フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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ファンタジー

こんにちは。今回は知内ひろさんの「RPGスクール」をレビューしたいと思います。

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ジャンル:学園ものファンタジーRPG
プレイ時間:1周5~6時間程度
分岐:多数。エンディング30種
ツール:RPGツクール
リリース:2021/2


本作はTwitterでも少しだけ感想書きました。作りこみがすごいなあと感じられる作品だったので、ブログの方でも取り上げます。

タイトルを見ても分かる通り、本作は学校が舞台となっています。冒険者を育成するための学校ですね。後述しますが、この設定がきちんと生かされ学園ものADVの魅力とファンタジーRPGの魅力が上手く融合した楽しさを生み出しています。

主人公の名前はアレリス(名前変更可、性別、ジョブも自由に選べる)。立派な冒険者になるためにRPGスクールに入学します。そんな彼の同級生となるのは属性もジョブもばらばらの6人。卒業までの1年間の間で彼らと授業を受けたりダンジョンに出向いたりして冒険者として成長していきます。

本作のシステムの基本はRPGですが、敵を倒して経験値を得てレベルアップして……というような一般的なRPGとは少し違うシステムとなっています。ダンジョン探索は通常のシンボルエンカウント、戦闘はターン制コマンド選択式のフロントビューでごく王道なのですが、アレリスや学友たちにはレベルという概念はありません。平日にスクールで授業を受けると、受けた授業に対応するステータスが直接アップしていきます。また、ダンジョンで戦闘に勝利すると経験値を得る代わりに一定の確率でステータスがアップします。放課後に学友と訓練をしたりすることでも上昇可能です。本作においてステータスをアップしていく方法は基本的にこの3つのみとなります。

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いまさらっと"平日"と書きました。ファンタジーRPGで厳密にカレンダーに従う作品は珍しいと思いますが、本作には独自の暦が存在しています。1年は10か月、1か月は6日からなり、そのうち4日間が平日で、スクールの授業や課外学習などが行われます。放課後にはちょっとだけ自由行動ができます。残りの2日は休日であり、午前・午後ともに自由に行動できます。道具屋や図書館でアルバイトしてお金を稼いだり、ダンジョンに潜ってステ上げや宝箱漁りをしたり、同級生と公園でデートも可能です。このあたり、完全にカレンダー消化型恋愛ADVなんですよね。

さらに、学友6人にはそれぞれ"好感度"のようなシステムがあります。メニューから生徒一覧を見ているときにふと右上の方を見ると、"知り合い"とか"友達"とかの状態が表示されていることに気付きました。そして私は察するわけです。なるほど、これは絶対に各キャラクターごとのエンディングが存在しているな、と。
エンディングを一つ見ると、エンディング一覧と到達条件が明かされます。それを見た結果、確かに各キャラクターごとのエンディングは存在していました。しかも私の想像をはるかに上回っていたことに、ゲーム開始時に設定した主人公の性別が攻略対象と同性か否かで友情エンドと恋愛エンドがあるというではないですか! ほかにも特定のアルバイトを極めたエンディングとか、とにかく宝箱を開けまくったエンディングとか、総計30ものエンディングがあると知りめちゃくちゃ驚きました。2周目以降にはボーナスがつくとはいえ流石に全部見るのは厳しいですが、興味がある方はぜひいろんなエンディングを探してみてください。勇者ルートは特におすすめです。

本作がADV的にオイシイのは多彩なエンディングだけではありません。課外学習や資格試験でのチーム戦。一緒に戦闘の経験を積む中で少しずつ親しくなる様であったり、各キャラクターが抱えている悩みであったり因縁の相手であったりが戦闘の合間にきちんと語られます。そして一番は修学旅行です。思い出してみると修学旅行のシーンのあるフリーゲームってやったことなかったかもしれません。5年前に魔王に打ち勝ったといわれる勇者ゆかりの土地をめぐる修学旅行。ADV的にはもちろん、RPG的にも意義の深いイベントです。この修学旅行中にある人物のRPGスクール入学の背景が判明したりもするのですが、ちょっと意外で面白かったです。

