フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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ファンタジー

こんにちは。今回のレビューはルピナスパレットさんの「インビジブル」です。

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オススメ!
ジャンル:現代異能ファンタジーノベルゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:10時間
分岐:エンディング2種、その他GAME OVERあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:製品版あり


本作は割と有名な作品かと思うのですが、長大なプレイ時間とあまり私の趣味ではないジャンルを見てなかなか手が出せなかった作品になります。しかし今週プレイしてみたところ本当によくできていて、10時間があっという間と思えるような作品でしたので、ぜひ今回ご紹介しようと思ってレビューを書くことにしました。

いつも通り本作のあらすじを説明しましょう。

初花市では奇妙な都市伝説が広く言い伝えられています。地下鉄の初花駅から環状線を一周すると自分のドッペルゲンガーに出会うことができ、そのドッペルゲンガーを殺すと願いが叶うという、なんとも気味が悪いお話です。さらにはその都市伝説を実行した人が次々と行方不明になっているというのです。
主人公の如月(きさらぎ)つぐみはそんな初花市のとある喫茶店で記憶喪失の状態で目を覚まします。店を出て当てもなくさまよっていると、突然謎の深い霧に飲み込まれ、その中で謎の化け物が少女を襲っているのを発見します。偶然居合わせた朝岡蓮(あさおか・れん)と一緒に何とかその少女、白崎茉莉花(しらさき・まりか)を救出することに成功します。自分の正体も、謎の霧で襲ってきた化け物の正体も分からない3人は、自称オカルト研究家の坂倉出(さかくら・いづる)に助けを求めます。坂倉の言うことには、都市伝説を実行した人間は”インビジブル”と呼ばれる異能を習得し、さらにはその研究のために設立された組織”アンノウン”が存在するというのです。
果たして都市伝説は本当なのか、なぜ黒い霧が襲ってくるのか、つぐみの記憶は戻るのか。いくつもの謎を解決するため、3人はアンノウンの本部へと向かうのだった…

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本作はプレイ時間にして10時間ほどとかなり長い作品ですので、上の説明でも物語の冒頭1割くらいの内容になります。長編作品の難しいところの1つとして、読者を飽きさせないような展開、上手く引き付けておくための情報開示の仕方といったところがあると思います。本作はこれらの点において非常に上手く作られていると思うんですよね。




全6章+プロローグ・エピローグという構成を持つ本作ですが、最初に生まれた直接的な危険である黒い霧の能力に関しては物語半ばの3章でいったんの解決を見ます。しかしそのころには別の謎がつぐみたちとプレイヤーを悩ませており、全く飽きるポイントがないんですよね。異能の正体、黒霧を操っていた黒幕の正体、つぐみの記憶にアンノウンの目的など様々な謎が提示され、そして絡まり合いながら最後に解決していくさまはお見事というほかありません。

この情報や謎の提示の仕方、それを適度に引っ張りながら順に解決していく物語の組み立てのうまさは、古典的名作である「ひとかた」を連想させます。本作にはループ要素はないわけですが、異能ファンタジーも妖怪と戦う伝奇物語というジャンルと似ているかもしれませんね。


本作では5章までですべての謎につながる情報は開示され、5章後半からは解決編といった流れになります。私は、異能とはどのようにして得られるのか、都市伝説を実行した結果何が起きたのかについては
解決編前に察することができて大変気持ち良かったのですが、それは本作がうまく読者への情報提供と誘導を行っていたからでしょう。


そして最終章ではラスボスとの対決が待っています。アクションシーンの描き方も一級品です。
ノベルゲームというのはやはりどうしても動きのあるシーンの迫力を演出するのが難しいと思うのですが、本作は文字だけで緊張感のある戦闘シーンを描くことに成功していると感じます。なぜか。それを考えたときに思い当たったのは、私の本作への感情移入度の高さでした。
本作では解決編に至るまでの間、異能に関する謎解きと並行してキャラクターの掘り下げが巧みに行われています。美弥子の怒りも、霧島の性格も、蓮の意地も、篠塚の思いも、すべてを理解して突入したラスボス戦だからこそプレイヤーもつぐみたちを全力で応援できるんですよね。迫力のある動画コンテンツなどなくても、私の登場人物への思いが想像をかき立ててくれます。戦闘中に相手を挑発したり、心理描写に文字数を割いたりといった表現の仕方もプレイヤーに緊張感と想像力を与える助けになっているでしょう。さらにそれ自体がラスボスを倒す切り札への布石になっているのだから大したものです。



