フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
記事一覧ページを作りました。記事探しはこちらから。Twitterはこちら。リンク等はご自由にどうぞ。
YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

日常

こんにちは。今回はばするぅむさんの「かえりみち」です。今回についてはいつものレビュー回というよりコラム回のノリに近くなると思いますがご了承ください。

kaerimiti1

★favo
ジャンル:ノスタルジー系恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:1時間
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2012/4


まずはいつも通り大まかなあらすじをご紹介しましょう。
主人公の高木圭一は鹿児島県の霧島町(現・霧島市)に住む高校3年生。同学年で家の近い小湊ほのかとは小学生のころからの縁で、田舎特有の長い通学路をずっと一緒に通ってきた。しかし進路のことを考えなくてはならない年齢になり、この関係ももう長くは続かないことを寂しく感じていた……。

という感じでしょう。まさにタイトルの通り"かえりみち"にほのかと会話しながら帰ってくるというのが物語の大部分を占めるテーマでもあります。
さて本作ですが、プレイしていて大変驚いたところがあるので最初にそれについて書きましょう。

作風が完全に「むきりょくかん。」の作品のそれ!!!

はい、プレイ開始前にReadMeを読んだときに、背景画像提供としてむきりょくかん。のクレジットがあり、さらに本作のメッセージウィンドウが「ごがつのそら。」「ほしのの。」のそれと似ていたので気にはしていたんですが(ただしゲームエンジンは異なる)、そんな表面的なところにとどまらないほどにそっくりです。特定の目的なく緩やかなおしゃべりをするシーンが根底にある、文章は1人称で時折ノスタルジックな発言やその他の感想のような文が入る、ピアノ曲中心のBGM選曲、舞台となった実在の地名が明らかにされる、シーンの切り替わりで情景描写が入る、などなど何をとってもむきりょくかん。を連想する要素のオンパレード。中盤で"「ほしのの。」という映画"の感想の話が出てきたところで、本当にこれ別人だよな、むきりょくかん。の吉村さんの別名義とかじゃないよなと途中でサークルのHPを確認に行ってしまったほどです。

その結果、ばするぅむさんのサイトトップにはあの懐かしのツッコミフォーム(by むきりょくかん。)が! (注:コメント送信用CGI)
さらにハンドルネームで検索すると、作者の成井芳織さんはむきりょくかん。の日記へのコメント常連であったことが分かって、ファンが高じて自作にこんなに明確な影響を受けることもあるんだなと感じました。

kaerimiti2

本作の話に戻ります。そんなことがあって雰囲気が似ているのもあり、私は本作の雰囲気がかなり好きなんですよ。何らの目的もなく続くような日常の描写って、往々にして飽きてしまうようなことがありますが本作はそんなこともなく、圭一とほのかの距離感だったり、受験や進路に向けて何となく考えていることだったり、そう言ったシーンを微笑ましく眺めることができました。


というようなことばっかり言っていると、他者の作品の劣化コピーなのかと思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。本作の場合、独自の魅力としてまず幼馴染ものという要素がありますね。子供のころは帰り道でこんな寄り道をした、とか、中学校のスクールバスが懐かしいとかの表現によって、キャラクターに立体感が生まれるのです。当然ですがプレイヤーは登場人物について、作内で描写される情報しか持っていません。単純にシーンを順に脚本のように紡いでいっても、キャラクターの平面的な部分しか見ることができませんが、思い出のシーンなどが入ることによってキャラクターに過去からの流れという新たな次元が交わり、より多角的に魅力を受け取ることができるように感じます。

また、本作は帰り道にだらだらと喋りながら歩いていくという、誰にでも経験のあるシーンがテーマとなっています。物語は基本的に何でも主人公の立場になって読むタイプの私にとって、これは非常に感情移入しやすい内容でした。私の場合残念ながら、毎日一緒に通った幼馴染がいたわけではないのですが、それでも部活の後で友人と歩いて帰り、受験のこととかも考えなきゃな~とか思っていたのは今となっては貴重な出来事だったと思い出させてくれました。
舞台となった地域の描写がしっかりしているのも、2人の空間を想像しやすくなってよかったと思います。本作内の時間は2005年(公開は2012年です)。調べたところこれは旧霧島町が実際に市町村合併で霧島市となった年でした。作内でその描写もあるなど、現実に忠実であることによって舞台のリアルさが増し、私をより深く圭一とほのかの世界へと連れて行ってくれたのではないでしょうか。

