フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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恋愛

こんにちは。今回はいねむりスフィンクスさん、さつき晴れさんの「モカブレンドをブラックで。」のレビューとなります。

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オススメ!
ジャンル:クリスマスもの短編ノベルゲーム
プレイ時間:15分
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2017/12


本作のタイトルを見た私は、まず「コーヒーって、甘いですか?」を連想しました。コーヒーを好きになる過程だったり、美味しそうに飲む様子だったりが印象的な作品だったので、本作もそれに近いような内容なのかなと思ったのですが全然違いました。ばりばりのクリスマスもので季節外れもいいところですがとても良い作品でしたのでご紹介します。



主人公のリクは浪人生。受験勉強もラストスパートに近いクリスマスイブの朝、サンタクロースの遣いを名乗る女性コメットがリクを訪ねてきて、サンタ役をやってくれないかと依頼してきます。
これだけでは突飛すぎて意味が分かりませんが、本作の世界ではなんとサンタクロースが実在しているのです。子供たちにプレゼントを届けるために、助手と二人でたくさんの家を回るのですが、なんと今年は体調を崩してしまったため、代理の人物を探しているというのです。

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サンタクロース代理を引き受けたリクは、仕事のある夜まではまだ時間があるからという事でコメットに勉強を教えてもらったり、コーヒーを飲んだり、サンタクロースの国の話を聞いたりしていきます。
そして子供たちが寝静まった夜、いよいよプレゼント配り開始です。瞬間移動の能力を持つコメットと一緒に子供の家の前まで行き、授かった力を使ってその子供の望むプレゼントを生み出して枕元に置いていきます。

このように、私の当初の想像と違ってかなりファンタジー色あふれる物語なのですが、この優しい世界観に沿った丁寧で優しい文章と魅力的なキャラで全然飽きないんですよね。リクの頬をつつくいたずらをするコメットのお茶目な笑顔が素敵です。リクの方はなにやら事情を抱えている様子ですがとてもいい子で、子供たちのために一仕事するかという意気込みだったり、ちょっとした気配りだったりが感じられて作品の中にいやみな要素が全然ないのです。
リクとコメットがプレゼント配りをしながら雑談したり、瞬間移動の発動のために恐る恐る手を握ったり、穏やかなラブコメ的雰囲気がとても読みやすいですね。

そんな感じで物語は進んでいくのですが、本作の隠されたテーマはまだ見えてすらいなかったのです。
これがね…素晴らしかったです。短編なのでネタバレしないようにしようとするとほとんど語れる部分がないのですが、あえて一言だけ言うならこれはラブコメではなく、失恋の物語だったのです。

最後のプレゼントを配り終えてからが本作の本番と言っていいでしょう。リクはかなりお人好しなのですが、なんでそこまで、という部分がちゃんと作品のテーマとなる部分に結び付いていて読後感良好です。これまでレビューでほとんど触れてこなかったコーヒー要素についても綺麗に収束する感じがあって、そういうことあるよな~という気持ちにさせてくれます。

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本編を読み終えると解放されるおまけショートストーリーはシンプルなラブコメのワンシーンが2本楽しめます。これもリクがちゃんと過去を清算したからこそすっきりと前進できるんですよね。楽しい気持ちになれる内容で良かったです。


さて、本作の制作には2つのサークルさんが関わっています。思えば本ブログで合作を扱うのはこれが初めてかもしれません。シナリオのいねむりスフィンクスさんの作品はこれまで読んだことがなかったのですが、イラストのさつき晴れさんの作品は何本もプレイしており、毎回妹もののギャルゲーを作っているイメージだったので本作の雰囲気とは異なっており少し意外でした。
今調べたらお二方ともショート・ショート・ショート100に参加されていたんですね。もう読んだのは5年ほど前なので読み返してみるのも良いなという気持ちになりました。


ちなみにリクの合格発表の日付が3/10と出ているのですが、調べてみるとこれは東大や京大をはじめとする難関国立大学の合格発表日ですね。浪人して勉強した努力の成果は実るのでしょうか。
ぜひ皆さんもプレイして確かめてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は伏見のヒナタはんさんの「立ち絵が変なポーズの恋愛アドベンチャー あるいはオリジナリティの無い卒業までの日々」です。

