フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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ミステリー・サスペンス

こんにちは。今回は、劇団kolmeさんの女子トイレの殺人をご紹介します。

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★favo
ジャンル:ミステリー風コメディノベルゲーム
プレイ時間:1時間
分岐:あり。GoodEnd4、BadEnd4
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2017/8


先週、しゃん子channelというYouTubeチャンネルでフリーゲームCMコレクションという企画があり、私はそこで様々なフリーゲームのPVを見て楽しんでいました。内容盛りだくさんでクオリティの高いPVが勢ぞろいだったので、見てない人はぜひ見てみてくださいね。きっと気になる作品が見つかるはずです。
その配信の中で出た発言「フリゲは性癖博覧会」の印象が強烈でよく覚えています。実際、いろいろなフリーゲームを探していると、一歩引いてみれば変態だなあと思うような作品がかなりあることに気付きます。商業作と違って作者のさじ加減でいくらでも好きなものを詰め込めるのがフリーゲームのいいところの一つだと私も思っているので、こうした作品の中にはフリーゲームらしい良作があるだろうと思い、よくプレイしています。
さて、変態なフリーゲームは数あれど、その方向性は2つに分けられると思っています。一つは登場人物が変態な作品。もう一つは設定が変態な作品です。今回ご紹介する「女子トイレの殺人」は前者の方向性で最強だと思っています。大変強烈なキャラクターが次々登場し、登場人物の変態性という意味でこれを超える作品は見たことがありません。トイレという単語以外の下ネタなしでここまで濃い嗜好を表現することが可能なのかと驚愕させられます。


では、作品内容の紹介に移りましょう。本作のプロローグは次の一文で始まります。
「それは、俺が女子トイレの個室から出た瞬間のことだった。」
お前は男か?と初っ端からツッコみたくなりますが、先に進みましょう。主人公の助士怜人(女子トイレのアナグラムですね。無論男)は女子トイレが大好きという大変特殊な性癖の持ち主。彼曰く、人が用を足しているのを覗いたりすることに興味があるのではなく、純粋に女子トイレという空間を愛しているらしい(理解できない)。彼がいつものように公園の女子トイレから出てくるとそこには頭から血を流した男の死体が! その場に居合わせたトイレ利用客の奥竹葵("ブルーレットおくだけ"かな?)、梨木かおる(りきかおる。消臭力のことでしょう)に殺人の疑いをかけられる。しかし身に覚えのない怜人はひとまず通報はせず、この事件の犯人を当てる推理対決をすることを提案する。どうやらそれぞれ後ろめたい要素のあるらしい2人はそれに同意。かくして社会的な生存を賭けた推理バトルが始まるのであった……

本作のうまいところの一つは、"社会的死を回避せよ"という宣伝文句にもある通り、登場人物にそれぞれ公にしたくない趣味があって、それを隠しておくためには警察からの取り調べを回避したいという利害の一致があるところでしょう。この変わった着眼点にまずなるほどと思わされました。
そしてその隠しておきたい趣味がものすごく濃い! 怜人の女子トイレ(という空間)好きも理解しがたいですが、葵の趣味もそれに負けないくらい理解不能なものです(まあ世界は広いから探せば同じようなことしてる人もいたりするのかな?)。かおるの趣味はそれらに比べたらだいぶ理解しやすいでしょう(それでも公言しにくいという点では同じかと思いますが)。そして怜人に「(キャラが)薄い!」と理不尽にツッコまれる。このあたりのツッコミもスピード感があっていいですね。

さて、本作にはもう一人強烈かつ重要な登場人物がいます。怜人のストーカーという流川乙姫(るかわおとひめ。水音出すやつですね…)です。彼女の変態さも相当なものですが、それに目覚めるきっかけとなった出来事も描かれるのが良いです。変態って、あれだけ堂々として開き直ってると人を救うこともあるんだなという謎の感動(?)に包まれました。

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本作のギャグはとにかく言葉のパワーが強すぎるんです。上の画像での「イノセント変質者」はその筆頭。他人の言い逃れを見破る術(を知っている理由)、「変態のサラブレッド」、「それ以来学校の女子トイレは出禁になってしまった」などなど…。しかも、これらのギャグとして登場したセリフが推理をする際に伏線として再度登場したりするなど、非常に芸が細かいです。

