フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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恋愛

こんにちは。今回は、HACKMOCKさんの「ロイヤルベルを鳴らして」のご紹介です。

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★favo
ジャンル:洋風ファンタジー乙女ゲーム
プレイ時間:1ルート30分程度。フルコンプまで1時間半
分岐:3人の攻略対象ごとに複数+ノーマルエンド
ツール:吉里吉里
リリース:2012/2


さて、まずは本作のあらすじを簡単にご紹介しましょう。主人公のユーリ(名前変更可)はヴィンボーナ王国の王女。しかし国が貧しいため贅沢はできず、庶民的な暮らしをしている。緊張すると頭の中が真っ白になってとんでもないことを口走ってしまうというおっちょこちょいな面があり、国民からも親しまれている。父親のヴィンボーナ王は何とか国を豊かにするために、隣国のカネモティアの2人の王子のどちらかと政略結婚させたいと思案し、王子の別荘に忍び込んでアプローチをかけるよう指示するのだが……

いきなりですが本作の魅力は一つ。ユーリが可愛い! そして面白い! これに尽きます。本当にかわいいんですよ。やってみてください。

…これではレビューにならないんでもう少し真面目に話しますね。
本作の冒頭は、ぎっくり腰になった父の代わりにユーリがカネモティア王子の誕生パーティーに出席している場面から始まります。公務の場に慣れていないユーリは緊張しまくり。カネモティア第一王子のアルト様がかっこいいな~と思っていたが、実際に話しかけられるとまともなことは何一つしゃべれず、「ミドリムシの生まれ変わりなので光合成しなきゃいけない」などと意味不明な言い訳を残しその場から逃げてしまいます。この時のユーリの表情がすごい。酔っぱらってもこうはならんだろというくらい真っ赤で可愛いんですよ。そしてころころと表情を変えるので見た目にも楽しい。この表情差分の数も魅力ですね。
創作の世界でよく"アホの子"というのがありますが、ユーリの場合はそれとはちょっと違って、自分のしでかした言動が常識に照らして突拍子もなさすぎるということには気づいているので、そのことについて恥じているシーンが多いんです。だからこそ笑えるだけの作品ではなく、思わずユーリを応援したくなるような、そんな物語に引き込まれる作品に仕上がっているように感じます。

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さて、本作には3人の攻略対象がいます。冒頭のシーンでも登場するカネモティア王子のアルト様、その弟のアキバル様、そして自国の大臣のセナです。それぞれ分類するなら、アルトは乙女ゲームの王道的ルート、アキバルは変わり者・癖のあるルート、セナは幼馴染ルートといえるでしょう。ちなみに個別ルートに入れなかったノーマルエンドもあります。これらのルートがそろって乙女ゲームとしてのバランスという意味でもよくできているでしょう。

これらのルートの中で私が好きなものを挙げるとしたら、なんといってもアルト様ルートでしょう。この王道な感じがたまらない。
アルト様は公の場では品行方正で美しい立ち居振る舞いで多くの女性から大人気なわけですが、会話を重ねるにつれ素の彼は俺様タイプだったことがわかります。そんな彼がどうしてユーリに気を許すのか、そのあたりもきちんと描かれているんですよね。恋愛ゲームに関してこの"なぜお互いが惹かれ合うのか"ってめちゃくちゃ大事な要素ですよね。そこのツボをしっかり押さえています。そしてユーリの行動は相変わらず。恋愛もコメディーもどちらもたっぷり味わえます。ぐいぐいくるアルト様に、ユーリだけでなく私まで心ときめかせてしまいました。そしてEND2のエンディングタイトル。ここまでの流れが本当にうまい。ユーリの「貧乏神」発言を生かしたこの展開にはうならされました。

ちなみにアルト様ルートはもう一つ、END1もあります。END2とはかなり温度差があるのですが、アルトもユーリも先ほどのエンディングと別人な感じはしないんですよね。たまにエンディングによって同一人物なのにキャラ違うだろ! と言いたくなるような作品もあったりするのですが、本作ではアルトとユーリの気持ちの動きがしっかりと表現されているので、どんな結末にも納得感があります。甘さたっぷりで乙女ゲームとしての魅力満点なのはやはりEND2かと思いますが、こちらの分岐も存在することで成就したときの幸せをよりかみしめられるような気がします。
もちろん、アキバルやセナのルートも乙女ゲームとしての魅力、コメディとしての魅力が詰まってます。