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ジャンル:立ち絵が変なポーズの恋愛アドベンチャー
プレイ時間:2時間半
分岐:基本一本道。最後に3つに分岐
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2024/2


伏見のヒナタはんさんと言えば、「まったく証拠は無いですが、あなたが犯人です。」などのミステリーギャグ作品を作っていらっしゃる方です。私は本作の発表を目にしたとき、今度はギャルゲーを作ったのかと思うと同時に、出オチネタかあるいは「クリーチャーと恋しよっ!」シリーズのようなごく普通のシナリオ+ナンセンスな立ち絵といったスタイルを想像しました。しかし実際にプレイしてみるとそれらとは全く異なるスタイルで、最初から最後までボケまくりの超ハイテンポコントのような内容となっており私の予想を大きく上回る作品でしたので是非紹介しようと思いました。


本作の主人公の八倉仁之(はちくら・にの)は高校3年生。通学路で出会った羽撃きらり(はばたき・きらり)や、席が隣同士だった大阪言葉(おおさか・ことは)、担任の観月橋小桃(みづきばし・こもも)らとあれやこれやあってラブコメを展開していきます。

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そのヒロインたちの立ち絵はタイトルの期待を裏切らない姿勢。通学路とか公園のシーンのみならず、授業中でさえこの姿勢を崩しません。とにかくインパクトがあるのは間違いないでしょう。
そのほかは普通のラブコメ…かと思いきや、それは私が本作をナメてただけでした。もはやこの立ち絵が些細なことに感じられるくらいのボケまくり展開で本当にすごい。

私がキャラクター的に好きなのは言葉でした。大阪言葉という名前でこのギャグ系シナリオなら、間違いなく関西弁のお調子者キャラを思い浮かべるでしょうが、必ず予想の斜め上を行ってくれる本作、彼女は名前と実際の性格のギャップに悩めるシャイガールだったのです。(それにしては髪飾りの攻め方すごいけどな!)

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「学年ビリの陰キャが1年で歌舞伎町の四天王と言われるまでになった話」というどこかで聞いたことあるような怪しげな本を信じて陽キャになる努力を続ける彼女、可愛いですね。もちろんあまりに意味不明なので現実ではお近づきになりたくないタイプですが…

そんな彼女にはモノマネという特技がある様子。有名アニメキャラの台詞っぽいネタがたくさん登場。アニメを見ない人でも名前くらいは聞いたことがあるくらいの有名どころからとってきているようで、分かりやすくてよかったです。普段あんなにおどおどしてる人が堂々とモノマネを始めるものですからそのギャップがまた印象的。
途中いろいろなキャラが入り乱れるところがあって、そこはアニメに詳しくない私はどこが何の作品の誰の台詞のパロディなのか全然分からなかったりしたので、キャラごとにフォントが変わったりすると伝わりやすいかなと思いました。


さて、本作で狂っているのは登場人物だけではありません。初見の時私はギャグを通り越してバグかと思った要素がありました。
それは学校のチャイム。普通キンコンカンコンとなるあれを思い浮かべると思いますが、本作のあれはなんなんだ(汗)。直後のテキストであの変な効果音が学校のチャイムだったことを知り、完全に作者さんの手のひらの上で踊らされてたんだなと気付きました。みなさんも一回体験してみてください。本作のおすすめポイントを3つ挙げろと言われたらこれは絶対入ると思います。
ほかのBGMとかの選曲は普通な中にぶち込まれてるのが変態を極めてる感じがします。


レビューを書いていて気付いたのですが、この演出などのシナリオ以外の部分を含めた総合力で笑わせに来る感じはインコさんの「フリーソフト制作過程」シリーズに近いかもしれません。フリーソフトシリーズは主に演出でボケるスタイルでしたが、本作はそれにギャグテキストとイラストによるボケが追加され、よりキャッチーになったというイメージでしょうか。


そんな本作には、エンディングに影響しない選択肢が多数あります。
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直後の展開が変わるだけなのでお好みで狂った選択肢を選んでみてください。結構な頻度で登場するので、選択肢コンプリートするのは大変かもしれません。

