フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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ファンタジー

こんにちは。今回はパルソニックさんの「決戦前のヒトリ~主人公以外全員『カップル』がいるアドベンチャー~」のレビューをお送りします。

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ジャンル:ラブコメ推理パズル?
プレイ時間:私の初見プレイでTRUE ENDまで1時間半
分岐:エンディング2種
ツール:RPGツクール
リリース:2022/9


さて、本作の作者であるパルソニックさんと言えば、有名作「かわいいは壊せる」でお馴染みです。(私もそのうちプレイしなきゃな~と思っていつつ実はまだプレイしていないのです)
ある日ふりーむをいろいろと探索しているとき、たまたま本作が目に入りました。論理パズルは割と好き(得意分野でもある)ので興味を惹かれ、作者名を見ると見覚えのある方だったのでびっくり。早速ダウンロードしてプレイしてみたところ、バカゲーに見えてかなりよく練られた作品だったので今回ご紹介しようと思います。



いつものように本作の大まかな内容を最初にお話ししましょう。

主人公であるヒトリは最強の勇者。姫であるヒロを救うための冒険を続け、ついに魔王との対決に挑みます。ところが最強であるヒトリの力もわずかに及ばず、捨て身の攻撃でも魔王をしとめるには至らずに負けてしまいます。
そんなときに突然現れたのは神を名乗る人物。”世界の真実”を解き明かせばヒトリを生き返らせてくれると言います。当然その条件をのんだヒトリでしたが、要求されていたことはなんと、この世界において誰と誰がカップルであるかを全て突き止めることだったのです。
誰と誰が付き合っているのか、怪しいところを調べて証拠をつかみ、世界の真実を見つけ出せるのか、ヒトリの第2の冒険が始まる……

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というわけで本作は推理ゲームとなっています。
魔王との決戦前夜、パーティーを組む仲間たちや村に住む人々の家を探っていく勇者のヒトリ。勇者というよりは泥棒みたいです(普通のRPGでも割とよくある光景ですが…)。そして翌朝には村人たちも起きて活気のある村を再度探索、会話などからヒントを探っていきます。一見ラブラブに見える2人が本当にカップルであるのか、あの家に住んでいるのは誰なのか、誓いのアイテムを持っているのは誰なのか……、いろいろ考えることがあってこの推理部分が良くできている作品だと思いました。

特に、本作においては魔王戦後の答え合わせで間違えると再度神に決戦前夜まで戻されるループシステムを採用しています。このシステムがなければ解けないような謎が仕掛けられているのが上手いなと思ったポイントでした。翌朝手に入るはずの情報をもって夜のうちに行動を起こすとどうなるのか、夜と朝で会話内容の整合性をとるにはどういった前提が必要なのかなど考えながら進めていきましょう。
RPGツクールのシステムもうまく生かしていて良いですね。

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という感じで、推理部分がなかなか難しめに作られています。ミスリードを誘う展開もあったりして、1度や2度では正解にたどり着けないでしょう。(私は5答目で正解しました)

しかしこのあたりの推理の苦手な方でも安心な要素として、神からのヒントがあります。2度目以降誤答するごとに1つヒントがもらえます。そのまま答えがもらえるわけではありませんが、ヒントの通りに行動してみれば決定的な場面に立ち会うことができるでしょう。



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さて、本作のゲーム部分は今まで書いてきたように結構真面目に作られており、解きごたえがあるのですが、全体的な雰囲気を見るとかなりふざけています。神様の俗っぽい言葉遣いだったり、自分一人だけ相手のいないヒトリが嫉妬に狂ったり、分かりやすすぎるすれ違いカップルだったりには苦笑させられたりも。ループものにおいて主人公が過去の周回の経験をもとに現在の状況についてツッコむというパターンは多いですが、それがこんなに笑える作品は珍しいと思います。

さらになんとおしがまイベントあり(特にそれがメインとかじゃないです)。こんなクレジット表記初めて見ましたよ…(笑)
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ちょっと気になる点について。内容というか宣伝文句についてなんですが、「論理パズル」というのとはちょっと違うかなと思いました。私が最初に見たときはそのように紹介されていて、論理パズルだったら得意分野だなと思って手を出したのですが、本作はサスペンス・探偵もの寄りなので期待していたものとちょっと違いました。論理パズルというと、Dominion's Restさんの「魔女っこと封印の石版」ですとか、にほへさんの「ミミックロジック」などを思い浮かべます。こうしたゴリゴリのパズルとは違った作品でしたが、別の意味での面白さは十分にあったので結果オーライです。