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本編をすべて読み終わったら、ぜひEXTRAからおまけを読んでみてください。後日談や人物設定などのおまけがたっぷりあるのもプレイしていて満足感がありますね。ちなみにこの後日談ではセナルートが好きです。おとなしい感じだったセナがあんなに堂々としているのを見ればかっこいいという感想を抱かずにはいられません。また、2人の王子とは違ってセナにはユーリとのこれまでの積み重ねがありますからね。その部分がしっかり感じられてよかったです。


というわけで今回は「ロイヤルベルを鳴らして」のご紹介でした。ユーリの突飛な行動に笑いながらも乙女ゲームならではの甘いどきどきを味わえる作品で、普段乙女ゲームをプレイしない方にもお勧めできると思います。ぜひプレイしてください。

それでは。

こんにちは。今回は、「ほしのの。」のご紹介です。

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オススメ!
ジャンル:田舎でお姉ちゃんと仲良くなる恋愛ゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:Flash/スマホアプリ
リリース:2007/7(原作Flash版)


今回はついに、私にとって思い出の作品「ほしのの。」を取り上げます。それまでRPGなどを中心にプレイしていてノベルゲームは存在すら知らなかった私は、前回の記事で紹介したたんしおレモンのゲーム紹介掲示板のようなコーナーから本作を知りました。そして見事にはまってしまったわけです。
本作は最初にむきりょくかん。さんによる原作のFlash版が公開され、その後株式会社テンクロスによるスマホアプリ版が公開されています。Flashのサポートは終わってしまいましたが、現在でもスマホアプリ版はダウンロードすることができます。スマホアプリにしては珍しい完全無料&広告なしなので、フリーゲームの枠内に十分入っているなと判断してのご紹介です。また、原作も一応まだプレイ可能です(詳細は後述します)。


本作のストーリーを単純化すると、両親のが亡くなってしまったため田舎の親戚に預けられることになった主人公の川島結城が、最初は鬱陶しく感じていた従姉の榛奈との距離を次第に縮めていくという内容です。よくあるギャルゲーのパターンとして、主人公がひょんなことから女の子を自身の家に住まわせることになる、いわゆるボーイミーツガール系がありますが、それとは関係が逆なわけです。しかしそれ以外の点においては典型的なギャルゲーと変わらず、上のあらすじを読んだだけでは何がそんなに良い作品なのかというのがあまり伝わらないと思います。そこで、私がよいと感じた点をいくつか順に紹介していきます。


まずは何といっても、シナリオの丁寧な作りです。物語開始時点の結城は、和泉家での田舎暮らしに強い抵抗感を抱いています。中学生で反抗期の最中ということもあり、1つ年上で世話焼きな従姉の榛奈に対しても邪険にするシーンが多く登場します。両親との死別という導入がこれらの"受け入れられなさ"と結びついて描かれ、ただの同居のきっかけ以上にシナリオの方向性を示しています。
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最初はこんな感じだった結城も、当然話が進むごとに和泉家になじんでいくわけですが、その過程にしっかりとした説得力があるんですよ。都会では触れることのなかったことを"ダサい"ではなく"新鮮"と捉える描写だったり、榛奈との"雨降って地固まる"的な出来事だったり。こうした一つ一つのエピソードが点ではなく線でつながり、榛奈と距離を縮めていくというまとまった物語の流れとして感じられるのです。
そうそう、田舎の描写や農作業に関する記述なんかも嘘っぽくなくていいですね。作者さんの実体験に基づいているようで、このシナリオの質にもうなずけます。


そして登場人物が魅力的です。ヒロインの榛奈はもちろん大変にかわいいです。私は4話での浴衣を着た榛奈の笑顔に心奪われました。
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また、立秋さんや委員長といったサブのキャラクターも単に登場しましたというだけの人物ではなく、しっかりと結城の思いに影響を与えています。委員長に関してはその個性的なキャラクター性から、気持ちの良いコメディー展開ももたらしてくれます。
あと忘れられないのは「ごがつのそら。」にも登場した神明みのり。1話と2話の間に引っ越してしまう彼女ですが、その後にも榛奈からの話題に出てきたり、結城と榛奈の間を仲介する役割を持ったりする重要人物になっています。