さて、その登場人物の掘り下げがどのように行われているかです。
都市伝説に関わる謎がメインテーマであることは間違いない本作ですが、その謎を解いていくには構造上登場人物たちの悩みであったり、心の傷であったりといったものを明らかにし、それを乗り越えていかなくてはならないという仕掛けが組み込まれています。
ドッペルゲンガーを殺して手に入る異能は個人ごとに異なります。ところがその異能はランダムに付与されるわけではなく、都市伝説を実行した張本人が抱えている悩みやトラウマが反映されたものになりやすいというのです。ということは必然的に、異能に関する秘密を明らかにしていくには能力者自身の過去や精神状態に迫っていく必要が生じる。このように本筋に絡めながら各キャラクターの背景を描き、成長していく姿を見せるという手法にはなるほどと思わされました。
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例えば、初めて会った時からなんだかんだでそりが合わず、口喧嘩の絶えなかった蓮と茉莉花の2人は2章でついに茉莉花の一言で完全に決裂してしまいます。茉莉花には何も考えていないクルクル扱いされていた蓮ですが、彼は彼なりに弟との関係について深く悩んでいたのです。
そのように迷いを抱えた中で、そして仲間との信頼関係がまだ出来上がっていない中で1章で現れた黒い霧は再び襲ってきます。目の前に迫った危機に対し、不器用ながらも仲間を信じることを覚え、何とか危機を脱して一皮むけたように成長した彼らを見ていくのは何とも気持ちいいものです。

3章に入ったころには、蓮も茉莉花もしっかりと相手に向き合うことができるようになっています。茉莉花に至っては、自分が自信を持つようになれたのはつぐみのおかげであるとはっきり伝えられるようになりました。このような、思春期らしい悩みを乗り越えて成長していく青春物語を私は予期していなかったため、意外に思いながらも楽しく読み進めていくことができました。



さて、本作ではラスボス戦以外にも途中で何回か戦闘シーンが挟まります。どれも緊張感のある展開で、それぞれいくつかの選択肢が出現します。間違えるとゲームオーバーになる箇所もありますが、多くはそれまでの展開をきっちり覚えていれば正解できるものになっています。
そして選択肢はラスボスを倒した後の最後にも。明らかに分岐すると分かる重要な選択肢です。ぜひ2つの結末を両方見届けてあげましょう。



BGMはおそらく自作で、場面の雰囲気に合ったものが選定されている印象です。音程の無い不気味な感じの曲が好きでしたがどのシーンで使われてたのか思い出せない…
グラフィックも、衣装差分も含めて多くのキャラクターが登場してすごいなあと思わされるところです。あと純粋に可愛らしいですしね。私も蓮と律のほっぺを引っ張ってみたいししーちゃんに冷たい目を向けられてみたい(笑)
スチル閲覧モードが切実に欲しいところです。
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最後に製品版の紹介を少しだけしておきましょう。
パートボイス仕様だったフリー版をフルボイスにし、追加シナリオが読めるようになったバージョン、「インビジブル 蒼のフラグメント」が公開中です。私はまだプロローグまでしかプレイしていないので細かいことは分かりませんが、幕間シナリオやギャラリーも解放されているようなので、ゆっくりと楽しみにしておきたいと思います。一部テキストの修正やUI配置等の改善も入っているようですね。


フリー版でも十分きれいに完結した物語が楽しめますので、ぜひプレイしてみてください。そして都市伝説の秘密を解き明かしましょう。
全部プレイするにはかなりの時間がかかりますが、それに見合った満足感が得られるはずです。

それでは。

こんにちは。今回はCynical Honeyさんの「終わりの鐘が鳴る前に Chapter.1」をご紹介しようと思います。

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※期間限定無料作品
ジャンル:学園ラブコメ
プレイ時間:4時間(ボイスを全て聞くともっと長いと思います)
分岐:基本1本道
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2022/2
備考:Chapter.2公開以降有料化。今年夏予定
(9/10追記:現在本作品の無料公開は終了しています。Chapter.2の販売も開始しています)