あと、解答画面の操作方法がやや直感的じゃないかなと感じました。男性キャラの位置はデフォルトのまま変更できず、女性キャラの位置だけ変更できるようです。つまり画面上で右半分だけしか操作できないのです。慣れるまで全然思い通りに動いてくれませんでした。

そういえば、本作でいう”カップル”は男女の組み合わせのみです。同性の組み合わせがあったら難易度が爆上がりしていたと思うので助かりました。
ゲーム内でいう”カップル”の定義もしっかり提示されるのでそこに悩むことはありません。ゲームとして楽しみやすくなっていると思います。



本作のエンディングは2種類あります。
1周目はTRUE ENDは無理なので普通に頑張ってエンディングまで行きましょう。クリアデータを使えばTRUE END回収は難なくできるはずです。ある真実が明らかになるTRUE ENDでは、ヒトリの最後の行動が180度変わります。ヒトリの苦労が報われるのか、ぜひいろいろ試して頑張ってみてくださいね。
どちらのエンディングでもラブコメの王道的な展開で楽しい気分で終えられる後味の良い作品となっています。

それでは。

こんにちは。今回はアザラシの寝言さんの「その後の世界」のレビューをお送りします。

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ジャンル:ファンタジーRPG
プレイ時間:4~5時間程度
分岐:なし
ツール:RPGツクール
リリース:2020/6
(9/16追記:本作のスマートフォンアプリ版が公開されました。Android版/iOS版)

本作「その後の世界」は、記憶をなくして地面に倒れていた主人公(名前任意)とどうやら同じ境遇らしい少女リトが、自分たちが何者なのか、この世界は何なのかを求めて冒険していくファンタジーRPGとなっています。


まずはシステムについて説明していきましょう。
主人公とリトは一緒に冒険し、敵モンスターと戦闘していくことになるのですが、プレイヤーが操作できるのは主人公だけになります。リトはランダムで敵に攻撃行動をしてくれます。そして敵からの攻撃も受けることもないため、パーティーメンバーというより支援キャラという方が近いかもしれません。
ただしリトについても装備は自由につけ外しすることができます。物理攻撃特化もよし、魔法攻撃特化もよしです。攻撃を受けないため防御系は無意味なことに気を付けましょう。私のお勧めはMPを気にする必要がないためリトを魔法攻撃担当に、主人公を物理攻撃担当にすることです。


マップ上では常に右上に縮小マップが表示されていて、探索の手助けになります。見たことのある範囲は明るく、まだ見たことのない範囲は暗く表示されるうえ、回復ポイントやマップ移動ポイント、話しかけられる対象なども示されるのでかなり探索がしやすくなります。マップは総じて広い(特にアダチ平原などは非常に広大)なため、Shiftダッシュと並んでこの機能には大変お世話になります。


もう一つ本作の特徴的なシステムとして、クエストが挙げられます。QUESTマークがついた対象に話しかけると、ちょっとした依頼を受けることができます。特定のボスの討伐だったり、アイテムの収集だったりと様々ですが、どれも達成すると強めの報酬がもらえます。依頼は同時にいくつでも受けられますし、時間制限などもないので見つけたらとりあえず話を聞いて受けちゃいましょう。
全体攻撃魔法だったり強力な装備だったりと、実質クリアに必須級の報酬も多いうえ、最大HPやMPが少しアップするという効果もあるのでどしどし解決していきましょう。
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時々このクエスト系の要素がだるい作品もありますが、本作では報酬が豪華・クエスト中に世界観への理解につながるイベントがあるなどのため、やらされている感がなく最後まで楽しめました。
経験値稼ぎにもちょうどいいです。クエストを受けるおおよその場所が開示されているのも親切ですね。


