フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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田舎

こんにちは。今回はTwitterでもツイートしました(と書いているうちにXとかいう識別性の低すぎる名前になってしまった)、「未来エイゴウ昔のことは」とその元となった「七月革命」をまとめてご紹介しようと思います。

どちらもこのブログでは最多タイの3度目の登場となる晴好雨奇一丁目(静本はる)さんの作品で、「七月革命」は2014年公開です。その後2016年に前日談として「未来エイゴウ昔のことは」が公開されたということですが、当時私はそれを知らず、私が晴好雨奇一丁目さんを知った時にはすでに非公開となっていました。今回それが再公開となったのでプレイしてみたところ、とても良かったのでレビューを書いていこうと思います。


まずは「七月革命」です。
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ジャンル:掌編学園コメディ
プレイ時間:5分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2014/7

こちらは夏らしく爽やかな短編コメディです。同じ作者さんの「MY HOBBY IS 短編版」も以前レビューした作品で短編のコメディでしたが、本作はあれほどぶっ飛んだギャグなどは出てきません。

教室にエアコンが付いていないことに業を煮やしたミライ川(すごい名前)は、ムカシ田に向かって革命を起こすと宣言。いつの間にか大量の同志を引き連れて職員室へと直訴に向かいます。
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こうやって書いてしまうと話の筋は本当にシンプルなんですが、この作者さんのすごいところは演出法ですね。その他の作品でもそうだったのですが、とにかく軽快に見せる手腕に優れていて、革命を起こそうと燃えるミライ川のエネルギーやそれと対比して冷静なムカシ田の様子が非常に際立っています。
大勢の生徒を引き連れたカットインなどもミライ川の動きとともに右へ左へ動き回ります。こうした見た目の楽しさとお約束のようなギャグがぴったりとかみ合って、笑える作品となっています。
タイトル画面やメッセージウィンドウ右下で回転する扇風機の羽も涼しげでいい感じ。
冷めた目で見ているようなムカシ田も、完全に見捨てているわけじゃなくて最後にちゃんとフォローしてあげる関係性なのも爽やか。



続いて「未来エイゴウ昔のことは」です。
(9/10追記:現在本作品は再度非公開となっています)

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ジャンル:ノスタルジック短編青春物語
プレイ時間:20分
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:初公開2016/8、一時非公開後2023/7に再公開


こちらが今週再公開された作品で、私が今回の記事を書くきっかけにもなりました。
主な登場人物は七月革命で出てきたミライ川とムカシ田。それにミライ川のおばあちゃんです。

ミライ川の快活なキャラクターは変わらないのでこちらもコメディなのかと思いきや、本作はノスタルジックでしんみりとした展開が多く含まれています。舞台は2年さかのぼって2人が高校1年の夏休み。

七月革命では全く出てきませんでしたが、ムカシ田は実は野鳥の観察が趣味。オミルリという珍しい青い鳥がミライ川のおばあちゃんの家の近くにいるということで、ミライ川に半ば無理やりおばあちゃんの家に連れてこられます。
北の山にきれいなオミルリがたくさんいると聞いて必死に探すムカシ田。案内をしつつ自分の興味の赴くままに山で遊ぶミライ川。当時はほぼ交友の無かったはずの2人がどのようにしてお互いを理解し、七月革命の時のような確かな信頼を得ていったのかが分かるような描写がうまい。
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そして本作においてもう一人登場する重要な人物がミライ川のおばあちゃんです。
両親不在のミライ川にとっておばあちゃんは唯一の心許せる肉親。しかし村でのおばあちゃんの立場はそんなに良くありません。このあたりは田舎独特の風習がそれっぽく描かれ、単に元気なだけじゃない別の雰囲気を本作に与えてくれます。

このおばあちゃんとのやり取りや関係性を通してミライ川の行動原理や主義が見えてくるのがまた気持ちいい。作中で起こる出来事は決してほほえましいだけではありませんが、後味良好なのはミライ川の明るい性格を行動原理まできっちりと書ききっているからでしょう。

