フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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恋愛

こんにちは。今回のレビューはハルノサクラさんの「空の果てからこんにちは」となります。

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ジャンル:ファンタジー風ギャルゲー
プレイ時間:1時間半
分岐:3つ+真ルート(後述)
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2020/8


現在はティラノゲームフェス2022の真っ最中ですが、本作は2020年のフェス参加作ですね。ではいつものようにあらすじ紹介から行きましょう。

主人公のアオモリヒロサキはリンゴ農家の一人息子。特にこれといった目標もなく、将来はこのリンゴ畑をなんとなく継ぐのかな~と思っています。田舎にいるため近所で歳が近いのはキノコ採りを家業にしている家の娘リコのみ。そんな中突然この町に現れた女の子メイラはなんと重力が反対向きにはたらく逆さ人間だった!
天井に立つメイラに困惑しながらも徐々に距離を縮めていくヒロサキ。それに対してリコはちょっぴり複雑な思いを抱くのだった…。

とまあこんな感じでしょう。男主人公に対してヒロイン2人の典型的ラブコメとなっています。



本作に関しては事前情報ほぼなしでプレイしたのですが、メイラの初登場シーンはなかなか衝撃的でした。
それまでの感じから、「ああ、ヒロインが主人公にベタベタな感じで主人公は小馬鹿にしたような態度をとるよくあるラブコメかなあ」と思っていたら、突如逆さま人間が登場するわけですから驚きます。というか最初は???状態でした。なんかこの背景おかしくない?と。しかしメイラが逆向きに立っているビジュアルが明らかになって、なるほどなとなりました。しかもこのシーンの背景はセーブ画面の背景に使われてますね。最初に見たときわけが分からなかったのですが、ようやく合点しました。

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その後はしばらくほのぼの系ラブコメが続きます。「あなたのお嫁さんだよ☆」などと妄言(?)を吐くリコと冷たい系のヒロサキ、それに泣き虫天然系のメイラとラブコメのキャラクターとして王道かつバランスの良い設定でしょう。
そしてふだんあんなことを恥ずかしげもなく言っているリコが、ヒロサキがちょっと乗ってきただけで恥ずかしくて赤くなっちゃうのが良いですね。いつもみたいにかわされると思ったのにそういう雰囲気になったら途端に恥ずかしくなっちゃうんですよね。


…ところでヒロサキ君、君は登場する作品を間違えたんじゃないかい?
絶対にエロゲに出たかったのに間違えて全年齢の本作に出ちゃったでしょ!!
ヒロインの告白(?)を華麗にかわしておいてあんなセクハラ言動が許されるのはエロゲだけですよ!!
もっと健全な作品の主人公らしく過ごしなさいよ!


と、ヒロサキへのお説教が済んだところで物語を読み進めていきましょう。中盤くらいまで読んだところで、ラブコメなのはいいとして私の頭にはこの作品の世界観について疑問がわいてきました。
主人公の名前(漢字で書けば、青森・弘前ですよね)からすると物語の舞台は現代日本だろうな~と思っていました。しかしそれにしては背景画像が微妙だし、会話や町の様子も現代っぽさがないなあという違和感を抱えていたところ、メイラを連れて外出したシーンで事件が起こります。なるほど本作はファンタジーだったんですね。

このあたりの、作品の舞台になっている世界の説明はもう少し早い段階でしてくれた方が良いんじゃないかと思いました。人さらいの登場とか、端岬とかのあたりはどうも唐突すぎる印象を受けました。


さて、本作はプレイヤーの選択によりリコルートとメイラルートに分岐します。分岐の仕方は分かりやすいので初見で狙った方に行けるでしょう。私はリコルートから読みました(というかあのシーンでメイラ選択したらヒロサキに人間の心なくない?)。
こちらはサブルートであることがリコ本人の口から語られていますので(!)さらっと読み進めましょう。先ほどの事件はリコルートでのものですが、それが解決した後は物語は何事もなく平和なまま終わりを迎えてしまいます…と思いきや最後に衝撃の事実が。え??? これはメイラルートも読めば意味が分かるやつですか? というわけで張り切ってメイラルートに向かいましょう。