これらの人物の立ち絵については、原作版とアプリ版で全く違うので、両方で味わってみるのもいいでしょう。アプリ版には、原作ではなかった立秋さんと委員長の立ち絵もついています。あれだけふざけた発言をしていた委員長がまさかのイケメン(笑)
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作品を通して雰囲気だったり季節感といったものがはっきりと感じられるのも本作の良いところでしょう。例えば、夏の暑さにうんざりするシーンでは、文章で描写するだけでなく、セミが鳴く環境音が入ってくる。青い空と白い雲のコントラストのきいた背景写真が使われている、など作品全体から夏を感じられるんです。また、半年経ったことを表現するのに単にそう書くのではなく、「年が明け、桜の花が咲き、散り、紫陽花の季節になった。」とすることでよりイメージしやすく物語に入り込みやすかったり、何が起きたかだけを伝える脚本のような文章ではなく、味わいのある小説としての魅力を帯びてきているように感じます。ちなみに好きな文というと、1話終わりの「返って来た「おかえり」の声を聞いて初めて、僕は"家"に帰ったのだと。そう思った。」がかなり好きです。これから和泉家になじんでいくきっかけというか、予感みたいなものを感じさせられますよね。
また、効果音について少しだけ触れましたが、BGMについても大変雰囲気に合った選曲で、曲まで好きになってしまいます。原作版の話になりますが、エンディングテーマの「あたりまえ かわりばえ」が作品世界にぴったりマッチしているということに関しては、音楽素材について書いたこちらの記事でも触れています。この記事に書かなかった曲で好きなものというと、1話プロローグ直後のシーンのBGMでしょうか。両親を失ったという大きな喪失感を抱えた状態で榛奈と寝る前の会話をするシーンですが、ここで使われているこの物悲しいピアノ曲がすごく好きです。しかも曲名が"good night"だと知った時には、うますぎるだろ…と思いました。サウンド全体に関しての評価がすごく高いです。

このサウンドだったり背景だったりといった部分については、アプリ版では全く違うので原作ファンの私としてはやや残念なところではあります。
ちなみに以前はスマホアプリ版でなくガラケーアプリ版も存在していました。数年ぶりに起動してみたところ、タイトル画面のBGMがTAM Music Factoryの「秋の野」であることに気付き、ゲームのタイトルに合わせてきたとすると面白いなと思いました。


本作の好きなところについていろいろと語ってみました。原作のプレイはやや厳しいですが、興味を持った方はぜひアプリ版からプレイしてみてください。繰り返しますが、スマホアプリも広告なし完全無料ですのでぜひ。
ちなみにFlashのサポート終了に伴い現在ではそのままでは原作をプレイすることはできない状態ですが、一応プレイ可能な方法が2通りあります。1つはブラウザにRuffleを導入すること。私が普段使っているブラウザはGoogle Chromeですが、拡張機能としてRuffleを入れることで問題なくプレイ可能であることは確認しました。(確認した環境:Windows 10 Home 20H2, Chrome 92.0.4515.159, Ruffle nightly 2021-07-03)
もう一つは、原作ページで用意されているDL版のswfファイルをDLしてきてローカルで再生する方法です。flash playerのexeファイルが必要ですが、このサイトなどから持ってくることができます。DL版のほうが画質が良いようなので、こちらをお勧めします。
同じFlash版でも、ブラウザ版とDL版ではエンドロールでの手紙の内容にほんの少しだけ違いがあります。気になった方は注目してみるといいでしょう。このエンドロールの演出もすごく好きですね。エンディングテーマのリズムに合わせて文面が表示されるのも気持ちがよいところでしょう。ただし、DL版の"看護士"は"看護師"が正しいでしょう。同じ手紙内で"看護婦"という表現も残っていて統一されていなかったのもあり、少し気になりました。ちなみに一応調べたのですが、法改正により看護婦という呼称を使用しなくなったのは2002年のようですね。2021年現在の感覚では看護師という呼び方はかなり定着しているように思いますが、作品公開時点(2007年)でどうだったかは覚えていないのでそんなに厳しく突っ込むところではないでしょうか。


