フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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ラブコメ

こんにちは。今回はぱすてぃぶソフトさんの「魔女をたずねてコンビニバイト」をレビューしていこうと思います。

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ジャンル:魔女っ娘ラブコメノベルゲーム
プレイ時間:1時間半
分岐:1か所。終盤で3つのエンディングへ分岐
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/6



はい、今回はぱすてぃぶソフトさんの新作です。
あの強烈なデビュー作をプレイしていた私は、本作をプレイするにあたってもいつ事件が起こるのかと警戒しながらプレイする手を進めていたわけですが、本作は安心安全の全編コメディ仕様で広く皆さんにお勧めできそうな作品でしたのでご紹介します。大事件が起きてプレイヤーの期待を裏切ってくるタイプの作品も好きですが、そればかりだとプレイするのも疲れますからね。幸せな作品でエネルギーを蓄えましょう。


本作の主人公は高校2年生の早乙女永一(さおとめ・えいいち)。父親と不仲で実家を出てボロアパートで一人暮らし中なので、生活費のためにコンビニでバイトをしています。ある日バイト仲間の佐藤さんの代わりにヘルプで入ってきたのがヒロインの阿澄莉奈(あすみ・りな)。少し親しくなってきたところ、何と彼女は実は魔女であるという衝撃の告白を受けます。
60年前に魔法の国から人間界へ行ったきり会えていないという妹のニーナを探しに人間界へやってきたというリナ。それを聞いて永一は妹探しを手伝うことを約束します。果たして無事に妹を見つけ出すことはできるのか。なぜリナを置いて人間界へ行ってしまったのか。永一をめぐる恋模様の行方は?
ちょっぴりファンタジーなラブコメ物語が始まる…


本作の物語を簡単にまとめるとこんな感じでしょう。
筋となる部分はもちろんリナがニーナとの再会を目指して調べていく部分なのですが、それ以上に永一をめぐるラブコメシーンや、人間としてはちょっぴり常識知らずなリナのギャグシーンなどが楽しい作品となっています。


というわけでコメディシーンを演じる登場人物たちをご紹介しましょう。
主人公の永一はラブコメのテンプレと言ってもいい激ニブ男。クラスメイトの珠美が明らかにラブラブ光線を送っているにもかかわらず当の本人は「突然の玉泉さんの奇怪な行動にわけがわからない」などと言っています。


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メインヒロインのリナは正真正銘の魔女っ娘。変化魔法が得意だけれども他の魔法はてんでダメ。町で面倒な男に絡まれたときは男をバッタに変えて助けてくれましたが、冷蔵庫の中身を変化させて料理を作った時は大失敗。
また、どうやら魔女たちの住む魔法の国には男は存在しないようで、男女関係についてはほとんど何も知らないようです。見事にギャルゲーメインヒロインの属性を兼ね備えていますね。


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永一の妹麻祐理(まゆり)は小さいころから頭が切れるようで、父親に可愛がられている立場をうまく利用して永一を助けてくれたブラコン気質もあります。
永一が父親を見限って一人暮らしを始めてからは自分も不良ぶっていますが、本性が良い子なのはクラスの子にもバレバレの模様。本作におけるツンデレ担当でしょうか。


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クラスメイトの玉泉珠美(たまいずみ・たまみ)はどう見ても永一が大好き。アルバイトで時間がなかった時にいつも宿題を写させてもらってますが、今日はやってきたから大丈夫だよと伝えるとなぜか少しだけ残念そう。(いや明らかにフラグ立ってるだろ!)


そんな彼らは妹と離れ離れになってしまったリナの事情を聞き、人探し(魔女探し?)を手助けすることを約束します。
しかしどうも全員永一のことを好きなようでちょっとだけ複雑な関係だったりも。
昼休みの教室では、麻祐理と珠美は(頼まれてもいないのに)手作り弁当を持ってきてくれて永一は2食分食べる羽目になったり、リナに”タマタマ”と危ないあだ名をつけられそうになった珠美が全力で拒否したり。
こうした分かりやすくてお約束なギャグ展開が続いて非常に読みやすい作品になっています。