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また、本作は背景が加工なしの写真になっています。「ほしのの。」「かえりみち」や、晴好雨奇一丁目さんの最新作である「永遠と長閑」(現在は体験版のみ)などでも写真背景を使用していますし、田舎である設定を活かした作品って写真が多い気がします。
それでいて本作では晴好雨奇一丁目さんらしい演出も生きています。背景の動かし方や音楽の切り替えなど、すごくノスタルジックな感情を刺激してくるんですよね。短編における演出手法について、この人の右に出る者はいないと感じています。



最後にオチがあって締めくくられる本作ですが、そのオチもまた使い方が上手いです。今度は釣りに興味を持ったムカシ田。そこでタイトル画面に戻ってきて、とても綺麗なまとめ方です。
エンドロールがないのがちょっとだけ寂しいかな。

テキストファイルで後書きも同梱されているのでプレイ後にはぜひ読んでみてくださいね。


というわけで今回は「七月革命」「未来エイゴウ昔のことは」でした。
合計しても30分で読み終わり、すっきりと爽やかな気分になれますよ。この時期にぴったり。

それでは。

こんにちは。今回はばするぅむさんの「かえりみち」です。今回についてはいつものレビュー回というよりコラム回のノリに近くなると思いますがご了承ください。

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★favo
ジャンル:ノスタルジー系恋愛ノベルゲーム
プレイ時間:1時間
分岐:なし
ツール:吉里吉里
リリース:2012/4


まずはいつも通り大まかなあらすじをご紹介しましょう。
主人公の高木圭一は鹿児島県の霧島町(現・霧島市)に住む高校3年生。同学年で家の近い小湊ほのかとは小学生のころからの縁で、田舎特有の長い通学路をずっと一緒に通ってきた。しかし進路のことを考えなくてはならない年齢になり、この関係ももう長くは続かないことを寂しく感じていた……。

という感じでしょう。まさにタイトルの通り"かえりみち"にほのかと会話しながら帰ってくるというのが物語の大部分を占めるテーマでもあります。
さて本作ですが、プレイしていて大変驚いたところがあるので最初にそれについて書きましょう。

作風が完全に「むきりょくかん。」の作品のそれ!!!

はい、プレイ開始前にReadMeを読んだときに、背景画像提供としてむきりょくかん。のクレジットがあり、さらに本作のメッセージウィンドウが「ごがつのそら。」「ほしのの。」のそれと似ていたので気にはしていたんですが(ただしゲームエンジンは異なる)、そんな表面的なところにとどまらないほどにそっくりです。特定の目的なく緩やかなおしゃべりをするシーンが根底にある、文章は1人称で時折ノスタルジックな発言やその他の感想のような文が入る、ピアノ曲中心のBGM選曲、舞台となった実在の地名が明らかにされる、シーンの切り替わりで情景描写が入る、などなど何をとってもむきりょくかん。を連想する要素のオンパレード。中盤で"「ほしのの。」という映画"の感想の話が出てきたところで、本当にこれ別人だよな、むきりょくかん。の吉村さんの別名義とかじゃないよなと途中でサークルのHPを確認に行ってしまったほどです。

その結果、ばするぅむさんのサイトトップにはあの懐かしのツッコミフォーム(by むきりょくかん。)が! (注:コメント送信用CGI)
さらにハンドルネームで検索すると、作者の成井芳織さんはむきりょくかん。の日記へのコメント常連であったことが分かって、ファンが高じて自作にこんなに明確な影響を受けることもあるんだなと感じました。

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本作の話に戻ります。そんなことがあって雰囲気が似ているのもあり、私は本作の雰囲気がかなり好きなんですよ。何らの目的もなく続くような日常の描写って、往々にして飽きてしまうようなことがありますが本作はそんなこともなく、圭一とほのかの距離感だったり、受験や進路に向けて何となく考えていることだったり、そう言ったシーンを微笑ましく眺めることができました。


というようなことばっかり言っていると、他者の作品の劣化コピーなのかと思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。本作の場合、独自の魅力としてまず幼馴染ものという要素がありますね。子供のころは帰り道でこんな寄り道をした、とか、中学校のスクールバスが懐かしいとかの表現によって、キャラクターに立体感が生まれるのです。当然ですがプレイヤーは登場人物について、作内で描写される情報しか持っていません。単純にシーンを順に脚本のように紡いでいっても、キャラクターの平面的な部分しか見ることができませんが、思い出のシーンなどが入ることによってキャラクターに過去からの流れという新たな次元が交わり、より多角的に魅力を受け取ることができるように感じます。