長くなってきたので、今回はここまでにします。私はこの作品をプレイするまで、本格的なノベルゲームをやったことがなく、1話プレイ開始時点では適当な選択肢を選ぶミニゲーム的なものだと思っていました。それが1話を読み終えるころには純粋に物語に夢中になっていました。物語が終盤に近付くにつれ、まだ終わってほしくない、もっと読んでいたい、と強く思ったのを昨日のことのように思い出すことができます。ぜひ皆さんにもこの気持ちを味わっていただきたいと思っているところです。

それでは。

こんにちは。今回は、おととい公開されたばかりのベルカゲさんの最新作泡沫の花が散るをご紹介します。

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ジャンル:ミステリー&百合ノベルゲーム
プレイ時間:ノーマルモードですべて読んで1時間半くらい。フルコンプまで2時間ほど
分岐:基本一本道。ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト、ブラウザ版あり
リリース:2021/7
備考:12推


チェス殺人事件以来のミステリーのご紹介になります。チェス殺人事件では手掛かりとなるのは人物情報とチェスのルールだけというお手軽さでしたが、本作は事件に至る状況の描写とか捜査パートもあり、力の入った作品になっています。

まずはあらすじを簡単にご説明しましょう。本作の主人公はミッション系の女子高、ロータス女学院に通う2年生の綾小路花蓮。唯一の正当な文芸部員として活動している。幼馴染で1年生の嘉手納向日葵(かでなひまわり)は写真部所属。クラスメイトの演劇部員に頼まれて、合宿中の撮影係として同行することに。3年生の不知火(しらぬい)あやめの別荘の豪華さと演技力の高さに驚いたり、彼女をめぐる人間関係のごたごたに巻き込まれたりしながらも無事に1日目を終え眠りにつく。2日目にいつまで経っても来ないあやめを探していると、なんと彼女は温室の中で無残な姿で発見された。しかし山奥のため夕方のバスの時間まで外部に連絡することもできない。花蓮は何としてもこの違和感のある事件の真相を見つけて向日葵を安心させるんだと心に決めるが……

と、こんな感じです。ミステリーの王道的な展開でしょう。この説明を読んで気付いた方も多いと思いますが、本作の登場人物は皆花に関係した名前になっています。主人公の名前には花という字が入っていますし、その他にも向日葵、朝顔、夕顔、あやめ、のばら、菊華に竜胆と様々な花の名前がそろいます。人名としては見慣れないものもありますが、各登場人物の髪の色が花の色に対応している感じのキャラクターデザインなので大変覚えやすく、特にミステリーにおいては大きなメリットでしょう。
さて、ミステリーにおいて魅力となってくるのは事件のトリックの意外性やそれを解き明かす体験だけでなく、ぐちゃぐちゃした人間関係やそこから生まれる事件への動機といった面も大きいでしょう。本作はその点において評価が高いです。
みんなの尊敬の的であったあやめの過去と悩み、彼女へ恋愛感情を持つ生徒とそれを快く思わない者の存在、妙な違和感のある不知火家の別荘の間取り。これらが本作はミステリーであることをしっかりと主張してきて、期待感を高めてくれます。

今、「え、主人公たちって女子高の生徒じゃなかった?」と思った方は鋭いですね。そうです。本作では女の子同士で恋愛感情を持ったり付き合ったり、さらには依存したりといったことが普通に行われています。つまり本作はミステリーでありながら百合ゲーとしても楽しめるわけです。作者のベルカゲさんは乙女ゲー作ったりギャルゲー作ったりBL作ったりと様々な方向で作品を発表しているのが特徴的なサークル。ミステリーを作ったと聞いて今回は違う方向性なのかなと思ったりもしたのですが(事実、恋愛面を除いたら過去作とはかなり印象が違いました)、きちんとベルカゲ節は発揮されているのでした。ちなみに百合といっても、「女の子同士なんて…」みたいな葛藤や周囲からの横槍が一切なく純粋にお互いのことを好きあっているのがこの作者さんの特徴。ともすれば殺伐とした空気になってしまうミステリーにおいてほっと一息つける場を提供してくれます。

