フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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YouTube始めました。フリーゲーム攻略動画などを投稿してます。

有料版あり

こんにちは。前回の更新から1か月以上空いてしまいました。
今回はフリーゲーム以外でプレイしたゲームについて5本まとめて書いていきたいと思います。

ビート・チェリー・クエスト!

まずは丘の上のカテドラルさんのビート・チェリー・クエスト!です。
フリーゲームだとワケありの暴君さんが有名なサークルさんですね。
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プレイ時間4時間ほどの簡単ファンタジーRPGです。DLsiteBoothで販売中。現在Ci-enにてフォロー中だとクーポンが配布中なのでお得にゲットできます。

ゲームの中身としてはごくオーソドックスなコマンド選択式ターン制RPGなのですが、本作が個性的なのは作者さんが何度もアピールしている通り、そう、乳首です。大事なことなので文字を大きくしておきました。
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作中で何十回と乳首二本突きを炸裂させたことか。なにしろ公式の売り文句が
男のTKBを鍛えろ!コメディ全開!男女カップルのファンタジーRPG!
ですからね。
主人公リナナは新米ハンターで右も左もわからない状態なのですが、ひょんなことからベテランのハンターで討伐ランキングのトップを走るアウレスに気に入られ、パーティーを組むことになります。ベテランと組めるのはありがたいことではありますが、このアウレスというやつはとても思い込みが強く、
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乳首が自分の唯一の弱点であり、これを鍛えれば最強になれるとなぜか信じているのです。リナナのことは"乳首の師匠"扱い。そんな2人が繰り広げるコメディシナリオが本作の魅力となっています。乳首のこと以外でもボケまくり。リナナはそれにツッコんだりボケを重ねたり。物語中盤でイリオノーレが仲間になってからはさらに賑やかに。そして本作のセールスポイント(?)であるシステム、乳首トレーニング、略してちくトレが解禁されます。やるたびにステータスが上がるのでゲージがたまり次第やるといいのですが、毎回迫真の乳首二本突きを見ることに。このくだらなさを笑いに変えられる方なら全編通して楽しむことができるでしょう。

システム面はツクールでよく見るシステムそのものですが、細かいところでプレイヤーへの気配りが感じられます。イベント発生個所は分かりやすいようにマップ上に示されていますし、回復ポイントを使うとゲームプレイ上のTIPSが表示されたり、ダンジョン最奥部からはワープ魔法陣で脱出できるなど、ストレスフリーでゲームを進められるようになっています。
戦闘アニメーションなんかも豊富で動きも軽いのでぜひそのあたりにも注目してみてください。
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To my forever Love

続いてToAgeさんのTo my forever Loveです。Steamでの頒布となります。
こちらは最近プレイ動画をYouTubeに投稿したりしたアクションゲームです。
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ルールはいたってシンプルで、自機(手紙)をゴールへと運ぶだけです。できる操作は最初は左クリックで自機を弾くだけですが、途中から右クリックによるワイヤーアクションのような操作も可能になります。
グラフィックはシンプルで見栄えがするタイプではありませんが、シンプル故にヘルプ不要でゲームのルールやギミックの動作を理解できる作りとなっているのが嬉しい。ピクトグラムの待っている矢印の方向が進行方向であること、!マークのついている黄色い部分は危険で触れてはならないことなどが言われずとも分かります。
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最初のうちは簡単なのですが、ステージが進行するにつれて動くギミックが登場したり、連続で狙い良く右クリックをしなければならなかったり、重力の向きを変更したり、細かな力加減が必要になってきたりしてどんどん難しくなります。

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↑私がかなり苦戦した面です。どう進むのが正解かを考えるのに加え、その考えたルートを実現するのにも正確な操作力と判断力が必要になります。

特に後半になってくると何十回もやり直して練習する必要が出てくると思いますが、次第に操作が上手くなって思い通りに自機を操縦できるような感触も得られて、アクションゲームのツボをしっかりと押さえた作品になっていると思います。この達成感のおかげで、1回クリアした後も何度もプレイして最小手数クリアを目指してやり込んだほどです。私がYouTubeに投稿した動画はそのやり込みの結果です。
最高/最低手数がゲーム内で記録されるので、ぜひやり込んでみてください。今のところ私の記録(1st:148, 2nd:264, 3rd:468)が最高スコアだと思うので、抜いた方はぜひ報告ください。



マヨイヒツジの果樹園

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続いてはnamaageさんのマヨイヒツジの果樹園です。DLsiteで公開されているプレイ時間にして3時間程度のノベルゲームです。
フリーゲームではBlue*Doubt!が有名かと思います。Doubt!の終盤のドロドロ具合が印象に残っていた私は、本作はいったいどんな闇を抱えた作品なんだろうと期待してプレイし始めました。

舞台となるのは孤島に存在する不思議な学園。主人公の山田一郎は新任教師として着任したばかりです。
この学園の生徒は皆頭上に天使の輪のような金属質の物体を浮かべています。それだけでなく、何か重大な秘密が存在していることを山田は知っているようですが、それがプレイヤーに明かされるのはまだ先のことです。

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生徒一人一人に”担当教師”が付くという独特のシステムがあり、一郎は天真爛漫キャラのキャセロール(画像右)の担当となります。生徒の身体面、精神面双方にわたって手厚くサポート。何事もなく過ぎてゆく学園生活。臨海学校なんていう楽しそうなイベントの計画も進みます。ところどころ不穏な匂わせはありますがこのまま不思議なラブコメとして展開してもよさそうな雰囲気は、Episode. 5にて完全に壊されます。

「幸福は義務」というおかしな校則も、「進んでこの職に就く教師はいない」というネガティブな発言も、そして何より生徒の頭上に絶えず浮いている”ワッカ”の正体も、これらの謎はすべてそこで解けることとなります。そして同時にこの圧倒的な理不尽と倫理的な不合理に震えることになるでしょう。しかしわずかながらそこには確かに正当な理由と目的も存在していたのです。
このショックを体感しない事には本作の内容について語ったり聴いたりすることはできません。本作はなんと全体の半分程度に相当するこの章まで体験版で無料でプレイすることができるので、興味を持った方はぜひ自分の手でプレイしていただきたいです。