戦闘バランス的な面でいうと、本作は回復が自由にできないため細かなセーブなどが要求されてくるタイプだと思います。回復は焚き火の地点でしかできませんが、セーブはマップ上どこでも可能なのでこまめにやりましょう。ショップで回復アイテムを買いためておくのも重要です。
また、魔法は全6種類覚えられますが、強力な魔法などはなく全て属性・攻撃範囲違いのものなので、戦闘中の行動戦略よりは装備・ステータスの方が重要になってきます。武器・指輪・お札の相性をしっかり考えて装備していくとよいです。その分戦闘自体は単調かなあという印象を受けました。
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さて、本作のシナリオですが、ボスを倒していくのはもちろん、様々なところに散らばっている"記憶石の欠片"を拾うことで進んでいったりもします。この世界に生きた誰かの記憶をのぞき見することで、過去に何があったのか、魔王の正体は何だったのかなどについて知っていくことができます。
この作りが上手くて、記憶石を集めるために探索したりボスに挑んでいくモチベーションにもなりました。上述した戦闘システムになっている理由付けもシナリオの中にきっちりあって納得感もあります。
ただ記憶を1回見ると石が飛び散ってしまうため再度見ることができないのは何とかならないかなと思いました。続けてみるなら覚えているかもしれませんが、本作ではマップ探索中に断片的な情報が手に入るというシステムなので全部覚えておくのは不可能に近いんじゃないかなと思います。記憶回想モードが切実に欲しいところです。

このシナリオの内容はほのぼのとした全体の雰囲気に比してショッキングというか、暗めの内容になっています。世界が壊れてしまったいきさつなどもなかなか悲しいですが、後味悪い系の展開ではないのでそこはご安心ください。ラスボス倒した後の最後のシーンもこれまでの要素を活かした上手い作りになっていて感動的になっていると思います。



そんな本作には続編がありまして、「かえりみち~続・その後の世界」というタイトルになっています。基本システムは本作と同じですが、主人公たちがケモノ少女になっています。前作の主人公たちも登場し、舞台となる場所も重複していますが一体その後何があったのか、またしても記憶の無い主人公たちが帰るべき場所を見つけられるのかに注目です。メッセージウィンドウが追加されるなどの進化も見られますよ。
ちなみに、前作の知識がないと話が分からないと思うので、おとなしく順番にプレイしてください。プレイ時間は5時間前後、2作合わせて10時間といったところでしょう。
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というわけで「その後の世界」のご紹介でした。
自作の音楽によるBGMも魅力的で、細やかな配慮が嬉しい作品です。ぜひプレイしてみてください。

こんにちは。今回は五目さんの「たまごがえり」のレビューをお送りします。

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ジャンル:ほのぼの系SRPG
プレイ時間:第1部で4時間弱、総計10時間くらい
分岐:なし
ツール:SRPG Studio
リリース:2019/2~(記事執筆時点で最終更新は2023/2)



今回紹介する「たまごがえり」はかなり多くの要素がある作りこまれたシミュレーションRPGとなっています。
まず本作のシナリオについてですが、「ハンプティ編」と「たまごがえり編」の2本から構成されています。どちらからでも開始できますが、チュートリアルが丁寧で物語も完結しているハンプティ編から始めることをお勧めします。


ハンプティ編は計13章からなる完結した物語で、自分に自信がなかった主人公のハンプティが”勇気のたまご”を手に入れるために冒険しながら成長していくというストーリーになっています。

作品タイトルにもなっている「たまごがえり」とは、この地域に伝わるお祭りの名前です。地域の子供たちが”愛のたまご”や"知恵のたまご"などの感情のもとになるたまごを集めて大人になっていく、という通過儀礼のような意味があるそうです。

しかしお祭りのために用意されていた”勇気のたまご”が山賊に盗まれてしまいます。村長である父親に「お前には勇気が足りない」と言われているのを気にしていたハンプティは、メイドのリーベの助言もあって山賊に奪われた勇気のたまごを取り戻す旅に出るのでした。
子供のころの出来事から自分は臆病者だと思い込んでいて、父親から村長を継ぐのに必要な決断力も持ち合わせていなかったハンプティがリーベの助言を受けながら成長し、自らの意思で村を守り無法者には制裁を行うと判断していくのは気持ちいいところですね。