BGMはクラシックなどの落ち着いた雰囲気の曲が多めで、お屋敷の豪華さや先輩たちの演技力なんかを音から引き立てています。私は終盤で使われていたチャイコフスキーの金平糖の精の踊りの不気味な感じがするアレンジが気に入ったので、クレジットを見てこれはポケットサウンドのクラシックアレンジシリーズに違いないと思って探したのですが(クラシック名曲サウンドライブラリーはアレンジはしていない)、違いました。DOVA-SYNDROMEのHuppleさんでした。

さて、話を本筋に戻して肝心の事件とその捜査・推理パートを見てみましょう。
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捜査パートでは、マップに従って屋敷内で聞き取りや証拠集めをしていきます。選択肢を全部試せば証拠収集できるので難しくはありませんが、証拠の数が大変多い! 捜査開始前に証拠品一覧画面を見た私はその空欄の数に圧倒されました。そんな証拠品ごとにアイコン用イラストが用意されていたり、状況を記録した写真とか、現場の見取り図とかがきちんと用意されていて、大変な作りこみようだなあと感心しました。
推理パートにおいては、議論中の話題ごとに適切な証拠品や証言を選択していきます。間違った選択をするとLIFEが1減り、0になってしまうとゲームオーバーです。しかし花蓮が話題を誘導してくれるので、それに従って進めていけばそれほど難しくはないでしょう(推理パートに入る前に事件のあらましが分かったという方がいたらすごいです)。ただ、2~3個くらいの証拠のどれでもよさそうだなと感じる場面でも正解は一つだけのようで、私はそのシーンなどでLIFEをゴリゴリ削られました。
こうした要素が苦手な方のためには、イージーモードが用意されています。証拠選択シーンが全証拠からの選択ではなく3択になり、LIFE切れになっても半分の値で復活可能。また捜査パートにおいてダミー証拠をつかむことがなくなります。配慮はかなり行き届いているといっていいでしょう。推理が苦手な方向けだけではなく、例えば周回プレイ用に事件に直接関係のない部分を省けるあらすじモード搭載、証拠選択画面になる前に予告がある、証拠選択画面でもバックログなどの参照可(意外とこれができない作品は多かったりする)、右上に議題が出るのでスキップ使用時でも流れの把握が容易など、多方面でプレイしやすくなる配慮がされており、周回プレイもストレスフリーにできる工夫があらゆる場面でなされています。ぜひSSランククリアを目指して周回してください。

推理の内容やトリックはどうだったかというと、正直なところよくできているとまでは言えない感じがしました。ほとんど状況証拠しかない中であっさりと自白しちゃうし(ただしこれは動機を考えれば納得できる気もする)、ちょっとそこに発想の飛躍ない? と思ったところもありました(論理の飛躍とか破綻ってわけじゃないのでそこまで気にするほどでもないかも)。しかし私は本格推理小説を読むつもりでプレイしたわけではないですし、推理をする花蓮の堂々とした態度は大変魅力的だったように感じます。現状は一つの事実によって力ずくでゴールに向かっていった感じがあるので、何かもう一つ、まさかと思わせるトリックがあると立体感が出てきて一気にミステリーとしての魅力が上がるような気がします。
事件に関して私の評価ポイントが高いのは、主人公たちがミッション系の女子高に通っているという設定が活きていたことですね。冒頭のチャペルでのシーンが素敵だから、みたいな理由ではなくきちんと事件の一つの要因になっていたというのはうまいと思います。あとは、制服もかわいいしね!
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さて、先ほどベルカゲさんの特徴は性別なんて気にしないおおらかな恋愛描写だというようなことを描きましたが、もう一つ重大な特徴があります。ネタバレを考えて具体的には言いませんが、過去作をプレイしてきた方ならお分かりと思うあの要素です。それがまさかねえ、エピローグからおまけ小話にかけてぶつけられてくるとはねえ…油断しました。ここでもベルカゲ節は炸裂です。油断した私が悪いんですが、ここはもう少し後味よくしてくれたほうが個人的な好みには合いました。
そうそう、あとがきでも書かれている通り小話は第2の本編とも言えるようなおまけの充実ぶりもベルカゲさんの特徴でした。立ち絵ギャラリーで遊べたりもするのでぜひやってみてください。

最後に私の推しキャラの話をしましょう。Twitterにも書きましたが、エアコン騒動でパジャマ姿で震える向日葵ちゃんが可愛い!
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スクリーンショットでは分かりませんが文字通り震えてるんでぜひプレイして確かめてください。
そしておまけ座談会にパジャマパーティーあり。需要分かってるなあ。