私が好きなのは、使い魔のアルキマによってリナの年齢がバレて慌てるシーンです。
いや、その年齢は(人類の視点では)おばあちゃんとかいう次元を超えてるよ…ロリババアってやつだね…。

あとはリナの無邪気な発言によって珠美が勘違いして倒れちゃうシーンとかも笑いました。
嫉妬に狂うとかじゃなくて、単純にショックを受けて暴走しちゃうのが可愛くて良いですね。チーンという効果音が聞こえるだけでなんか笑っちゃうようになりました。


さて、そんなほのぼのした空気の中で妹探しはつづき、下級生の宮藤静流(みやふじ・しずる)から有力な情報が得られます。彼女の祖父がずっと昔魔女と思われる人物にあったという日記があるというのです。静流の協力を取り付けた永一たちは、皆で魔女の目撃されたという山へ向かいます。

旅館ではみんなで兄弟のフリをしたりイナゴを食べたりと楽しいシーンが続きますが、翌日はちょっぴりシリアス。リナは突然姉である自分を置いて人間界へ行ってしまったニーナが果たして突然会いに来た自分を受け入れてくれるのか悩んでいます。実はリナに不満があって魔法の国を飛び出してしまったのではないかと。
そんなナーバスなリナに対し、永一は自分の経験をもとにリナを励ましていきます。実家で父親とうまくいかず家を飛び出した永一。麻祐理はその影響で不良ぶるように。それでも麻祐理はよく会いに来てくれるし、家族の繋がりが消えたわけじゃない。兄弟とはいっても言葉を交わさなければ伝わらないから変に悪い想像をして悲観することはない。
確かにその通りで、永一本人の経験に基づく分説得力があります。私は以前恋愛ものの高校生主人公はどれくらい一人暮らしをしているのか調べてネタにした記事を書いたりもしましたが、本作では高校生の一人暮らしに単なる物語の都合以上の理由があって、そのためにリナや麻祐理とのやり取りにリアルさが生じているんですよね。


ずっと探していたニーナとの対面シーンでは、リナにとってショッキングな事実と物語の設定が明らかになります。60年もの間ニーナは一体何をしていたのか。なぜリナとのコンタクトを絶っていたのか。それはぜひあなたの目で確かめてください。
驚くような真実ではあるものの、決して後味の悪いタイプではない優しい結論です。最後の最後でこうロマンチックな雰囲気を出してくるのが上手いですね。


そして最後の最後に分岐があります。なんと物語序盤にあった1か所の選択肢で分岐するようです。
どのエンディングも永一が再び希望を見出せるような内容で良かったなとは思いますが、なぜそうなったかの途中経過が抜け落ちていて説明不足な感は否めません。もう少しフォローが欲しかったなという気がします。

しかし分岐の回収のために既読シーンを丸ごと飛ばす機能が実装されていて非常に回収しやすかったです。エンディング以外の部分は変わらないようなので、大変ありがたい機能だなと思いました。



というわけで今回は「魔女をたずねてコンビニバイト」でした。
微妙と書いた部分もありましたが、最後のリナの笑顔が眩しくて素晴らしいのでそんなことはどうでもよくなると思います。ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はCynical Honeyさんの「終わりの鐘が鳴る前に Chapter.1」をご紹介しようと思います。

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※期間限定無料作品
ジャンル:学園ラブコメ
プレイ時間:4時間(ボイスを全て聞くともっと長いと思います)
分岐:基本1本道
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2022/2
備考:Chapter.2公開以降有料化。今年夏予定
(9/10追記:現在本作品の無料公開は終了しています。Chapter.2の販売も開始しています)


昨年の冬に私がTwitterを見ようとしたとき、本作の作者であるCynical Honeyさんのアカウントからフォローされていることに気付きました。プロフィールを確認したところ、公開中というノベルゲーム(本作)が面白そうだったのでとりあえずDLしてプレイしたところ、かなり面白い作品でした。普段だったらレビューを書くかなというところだったのですが、私がこれまで書いてこなかったのは本作が純粋なフリーゲームではないからです。
というのも本作は昨年の2月にChapter.1が公開され、その時から現在までノベコレふりーむBooth等で無料で配布されていますが、Chapter.2の公開と同時に(Chapter.1含め)有料化されることが宣言されていたからです。