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そんなとんでもないメンバーで繰り広げられる推理バトルですが、推理部分も意外としっかりしているのも高得点です。ただのトンデモコメディーと見せかけながらしっかりとロジックが通っており、笑えるだけでなく印象に残る話になっているように感じます。また、一人の優秀な探偵役が事件の全貌を明らかにする、というタイプのミステリーではなく、その場にいる全員が協力して、時には他の探偵役の証言の不自然さを指摘しながら推理をするという形で進んでいくのですが、こういった作品は珍しいんじゃないでしょうか。
しかしそんな推理を披露するのは常人には理解不能の変態たち。ノリノリで自身の特殊性癖を暴露した人が、次の瞬間には冷静に相手の議論の穴をつく、そんなシュールさも本作の特徴でしょう。

本作がロジックの面で非常に特徴的なのは、一つの真実が用意されているわけではないというところでしょう。作中ではミステリー定番の犯人指摘シーンがあります。ここで4つのエンディングに分岐するのですが、なんと誰を犯人としてもそこそこ筋の通った論理が組み立てられ、違和感のない結論に至るのです。これは他の作品にはない珍しい仕様ではないでしょうか。それぞれのエンディングでは犯人や動機は異なれど同じようなコメディー展開が待ち構えており、まったくブレません。葵ルートだけはちょっと異質でしょうか。
ちなみに私が一番好きなルートは乙姫ルートです。さっきまで決死の犯人あてバトルをしていた変態たちが、共通の敵の出現を見て一致団結する展開と、そのあとで怜人が勝ち誇るシーンにハマりました。

さて、プレイしていて気になった点も少々あります。
一つは人物の名前もわからない段階で現場見取り図に全員の名前が書かれているところです。単純に「誰?(どっち?)」となりますし、この図は誰が書いてるんだろう、とかも気になってしまいます。あと、身長180cmは中肉中背というのだろうかとか、そこは"言及"ではなく"追及"じゃないだろうかとか、そのあたりの言葉遣いや誤字脱字も多めかなと感じます。
UI面でももう少しプレイしやすくなっていたらよかったなと思うところがあります。具体的にはバックログが非常に読みづらいです。また、1ページ分しかさかのぼれません。ボタンがトイレットペーパーになっているなどの工夫は独特で良いと思います。

さて、今回は強烈な作品の紹介でしたが、トイレ以外の下ネタは本当になく、そこまでお下品でないのでコメディー好きの方なら広く楽しめると思います。ちなみに蛇足ですが、ふりーむ!で「トイレ」でゲーム検索したら70件もヒットしてびっくりしました。みんなトイレ大好きですね(笑)

それでは。

こんにちは。今回は、おととい公開されたばかりのベルカゲさんの最新作泡沫の花が散るをご紹介します。

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ジャンル:ミステリー&百合ノベルゲーム
プレイ時間:ノーマルモードですべて読んで1時間半くらい。フルコンプまで2時間ほど
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト、ブラウザ版あり
リリース:2021/7
備考:12推


チェス殺人事件以来のミステリーのご紹介になります。チェス殺人事件では手掛かりとなるのは人物情報とチェスのルールだけというお手軽さでしたが、本作は事件に至る状況の描写とか捜査パートもあり、力の入った作品になっています。

まずはあらすじを簡単にご説明しましょう。本作の主人公はミッション系の女子高、ロータス女学院に通う2年生の綾小路花蓮。唯一の正当な文芸部員として活動している。幼馴染で1年生の嘉手納向日葵(かでなひまわり)は写真部所属。クラスメイトの演劇部員に頼まれて、合宿中の撮影係として同行することに。3年生の不知火(しらぬい)あやめの別荘の豪華さと演技力の高さに驚いたり、彼女をめぐる人間関係のごたごたに巻き込まれたりしながらも無事に1日目を終え眠りにつく。2日目にいつまで経っても来ないあやめを探していると、なんと彼女は温室の中で無残な姿で発見された。しかし山奥のため夕方のバスの時間まで外部に連絡することもできない。花蓮は何としてもこの違和感のある事件の真相を見つけて向日葵を安心させるんだと心に決めるが……

と、こんな感じです。ミステリーの王道的な展開でしょう。この説明を読んで気付いた方も多いと思いますが、本作の登場人物は皆花に関係した名前になっています。主人公の名前には花という字が入っていますし、その他にも向日葵、朝顔、夕顔、あやめ、のばら、菊華に竜胆と様々な花の名前がそろいます。人名としては見慣れないものもありますが、各登場人物の髪の色が花の色に対応している感じのキャラクターデザインなので大変覚えやすく、特にミステリーにおいては大きなメリットでしょう。
さて、ミステリーにおいて魅力となってくるのは事件のトリックの意外性やそれを解き明かす体験だけでなく、ぐちゃぐちゃした人間関係やそこから生まれる事件への動機といった面も大きいでしょう。本作はその点において評価が高いです。
みんなの尊敬の的であったあやめの過去と悩み、彼女へ恋愛感情を持つ生徒とそれを快く思わない者の存在、妙な違和感のある不知火家の別荘の間取り。これらが本作はミステリーであることをしっかりと主張してきて、期待感を高めてくれます。

