的な雰囲気はまだまだコメディ色が強いです。私は、敵の足音だ!と警戒していたらアドニス一行をスルーして走り去ってしまうやつが好きでした。
物語の終盤、私が3部と呼ぶことにした辺りまでくると、この世界に隠された壮大な設定が明らかになってきます。序盤からたびたび登場していたけれど意味深な事しか言わずにきたあの人の正体や目的も明らかに。まさかこんなふざけたイベントばかりのRPGでがっつり設定や世界観が練られているとは思いませんでした。


さて、RPGとしての戦闘部分を見ていきましょう。本作の難易度は易しめに分類されるでしょう。
ザコ戦は物理で殴っているだけでも大体何とかなりますし、敵HPは低めなのでMP消費を辞さなければ1ターンで倒し切ることも可能でしょう。入手経験値やゴールドも高めに設定されているため、新しい村に着いて強い武具が解禁されるたびに最強装備に買い替えることもできます。そこまでのお金が足りない場合は武器を優先することをお勧めします。

ただ最序盤のアドニス一人で冒険しているころは割と死にがちでした。序盤のステータスでは魔法攻撃にめっぽう弱く、回復手段も乏しいため2回くらい食らうと普通に死にます。慎重を期す場合、逃走コマンドなども使っていきましょう。
リュカが仲間になって以降はかなり安定します。どんどん新しい武器を買って先へ進んでいきましょう。

ちなみに敵モンスターの名前やアイテム、技の名称もふざけまくってます。
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↑なぜジブリキャラなのか。

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↑敵というか食材として見てる?

ボス戦においても難易度は高くないでしょう。ステータス変動魔法が永続効果を持つため、最初に数回使っておくだけでかなり楽になります。一部状態異常が厄介な場合があるので、回復アイテムを数個持ち歩いていると安心でしょう。MP回復アイテムもあれば万全です。

ラスボス戦においてはこれまで出会った仲間(?)たちの協力もあったりして熱い展開です。散々ふざけたストーリーを展開してきた本作ですが、こうした王道の感動シーンもしっかり用意してくれています。

ちなみに本作はクリア後のおまけ部屋がかなり豪華です。
一枚絵、BGM鑑賞モードのほか、各キャラクターについての裏話だったり登場する村の設定の話などが盛りだくさん。ここで私は初めて気づいたのですが、メインシナリオに関わらないサブクエストも多数あったようです。そのほとんどは2部の間の時限イベントということで、私はほとんどスルーしていたようでした。気付かなかった…


というわけで今回は「Knight Night」でした。
古い作品ゆえに解像度が粗かったり、親切なシステムはなかったりしますが、それもあまり気にならない大作ですのでぜひプレイしてみてください。

こんにちは。今回は水温25℃さんの「月明かりと夜風のワルツ」のレビューとなります。

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ジャンル:魔術師ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:1時間弱
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8


本作についてはTwitter上などで制作過程を拝見していました。絵が割と私の好みのタイプであり、作者さんの過去作「はこにわのみこ」が良かったので公開を楽しみにしていました。結局プレイするまでに公開からしばらく時間がかかってしまいましたが先日読了したのでレビューという形にしておきたいと思います。


本作の舞台となるのは街のあらゆる場面で魔術の飛び交うルーナ王国です。空気中に漂う魔素を魔力に変換してエネルギー源として使用することで動く工業製品も身近な存在で、魔術を職業にすることのない一般人でも日常で魔術を使っています。
主人公のリシュア(ver1.02以降名前変更可能)は魔術学校に通う3年生。卒業研究に励みながらも、間近に迫った学校の創立記念ダンスパーティーに誰を誘うか迷っています。住み込みのお手伝いさんであるレナートのことが気になりますが、去年のパーティーへ誘ったところ断られてしまったため、声をかける勇気が出ないようです。二人の間を隔てる線とは何なのでしょうか。魔術学校を卒業するまでにその関係性に変化は訪れるのでしょうか…


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さて、本作の良かったところを簡単に説明していきますが、まず絵が可愛らしいですよね。最初にも書きましたがかなり私の好きな絵柄です。短編で登場人物の数も少なめですがみないい子たちで、登場機会の少ないサブキャラまで表情豊かに描かれています。私は何かしらの失敗をして涙目になったレナートが好きです(笑)
メインの画面に表示される立ち絵だけでなく、左下にいる主人公もまばたきしていて良く作りこまれてます。この主人公の顔グラですがかなりアップで表示されていますね。これまでプレイしてきた作品の中でも一番かも。それくらい存在感があります。