メインのヒロイン以外も数人登場しますが、彼らもまた癖が強い。
蹴車先生や百合前さん、本田先生。1回こういう方向で変な人なんだろうな~と思わされてから絶対にその期待を上回る濃いキャラを出してくるので、サブキャラにも注目してプレイしていただきたいです。
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ティラノ製ですがUIは軽快でいい感じ。右上の踊っている人のようなマークがメニューボタンです。レトロな電子レンジのようなチンッという効果音がまた独特のセンスですね。あとは固有名詞にかならず振り仮名がついているのもうれしいところ。これまで見てきたように誰も彼も名前から一味違っているので、読み方に迷わなくて済むのは快適です。
あと少し変わっているのは、教室の窓から見える雲がすこしずつアニメーションしているところでしょうか。スクリーンショットでは分かりませんので是非皆さんの手でプレイしてみてください。


本作のエンディングは大きく3種類。それまでのFree Optionで何を選んだかに関係なく、最後の選択肢のみで誰とのエンディングに行くか決定します。
そしてここでもボケが挟まるのは流石。油断してると最後の最後で刺されちゃいますよ!
ちなみにこの選択肢画面ではメニューボタンは消えてしまうので、セーブするならマウスホイールクリックでメニューを呼び出す必要があります。


レビューには全く書き切れないほど多種多様で高密度なギャグが360度から降ってくるこの体験をぜひ皆さんも味わってみてください。
それでは。

こんにちは。今回は緑茶弐捌號さんの「今日はヴァレンティヌスが処刑された日だよっ!」のレビューとなります。

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ジャンル:バレンタインラブコメノベルゲーム
プレイ時間:フルコンプまで30分程度
分岐:3ルート+α
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2025/2


前回に引き続き、東京ゲームダンジョンで知った作品です。緑茶弐捌號(りょくちゃにーはちごう)さんのブースの前を通りかかって、なんか可愛い女の子が表情豊かに動き回っているなあと眺めていると、代表ののりやきさんに声をかけていただきゲームの内容やサークルの説明なんかをお聞きすることができました。そして受け取ったチラシには、"前身となるサークル"の作品紹介として6page.さんの「バス停の先輩」「僕と君とのソリロキー」が載っていてびっくり。どちらも以前フリーゲーム夢現で知っていた作品で、公開年のうちにプレイしてとても良かったので次回作も期待していたのですが、僕と君とのソリロキーver.2以降更新の気配もなく、ReadMeやフリーゲーム夢現に記載のリンクもドメインごと失効している状態だったので新作はあまり期待できないかなあと残念に思っていたのでした。
しかし今回まさかの別のサークルとして活動を続けられているという事が明らかとなりかなりテンションが上がりました。DLしてプレイしてみると期待にたがわず良い作品だったのでブログで扱いたいと思います。


いつも通り簡単にあらすじを説明するとこんな感じ。
主人公の明は高校2年生。バレンタインチョコを貰えるかソワソワしながら学校に行くと、なんと予定外にも都合3個のチョコレートを貰って大満足。しかし、いい気分で帰ろうとしたところにトラックが突っ込んできてなすすべなく死亡してしまいます。
そんな明の目の前に現れたのがバレンタインの天使を名乗る謎の人物、チョコリエル。チョコの貰い過ぎにより愛のエネルギーがオーバーフローして死に繋がったというのです。そんなチョコリエルの力で時間を戻って2月14日をやり直すことになった明は、死を避けるためにせっかく立てた女の子とのフラグを本命を除いて折らないといけなくなってしまったのです! 果たして明は無事にバレンタインデーを乗り切ることができるのでしょうか。そして女の子とのフラグを進められるのか?



タイトルのノリとか上の説明でも感じられたかと思いますが、本作はバレンタインフラグへし折り系のコメディです。ちょっと、というか大分無理がある設定にも思えますが笑顔のチョコリエルの圧の前にそんな違和感は些細なもの。
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有無を言わさず2度目のバレンタインデーが始まることになります。

そんなコメディの雰囲気通り、シナリオはサクサクっとテンポよく進んでいきます。幼馴染の湖池メイ、憧れの先輩井村赤城、謎の中二病後輩江永莉子の3人(全員製菓会社の名前をもじった感じですね)からのチョコイベントがどんどん進行していきます。チョコリエルを含め彼女らの立ち絵が良く動くこと動くこと、台詞に合わせて口や表情も変わっていくものですから、まるで喋っているときの空気圧まで感じられるような臨場感になっています。チョコレート色の制服も可愛らしいですね。