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タイトルから容易に連想されるように、本作にはキリスト教的な罪の概念が登場します(背景に鳥居があるのが宗教に寛容な日本らしい)。生徒が抱える”幸福”という義務。ではそれに相当する罪とは何なのでしょうか。
それ以外にもSF的設定が含まれており、最後の最後まで分岐の鍵を握るなど設定が複雑で、台詞回しも(特に生徒のいないシーン)やたら意味深な難しい作品ではありますが、ぜひ多くの方に味わっていただきたい作品だと思います。前半で無意味にアホな言動をしていた一郎にも、やたら気さくな同僚のリャンにも、なぜか生徒と同じ制服を着ている学園長のマツリにも、大きな秘密と裏の目的があったりします。エンディングは3種類。ぜひすべての結末を見届けてあげてください。

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あとシンプルに制服が可愛いし立ち絵もきれいですしね。
ビジュアル面、そしてBGMやテーマ曲といった部分に関しても力が入っており、値段以上の価値があります。システムも快適です。オープニングテーマどこかで販売してたりしないのかな…


召喚術の授業は××な魔物と、(上)

続いては内向的ぼっちさんの召喚術の授業は××な魔物と、(上)です。
この作品は主にDLsiteおよびBoothで正式版を頒布しており、PLiCyフリーゲーム夢現では体験版相当を無料公開しているようです。また、本作は12推となっています。
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本作の物語は、主人公のyが魔術学校で初めて召喚術の実践授業を受けるところから始まります。
魔法陣を描いて魔界と"門"を繋げ、魔物を人間界へと召喚する、そんな初級の授業でyが召喚した蝶のような魔物はyの目の前で破裂してしまうのでした。
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失敗に気を落とすyは魔力の安定を意識して次の授業でもリス型の魔物の召喚を試みますが、同じように失敗してしまいます。2度も召喚に失敗し魔物を破裂させたとなると周囲からも不気味がられ疎まれるようになってしまいます。
1年間個別授業で魔力の制御を慎重に行い、魔物を安定して召喚できるようになりクラスでの召喚実習に復帰した矢先、yは自ら作った門に引きずり込まれ、亜空間へと飛ばされてしまいます。そこで出会うのがタイトル画面にいる緑色の目の魔物。彼と出会って物語は大きく動き出します。


こんな話を読んで私は、これは魔界で何とかサバイバルして人間界へ帰る魔法ファンタジーものか、あるいは異世界転生してチート魔法を習得するような流行りものに近い作品かなと思っていました。しかし読み進めるごとに私の想像はいい意味で裏切られ、意外なテーマへとつながっていく作品であると感じました。

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なんというか、魔物との異種間ロマンスのような雰囲気をまとっているのです。緑目の魔物は出会った直後からどう見ても人間界の言葉でいうツンデレ発言を繰り返します。yは自らを魔界へと引きずり込んだ魔物への警戒は怠らないものの、魔界の中に作られた亜空間でかいがいしく世話をしてくれる緑目に次第に心を許していきます。そして魔力の採取がなんか…エロいんです。直接的な行為だったりそうしたイラストが出てくるわけではなく、やっていることはあくまで人間であるyから魔力を抜き取ることなのですが(だからこそ全年齢(12推)に収まっている)、魔力の搾取がしやすくなるために用いる毒薬であったり、緑目がyに触れて何とか機嫌を取ろうとする描写であったりに色気を感じ取りました。魔物の性別が明示されない(そもそもないのかも)のでちょっと違うかもしれないんですが、BL的な面白さがあるように思います。

本作が意外だったのはその点のみではありません。人間界と魔界の自然環境の違いのみならず、生態系や魔力の性質の違いなどがストーリーに絡められていて設定がよく練られています。
しっかりと警戒心を持つyは緑目の魔界での博愛的な行動に対しても批判的な思考を忘れませんが、緑目のその行動はそのまま人間界で人間が生態系に関与することだったり人間第一の倫理観を形成することに相当するのだと思い至ったりと、いろいろな視点を提供してくれるんです。

また、文章表現と背景のリンクの仕方が独特だったりします。ここに挙げた画像のように、背景はないか抽象的なものが多いのですが、たまにシナリオに出てきた修辞に対応する画像が出てきたりしてこのような表現もあるのかと感じました。木蓮の蕾のように笑った、というシーンで蕾がビジュアル的に登場したのがなかなか印象的でした。

このように短い間にいろいろと印象を変えてくれる作品で、yは無事に人間界に帰れるのかという軸もしっかりしているため、どんどん先に読み進めていきたくなる内容でした。

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本作のシステムも独特です。
読み進めているとたびたびストーリーキーというものを入手できます。yの心境に大きな変化があった場面などで鍵のかかった扉が現れるので、そこで適切なキーを選択してやることで物語が進行するというものです。失敗しても持っているキーを自動で試してくれる時もあるのでそこまで難易度は高くないはずです。
このキー入手はいくつかの候補の中から1つ選ぶ場合があり、はずれのキーを選んでしまうとそれが必要な扉で詰んでしまうことがあります。進めなくなった場合、その扉で使えそうなキーを入手できる場面がなかったかを考え、それを取ってくる必要があるのです。

試みとしては面白く一定の効果を上げているように思えますが、私にはバグの温床となっているというデメリットの方が大きいように感じました。1章を読んでいたはずなのに扉を開けたら3章に飛んでいたりといったこともあったので、ここはぜひ解消してほしく思います。
プレイ時間はいろいろキーに迷ったりしながらで3時間程度でした。

Reverse Defenders

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最後に、LibragamesさんのReverse Defendersをご紹介しようと思います。Eight Defender'sというフリーのブラウザゲームを公開されていた方で、2020年のFlash終了に伴い旧作の公開は終了していました。2022年に続編となる本作Reverse DefendersがSteamにて公開されています。

ジャンルとしては村を襲う魔物を倒していく防衛ゲームで、魔物の通り道が固定されているタイプのものになります。道の両脇にサーヴァントを3人配置し、侵攻してくる魔物へ攻撃します。魔物を倒すと経験値とお金を得られ、これを使うことでサーヴァントをレベルアップさせることができます。

本作のシステムとして独特なものがいくつか。
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まず第一に瞑想システムでしょう。これはFlash時代から採用されていたものです。
上の画像で左上の剣を持ったサーヴァント(ファイター)以外は暗く表示されています。これは瞑想中であることを示します。wave中に瞑想ゲージを溜めると敵を倒して得られるものとは別に経験値を得ることができるのです。必要のある時だけサーヴァントを攻撃状態で配置し、戦力が余りそうだったり攻撃範囲から外れているときは瞑想させることで経験値を溜め、次以降のwaveを有利に進めることができるのです。

同じくFlash時代から引き継がれたシステムにクラスがあります。これはRPGの職業をイメージするといいでしょう。クラスごとに攻撃力や攻撃速度、攻撃範囲が異なり、それぞれに得手不得手があります。一定レベルになると上級職へと転職が可能となり、ステータスの上昇や特殊効果の習得ができるのです。初期職3、中級職6、上級職12とかなり選択肢が豊富で、それぞれに違った強みがあるのです。