昨年の冬に私がTwitterを見ようとしたとき、本作の作者であるCynical Honeyさんのアカウントからフォローされていることに気付きました。プロフィールを確認したところ、公開中というノベルゲーム(本作)が面白そうだったのでとりあえずDLしてプレイしたところ、かなり面白い作品でした。普段だったらレビューを書くかなというところだったのですが、私がこれまで書いてこなかったのは本作が純粋なフリーゲームではないからです。
というのも本作は昨年の2月にChapter.1が公開され、その時から現在までノベコレふりーむBooth等で無料で配布されていますが、Chapter.2の公開と同時に(Chapter.1含め)有料化されることが宣言されていたからです。

一応本ブログではフリーゲームを専門に扱っているので(一部有料のものもありますが、それらもフリー版で十分完結まで楽しめるもののみです)、本作を取り上げることにややためらいがありました。しかし先日Twitterのフォロワーに需要がありそうなことが分かったので、今回こうしてレビューを書くことにしました。普段のフリーゲームに比べるとやや厳しめの評価になっているかとは思いますが、大変いい作品ですのでぜひプレイしてみてください。



さて、本作のあらすじを説明しましょう。
主人公の長谷部涼平は高校2年生。友人の日高進や戸松香澄らと楽しい高校生活を送っています。
しかしある日、涼平の前に死神を自称する少女モトが現れ、同級生の菅野雪乃に年内に心から幸せを感じさせなければ涼平は死ぬと無理難題を押し付けられます。
途方に暮れる涼平は偶然にも雪乃が日高に恋心を抱いているのを知り、条件達成のチャンスと見て雪乃の恋愛をサポートすることを思いつきます。しかし校内で男勝りでワイルドと評判の彼女は恋愛に疎いようでその道は苦難の連続です。さらには何と肝心の日高が実は香澄のことが好きであることも発覚し、涼平は2人の板挟みになりながらもなんとか雪乃が幸せになれるようサポートします。
果たして雪乃の恋は実るのか、幸せにすることはできるのか。そして幸せとは何なのか。文字通り涼平の生死をかけた4か月間が始まる…


とまあこんな感じでしょう。
つまるところ本作は、「雪乃の恋路を応援する」というお話になります。ラブコメによくある展開で、他人の恋愛を応援するというと最近完結したことで話題の「その恋、保留シリーズ」が思い浮かびますね。あの作品では恋愛を応援する理由はお節介によるものが大きかったですが、本作においては恋愛の成否が文字通り生死に関わるという明確な理由があり、物語をよりシリアスな方向にしていると言えるでしょう。

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この無理難題を仕掛けてくるモトはかなり変わった人物(人ですらない?)です。常時涼平の行動を監視しているようで、たまに姿を現しては涼平に話しかけてきます。淡々とした口調でありながら条件達成について厳しく問い詰めてきます。幸せを感じさせるのは一時的でもいいのだから、自分の生死がかかっているのに常に誠実であろうとするのは非効率ではないか。そんな風にささやき涼平をいらだたせる様は死神というより悪魔のようです。

しかしやはりモトがいるからこそ本作の物語は成立しているんですよね。涼平の行動の理由はモトの存在があってこそですし、2人の対話から誠実であろうとする涼平の人柄も見えてきます。
こうしたシリアスめな青春物語というものは、登場人物の関係性であるとか性格であるとか、行動原理などが描けたうえで魅力的になるものだと思うのですが、本作はそのあたりの描写がしっかりしていて面白く感じられるのです。


ちなみに本作はシリアス一辺倒ではなく、時々漫画やアニメのネタが出てきたりといったギャグポイントもあります。
プロローグの時点でもすでにデスノートや北斗の拳と分かる台詞があったりして、相当な密度で組み込まれています。あまり詳しくない私でもたびたび出てくるなと感じたくらいなので、知っている方が見たら本当に多くのネタを拾えるんじゃないでしょうか。

あとは同級生の平野亜希による涼平の毒舌いじりなんかもギャグに分類されるでしょうか。ただあれは私にはちょっとやりすぎに感じました。流石にあそこまでの性格ならば何らかの理由付けとか説明が必要なんじゃないでしょうか。小学生の妹にもひどいことを言わせてますし…。

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さて、いったん本作のシナリオから離れてみます。
するとやはり目に付くのは、タイトル画面などからも分かるイラストの綺麗さです。ここに描かれたキャラクター以外にも多数の人物が登場する本作ですが、みな可愛らしくきれいに描かれていて製作者の気合を感じます。
イラスト面において私が特に良いなと感じたのは背景です。学校、自宅、喫茶店に遊園地といくつもの場所が登場しますが、それぞれ本作の立ち絵に合ったテイストで描かれていてとても綺麗。教室の画像なんかはモブの人物まで書き込まれていたりします。これは私が今までプレイしてきた作品の中でも珍しいんじゃないかと感じました。

