フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
記事一覧ページを作りました。記事探しはこちらから。Twitterはこちら。リンク等はご自由にどうぞ。
YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

ファンタジー

今回は、POPOさんのキミだけのパーリナイトをご紹介します。

kimipari1


ジャンル:短編ほのぼのファンタジーRPG
プレイ時間:3時間
分岐:なし
ツール:RPGツクールVXACE
リリース:2019/12


今回はRPGのご紹介となります。
本作は一言でいうと、とてもかわいいRPGです。主人公のメロディはエルフの国のお姫さま。衰退の一途をたどるエルフ族のために、大陸各地にある石碑に祈りを捧げる"儀式の旅"へ出る。この旅に同行するのが兄であり次期国王となるナルシスと、護衛役の人間(ナイト)のヤバイ。この3人の力が抜けるようなドタバタしたやり取りにちょっぴり癒されました。
ちなみに、ナルシスとヤバイはその名前にぴったりなキャラです(笑)
ナルシスはばっちりナルシストだし、ヤバイは初見の印象がヤバいパーリーピーポー。

立ち絵やスチルのみならず、マップや戦闘アニメーションにも力が入っていて、可愛い雰囲気が一層引き立っています。さらにこの3人の良くしゃべることしゃべること。イベント時の会話はもちろん、戦闘で自分の行動をしたり相手からダメージを受けたりするたびにしゃべります。しかもそれが何パターンもある! 個人的には、攻撃時の「ごめんね。」が好きです。
ダンジョンで宝箱を開けた時や、町で壺や箱を調べた時のアニメーションもあったりして、本当に手が込んでます。

kimipari3


本作の戦闘システムは少し変わっていて、リアルタイム制で行動順が回ってきます。コマンド選択の間も容赦なく時間は過ぎていくので(どの魔法やアイテムを使うかや効果対象の選択時には止まります)、操作にはある程度の慣れとスピード感が必要になるでしょう。最初や2つ目のダンジョンくらいではとにかくスペースキー連打で物理で殴っていれば何とかなりますが、それ以降では適切なタイミングで魔法攻撃をしたり、アイテムで回復したりしないと進みにくくなるバランスです。この行動選択の時に、画面の表示では誰のターンなのかが分かりにくいことがあり、これは何とか改善してほしいなあという所です。また、マップ中のキャラ横に表示されるHPバーが正確ではないことがありますね。これは画面下の大きいほうの表示を見れば正しいほうが分かります。
しかし本作はシンボルエンカウントを採用しているので、戦う前にどの敵が出現するのかが分かりますし、ザコ戦闘の回避も容易です。戦ってみて勝てなそうと思った時もShiftキー長押しでほとんどの場合逃走できるので、慣れないうちでもそう簡単には死なず、親切な設計です。特に、各ダンジョンでとびぬけて強い敵が大体1種類存在するので、そいつに負けそうになったらどんどん逃げましょう。

そうはいっても、ザコ戦闘をとにかく避けて進むというのはお薦めできません。結局ボス戦までにある程度経験値を稼いでおかなければなりませんし、敵が時々落とす装飾品が大変重要なのです。本作では武器や防具は店で買えても、装飾品は敵のドロップを拾うしかありません。装飾品の装備枠は7つもあるので、強い装飾を付けているかでステータスにかなりの違いが出ます。特に本作ではパワーやタフのステータス1の差が結構大きいので、装飾品は積極的に集めていきましょう。ちなみにスピードはさらに重要ですが、スピードが上がる装備はめったに手に入りません。手に入ったら絶対に装備しましょう。


さて、本作の話をするうえで、ストーリーをスルーすることはできないでしょう。作者のPOPOさんの他の作品をやったことがある方なら、この旅がほのぼのした雰囲気だけのまま終わるはずがないと思われるでしょう。実際私もそう思いましたし、その予感は的中しました。もっと言うと、旅の最後に起こることも予想通りでした。しかしそれでも、本作のストーリーは面白く感じたのです。なんでかというと難しいのですが、多分、メロディとヤバイの関係だとか、ナルシスの覚悟とか、ヤバイが決心に至る理由とかがしっかり道中で語られていて、バックグラウンドがしっかりしたキャラクターとして最後のエピソードに突入したからなんじゃないかなと思います。また私は、序盤に出てきた軽いやり取りが最後になって意味を変えて再度登場するというパターンが大好きなんですよ。(人間界の常識と照らして)世間知らずだったメロディが成長するというところもあり、終盤の展開はなかなか印象に残りました。
ただ、エンドロールの一番最後のアレはどういうことだったのかよく分からなかったのが少々残念です。エピローグとかで補足が入るのかなと思っていたらそのままタイトルに戻されてしまいました。あとがきでも何でもよかったので、最後にもう一押し欲しかったですね。