それでは。

こんにちは。今回は伽那ノ光さんの二酸化テルルをご紹介します。

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ジャンル:現代乙女ゲーム
プレイ時間:1周20分、フルコンプまでで2時間以内
分岐:4種類
ツール:吉里吉里
リリース:2013/7
備考:第9回ふりーむ!ゲームコンテスト女性向けゲーム部門銀賞受賞作


こんにちは。今回ご紹介するのは現代舞台の乙女ゲームですがちょっと変わった雰囲気の作品です。中学校が舞台だけど普通の学園ものとは違う。そう、本作は生徒である天音セレンと理科教師仁志輝流(にし・きりゅう)の間の物語なのです。禁断の恋という感じでフォーカスされているわけではないのでそこを求める方には物足りないかもしれませんが、生徒と先生、コドモとオトナの対等でない関係の間でどう展開するのかは見どころの一つでしょう。


さて、本作が変わっているのは生徒と先生という関係性だけではありません。タイトルを見てお気付きになるかと思いますが、本作には化学物質の名前がタイトルとして与えられています。そこからもわかる通り、化学が本作のストーリーを支える大切な要素になっています。とはいっても難しい話は出てこないので大丈夫。主人公天音セレンは中学3年生なので、中学校の範囲の内容しか出てきませんし、シナリオ中では適宜出てきた用語などについての解説が入ります。ちなみにこの解説は、仁志先生がさらっと格好よくしてくれるパターンと、シナリオを中断して注釈が入るような形で解説してくれるパターンがあります。出てくる用語自体は義務教育の範囲内ですが、付随するうんちくなんかも語ってくれたりするので理系の方も退屈しないと思いますよ。作者の伽那ノ光さんは医師とのことで、専門性を生かしたシナリオになっています。
逆に、科学的な(理屈っぽい)語り口などにアレルギーがある方だと本作を楽しむのは難しいかもしれませんね。昔習ったことを忘れてしまったという程度ならセレンと一緒にプレイヤーも生徒側に回ればいいのですが、酸素を作るとか電気分解するとかいった話題自体が苦手なら本作はお勧めしません。


そんなことを言っていると、本作は理屈をこねて難しい話を続けるようなゲームかと思われるかもしれませんが、それは違います。主人公セレンがとる選択肢は必ず科学的・空想的という対になっていてどちらも選ぶことができます。そしてどちらを選んだ回数が多いかによってエンディングが分岐するのです。理科の先生が攻略対象だからと言って、科学しまくれば良いエンディングにたどり着けるのかというとそうではありません。科学エンド、空想エンド、そして中間にあたる中道エンドのどれもがそれぞれ少しずつ違って優劣のない結末を見せてくれます。科学を押し付けることがないようなこの態度はなかなか好感が持てます。
そうした作品の構成だけでなく、文章表現でも詩的で素敵だなあと思える魅力もあったりします。私は「職員室にナッツのようなカラメルのような香りが広がる。たちまち、灰色だった部屋に赤みがさしこんだ。」「先生のほほえみは、準備室に広がったクリームの香りのように甘かった。わたしはその笑顔に、どきりとした。」などが気が利いていて好きだなあと思いました。


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さて、上の画像を見るとわかりますが、本作のイラストは非常にきれいです。セレンがかわいらしいのはもちろん、仁志先生もいいですね。教師という立場でクールに振る舞いますが、笑顔も見たくなる。そして3つのエンディングではそれぞれ専用スチルもあるのでぜひ集めてみましょう。ちなみに残り1つのエンディングは実質ゲームオーバーなのでスチルはありません。
もう一つ上の画像で特徴的だと思うのは、会話ウィンドウの配置です。普通のノベルゲームでは画面下部にウィンドウが1つあり、地の文も会話文もそこに表示されると思うのですが、本作では会話文は通常のテキストウィンドウとは別に立ち絵から吹き出しが出て表示されるのです。大変独特で慣れるまでは読みにくいかもしれません。しかしシステム面はしっかりと作りこまれているのでシステムに由来するプレイしにくさはかなり少ないですよ。ちなみにメニューバーの操作説明ボタンを押すと、作者さんの過去作せつなゆ魂のキャラクターが本作の操作法を解説してくれます。