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「たまごがえり編」では、ハンプティ編では概要しか触れられなかったお祭り、”たまごがえり”について、参加する子供たちの立場で物語を進めていくことになります。主人公のリナは両親にたまごがえりに行ってくるように言われ、友達のパピー・ルーシーとともに武器を持って冒険に出かけます。
アルジャンテ先生のいう通り、しっかりとたまごを集めていく良い子たちだった彼女らですが、次第にお祭りそのものの意義について疑問を持つようになります。通過儀礼のためのもの、というふんわりした理解だけで進むには危険が多すぎる旅だったのです。なにやら知っている風の怪しげな少女ソウラスの謎の忠告も手伝い、リナはアルジャンテ先生にたまごがえりの真の目的を尋ねます。帰ってきた答えは大変にショッキングなものでした…

以降、物語はリナだけのものからソウラスやその母親、たまごがえりに関する宗教などかなり大きな内容となってきますが、このシナリオは現在更新中となっていてまだ完結していません。今年2月の最新版では21章までプレイできます。リナとソウラスが再会する感動的な部分ですが、この先が気になりますね。全てのたまごが揃ったので物語は最終盤なのは確かですが、あとはアルジャンテ先生との関係がどうなるのか、更新を待ちたいところです。


戦闘部分を見ていきましょう。
基本的なシステムは一般的なSRPGと一緒で、ユニットに武器を装備させてマップ上で敵ユニットと戦っていきます。敵ユニットに接近し、武器固有の間合いまで詰めたら攻撃できます。本作は遠距離攻撃が少ないのが特徴的ですね。物理武器はほぼ射程1、投てき可能だったり弓矢だと射程1~2になります。魔法武器もほぼ全て射程1~2で、極まれにそれ以上の遠距離攻撃が可能な魔法があります。
射程が短い攻撃ばかりだとマップ上の移動に時間がかかってじれったいことがありますが、本作では移動力が高めの設定なのでそこは気にならないでしょう。

この基本的な要素以外にも本作はかなり多くの要素が詰め込まれています。
例えば武器の相性。剣・斧・槍はいわゆる3すくみとなっており、弱点を突くと攻撃力や命中率にボーナスが乗ります。ボーナス値は小さめなので、特に序盤で気にするべき要素でしょう。

武器の種類はかなり豊富です。剣だけとっても最弱のショートソードから鋼の剣、金の剣のような特殊効果を持たないものだけで数種類。特定の属性の相手に特効があったり、2回攻撃だったり投てき可能だったりと軽く10を超える種類があります。レベルアップによるステータス上昇より武器の能力値の方が大きいバランスとなっているため、強い武器を手に入れたら忘れずに装備しておきましょう。
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戦闘アニメーションもきちんと武器ごとに変わるなど、相当手が込んでいると感じられます。

各ユニットは5つまでしかアイテムを所持できません。あふれたものはストックに送ることになります。SRPGでは割と一般的な所持数かと思いますが、本作では武器の耐久力の概念があるため所持枠のやりくりにやや苦労しました。

また、マップ上で隣り合うユニットとアイテムを交換できるシステムはなかなか面白いでしょう。
宝箱から出てきたけど装備できない武器を、それを使える人に渡すなどの行動が可能になります。


本作の難しいところの1つに、面をクリアしたら自動的に次の章に進んでしまうため、既にクリアしたステージで経験値稼ぎをすることができない点があります。なるべく効率的に経験値を取得できるように敵を残さず倒しながら進めていくと、後々が楽になります。
勝利条件や敗北条件が特殊なステージもあるので、その辺も確認しながら進めていきましょう。


マップ上の各地点で特殊効果がある場合があるのも面白いですね。チュートリアルで触れられていなかったので気付くのに時間がかかりましたが、例えば森林地帯では回避率に20ポイント、高山では30ポイントの補正がかかります。むやみに進軍せず敵より有利なポジションで戦闘するなどの戦略が選択肢に入ります。

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戦闘バランスにおいて一つ不満があるのはクリティカルヒットの仕様です。何と本作のクリティカルは通常の3倍ダメージと非常に強力。自分が出す分にはいいのですが、敵から食らう時も容赦なく3倍ダメージになるため、運悪くクリティカルを食らって主要ユニットが1撃KOなんてことが多発します。1.5~2倍くらいが適正じゃないですかね。
武器によってクリティカル率にも補正があるのは差別化のために良い要素だと思います。