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こちらのルートにはさらに2つの分岐があります。片方は平和なまま、もう片方は別れを伴う形でこれも終了。え? どういうこと、ヒロサキの選択の理由も説得力あるわけじゃないし終わり方も中途半端だし良く分からんな~
実際、本作がこれで終わりだったら私はレビューで取り上げなかったでしょう。
これらのルートをすべて読み終えると、タイトル画面に変化が現れます。この世界をメイラの目から見たように逆さま。これはコンプリート後の演出なのか? としばし迷いましたが、いやこのままだと微妙すぎる、新しい分岐が出現してたりするかも、という期待の元再度STARTボタンをクリックする私。
あれ、冒頭部分こんな感じだったっけ? と思いながら読み進めると、期待通りこれまでと違うルートに入ったようでした。


この真ルートについては詳細は述べませんが、メイラ視点の話が読めて面白かったです。やっぱりヒロイン視点って見たいじゃないですか。本編であんな別れ方をしちゃったメイラがどう思っているのか。逆さまの世界では何が起こっているのかについてもちょっと理屈っぽいですが解説してくれます。ファンタジーというかSFでした。
そしてそれを受けてのラストシーンの収まりがよい。まあ教師の”仮説”については若干力業というか、アナロジー成立してないのではと思わないこともないですが、基本ラブコメ寄りの本作では気にせず流してしまえる範囲でしょう。


その他気になった点としては、投げっぱなしな伏線が目立つことが挙げられます。この世界の秘密について父がヒロサキに隠していた理由、リコルートで明らかになる彼女の秘密(特にこのままではメイラ登場シーンの反応も不自然では?)などが結局解決していないように見えます。2時間以内の尺としてはちょっと設定を盛りすぎかなという印象はぬぐえません。

あとは、無音の時間が長めでやや寂しかったかなという気はします。演出としての無音と理解できる部分以外でしばらく待ってもBGMもないと、なんかバグったかなと不安になってしまいました。映像面(ビジュアル面)についてはよく考えられているなと感じたのでやや惜しい。


ちなみに割とどうでもいいことですが、本作はreadme.txtでだいぶふざけていて面白かったです。
こんな自由な感じのreadme読んだのはいつ以来だったかな~
プレイしたけど見てないって方はぜひ見てください。


今回のレビューはここまでとなります。若干難点の指摘が長くなりましたが、ラストシーンの気持ちよさが魅力的ですのでぜひメイラちゃんを迎えに行ってあげてください。

それでは。

こんにちは。今回はamorosoさんの「CHOICE」のレビューです。

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ジャンル:ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:フルコンプまで6時間程度
分岐:大きく攻略対象2人に分岐。エンディング計11種
ツール:吉里吉里
リリース:2011/4
備考:15禁。攻略対象の増えたシェア版もあり。本記事はフリー版でのレビュー


本作はちょっと変わった経緯で発見した作品です。私が何となくYouTubeを開いてみたら、本作のPVが流れてきたんです(フリーゲーム関連のものを見るアカウントには入っていないときだったのでなんで突然トップに表示されてたかは謎です)。ふりーむ等で公開されていないのでこれまで全く知らなかったのですが、面白い作品でした。


主人公は短大を卒業して派遣社員として働く桜木花梨(名前変更可)。仕事から帰ってきたところ、突然異世界に転移してしまいます。どうやら目の前にいる明らかに王子の格好をした少年が召喚魔法で呼び出したらしいことが分かります。突然召喚されて訳も分からず、とりあえず元の世界に戻すことを要求しますが、王子は何と送還に失敗。花梨は見た目5歳ほどの子供の姿になってしまったうえ、呪文の記された魔法書は焼失してしまいます。帰る術を失った花梨は、旅に出ているという王子の魔法の師匠、セフィさんの帰還まで異世界で過ごすことになるのでした……


今でこそ異世界転生ものラノベやアニメは流行していますが(とはいっても私は全然見たことないけど…)、本作の公開は2011年。10年前にこの概念あったんだな~というのが一つ学びでした。
そしてもう一つ、本作の肝となっている設定が”幼児化”。某体は子供、頭脳は大人な名探偵はもう不自然というかバレバレだろ、みたいな言動が多いですが、本作の花梨はあれよりはうまく子供を演じてます。そのうえで子供ならではの方法で交渉したり、あるいは脅迫したりと大変強かで面白かったです。