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1年の最後にはRPGスクールの卒業試験が待っています。主人公を含め7人を2つのパーティーに分け、それぞれで敵を破っていく必要があります。各キャラクターの職業の特性や装備、属性をしっかり把握し戦闘力が偏らないような組み分けが必須となります。
そして最後の敵。ここでは7人中4人を前線で戦わせ、ターンごとに任意でメンバーを入れ替えることができます。数ターンごとにラスボスの持つ特殊効果が変わるので、それに合わせて力を発揮できるメンバーを選定していきます。全員で協力するという非常にわかりやすくて気持ちいいラスボス戦です。これまで一緒に訓練を積み、ダンジョンを乗り越え、強い武器を集めてきた成果を発揮する最適な場となります。難易度は、育成を怠らずにきちんとしたうえで属性などをしっかり理解しておけば難しくはないという程度です。


というわけで今回は「RPGスクール」でした。
ストーリー性が大変わかりやすく、イベントも良く練られている良作だと思います。登場する学友たちの性格も自信満々だったり控え目だったりツンデレだったりと多彩なので、きっとあなたの気に入るキャラも見つかるはず。

それでは。

こんにちは。今回はKITTENSさんの「マイ・スイート・トマト」をご紹介します。

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ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:オートプレイで45分ほど
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2004/9
備考:第11回ふりーむ!ゲームコンテスト健闘賞受賞作


本作はノベルゲームという形式になっていますが、その他のノベルゲームとはもはや違うジャンルなのではないかと思わせる特徴があります。言葉で書くとそのすごさがあまり伝わらないのですが、まず第一にグラフィックはすべて一枚絵からなります。つまり背景+立ち絵という構成はありません。そして第二にフルボイス。主人公のエミやその他の人物にも声があるのはもちろんのこと、なんとセリフではない地の文にまでボイスが入っているのです。これは他に見たことのない演出で、ノベルゲームをプレイしているというよりは、紙芝居による読み聞かせを聞いているような気分になります。そうした意味でも本作をプレイするときは、オートモードにすることをお勧めします。アニメーションも豊富についており、眺めるだけで見た目にも楽しい作品となっています。



本作を起動してすぐ、かわいらしいトマトちゃんの生活ぶりが紹介されます。トマトの形をした家でトマトの栽培をしていて、さらに採れたてのトマトを生み出す超能力も使えて、でもベジタブル村にはリンゴさんとパセリくんなどの天敵がいて……。しかし突然、「そんなものはいなーい!」と普通の女子中学生エミによってトマトちゃんのファンタジー世界は崩され、日常世界に戻されます。ふむふむ。どうやらこのエミちゃんがベジタブル村の物語の生みの親であるようだ…ということが分かってきます。
しかしこのエミちゃん、なんとトマトは大の苦手で味もにおいも食感も見た目も嫌い。ケチャップすら無理というので嫌い具合は相当です。

そんなトマト嫌いのエミちゃんがなぜトマトをモチーフにしたキャラクターを作ったのか、昔は好きだったけど何かトラウマができて嫌いになったのかなとか、トマトちゃんを作ったのはエミ本人ではなかったのかなとか気になってきますよね。結論から言うと、昔は好きだったというのが正解なのですが、その事件が問題です。すごく悲しいけど、めちゃくちゃよく起こりそうな出来事なんです。小学生ってこういうこと、すごくあると思うんです。決して、ものすごい悪意があってやっていることじゃない。単なるいたずらのつもりでしょう。しかしそのいたずらは、時にいたずらされた側に対し大きなトラウマを残します。ここのところが悲しすぎて、すごく印象的でした。

トマトちゃんの場合、事件になったのは漫画でした。しかし、同様のことはフリーゲーム界隈でも、もっと言えば創作関連の趣味全般でも起こりうることです。本作の事件に似た理由で創作をやめてしまったという方もいるでしょう。私はこうしてレビューを書いている程度にはフリーゲームが好きなので、作者さんが筆を折ってしまうのは寂しいことです。

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そして創作活動を停止することに伴って悲しい思いをするのは作者や読者だけではありませんでした。ここがファンタジーである本作の見せどころです。トマトちゃんの創造主たるエミが止まってしまったことに伴い、作品は永遠に完結することがなくなりました。そうなったとき、キャラクターたちに人格があったら何を思うのか。ここもすごく良かったです。
ノベルゲームでもその他の媒体でも、心に残る作品ってすごくキャラクターが生き生きしてるんです。物語の都合で動かされているのではなく、キャラクター自身が自ら動き、感情を表現し、成長していきます。本作におけるエミとトマトちゃんはこの点で素晴らしかったです。ほのぼのとした物語を作ろうとしたが、その世界の人物は意外と大変な苦労をしていることに気付いたエミ。創作の"設定"に悩まされるトマトちゃん。物語の作者と作内の登場人物の邂逅というファンタジーの手法によって、彼女らの悩みが逆にリアルに、説得力をもって感じられ、素晴らしい作品に仕上がっていると思います。