また、本作は帰り道にだらだらと喋りながら歩いていくという、誰にでも経験のあるシーンがテーマとなっています。物語は基本的に何でも主人公の立場になって読むタイプの私にとって、これは非常に感情移入しやすい内容でした。私の場合残念ながら、毎日一緒に通った幼馴染がいたわけではないのですが、それでも部活の後で友人と歩いて帰り、受験のこととかも考えなきゃな~とか思っていたのは今となっては貴重な出来事だったと思い出させてくれました。
舞台となった地域の描写がしっかりしているのも、2人の空間を想像しやすくなってよかったと思います。本作内の時間は2005年(公開は2012年です)。調べたところこれは旧霧島町が実際に市町村合併で霧島市となった年でした。作内でその描写もあるなど、現実に忠実であることによって舞台のリアルさが増し、私をより深く圭一とほのかの世界へと連れて行ってくれたのではないでしょうか。

そして、文章力も確かですね。比喩を用いた表現などが多用され、どちらかというとゲームというか小説寄りのテキストかもしれません。私が好きなのは、受験が終わって帰るときの「色のない街の中を帰っていた。」ですね。私も大学入学を機に地元を離れた経験があるので、あの時の希望と不安と緊張が綯い交ぜになったような気持ちを思い出したりしました。

さて、本作をプレイしていて気になった点もあります。まずは、シーン同士の繋がりがあまり感じられなかったように思います。例えばお祭りの場面。圭一はほのかを怒らせてしまいますが、その前ぶれだったりフォローだったりという部分が十分でなかったのではないでしょうか。一応なぜそんなに怒っていたのかは判明しますし、翌日謝って許してもらったというような描写はありますが、その後の展開に結びついていないように感じてしまいました。ここだけ孤立していて、なかったとしても成立してしまいそうな感じです。ほかにもところどころ、話の流れから独立してしまっていると感じる場面がありました。
しかしそれらのシーンも個別の場面としてみれば、圭一とほのかの関係性が浮かんでくる良いシーンだなとも思えるので惜しいところです。

そしてエンディングも、確かにまとまってはいるんですが、そこはオーソドックスに1年後の話をして欲しかった。これは単に私の好みというレベルではありますが……。


というわけで、脱線も多くなりましたが今回は「かえりみち」でした。
田舎で幼馴染ものというワードに惹かれる方、地元にノスタルジーを覚える方、むきりょくかん。(特に「ごがつのそら。」)のファンの方は読んで損のない作品だと思います。

それでは。

今回は、ペットボトルココアさんの夏ゆめ彼方をご紹介します。
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オススメ!
ジャンル:夢を追い求める熱い青春ノベルゲーム
プレイ時間:2時間半
分岐:1か所あり。メインルートとサブルートに分岐
ツール:吉里吉里
リリース:2017/9


いやあ、本作は凄いです。ノベルゲームとの出会いという思い出補正の強いむきりょくかん。さんの作品を除くと多分本作が一番強く印象に残っています。というわけで、今回は長くなります。

本作のあらすじを簡単にまとめると、こんな感じです。

主人公の桂一は天才将棋棋士の父を持つ小学生で、自身も小学生名人戦優勝などの実績があり、神童と呼ばれ将来を期待されていた。しかし憧れの父は病に侵され、ついには名人を獲るという夢を果たせぬまま亡くなってしまい、桂一自身もそれを機に将棋とは疎遠になってしまう。毎日を無為に過ごしていたある日神社の裏山で出会った自称神様の少女"杏"との出会いをきっかけに、プロになり、そして名人になるという忘れていた夢を取り戻していく……