そんなクラスの特色をさらに引き出すのが今回から搭載されたリバースシステムです。
配置されたサーヴァントと同じ地点に別のクラスを同時に配置して、裏表をひっくり返すようにwave中に入れ替えることができるのです。これによって敵のタイプに応じて対処が得意なクラスへ変更するなど戦略の幅が広がります。さらには各クラスにはそれが裏に存在するクラスへと特殊効果をもたらす、裏特性というものがあり、これをフルに活用することによって攻略を目指していくのです。


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また、本作は多数のステージから構成されています。ステージを攻略したり宝箱を開けたり、ボスを倒したりすることによって攻撃力などのステータスにボーナスを加算していき、より難しいステージへと挑む構成になっているのです。
このバランス調整がよくできていて、慣れないうちはクリアできなくて、ボーナスをマシマシにしてようやく突破したあのステージが、コツをつかんできたころには最低限のボーナスで倒せるようになっており、ターンを節約して攻略することが可能なのです。

行き詰まったら”次の世界線へ”進むことができます。その世界線で得たボーナスポイントを使うことでいわゆる強くてニューゲーム状態に。そうしてプレイヤーの技量とボーナスを積み重ねてラスボスへと挑むことになります。


本作は防衛ゲームにしてはwave中の操作(瞑想/復帰やリバース、ハモナイズという特殊効果の発動など)が相当忙しく、サーヴァントの配置やクラス構成、初見殺しへの対応なども複雑でかなり難しい部類に入ると思いますが、その分自分の上達を実感できますし達成感を強く感じることができるでしょう。

あとはグラフィックもFlash版より進化しています。可愛い女の子2人とマスコットキャラ(?)。それにサーヴァントの絵も棒人間だった時より進化、視認性もアップしています。
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ステージの合間にはちょっとした会話イベントが。ゲームの進行にかかわる重要なヒントの時もあればギャグ回もあり、ちょっとした人生観みたいなのが感じられる話題もあり。
その他操作性やユーザビリティの面でもよくできていると思います。前述のようにwave中も忙しいのでキー操作一つでリバースや瞑想できるのは便利。ステージのやり直しだったりクラス特性の確認、細かな表示の設定など痒い所に手が届く印象。

難しいステージに対してどう頭をひねって攻略していくかというのが主眼のためライトゲーマーにはやや厳しく、コアなゲーマー向けかと思いますがおすすめです。


というわけで5本一気に紹介してきました。
有料の作品は、本当に気軽にDLできる無料の作品と違ってある程度のクオリティを期待することになると思いますが、今日紹介した作品はジャンルは違えどどれも面白かったです。ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今回は落柿さんの「アカイロマンション ~ホラー編~」です。

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ジャンル:超常現象系ホラーノベルゲーム
プレイ時間:1週目2時間程度。エンディングコンプまでその2~3倍程度。
分岐:多数。エンディング23種
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:製品版あり


こちらはしばらく前に知った作品で、プレイする機会をうかがっていました。結局DLしてからプレイするまでにかなり時間がかかってしまいましたが、よい作品でしたのでご紹介します。


まずはあらすじを簡単にご説明しましょう。

大学4年生の良(名前変更可)は夢の一人暮らしのために学生寮から格安マンション「赤石マンション」へと引っ越すことになった。周辺の家賃相場に比べてあまりに安い理由が気になる良だったが、その理由は引っ越し初日から思い知らされることとなる。住人の自治を重視するというオーナーの意向の元で1000回以上も続いているという住民会議。それに参加する癖の強すぎる住民たち。そして15年前にあったという連続殺人事件の現場の一つであったというこの土地。
そんな中で起きる不可解な事件。殺人鬼がうろつくマンションに閉じ込められてしまった良たちは15年前の事件の被害者の呪いを解いて生還することができるのでしょうか……

こんな感じでしょうか。

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さて、本作の特徴の一つとして、ストーリー中の選択肢がかなり多めという事が挙げられるでしょう。
当然ですが物語前半のうちは真相につながる手がかりをほとんど持っていません。その中で呪いや犯人の目星をつけ、ほかの住人と一緒に対処法を考えていく、といったホラー・サスペンス的な展開を盛り上げるのに一役買っているといえるでしょう。

また、このマンションの住人は新しく引っ越してきた良を含めて7人います。上述したようにこのマンションにおける意思決定は「住民投票」により行われます。呪いへの対処をどうするのか、根本原因の解明のための調査法は?など様々な議題が持ち上がり、その多くは実際にプレイヤーが投票内容を選択することによって進行していくのです。
住人達(+良の友人の春奈)の合計8人(途中で被害者がでて数人脱落しますが…)というやや多めの登場人物の数とマッチしたシステムになっており、臨場感のある展開を作り出すことに成功していると感じます。
臨場感を演出するという点でみると、本作で登場人物に立ち絵がないのもプラスに働いているでしょう。「1999ChristmasEve」のレビューで指摘したのと近いですね(ジャンルも似てるし)。


そんな本作はプレイヤーの選択によって合計23ものエンディングに分岐します。そのうち19はバッドエンド(ほとんど主人公の死亡や住人の全滅です)、残り4つが生存エンドになっています。それぞれの選択肢は、直後の展開が変わるだけのダミー選択肢や間違うと即分岐系のバッドエンド分岐もあれば、終盤になって初めて選択が効いてくるもの、中盤以降の捜査の展開が大きく変わるものなどさまざまあり、全体の構造をつかむには何周もする必要があると思います。

これらのエンディングを何個も見ていくうちに事件の背景だったり呪いの正体や手がかりを得ていくことになり、真実のパズルがはまっていくような気持ちよさを味わえるシステムになっていると思います。
逆に言うと一つの生還エンドを見ただけで事件の全体像が把握できるような構造にはなっていないため、ここが弱点にもなりうるシナリオだと思いました。
私は運よく(?)1回即分岐バッドエンドを踏んだ以外は一発でEND23(呪いを鎮めて事件が解決するエンディング)までたどり着いたのですが、やけにあっさりと解決してしまったような印象を受けました。その後ほかのエンディングを回収する中で、あの時他の人物が何をしていたのかとか、過去の事件についての情報とかを知っていくこととなり、そこで初めて知るようなことも多くそこがちょっと微妙かなと感じました。1周目にルート制限があり、ある程度特定のエンディングを見ていくと真実への道が開ける、というタイプの分岐システムがあると最高だったかなという気がします。あるいは1周目でも到達は可能だがフラグが厳しくて、初見でたまたまたどり着くことがないようにするとか。
真相が明らかになるエンディングは全体の構造が見えてくると、後味もよくしっかりと謎が解決しているものだったのでややもったいないと思ってしまいました。