しかし生き残るためには3つのうち2つのチョコレートは断らなくてはならない明。苦渋の決断を迫られます。
受け取れば分かりやすくヒロインたちに喜んでもらえますし、逆にフラグを折るとショックを受けたモーションが入ってプレイヤーである私自身もなにか申し訳ない気持ちになっちゃいます。
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コメディ作品らしく攻略は簡単。狙いの女の子からのチョコだけを貰って他を断ればそのヒロインとのエンディングが見られます。私は莉子ルートが好きですね。相手のどんなところも受け入れてあげる姿勢が素敵だなと感じました。関係性の前進という意味でも彼女のルートが一番ですしね。

私の全てが、中二病莉子がふっと我に返って頬を赤らめるこの瞬間を見るためにあるんだろうな(大げさ)
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逆に言うと、チョコの受け渡し以外にはほとんどヒロインの出番もなくサクッとエンディングまで到達してしまうので、シナリオの深みとかを求める方には物足りなさがあるかもしれません。しかし本作はチョコを受け取ったり断ったり(チョコリエルと喧嘩したり)のラブコメ要素とエンディングの少しだけ心が温まるやり取りだけで十分まとまっていると思いますので、短編で手軽に楽しみたいという需要にぴったりだと思います。

あとは細かいですが、タイトル画面に戻るたびにランダムで表示されるデフォルメキャラも可愛くていいですね。タイトルコールと対応しているようで小技が効いています。この辺りは「僕と君とのソリロキー」でも感じられたセンスが生かされていますね。


さて、これまでにこの記事では意図的に触れるのを避けてきましたが、本作のエンディングはヒロイン3人のみではありません。もう一つだけ特殊エンドがあるのです。
そのルートへの入り方は難しくはないのでぜひこれかな、と思った方法を皆さんで試してみてください。きっとすぐに見つかるでしょう。そして私はこのルートが一番好きです。爽やか青春もので終わったノーマルルートとの対比であのオチには笑いました。ぽっ、じゃねえよ! 最後は日常系コメディ定番のアレが待ってます。やっぱ最高だよ。


というわけで今回は「今日はヴァレンティヌスが処刑された日だよっ!」でした。
バレンタインの時期は大幅に過ぎてしまいましたが、そんなのお構いなしにチョコを貰いに行きましょう!あるいはチョコを断りましょう!
どんなルートに進んでも愉快な展開が待っていること間違いなしです。

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あとここのチョコリエルのいたずらっぽい表情好きです。

それでは。

こんにちは。今回はソロフィリアさんの「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」のレビューとなります。

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ジャンル:芸術家の百合ノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2024/8


本作は今年の夏のコミケで知った作品になります。一目で百合と分かるインパクトあるイラストを中央に持ってきたチラシ、しかもいい紙に印刷されているものを貰い、後でプレイしようと会場で名前を覚えたサークルさんです。実際にプレイするまで1か月かかってしまいましたが、単に可愛らしい女の子同士がイチャイチャしている作品ではなくしっかりとしたテーマと確かな文章力のある作品でしたのでご紹介します。


まずはいつも通りあらすじをご説明。

主人公の六華嗣治(読みは りっか・つぐはる でいいのかな?)は大金持ちの家系に生まれ、一応投資家を生業としているものの稼ぎを出さなくても問題ないため自由にやっているというなんともうらやましい人物です。祖父が芸術系の高校である六華学園に多額の出資をしており、嗣治は学園祭に招待されていました。そんな彼が学園祭で出会ったのは月崎若葉という生徒。彼女の描く絵に一目ぼれした彼は、経済的支援は惜しまないからぜひ芸大へ進んでほしいと提案。さらに大学へ進んだ彼女を住み込みの家政婦として雇い、屋敷の家事を任せる代わりにアトリエや画材を好きに使ってもらうことにします。
そして3年後、同じく若葉の絵に心を動かされて六華学園に進んだ親戚の茶山モカは嗣治へ金銭支援を依頼しに来た日、彼の屋敷で絵を描く若葉と対面。弟子にしてほしいと頼み込みます。そんなモカを追ってきた彼女の友人の黄原めるも混ざって屋敷は突然の百合入り乱れ。彼女らがこれまで積み重ねてきた経験と信念をもとに芸術論を交わし、そして開花する絵画への熱意と才能。芸術を軸に絡まりあって成長する百合物語が始まるのだった…