一応本ブログではフリーゲームを専門に扱っているので(一部有料のものもありますが、それらもフリー版で十分完結まで楽しめるもののみです)、本作を取り上げることにややためらいがありました。しかし先日Twitterのフォロワーに需要がありそうなことが分かったので、今回こうしてレビューを書くことにしました。普段のフリーゲームに比べるとやや厳しめの評価になっているかとは思いますが、大変いい作品ですのでぜひプレイしてみてください。



さて、本作のあらすじを説明しましょう。
主人公の長谷部涼平は高校2年生。友人の日高進や戸松香澄らと楽しい高校生活を送っています。
しかしある日、涼平の前に死神を自称する少女モトが現れ、同級生の菅野雪乃に年内に心から幸せを感じさせなければ涼平は死ぬと無理難題を押し付けられます。
途方に暮れる涼平は偶然にも雪乃が日高に恋心を抱いているのを知り、条件達成のチャンスと見て雪乃の恋愛をサポートすることを思いつきます。しかし校内で男勝りでワイルドと評判の彼女は恋愛に疎いようでその道は苦難の連続です。さらには何と肝心の日高が実は香澄のことが好きであることも発覚し、涼平は2人の板挟みになりながらもなんとか雪乃が幸せになれるようサポートします。
果たして雪乃の恋は実るのか、幸せにすることはできるのか。そして幸せとは何なのか。文字通り涼平の生死をかけた4か月間が始まる…


とまあこんな感じでしょう。
つまるところ本作は、「雪乃の恋路を応援する」というお話になります。ラブコメによくある展開で、他人の恋愛を応援するというと最近完結したことで話題の「その恋、保留シリーズ」が思い浮かびますね。あの作品では恋愛を応援する理由はお節介によるものが大きかったですが、本作においては恋愛の成否が文字通り生死に関わるという明確な理由があり、物語をよりシリアスな方向にしていると言えるでしょう。

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この無理難題を仕掛けてくるモトはかなり変わった人物(人ですらない?)です。常時涼平の行動を監視しているようで、たまに姿を現しては涼平に話しかけてきます。淡々とした口調でありながら条件達成について厳しく問い詰めてきます。幸せを感じさせるのは一時的でもいいのだから、自分の生死がかかっているのに常に誠実であろうとするのは非効率ではないか。そんな風にささやき涼平をいらだたせる様は死神というより悪魔のようです。

しかしやはりモトがいるからこそ本作の物語は成立しているんですよね。涼平の行動の理由はモトの存在があってこそですし、2人の対話から誠実であろうとする涼平の人柄も見えてきます。
こうしたシリアスめな青春物語というものは、登場人物の関係性であるとか性格であるとか、行動原理などが描けたうえで魅力的になるものだと思うのですが、本作はそのあたりの描写がしっかりしていて面白く感じられるのです。


ちなみに本作はシリアス一辺倒ではなく、時々漫画やアニメのネタが出てきたりといったギャグポイントもあります。
プロローグの時点でもすでにデスノートや北斗の拳と分かる台詞があったりして、相当な密度で組み込まれています。あまり詳しくない私でもたびたび出てくるなと感じたくらいなので、知っている方が見たら本当に多くのネタを拾えるんじゃないでしょうか。

あとは同級生の平野亜希による涼平の毒舌いじりなんかもギャグに分類されるでしょうか。ただあれは私にはちょっとやりすぎに感じました。流石にあそこまでの性格ならば何らかの理由付けとか説明が必要なんじゃないでしょうか。小学生の妹にもひどいことを言わせてますし…。

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さて、いったん本作のシナリオから離れてみます。
するとやはり目に付くのは、タイトル画面などからも分かるイラストの綺麗さです。ここに描かれたキャラクター以外にも多数の人物が登場する本作ですが、みな可愛らしくきれいに描かれていて製作者の気合を感じます。
イラスト面において私が特に良いなと感じたのは背景です。学校、自宅、喫茶店に遊園地といくつもの場所が登場しますが、それぞれ本作の立ち絵に合ったテイストで描かれていてとても綺麗。教室の画像なんかはモブの人物まで書き込まれていたりします。これは私が今までプレイしてきた作品の中でも珍しいんじゃないかと感じました。