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本作のBGMはピアノ曲中心に構成されており、ホラーっぽさを醸し出しながら聞いていて不快にはならない感じでちょうどよかったと思います。長編作品でBGMがずっと不穏、というのは意外と疲れるのでこの調整は絶妙だったのではないでしょうか。
演出面でいうと写真背景なのもよかったと思います。マンションという我々にもなじみのある舞台でのホラーなのでプレイしながらどれだけ現場の状況を想像しながら読み進められるか、というのは物語への没入感を左右する重要な要素だと思うので、具体的な背景写真が使われている本作はその点でも成功しているかなと思います。
ただ写真の種類はそれほど多くなく、マンションの構造が分かるようなものがなかったため、どこかで建物全体の地図などを見せてほしかったとは感じました。
この人たちが飲み会してる駐輪場ってどこにあるんだろう?扉が開かなくて外に出られないといってるんだから建物の中なのは分かる、だけど中で花見なんてするか? 中庭みたいなのがあるとしてそこから移動できる範囲ってどのへんなのか想像つかない…あと駐輪場って中庭とは別の場所にあるの? みたいな感じで解決できない疑問を保留にしながら読み進めないといけないのはややしんどい



ホラー的演出については、起動時に強めに警告されますが突然怖い画像が表示されたり大きな音が鳴ったりという事もなくテキストだけ(あと若干の血しぶき)で進むのでよほどホラーが苦手でないなら大丈夫かなと思います。
わらべうたをモチーフにした呪いの電話とか、子供の霊や殺人鬼といった不気味さを演出する要素はそこかしこに散りばめられており、こうした要素から想像して恐怖を感じていたい、というタイプのホラー好きの方にピッタリでしょう。

あとシステム面に関してはやや不満ありです。セーブ&ロード、スキップにバックログなど最小限のシステムはきちんと用意されているのですが(特にバックログでさかのぼれる範囲が広いのはありがたい)、動作の安定性が低いです。プレイ中にフリーズすることが何度か。そのためこまめなセーブを挟んでプレイすることをお勧めします。選択肢の数も多いですしセーブスロットも豊富ですからこまめにセーブして損はありません。
タイトル画面から行けるエンディングリスト画面も謎です。スチル一覧画面のようなレイアウトで各エンディング画面が見られるのですが特に絵があったりするわけでもなく文字だけ。クリックするとその画面を拡大して見られるのですが特に文字を拡大してもうれしいことはなく、クリックできるなら分岐確定後のシーンにジャンプするような機能を期待するのでなんだこれは、と思ってしまいました。


さて、そんな本作ですがタイトルに「ホラー編」とついている通りシリーズとなっています(単独でも完結しています)。「アカイロマンション完全版」が有料にて販売中です。無料の体験版もノベコレ版よりエンディングが増えているようです。私は完全版購入済みですがまだプレイできていません…。エンディング数もプレイ時間も倍増しているようで楽しみです。


難点の指摘も長くなりましたが、適度な緊張感をもってどんどん先へ先へと楽しく読み進められた作品であることは間違いないので是非プレイしてみてください。
複数ある生還エンドでそれぞれ後味が違いながらも納得感と爽快感があるホラーは結構貴重だと思いますよ。

それでは。

こんにちは。今回はポロンテスタさんの「道徳ビデオ」のレビューをしていきたいと思います。

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★favo
ジャンル:いじめを描いた群像劇鬱ノベル
プレイ時間:45分
分岐:1か所
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/7
備考:製品版あり


ポロンテスタさんと言えば、私は「ポルノ地獄・完全版」(18禁)をプレイしたことがあり、ブラックな世界観の中にも良心をのぞかせるような独特な作風が印象に残っていました。そして最近になって本作「道徳ビデオ」が公開されました。色々な所で好意的な評価を見ますし私も気になってプレイしてみたところ、非常に印象的な作品でしたのでご紹介したいと思います。刺激的な内容を含みますが全年齢対象の作品となります。


作品ページの紹介などでも明らかにされていますが、本作は「いじめ更生委員会」が制作するいじめ防止のための教材「道徳ビデオ」に関する内容で、既にお分かりかと思いますがかなりブラックな要素を含みます。しかし単に風刺的だったり皮肉的だったりするだけでなく、読み終えてすっきりするような、いじめのはびこる社会はろくでもないけど、それでも希望だってあるんだという気持ちにさせてくれる作品ですので、ぜひ抵抗感を持たずにプレイしてみてください。


本作は主要な登場人物3人の視点が交互に入れ替わるようにして進行していきます。
まず最初に登場するのが「いじめ更生委員会」から教材用のビデオ、「道徳ビデオ」を作成するために星の砂小学校に派遣された潮見ヒヨリです。6年2組の児童に出演してもらってビデオの撮影を行います。クラスでの説明の時には表向きの理由を明るく説明し、子供たちにも受け入れられているようですが、彼女にはビデオを作る真の理由があることが序盤早々に明かされます。一体その目的とは何なのでしょうか。


続いて舞台は唐突に8年後の現在へ。ビデオにはいじめっ子役で出演した黒瀧ナギトがヒヨリに連絡してくる場面から始まります。彼が言うには、いじめられっ子役の成海ミナミを殺してしまったというのです。いったい道徳ビデオの撮影現場で何があったのか。親友であったはずの彼ら二人がその後8年間かけても修復できないほどに関係が歪んでしまったのはなぜか。ヒヨリはそれを聞いてどうするのか。
彼らに幸せな未来はあるのでしょうか……

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さて、本来は教材撮影のための演技であったはずのいじめですが、実際のところ演技の範囲を超えてエスカレートし、いじめられっ子役であったミナミに深い傷を残したということは容易に想像できると思います。ナギトがミナミに対してわざと聞こえるように悪口を言う。台本にあるものだとしても気持ちよいことではないでしょうし、次第にナギトはアドリブと称して台本にない悪口をぶつけていくようになります。

日本語には言霊(ことだま)という言葉があります。手元で明鏡国語辞典を引くと、「古代日本で、ことばに宿ると信じられていた神秘的な霊力。」とあります。本当に魔法のような力があるわけではありませんが、本気ではないはずの言葉がいつの間にか本当にそう思うようになっていた、というような力が言葉には込められていると思うのです。おそらく無意識のうちに影響を受けているのでしょう。自分で発さなくても、繰り返し告知を見せたり聞かせたりといった宣伝に効果があるのはまさにその効果の応用でしょうし、逆にある対象に対してネガティブな発言を聞いているだけでいつの間にか自分も嫌いになっていたりします。怖いものです。

