フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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ホラー

こんにちは。今回はくろいのうとさんの「Sample087」のご紹介をしようと思います。

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ジャンル:短編脱出ホラー
プレイ時間:30分以内
分岐:なし(ゲームオーバーあり)
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2015/8


今回の作品は王道な脱出ホラーものとなります。
主人公の黄瀬花香は怪しげな実験施設のような場所で目を覚まします。ベッドと机と小さな箱が1つしかない殺風景な部屋に閉じ込められている花香は、机の上にあった不穏な置き書きのようなものを発見します。そんな置き書きから目を離してみると、部屋の隅から謎のスライムが侵入してくるではありませんか。
命の危険を察知した花香はこの施設からの脱出を試みます。果たして無事に帰ることはできるのでしょうか…


このように本作の筋はいたってシンプルです。
敵キャラ(?)であるスライムは一瞬触れただけで即ゲームオーバーなので、操作を誤らないよう慎重に進みましょう。初見殺しの箇所もいくつかあるのでセーブは細かく分けておきましょう。

脱出のヒントとなる謎解き部分もオーソドックスなもので、この手のゲームに慣れた方なら迷わずに解くことができるでしょう。難しいわけでもないので不慣れな方でも安心です。

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こんな感じで、本作はいたって普通な脱出ホラーといった作品なのですが、それだけだったらレビューを書こうとは思わなかったと思います。プレイ時間にして20~30分の中で、いいなと感じた点が2つありました。順に説明していきましょう。


まず1つ目。本作には体力・思考力というパラメーターが存在しています。初期状態では両方とも40です。そして探索中に水やカンパンなどの食料を発見することがあります。それらをアイテム一覧から使用することによって、体力・思考力を回復することができるのです。

本作には戦闘要素は一切ありません。敵に何らかの攻撃をして退治する場面などはありませんし、敵に一瞬でも接触されたら即ゲームオーバーです。ではこのパラメーターは何に使われるのかというと、探索なのです。
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脱出のためにはいくつかの謎を解いていかなくてはなりません。置き書きを読んだり、謎のポスターを観察したり、室内のアイテムを見つけていったりするわけですが、その際に得られる情報量が思考力の影響を受けるのです。思考力40の初期状態では見たままの情報しか得られなかったのが、カンパンを使ってすこし思考力が増した状態だと、隅に書かれた小さい文字まで読めたりといった細かい設定がされているのです。これは非常に珍しい仕掛けだなと思いました。
基本的にパラメーターが高くて損をすることはないので、見つけた食料は有効活用していきましょう。

体力も同様で、体力が低い状態では解決に手間がかかった仕掛けをパワーで解決するといったことが可能な場面があります。なかなか面白いですね。



そしてもう1点。これは本作の最後の最後で明らかになります。

突然このような危険な施設に監禁され、この世界の理不尽を呪っていた花香ですが、最後の部屋で脱出へのかすかな希望でさえ打ち砕かれて絶望に染まってしまいます。結局どんなに手を尽くしても脱出は叶わないのか。そんな悲しいエンディングを迎える本作……しかし、本作には実は脱出エンドが存在しています。この際花香が希望を取り戻す演出がとても気持ち良かったです。BGMも切り替わり、花香の生きのびるという決意が感じられます。その場面でふつう選ばないだろうという選択肢を試したりもしたのですが、そういう時のメッセージもしっかり設定されていて良かったです。

おそらく初見で脱出成功させるのは難しいと思います。最後の部屋にたどり着いた段階で戻ることはできなくなってしまうので、詰んだと思ったら少し前のセーブデータからやり直してみましょう。

脱出成功後にTo be continued...の表示が出るのに(しかも続編で意味を持ってくると思われるロッカーのパスワードまで入手できるのに)結局続編にあたる作品が出てなさそうなのだけ残念です。



今回は短めですがここまでです。
短い中に面白いギミックを仕込んだ作品だと思うので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はどこかの箱庭さんの「螢火の庭」のレビューをお送りします。

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ジャンル:和風ホラーアドベンチャー
プレイ時間:初回3時間程度/フルコンプまで5時間程度
分岐:ED4種
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2017/8
備考:第13回ふりーむゲームコンテスト​探索アドベンチャー部門銀賞受賞作