ちょっと暗い感じになってしまいましたが、エンディングついてはしっかりと希望を持てる内容となっていて本当に良かったです。エンディング到達後は、おまけも解放されるのでそちらもぜひ見てみてください。BGM・スチルの鑑賞にとどまらず、なんと没セリフ集というコーナーがあります。すべての文についてボイス付きなのは冒頭でも述べましたが、採用されたセリフ以外にもこんなにたくさん録っているんだなというのが分かり、作者さんの意気込みに感服しました。

それでは。

今回は、ペットボトルココアさんの夏ゆめ彼方をご紹介します。
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オススメ!
ジャンル:夢を追い求める熱い青春ノベルゲーム
プレイ時間:2時間半
分岐:1か所あり。メインルートとサブルートに分岐
ツール:吉里吉里
リリース:2017/9


いやあ、本作は凄いです。ノベルゲームとの出会いという思い出補正の強いむきりょくかん。さんの作品を除くと多分本作が一番強く印象に残っています。というわけで、今回は長くなります。

本作のあらすじを簡単にまとめると、こんな感じです。

主人公の桂一は天才将棋棋士の父を持つ小学生で、自身も小学生名人戦優勝などの実績があり、神童と呼ばれ将来を期待されていた。しかし憧れの父は病に侵され、ついには名人を獲るという夢を果たせぬまま亡くなってしまい、桂一自身もそれを機に将棋とは疎遠になってしまう。毎日を無為に過ごしていたある日神社の裏山で出会った自称神様の少女"杏"との出会いをきっかけに、プロになり、そして名人になるという忘れていた夢を取り戻していく……

本作がすごいのは、この夢への想いの描き方が半端ではないことです。これほどまでに天才の努力や葛藤をまっすぐに表現した作品は初めてみました。桂一は天才とはいえ、当然ながらすべてが順調に進むわけではない。理想と現実の間で思い悩むリアルな描写の説得力が、私をこの物語に引き込んで放しませんでした。
天才が主人公の作品って、往々にしてやたらと冷静だったり超合理主義だったりして人間味が無いように感じられることも多いのですが、本作の桂一はいい意味で人間味にあふれ、泥臭い努力を重ねていきます。そんな熱心さが、読者を感情移入させるにあたっての強力な武器となっているように感じます。
私は、ゲームには感情移入しやすいというメリットがあると考えています。物語を紡ぐにはべつにノベルゲームという媒体にこだわる必要はなく、小説やアニメ、ドラマといった手法もあります。それらに比べてゲームでは必ずプレイヤー(読者)の操作が必要となり、その分主人公の行動や考えを自分に重ね合わせてストーリーを楽しむことができます。本作ではそうしたゲームの強みをさらに生かしているのではないでしょうか。

そんな本作ですが、前半部分ではそれほど夢に関して踏み込んだ描写はありません。何しろ桂一は完全に将棋をやめてしまっている状態からのスタートですからね。特に何をする気のないまま妹の晴香に振り回されてやってきた神社の裏山で杏と出会う。この杏がねえ、魅力的なんですよ。少女のような見た目をしていながら将棋がめちゃくちゃ強い。桂一を将棋でいじめたり、毒舌で唸らせたりしますが、将棋に関してきちんと助言をくれますし、それどころか学校になじめない桂一をクラスメートの大悟と友達になれるよう気遣ってくれたりします。立ち絵も可愛らしいしね。欲を言うともうすこしスチルが欲しかったでしょうか。

物語前半の描写は、コメディチックな部分も多いです。大悟たちはしっかり小学生らしくて微笑ましいですし、杏の毒舌にやり込められる桂一の様子とかも良い。私が好きなのは、「友達をなくす将棋」のところです。(注:形勢が相当に傾いた局面で、普通に相手の王様を攻めても勝てるのに、杏のように守り重視の手を指して相手に一切の逆転の望みを持たせないような棋風を俗にそう呼びます)

「『友達をなくす将棋』と思うたか?」
「でも、友達がいないのは桂一のほうでした。めでたしめでたし」
(舌鋒は攻めの棋風である。)