異世界の召喚されたその日、王子は喋られると面倒くさいからと花梨に声が出ない魔法をかけたうえ、第三騎士隊の隊長クラウスと副隊長ルカを呼びつけ、セフィが帰って来るまでの間子供になってしまった花梨の世話をするよう言いつけます。ここでクラウスを選択するかルカを選択するかで本作のシナリオは大きく2つに分岐します。私はまずクラウスルートに入ることにしました。


第三騎士隊の隊長を務めるクラウスは常に多忙。そして愛想のいいタイプではない上に不器用なため、花梨は冷たい人という第一印象を抱くことになります。確かに突然異世界に召喚された(見た目)5歳の子供に向こうの寝室で一人で寝ろと要求したりするのは配慮不足かもしれませんね。しかし彼はただ不器用なだけで、実際に冷淡な人というわけではないことが次第にわかってきます。この流れと花梨の心情描写が巧みでとても楽しく読めました。

こうしたシリアスな部分もありつつ、子供になってしまったという設定からコメディ的な部分もあります。お風呂一人で入れる? とか、食堂に行ったらお子様ランチが出てきた! とか。騎士たちが我先にとデザートにイチゴをあげようとしてくる場面とか、もはや花梨よりも騎士たちがかわいい!

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ルカルートではちょっと雰囲気が違います。ルカはクラウスとは違って勘もいいし愛想笑いもします。しかしその正体は大のいたずら好きでした。花梨のことを”隊長の隠し子”と言って妙な噂を流させたり、セクハラまがいの行動をして騎士たちをからかったり。そんな様子に花梨は、「子供相手なら分かるけどあたしは中身大人なのに~」みたいな感じで恥ずかしがったりというシーンがクラウスルートよりも目立ちます。私はこの感じよりクラウスみたいに冷たく見えたけどちゃんと愛情を感じる、みたいな展開の方が好きでした。(というか流石にこの行動はどうなの? と思ってしまった)


さて、どちらのルートに進んでも5日目くらいには物語が大きく動きます。ルートによって事件の詳細は違いますが、どちらにせよクラウスとルカがお互いに信頼し合ったうえで解決に動いていくのが良かったです。ルートに入ったキャラ以外がフェードアウトしてしまう作品も多いですが、それ以外のキャラとの交流なども描かれると物語の中で生きた存在として読み手の印象にも残るんじゃないでしょうか。
この事件の対処には花梨自身も重要な役割を果たします。子供の姿を利用して作戦を実行したり、大人の姿に戻ってから動いたりといろいろできるのはこの設定ならではですね。

ちなみに本作には立ち絵はありません。子供と大人の違いをビジュアル面で演出したりといったことも可能だったと思うのでそこはやや寂しく感じました。スチルはあるので余計に…。


というわけで「CHOICE」のレビューでした。異世界転生×幼児化×乙女ゲーというジャンルの可能性を感じる作品でした。全体的に男性キャラがかわいい(見た目じゃなくて行動的に)作品だと感じたので好みの方はぜひ!

それでは。

こんにちは。今回はアクアポラリスさんの「さよなら、リアル」です。

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ジャンル:ボーイミーツガール系ノベルゲーム
分岐:基本1本道
プレイ時間:1時間
ツール:LiveMaker
リリース:2017/9


久々に心を大きく揺り動かされる系の作品に出合いました。まずはあらすじの紹介からまいりましょう。


主人公の柴里孝太郎は幼いころから母親に「あなたには奇跡を起こす力がある」といわれて育ってきた。母親亡き今も奇跡をかなえる相手を探す旅の最中。孝太郎はある田舎町で出会った少女、桂奈月に何となく奇跡の相手であるような予感を抱く。果たして謎多き少女奈月の抱える問題とは何なのか。孝太郎は奇跡を起こすことができるのか…


こんな感じでしょう。
今回は諸事情によりプレイ中の私の心境を青色の文字で示す中継方式でいきます。重要なネタバレのある場所は折りたたむのでネタバレOKな方は展開して読んでください。


~~~~~
まずはreadme.txtを読む。
辿り着いた海の町。
そこで出会った一人の少女。

二人だけの、短くて長い夏が、今、始まる―――
ふむふむ。所謂ボーイミーツガールものだな。

-オープニングテーマ-
『月の雫』
作曲:多夢(TAM)
TAM Music Factory 様
http://www.tam-music.com
お、TAMさんの月の雫じゃん。悲しげだけど優しく落ち着くあの曲、けっこう好きなんだよな~

-エンディングテーマ-
『愛の歌』
作曲:龍崎一
作詞/歌:Mai
龍崎一 様
http://dova-s.jp/_contents/author/profile061.html

「も~し~ 叶うなら~♪
あした~もあ~なた~のとなりで♪」
(唐突に脳内で鳴り響く音楽)

エンディング曲龍崎一さんの愛の歌じゃん!!
この曲好きなんだよね~なんと最近ちょうど目覚ましの音この曲にしてるし!!


確かにこの曲風はアクアポラリスさんの作品に合うかも~