本作は、主人公の秋月ほたるが盗まれた祖父の遺品を取り返すために彼岸を探索して回る和風のホラーアドベンチャーゲームとなっています。

いきなりですが、ホラーゲームの主人公ってだいたいかわいそうな運命を背負っていたりします。作内で物語を進めているうちにそうした境遇が分かってくるタイプのものが多いように感じるのですが、本作では作品の導入段階でほたるの不遇さが明らかになります。

両親は家族の反対を押し切って結婚し、娘のほたるも誕生し幸せに暮らしていたのですが、交通事故に遭い2人とも亡くなってしまいます。結局結婚に反対していた家族たちに引き取られて生活するようになるのですが、祖父以外の叔父や叔母には疎ましく思われています。
しかし唯一の見方であった祖父の晴臣もその後他界。それまで家族で揃って行っていたお祭りの螢火流しも留守番しているようにと言われてしまいます。そんな留守番中、お祭りに乗じて彼岸からやってきた妖怪たちに大切な祖父の遺品を盗まれ、ほたる自身もさらわれてしまいます。妖怪の手から逃れ、おじいちゃんの遺品を回収して此岸に帰ってくることはできるのでしょうか…。


このような導入になっているので、私は本作をプレイし始めてから早い段階でほたるを応援しながらゲームを進めることができました。別に主人公には酷い目に遭っていて欲しいというわけではないのですが、ほたるがおじいちゃんの思い出の品と約束を守って健気に進んでいくさまを見るとやはり私も前向きな気持ちになることができます。
立ち絵やマップ上のドットも可愛らしいですしね。
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他の登場人物たちも和服を着てますし、マップ上の雰囲気も含めて和風ホラーの演出が上手いなと感じます。

そんな他の人物たちも少し紹介しましょう。
まずはほたるが此岸に帰れるように全体を通して協力してくれる朽名(くちな)さん。なぜか常にお面をかぶっています。人間の子をしっかりと此岸まで送り届けるのが仕事だと言ってほたるを送ってくれるだけでなく、祖父の遺品”螢火のおくりもの”探しも手伝ってくれます。彼の素顔は一体どんなものでしょうか。
異国の薔薇貴族もなかなかインパクトがあります。紳士的だが女好きがひどすぎて周りから距離を置かれるようになり、いまでは屋敷で引きこもっているそうです。彼もまた胸の内に隠した思いがあるようですが一体何なのか、それは物語の後半で明らかになります。
その他にも姉妹の温泉宿の女将さんとか、なぜか動いて喋る人形とかお面とか、いろいろな人物(?)が登場しますが、みな可愛らしくて良いですね。


本作のエンディングはゲームオーバーを除いて4つあります。終焉4については序盤のうちに分岐します。せっかく此岸に帰ってくることができてもこれではあまりにも浮かばれないだろうという結果。ぜひ大切な品は回収してから帰りましょう。
その他のエンディングについては中盤以降に分岐します。初見だとそこで分岐するとは分からない箇所もあると思いますので、セーブはいくつかに分けておくといいでしょう。回収できなければ同梱のヒントが役に立ちます。
終焉2と4についてはほとんど同じ展開になりますが、最後の最後で結末が変わってきます。分岐したシーンは時間にして30秒とかそれくらいだと思いますが、このシーンの有無で後味が全然違いました。やはり物語の締めって大事だなあと思わされます。ぜひベストな結末を目指して探索してください。



ホラーや探索アドベンチャーとして見たときの謎解きやアクション要素の難易度は高くはないといったところでしょう。全体を探索していればきちんとヒントとなるものが出てきますし、理不尽な初見殺し要素などもありません。ただし謎解きに関しては公式でヒントが用意されていないので詰まると大変かも。エンディング分岐についてはすぐ上で書いたようにホームページや同梱のテキストに詳しく記載されているので、迷ったら読んでみるとよいでしょう。
ホラー具合についてもゆるめで、ホラーがやや苦手な私でも問題なく最後までプレイできる程度でした。突然怖い画像が表示されるとか大きい音が出るとか、何かに追いかけられるとかはないです。暗いマップを探索したり、予告があっての追いかけられ要素だったり、物が落ちる・窓が割れる程度の表現などはあります。


というわけで今回は「螢火の庭」でした。ホラー要素というよりは雰囲気重視系の作品なので、よっぽど苦手な方じゃなければプレイしやすいと思います。ぜひほたるの物探しを手伝ってあげてください。泣ける!というタイプのシナリオではないですが、じんと心が温かくなるような結末があなたを待っています。