また、本作では主人公以外の台詞にはすべて声が付いています。みなさん演技もうまいですし、普通のフリーの作品の範囲を超えているなあと思わされます。
そのキャラクターごとのボイス音量調整などシステム面においても機能は整っています。ただしメニュー画面の呼び出しが遅いのはストレスを感じるポイントでした。私の環境(OS: Win10Home 22H2, CPU: AMD Ryzen 7 4700U, メモリ: 16GB)ではメニュー呼び出しに平均6秒以上かかっています。特にクイックセーブ以外の通常セーブはメニューを経由しなければならないのでさすがにしんどかったです。メニュー呼び出しに時間がかかるなら、通常のメッセージウィンドウから直接セーブ/ロードできるだけでかなり違ったでしょう。欲を言えばセーブスロットも現状の6よりは多い方が良いかなと思います。
このあたりはChapter.2以降でUIの刷新も計画されているようですし今後に期待といったところでしょう。


さて、話は本作のシナリオに戻ります。
私が本作を気持ちよくプレイできた理由の一つとして、1つ1つのシーンが全体のストーリーに活きていて、キャラクターの心情や関係性を掴みやすかったというのがあるでしょう。
例えば本作の中盤くらいで涼平が雪乃を傷つけてしまうシーンがあります。事情を知っている私(プレイヤー)の目から見ればある程度仕方のないことでしたが、雪乃から見たらショックでしょう。涼平としては当然雪乃との関係を修復していかなくてはならないのですが、その時にきちんと過去の出来事などが前提としてあって、だからこそ雪乃と仲直りできたんだなと感じられる展開になっています。詳細は述べませんが、お悩みボックスに関する話とか、(雪乃の友人である)悠木さんとの信頼とか。そのあたりのことが意味を持ってくる分読んでいて気持ちがいいし、話にご都合主義というか作為的なものを感じないのです。
このように物語が1つの線につながり、因果もはっきりすることで人物の心の揺れ動きがより鮮明に見えてくるのでしょう。

これは物語冒頭のモノローグの部分もそうです。意味深な語り出しから始まる物語は多いですが、本作では冒頭で語られた「人は大切なものを失うことに怯える」というような内容の言葉の意味するところを涼平はしっかりと痛感させられます。やはり丁寧に作られた作品だなと思いました。
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ストーリー自体の話とはちょっと違いますが、本作の文章表現もなかなか面白いでしょう。ちょっとした比喩表現などが多用され、情景を思い描きやすくなっています。私が好きなのは、「バイブ機能が付いた携帯電話みたいに、菅野は小刻みに震えだした。」などでしょうか。

しかし文章表現は本作において気になった点の1つでもありました。やたらと複雑だったり、一文が非常に長かったり、前提が省略されていたりといった場面がしばしばみられます。
例えば、雪乃が涼平に対して何らかの手助けを申し出た場面の「彼女自身からしてみればフェアではないが、どちらかというと俺からしてみれば利用している形になっているので、後ろめたさもあった。」は「(涼平が見返りなしで雪乃の手助けをするという状況は)彼女自身からしてみればフェアではないが、(実は死神の条件達成のためにむしろ涼平が雪乃を)利用している形になっているので、(涼平は)後ろめたさもあった。」などと主語を補完しないといけない箇所が大分多いように感じます。おそらく読点の前後で主語が変わっているのに両方とも省略されているからややこしく感じるのでしょう。

また、誤字・誤変換・助詞の間違いなどが非常に多いです。文章が複雑な件と合わさり、意味の理解に時間がかかる文がたびたび出てきてゲーム体験を阻害していると言えるでしょう。


ちょっと厳しめの意見が続きましたが、印象的なセリフなどもあって文章も全体的には上手いのも確かです。「私の友達のためにあんなに怒ってくれてありがとう」とか、意外なところでスッといい台詞が出てくる印象があるんですよね。



そんな本作は雪乃が遊園地で日高に告白してクライマックスを迎えます。涼平は当事者ではないのでまさにそのシーンが描かれることはないのですが、私までドキドキしてしまうような描写にびっくりです。周囲の人の状況や台詞の描写だけであれだけ印象的なシーンになるんだなというのが驚きでした。