本編中では仁志先生はあくまで先生であり、セレンがいくらアプローチしても大人の対応で、セレンは仁志先生のトクベツ課題を受けていることをうれしく思いながらも、いち生徒としてしか見られていないんじゃないかと寂しく感じたりします。このあたりの描写って、乙女ゲームとしてのすごくいいところだと思ってます。しかしそれだけでは物足りなく感じてしまうのも事実。結局セレンの恋は実らないのかと思うと残念だったりもしてしまいます。ですが心配は無用。2人の甘々っぷりはエンディングとエピローグでたっぷりと味わえます。特に恋する理科ノートの話では、セレンの脳みそが沸騰したところで私の脳みそも沸騰しそうでした。表情の変化も細かくていいですね。注文を付けるとしたら、エンディングでなぜ仁志先生がこれまでの態度を翻してセレンの気持ちに応えてくれたのか、の部分を読んでみたかったというところでしょう。エピローグは本編から時間が経っての話ですし、話のつながりのようなものよりは1つのシーンの魅力が大事だと思うのでセレンと仁志がラブラブになっていてもいいと思うんですが、本編エンディングではその部分が少し気になりました。

最後にどうでもいい蛇足なんですが、美術室に行ったときの回想で、セレンが課題で「わたしがいる風景」を描くために悩んでいるとき、仁志先生がキイロイトリの絵を描いたというシーンがありました。偶然だとは思うんですが、この題材が、三善晃作曲の混声合唱とギターのための組曲「クレーの絵本 第1集」の終曲「黄色い鳥のいる風景」を連想させてちょっとびっくりしました(元になった詩は谷川俊太郎のものです)。

さて、今日は少し変わった乙女ゲームのご紹介でした。大変クオリティの高い作品で、実は隠しイベントもあったりするので気になった方はぜひプレイしてみてください。隠しイベントのヒントは、周期表(タイトル画面に表示されている、元素をその性質をもとに並べた表)です。2人の名前の由来や作内に登場した科学知識の補足、セレンの過去などの話が聞けます。特にこのセリフ。

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作内の登場人物がしっかり背景を伴って生き生きと描かれているのって大事な要素ですよね。
本イベントへの入り方の答えはここには書きませんので、頑張って探してみてください。

それでは。

今回は、むきりょくかん。さんのごがつのそら。です。

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オススメ!
ジャンル:のんびり日常ちょっぴり恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:基本一本道
ツール:NScripter
リリース:2005/8(NScripter版)


今回は、5月になったら扱おうと温めていた作品です。むきりょくかん。さんは私がノベルゲームに出会うきっかけとなったサイトで、強い思い出補正のある好きなサイトの1つです。本作も大好きで、もう10回以上は読んでいます。というわけで、レビューというよりは好きなものについて語るだけになってしまった感じがありますが、ご容赦ください。



本作はあまりはっきりしたあらすじはなく、登場人物ののんびりとした会話をずっと眺めているような展開が続きます。主人公の溝口春樹は大学を出たての新社会人。5月病でやる気が出ずにふらふら歩いていると、神社でピアノを弾いていた巫女バイトの高校生神明みのりに出会い、そこから2人の交流が始まります。この出会いの場面では当然ですがみのりはよそよそしく、溝口さんとは距離を感じます。しかし、溝口さんが暇つぶしにみのりのピアノを聞きに来るたびに、次第に距離を縮めていきます。このあたりの描写がとても丁寧なんですよね。いわゆるギャルゲーでは、ヒロインは出会った当初から主人公に好感度MAX、みたいな作品も多いですが(もちろんそういう作品も楽しいです)、本作では主人公もヒロインも割と普通で(みのりはちょっと暴力的な気がしないでもないですが)、心を通わせていく様子がしっかり示されることで感情移入しやすい作品になっていると思います。何か派手な出来事が起きるわけではないけど、日常シーンを通して交流を深めていく、この雰囲気・空気感の演出が抜群なんです。