それでは。

こんにちは。今回のレビューはゆきはなさんの「虚ろ町ののばら」です。

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ジャンル:異界探索ホラーゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:1周3時間/フルコンプまで6時間程度
分岐:ED4種、その他ゲームオーバーあり
ツール:RPGツクール
リリース:2018/10
備考:12推


本作は和と洋の雰囲気の混ざった不思議な異世界からの帰還を描いた作品です。
主人公の境のばらはおばあちゃん大好きな少女。今日もおばあちゃんに会いに行くためにバス停でバスを待っていたのですが……気付いたらバスは壊れているし異常に汚いし、人の形をした亡霊のようなものが出口をふさいでいる始末。この不気味な世界”虚ろ町”で出会った少年、守崎十夜(もりさき・とおや)とともに元の世界への帰還を目指します。


この作品の魅力の1つはそう、圧倒的なビジュアルです。スクリーンショットを見ていただければお分かりでしょう。スチル・立ち絵のみにとどまらず、背景、マップやUI部品に至るまでかわいいというよりは美しいと言える作りこみ。もう何枚かスクリーンショットを貼るのでその美しさを味わってください。
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やっぱり見た目がきれいだと、ゲームを進める原動力にもなりますし、こうして魅力もお伝えしやすいですね。ホラーゲームである以上美しい景色だけでなく、抜け落ちた床や積みあがったゴミ、さびた電車なども登場しますが、それらも単に気持ち悪いだけでなく、どこか綺麗に描かれているのがすごいところです。


さて、それではシナリオの話に入りましょう。
のばらたちが虚ろ町で出会った影のような生物たちはみな、何かに執着している様子。彼らの様子を観察したり、話の通じる者たちにたずねたりしているうちに、どうやらこの”虚ろ町”は現世に心残りのある死者たちのさまよう、彼岸と此岸の境目にある町らしいことが分かってきます。この町を治める”虚ろ様”の所に行って、何とか現世に帰れないかと助けを請うのばらと十夜。
子守唄をねだる子供たちの霊を鎮めるなどの役目をこなして現世への帰り道を教えてもらった2人だったが、虚ろ様によればのばらが無事に帰れるかどうかは微妙なところだという。その原因は現世でののばらの境遇と本人の性格にあった…。

プレイ時間の短くない本作ですが、綺麗なマップを探索していると自然とストーリーが進んで頭に入っていき、長さを感じさせません。そして虚ろ町の探索をする合間に、のばらが現世へと帰れるかの鍵となる過去回想がはいるのが上手いところです。そしてこの過去回想がねぇ、切ないんですよ。「しっかりなんて……できないよ!!」本当にその通りです。本人の性格もあるとはいえ小学生にはつらい境遇でしょう。
その分、ED4での十夜との再会と帰還、そして現世で一歩踏み出したラストシーンは感慨深いものになっているでしょう。


物語冒頭で説明される通り、本作にはいくつかのエンディングがあり、青と赤のエフェクトの数が重要になってきます。虚ろ町の住人に寄り添ってその心残りを解消してあげれば物語はいい方向へ。最低限の探索でストーリーを進めたり、住人を傷つければ悪い方向へ進みます。しかしED3やED4を見るためにはそれに加えて特定のイベントをこなしてフラグを立てねばならず、難易度は高いです。というか初見で(特にED4)到達は無理でしょう。これは、まずはバッドエンドを見て欲しいという作者さんの意向なんじゃないかと勘ぐってしまいます。実際、私も先にED1や2を見ていたからこそのばらちゃんの成長に感動できたところがある気がします。
バッドエンドを見たときには悔しい、歯がゆい思いをすると思いますが、その分気持ちの良いハッピーエンドもありますので、ぜひ安心してプレイしてください。

そうそう、攻略情報についてはおまけルーム内や同梱テキストファイルに細かく記載されているので、詰まってしまう心配もありません。親切ですね。


では一応気になった点も書いておきましょう。
1つはコメディ要素が微妙かなという点です。不気味な街の探索だったり、現世の出来事を受け止めたりと基本的にはシリアスなシーンが続く本作ですが、たまに軽い感じのギャグっぽい展開があったりします。のばらと十夜の交流や距離感を描くという意味では良いのかなという気はしつつ、突然そのBGMでギャグ始まったらホラーの雰囲気ぶっ飛んじゃわない? と思う回数の方が私は多かったです。ホラー色の薄い街でのイベント(楽譜が挟まった本のタイトルとか)ならあまり気にならないんですけどね。