~~~~~
ゲーム起動、開始する。
なにやら主人公は”特別な力”を持っていて、一生に一度奇跡をかなえられるらしい。

あ~冒頭に意味深なシーンを置いとくタイプのやつか。
ファンタジー気味の話なのか、単に思わせぶりなだけなのか…今後に期待。


~~~~~
海辺で奈月と出会う。

いきなりヒロインの登場!
ん~、ちょっと子供っぽ過ぎる?16にしては天然とかいうレベルじゃない気も。いい子な感じはするけどね。

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~~~~~
別れ際。

なるほど。ちゃんと冒頭で提示された”奇跡”が物語に絡んできそう。
期待できるかもな~


~~~~~
奈月と駄菓子屋に行ったり、神社で水鉄砲合戦したり。

楽しそう。でもこの様子見てると孝太郎の方も奈月のことを言えないくらいには非常識なのでは?
奈月自身が何かをあきらめようとしているところを見ると、これをどうにかできるかが奇跡の成否を分けるのかな~


~~~~~
3日目。旅館へ

ええ~ちょっと気が早くない??
サクサク進んで良いという見方ができないこともないけど…これはエロゲか?


~~~~~
その後……

なるほど。思いが届けば叶う。予定調和的で意外性がないともいえるけど、この安心感とほんのり心温まる感じがこの作者さんの持ち味だなあ。「五月雨の記憶」とかもそうだもんな~
ちゃんとタイトルにもつながる解決法で良かったなあ。

この後、本作の核心に関わるネタバレがあります。

クリックで展開 ~~~~~
タイトルに戻ると、"Real"編がプレイできるようになっている。

これは本編読了後に別視点からの話を読めるタイプのやつだな。よしよし。
本作でいうと、この話を奈月視点で読めるという事だろうか。
奈月の境遇については若干語られたけど、孝太郎は正直正体不明感が強いしな~その辺も分かってくるのかな。



~~~~~
冒頭の意味深なシーンを終えて…

???
なんだこのBGMは!

そ、そうか"Real"と"Phantasm"ってそういう事だったのか!!(期待値急上昇)
これは……救われるのだろうか。

~~~~~
何事もなかったかのように描かれる孝太郎と奈月の邂逅

ああ、ここから次第に話がずれていくのか。きつい展開になりそう。
ところでこれ既読スキップは効かないみたいだけど文章全く同じなのかな。


~~~~~
駄菓子屋で

確かに1周目に違和感あったけど…。
あの一般常識の無さ。そしてあの発言。
その原因に得心。


~~~~~
その後…

辛すぎる…騙されたぜチクショウ!!
後書きが…悔しいことにその通りだ!
それにしてもさっきまであった立ち絵が消えるだけでもここまでの虚しさ。
この演出効果的だなあ。

しかしさすがに救いがなさ過ぎてなあ。もう少しいい落としどころみたいなところなかったかなあ。
ふわふわしていて理不尽感も強いからなあ。

~~~~~
そして最後にIF編へ

そうそう、これこれ。この安心感。平穏のありがたみ。身にしみて感じるよ…
~~~~~


という感じなんですが、プレイしていてどうしてももったいなく感じたところが1つ。
おまけのIF編で孝太郎のことを「考ちゃん」と呼ぶシーン!!
絶対漢字が間違ってる!! もったいない!