今、「え、主人公たちって女子高の生徒じゃなかった?」と思った方は鋭いですね。そうです。本作では女の子同士で恋愛感情を持ったり付き合ったり、さらには依存したりといったことが普通に行われています。つまり本作はミステリーでありながら百合ゲーとしても楽しめるわけです。作者のベルカゲさんは乙女ゲー作ったりギャルゲー作ったりBL作ったりと様々な方向で作品を発表しているのが特徴的なサークル。ミステリーを作ったと聞いて今回は違う方向性なのかなと思ったりもしたのですが(事実、恋愛面を除いたら過去作とはかなり印象が違いました)、きちんとベルカゲ節は発揮されているのでした。ちなみに百合といっても、「女の子同士なんて…」みたいな葛藤や周囲からの横槍が一切なく純粋にお互いのことを好きあっているのがこの作者さんの特徴。ともすれば殺伐とした空気になってしまうミステリーにおいてほっと一息つける場を提供してくれます。

BGMはクラシックなどの落ち着いた雰囲気の曲が多めで、お屋敷の豪華さや先輩たちの演技力なんかを音から引き立てています。私は終盤で使われていたチャイコフスキーの金平糖の精の踊りの不気味な感じがするアレンジが気に入ったので、クレジットを見てこれはポケットサウンドのクラシックアレンジシリーズに違いないと思って探したのですが(クラシック名曲サウンドライブラリーはアレンジはしていない)、違いました。DOVA-SYNDROMEのHuppleさんでした。

さて、話を本筋に戻して肝心の事件とその捜査・推理パートを見てみましょう。
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捜査パートでは、マップに従って屋敷内で聞き取りや証拠集めをしていきます。選択肢を全部試せば証拠収集できるので難しくはありませんが、証拠の数が大変多い! 捜査開始前に証拠品一覧画面を見た私はその空欄の数に圧倒されました。そんな証拠品ごとにアイコン用イラストが用意されていたり、状況を記録した写真とか、現場の見取り図とかがきちんと用意されていて、大変な作りこみようだなあと感心しました。
推理パートにおいては、議論中の話題ごとに適切な証拠品や証言を選択していきます。間違った選択をするとLIFEが1減り、0になってしまうとゲームオーバーです。しかし花蓮が話題を誘導してくれるので、それに従って進めていけばそれほど難しくはないでしょう(推理パートに入る前に事件のあらましが分かったという方がいたらすごいです)。ただ、2~3個くらいの証拠のどれでもよさそうだなと感じる場面でも正解は一つだけのようで、私はそのシーンなどでLIFEをゴリゴリ削られました。
こうした要素が苦手な方のためには、イージーモードが用意されています。証拠選択シーンが全証拠からの選択ではなく3択になり、LIFE切れになっても半分の値で復活可能。また捜査パートにおいてダミー証拠をつかむことがなくなります。配慮はかなり行き届いているといっていいでしょう。推理が苦手な方向けだけではなく、例えば周回プレイ用に事件に直接関係のない部分を省けるあらすじモード搭載、証拠選択画面になる前に予告がある、証拠選択画面でもバックログなどの参照可(意外とこれができない作品は多かったりする)、右上に議題が出るのでスキップ使用時でも流れの把握が容易など、多方面でプレイしやすくなる配慮がされており、周回プレイもストレスフリーにできる工夫があらゆる場面でなされています。ぜひSSランククリアを目指して周回してください。