もう一つ、本作の操作はマウスを前提にしているとのことですが、ツクールMVのマウスでのマップ移動って使いにくいと思うんですよね……。特に終盤の影をかわしながら進む場面などでは、マウス操作では移動経路が指定できないのが致命的。結局私はセーブ・ロード以外はほぼすべてキーボード操作でプレイしました。


さて、本作のキャラクターには一部ボイスがついています。フルボイスではなく、キャラクターへの呼びかけとか、感嘆詞とか、一部の台詞をしゃべるだけですがキャラクターのイメージに合っていてちょうどいいんじゃないかなと思います。全部に声がついていると聞くのに時間がかかってテンポが悪くなるという面もありますからね。
ちなみにおまけ部屋から何でも許せる方用と称したギャグ一直線のおまけシナリオを見ることができます。私はこのおまけシナリオ冒頭の
「良い子のみんな~~!  本編、はじまるよ~~~~!」
の声を聞いて、脳内には瞬時に「その恋、保留につき、」シリーズの姪浜さんが浮かんでしまいました。のばらと同じ声優さんだったのね…。本編中で思い浮かぶこと全然なかったのに…。そのくらい本編と違った温度感になっていますので、バッドエンドで気が滅入ったぜ、という方はぜひやってみてください。POPOさんがコメディ極振りで作品作ったらこんな感じになりそう。

それでは。

こんにちは。今回はアコックソフトさんの「だびぽん」をレビューしていきます。

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ジャンル:デジタルオカルトホラーADV
プレイ時間:1周2時間、フルコンプまで6時間程度
分岐:大きく2つ、1周目ルート制限あり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2016/10
備考:15推


前回レビューの「絶望の螺旋」に引き続きオカルト系の作品となります。穏やか目ではありますが一応ホラー表現があるので苦手な方は注意。


さて、いつも通り大まかにあらすじを説明しましょう。
主人公継見(つぐみ)ヒロキは大学生。友人の茅野凛太郎(かやの・りんたろう)はオカルトマニアかつコンピュータの技術もあり、大学のある禎尾(さだび)町にある心霊スポットをテーマにしたオンラインゲーム「SADABI怪談オンライン」をほぼ一人で開発している。ヒロキはテストプレイヤーとして開発チームに参加しているところだったが、なんと最終マップのモチーフとなる「禎尾森放送局」へと取材に行った茅野が消息不明に。放送局まで彼を探しに行ったヒロキは頭から血を流して地面に横たわる茅野を発見。幸い息はあるようだったが、少し目を離した隙に茅野の姿を見失ってしまった。自力で遠くに逃げるなど到底不可能そうに見えた茅野はなぜ消えたのか。直後に姿を現し、何か知っていそうな発言をした女子高生の正体は? 禎尾森放送局のマスコットキャラクター、だびぽんに関するオカルトめいた噂との関係は? 誰が味方なのかもわからない中、同じく開発メンバーの橘三鷹(たちばな・みたか)とともに茅野の捜索を続けるヒロキの努力は報われるのか……

といったところでしょう。

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本作におけるオカルトの特徴として、"デジタル"が挙げられるでしょう。だびぽんの持つ力は、携帯電話やパソコンなどを通して現実世界に発現します。オンラインゲームの製作などを行っていた茅野らはまさにいい餌食です。
しかし電子機器に触れたものが全員呪われるわけではありません。いったい何がトリガーとなっているのか、だれがどんな目的で力を行使しているのか、といったあたりの情報は隠されていて、終盤にならないと明らかになりません。この辺の情報の隠し方、提示の仕方が上手い作品だなと感じました。

だびぽんの謎については、かなり複雑な真相になっていると言えます。1周では真実にたどり着くことはできないでしょう。というかシステム上できません。本作のルートはメニュー内のフローチャートに示される通り大きく分けてA,Bの2つ。それぞれにさらに2~3のエンディングと多数の一発ゲームオーバーがありますが、初回ではBルートへの選択肢は出現しません。AのNormalエンドを見ることによって解放されます。若干メタ的な内容も含むので、変則ループものともいえるかもしれません。