と、終盤の展開はややシリアスですが、道中の大半はギャグのノリで進んでいきます。特に、お決まりの温泉シーンは必見ですよ。パラチャッカ海岸のボスへ行くところの分かれ道を下に行くとあります。
このシーンの音楽が耳に残って離れないので、ぜひ皆さんもプレイして温泉に入ってみてください。

それでは。

今回は、フリーゲーム讃歌さんのcranky・appleをご紹介します。


crankyapple1


ジャンル:透明人間と交流する不思議系ノベルゲーム
プレイ時間:45分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2011/6


最近刺激的な作品が続いたので、今回はゆっくり心温まるタイプのシナリオの作品をご紹介します。本作はネット小説として公開されていたシナリオを、ノベルゲームにリメイクした作品ということです。

主人公のミドリが学校の保健室で、透明人間のさっちゃんと出会うところから物語は始まります。ミドリにはなぜか透明人間が見えますが、さっちゃんの方は人に見られたのが初めてなので口をポカーンと開けて驚くわけです。初めてexeファイルを起動したときにいきなりこの場面から始まったので私もちょっとびっくりしましたが、プロローグの後はきちんとタイトル画面になりました。なかなか珍しい演出ですね。

さて、透明人間との交流となると全体的にほんわかした感じなのかなと思う所なのですが、序盤はそんなことはありません。さっちゃんがなかなかミドリに気を許さないのです。さっちゃんはなんと養護教諭の秋尾先生に惚れ込んで保健室に住み着いた(?)というなかなかの変わり者。秋尾先生とは幼い頃から友達のような関係で、「椿くん」「ミドリ」と下の名前で呼び合う関係のミドリには初っ端からライバル心を燃やしまくりです。相当に嫉妬深く、気難しい(cranky)透明人間なのでした。

crankyapple2


というように、最初のうちはさっちゃんのインパクトが強かった本作なのですが、ミドリの方も実は相当の変わり者であることが次第にわかってきます。そしてそのミドリの成長こそが本作の主眼なのです。ここの展開がなかなかうまいなと感じました。例えば、普通の人との人間関係で悩みを抱えているけれども、透明人間となら自然になれるし悩みも相談できる、とかならありそうかな、と思うのですが、本作でミドリが成長する方向(というか出発点)は私にとってかなり意外でした。そしてミドリがさっちゃんに変わるように諭す場面はなかなかの名シーンだと思います。これは本気で相手のことを考えていないと透明人間の口からは出せない言葉でしょう。そこからのミドリの努力はなかなか微笑ましく、人は努力によって前進できるんだなあと勇気をもらえるようでした。ここの部分はとても大事だと思うので、もう少し尺を取って丁寧に描写しても良かったのではないでしょうか。ミドリがさっちゃんに会えず落ち込んでから、こうしちゃいられないと行動に移すあたりもやや駆け足気味に感じました。

この、ミドリが成長していくという物語のためには必要なものだとは思うのですが、前半での2人の関係性はやや不自然に感じてしまいました。ミドリはさっちゃんにどんなに邪険にされてもさっちゃんloveの姿勢を崩しませんし、さっちゃんの考えることはあまり理解できません。その意味で、感情移入して読むというのが難しいシナリオではないかと感じます。

イラストは水彩風で、ゲームではあまり見ないタイプの絵柄だと思うのですが、不思議な雰囲気を持った本作にはあっているように感じました。特に、ほとんど台詞ごとに変わる立ち絵の表情には注目です。相当の枚数描かれたのではないでしょうか。
ただ、背景が加工写真の時と一枚絵の時でちょっと統一感に欠ける印象はあります。

ちょっと難点の指摘が長くなりましたが、読み終わって前向きな気持ちになれるような、ミドリを応援したくなるような爽やかさのあるエンディングです。ラストのスチルがすごく良かったので、ぜひ皆さんプレイして、それを見て温かい気持ちになってください。

それでは。

こんにちは。今回は、前回ちらっと名前を出したほりんさんのSheSeeCrisis!をご紹介します。

SSC1

ジャンル:おしっこ我慢系短編RPG
プレイ時間:1プレイ10分前後、隠しエンド到達まで1時間半程度、その他やり込み要素あり
分岐:あり(後述)
ツール:RPGツクール(アツマールでもプレイ可)
リリース:2017/4
備考:15推