そしてその後、雪乃はどうするのか。Chapter.2に期待といった展開になっています。
雪乃の件だけでなく、涼平の過去についてなども意図的に隠された情報があるのでそれも合わせて楽しみにしておきましょう。沢城先生がなぜ涼平の進路にうるさいのか。涼平自身が恋愛をする気にならないというのはどういうことか。今後明らかになっていくのでしょう。



繰り返しますが本作の無償提供は期間限定なので興味のある方はお早目のプレイをお勧めします。
にぎやかだけどどこか切ない青春物語を楽しみたい方に。これが無料でプレイできるのか、と驚くこと間違いなしです。そしてChapter.2の公開を楽しみにしましょう。

それでは。

こんにちは。今回はパルソニックさんの「決戦前のヒトリ~主人公以外全員『カップル』がいるアドベンチャー~」のレビューをお送りします。

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ジャンル:ラブコメ推理パズル?
プレイ時間:私の初見プレイでTRUE ENDまで1時間半
分岐:エンディング2種
ツール:RPGツクール
リリース:2022/9


さて、本作の作者であるパルソニックさんと言えば、有名作「かわいいは壊せる」でお馴染みです。(私もそのうちプレイしなきゃな~と思っていつつ実はまだプレイしていないのです)
ある日ふりーむをいろいろと探索しているとき、たまたま本作が目に入りました。論理パズルは割と好き(得意分野でもある)ので興味を惹かれ、作者名を見ると見覚えのある方だったのでびっくり。早速ダウンロードしてプレイしてみたところ、バカゲーに見えてかなりよく練られた作品だったので今回ご紹介しようと思います。



いつものように本作の大まかな内容を最初にお話ししましょう。

主人公であるヒトリは最強の勇者。姫であるヒロを救うための冒険を続け、ついに魔王との対決に挑みます。ところが最強であるヒトリの力もわずかに及ばず、捨て身の攻撃でも魔王をしとめるには至らずに負けてしまいます。
そんなときに突然現れたのは神を名乗る人物。”世界の真実”を解き明かせばヒトリを生き返らせてくれると言います。当然その条件をのんだヒトリでしたが、要求されていたことはなんと、この世界において誰と誰がカップルであるかを全て突き止めることだったのです。
誰と誰が付き合っているのか、怪しいところを調べて証拠をつかみ、世界の真実を見つけ出せるのか、ヒトリの第2の冒険が始まる……

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というわけで本作は推理ゲームとなっています。
魔王との決戦前夜、パーティーを組む仲間たちや村に住む人々の家を探っていく勇者のヒトリ。勇者というよりは泥棒みたいです(普通のRPGでも割とよくある光景ですが…)。そして翌朝には村人たちも起きて活気のある村を再度探索、会話などからヒントを探っていきます。一見ラブラブに見える2人が本当にカップルであるのか、あの家に住んでいるのは誰なのか、誓いのアイテムを持っているのは誰なのか……、いろいろ考えることがあってこの推理部分が良くできている作品だと思いました。

特に、本作においては魔王戦後の答え合わせで間違えると再度神に決戦前夜まで戻されるループシステムを採用しています。このシステムがなければ解けないような謎が仕掛けられているのが上手いなと思ったポイントでした。翌朝手に入るはずの情報をもって夜のうちに行動を起こすとどうなるのか、夜と朝で会話内容の整合性をとるにはどういった前提が必要なのかなど考えながら進めていきましょう。
RPGツクールのシステムもうまく生かしていて良いですね。

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という感じで、推理部分がなかなか難しめに作られています。ミスリードを誘う展開もあったりして、1度や2度では正解にたどり着けないでしょう。(私は5答目で正解しました)

しかしこのあたりの推理の苦手な方でも安心な要素として、神からのヒントがあります。2度目以降誤答するごとに1つヒントがもらえます。そのまま答えがもらえるわけではありませんが、ヒントの通りに行動してみれば決定的な場面に立ち会うことができるでしょう。



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さて、本作のゲーム部分は今まで書いてきたように結構真面目に作られており、解きごたえがあるのですが、全体的な雰囲気を見るとかなりふざけています。神様の俗っぽい言葉遣いだったり、自分一人だけ相手のいないヒトリが嫉妬に狂ったり、分かりやすすぎるすれ違いカップルだったりには苦笑させられたりも。ループものにおいて主人公が過去の周回の経験をもとに現在の状況についてツッコむというパターンは多いですが、それがこんなに笑える作品は珍しいと思います。