という軽快なやり取りについ笑ってしまいます。
ところで、舌鋒とか普通の小学生が使う語彙じゃないですよね。桂一は頭がいいという設定なのでまあわからんでもないですが、「全身が瘧のように震える」とかはさすがに…と感じました。読めなかったので調べましたし。

そんな笑いのあるシナリオですが、将棋を指すシーンの面白さもまた特筆に値するでしょう。私がこの作品を最初に読んだときは、将棋についてはほとんど知識がありませんでした。駒の動かし方とルールくらいは知っているけど戦略は何も知らない、藤井聡太さんが連勝記録を打ち立てて話題になったのは知っているけどその他の将棋棋士は羽生さんくらいしか知らないというレベルです。そんな状態でもしっかり戦況が分かるような解説が入ります。将棋を知らなくても決して暇にならないのです。父の棋風を受け継いで攻めっ気たっぷりな桂一と、受け潰しの棋風で決して勝ちを焦らない杏の対比も効いて、分からないなりにも盤上で熱烈なドラマが繰り広げられていることを理解できます。すると、自宅で棋譜を振り返って研究する桂一の気持ちもなんとなくわかってきます。そして翌日研究内容を頭に入れて再度杏に挑む。その繰り返しだけで本当に面白いんです。四間飛車とか早石田とか、急戦矢倉とかの具体的な戦型が出てきますが、様々な作戦がありそれぞれに特徴があるという事がしっかり分かるように語られるので、普通に読む分ではこれだけで十分です(赤野流っていうのは横歩取り青野流のことですよね?なんでこれだけ実在の名前と変えたんだろう)

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上の画像くらい専門的なやり取りもありますが、様々な定跡が研究され続け、多様な駆け引きが行われているということが分かれば物語は十分に楽しめます。むしろ、本作において将棋が単なる味付けではなくがっつりと描写されることによって、より桂一の挑戦の真剣さが前面に押し出され、私はそれに夢中になりました。

私は趣味で囲碁をやっているのですが(アマ三~四段くらいです)、将棋には触れたことのなかったので、本作に出会ったことを1つのきっかけにして昨年将棋を始めました。現在初段あるかないかといったレベルですが、ある程度将棋が分かるようになってから本作を再読すると、前は分からなかった箇所が分かるようになっており、感動の幅が広がりました。特に第1部最後の対局ですね。
「詰めろ」を掛けられた状態でどう指し手が制限されるか、「1手を争う終盤戦」とはどういうことかを自分が将棋を指すうえで実感していると、同じテキストから得られる情報量が桁違いになります。
ちなみに、この対局にはモデルとなった実際の対局があるようです。
ややネタバレ、特に将棋に詳しい方は注意。クリックで展開それは、第60期王座戦5番勝負の第4局です。こちらから棋譜が読めるので将棋が分かる方はぜひ参照しながら該当シーンを読んでみてください。桂一が度肝を抜かれ、人間業でないと評した奇手から終局までの流れ。これが実際のタイトル戦で現れた羽生二冠(当時)の伝説の妙手だったと知ると、また新たな感動があります。作内での戦況や着手の解説も、ここのことを言っていたのかと納得できるでしょう。
将棋の内容以外の面でも、「この興奮。この充実感。これを味わうために……僕は将棋を指しているんだ。」というような一言が胸に突き刺さるようになりました。

また、本作には1か所選択肢があり、それによって杏ルートと歌音ルートに分岐します。メインの杏ルートでは桂一は将棋一直線。叶えたい夢が大きい分、リスクも大きくなります。こちらのルートでは「将棋なんてやらなきゃ良かった!」と後悔するシーンがあります。歌音ルートはまさにこの将棋の名人を目指さなかった場合のIFルートと思うことができるでしょう。誰もが桂一のように大きな夢に向かって進んでいけるわけではありません。もっと身近な幸せを目指す歌音ルートが用意されていることで、ホッとすることができました。

総じて非常に面白い作品だと思うので、未読の方はぜひプレイしてみてください。
桂一と一緒に将棋に夢中になり、挫折し、それでも非情な現実に立ち向かわなければならない、そんな激動の人生を追体験して最後には温かい気持ちになれること間違いなしです。