前回ご紹介したねこのさんのありすえすけーぷも主人公がトイレを我慢して脱出を目指すゲームでしたが、本作も同じくなるべく速く敵を蹴散らしてトイレに駆け込みたいという短編RPGです。かわいい子がもじもじする様子を眺めるという点が共通している両作ですが、そうした趣向以外のゲーム性の面でもしっかり作り込まれているという点でも共によくできていると思います。
フリーゲームをいろいろとプレイしていると、こうした変態チックな作品に度々出会いますが、このようなものにこそ作者の方の好みや熱意が濃縮されている気がして、フリーゲームらしい良作に出会えたように思います。


本作の主人公フララは初期状態でレベル99。適宜回復アイテムを使うなどして安全に戦えば、道中の雑魚敵など相手ではありません。
SSC2
しかしそんな戦闘を面白くしているのが本作のターン制限。おしっこを我慢しているための時間制限は、リアルタイムではなく戦闘中の経過ターン数によって表現されています。つまり、なるべく短いターン数で全ての敵を倒すためには、どの敵にどのスキルを使って、どのタイミングで回復薬を使って……などを考える必要があり、それが本作を面白くしている特長の1つでしょう。ちなみに、回復薬は実質無制限に使用できますが、当然のように全て飲み物なので使用するたびに尿意が加速(=制限ターン数が短縮)します。
難易度には「ふつう」と「きちゅい」の2つがあります。「ふつう」ではそんなにシビアなリソース管理をしなくても魔王を倒して漏らす前に無事に家に帰ってくることができるでしょう(ただしトイレに直行できるとは言ってない)。「きちゅい」は制限ターン数が短いうえ、敵のステータスが高い、クリティカルが出ないなどかなり不利な条件となっており、初見でクリアするのはかなり厳しいかと思います。HPやTPなどの適切な管理と、敵に効率よくダメージを与えるためのスキルの使い方を意識的に行う必要があるのです。次ターンの敵の行動が明示されるのも、そのあたりのことを意識しての仕様でしょう。そうした意味で、本作はRPGでありながらパズル的なゲーム性を持ち合わせているといえるでしょう。

本作攻略に欠かせない要素はそれだけではありません。攻撃を行うと青いゲージが短時間表示されます。時間切れになる前に指定されたキー(ZX←→↑↓のどれか)を指定回数入力することによって、チェインコマンド(CC)が発動し、連続攻撃をすることができるのです。
SSC3
この機能によって連続攻撃を決めるのが大変爽快なのです。うまく使うと、ラスボスを1ターンキルすることすら可能です。入力時間もそれほど短くはないので、アクションが苦手でもなんとかなる範囲でしょう。CCを使いこなすことが、特に「きちゅい」をクリアするうえでは必須になってきます。
ただ、このゲージの出てくる位置が、敵だったり自分だったりするのでここは統一してほしかったなと思います。パターンはあるので覚えることはできるのですが、ちょっと油断すると思っていたところと別のところにゲージが出てCCに失敗してしまうことがよくありました。

また、戦闘画面での靄のエフェクトやクリティカル時のエフェクトなどが重いのもややマイナスに感じました。マシンの問題かもしれませんが、設定で軽量モードなどが選択できるようになっていたらうれしいです。


さて、裏山マップで時間切れになったりHPが尽きたりするとバッドエンドなのは当然ですが、規定ターン以内にラスボスを倒したとしてもハッピーエンドを迎えられるとは限りません。むしろ、ハッピーエンドを迎えるためには割と頑張って本作をやり込む必要があるのです。そのためにもきちんと実績システムが搭載されています。ノーヒントだと実績コンプはやや難しいでしょうが、きちんとクリア後おまけにてフォローがありますのでご安心ください。
13個の実績だけでなく、ハイスコア記録やクリア後闘技場の実装、そして隠しコマンド(ちょっとかげきモード)も用意されているなど、1プレイ10分程度の短編RPGながら長く遊べる作品に仕上がっています。マップ内の移動速度は高速だし、オープニングやチュートリアルなどはスキップ可など周回プレイしやすい仕様になっているのも良いですね。

というわけで今回はSheSeeCrisis!の紹介でした。スピーディーで爽快感あふれる戦闘に加え、Ver3でフララにボイスまで付いた本作、ぜひプレイしてみてください。ストーリーとしては裏山に薬草を取りに行くだけなのですが、意外とやり込み甲斐がありますよ。