また、本作では主人公以外の台詞にはすべて声が付いています。みなさん演技もうまいですし、普通のフリーの作品の範囲を超えているなあと思わされます。
そのキャラクターごとのボイス音量調整などシステム面においても機能は整っています。ただしメニュー画面の呼び出しが遅いのはストレスを感じるポイントでした。私の環境(OS: Win10Home 22H2, CPU: AMD Ryzen 7 4700U, メモリ: 16GB)ではメニュー呼び出しに平均6秒以上かかっています。特にクイックセーブ以外の通常セーブはメニューを経由しなければならないのでさすがにしんどかったです。メニュー呼び出しに時間がかかるなら、通常のメッセージウィンドウから直接セーブ/ロードできるだけでかなり違ったでしょう。欲を言えばセーブスロットも現状の6よりは多い方が良いかなと思います。
このあたりはChapter.2以降でUIの刷新も計画されているようですし今後に期待といったところでしょう。


さて、話は本作のシナリオに戻ります。
私が本作を気持ちよくプレイできた理由の一つとして、1つ1つのシーンが全体のストーリーに活きていて、キャラクターの心情や関係性を掴みやすかったというのがあるでしょう。
例えば本作の中盤くらいで涼平が雪乃を傷つけてしまうシーンがあります。事情を知っている私(プレイヤー)の目から見ればある程度仕方のないことでしたが、雪乃から見たらショックでしょう。涼平としては当然雪乃との関係を修復していかなくてはならないのですが、その時にきちんと過去の出来事などが前提としてあって、だからこそ雪乃と仲直りできたんだなと感じられる展開になっています。詳細は述べませんが、お悩みボックスに関する話とか、(雪乃の友人である)悠木さんとの信頼とか。そのあたりのことが意味を持ってくる分読んでいて気持ちがいいし、話にご都合主義というか作為的なものを感じないのです。
このように物語が1つの線につながり、因果もはっきりすることで人物の心の揺れ動きがより鮮明に見えてくるのでしょう。

これは物語冒頭のモノローグの部分もそうです。意味深な語り出しから始まる物語は多いですが、本作では冒頭で語られた「人は大切なものを失うことに怯える」というような内容の言葉の意味するところを涼平はしっかりと痛感させられます。やはり丁寧に作られた作品だなと思いました。
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ストーリー自体の話とはちょっと違いますが、本作の文章表現もなかなか面白いでしょう。ちょっとした比喩表現などが多用され、情景を思い描きやすくなっています。私が好きなのは、「バイブ機能が付いた携帯電話みたいに、菅野は小刻みに震えだした。」などでしょうか。

しかし文章表現は本作において気になった点の1つでもありました。やたらと複雑だったり、一文が非常に長かったり、前提が省略されていたりといった場面がしばしばみられます。
例えば、雪乃が涼平に対して何らかの手助けを申し出た場面の「彼女自身からしてみればフェアではないが、どちらかというと俺からしてみれば利用している形になっているので、後ろめたさもあった。」は「(涼平が見返りなしで雪乃の手助けをするという状況は)彼女自身からしてみればフェアではないが、(実は死神の条件達成のためにむしろ涼平が雪乃を)利用している形になっているので、(涼平は)後ろめたさもあった。」などと主語を補完しないといけない箇所が大分多いように感じます。おそらく読点の前後で主語が変わっているのに両方とも省略されているからややこしく感じるのでしょう。

また、誤字・誤変換・助詞の間違いなどが非常に多いです。文章が複雑な件と合わさり、意味の理解に時間がかかる文がたびたび出てきてゲーム体験を阻害していると言えるでしょう。


ちょっと厳しめの意見が続きましたが、印象的なセリフなどもあって文章も全体的には上手いのも確かです。「私の友達のためにあんなに怒ってくれてありがとう」とか、意外なところでスッといい台詞が出てくる印象があるんですよね。



そんな本作は雪乃が遊園地で日高に告白してクライマックスを迎えます。涼平は当事者ではないのでまさにそのシーンが描かれることはないのですが、私までドキドキしてしまうような描写にびっくりです。周囲の人の状況や台詞の描写だけであれだけ印象的なシーンになるんだなというのが驚きでした。