以上、「さよなら、リアル」のご紹介でした。
「田舎の夏で女の子に遭遇」の古き良き展開の魅力を確認できると思います。

それでは。

こんにちは。今回は禁飼育さんの「スレガル」のご紹介です。

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ジャンル:ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:4時間
分岐:フリー版はなし(後述)
ツール:NScripter
リリース:2016/7(フリー版)
注意:18禁、(性)暴力、流血、非倫理的描写あり



はい、半年以上ぶりの18禁作品です。1月にご紹介した「そしてパンになる」(18禁)以来ですね。「そしてパンになる」では、終盤衝撃の展開があるとはいえ普通の学園生活を送る普通のギャルゲーで、ヒロインと十分親密になってからエッチなシーンがあります。純愛ものですね。
しかし本作「スレガル」では全く違う展開を覚悟しなくてはなりません。以前紹介した「私の名前を呼びなさい!」(15推)に近い方向性の覚悟です。つまり本作においても主人公は大変に酷い、理不尽な、凄惨と言える展開に見舞われます。本作ではそれに加え、性的暴行があります。セクハラなんてもんじゃありません。そういった展開に拒否感を覚える方は絶対にプレイしないでください。
そして本作の怖いところは、それ以外の所にも。むしろほかの所の方がきついとさえ感じられました。この辺のことは後で詳しく述べます。




それでは本作の内容を紹介していきましょう。
主人公コノリ・モチヅキは魔法使いになることを夢見て魔法学園の回復魔法専攻科に通う女子生徒。日本風の名前ですが、本作の舞台はヨーロッパ風(おそらくドイツ)です。かつて交通事故に遭って亡くなってしまった両親のような人を一人でも助けるべく回復魔法の習得に努めていますが、学園での成績は最下位レベル。回復科教員のジドノ先生には卒業すら危ういと言われてしまう始末。そこでジドノ先生に1か月間特訓をしてもらうことになります。落ちこぼれのコノリにも優しく適切に教えてくれるジドノ先生。勉強の甲斐もあり試験での成績も向上。次第にジドノ先生へ好意を持つようになるコノリであったが……

といったところでしょう。この、コノリがジドノ先生のことを好きになっていく過程。この描写は文句なく純愛乙女ゲーなんですよね。まあ生徒とそこそこ歳いってると思われる教師の関係というところから普通ではないんですが、お互いを思いやる気持ちとか喜んでもらいたいという気持ちとか、そういうのはしっかり感じられます。
主人公はだいぶアホの子なのでギャグ路線多めですが、落ちこぼれの自分に優しく教えてくれ、成功体験をくれた、クラスメートに妙なからかい方をされたときにちゃんとかばってくれた、意外にも甘いものが好きで、ドーナツの話で盛り上がれる……となると、ジドノ先生に惹かれていく描写に説得力があります。

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そんな中でクリスマスの休暇中に普段過ごしている寮から実家に帰省することになったコノリ。しかし駅で電車を待っているところ突然の体調不良によって倒れて意識を失ってしまいます。彼女を学校まで運び様子を見ていてくれたのは学園の校長先生。彼もまた常に仮面を着用していたりと変わった人物ですが優しそう。
友人のキドと妖精たちが帰省ができなくなったコノリを気遣って、数日遅れでクリスマスパーティーを開いてくれたりと彼女の周りにはやさしさがあふれており、体調の方も問題なく回復します。しかしこのあたりから物語は不穏な雰囲気を増していくのです。


たびたび突発的な体の痛みを感じるようになるコノリ。そして校長先生は、「ジドノはやめておけ」と言ってくる。悪い人には見えないけれど……。
そして事件は起こります。体調が悪くジドノ先生の部屋で休んでいたコノリ。しかしトイレに行くために部屋を出たとき、何かをたたきつけるような謎の音が聞こえてきます。妖精さんにそそのかされて様子を見に行くと、蛇のような謎の生物に襲われてしまいます。

ジドノ先生はそんな場面に駆け付け、コノリと妖精を助けてくれます。部屋から出るなという言いつけを守らなかったうえに先生に助けてもらったという負い目から、今後は先生のいうことに従おうと誓うコノリ。しかしその後、ジドノ先生は蛇にかまれた部分の診察と治療を行うと言います。気付けば接触呪術による痣がコノリの全身に広がっています。恥ずかしいのを我慢して先生に診断と治療を任せることにするのですが、、、、、

私はこのあたりで察します。ああ、ついに禁飼育作品特有のきつい18禁シーンが来るなと。このサークルさんの年齢制限のある作品は「おじさん(15禁版)」「処女失格」(18禁)の2作しか読んでいない私ですが、どちらも非常にショッキングな展開を含むし、男は実は言いようもない悪人であるというパターンは完全に学習済みです。
果たしてその後の治療シーンは私の想像通りでした。治療、解呪と言いながら描写はいやらしく、コノリは恥ずかしさに何とか耐えながらジドノ先生の思うままに身を任せています。
「なんだろう、先生は私を助けてくれている筈なのに、どこか違う、何かちがうのだ。」
とコノリ自身感じつつ、先生のことを心から信用しているからこそ、真面目な除去魔法でえっちな気分になっている自分に嫌悪を覚えます。