立ち絵やスチルのみならず、背景やUIなんかもきれいに統一された雰囲気をまとっていて素敵ですね。メニューや文字色などが主人公のテーマカラーと一緒になっていて気持ちいいですし、メニューアイコンも大きくて一見して意味が分かります。ゲーム内からヘルプや2次利用ガイドラインなどが読める仕組みまで整っています。これは過去作でもそうだったかな?
URLをクリックしても直接サイトへ飛ばない(クリップボードにコピーされた状態になる)のは掲載サイトの規約対策でしょうか。確かふりーむが最近その辺非常に厳しかったはずです。ちなみに私がこの記事を書く際に公式サイトにリンクを張るときにURLのコピーが一瞬でできて便利だったなんていうちょっとどうでもいい話もあります。



さて、シナリオの方に話を移しましょう。
本作の特徴として、物語開始時点からすでに主人公リシュアがレナートへ(恋愛的な意味で)好意を抱いているのが明らかというところが挙げられるでしょう。しかしそれに対して、レナートはそもそもリシュアのことは恋愛対象ではないといった様子。お手伝いさんと雇い主の娘という関係としては良好なので微笑ましいシーンがほとんどを占めるのですが、それ以外の個人的な関係についてはレナートが遠慮しているというか拒否しているように見えます。したがってリシュアの片思い的な面が強く、乙女ゲームとしての糖度は控えめな感じです。


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そんな本作のシナリオにおいて優れた点は、はっきりとした世界観の説明や設定が存在していること、それに基づいて登場人物の思いや行動が描写されていることでしょう。
舞台となっているルーナ王国では魔術が広く普及していることは最初に述べましたが、それはいわゆる魔法のように何でも好きなことができる、科学を無視したような特異な能力が使えるといったものではありません。大気中に存在している魔素を吸収して魔力に変換する、魔力を動力源として仕掛けを動かし、加熱器具にしたり玩具にしたりといった理屈が存在しているのです。

魔素の吸収効率に個人差がある、国家として定められた資格としての魔術師や魔導士などの肩書がある、といった設定が丁寧に説明されるからこそ、レナートが主人公の誘いに首を縦に振らない理由や主人公の父親トヴァルの矜持・信念といったものが理解できるのです。
科学との比較がされるシーンもあり、SFというにはファンタジー感が強いですがそれくらい設定がしっかりしており、だからこそ登場人物の心情が読者に伝わってくる構造になっていて、良く作られているなあと感じます。リシュアが卒業研究に力を入れている理由も分かりますし、授業のシーンはないですが魔術学校(高校卒業後に入学するということなので大学相当でしょう)に通っている必然性があるんですよね。学校が都合のいい行事が存在するだけの空想上の存在になっておらず、理由のある設定としてスムーズに受け入れられるようになっています。

先ほどシステムが整っていると言いましたが、その中の用語説明機能はこの点の理解にも寄与しているでしょう。右上のメニューボタンの下にある本のアイコンをクリックすると、作中に出てきた用語の解説を読むことができます。必要な部分だけをまとめて見られますし、UIもかわいくていい感じ。


物語終盤ではちょっとした事件が起こります。心を痛め、最善の選択ができなかったと悩むリシュア。そんな中でのレナートとの会話が、2人の信条を活かした内容になっていて上手いよなあと感じます。
事件をきっかけに決意をしてくれたレナート。優しいけれどもちょっぴりドジで、よくリシュアに慰められていた彼が初めてたくましく、かっこよく見えた瞬間でした。

そんなエンドロール後のエピローグ。あの台詞にはシリアスな雰囲気が吹き飛んで文字通り吹き出してしまいました。そして突然の糖度UP。これまでが爽やかなレモネードだとしたらガムシロップくらい甘いです(私は何を言ってるんだ?)。切実にスチル閲覧モードの実装を希望します!
(同日追記:スチル閲覧モードはチャプター選択画面の左上アイコンから行けるようです! 作者のななづこさんに直々に教えていただきました。ありがとうございます。)


というわけで今回は「月明かりと夜風のワルツ」でした。
エピローグまでちゃんと見て幸せな気分になってくださいね!