そしてその後、雪乃はどうするのか。Chapter.2に期待といった展開になっています。
雪乃の件だけでなく、涼平の過去についてなども意図的に隠された情報があるのでそれも合わせて楽しみにしておきましょう。沢城先生がなぜ涼平の進路にうるさいのか。涼平自身が恋愛をする気にならないというのはどういうことか。今後明らかになっていくのでしょう。



繰り返しますが本作の無償提供は期間限定なので興味のある方はお早目のプレイをお勧めします。
にぎやかだけどどこか切ない青春物語を楽しみたい方に。これが無料でプレイできるのか、と驚くこと間違いなしです。そしてChapter.2の公開を楽しみにしましょう。

それでは。

こんにちは。今回は、HACKMOCKさんの「ロイヤルベルを鳴らして」のご紹介です。

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★favo
ジャンル:洋風ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:1ルート30分程度。フルコンプまで1時間半
分岐:3人の攻略対象ごとに複数+ノーマルエンド
ツール:吉里吉里
リリース:2012/2


さて、まずは本作のあらすじを簡単にご紹介しましょう。主人公のユーリ(名前変更可)はヴィンボーナ王国の王女。しかし国が貧しいため贅沢はできず、庶民的な暮らしをしている。緊張すると頭の中が真っ白になってとんでもないことを口走ってしまうというおっちょこちょいな面があり、国民からも親しまれている。父親のヴィンボーナ王は何とか国を豊かにするために、隣国のカネモティアの2人の王子のどちらかと政略結婚させたいと思案し、王子の別荘に忍び込んでアプローチをかけるよう指示するのだが……

いきなりですが本作の魅力は一つ。ユーリが可愛い! そして面白い! これに尽きます。本当にかわいいんですよ。やってみてください。

…これではレビューにならないんでもう少し真面目に話しますね。
本作の冒頭は、ぎっくり腰になった父の代わりにユーリがカネモティア王子の誕生パーティーに出席している場面から始まります。公務の場に慣れていないユーリは緊張しまくり。カネモティア第一王子のアルト様がかっこいいな~と思っていたが、実際に話しかけられるとまともなことは何一つしゃべれず、「ミドリムシの生まれ変わりなので光合成しなきゃいけない」などと意味不明な言い訳を残しその場から逃げてしまいます。この時のユーリの表情がすごい。酔っぱらってもこうはならんだろというくらい真っ赤で可愛いんですよ。そしてころころと表情を変えるので見た目にも楽しい。この表情差分の数も魅力ですね。
創作の世界でよく"アホの子"というのがありますが、ユーリの場合はそれとはちょっと違って、自分のしでかした言動が常識に照らして突拍子もなさすぎるということには気づいているので、そのことについて恥じているシーンが多いんです。だからこそ笑えるだけの作品ではなく、思わずユーリを応援したくなるような、そんな物語に引き込まれる作品に仕上がっているように感じます。

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さて、本作には3人の攻略対象がいます。冒頭のシーンでも登場するカネモティア王子のアルト様、その弟のアキバル様、そして自国の大臣のセナです。それぞれ分類するなら、アルトは乙女ゲームの王道的ルート、アキバルは変わり者・癖のあるルート、セナは幼馴染ルートといえるでしょう。ちなみに個別ルートに入れなかったノーマルエンドもあります。これらのルートがそろって乙女ゲームとしてのバランスという意味でもよくできているでしょう。

これらのルートの中で私が好きなものを挙げるとしたら、なんといってもアルト様ルートでしょう。この王道な感じがたまらない。
アルト様は公の場では品行方正で美しい立ち居振る舞いで多くの女性から大人気なわけですが、会話を重ねるにつれ素の彼は俺様タイプだったことがわかります。そんな彼がどうしてユーリに気を許すのか、そのあたりもきちんと描かれているんですよね。恋愛ゲームに関してこの"なぜお互いが惹かれ合うのか"ってめちゃくちゃ大事な要素ですよね。そこのツボをしっかり押さえています。そしてユーリの行動は相変わらず。恋愛もコメディーもどちらもたっぷり味わえます。ぐいぐいくるアルト様に、ユーリだけでなく私まで心ときめかせてしまいました。そしてEND2のエンディングタイトル。ここまでの流れが本当にうまい。ユーリの「貧乏神」発言を生かしたこの展開にはうならされました。