そして、文章力も確かですね。比喩を用いた表現などが多用され、どちらかというとゲームというか小説寄りのテキストかもしれません。私が好きなのは、受験が終わって帰るときの「色のない街の中を帰っていた。」ですね。私も大学入学を機に地元を離れた経験があるので、あの時の希望と不安と緊張が綯い交ぜになったような気持ちを思い出したりしました。

さて、本作をプレイしていて気になった点もあります。まずは、シーン同士の繋がりがあまり感じられなかったように思います。例えばお祭りの場面。圭一はほのかを怒らせてしまいますが、その前ぶれだったりフォローだったりという部分が十分でなかったのではないでしょうか。一応なぜそんなに怒っていたのかは判明しますし、翌日謝って許してもらったというような描写はありますが、その後の展開に結びついていないように感じてしまいました。ここだけ孤立していて、なかったとしても成立してしまいそうな感じです。ほかにもところどころ、話の流れから独立してしまっていると感じる場面がありました。
しかしそれらのシーンも個別の場面としてみれば、圭一とほのかの関係性が浮かんでくる良いシーンだなとも思えるので惜しいところです。

そしてエンディングも、確かにまとまってはいるんですが、そこはオーソドックスに1年後の話をして欲しかった。これは単に私の好みというレベルではありますが……。


というわけで、脱線も多くなりましたが今回は「かえりみち」でした。
田舎で幼馴染ものというワードに惹かれる方、地元にノスタルジーを覚える方、むきりょくかん。(特に「ごがつのそら。」)のファンの方は読んで損のない作品だと思います。

それでは。

こんにちは。今回は一限はやめさんの「ホラー大好きヒミカさん」をご紹介します。

himika1

ジャンル:ホラーゲームあるあるネタ風コメディ
プレイ時間:45分
分岐:なし(後述)
ツール:RPGツクール(要RTP)
リリース:2020/4

今回ご紹介する作品は、上のタイトル画面のスクリーンショットやそこでのBGMは全力でホラーと主張していますが、中身としては日常ギャグ系となっています。

本作は、ほぼすべてが主人公の陽菜と友達のひみかが部屋でおしゃべりしている場面で構成されています。タイトルから分かる通りひみかはかなりのホラーゲームやオカルト系マニアの大学2年生。ホラーゲームにありがちな状況や台詞の引き出しが異常に多く、超ハイテンポでネタを放出します。対する陽菜は比較的普通の子でツッコミ役。あっちこっちに話が飛ぶひみかを毎回軌道修正して話を進めてくれます。しかしたまにひみかのフリにのっていくことも。そんな2人のやり取りを見ながら、あるある~~といったり、そんなのねーよとツッコんだりするのが本作の楽しみ方の一つになります。


さて、本作には地の文だったり、ナレーション役といったものは存在しませんが、ショートコントのタイトルのような感じで数分くらいの間隔で暗転とタイトルアナウンスが入ります。とはいっても登場人物も場所も変わらないのですが、この仕組みで話の切り替わりがわかりやすくなっています。ずっと同じ2人が話すだけではそのあたりがあいまいになったり、息をつく暇がなくなりますからこれはいい構成だなと感じます。ちなみに、その場面転換の間でのみセーブが可能になっています。

まず最初は「怖い話」。ストレートですが、怪談って人気ですよね。私は怪談やホラーが特別好きというわけではありませんが、ゲームをやっているとよく出会うジャンルということもあり、有名なものは結構知っているつもりです。
しかし本作では当然ながら正面から怪談について語ったりはしません。
「1日3食をすべてお菓子の「じがりこ」で過ごした話」
から始まり、
「田舎に残る怖い風習」
というまさによくある風の怪談が始まるかと思いきや
「女子間の、されるのがわかりきった「サプライズ」のし合いの方が怖い風習」
と一刀両断。この急カーブで笑えるならば本作を最初から最後まで余すところなく楽しめるでしょう。
「何でも田舎のせいにするな」との主張、心得ました。

そんな感じでホラーや怪談を題材にしつつも様々な方向に振れた話題を楽しめる本作ですが、メタな話題も結構含まれます。本作のシナリオがゲームという媒体で紡がれることからもそれは必然かもしれませんね。
先ほどの話で、「地元が田舎って、どの辺?」という振りに対し、「かなりの田舎と言ってしまった以上、傷つく人がいるかもしれないので具体的な地名は出さない」は流石です。「視聴率」発言も笑いました。確かにそうかも。