おかしいと思いつつも受け入れてしまう。あまつさえ悪いのは自分だと暗示をかけてしまう。これは恋は盲目ってやつでしょうか。それとも、ジドノがあまりに狡猾で、邪悪で、対するコノリが純粋すぎるからでしょうか。



……しかし本作を読了した今から思えば、この時はまだ”幸せな物語”だったのです。ジドノ先生がコノリに借りていたハンカチと、黒猫のぬいぐるみを返したとき、物語は急展開を迎えます。
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以降、さらに輪をかけて胸糞悪く、そして凄惨な展開と、核心に関わるネタバレがあります。一度折りたたみますので、かまわないよという方はクリックして読んでください。
クリックで展開 ここまで読み進めると、現在の物語は暗い影を残した状態で終了となりタイトル画面に戻されます。再度Startボタンをクリックすると、章選択が可能となっています。いかにもな赤字で示されたタイトル"バウルサク"を選択すると、時間をさかのぼってコノリがまだ幼かったころ、魔法にも出会う前の両親と暮らしていたころの物語が始まります。

そこでは、かつて平和に暮らしていた思い出、そして家族で遊園地に遊びに行った帰りに両親が交通事故で亡くなってしまったことなどが語られます。
身寄りをなくしたコノリ。親がいなければ訴える者もいないという自分勝手な考えを持った奴隷商人に誘拐されてしまいます。他の誘拐被害者とともに商品として見世物にされ続ける毎日。そんなコノリに目を付けたのがジドノだったのです。年端もいかないコノリに対して容赦ない性的暴力を振るうだけでなく、助けなんてこないんだ、周りの人間なんて誰も自分のことを気にとめたりしてくれないんだというトラウマを同時に植え付けます。

明日にはコノリを奴隷として買い取ることを契約したジドノ。コノリたち子供はその夜のうちに監禁されていた檻からの脱走を敢行します。
ここまで読んでようやく私は気付きました。タイトルの"スレガル"はslave girl、奴隷の少女を意味しているのだと。
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生意気な様子のコノリを気に入ったジドノは脱走されたからと言ってあきらめたりはしません。魔法を使って脱走した子供たちの居場所を突き止めてしまいます。そしてあっさりと脱走を先導した少年とコノリの目の前にたどり着き、そして少年の脱走行為の効果を完全に否定し、彼を発狂させてしまいます。
そう、物理的な暴力、性的な暴力のみならず言葉の暴力も半端ではありません。この凶悪さ、救われなさが禁飼育作品の真骨頂と言っていいんじゃないでしょうか。

そして時は現在に戻り、コノリはぬいぐるみのマートをトリガーにしてすべての記憶を取り戻します。かつて奴隷市場で自分を買い、犯し、自らのよりどころでもあったマートを無情にも奪い取って絶望させたジドノに、あろうことか恋してしまった。もう私にはコノリの気持ちを想像できません。こんなに不条理で、理不尽で、自身の何もかもを否定されるような壮絶な体験が他にあるでしょうか。


そんな言葉で言い表せないほど惨い人物ジドノですが、より高度な魔法使いである校長先生にはかなわないらしい。ついに年貢の納め時がやってきます。
ところが彼はいつ何時でも冷酷で執念深く、そして狡猾なのでした。物語は全く救われない方向で結末を迎えてしまいます。



私は本作を読了し、もう怒りに震えることしかできませんでした。ここまで負の感情のエネルギーを活用した作品にはなかなか巡り合えるものじゃありません。強烈でした…。


…と、ここまでは”フリー版”のお話。フリー版をプレイし終えた私は”おにロリver”にハッピーエンドがあると聞いて救いを求めるように購入しました。DLsiteにて販売中です。フリー版の内容も含んだうえで、コノリが脱走する前にジドノと暮らすことになったifバージョンへの分岐が追加されています。プレイ時間はフリー版含めて7時間くらいでしょうか。