というわけで、本ブログでは初のSRPGレビューとなりました。
是非プレイして、細かいグラフィックや戦闘アニメーションまでの作り込みようを感じてください。そしてたまごがえり編の完結を待ちましょう。

それでは。

こんにちは。今回はCALMFLAPさんの「私とあなたといた世界」のレビューをしたいと思います。

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ジャンル:学園恋愛ノベルゲーム(ややファンタジー)
プレイ時間:3時間
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2012/8
備考:製品版あり



私が本作を最初にプレイしたのは今から大体5年位前だったように記憶しています。今回たまたまDLsiteを見ていたら本作のフルボイス版を発見したので購入して久々にプレイしてみました。せっかくなのでレビューとしてご紹介しようと思います(メインシナリオはフリー版ですべてプレイできます)。


まずはあらすじを簡単にご紹介。

主人公の中原美世子は高校1年生。以前は生きることに希望を持てずにただ生きているだけの状態だったが、天文部の西園和人先輩に出会ってからは人を好きになることを知り、世界が色づき、生きていく価値を感じられるようになった。そんなある日、向日葵畑で不思議な少女と出会う。記憶も身元も定かでないけれど神々しいほどの美しさを持つ彼女に夏美という名前を付け、交流を深めていく。
夏美の成長に勇気づけられ、美世子は和人先輩に告白することを決意するのだった…

こんな感じでしょうか。


本作が恋愛ゲームであることは間違いないと思うのですが、それに加えて夏美という不思議な存在が本作の核心に関わってくるのが面白い作品になっていると思います。

高校生ぐらいの見た目でありながら記憶も常識もなく空気も読めなかった夏美に対し、美世子はいろいろなことを教えてあげます。学校は勉強をするところ、部活の仲間たちがいること、……、そして何かを好きになるということ。最初のうちは美世子が和人先輩のことを好きと言っても全くぴんと来ている様子の無かった夏美ですが、美世子と一緒に学校に通い、和人先輩やその妹のエリちゃん、大野先輩ら天文部のメンバーと喋っていくうちに、楽しいとか嬉しいとか、寂しいとか、そして人を好きになることとはどんなことかを学んでいきます。
相変わらず空気は読めないままですが、様々なことを吸収して人間らしい感情を手に入れて成長していく夏美を見て、美世子も一歩前に進む勇気を手に入れていきます。このようにお互いに影響を与えて前に進んでいくのが気持ちいいんです。

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美世子は夏美を成長させていくことについてとても意欲的です。はっきりした感情の感じられなかった夏美が生きていくことの楽しみを知る過程をこうも献身的にサポートすることができたのは、美世子が和人先輩を好きになったきっかけに関係があるようでした。
母親によるネグレクトがあり、自分が生きていることに価値を見出せず、あらゆる物事を無視することで生き延びてきた美世子が初めて他人に受け入れられたという経験をさせてくれたのが和人先輩だったのです。ここで美世子は、何かを好きになるだけで世界がこんなにきれいに見えるんだということを学びます。本来は親が真っ先に与えてあげるべき経験ができなかった美世子ですが、和人先輩に出会えたことは運がよかった。
感情を持たずに生きていく絶望と、人を好きになることを知った後の希望を知っている美世子は夏美のことが他人事に感じられなかったのかもしれません。ここがかみ合って、登場人物がみんなで成長していける点は本作の魅力の1つとなっているでしょう。
ただ母親との関係が冷え切っていることについては分かりますが、現在一緒に暮らしている祖父母との関係がどうなのかが全く見えてこないのはやや残念に思いました。本来なら彼らがまず先に心のケアに回るべきだと思うんですがね…



そして終盤には美世子の告白シーンがあるわけですが、これが非常に印象的なシーンとなっています。
正直5年前にプレイしただけだったので細かい部分はかなり忘れていて、夏美の処遇や病院での出来事などは記憶になかったのですが、この告白シーンに関しては細部までほとんど覚えていました。