こんにちは。
今回は、まゆげさんのまい、ルームをご紹介です。
mroom1


★favo
ジャンル:ファンタジーノベルゲーム
プレイ時間:1周目15分以内。フルコンプまで1時間半
分岐:5つ。1周目ルート制限あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2016/12
備考:15禁、猟奇的描写あり、ティラノゲームフェス2017準グランプリ作品


これまでは比較的おとなしめの作品の紹介でしたが、今回のはちょっと刺激的です。一見そうは見えないんですけどね……。
まずは、公式からあらすじを引用してみましょう。
マイとメルは仲の良い双子。
最近体調が悪く、部屋に篭りきりのマイのために今日もメルは部屋を訪れる。
これだけです。とりあえず双子が出てきて片方がもう片方のお見舞いに行くのかな、というのは分かります。これだけ頭に入れてゲームを起動してみましょう。

シナリオはマイの視点で、夜にメルがお見舞いに来てくれて嬉しいという場面から始まります。ここでの2人のやり取りは非常に微笑ましく、お互いのことを想い合っている良い双子だなと感じられます。他愛もない日常会話を退屈させずに読ませるというのは力量がいることだと思うのですが、本作はその点ばっちりです。信頼関係があるからこそのちょっとした意地悪や、メルヘンチックな想像シーンなどで読者を引っ張ってくれます。病気になってしまい思うように活動できない中で、子供の頃の思い出を振り返り、無邪気な想像をするシーンもなかなか胸にくるものがあります。
mroom2

さて、本作には途中何度か選択肢があります。勘が鋭い人や、素直じゃない人ならこの小さな幸せの物語に違和感を抱くはずです(私は気づかないタイプの人間でした)。どちらの方も2周目を始めてみてください。
どんなに鈍い方でもこれは単純な物語ではないことに気付くはずです。冒頭のアレは何なんだ、とか、そもそもそこでそんな選択肢不自然じゃないか?、とか。
ここで、先ほど選ばなかった選択肢を選び、END1,2,3をすべて見ておいてください。私と同じタイプの方は初見ではEND1に行くと思うのですが、END2,3は衝撃的でしょう。しかしこれだけでは単に理不尽なだけ。ここからが本番です。

再びタイトル画面からスタートすると、メルの視点での話が読めるようになります。ここにきてようやくプレイヤーにこの物語の舞台設定と双子の置かれた状況が明かされるのです。この手の、読者に重要な情報を隠して驚かせるという手法は、やり方によっては下品に感じられることがあるのですが、本作ではそんなことはありませんでした。きちんと前兆を与えて読者に心構えと期待をさせる。一度に情報を明かし過ぎずに順を追って物語の核心に迫る。そして何より、だれか一人の悪人によってもたらされた悲劇ではなく、登場人物皆が少しずつ歪んでいたがために生じる人間関係の問題があったという点。
ファンタジーが前提でありながら人間ドラマとして非常に興味深いです。まさに本作の、"身勝手な人達の物語"というコピーが本質であったことに、この時初めて気付くのです。本編では悪役に近いあの人も、マイやメルと大差ないことはside storyまで読めば分かります。そうしてすべてを理解したうえで冒頭の場面に戻ってきたとき、あらゆる感情で私の体は震えていました。もう2人の言葉の重みが桁違いです。
ただし、さすがに(ネタバレの為反転)マイが病死する展開は急すぎるのではないでしょうか。なにかもうワンクッション欲しかった。

グラフィックや音楽も私の好みでした。立ち絵はファンタジーな雰囲気に合っていると思いますし、音楽ではフルコンプ後タイトル画面BGMの「おそろい」は私に強烈な印象を残し、3年後にプレイした別の作品で再び聴いたとき、即座に本作を連想したほどです。

ツールはティラノスクリプトですが、必要な機能はしっかりそろっており、EDリストから回想可、2度目以降エンドロールスキップ可など随所にプレイしやすい工夫が施されています。起動が重いことが玉に瑕でしょうか。
エンディングを迎えるごとにタイトル画面が変わっていく仕掛けも良いですね。

べた褒めしてきた本作ですが、人を選ぶ作品であることは間違いありません。ショッキングなシーンはありますし、人間の汚い部分まで怖いほどに描き出されたシナリオです。視覚的にもインパクトのあるスチルはありますが、そこまでグロテスクな絵はありません(ただし流血描写は多数)。

15歳以上でレビューを読んで興味を持った方はぜひプレイしてください。強烈な印象を残すことを保証します。

↑このページのトップヘ