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茅野の捜索、そして呪いの解消のためにはノベル形式の選択肢だけでなく、探索や謎解きを成功させなくてはなりません。上の画像のように、部屋内の調査をしてパスワードの手がかりを探してみたり、あるいはほかの開発メンバーとSADABI怪談オンライン上でイベントを進行させたりといった内容があるのですが、難易度的には高くありません。クリックできる範囲でくまなく調査すればヒントはすべて手に入りますし、そこからパスワードを導き出すのも簡単でしょう。壁を調べると出てくる落書きの中にもヒントが隠されていて親切です。
むしろ本作において難しいのはノベルパートで適切な選択肢を選ぶことです。すぐにそれとわかる一発ゲームオーバー選択肢以外にも、どっちが正解か分かりにくいものや、そもそも今後の分岐に影響するようには見えないけれども正解は一つしかない選択肢などもあり、一発で正規のエンディングに行くのすらだいぶ難しいでしょう。また、本作は序章~第9章までの章ごとの構成となっているのですが、分岐は章内だけでなく、過去の章での選択の影響もうけます。第6章あたりでゲームオーバーになっちゃうな~と思ったら、直前ではなくもっと前のセーブデータからやり直してみるとよいでしょう。

TRUEエンドへの道はさらに厳しいものとなります。ゲームオーバー選択肢は当然すべて回避したうえで、全員生存させるための各キャラクターの行動を考えなくてはなりません。正直エンディング回収後も何が必要なフラグだったのかつかめていない状態だったので、もう少しやさしくするなり攻略情報をどこかに書いておくなりしてくれたら親切だったなと思いました。
しかしこれだけ苦労した甲斐あって、気持ちの良いエンディングが見られます。まあ、そんな簡単に許せるん? と思わなくはないですが、このくらいなら十分ありでしょう。


本作をプレイしていて少し気になったのは、時々挿入されるミニゲームです。主人公たちがオンラインゲームの開発とプレイをしていて、それが本筋の謎にかかわってくるからゲームという世界観を表現しておきたいというような意図は分かるのですが、突然謎のすごろくが始まったり終盤の重要なイベントが結局運ゲーだったりすると、これはなんのゲームだったっけ? となってしまった感は否めません。だびぽんが勝手にオンラインゲーム上でのイベントを開いて、ヒロキたちで対処という仕掛けはいいと思うので、そこだけちょっと惜しいかなと思います。
あとは、分岐多数で難易度が高いので、既読スキップは欲しかったというところでしょう(スキップはあるが既読も未読も全部飛ばされてしまう)。



というわけで今回はだびぽんのご紹介でした。
誰が味方かもわからない中、目まぐるしく入れ替わる状況とホラーならではの緊張感。そうしたものが好きな方ならきっと本作を十分楽しめるでしょう。ボイスもついてますよ。
それでは。

こんにちは。今回は月の側面さんの「夕暮れ叙事詩」のご紹介です。


ジャンル:現代探索ホラーアドベンチャー
プレイ時間:1時間半
分岐:なし(ゲームオーバーあり)
ツール:RPGツクール
リリース:2017/8

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本作は、一人の小説家にかかわる物語を追うアドベンチャーゲームとなっています。最近はホラー系の作品の記事が続いています。本作はその中でも割としっかりホラー要素がありますが、そんなに得意でもない私でも十分クリアできたので、苦手な方でも物語を楽しめる範囲でしょう。


本作の物語は、主人公の高月秋乃が謎の少女から「近くの石碑に来て」という電話を受けるところから始まります。不審に思ったもののその声にどこか聞き覚えがあるようにも感じた秋乃は、指示通り石碑に向かいます。そこで何かを埋めた跡を発見した秋乃は掘り返してみると、なんと先ほど電話をかけてきたと思しい少女の遺体が埋まっているのだった…。
さらに電話で謎の男から、少女の名前は帷(とばり)ということを聞き、また帷の遺体を持って家に来いと要求される秋乃。困惑しながらも指示に従って男の家に行くと、なんと目を離した隙に帷が動き出した。さらには家の中に散在していた帷の日記らしきメモ。男に監禁されていたと読めるそのメモの内容に、秋乃は帷を救うことを決意する。