こんな感じでしょうか。


本作の序盤はコメディ的雰囲気多めで進行していきます。ヒロイン若葉は機械が苦手でコーヒーメーカーから白湯を出したりしてますし、なぜか趣味でメイド服を着ています。嗣治は悪い人ではないですが何かとからかわれがちなキャラ。お金持ちなのに家電選びが異様に優柔不断ですし、学園祭で初めて若葉にあった時には変態扱いされて(実際かなり奇特な行動でしょう)、モカちゃんには引きこもりとか暇人とか言われたい放題。特にこのモカちゃんはかなり気の強い毒舌キャラなため、彼女との絡みは特に笑えます。まあ、それは言いすぎじゃない?っていうのもありますが…
そんなモカが若葉と出会うシーン。ここから物語が大きく動き始めます。

自身に進路を決意させた若葉を前にして心酔した様子のモカ。対する若葉の方も、強い決意や行動力を秘めたモカの姿に胸を高鳴らせます。出会って早々に百合カップルの誕生か…? と思いきやそう簡単に事は運びません。今度はとにかくモカのことが大好きな少女黄原めるが乱入しまさかの百合三角関係が発生するのでした。
しかも翌朝には、若葉の趣味で女の子は全員メイド服姿に。めるはいいとして若干不満そうな表情ながらもきっちりメイド服を着こなしたモカを見てなんか笑っちゃいました。

これ、その時の立ち絵自体がふざけていて面白いのかというとそうではなくて、モカのキャラクター性と衣装の不一致(あと表情と台詞)が面白いんです。つまり、これは本作において各キャラクターが活き活きと描かれていることの証左だと思うのです。そして、それぞれの人物がどのような背景と考え方を持っているのかという描写は、後半の展開へとつながるカギとなります。


とはいえここまで読んだ私の感想としては、これは可愛い女の子たちがイチャイチャしてるのを眺める萌え系コメディだろうと思っていたのです。実際この後もしばらくは甘々ラブコメが続いていきます。
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作品ページのサムネイルにも使われているこのキスシーン。なんという甘さでしょうか。
モカちゃんの方から勢い余ってしてしまったという、いかにもラブコメでありそうな展開なのですが、このあたりから本作の別の顔が見えてくるのです。


翌日、画材を買いに行く道中で若葉がモカの過去を聞いたり、モカに若葉の新しい絵のモデルになってもらったりといった過程で次第に明らかになってくる皆の絵画への思いと人生観。若葉がなぜメイドにこだわるのか、モカの強気な性格の源泉は何なのか、絵画の作風と表現対象への思い入れ。そういった要素が物語としての展開や人間関係につながってくるところが非常にうまいと感じました。


これについてはあまり書きすぎるとネタバレになるので1つだけ挙げておきましょう。
若葉が幼いころに聞いたおとぎ話には決まってお嬢様とそのお世話をするメイドが登場しました。しかしどんなお話もお嬢様は王子様に見初められ、最後には結婚して幸せに暮らすのです。そこに彼女を支えてきたメイドの姿はありません。そんなお決まりの運命に逆らうために、若葉はメイドとお嬢様だけの物語を紡ぐことを決めたのでした。
なるほどここまで聞くと、彼女がメイドの姿で美少女の絵を描き、嗣治に対してもメイドを演じる理由が分かります。しかしこの設定はそれだけではないのです。

おとぎ話の世界から綺麗なお嬢様を絵画という形で顕現させるのが自分の使命だと思っていた若葉。ファンタジーの世界から形ある絵としてこの世に生み出すという方法でこれまで制作を行っていたため、彼女の絵にもともとモデルは不要だったのです。しかしそこに突然現れたモカはあまりに彼女の理想とするお嬢様に近すぎました。”可憐でありながら、湧き出るマグマのように力強い瞳を持った少女”であるモカに自身の理想を重ねて同一視するようになります。これはモカにとっては残念なことでありました。