道徳ビデオの撮影においては、最初は演技であったはずの台詞が無意識下においても作用し、ミナミをいじめる方向に傾いてしまったのでしょう。台本にない悪口を、カメラが回っていないところでも、……こうしてエスカレートしていくわけです。

こうしていじめは苛烈を極めただろうことは容易に読み取れるのですが、本作の中では具体的ないじめ行為は悪口を言う以上の内容は一切描かれません。これは本作をゲームとしての娯楽作品として成立させるために計算して設定した限界だったのではないでしょうか。
ニュースで報道されるようないじめ事件で起こっていたこととか、暴力事件とか、具体的な行為を描こうとしたらもっとずっと細かく、鮮明に、ショッキングな内容を込められたはずです。しかしそうするともはや本作自体が”教材”、あるいはドキュメンタリーになってしまうんですよ。
誰もが目をそむけたくなるようないじめを描いて、いじめは良くないことであると伝える。そういう(ゲーム以外を含めた)作品は多くありますし、フリーゲームでもいくつか知っています。しかし本作がそうした作品と一線を画していると感じるのは、あえて具体的で過激な行為の描写を排したことで娯楽作品としての魅力を保ったことだと思うのです。過激な内容はあえてプレイヤーに想像させるにとどめ(本当にありありと想像されるんですよ、作内で描かれるよりもずっとひどい行為があったと)、説教臭いと感じさせることなくこの重いテーマを描き切り、幸せになれる選択肢を提示してくれたこの作品の価値は大きなものであると感じています。


さて、道徳ビデオの撮影中、ナギトが不必要に辛らつな言葉を吐くたび、最初のうちは担任のリン先生はきちんとたしなめていましたし、ヒヨリはミナミへの精神的フォローをしっかりと行っていました。良識ある大人が目を光らせ、厳格に演技の内容を監督した場合はあそこまでの事態にはならなかったでしょう。途中からミナミへのフォローがおろそかになってしまった理由は、本作の最終章で語られます。

ヒヨリが「道徳ビデオ」を作ろうとしたきっかけは、かつて自分をいじめたものに対する見せしめ・復讐のためでした。彼らに合法的にダメージを与えるために。あるいは裏でこっそりと手を回すための布石として。そんな打算的な目的で道徳ビデオ事業に乗り出したヒヨリでしたが、打算的であるがゆえに理性的でもありました。撮影の最中に出演児童へのカウンセリングを怠り、精神的ダメージを与えたりして最悪撮影が完遂できなかったら元も子もありません。
しかしヒヨリから復讐の執念を解消してくれた人物がいました。リン先生です。リン先生の行為は非難されるようなことではないし、むしろ良き先生でしょう。ところがそれゆえにヒヨリが道徳ビデオへ注力するのを妨げてしまったのです。復讐にしか生きがいを見出せなかったヒヨリに、別の生産的な生きる理由を与えてくれたリン先生。「今が幸せだから過去を許せる」という意味の台詞が出てきますが、これは本当にそうだと思います。余裕がある人なら別に復讐に執着しなくても良いはずです。いじめに限らず、例えば犯罪被害者(の遺族など)だったり、あるいは社会に対して一方的に逆恨みしている人でさえ、人並みの幸せを得られれば怒りの矛を収められるという人は多いと思います。福祉の役割とはこういうところにもあるのだなあと思わされます。

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道徳ビデオ撮影時の事件をきっかけに、それまで親友であったはずのナギトとミナミの間には決定的な溝が生じ、8年後に至っても解消されない歪みが起きています。いじめっ子役であったナギトは当時の申し訳なさから、もう何年もほとんどミナミの言いなりになっています。ここで大事なことは、「事件の後罪悪感から何年も相手の要求を断れずに言いなりになる程度には良心のある人物でさえ、演技のはずのいじめがエスカレートしていった」という事実です。報道されるようないじめ事件を耳にすると、なんと酷いやつだ、あいつらには人の心ってものがないんだ、と感じます。しかしそれが事実かどうかは分からないんですよね。
撮影開始前にはナギトはいじめなんて当然いけないし自分がすることもあり得ないと思っていました。実際、ちょっと言葉遣いは悪いですがミナミとは確かな信頼関係が築かれています(あの遊びはちょっと歪んでるとは思うけど…)。しかし、平常心を持っていればいじめなど行わなかったであろう人物も、”演技”という大義名分を得てストッパーが外れた結果事件を起こします。環境さえ整えば善良な市民でも凶悪な行動に至ることがあるのだから、いじめや犯罪は潜在的な犯罪者に機会を与えないことによって未然に防ぐことが大切。この考え方は犯罪機会論と呼ばれるらしいです。

本作において、単純になにを考えているのか分からない悪人が問題を引き起こすのではなく、各人物が自分の行動原理に基づいて行動した結果、悲劇的な結果を引き起こしてしまいます。物語を進めるための壁や障害、悪人が単なる舞台装置としてでなく、生きたキャラクターであるために同情的な感情も想起させ、より物語へ引き込む力となっているのですよね。ずっと前に「まい、ルーム」のレビューでも指摘したことですが、この点は私が物語を読むにあたって重点を置くポイントのようです。


本作のエンディングは2つ。選択肢は1か所です。どちらが幸せな未来へと繋がっているかは一目瞭然でしょう。正解の選択肢を選べば、どん底であったナギトへ一筋の光が差し込みます。8年後の未来にどうなっているか。エンディングタイトルを含めて素晴らしい内容だと思います。
1つだけ気になるのは、独特な絵柄から人物の年齢が読み取りにくいことでしょうか。本作の時間軸は頻繁に8年前と現在を切り替えており、登場人物の年齢層も小学生と先生ということで離れています。しかし大きく表示される立ち絵から時間の経過や人物の世代差が読み取りにくいんですよね。”ヒヨリお姉さん”のお姉さんらしさをアピールする一つの手段になると思うのでちょっともったいない気がしました。
しかし1人のキャラクターとみれば可愛らしいですし、タイトル画面のグラフィックなどもダークな世界観を表現しているようでいいと思います。


と、このように1時間未満で様々なところまで思いをはせることのできる作品でした。
この重いテーマをしっかりと最後まで描き切り、かつ希望を感じさせるエンディングが気持ちいい類まれなる作品だと思います。この手の作品にありがちなご都合主義も私は感じませんでした。ぜひプレイしてみてください。