本作がすごいのは、この夢への想いの描き方が半端ではないことです。これほどまでに天才の努力や葛藤をまっすぐに表現した作品は初めてみました。桂一は天才とはいえ、当然ながらすべてが順調に進むわけではない。理想と現実の間で思い悩むリアルな描写の説得力が、私をこの物語に引き込んで放しませんでした。
天才が主人公の作品って、往々にしてやたらと冷静だったり超合理主義だったりして人間味が無いように感じられることも多いのですが、本作の桂一はいい意味で人間味にあふれ、泥臭い努力を重ねていきます。そんな熱心さが、読者を感情移入させるにあたっての強力な武器となっているように感じます。
私は、ゲームには感情移入しやすいというメリットがあると考えています。物語を紡ぐにはべつにノベルゲームという媒体にこだわる必要はなく、小説やアニメ、ドラマといった手法もあります。それらに比べてゲームでは必ずプレイヤー(読者)の操作が必要となり、その分主人公の行動や考えを自分に重ね合わせてストーリーを楽しむことができます。本作ではそうしたゲームの強みをさらに生かしているのではないでしょうか。

そんな本作ですが、前半部分ではそれほど夢に関して踏み込んだ描写はありません。何しろ桂一は完全に将棋をやめてしまっている状態からのスタートですからね。特に何をする気のないまま妹の晴香に振り回されてやってきた神社の裏山で杏と出会う。この杏がねえ、魅力的なんですよ。少女のような見た目をしていながら将棋がめちゃくちゃ強い。桂一を将棋でいじめたり、毒舌で唸らせたりしますが、将棋に関してきちんと助言をくれますし、それどころか学校になじめない桂一をクラスメートの大悟と友達になれるよう気遣ってくれたりします。立ち絵も可愛らしいしね。欲を言うともうすこしスチルが欲しかったでしょうか。

物語前半の描写は、コメディチックな部分も多いです。大悟たちはしっかり小学生らしくて微笑ましいですし、杏の毒舌にやり込められる桂一の様子とかも良い。私が好きなのは、「友達をなくす将棋」のところです。(注:形勢が相当に傾いた局面で、普通に相手の王様を攻めても勝てるのに、杏のように守り重視の手を指して相手に一切の逆転の望みを持たせないような棋風を俗にそう呼びます)

「『友達をなくす将棋』と思うたか?」
「でも、友達がいないのは桂一のほうでした。めでたしめでたし」
(舌鋒は攻めの棋風である。)

という軽快なやり取りについ笑ってしまいます。
ところで、舌鋒とか普通の小学生が使う語彙じゃないですよね。桂一は頭がいいという設定なのでまあわからんでもないですが、「全身が瘧のように震える」とかはさすがに…と感じました。読めなかったので調べましたし。

そんな笑いのあるシナリオですが、将棋を指すシーンの面白さもまた特筆に値するでしょう。私がこの作品を最初に読んだときは、将棋についてはほとんど知識がありませんでした。駒の動かし方とルールくらいは知っているけど戦略は何も知らない、藤井聡太さんが連勝記録を打ち立てて話題になったのは知っているけどその他の将棋棋士は羽生さんくらいしか知らないというレベルです。そんな状態でもしっかり戦況が分かるような解説が入ります。将棋を知らなくても決して暇にならないのです。父の棋風を受け継いで攻めっ気たっぷりな桂一と、受け潰しの棋風で決して勝ちを焦らない杏の対比も効いて、分からないなりにも盤上で熱烈なドラマが繰り広げられていることを理解できます。すると、自宅で棋譜を振り返って研究する桂一の気持ちもなんとなくわかってきます。そして翌日研究内容を頭に入れて再度杏に挑む。その繰り返しだけで本当に面白いんです。四間飛車とか早石田とか、急戦矢倉とかの具体的な戦型が出てきますが、様々な作戦がありそれぞれに特徴があるという事がしっかり分かるように語られるので、普通に読む分ではこれだけで十分です(赤野流っていうのは横歩取り青野流のことですよね?なんでこれだけ実在の名前と変えたんだろう)

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上の画像くらい専門的なやり取りもありますが、様々な定跡が研究され続け、多様な駆け引きが行われているということが分かれば物語は十分に楽しめます。むしろ、本作において将棋が単なる味付けではなくがっつりと描写されることによって、より桂一の挑戦の真剣さが前面に押し出され、私はそれに夢中になりました。