ひみかはかなりマイペースな性格で、同じお題に対して陽菜があきれるほど多くの例を挙げたり、逆にいつの間にか話題が変わっていたりします。そしてどんどんホラーとは関係ないテーマに進んで行ったりもします。”ホラー大好き"というのはひみかさんの趣味に関する話であって、本作全体のテーマというわけではないのです。軽めの下ネタもけっこうあります。かなり自由にいろいろな話題に飛ぶので、ホラーの話という導入から離れて女子会をのぞき見しているような気分すら味わえるかもしれません。

himika3
さらには突然の水着シーンあり。その後に1度だけある選択肢によっては以後がすべて水着での会話になっており、一気にツッコミどころが倍増して楽しいですよ。立ち絵と一部の会話が変わるくらいで、シナリオに影響はありません。

また、上のような2人の駄弁りだけでなく、本作には時折前触れなしに「なりきりコーナー」が挿入されます。アルバイトの接客ごっこだったり、ゲーム内でよくあるシチュエーションごっこだったり、実在作品のオマージュだったりと様々。私は「探偵」での陽菜のスピード感あるツッコミが好きです。
なりきりコーナー中は、結構シリアスな場面もあったりします。ファンタジー系のゲームやアニメでめちゃくちゃありそうなシーンで、これも結構面白かったです。ひみかの方は相当な変わり者なのでよくわからないですが、陽菜も割とノリノリでこの遊びに付き合っているのを見ると、仲良くていいな~と思いますね。説明なしで寸劇が出来上がっていて、以心伝心している感じがすごい。
himika2
しかし立ち絵の表情と場面の悲壮さがかみ合ってなかったりする。これは、全編を通してコメディ調である本作の味ですね。しかもその直後に(以前の選択によっては)何事もなかったかのように水着で登場するので、シュールさが加速してます。


最後に、私が好きだったネタを3つ挙げましょう。
  • 飲み会の断り方
  • そのやり方は……確かに効果的かもしれないけどいろいろ大事なものを失いそう。少なくとも私はやりたくないなあ。陽菜の感想ももっともだし。
  • テレビをつけたら…
  • 私が実際に友達の家に行ってテレビをつけてそんな感じだったらかなりビビる。しばらくは微妙な空気になりそう。
  • 名前の読みがな
  • レビュー内でルビを振らないようにしましたが、陽菜は"ハルナ"です。作内ではあだ名などから読みを判断できるとはいえ”ヒナ"も一般的な読みだなと思っていたところ、それもネタにされていたのでさすがです。
というわけで「ホラー大好きヒミカさん」のご紹介でした。脱力系とでもいうのか、洗練されたギャグとはまた違った笑いが楽しめる作品です。独特の雰囲気のある作品なので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

今回は、むきりょくかん。さんのごがつのそら。です。

gogatsu1

オススメ!
ジャンル:のんびり日常ちょっぴり恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:基本一本道
ツール:NScripter
リリース:2005/8(NScripter版)


今回は、5月になったら扱おうと温めていた作品です。むきりょくかん。さんは私がノベルゲームに出会うきっかけとなったサイトで、強い思い出補正のある好きなサイトの1つです。本作も大好きで、もう10回以上は読んでいます。というわけで、レビューというよりは好きなものについて語るだけになってしまった感じがありますが、ご容赦ください。



本作はあまりはっきりしたあらすじはなく、登場人物ののんびりとした会話をずっと眺めているような展開が続きます。主人公の溝口春樹は大学を出たての新社会人。5月病でやる気が出ずにふらふら歩いていると、神社でピアノを弾いていた巫女バイトの高校生神明みのりに出会い、そこから2人の交流が始まります。この出会いの場面では当然ですがみのりはよそよそしく、溝口さんとは距離を感じます。しかし、溝口さんが暇つぶしにみのりのピアノを聞きに来るたびに、次第に距離を縮めていきます。このあたりの描写がとても丁寧なんですよね。いわゆるギャルゲーでは、ヒロインは出会った当初から主人公に好感度MAX、みたいな作品も多いですが(もちろんそういう作品も楽しいです)、本作では主人公もヒロインも割と普通で(みのりはちょっと暴力的な気がしないでもないですが)、心を通わせていく様子がしっかり示されることで感情移入しやすい作品になっていると思います。何か派手な出来事が起きるわけではないけど、日常シーンを通して交流を深めていく、この雰囲気・空気感の演出が抜群なんです。

gogatsu2

この2人が徐々に近づいていく様子が、ビジュアルの面でも同時に表現されているのは素晴らしい仕掛けですね。本作はかなりの部分が、溝口さんとみのりが神社の石段に腰かけてだべるシーンで構成されますが、2人の心理的距離感がそのまま物理的距離に比例して描かれているのです。これはほかの作品ではあまり見ることのない演出ではないでしょうか。本編読了後にはスチル閲覧モードが解放されるので、ぜひみのりの位置が次第に溝口さんに寄っているのを確認してみてください。