それでは。

(2024/8/25追記:コミックマーケット103にて本作の製品版(15禁)が発表されました。パッケージ版はBOOTH、ダウンロード版はDLsiteなどで購入可能になっています(私はコミックマーケット104で購入しました)。本編はフリー版と同じですが各登場人物の掘り下げエピソードが計5話収録されておりそれだけで本編に近いボリュームがあります。
追加エピソードの内容ですが……かなりエグいです。私の印象に残っているのはナナミ編。いじめる側って本当に軽く考えているし自分の行いもすぐ忘れる、それに対してやられた側の負う傷は深く恨みは長い、この非対称性を感じさせる胸糞エピソードですね。他のエピソードも本編よりさらに人の醜い側面を強調した性格となっており、本編の雰囲気を気に入った人向けの内容と言えるでしょう。
追加エピソードの中で最後のミナミ編は唯一本編のTRUE ENDへつながるお話です。あんなにねちっこく復讐して口も悪かったミナミが、ナギトと距離を置いて生活をするようになってどう変化していったのかが如実に表れています。本編で最後に名前だけ登場した女の子のチカちゃんが及ぼした影響も大きかったようです。本編と同じくとんでもなく陰湿だった物語をこう希望の光に包んでエンディングへ向かうのか、と感じさせられるエピソードでした。……と思っていたら最後の最後!!なんとも油断ならない作者さんです。より濃さを求める方はぜひ購入を検討してみてください)

こんにちは。今回のレビューはルピナスパレットさんの「インビジブル」です。

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オススメ!
ジャンル:現代異能ファンタジーノベルゲーム(ReadMeより引用)
プレイ時間:10時間
分岐:エンディング2種、その他GAME OVERあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2021/8
備考:製品版あり


本作は割と有名な作品かと思うのですが、長大なプレイ時間とあまり私の趣味ではないジャンルを見てなかなか手が出せなかった作品になります。しかし今週プレイしてみたところ本当によくできていて、10時間があっという間と思えるような作品でしたので、ぜひ今回ご紹介しようと思ってレビューを書くことにしました。

いつも通り本作のあらすじを説明しましょう。

初花市では奇妙な都市伝説が広く言い伝えられています。地下鉄の初花駅から環状線を一周すると自分のドッペルゲンガーに出会うことができ、そのドッペルゲンガーを殺すと願いが叶うという、なんとも気味が悪いお話です。さらにはその都市伝説を実行した人が次々と行方不明になっているというのです。
主人公の如月(きさらぎ)つぐみはそんな初花市のとある喫茶店で記憶喪失の状態で目を覚まします。店を出て当てもなくさまよっていると、突然謎の深い霧に飲み込まれ、その中で謎の化け物が少女を襲っているのを発見します。偶然居合わせた朝岡蓮(あさおか・れん)と一緒に何とかその少女、白崎茉莉花(しらさき・まりか)を救出することに成功します。自分の正体も、謎の霧で襲ってきた化け物の正体も分からない3人は、自称オカルト研究家の坂倉出(さかくら・いづる)に助けを求めます。坂倉の言うことには、都市伝説を実行した人間は”インビジブル”と呼ばれる異能を習得し、さらにはその研究のために設立された組織”アンノウン”が存在するというのです。
果たして都市伝説は本当なのか、なぜ黒い霧が襲ってくるのか、つぐみの記憶は戻るのか。いくつもの謎を解決するため、3人はアンノウンの本部へと向かうのだった…

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本作はプレイ時間にして10時間ほどとかなり長い作品ですので、上の説明でも物語の冒頭1割くらいの内容になります。長編作品の難しいところの1つとして、読者を飽きさせないような展開、上手く引き付けておくための情報開示の仕方といったところがあると思います。本作はこれらの点において非常に上手く作られていると思うんですよね。




全6章+プロローグ・エピローグという構成を持つ本作ですが、最初に生まれた直接的な危険である黒い霧の能力に関しては物語半ばの3章でいったんの解決を見ます。しかしそのころには別の謎がつぐみたちとプレイヤーを悩ませており、全く飽きるポイントがないんですよね。異能の正体、黒霧を操っていた黒幕の正体、つぐみの記憶にアンノウンの目的など様々な謎が提示され、そして絡まり合いながら最後に解決していくさまはお見事というほかありません。

この情報や謎の提示の仕方、それを適度に引っ張りながら順に解決していく物語の組み立てのうまさは、古典的名作である「ひとかた」を連想させます。本作にはループ要素はないわけですが、異能ファンタジーも妖怪と戦う伝奇物語というジャンルと似ているかもしれませんね。


本作では5章までですべての謎につながる情報は開示され、5章後半からは解決編といった流れになります。私は、異能とはどのようにして得られるのか、都市伝説を実行した結果何が起きたのかについては
解決編前に察することができて大変気持ち良かったのですが、それは本作がうまく読者への情報提供と誘導を行っていたからでしょう。


そして最終章ではラスボスとの対決が待っています。アクションシーンの描き方も一級品です。
ノベルゲームというのはやはりどうしても動きのあるシーンの迫力を演出するのが難しいと思うのですが、本作は文字だけで緊張感のある戦闘シーンを描くことに成功していると感じます。なぜか。それを考えたときに思い当たったのは、私の本作への感情移入度の高さでした。
本作では解決編に至るまでの間、異能に関する謎解きと並行してキャラクターの掘り下げが巧みに行われています。美弥子の怒りも、霧島の性格も、蓮の意地も、篠塚の思いも、すべてを理解して突入したラスボス戦だからこそプレイヤーもつぐみたちを全力で応援できるんですよね。迫力のある動画コンテンツなどなくても、私の登場人物への思いが想像をかき立ててくれます。戦闘中に相手を挑発したり、心理描写に文字数を割いたりといった表現の仕方もプレイヤーに緊張感と想像力を与える助けになっているでしょう。さらにそれ自体がラスボスを倒す切り札への布石になっているのだから大したものです。