ちなみにアルト様ルートはもう一つ、END1もあります。END2とはかなり温度差があるのですが、アルトもユーリも先ほどのエンディングと別人な感じはしないんですよね。たまにエンディングによって同一人物なのにキャラ違うだろ! と言いたくなるような作品もあったりするのですが、本作ではアルトとユーリの気持ちの動きがしっかりと表現されているので、どんな結末にも納得感があります。甘さたっぷりで乙女ゲームとしての魅力満点なのはやはりEND2かと思いますが、こちらの分岐も存在することで成就したときの幸せをよりかみしめられるような気がします。
もちろん、アキバルやセナのルートも乙女ゲームとしての魅力、コメディとしての魅力が詰まってます。

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本編をすべて読み終わったら、ぜひEXTRAからおまけを読んでみてください。後日談や人物設定などのおまけがたっぷりあるのもプレイしていて満足感がありますね。ちなみにこの後日談ではセナルートが好きです。おとなしい感じだったセナがあんなに堂々としているのを見ればかっこいいという感想を抱かずにはいられません。また、2人の王子とは違ってセナにはユーリとのこれまでの積み重ねがありますからね。その部分がしっかり感じられてよかったです。


というわけで今回は「ロイヤルベルを鳴らして」のご紹介でした。ユーリの突飛な行動に笑いながらも乙女ゲームならではの甘いどきどきを味わえる作品で、普段乙女ゲームをプレイしない方にもお勧めできると思います。ぜひプレイしてください。

それでは。

こんにちは。
今回は、春紫さんの後輩と先輩と時々殺人鬼をご紹介します。

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ジャンル:ゆるふわサスペンス風ADV(公式より引用)
プレイ時間:1プレイ1~10分、フルコンプまで30分程度
分岐:多数、TRUE ENDも複数あり
ツール:WolfRPGエディター
リリース:2013/12
備考:12歳以上対象


本作はちょっとした笑いありホラーありの短編アドベンチャーゲームです。公式ジャンルは上述した通り、ゆるふわサスペンス風ADVとなっていますが、本作のメインは殺人鬼を突き止めるようなサスペンスでは決してなく、後輩と先輩(酔っ払い)の気の抜けるようなやり取りや、突飛な展開を楽しむなんちゃってホラーとでもいうべきものです。

ゲームを開始すると、主人公が先輩の家で宅飲みをしているシーンになります。しかも先輩はお酒を飲むと面倒くさいタイプで、後輩はめちゃくちゃ絡まれることになります。先輩に相当振り回されても嫌そうな感じがしなかったり、先輩の体や翌日の仕事を気遣ったりしているので、結構親しい感じですね。こんな2人の関係に興味が持てる方なら、きっと本作をたっぷり楽しめるはずです。

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本作の特徴として、1プレイが短いのに比してエンディングの種類が大変多いことがまず挙げられるでしょう。何らかの理由で死亡してしまうBAD ENDだけで7種類。TRUE ENDは3種類、その他にHAPPY ENDなどもあります。私が知っている中でTRUE ENDが複数ある作品はこれが唯一かもしれません。そのTRUE ENDは3つそれぞれでかなり違った展開を見せてくれます(でも着地点はなんだかんだで似ている)。

短編なのに大量のエンディングがある都合上、フラグが立つ場面が序盤から超高密度で存在します。ReadMeにもある通り、頻繁なセーブをお勧めします。
そんな大量のエンディングがあるわけですが、親切なことに同梱テキストファイルにエンディングの回収ヒント(ほぼ答え)が記載されています。詰まった方はぜひ参照してください。私はTRUE END2,3を見るのに使いました。


さて、そんな本作、くっつきそうでまだくっついていない2人の関係をにやにやして眺めたり、幅広い展開に驚いたりするのも良いですが、私が地味に好きなのはフレーバーテキストです。