さて、こうした丁寧な文章描写とビジュアルの演出に加え、音楽もかなりいい仕事をしています。みのりがピアノを弾くという設定もあってか、本作のBGMはほぼすべてピアノ曲で構成されています。特に、2人が出会った時にみのりが弾いていた「世界が色づき始めるとき」は本作のテーマでもあり、なかなか印象的です。私は趣味でピアノを弾くので、作曲者のfokaさんのサイトに楽譜が公開されているのを見つけると、自分でも練習して弾けるようになりました。同じく本作のBGMに使われている「緑の小道」と、「これまでも これからも」(こちらは本作には使われていませんが)もあわせて、今でも時々弾いています。

こうしたテキスト・ビジュアル・音楽の合わせ技が最も有効に働いたのは、なんといっても4話ラストのシーンでしょう。作者さん自身が"とどめの一枚"と呼んだスチルと、ずいぶん柔らかくなったみのりの態度、そして幻想的で暖かな音楽。これらの織り成す雰囲気に呑まれ、"他人以上、友達未満で……恋人"な2人の関係で交わされる言葉を大変切なく感じました。

本編読了後には、おまけシナリオである「はちがつのゆき」がプレイ可能になります。こちらは本編よりずっと甘々な恋愛ものとなっているので、本編じゃあちょっと淡泊だと感じた方も、晴れて恋人同士となった溝口さんとみのりのやり取りににやにやできるでしょう。神社の外の話なので当然みのりの服装が普段と違ったり、背景写真が加工なしになっているなどといった意味でも本編と違いがあります。

さて、本作をプレイして唯一気になった点は、雲の話です。2人が空を見上げて、あれは巻層雲っていうんだよ、というようなシーンがあるのですが、巻層雲は別名をうす雲とも言うように薄く層状に広がる雲で、あまりきれいな雲というイメージが無かったので、物語中のイメージとあまり合わなかったかな、という。一般的にイメージされる雲といえばだいたい積雲(わた雲)ですし、巻層雲と同じく高い位置にできるという意味なら巻雲(すじ雲)の方がきれいかな、と思っています。該当シーンの背景写真もどちらかというと巻雲っぽいですし。まあ、非常にマニアックな話ですが、ちょうど私が高校で地学を習って出てきた範囲だったりしたので、そこは印象に残っています。


また、本作は株式会社テンクロスによってスマートフォンアプリ版が開発されました(かつてはガラケーアプリ版もありました)。こちらは前編無料、後編有料という形なのでフリーゲームとは言えませんが、"スタンプ集め"をすることで後編も無料でプレイ可能なので、気になった方はぜひプレイしてみてください(要は広告に出てくるアプリをいくつかインストールすればよい)。プレイ中にバナー広告や動画広告を見せられることが無いので、結構快適にプレイできますよ。
シナリオはほとんど原作と変更がありませんが、ビジュアルと音楽は一新されています。また、おまけシナリオにはほしのの。の2人がゲスト出演しているので、ほしのの。好きの方はプレイして損はないと思います。

gogatsus1

スマートフォンアプリ版のお話をしましたが、本作には実はinsaniさんによる英語版もあります。この英語版は完全無料です。高校時代にダウンロードして日本語版と同時に起動し、英語の勉強を兼ねて読んだのは良い思い出です。教科書で見るような正確な英語ばかりでなく、砕けた表現なども多く結構大変でした。
ちなみに、日本語版で終盤に「この格子戸を開けると、私の恋は終了する」というみのりの台詞があります。この台詞自体も綺麗だなと思ったのですが、その英訳が”When I rise and open that door, I ... close the door on my love.”でなかなか美しいなと感動した覚えがあります。


というわけで、蛇足も多かったですが今回はごがつのそら。のご紹介でした。私がこの作品に出合った時にはみのりより年下だったのに、いつの間にか溝口さんよりも年上になってしまいました。それだけ時間が経っても、最初に読んだ時の感動はよく覚えています。皆さんもぜひその感動を味わってください。