初登場時に出てきたように、モカは若葉の描く絵に惚れたのです。そんな彼女が絵を描くことへの興味を失い、モカの存在を見るだけになってしまった。しかも彼女が見ているのはそれまでの人生と人脈と芸術観を持った個性ある人間としてのモカではなく、若葉の脳内に存在する理想のお嬢様の残像でしかないのです。このすれ違いが明らかになりモカはショックを受けて一人自宅へと帰ってしまうのです。


このシーン、私はすごく唸らされたんです。ついさっきまで仲良し百合を見せられていたのに、しかも2人とも美術という同じ業界にいることに意気投合していたのに。こんなことになるとは想像できなかった。しかし同時に納得感のある展開でもあるんです。それぞれの人物の考え方がしっかり伝わるシナリオとなっている故でしょう。このように、人物にまつわる設定が発展してほかの人物と絡まりあって物語を前進させていく、そうしたところに本作の良さが詰まっているように感じるのです。

演出手法についてもよく考えられていて、前半におとぎ話とか映画に関連するエピソードが出てきたのを受けて、終盤でレトロ映画風のシーンが挟まったりといった気持ちよさが随所に感じられます。

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ここまでレビューであまり触れてこなかっためるについても同様です。むしろ終盤は彼女の見せ場。感情が高ぶれば校舎や校門にまで絵を描いて歯止めが利かない問題児のめるでしたが、その独特な芸術観と感情の機微を見逃さない観察眼はすれ違いを起こした若葉とモカを救ってくれました。猪突猛進で多少言葉が悪かったりもしますが、彼女の熱意がなければ若葉とモカはあそこから前に進むことはできなかったでしょう。本当にいいキャラしてるなと思います。

そんな3人がこの件をどのように消化して芸術への糧にするのか、それはぜひ皆さんの手で見届けてあげてください。


話は変わりまして本作のイラストなどシナリオ以外の部分について。
絵を描く少女たちの話なだけあって大変可愛らしい立ち絵がそろっています。メイド服も細かいところまで書き込まれていて凄い。制服立ち絵だけ左右反転時に胸ポケットの位置が矛盾するのが気になる、といったところでしょうか。
背景は写真素材です。お屋敷や美術館の品のある感じが演出されていてピッタリなんじゃないでしょうか。BGMに関してはピアノ曲中心でやや渋めの選曲。これも芸術というテーマにマッチしているように感じます。
システムに関してはもう少し頑張ってほしかったというところでしょうか。レビュー執筆のために特定のシーンを読み返そうと文章スキップしたらフリーズしたとか、背景が真っ黒で動かないとかの状況が多発してしまいました。


というわけで今回は「PaintPain ~少女はメイドの手をとって~」でした。
以前ちらっと言った、ノベルゲームの総合芸術的な面が生きた作品となっていますので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回はHase im Hausさんの「おさななじみ Childhood Love」をレビューしていきたいと思います。

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ジャンル:幼馴染系短編乙女ゲーム
プレイ時間:1ルート10分、フルコンプまで1時間程度
分岐:ED10種
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2024/5
備考:16歳以上対象



本作はTwitterをなんとなく見ていて目に留まった作品になります。大きく可愛らしいヒロインが描かれたサムネイルとストレートなタイトル。変に凝った作品より逆に印象に残りやすかったかもしれません。

では本作をプレイしての感想の話などに移る前に……ひとつ謝らなくてはならないことがあります。
これまでに数多くのフリーゲームをプレイしてきて得た嗅覚によって私は、「この子、どんな風に闇落ちするのかな~」という気持ちでプレイし始めたのです!

薄めのピンクで統一されたイラスト、ロゴ、UIでこれでもかと乙女チックに演出されたタイトル画面。Readmeにて確かな存在感を放つ「対象年齢: 16歳以上(ほんのり大人の会話有)」の記述。そしてタイトル画面左下に控えめに鎮座するRESETボタン。
これまでの経験から、これはルート選択によってはヒロインが闇落ちorヤンデレ化してタイトル画面がホラーになるやつや…とそこそこ高い確信度を持っていました。しかし! それは私の心が汚れてしまっていただけでした。ルート分岐は多めで進展があるルートも喧嘩に至るようなルートもあるもののどれも微笑ましい内容となっており、純粋に幼馴染ものの乙女ゲームをお求めの方にぴったりだなと思いましたのでレビューを書くことにしました。