恋愛ゲームはこの世に数多ありますが、告白シーンにこれより時間を割いている作品が果たしてどれくらいあったでしょうか。さらっとかっこよく告白して晴れて恋が成就する作品が多い中、本作では美世子がどうやって決意し、勇気を振り絞って言葉を発しているかが克明に描かれています。生きる希望を与えてくれたような相手であるからこそ、軽々しく伝えられるような気持ちではなかったのです。私も心の中で夏美と一緒になって応援してしまいました。

そしてこの告白シーンになって初めて美世子の(正面の)イラストが登場します。この終盤の重要シーンで初めて主人公のビジュアルを明かす手法は作者さんの得意技なのでしょう。「彼女の嘘の止まった世界」や「箱庭のうた」でも同様の演出がありました。これもまた告白シーンのインパクトを高めているでしょう。
ちなみに「箱庭のうた」では若干世界観がつながっているようで、本作でも登場した大野先輩が大暴れします。いつもあんなにふざけているのに大切なところで適切なアドバイスをくれる、サポートに回ってくれるのが好きですね。本作でキャラクター的に最も印象深いのは彼でした。
そういえば「箱庭のうた」でこなみが着ているTシャツに夏美のと似ているものがありますね。関係あるんでしょうか? またセリフだけですがエリちゃん(西園妹)も登場してますね。



さて、最後に製品版の紹介をしておきましょう。
これまでのレビューの内容は全てフリー版に収録されておりフリーゲームとして完成していますが、本作にはボイスとおまけシナリオを追加した製品版が存在しています。ボイスの音質にやや難ありかなと感じましたが可愛らしい声ですし、おまけシナリオでは和人先輩についてのエピソードが読めます。夏美と”暗い世界”に関する補足もあるので、フリー版を気に入った方ならぜひプレイしてほしい内容となっています。


それでは。

こんにちは。今回はBlu Lunettaさんの「チェックメイト」のレビューをお送りします。

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ジャンル:童話絵本風ダークメルヘンサウンドノベル(公式サイトより引用)
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:Light.vn
リリース:2017/9


上のスクリーンショットやタイトルからお分かりと思いますが、今回ご紹介する「チェックメイト」はチェスがモチーフになっている作品です。白黒メインで描かれたタイトル画面の雰囲気は作中全体を通して続き、童話風、寓話風の印象を強く残してくる作品となっています。
また、本作はside:whiteとside:blackの2本の短編からなるオムニバス形式となっています。


2本の短編は完全に独立しているのでどちらから読んでもいいですが、私はside:whiteから読み始めました。
whiteは白の国と黒の国の間で続いていた戦争のお話です。白の国は真実と平等の国。嘘をつくことは重い罪と見なされます。黒の国は嘘と力の国。強いものが支配し、人々は自由に己の力を競っていました。

仲の悪い2つの国はずっと戦争を続けています。終わらない戦渦にしびれを切らした白の国のクイーンは、直接黒の国に出向いて黒のキングに直談判を企てます。しかし彼女が黒の国へ実際に行ってみると、戦いが好きで常に争っているというイメージとは全く違う姿が広がっていたのです。パレードでにぎわう大通りは、人々の笑顔と音楽であふれています。黒の国の人々に話を聞くと、戦争を終わらせてくれないのはむしろ白の国のキングの方だと口を揃えて言っています。

白のキングから聞いていた話と自分の目で見た姿が一致していないことにクイーンは戸惑いを隠せません。白と黒、真実と嘘つき。言葉を聞いたら普通は白の方がよいと思うでしょう。しかし白の国が白のままでいられたのは、嘘をつくこと自体が重い罪となるというある種の恐怖政治の結果だったのです。

この展開が大変に寓話的で良かったです。絵本風のイラストや手書き風フォントも雰囲気づくりに貢献していますね。クイーンと白の国の行く末も白と黒というイメージを活かした結末だと思うのでぜひ皆さんで確かめてみてください。5分から10分くらいの掌編です。


ではside:blackの話に移りましょう。舞台はガラッと変わってチェスの腕がすべてをいう国になります。ある平民の家に大変美しい少年がいました。彼はとある子爵に見初められて養子となります。しかしその子爵が若くして病に倒れ、少年はわずか13歳で子爵の家を継ぐことになります。
しかし少年に当主の立場は荷が重く、ほとんどのことを秘書に任せて気ままな生活を続けるのでした。