フリーゲームではないのでここでは軽く感想を述べる程度にとどめます。
確かに完全にダークなエンディングだったフリー版に比べると相当マイルドかつ感動的展開となっています。しかしジドノが成敗されるエンディングはないのでそれを求めている方は残念ながらすっきりはしません。それをのぞけばおにロリverではほとんどの人がフリー版よりも幸せな結末を得ることができます。コノリとジドノが長い間を一緒に過ごす描写があるので、信頼関係を持つようになる理由もしっかりあります。
フリー版をプレイして興味が出たらぜひ購入してみてください。


今回は広く勧めるには全く向かない作品ですが、その分独特の魅力というか中毒性があります。禁飼育作品っていつもこうなんだよなあ。1作読んだらしばらくはお腹いっぱいになるんですが、そのうちまたプレイしたくなってきます。
18歳以上で注意書きの内容に同意できるという方はプレイしてみてください。あなたの脳裏に強烈に焼き付くことは間違いありません。

それでは。

こんにちは。今回はTetraScopeさんの「私のリアルは充実しすぎている」です。

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オススメ!
ジャンル:学園もの乙女ゲーム
プレイ時間:フルコンプまで6時間程度
分岐:攻略対象3人、それぞれ若干の分岐あり
ツール:NScripter
リリース:2014/1
備考:スマートフォンアプリ版あり。今回はPC版でプレイ


2か月ほど前にフルボイスでスマホアプリ化したのが記憶に新しい作品ですね。以前から存在は知っていたのですがプレイする機会がなく、アプリ化のニュースを見て思い出したのでプレイしてみることにしました。
話題になるだけのことはある力作で、こんなの見せられたらオススメしておく以外ないだろうという内容でした。シナリオにしてもイラストにしても音楽にしてもシステム周りにしても、どこをとってもレベルが高いです。しかし本作、私が読み始めてから読み終わるまで、ものすごく時間がかかったんですよね。その理由とかに触れながらレビューに入りたいと思います。


主人公は才色兼備な高校2年生の姉崎希美(下の名前のみ変更可)。生徒会の副会長として活躍するほか、クラスでも中心人物。まさに"リアルが充実しすぎている"状態。しかしそんな彼女には、弟の隼しか知らない秘密がありました。それは、重度のオタクだということ。中学時代はラノベを読み漁り、最近は乙女ゲームにはまっています。”わたしのプリンスさまっ☆”という作品の"ヴァルト様"に熱を上げており、お気に入りのシーンは何度も読み返しては興奮のあまり床をゴロゴロと転がる毎日。

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ところでこの”床ローリング”、オタクによくあるやつなんですかね? 私は机をたたいたりはしちゃうことがありますが、さすがに床で転がったことはないです…。むきりょくかん。の吉村さんがよく”みのりんごろごろ”してたのを思い浮かべます。
(と、ここまで書いてから、私がゲームやってるのは椅子に座ってPCに向かってるときなので物理的に床ローリングへ移行しづらいなと気付きました。希美みたいにベッドに寝ころびながら携帯ゲーム機でプレイしてたら私もやってたかも)

高校生にして乙女ゲーム200本読破とは、私の数倍のペースです。しかもこれ多分全部商業ものなんですよね…学年トップクラスの成績を維持しながら副会長として生徒会の仕事もこなし、いったいどうやってそのお金とプレイ時間を捻出してるんでしょうか…?


と、重度なオタクの希美ですが、学校ではその趣味は完全に封印しています。才色兼備でリア充な姉崎希美を演じているのです。この点がどのルートにおいても非常に重要な役割を果たします。この設定を自然にシナリオに取り込んで深掘りするのが上手かったですね。

では攻略対象の紹介へとまいりましょう。
最初に希美の一つ下の弟、隼(しゅん)です。
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弟と言っても血のつながりはなく、中学生の時の親同士の再婚によってできた義理の弟です。ゲーム開始時点でこそ良好な関係を築けている二人ですが、兄弟となった当初は折り合いがつかずお互いに相当な不満をため込んでいたよう。それがどうやってお互いを受け入れ、そして好きになっていったのか。現在の出来事とそれに合わせて回想される中学生時代の記憶。この描き方が気持ちよく、私は本作ではこのルートが一番好きだと思います。
ただ、あの中学生の時の出来事を見ると、ただの不仲というよりはもはや険悪ともいえる関係であったことは確か。そこからあのきっかけ一つでこんなに仲良くなってお互いのことを理解していけるのか、という部分が若干疑問ですが、関係改善の兆しが見えてからはもう完璧です。オタクは時間の経過演出に弱いのです(私だけか?)。あの時のこの出来事が現在の心境にこんな影響を及ぼして恋仲になっているんだ! というのが好きな人はこのルートをお勧めしておきます。
あとは、毎日学校に行く前に繰り返される、「私可愛い?」「はいはい、可愛い可愛い」のやり取り。隼の抱えていた単に”鬱陶しい”だけではない感情とは? ここも理由付けがしっかりしていて納得できるポイントでした。
そうそう、このルートでは隼の中学からの友人の押井有も大きな役割を果たします。彼の抱える悩みと秘密は重すぎて若干物語の本筋から逸れてないかとも感じましたが、特に隼にとってなくてはならない存在なのは確かです。