それでは。

こんにちは。今回はTeam囲碁RPGさんの「囲碁RPG」のご紹介です。

IGORPG1

★favo
ジャンル:オーソドックスなターン制RPG+詰碁問題集
プレイ時間:ラスボス撃破までで10時間程度
分岐:なし
ツール:RPGツクール
リリース:2023/7(ふりーむへのDL版掲載日)
注意:囲碁の棋力が10級以上の方推奨


本作「囲碁RPG」はタイトルから分かる通り、囲碁がテーマとなっているRPGです。単にシナリオに囲碁が使われているというだけでなく、詰碁(部分的な石の死活を問う問題。詰将棋に対応するもの)を解いて進むギミックも多数用意されているなどかなり凝っています。
このギミックのため囲碁未経験者ではクリアはほぼ不可能でしょう。公式の説明欄にもありますが、10級程度の棋力は最低限欲しいところです。私の棋力は碁会所で三段程度、ネット碁では囲碁クエスト(Android版/iOS版)で四段、野狐囲碁で二段程度です。有段者なら本作の囲碁に関するギミックで困ることはないでしょう。
囲碁に関するギミックで詰まってしまう場合、「囲碁RPG 入門編」があるのでそちらのプレイをお勧めします。



本作の世界観では、囲碁の技術である”棋術”(聞いたことがないので本作の造語でしょう)がそのまま(物理的な)戦闘の技術になっています。碁の強い者が通常のRPGの意味でも強いのです。戦闘では打撃(通常物理攻撃)のほかに棋術(魔法攻撃に相当)を使って敵を打ち倒していきます。
そんな本作は主人公の星宙かやが囲碁の養成所を卒業するシーンで始まります。卒業試験をパスしたかやは養成所からのプレゼントとして最新の棋術を教わるため、棋術習得用カプセルに入ります。ところがその棋術習得の最中に”幻庵”と名乗る人物が乱入。養成所は荒らされ、同級生の安否も分からない中かやは何とか魔法陣を起動してワープし見知らぬ村、”アキスミ村”で目を覚まします。どうやら”秘密結社INOUE”が何かを企んで悪さをしている模様。かやは同級生を助けるため、秘密結社INOUEに挑むべく旅を始めるのだった…


本作のオープニングはこんな感じなのですが、これまでですでに囲碁にまつわるネタが3つも含まれています。
まず、幻庵というのは戦国時代の武将、北条幻庵のことのようです。今回調べて知ったのですが、幻庵は囲碁にまつわる逸話のある武将ということです。そしてアキスミ村。アキスミというのは文字通り空いている、つまりまだ石が全く置かれていない(碁盤の)隅のことで、たいていの場合初手で着手される地点になります。すなわち”はじまりの村”みたいな意味合いですね。
そして秘密結社INOUEというのは囲碁の家元四家のうちの一つ、井上家のことでしょう。江戸時代、徳川将軍の前で行われた対局、御城碁で争った四家が家元四家で、本因坊家、井上家、安井家、林家の4つです。本因坊だけが実力制となって現代のタイトル戦に名を残していますね。

安井算知

このように、本作内において非常に濃い密度で囲碁に関する分かると面白いネタがちりばめられています。しかもネタの分野が広いです。
例えば主人公かやの仲間になる最初の人物は”秀策”ですが、これは本因坊秀策のことです。ヒカルの碁にも出てきたのでご存じの方も多いかもしれませんね。続いて仲間になるのは”算知”ですが、これは同じく江戸時代の棋士である安井算知のこと。天地明察に登場したことで知っている方もいるかもしれません。
4人パーティーの最後の一人は”リーラ”と名乗ります。これはフリーのコンピュータ囲碁ソフトLeelaのことでしょう。さっきまで江戸時代の話だったのに急に現代のAIの話が出てきてちょっとびっくりしましたが、これも囲碁が分かる人ならではのネタでしょう。

IGORPG2
他にも、敵のキャラクターは全て囲碁用語だったり、囲碁周辺の元ネタがあったりします。
例えばこちらの”アキサンカク”ですが、これは漢字で書けば”空き三角”。自分の石が三角形の形につながった状態のことで、働きの乏しい愚形の代表例です。