ちなみに全然本質的ではないですが、本作に関して一つだけ物申したい点があります。
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ふりーむさん!! いくらテーマが将棋だとしても、「囲碁・将棋ゲーム」のジャンルに本作が含まれるのはおかしくないですか!!! 明らかに浮いてますよ!
(ふりーむのジャンル分けは作者による分類ではなくふりーむ運営による分類だったはず)

以上です。それでは。

こんにちは。今回は、四弦亭さんの「アリスは水の中」をご紹介します。

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ジャンル:ゆるめのサスペンス系ADV
プレイ時間:30分以内
分岐:なし
ツール:WolfRPGエディター
リリース:2018/5



今回ご紹介する「アリスは水の中」は、短編ながらさわやかな読後感の印象的なADVです。
まずはあらすじを簡単にご紹介しましょう。

長崎県の島に暮らす主人公の雄介と幼馴染のアリスは大変仲が良かった。しかし彼女は13年前、5歳の時に突如行方不明となりついに見つかることはなく、海に転落して死亡したものとされた。
それを負い目に感じずっと後ろを向いて歩いてきた雄介を見かねた姉のましろは、事件の調べなおしを提案する。
13年の時を越えて明らかになる真実。そしてアリスの思い、ましろの真意とは。

こんな感じでしょうか。
この紹介文を見ると、聞き込みや調査をして真相を暴いていくサスペンスなんだな、よ~し解明に向けて頑張るぞ、と思うかもしれません。しかし本作の中心になっているのはサスペンスではなく、雄介やましろ、アリスが何を思っていたか、そして真相にたどり着いた雄介がその事実をどう消化するか、というところに主眼が置かれているので、むしろギャルゲーに近いのではないかという感想を持ちました(という意味で記事冒頭のジャンル表記にゆるめと入れています)。
ここの部分の表現が面白かったんです。雄介はアリスのことについて責任を感じているというよりは、自分だけが生きて幸せになることに抵抗を感じて素直になれないという感じがします。この状態から何とか前進させてあげたいと調査を手伝うましろ。いいお姉ちゃんですね。この時のましろの思いについては、真相判明後に分かります。また、本作冒頭で提示されるアリスの失踪のほかに、もう一つましろについても序盤で意外な事実が本人の口から語られます。この内容がアリスの事件と一緒にしっかりと解消するのも気持ちよいところです。このあたりがすっきりするのが読後感の良さに寄与しているのでしょう。

その反面と言いますか、事件の真相を調べるパートについてはあっさりしすぎている嫌いがあります。調査するといってもましろの指示に従って誰かの話を聞きに行ったり、遅くなったから家に帰ろうなどと、どうしてもお使いイベントをいくつかこなしているだけという印象になってしまいます。そこを作りこむとなると製作の手間も跳ね上がるのだとは思いますが、主人公の行動にはもう少し自由度を与えて欲しかったなという感じがします。せっかくアドベンチャーゲームとしての形態をとっているのに、これなら一本道ノベルゲームで良かったのでは、とも思います。本当に必要最低限の行動と事実の提示しかないんですよね。人によってはご都合主義の展開だと感じるかもしれません。調査の順番に選択の余地があったり、必須イベント以外のキャラクターとも会話できたりするだけでかなり違ってくるように思います。

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さて、物語開始時点で故人であるアリスには立ち絵がありませんが、姉のましろにはかわいらしい立ち絵がついています。単に事件についての調査を提案する以上の役割を果たすましろ。重要かつ魅力的なキャラクターになっています。作内では3日間経つのですが、なんと毎日着替えるのです。このような仕掛けは他のゲームでは見たことないかもしれません。短編とはいえこのあたりにきちんと力が入っていて、キャラクターの魅力を高めてくれます。物語の魅力って単にシナリオ部分だけでなく、キャラクター造形とかも含みますよね。ちょっとした冗談を交えてくれるあたりや雄介との関係性なども含めて、ましろはとても魅力的なキャラクターに感じました。


今回は短めですがこのあたりで終わります。ちなみに作者さんのサイトはトップページですでに18禁と思われる絵が見えるので、リンクは張らないでおきます(本作はそういうシーンは一切なく全年齢対象です)。注意書きのあるトップページが欲しいなあ。
読後感の良さはなかなかなので、短編でさっくりと温かい気持ちになりたい方にお勧めです。
以下ネタバレ含む短い感想です(反転で表示)。
実子と養子が結婚できるの本作をやって調べてみるまで知りませんでした。義理でも2親等だからできないと思ってました。これなら素直に応援できますね。