このあたりまでが本作の導入部分と言えるでしょう。帷はなぜ男の家にいたのか、そもそも何者なのかといったあたりは物語の大切なテーマとなります。
本作ではそれ以外に、"戸隠桂馬"という作家の人物像や、その作品たちも非常に大きな役割を果たします。彼はどうやって作品を書いていたのか、帷とはどういう関係なのかというあたりが物語中盤以降の肝となってくるでしょう。


概要の説明はこのあたりにしておいて、本作をプレイした感想としてまず思うのは、雰囲気などの演出が優れているなというところです。冒頭の、秋乃が石碑のところに向かう場面。山道を歩いていくのがオープニングムービーを兼ねるような演出となっており、単純ながら面白い手法だなと感じました。イラストもすごくかわいらしいですね。土の中に埋まっていたはずの帷ですが、どこか美しいと感じられるスチル。動き出してからの寡黙なキャラクター性も謎に包まれた感じを出していてストーリーに合っていたと思います。
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その他でいうと、メモの中で足音が迫ってくる場面。帷のメモがそのまま秋乃たちの世界に影響してコツ、コツと得体の知れない足音が迫ってくるのが上手かったと思います。その後はそのまま探索ホラー定番の追いかけっことなるのですが、狭い場所で切り返して脱出する必要があり結構難しいです。その他にも何度か追いかけっこのシーンがありますが、当然どれも一発ミスれば死亡の上追手の速度も速いので、そこに来るまでの探索中にしっかりとマップの通路を把握しておかないと逃げきれないでしょう。頻繁なセーブで自衛しましょう。
また、終盤の病院で患者たちを避けるところもかなり難しかったです。ちょっと観察すれば、簡単な行動パターンをしていることがわかるので、落ち着いて安全なルートを考察し出口に向かいましょう。


さて、本作の特徴的な要素として、ストーリー中の多くの場面で見ることのできる"フェイスチャット"があります。進行フラグを進めるとよく左下に、その場面のタイトルっぽかったり、人物の感想っぽかったりするテキストが表示されます。私は初回プレイでは、フラグが進行したことを示したり、行動指針のための親切な設計なのかなと思っていたのですが、後からそこをクリックできることに気付きました。吹き出しアイコンをクリック、あるいはキーボードのC押下でちょっとした会話を見ることができます。なかなか面白い仕掛けですが、いかんせん気付きにくい。readmeにもこの機能の紹介は一応あるのですが、イベントの発生のさせ方が書いていなかったのでスルーしちゃってました。というわけで皆さんは見逃さないようにしてくださいね。


本作において様々な怪奇現象やホラー的要素が現れる原因としては、"小説を書く者の恨み"のような部分があります。ファンレターはたくさん来るが、その中にはどれ一つとっても作家である自分を理解してくれる内容はない。こうした状況がまた孤独感を強めたとも読めます。なるほどと思いますし、本作における帷の悲劇性をよく表しているなとも感じるのですが、同時にゲームの作者もこうした感情を持つことがあるのだろうかと少しだけ気になりました。私は小説ではありませんが、ゲームについてこうして感想やレビューを書いているのであまり他人事ともいえないですね。もし私が書いた内容が作者の意図からして的外れだったとしても、そう感じる人もいるんだなあくらいに思ってもらえたらうれしいです。


脱線はこのくらいにしておいて、本作の重要な登場人物は他にも、秋乃の親戚(はとこ)の朱莉と、その友人の千歳がいます。彼女らもキャラクターが立っていて、フェイスチャットの会話の幅が広がり良いですね。さらに終盤では彼女らの友情、過去といったところに帷が干渉していきます。この展開については、なぜ帷は朱莉にも手を加えるのだろうという疑問が先立ってしまいます。帷が秋乃にこだわる理由については納得感もあったし、良い話だなと思えたのですが朱莉と千歳の過去も知っているとなるとこれは単なる超能力ではないかと感じてしまいます。秋乃については(中盤くらいで見当がつくと思いますが)プレイヤーにしっかりと因果関係が見えて気持ち良いです。私はやっぱり、ゲームの中といえどなんでそうなるか全くわからない理不尽な部分はあまり好きになれないみたいです(そのシュールさが逆に笑えるコメディなら別なのですが)。


といろいろ書きましたが、エンディングがとても綺麗で、冒頭部分の秋乃の行動が回収されていたので(私はそれまですっかり忘れていました)、読後感もすっきり良好な作品です。きちんと理解者に出会えてよかったですね。

それでは。

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