さて、その登場人物の掘り下げがどのように行われているかです。
都市伝説に関わる謎がメインテーマであることは間違いない本作ですが、その謎を解いていくには構造上登場人物たちの悩みであったり、心の傷であったりといったものを明らかにし、それを乗り越えていかなくてはならないという仕掛けが組み込まれています。
ドッペルゲンガーを殺して手に入る異能は個人ごとに異なります。ところがその異能はランダムに付与されるわけではなく、都市伝説を実行した張本人が抱えている悩みやトラウマが反映されたものになりやすいというのです。ということは必然的に、異能に関する秘密を明らかにしていくには能力者自身の過去や精神状態に迫っていく必要が生じる。このように本筋に絡めながら各キャラクターの背景を描き、成長していく姿を見せるという手法にはなるほどと思わされました。
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例えば、初めて会った時からなんだかんだでそりが合わず、口喧嘩の絶えなかった蓮と茉莉花の2人は2章でついに茉莉花の一言で完全に決裂してしまいます。茉莉花には何も考えていないクルクル扱いされていた蓮ですが、彼は彼なりに弟との関係について深く悩んでいたのです。
そのように迷いを抱えた中で、そして仲間との信頼関係がまだ出来上がっていない中で1章で現れた黒い霧は再び襲ってきます。目の前に迫った危機に対し、不器用ながらも仲間を信じることを覚え、何とか危機を脱して一皮むけたように成長した彼らを見ていくのは何とも気持ちいいものです。

3章に入ったころには、蓮も茉莉花もしっかりと相手に向き合うことができるようになっています。茉莉花に至っては、自分が自信を持つようになれたのはつぐみのおかげであるとはっきり伝えられるようになりました。このような、思春期らしい悩みを乗り越えて成長していく青春物語を私は予期していなかったため、意外に思いながらも楽しく読み進めていくことができました。



さて、本作ではラスボス戦以外にも途中で何回か戦闘シーンが挟まります。どれも緊張感のある展開で、それぞれいくつかの選択肢が出現します。間違えるとゲームオーバーになる箇所もありますが、多くはそれまでの展開をきっちり覚えていれば正解できるものになっています。
そして選択肢はラスボスを倒した後の最後にも。明らかに分岐すると分かる重要な選択肢です。ぜひ2つの結末を両方見届けてあげましょう。



BGMはおそらく自作で、場面の雰囲気に合ったものが選定されている印象です。音程の無い不気味な感じの曲が好きでしたがどのシーンで使われてたのか思い出せない…
グラフィックも、衣装差分も含めて多くのキャラクターが登場してすごいなあと思わされるところです。あと純粋に可愛らしいですしね。私も蓮と律のほっぺを引っ張ってみたいししーちゃんに冷たい目を向けられてみたい(笑)
スチル閲覧モードが切実に欲しいところです。
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最後に製品版の紹介を少しだけしておきましょう。
パートボイス仕様だったフリー版をフルボイスにし、追加シナリオが読めるようになったバージョン、「インビジブル 蒼のフラグメント」が公開中です。私はまだプロローグまでしかプレイしていないので細かいことは分かりませんが、幕間シナリオやギャラリーも解放されているようなので、ゆっくりと楽しみにしておきたいと思います。一部テキストの修正やUI配置等の改善も入っているようですね。


フリー版でも十分きれいに完結した物語が楽しめますので、ぜひプレイしてみてください。そして都市伝説の秘密を解き明かしましょう。
全部プレイするにはかなりの時間がかかりますが、それに見合った満足感が得られるはずです。

それでは。

こんにちは。今回はCynical Honeyさんの「終わりの鐘が鳴る前に Chapter.1」をご紹介しようと思います。

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※期間限定無料作品
ジャンル:学園ラブコメ
プレイ時間:4時間(ボイスを全て聞くともっと長いと思います)
分岐:基本1本道
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2022/2
備考:Chapter.2公開以降有料化。今年夏予定
(9/10追記:現在本作品の無料公開は終了しています。Chapter.2の販売も開始しています)


昨年の冬に私がTwitterを見ようとしたとき、本作の作者であるCynical Honeyさんのアカウントからフォローされていることに気付きました。プロフィールを確認したところ、公開中というノベルゲーム(本作)が面白そうだったのでとりあえずDLしてプレイしたところ、かなり面白い作品でした。普段だったらレビューを書くかなというところだったのですが、私がこれまで書いてこなかったのは本作が純粋なフリーゲームではないからです。
というのも本作は昨年の2月にChapter.1が公開され、その時から現在までノベコレふりーむBooth等で無料で配布されていますが、Chapter.2の公開と同時に(Chapter.1含め)有料化されることが宣言されていたからです。

一応本ブログではフリーゲームを専門に扱っているので(一部有料のものもありますが、それらもフリー版で十分完結まで楽しめるもののみです)、本作を取り上げることにややためらいがありました。しかし先日Twitterのフォロワーに需要がありそうなことが分かったので、今回こうしてレビューを書くことにしました。普段のフリーゲームに比べるとやや厳しめの評価になっているかとは思いますが、大変いい作品ですのでぜひプレイしてみてください。



さて、本作のあらすじを説明しましょう。
主人公の長谷部涼平は高校2年生。友人の日高進や戸松香澄らと楽しい高校生活を送っています。
しかしある日、涼平の前に死神を自称する少女モトが現れ、同級生の菅野雪乃に年内に心から幸せを感じさせなければ涼平は死ぬと無理難題を押し付けられます。
途方に暮れる涼平は偶然にも雪乃が日高に恋心を抱いているのを知り、条件達成のチャンスと見て雪乃の恋愛をサポートすることを思いつきます。しかし校内で男勝りでワイルドと評判の彼女は恋愛に疎いようでその道は苦難の連続です。さらには何と肝心の日高が実は香澄のことが好きであることも発覚し、涼平は2人の板挟みになりながらもなんとか雪乃が幸せになれるようサポートします。
果たして雪乃の恋は実るのか、幸せにすることはできるのか。そして幸せとは何なのか。文字通り涼平の生死をかけた4か月間が始まる…


とまあこんな感じでしょう。
つまるところ本作は、「雪乃の恋路を応援する」というお話になります。ラブコメによくある展開で、他人の恋愛を応援するというと最近完結したことで話題の「その恋、保留シリーズ」が思い浮かびますね。あの作品では恋愛を応援する理由はお節介によるものが大きかったですが、本作においては恋愛の成否が文字通り生死に関わるという明確な理由があり、物語をよりシリアスな方向にしていると言えるでしょう。

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この無理難題を仕掛けてくるモトはかなり変わった人物(人ですらない?)です。常時涼平の行動を監視しているようで、たまに姿を現しては涼平に話しかけてきます。淡々とした口調でありながら条件達成について厳しく問い詰めてきます。幸せを感じさせるのは一時的でもいいのだから、自分の生死がかかっているのに常に誠実であろうとするのは非効率ではないか。そんな風にささやき涼平をいらだたせる様は死神というより悪魔のようです。