さらになんとおしがまイベントあり(特にそれがメインとかじゃないです)。こんなクレジット表記初めて見ましたよ…(笑)
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ちょっと気になる点について。内容というか宣伝文句についてなんですが、「論理パズル」というのとはちょっと違うかなと思いました。私が最初に見たときはそのように紹介されていて、論理パズルだったら得意分野だなと思って手を出したのですが、本作はサスペンス・探偵もの寄りなので期待していたものとちょっと違いました。論理パズルというと、Dominion's Restさんの「魔女っこと封印の石版」ですとか、にほへさんの「ミミックロジック」などを思い浮かべます。こうしたゴリゴリのパズルとは違った作品でしたが、別の意味での面白さは十分にあったので結果オーライです。

あと、解答画面の操作方法がやや直感的じゃないかなと感じました。男性キャラの位置はデフォルトのまま変更できず、女性キャラの位置だけ変更できるようです。つまり画面上で右半分だけしか操作できないのです。慣れるまで全然思い通りに動いてくれませんでした。

そういえば、本作でいう”カップル”は男女の組み合わせのみです。同性の組み合わせがあったら難易度が爆上がりしていたと思うので助かりました。
ゲーム内でいう”カップル”の定義もしっかり提示されるのでそこに悩むことはありません。ゲームとして楽しみやすくなっていると思います。



本作のエンディングは2種類あります。
1周目はTRUE ENDは無理なので普通に頑張ってエンディングまで行きましょう。クリアデータを使えばTRUE END回収は難なくできるはずです。ある真実が明らかになるTRUE ENDでは、ヒトリの最後の行動が180度変わります。ヒトリの苦労が報われるのか、ぜひいろいろ試して頑張ってみてくださいね。
どちらのエンディングでもラブコメの王道的な展開で楽しい気分で終えられる後味の良い作品となっています。

それでは。

こんにちは。今回はアザラシの寝言さんの「その後の世界」のレビューをお送りします。

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ジャンル:ファンタジーRPG
プレイ時間:4~5時間程度
分岐:なし
ツール:RPGツクール
リリース:2020/6
(9/16追記:本作のスマートフォンアプリ版が公開されました。Android版/iOS版)

本作「その後の世界」は、記憶をなくして地面に倒れていた主人公(名前任意)とどうやら同じ境遇らしい少女リトが、自分たちが何者なのか、この世界は何なのかを求めて冒険していくファンタジーRPGとなっています。


まずはシステムについて説明していきましょう。
主人公とリトは一緒に冒険し、敵モンスターと戦闘していくことになるのですが、プレイヤーが操作できるのは主人公だけになります。リトはランダムで敵に攻撃行動をしてくれます。そして敵からの攻撃も受けることもないため、パーティーメンバーというより支援キャラという方が近いかもしれません。
ただしリトについても装備は自由につけ外しすることができます。物理攻撃特化もよし、魔法攻撃特化もよしです。攻撃を受けないため防御系は無意味なことに気を付けましょう。私のお勧めはMPを気にする必要がないためリトを魔法攻撃担当に、主人公を物理攻撃担当にすることです。


マップ上では常に右上に縮小マップが表示されていて、探索の手助けになります。見たことのある範囲は明るく、まだ見たことのない範囲は暗く表示されるうえ、回復ポイントやマップ移動ポイント、話しかけられる対象なども示されるのでかなり探索がしやすくなります。マップは総じて広い(特にアダチ平原などは非常に広大)なため、Shiftダッシュと並んでこの機能には大変お世話になります。


もう一つ本作の特徴的なシステムとして、クエストが挙げられます。QUESTマークがついた対象に話しかけると、ちょっとした依頼を受けることができます。特定のボスの討伐だったり、アイテムの収集だったりと様々ですが、どれも達成すると強めの報酬がもらえます。依頼は同時にいくつでも受けられますし、時間制限などもないので見つけたらとりあえず話を聞いて受けちゃいましょう。
全体攻撃魔法だったり強力な装備だったりと、実質クリアに必須級の報酬も多いうえ、最大HPやMPが少しアップするという効果もあるのでどしどし解決していきましょう。
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時々このクエスト系の要素がだるい作品もありますが、本作では報酬が豪華・クエスト中に世界観への理解につながるイベントがあるなどのため、やらされている感がなく最後まで楽しめました。
経験値稼ぎにもちょうどいいです。クエストを受けるおおよその場所が開示されているのも親切ですね。