記念すべき初のレビューでは、mint wingsさんのココロ、そらいろ。をご紹介します。kokosora1


ジャンル:ほのぼの日常ノベルゲーム
プレイ時間:1時間弱
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2015/4


本作は、なんとなく学校に行きたくなくなってしまった小学校6年生の主人公いつきが、保健室登校を続ける中で同じく保健室登校のゆず、もとなりや養護教諭のあおき先生との交流を重ね、成長していくなんとも心温まるシナリオのノベルゲームです。
本作は1話5分以内で読めるような短い話が12話で構成されています。この構成の仕方がうまいです。1話1話がサクッと読めるので負担を感じずにどんどん読み進めていけます。12話で1年間の物語となる都合上、各話の間には1か月ほどのブランクがあるのですが、その間に交流が進んでいるんだろうなと感じられるのもうまい演出だと思います。

いつきたちは保健室登校を続けているということは、彼らの中に何らかの問題を抱えているということです。大人から見たら、小学生なんか無邪気で何の悩みもないように見えますし、子供のころに戻ってのんきに遊びまわりたいと思う気持ちもありますが、まさか本当に悩みがないなんてわけはありません。むしろ子供特有の問題を抱えていたりします。本作では、そんな子供たちの悩みをクローズアップしています。

みんなと同じにするのを拒んだら仲間外れにされてしまったゆず、自分が笑うなんて似合わないと決めつけてしまい笑顔を失ってしまったもとなり。そして"なんとなく"学校に行きたくなくなってしまったいつき。彼らは保健室登校を続ける中で自分の答えを見つけていき、前に進んでいくのですが、それには必ずしも大きな事件は必要ないんですね。日々学校に通う中で、同じく保健室登校の友達や先生と交流を重ねていくと、いつの間にか素直に自分の気持ちを出せるようになったり、悩みなんて大したことなかったなと気付いたりするわけです。その解決の過程を丁寧に描写してくれるので、悩みを解決して笑顔になっていく子供たちを見ていると、まるで自分のことのようにうれしくなり、最後のシーンでは泣きそうになりました。
kokosora2

グラフィックやBGMも感動の演出に一役買っています。ピアノ曲中心の柔らかい音楽、デフォルメの利いた優しい絵柄はこの作品の雰囲気にぴったりです。クリア後にスチルや音楽の鑑賞モードが解放されるのも良いですね。
システムも必要な機能がそろっていて不満なしです。

いつき、ゆず、もとなりの3人を中心に展開していく本作ですが、あおき先生の悩みが中心となる回が1つあり、そこは物語のテーマと少しずれてしまったんじゃないでしょうか。大人の悩みってそんなに簡単に何とかなる問題でもないことが多いですし……。でも、子供たちが先生を慕っているからこそ答えを出せたという意味ではメインテーマに対しても意味のある話だったようには思います。

さて、ゆずともとなりについては、不登校に至ってしまう原因が割とはっきりしています。問題がはっきりしている分それが解消してしまえば一気に視界が開けるといった感じがあり、2人の立ち直りシーンは微笑ましいだけでなく、納得感もあるものでした。しかし主人公いつきに関しては、そもそもなぜ学校に行きたくなくなってしまったか、自分がダメだと思ってしまったかに関してこれといった理由がありません。同梱のあとがきにも書かれていましたが、"ふつう"の子として描かれているのです。そうした漫然とした悩みや不安って、得てして解決が難しいものです。それが、今までのゆずやもとなりとの交流は前提にあるものの1話で解決してしまっているので、いつきの復活については何となくもやもやが残ってしまいました。それでも最後に中学校の入学式に向かういつきの様子は私にとても勇気を与えてくれるものでしたし、温かい気持ちになれることは間違いありません。

また、物語中で授業参観のシーンがありましたが、自分が小学生の時のことを思い出して懐かしい気分になりました。小学校の授業って、みんな競って手を挙げてたし、めちゃくちゃでも自分の意見を表明してたし、活気ありましたよね。私が眠気を我慢しながら授業を受けるようになったのはいつからだったでしょうか。
この回では、作者さんの過去作(モラトリアム -boys men-:BL。苦手な方は注意)とのつながりが示唆されています。

全体として派手な出来事が起きるわけでもなく、大きな感動を呼ぶ作品でもないですが、子供たちの純真さを見て癒されるような、そして優しい気持ちになれるような素敵な作品ですので、ぜひ読んでみてください。

それでは。

↑このページのトップヘ