しかしやはりモトがいるからこそ本作の物語は成立しているんですよね。涼平の行動の理由はモトの存在があってこそですし、2人の対話から誠実であろうとする涼平の人柄も見えてきます。
こうしたシリアスめな青春物語というものは、登場人物の関係性であるとか性格であるとか、行動原理などが描けたうえで魅力的になるものだと思うのですが、本作はそのあたりの描写がしっかりしていて面白く感じられるのです。


ちなみに本作はシリアス一辺倒ではなく、時々漫画やアニメのネタが出てきたりといったギャグポイントもあります。
プロローグの時点でもすでにデスノートや北斗の拳と分かる台詞があったりして、相当な密度で組み込まれています。あまり詳しくない私でもたびたび出てくるなと感じたくらいなので、知っている方が見たら本当に多くのネタを拾えるんじゃないでしょうか。

あとは同級生の平野亜希による涼平の毒舌いじりなんかもギャグに分類されるでしょうか。ただあれは私にはちょっとやりすぎに感じました。流石にあそこまでの性格ならば何らかの理由付けとか説明が必要なんじゃないでしょうか。小学生の妹にもひどいことを言わせてますし…。

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さて、いったん本作のシナリオから離れてみます。
するとやはり目に付くのは、タイトル画面などからも分かるイラストの綺麗さです。ここに描かれたキャラクター以外にも多数の人物が登場する本作ですが、みな可愛らしくきれいに描かれていて製作者の気合を感じます。
イラスト面において私が特に良いなと感じたのは背景です。学校、自宅、喫茶店に遊園地といくつもの場所が登場しますが、それぞれ本作の立ち絵に合ったテイストで描かれていてとても綺麗。教室の画像なんかはモブの人物まで書き込まれていたりします。これは私が今までプレイしてきた作品の中でも珍しいんじゃないかと感じました。

また、本作では主人公以外の台詞にはすべて声が付いています。みなさん演技もうまいですし、普通のフリーの作品の範囲を超えているなあと思わされます。
そのキャラクターごとのボイス音量調整などシステム面においても機能は整っています。ただしメニュー画面の呼び出しが遅いのはストレスを感じるポイントでした。私の環境(OS: Win10Home 22H2, CPU: AMD Ryzen 7 4700U, メモリ: 16GB)ではメニュー呼び出しに平均6秒以上かかっています。特にクイックセーブ以外の通常セーブはメニューを経由しなければならないのでさすがにしんどかったです。メニュー呼び出しに時間がかかるなら、通常のメッセージウィンドウから直接セーブ/ロードできるだけでかなり違ったでしょう。欲を言えばセーブスロットも現状の6よりは多い方が良いかなと思います。
このあたりはChapter.2以降でUIの刷新も計画されているようですし今後に期待といったところでしょう。


さて、話は本作のシナリオに戻ります。
私が本作を気持ちよくプレイできた理由の一つとして、1つ1つのシーンが全体のストーリーに活きていて、キャラクターの心情や関係性を掴みやすかったというのがあるでしょう。
例えば本作の中盤くらいで涼平が雪乃を傷つけてしまうシーンがあります。事情を知っている私(プレイヤー)の目から見ればある程度仕方のないことでしたが、雪乃から見たらショックでしょう。涼平としては当然雪乃との関係を修復していかなくてはならないのですが、その時にきちんと過去の出来事などが前提としてあって、だからこそ雪乃と仲直りできたんだなと感じられる展開になっています。詳細は述べませんが、お悩みボックスに関する話とか、(雪乃の友人である)悠木さんとの信頼とか。そのあたりのことが意味を持ってくる分読んでいて気持ちがいいし、話にご都合主義というか作為的なものを感じないのです。
このように物語が1つの線につながり、因果もはっきりすることで人物の心の揺れ動きがより鮮明に見えてくるのでしょう。

これは物語冒頭のモノローグの部分もそうです。意味深な語り出しから始まる物語は多いですが、本作では冒頭で語られた「人は大切なものを失うことに怯える」というような内容の言葉の意味するところを涼平はしっかりと痛感させられます。やはり丁寧に作られた作品だなと思いました。
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ストーリー自体の話とはちょっと違いますが、本作の文章表現もなかなか面白いでしょう。ちょっとした比喩表現などが多用され、情景を思い描きやすくなっています。私が好きなのは、「バイブ機能が付いた携帯電話みたいに、菅野は小刻みに震えだした。」などでしょうか。

しかし文章表現は本作において気になった点の1つでもありました。やたらと複雑だったり、一文が非常に長かったり、前提が省略されていたりといった場面がしばしばみられます。
例えば、雪乃が涼平に対して何らかの手助けを申し出た場面の「彼女自身からしてみればフェアではないが、どちらかというと俺からしてみれば利用している形になっているので、後ろめたさもあった。」は「(涼平が見返りなしで雪乃の手助けをするという状況は)彼女自身からしてみればフェアではないが、(実は死神の条件達成のためにむしろ涼平が雪乃を)利用している形になっているので、(涼平は)後ろめたさもあった。」などと主語を補完しないといけない箇所が大分多いように感じます。おそらく読点の前後で主語が変わっているのに両方とも省略されているからややこしく感じるのでしょう。

また、誤字・誤変換・助詞の間違いなどが非常に多いです。文章が複雑な件と合わさり、意味の理解に時間がかかる文がたびたび出てきてゲーム体験を阻害していると言えるでしょう。


ちょっと厳しめの意見が続きましたが、印象的なセリフなどもあって文章も全体的には上手いのも確かです。「私の友達のためにあんなに怒ってくれてありがとう」とか、意外なところでスッといい台詞が出てくる印象があるんですよね。



そんな本作は雪乃が遊園地で日高に告白してクライマックスを迎えます。涼平は当事者ではないのでまさにそのシーンが描かれることはないのですが、私までドキドキしてしまうような描写にびっくりです。周囲の人の状況や台詞の描写だけであれだけ印象的なシーンになるんだなというのが驚きでした。

そしてその後、雪乃はどうするのか。Chapter.2に期待といった展開になっています。
雪乃の件だけでなく、涼平の過去についてなども意図的に隠された情報があるのでそれも合わせて楽しみにしておきましょう。沢城先生がなぜ涼平の進路にうるさいのか。涼平自身が恋愛をする気にならないというのはどういうことか。今後明らかになっていくのでしょう。



繰り返しますが本作の無償提供は期間限定なので興味のある方はお早目のプレイをお勧めします。
にぎやかだけどどこか切ない青春物語を楽しみたい方に。これが無料でプレイできるのか、と驚くこと間違いなしです。そしてChapter.2の公開を楽しみにしましょう。

それでは。

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