戦闘バランス的な面でいうと、本作は回復が自由にできないため細かなセーブなどが要求されてくるタイプだと思います。回復は焚き火の地点でしかできませんが、セーブはマップ上どこでも可能なのでこまめにやりましょう。ショップで回復アイテムを買いためておくのも重要です。
また、魔法は全6種類覚えられますが、強力な魔法などはなく全て属性・攻撃範囲違いのものなので、戦闘中の行動戦略よりは装備・ステータスの方が重要になってきます。武器・指輪・お札の相性をしっかり考えて装備していくとよいです。その分戦闘自体は単調かなあという印象を受けました。
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さて、本作のシナリオですが、ボスを倒していくのはもちろん、様々なところに散らばっている"記憶石の欠片"を拾うことで進んでいったりもします。この世界に生きた誰かの記憶をのぞき見することで、過去に何があったのか、魔王の正体は何だったのかなどについて知っていくことができます。
この作りが上手くて、記憶石を集めるために探索したりボスに挑んでいくモチベーションにもなりました。上述した戦闘システムになっている理由付けもシナリオの中にきっちりあって納得感もあります。
ただ記憶を1回見ると石が飛び散ってしまうため再度見ることができないのは何とかならないかなと思いました。続けてみるなら覚えているかもしれませんが、本作ではマップ探索中に断片的な情報が手に入るというシステムなので全部覚えておくのは不可能に近いんじゃないかなと思います。記憶回想モードが切実に欲しいところです。

このシナリオの内容はほのぼのとした全体の雰囲気に比してショッキングというか、暗めの内容になっています。世界が壊れてしまったいきさつなどもなかなか悲しいですが、後味悪い系の展開ではないのでそこはご安心ください。ラスボス倒した後の最後のシーンもこれまでの要素を活かした上手い作りになっていて感動的になっていると思います。



そんな本作には続編がありまして、「かえりみち~続・その後の世界」というタイトルになっています。基本システムは本作と同じですが、主人公たちがケモノ少女になっています。前作の主人公たちも登場し、舞台となる場所も重複していますが一体その後何があったのか、またしても記憶の無い主人公たちが帰るべき場所を見つけられるのかに注目です。メッセージウィンドウが追加されるなどの進化も見られますよ。
ちなみに、前作の知識がないと話が分からないと思うので、おとなしく順番にプレイしてください。プレイ時間は5時間前後、2作合わせて10時間といったところでしょう。
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というわけで「その後の世界」のご紹介でした。
自作の音楽によるBGMも魅力的で、細やかな配慮が嬉しい作品です。ぜひプレイしてみてください。

こんにちは。今回は五目さんの「たまごがえり」のレビューをお送りします。

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ジャンル:ほのぼの系SRPG
プレイ時間:第1部で4時間弱、総計10時間くらい
分岐:なし
ツール:SRPG Studio
リリース:2019/2~(記事執筆時点で最終更新は2023/2)



今回紹介する「たまごがえり」はかなり多くの要素がある作りこまれたシミュレーションRPGとなっています。
まず本作のシナリオについてですが、「ハンプティ編」と「たまごがえり編」の2本から構成されています。どちらからでも開始できますが、チュートリアルが丁寧で物語も完結しているハンプティ編から始めることをお勧めします。


ハンプティ編は計13章からなる完結した物語で、自分に自信がなかった主人公のハンプティが”勇気のたまご”を手に入れるために冒険しながら成長していくというストーリーになっています。

作品タイトルにもなっている「たまごがえり」とは、この地域に伝わるお祭りの名前です。地域の子供たちが”愛のたまご”や"知恵のたまご"などの感情のもとになるたまごを集めて大人になっていく、という通過儀礼のような意味があるそうです。

しかしお祭りのために用意されていた”勇気のたまご”が山賊に盗まれてしまいます。村長である父親に「お前には勇気が足りない」と言われているのを気にしていたハンプティは、メイドのリーベの助言もあって山賊に奪われた勇気のたまごを取り戻す旅に出るのでした。
子供のころの出来事から自分は臆病者だと思い込んでいて、父親から村長を継ぐのに必要な決断力も持ち合わせていなかったハンプティがリーベの助言を受けながら成長し、自らの意思で村を守り無法者には制裁を行うと判断していくのは気持ちいいところですね。