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この2人が徐々に近づいていく様子が、ビジュアルの面でも同時に表現されているのは素晴らしい仕掛けですね。本作はかなりの部分が、溝口さんとみのりが神社の石段に腰かけてだべるシーンで構成されますが、2人の心理的距離感がそのまま物理的距離に比例して描かれているのです。これはほかの作品ではあまり見ることのない演出ではないでしょうか。本編読了後にはスチル閲覧モードが解放されるので、ぜひみのりの位置が次第に溝口さんに寄っているのを確認してみてください。

さて、こうした丁寧な文章描写とビジュアルの演出に加え、音楽もかなりいい仕事をしています。みのりがピアノを弾くという設定もあってか、本作のBGMはほぼすべてピアノ曲で構成されています。特に、2人が出会った時にみのりが弾いていた「世界が色づき始めるとき」は本作のテーマでもあり、なかなか印象的です。私は趣味でピアノを弾くので、作曲者のfokaさんのサイトに楽譜が公開されているのを見つけると、自分でも練習して弾けるようになりました。同じく本作のBGMに使われている「緑の小道」と、「これまでも これからも」(こちらは本作には使われていませんが)もあわせて、今でも時々弾いています。

こうしたテキスト・ビジュアル・音楽の合わせ技が最も有効に働いたのは、なんといっても4話ラストのシーンでしょう。作者さん自身が"とどめの一枚"と呼んだスチルと、ずいぶん柔らかくなったみのりの態度、そして幻想的で暖かな音楽。これらの織り成す雰囲気に呑まれ、"他人以上、友達未満で……恋人"な2人の関係で交わされる言葉を大変切なく感じました。

本編読了後には、おまけシナリオである「はちがつのゆき」がプレイ可能になります。こちらは本編よりずっと甘々な恋愛ものとなっているので、本編じゃあちょっと淡泊だと感じた方も、晴れて恋人同士となった溝口さんとみのりのやり取りににやにやできるでしょう。神社の外の話なので当然みのりの服装が普段と違ったり、背景写真が加工なしになっているなどといった意味でも本編と違いがあります。

さて、本作をプレイして唯一気になった点は、雲の話です。2人が空を見上げて、あれは巻層雲っていうんだよ、というようなシーンがあるのですが、巻層雲は別名をうす雲とも言うように薄く層状に広がる雲で、あまりきれいな雲というイメージが無かったので、物語中のイメージとあまり合わなかったかな、という。一般的にイメージされる雲といえばだいたい積雲(わた雲)ですし、巻層雲と同じく高い位置にできるという意味なら巻雲(すじ雲)の方がきれいかな、と思っています。該当シーンの背景写真もどちらかというと巻雲っぽいですし。まあ、非常にマニアックな話ですが、ちょうど私が高校で地学を習って出てきた範囲だったりしたので、そこは印象に残っています。


また、本作は株式会社テンクロスによってスマートフォンアプリ版が開発されました(かつてはガラケーアプリ版もありました)。こちらは前編無料、後編有料という形なのでフリーゲームとは言えませんが、"スタンプ集め"をすることで後編も無料でプレイ可能なので、気になった方はぜひプレイしてみてください(要は広告に出てくるアプリをいくつかインストールすればよい)。プレイ中にバナー広告や動画広告を見せられることが無いので、結構快適にプレイできますよ。
シナリオはほとんど原作と変更がありませんが、ビジュアルと音楽は一新されています。また、おまけシナリオにはほしのの。の2人がゲスト出演しているので、ほしのの。好きの方はプレイして損はないと思います。

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スマートフォンアプリ版のお話をしましたが、本作には実はinsaniさんによる英語版もあります。この英語版は完全無料です。高校時代にダウンロードして日本語版と同時に起動し、英語の勉強を兼ねて読んだのは良い思い出です。教科書で見るような正確な英語ばかりでなく、砕けた表現なども多く結構大変でした。
ちなみに、日本語版で終盤に「この格子戸を開けると、私の恋は終了する」というみのりの台詞があります。この台詞自体も綺麗だなと思ったのですが、その英訳が”When I rise and open that door, I ... close the door on my love.”でなかなか美しいなと感動した覚えがあります。


というわけで、蛇足も多かったですが今回はごがつのそら。のご紹介でした。私がこの作品に出合った時にはみのりより年下だったのに、いつの間にか溝口さんよりも年上になってしまいました。それだけ時間が経っても、最初に読んだ時の感動はよく覚えています。皆さんもぜひその感動を味わってください。

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