主人公のほのか(名前変更可)は高校生(多分2年生)。学年違いではあるけれども子供のころから家族ぐるみの付き合いのあった幼馴染の海とは交流が続いています。ほのかは海のことが好きだけれども海は最近ほのかと距離を置き気味。もらったお漬物を届けに行った今日も受験生は忙しいんだと追い返されそうになる始末。ほのかは海との距離を縮めることができるのでしょうか…

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さて、本作は1ルート読み終えるのに10分かからないくらいの短編ですが、その中でほのかと海の関係性がしっかりプレイヤーに伝わってくるような描写がされます。ほのかは昔から海のことが好きで、それは男も女も関係なかったあのころの気持ちとは違うんだという自覚もあるようです。しかし海から見たらほのかはまだまだ子供。そんな無邪気な様子でいられると男の欲望を抑えられなくなってしまうと危惧しています。
この、実はお互いに好きあっているのに微妙にすれ違っている関係性、いいですね。

ほのかは確かに海のことを男の子として好きなようですが、行動も発言もまだまだ子供。部屋に入れてくれーと玄関先で泣き付いたり、勉強の邪魔したり…。海のいる部屋で着替えたり寝たりすることもあるようです。確かにこう見ると、海がほのかをお子ちゃま扱いして恋愛対象と見てくれないのも当然といった感じですが、海は海でほのかのことを好いてはいるのがまたややこしい! 好きであるからこそ、ほのかが何も分かっていないうちに手を出したくないんですよね。いい子ですね。
2人がこの関係性から前進できるのかはプレイヤーの選択にかかっています。



さて、話は変わりまして本作にはボイスがついています。ゲーム開始直後には名前入力と一緒に珍しいオプション「ヒロインのボイスを付ける」が表示されます(デフォルトはON)。
確かにフルボイスゲームって主人公にも声付きのタイプとそうでないタイプがあります。これを選べるのって初めて見たかもな~と思いました。男性主人公の作品だと付いていないものが多くて、女性の場合は体感で半々くらいですかね。本作をプレイしてこの非対称性に気付きました。

ボイスについてもう一つ珍しいと感じた点があって、それはいわゆる心の声にもボイスがついていることです。心の声には、実際にしゃべった時の声と違ってリバーブが効いた音声になっているので最初はなんだこれ?と思ったのですが、心の声と台詞の区別がされているんだと気付くとなるほどと納得したのと同時に面白い演出手法だなと感じました。



本作の通常EDは9種類あります。2人が恋人関係になる"正解ルート"みたいなものが1つだけあるのが普通かなと思っていたんですが、本作は違いました。2人が親密になるルートも疎遠になるルートも複数あって、結果的には似ているんですがそれぞれ過程が違う感じになっていました。私が好きだったのはEND3です。一旦すれ違って喧嘩別れみたいになりそうなんですが、雨降って地固まる的展開が繰り広げられて最終的にはいい感じに。ちゃんと山場があるし、何より海のほうからアプローチがあったのがうれしいですね。これまで聞き分けのない子供だったほのかがちゃんとけじめをつけるのを見て、海としても覚悟を決めたのでしょう。”ほんのり大人の会話”は本当にほんのりだったけれども、2人にはこれくらいがちょうどいい気がします。
他にも多くのルートがあるので、きっと皆さんの好みな展開もあるでしょう。全ED回収後はおまけAFTER STORYも忘れずに回収してくださいね。

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そう、おまけと言えばもう一つ、エンド回収ごとに思い出のガチャを1回回せます。出てきた可愛らしいアイテムをクリックすれば、2人の小さな思い出をのぞき見することができます。これも珍しい仕掛けで面白いですね。そして私はようやくタイトル画面にあったRESETボタンの意味を理解しました。このエンド回収履歴やガチャ入手アイテムをリセットするためのボタンだったんですね。闇落ちしたほのかの記憶を消してあげるボタンだと思っててごめんなさい…。

ほかにもEXTRAS画面にはいくつか仕掛けがあるので是非探してみてください。

ということで今回は「おさななじみ Childhood Love」でした。
さわやかで安心安全の乙女ゲームをお求めの方、成長に伴ってそれまでの関係性に変化が生じてきちゃった幼馴染が好物なんだ!という方、プレイして損はないと思いますよ。

それでは。

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