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2つの立場と屁理屈という装備品は外せません。そうだよね、大人になったら立場捨てて自由に生きたりはできないよね……と無駄にしんみりしてしまいました(笑)
あとは50メートル走7秒に二重跳び90回とはさっきまで飲んでたくせになかなかの運動神経。セーブをしようとメニューを開くと目に入ってくるこういう画面にネタを仕込んでくるこの心意気、好きです。

話はさらにわき道にそれますが、私は冒頭の2人で宴会をしているシーンを見て、いいなあ、と思ったんですよね。純粋に2人の距離感とか関係性がいいなというのもありますが、最近は新型コロナウイルスの影響で気軽に誰かと一緒に食事したりもしにくい状況ですからね。飲酒を含むのはなおさらです。私は別にお酒が好きだったり強かったりするわけではないのですが、飲み会がなくなってしまうとそれはそれで寂しいものです。


ゲームの話に戻りましょう。主人公である後輩くん、冒頭の場面ではよくできた常識人といった感じですが、実は結構変態です。ゲーム内で変態という称号を得るくらいには。でもその変態ネタが嫌な感じがしないんですよね。私が一番好きなエンディングが新たな旅立ちエンドになるくらいです。殺人鬼も出てこずに平和だしね!
ちなみにホラー要素はほんのちょっとです。殺人鬼が突然現れたりはしますが、ほかにびっくり表現なんかはないので、ちょっと苦手な方でもプレイできる範囲かと思います。


まとまりがない文章になりましたが、本作の面白さは伝えられたでしょうか。
酔っぱらった先輩が可愛いと思った方はぜひプレイを。

それでは。

今回は、今門楽々さんのギワク★ラヴァーズをご紹介します。

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ジャンル:2人の視点から見るラブコメノベルゲーム
プレイ時間:両方の視点から読んで20分程度
分岐:なし
ツール:WOLF RPGエディター
リリース:2018/5


前回はほんのり心温まる系の優しいお話でしたが、今度は王道のラブコメです。
はじめからをクリックするとまず青井明太と白銀小百合の2人から主人公を選ばされます。この2人は付き合っていてデートをするのですが、それをどちらの視点から見るかを選べるわけです。2周して両方読むことで、片方から見ただけではわからなかったもう一人の思いも分かり、2人の考えていることがちょうどすれ違っているのが笑いを誘う、ラブコメにぴったりの仕様です。クリア後に2周目をプレイすると、1周目では描写されなかったヒロインの視点も時々挿入されて物語が補完されるといった仕掛けの作品はいろいろありますが、最初からどちらの視点でもOK、しかもすべてのシーンで両方の視点が用意されているといった仕様は見たことが無く、斬新に思えました。ちなみに、私は明太視点を先に読みましたが、どちらから読んでも楽しめると思います。

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本作のあらすじは、付き合ってはいるけれどもお互いに相手の気持ちが自分に向いているか不安な明太と小百合が、相手の気持ちを確かめるためにダブルデートをするという一文で説明できます。作内の時間もほぼ1日のみの短い作品なのでやや物足りなさを感じましたが、その中でクスリと笑えるシーンがいくつもありました。明太が先輩である姫に対して失礼な口を利くところとか、殴りかかってきた連と姫が返り討ち(?)にされるところとか。そして最後。まさに"要介護夫婦"ですね。本人たちからしたら本気で悩んでいることでも、はたから見たらあまりに滑稽で笑えてしまいます。普段私はどんなバカップルを見ても微笑ましいなと感じるタイプなのですが、本作の明太と小百合に関しては「リア充爆発しろ!」と思ってしまいました(これもう死語か?)

さて、明太視点のときは、冒頭で小百合に対して不信を抱く理由が明らかになります。しかし小百合視点でははっきりしした理由がなさそうなので、何でそこまで不安になっちゃったんだろうかとやや疑問に思いましたが、全体がコメディ調なので気にせずに流してしまえる範囲でしょう。

珍しくウディタ製のノベルゲームですが、システムがしっかりとノベルゲーム用に作り込まれておりプレイするに際してストレスを感じることはありません。オートモードやスキップはもちろん、文字表示速度の変更まで可能です。

短い時間でサクッと楽しめる作品なので、ラブコメ好きの方にお薦めです。
それでは。

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