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そんなある日伯爵家の令嬢が屋敷を訪れ、爵位継承祝いの夜会に誘われます。平民出身で貴族の付き合いや権力争いに巻き込まれたくなかった少年は一度は断るのですが、結局は出席せざるを得なくなります。

実はこの夜会出席までの間で少年と秘書の間でひと悶着あるのですが、その描き方が結構良かったです。ただの平民であった少年がいきなり子爵の跡継ぎとなったことについて、良く思わない人がいるのではないかという懸念は自然なものです。しかしそのために揺らいだ秘書への信頼を回復するために本作の重要な設定である"チェスの腕ですべてが決まる"という世界観が生きています。

しかしその夜会において令嬢は少年に何か意味深な忠告を残し、その後何と射殺されてしまいます。その時の秘書の様子や後日訪ねてきた伯爵家の執事の話を総合すると、再び秘書が味方であるかどうか疑わしいと言わざるを得ない状況となってしまいます。

このように誰が味方で誰が敵か、信用できるものが何かが目まぐるしい速度で入れ替わっていくのが本作の特徴と言えるでしょう。side:whiteでもそうでした。なるほどチェスの白と黒という色からの連想として理解できます。この後さらに皇太子とのやり取りで少年は心を揺さぶられることになるのですが、それはぜひ皆さんの目で確かめてください。

side:blackにおいてはさらに時折スチルが挟み込まれます。普段は黒ともう1色程度で表現されたシンプルな背景と影絵だったのが、重要なシーンでカラーのスチルになると大変印象に残ります。効果的な演出法だったように感じました。

またside:blackの方はside:whiteよりかなり長く、30分程度のボリュームがあります。どちらもその尺の中で良くまとまったシナリオになっていると思います。担当されたライターさんが異なるようですが、そうは見えない統一性というかまとまりが感じられたのも良かったです。

本作をプレイしていて少し気になったのはフォントです。手書き風で絵本チックな世界観の演出には一役買っていて、実際side:whiteを読んだときにはいいなあと思っていたのですが、side:blackくらいの尺があるとやや読みにくいなという気持ちになってしまいました。またblackくらいの尺になってくると全ての登場人物が肩書で呼ばれ、名前が一切登場しないのは少し寂しいでしょう。
あとは動作の安定性がやや低いところでしょうか。素早くクリックするとたまにソフト自体が落ちてしまいます。Light.vnはやや珍しいツールかと思いますので、デフォルトの操作に慣れるまではすこし大変でした(マウスホイール操作でログに入れない、SKIP/AUTO解除には右クリックしなくてはいけないなど)。


本作にはwhite、blackともにボイスが付いているのですが、クレジット等を拝見するになんと全て一人の方が担当されているということで驚きました。男性の役も女性の役もあるのですが、きちんと演じ分けられていてすごいですね。すべて聞くとプレイ時間はかなり長くなると思います。


ちなみに本作の中でたまにチェスに関する用語などが登場しますが、特にチェスを知らない方が読んでも問題なく楽しめるはずです。一応知識があるとより分かりやすい箇所もありますので少しだけご紹介。
  • ポーン
    前に1マスだけ進める最も弱い駒。将棋でいう歩兵に相当。実際には特殊なルールが多くてもう少し複雑ですが、本作を読むうえではこれで十分です。
  • アイソレーテッドポーン
    文字通りポーンが1つだけ孤立している状態。ポーンは斜めにつながっていると前列のポーンを後列のポーンが守ることができ効率がいい(ポーンチェーン)と言われているが、孤立してしまうと守ってくれるポーンがいなくなってしまう。
  • プロモーション
    ポーンは敵陣最奥に進むと好きな駒に変化することができる。将棋でいう成りに相当。最強の駒であるクイーンにすら成れるので非常に強力
  • 先手・後手
    チェスにおいては白を持ったプレイヤーが初手を着手する。囲碁やオセロや五目並べ(連珠)では黒が先番なのとは逆である。
こんな感じでしょうか。

全体として出来上がった世界観が素敵な作品ですのでぜひプレイしてみてください。
それでは。

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