IGORPG3
こちらの”モクサン”は目算。自分と相手の陣地の数を脳内で数えることです。これが正確にできるのは高段者でしょう(私はできません)。

その他、装備品名や村人のセリフなどにも大量の囲碁用語が登場。分かる方にはとても納得できる使われ方だと思います。
鉄柱、亀の甲羅、一間高などの囲碁用語のついた装備品。玄玄碁経、官子譜、發陽論などの古典的書物。秀策、算知をはじめ赤星因徹や本因坊丈和などの江戸時代の棋士である登場人物。ノギツネ城(野狐囲碁という中国のネット対局サイト)、絶芸(野狐で対局しているAI)、AyaXbot(囲碁クエストというアプリ内で常駐しているAI)など、現代の囲碁界に関するものまで本当に幅広いです。
ラスボス戦が対AIになるの熱い展開で良いですね。

IGORPG5
(ところで「魔王のメガネ」の魔王って井山裕太さんのことですよね?)

それに加え、先に書いたように本作では詰碁を解いて進んでいくギミックが数多く含まれています。
IGORPG4
上のスクリーンショットのように、いごまるという小さな生き物(タイトル画面の左側にいるやつ)が道をふさいでいる場面にたびたび出合います。近くには詰碁の問題があるので、これに正解すると道を開けてもらえたり、アイテムやお金がもらえたりギミックが進行したりするのです。
ゲームの進行上必須でない隠し要素については詰碁の問題が難しかったりします(とはいえ最難関でも上級程度です。有段レベルの問題はないと思います)

さらにこれらの詰碁を解くと、アイテムの「いごまる詰碁帳」に解いた問題が登録され、何度でも復習可能になります。全部で140問以上あり、解くたびにお金が少しもらえます。たまに「星屑の欠片」という錬金素材アイテムももらえるので積極的に解いていきましょう。(星もれっきとした囲碁用語です)
少し易しめの問題を一目で解けるようになるまで習熟度を上げるというのは囲碁の上達にもかなり役立つ勉強の仕方になると思います。その意味でも詰碁帳を周回するのはおすすめです。


さて、囲碁から離れて本作のRPGとしての部分を見ていきましょう。
戦闘は非常にオーソドックスなターン制でコマンド選択式。癖がなくてなじみやすいシステムと言えるでしょう。毎回戦闘終了後にMPが一定量回復するのでMP節約にあまり気を回さなくて済むのが助かります。

戦闘のバランスとしては、状態異常が強めでしょう。パラメータ的には余裕でも状態異常を食らうだけで一気にピンチになったりするので、装備で対策したり回復アイテムを買い込んだりしておくとよいでしょう。(状態異常の名前が囲碁用語になっていて少しわかりにくいので注意です。”味悪”は毒、”長考”・”駄目詰”は麻痺、”頓死”は即死のことです。その他は囲碁を知らない人でも名前からイメージできる効果だと思います)
状態異常以外においても装備の重要性は高いので、新しいダンジョンに挑む際はぜひいい装備を入手してからにしてください。

本作には錬金システムがあり、詰碁を解くと時々もらえる「星屑の欠片」を使って固有武器を強化したり、その他の装備品を作ったりすることができます。固有武器をMAXまで強化するのはかなり手間がかかりますが、強力なことは間違いありません。私はリーラの銃を真っ先に強化して攻撃力の上がる装飾を持たせ、リーラをアタッカーとして運用しました。2回攻撃はやはり強い。

いったことがある街へのワープができるシステムがないので移動がやや面倒ですが、ダンジョンは一度クリアすれば出口まで即移動できるのでそこまで大変ではないでしょう。

なかなか珍しいと思ったシステムは、「IG→経験値変換」です。IG(イゴールド)というのは本作の通貨単位です。つまり余ったお金を経験値に変換できるのです。
通常のザコ敵で経験値を稼いでレベルアップしていくのも良いのですが、本作はザコ戦で得られるIGが少ないのでこの方法ではお金不足になりやすいです。そこで「いごまる詰碁帳」を解くことで大量のIGと星屑の欠片を稼ぎ、余ったIGを経験値に変換するという方法の方が効率がよさそうです。


というわけで今回は「囲碁RPG」でした。
10級の方だとクリアに結構苦労しそうですが、5級~1級くらいの上級者の方は特に詰碁の復習もできて楽しい作品なんじゃないでしょうか。囲碁の歴史についてもちょっとだけ学べます。
囲碁やったことないよという方は入門編のほうをぜひ。

それでは。

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