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「たまごがえり編」では、ハンプティ編では概要しか触れられなかったお祭り、”たまごがえり”について、参加する子供たちの立場で物語を進めていくことになります。主人公のリナは両親にたまごがえりに行ってくるように言われ、友達のパピー・ルーシーとともに武器を持って冒険に出かけます。
アルジャンテ先生のいう通り、しっかりとたまごを集めていく良い子たちだった彼女らですが、次第にお祭りそのものの意義について疑問を持つようになります。通過儀礼のためのもの、というふんわりした理解だけで進むには危険が多すぎる旅だったのです。なにやら知っている風の怪しげな少女ソウラスの謎の忠告も手伝い、リナはアルジャンテ先生にたまごがえりの真の目的を尋ねます。帰ってきた答えは大変にショッキングなものでした…

以降、物語はリナだけのものからソウラスやその母親、たまごがえりに関する宗教などかなり大きな内容となってきますが、このシナリオは現在更新中となっていてまだ完結していません。今年2月の最新版では21章までプレイできます。リナとソウラスが再会する感動的な部分ですが、この先が気になりますね。全てのたまごが揃ったので物語は最終盤なのは確かですが、あとはアルジャンテ先生との関係がどうなるのか、更新を待ちたいところです。


戦闘部分を見ていきましょう。
基本的なシステムは一般的なSRPGと一緒で、ユニットに武器を装備させてマップ上で敵ユニットと戦っていきます。敵ユニットに接近し、武器固有の間合いまで詰めたら攻撃できます。本作は遠距離攻撃が少ないのが特徴的ですね。物理武器はほぼ射程1、投てき可能だったり弓矢だと射程1~2になります。魔法武器もほぼ全て射程1~2で、極まれにそれ以上の遠距離攻撃が可能な魔法があります。
射程が短い攻撃ばかりだとマップ上の移動に時間がかかってじれったいことがありますが、本作では移動力が高めの設定なのでそこは気にならないでしょう。

この基本的な要素以外にも本作はかなり多くの要素が詰め込まれています。
例えば武器の相性。剣・斧・槍はいわゆる3すくみとなっており、弱点を突くと攻撃力や命中率にボーナスが乗ります。ボーナス値は小さめなので、特に序盤で気にするべき要素でしょう。

武器の種類はかなり豊富です。剣だけとっても最弱のショートソードから鋼の剣、金の剣のような特殊効果を持たないものだけで数種類。特定の属性の相手に特効があったり、2回攻撃だったり投てき可能だったりと軽く10を超える種類があります。レベルアップによるステータス上昇より武器の能力値の方が大きいバランスとなっているため、強い武器を手に入れたら忘れずに装備しておきましょう。
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戦闘アニメーションもきちんと武器ごとに変わるなど、相当手が込んでいると感じられます。

各ユニットは5つまでしかアイテムを所持できません。あふれたものはストックに送ることになります。SRPGでは割と一般的な所持数かと思いますが、本作では武器の耐久力の概念があるため所持枠のやりくりにやや苦労しました。

また、マップ上で隣り合うユニットとアイテムを交換できるシステムはなかなか面白いでしょう。
宝箱から出てきたけど装備できない武器を、それを使える人に渡すなどの行動が可能になります。


本作の難しいところの1つに、面をクリアしたら自動的に次の章に進んでしまうため、既にクリアしたステージで経験値稼ぎをすることができない点があります。なるべく効率的に経験値を取得できるように敵を残さず倒しながら進めていくと、後々が楽になります。
勝利条件や敗北条件が特殊なステージもあるので、その辺も確認しながら進めていきましょう。


マップ上の各地点で特殊効果がある場合があるのも面白いですね。チュートリアルで触れられていなかったので気付くのに時間がかかりましたが、例えば森林地帯では回避率に20ポイント、高山では30ポイントの補正がかかります。むやみに進軍せず敵より有利なポジションで戦闘するなどの戦略が選択肢に入ります。

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戦闘バランスにおいて一つ不満があるのはクリティカルヒットの仕様です。何と本作のクリティカルは通常の3倍ダメージと非常に強力。自分が出す分にはいいのですが、敵から食らう時も容赦なく3倍ダメージになるため、運悪くクリティカルを食らって主要ユニットが1撃KOなんてことが多発します。1.5~2倍くらいが適正じゃないですかね。
武器によってクリティカル率にも補正があるのは差別化のために良い要素だと思います。



というわけで、本ブログでは初のSRPGレビューとなりました。
是非プレイして、細かいグラフィックや戦闘アニメーションまでの作り込みようを感じてください。そしてたまごがえり編の完結を待ちましょう。

それでは。

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