それでは。

こんにちは。今回は変則的に、ハロウィンに関連して時期限定で公開されているHACKMOCKさんの後日談おまけ作品3作を軽く紹介していこうと思います。もうハロウィン終わったよとか言わないで…
時期限定のページにリンク張っていいかわからなかったので、リンクはサークルのサイトトップだけにしておきます。
当然ですが、元ネタになっている方の作品をプレイしていないと意味不明なので、未プレイの方は本編から先にどうぞ。


まずは「ハロウィンの夜のマージナル」です。
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こちらは「午前0時のマージナル」の後日談、2017年ハロウィン作品です。本編ではたくさんの分身の中から見事に弟子のリオを見つけ出し、アリサとリオは単なる師弟関係よりももっと深い関係になっていきました。本作では2人のほのぼのいちゃいちゃを楽しむことができます。子供のころにもらった魔法書の暗号にチャレンジするアリサとリオ。その魔法の効果とは…? そして師匠にはまさかのあの萌え要素が追加されました。
その魔法の流れから何とも自然にキスまでもっていくリオ、強かになりましたね。本編ではあんなに回りくどいやり方で師匠の愛を確かめようとしてたのがウソみたいです。
暗号の方は難しくありませんし、ヒント機能もついて優しい仕様。しかしハロウィン用のミニゲームに、分岐に対応したスチルとおまけの立ち絵閲覧機能付きとかなり豪華ですね。


次は「嘘つきハロウィーニアス」です。
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こちらは「嘘つきジーニアス」の後日談で、2016年公開です。本編では嘘をついたり本当のことを言ったりしてすれ違っていたロッテとクラウスですが、エンディングで無事に結ばれました。本作では、おそらく近所にオープンした土産屋(?)の店員になって、彼らの様子を眺めることができます。
スクリーンショットを見ても分かりますが、本作はおそらくスマートフォンでのプレイを意識されたのでしょうか、画面が縦長になっています。そしてもう一つ気付く本作の特徴、かつ素晴らしいところは立ち絵が動くのです! 本編では動かなかった2人が(それでも可愛かったけど)立体的に動いて笑ったり恥ずかしがったり驚いたりするのを見るとそれだけで楽しくなりますね。えもふりというソフトを使っているようです。
ただ、タイトル画面はやっぱり欲しかったでしょうか。

そして最後に、「ハロウィンベルを鳴らして」です。
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以前本ブログでも紹介したことのある「ロイヤルベルを鳴らして」の後日談となっています。詳しくはこちらのレビューを読んでいただくといいのですが、本編ではヴィンボーナの姫である主人公ユーリは選択によって、隣国の王子で公の場ではすごくすましていてカッコいいけど実は俺様的性格のアルト、オタク気質であまり人前に出ないけれど国や兄のことをしっかり考えているアキバル、大臣でありながら子供のころからの遊び相手でもあって優しいセナの3人の誰かと結ばれることになります。本作ではその3人それぞれについての後日談となっています。しっかり全員分のシナリオにスチルも用意されていて豪華!
以前のレビューでも書いた通り私はアルト推しなので真っ先にアルトに王道な選択肢で会いに行きました。

さて、その時の私の心境をここで再現します。

いやあアルト様はやっぱりいじわるだなぁ。こっちまで恥ずかしくなってくるよ……
……ぇぇ、おばけ布の上から丸わかりなほど赤くなるユーリ…可愛いけど爆笑。さすが。
うんうん、ネタばらしね。読んでるこっちも分かってたけどね。

……えええぇえ~
んああああああ!
大胆!大胆!さすがすぎる。うおおおおお
そんな距離の詰め方っっ!ずるいっ!!

(スチルで完全に思考停止。ページが送れない)

(数分悶えた後で読み進める…)
そしてユーリの顔!赤い!もはやリンゴ!
ああああああああ~~~~
っっっってもう一回?!?!?!
アルト様のいじわるっ!!!
っこ、っこれは…………?



久々に自我を失いました。そして尊死という概念を初めて理解しました。


……そんなわけで最後に暴走してしまいましたが、3作ともとても面白いので本編プレイ済みの方はやって損はありません。いずれも吉里吉里製で、プレイ時間にして5分強なのでお手軽にプレイできます。今月いっぱいまで公開の予定ということなので、興味を持った方はお急ぎください。

それでは。

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