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続いて中学時代のオタク友達、歩です。希美が通う笹寺院高校へは転校という形で入ってきます。
希美は中学校まではオタクであることを周囲に隠しもせず、見た目も気にせず、そして学校にはなじめずにいました。その中で唯一歩とだけはラノベの話で盛り上がることができた、大切な友人でした。彼は高校生になっても中学の時と変わらない様子ですが、希美は違いました。”リア充”になるために美容とファッションを研究し、先生やクラスメイトのご機嫌を伺い、自らのオタク趣味は隠しているのでした。そんな彼女が歩と同じクラスになったらどうなるのか……。
このルートはねえ、本当に読むのがしんどかったです。クラスメイトの反応が冷たすぎるのは置いておくとして、希美の反応も大概ひどい。明らかにバレてるのに別人ということにするなど、今の立場を大切にするにしてもそれはないんじゃないのという行動が続きます。まあ私も高校の時はどっちかというと優等生キャラでやってきたので気持ちが分からなくはないですが、あそこまで直接的に人を傷つける言動は私には取れないですね…。
しかし希美も人を傷つけて平気というわけではありません。歩に対して酷い言動をとったことを家で毎日後悔しています。ヤンデレものでもない乙女ゲームでこんなに暗いことある?ってくらい。1シーン読むごとに休憩しないと辛くて進めませんでした。ところで家に帰ってからの隼の頼りがいが素晴らしい。この状況で学校生活が破綻しなかったのは隼のおかげなのでは?

という感じのルートになっていますが、現実にありえそうと感じられるルートでもあるんですよね。流石にここまで露骨にオタク趣味が軽蔑される学校というのは現在では珍しいと思いますが、広い意味で希美のように、ある程度本来の自分を偽って社会生活を送っていて息苦しさを感じるという人ならばかなり多くいるでしょう。ハッピーエンドにたどり着けて本当に良かった。…しかし私はノーマルエンドの歩君の方がカッコよくない?と思ったりも。

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そして残るは穂積ルートなのですが、これはなかなか特殊なルートでしたね。まずルートに入ってからもしばらくは正体が明らかになりません。正体がはっきりした後も、関係は良好とは言い難いし希美は完全に他の人に恋しています。しかしその分、お互いのことを好きになる過程が一番描かれているのもこのルートだと感じました。当初はお互いのことを嫌ってさえいた2人がどうやって惹かれ合うのかに注目です。希美が学校でリア充を”演じている”のと同様に、穂積についてもあのキャラクターを演じているんですよね。この辺の事情は最終盤で明らかになります。このルート関してはあまり事前情報なしでプレイした方が良い気がしますので、この辺にしておきます。
ちなみにこのルートでは隼はほぼギャグ要員になっています。なんでお前がヴァルト様のプロフィールを詠唱できるようになってるんだよ(笑)
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と、このように方向性の違う3人のルートに分かれ、さらにそれぞれにクリア後おまけストーリーあり。スチル/立ち絵閲覧モードやBGM鑑賞モードも付属。音楽に関してもすべて自作のようで、その力の入れように脱帽です。私が好きな曲は「Hurry up!」と、穂積のテーマの別アレンジです。
シーン回想用のツリーもあり、おまけの内容も充実しておりいうことがありません。しいて言うならフルコンプ後の反省会へ行くアイコンはもっと主張しても良かったかも。しばらく見逃してました。

文章表示速度やスキップ設定なども可能でシステム面も十分。前/次の選択肢へ進むなどの便利機能も搭載。もはやフリーゲームらしからぬ仕上がりと言っていいでしょう。幅広い層に薦められる作品です。


それでは。

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