推理の内容やトリックはどうだったかというと、正直なところよくできているとまでは言えない感じがしました。ほとんど状況証拠しかない中であっさりと自白しちゃうし(ただしこれは動機を考えれば納得できる気もする)、ちょっとそこに発想の飛躍ない? と思ったところもありました(論理の飛躍とか破綻ってわけじゃないのでそこまで気にするほどでもないかも)。しかし私は本格推理小説を読むつもりでプレイしたわけではないですし、推理をする花蓮の堂々とした態度は大変魅力的だったように感じます。現状は一つの事実によって力ずくでゴールに向かっていった感じがあるので、何かもう一つ、まさかと思わせるトリックがあると立体感が出てきて一気にミステリーとしての魅力が上がるような気がします。
事件に関して私の評価ポイントが高いのは、主人公たちがミッション系の女子高に通っているという設定が活きていたことですね。冒頭のチャペルでのシーンが素敵だから、みたいな理由ではなくきちんと事件の一つの要因になっていたというのはうまいと思います。あとは、制服もかわいいしね!
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さて、先ほどベルカゲさんの特徴は性別なんて気にしないおおらかな恋愛描写だというようなことを描きましたが、もう一つ重大な特徴があります。ネタバレを考えて具体的には言いませんが、過去作をプレイしてきた方ならお分かりと思うあの要素です。それがまさかねえ、エピローグからおまけ小話にかけてぶつけられてくるとはねえ…油断しました。ここでもベルカゲ節は炸裂です。油断した私が悪いんですが、ここはもう少し後味よくしてくれたほうが個人的な好みには合いました。
そうそう、あとがきでも書かれている通り小話は第2の本編とも言えるようなおまけの充実ぶりもベルカゲさんの特徴でした。立ち絵ギャラリーで遊べたりもするのでぜひやってみてください。

最後に私の推しキャラの話をしましょう。Twitterにも書きましたが、エアコン騒動でパジャマ姿で震える向日葵ちゃんが可愛い!
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スクリーンショットでは分かりませんが文字通り震えてるんでぜひプレイして確かめてください。
そしておまけ座談会にパジャマパーティーあり。需要分かってるなあ。

それでは。

今回は、ひまゲームズさんのチェス殺人事件をご紹介します。

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ジャンル:お手軽ミステリーノベルゲーム
プレイ時間:15分
分岐:バッドエンドあり
ツール:HTML5(ブラウザゲーム、スマホ可)
リリース:不明(2011年?)


これまでは、PCにダウンロードしてプレイするタイプのゲームを紹介してきましたが、今回はブラウザゲームです。かつてはAndroidアプリ版も公開していたようですが、2021年3月現在は公開終了しているようです。

最初に難点から書いてしまうのですが、本作はかなり古いようで、最新のブラウザ(私の環境はWindows10,Chrome88です)だとかなりレイアウトが崩れてしまいます。AndroidのChrome89では大きなレイアウト崩れはありませんでした。また、昔プレイした時はBGMが一部ついていたように記憶しているのですが、今プレイすると再生されませんでした。

と、システム回りに不備はありますが短編なのでそれほど気にならないでしょう。
本作の内容は、殺人現場に残されたダイイングメッセージの謎が解けない金沢先輩の相談に乗った主人公が、見事に隠された意味を暴き出すというシンプルなものです。シンプルなだけに、その残された謎の出来に作品全体の出来が左右されますが、しっかり筋が通っていて面白かったです。解決にはチェスの知識を若干必要としますが、必要な分は作内でしっかり金沢先輩(が持ってきた本)が解説してくれます。
ちなみに、私は初見では解けませんでした。チェスのルールは知っているからと解説部分を流し読みしていたのが敗因でしょうか。3回目くらいで気付き、ああそういう事かと膝を打ったのを覚えています。この謎を解いたときの爽快感がミステリーの醍醐味ですよね。かなりお手軽に読める本作ですが、その点がしっかりしていて好印象です。

しかし肝心の推理を披露する場面の「これ以外の解釈は可能です」は不可能ですの間違いではないでしょうか。意味が正反対なだけに痛い脱字です。

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上のスクリーンショットを見ると分かりますが、テキスト中に時々クリックできる単語があります。クリックすると、作品の内容とは関係ない解説が読めるのですが、これが結構高頻度で仕込まれていて面白かったです。そんなに高級なチェスの駒があるとは思いもしませんでした。

さて、普通のミステリーだったら謎を解いて事件が解決したところで話は終わるのですが、本作はちょっとした続きがあります。そこで第2の質問が出てくるのです。この仕掛けには少し驚きました。この質問の答えは選択式ではなく自分で入力しなければならないのですが、ちょっと考えればわかります(わからない場合でも、2回間違えるとさらに露骨なヒントが出てくるようです)。この答えを踏まえることで、推理する場面で普通あり得ない選択肢を選んだ時の展開に納得がいきました。
セーブ機能がない代わりに、オープニングや事件の状況など各パートごとにスキップすることが可能など、周回プレイへの配慮はきっちり行き届いているので、ぜひこの選択肢も試してみてください。

というわけで、チェス殺人事件のご紹介でした。
謎解きや推理小説が好きな方は一発正解を目指して、それ以外の方も気軽に読めるのでぜひプレイしてみてください。

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