私は趣味で囲碁をやっているのですが(アマ三~四段くらいです)、将棋には触れたことのなかったので、本作に出会ったことを1つのきっかけにして昨年将棋を始めました。現在初段あるかないかといったレベルですが、ある程度将棋が分かるようになってから本作を再読すると、前は分からなかった箇所が分かるようになっており、感動の幅が広がりました。特に第1部最後の対局ですね。
「詰めろ」を掛けられた状態でどう指し手が制限されるか、「1手を争う終盤戦」とはどういうことかを自分が将棋を指すうえで実感していると、同じテキストから得られる情報量が桁違いになります。
ちなみに、この対局にはモデルとなった実際の対局があるようです。
ややネタバレ、特に将棋に詳しい方は注意。クリックで展開それは、第60期王座戦5番勝負の第4局です。こちらから棋譜が読めるので将棋が分かる方はぜひ参照しながら該当シーンを読んでみてください。桂一が度肝を抜かれ、人間業でないと評した奇手から終局までの流れ。これが実際のタイトル戦で現れた羽生二冠(当時)の伝説の妙手だったと知ると、また新たな感動があります。作内での戦況や着手の解説も、ここのことを言っていたのかと納得できるでしょう。
将棋の内容以外の面でも、「この興奮。この充実感。これを味わうために……僕は将棋を指しているんだ。」というような一言が胸に突き刺さるようになりました。

また、本作には1か所選択肢があり、それによって杏ルートと歌音ルートに分岐します。メインの杏ルートでは桂一は将棋一直線。叶えたい夢が大きい分、リスクも大きくなります。こちらのルートでは「将棋なんてやらなきゃ良かった!」と後悔するシーンがあります。歌音ルートはまさにこの将棋の名人を目指さなかった場合のIFルートと思うことができるでしょう。誰もが桂一のように大きな夢に向かって進んでいけるわけではありません。もっと身近な幸せを目指す歌音ルートが用意されていることで、ホッとすることができました。

総じて非常に面白い作品だと思うので、未読の方はぜひプレイしてみてください。
桂一と一緒に将棋に夢中になり、挫折し、それでも非情な現実に立ち向かわなければならない、そんな激動の人生を追体験して最後には温かい気持ちになれること間違いなしです。

ちなみに全然本質的ではないですが、本作に関して一つだけ物申したい点があります。
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ふりーむさん!! いくらテーマが将棋だとしても、「囲碁・将棋ゲーム」のジャンルに本作が含まれるのはおかしくないですか!!! 明らかに浮いてますよ!
(ふりーむのジャンル分けは作者による分類ではなくふりーむ運営による分類だったはず)

以上です。それでは。

こんにちは。今回は、「ほしのの。」のご紹介です。

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オススメ!
ジャンル:田舎でお姉ちゃんと仲良くなる恋愛ゲーム
プレイ時間:2時間
分岐:なし
ツール:Flash/スマホアプリ
リリース:2007/7(原作Flash版)


今回はついに、私にとって思い出の作品「ほしのの。」を取り上げます。それまでRPGなどを中心にプレイしていてノベルゲームは存在すら知らなかった私は、前回の記事で紹介したたんしおレモンのゲーム紹介掲示板のようなコーナーから本作を知りました。そして見事にはまってしまったわけです。
本作は最初にむきりょくかん。さんによる原作のFlash版が公開され、その後株式会社テンクロスによるスマホアプリ版が公開されています。Flashのサポートは終わってしまいましたが、現在でもスマホアプリ版はダウンロードすることができます。スマホアプリにしては珍しい完全無料&広告なしなので、フリーゲームの枠内に十分入っているなと判断してのご紹介です。また、原作も一応まだプレイ可能です(詳細は後述します)。


本作のストーリーを単純化すると、両親のが亡くなってしまったため田舎の親戚に預けられることになった主人公の川島結城が、最初は鬱陶しく感じていた従姉の榛奈との距離を次第に縮めていくという内容です。よくあるギャルゲーのパターンとして、主人公がひょんなことから女の子を自身の家に住まわせることになる、いわゆるボーイミーツガール系がありますが、それとは関係が逆なわけです。しかしそれ以外の点においては典型的なギャルゲーと変わらず、上のあらすじを読んだだけでは何がそんなに良い作品なのかというのがあまり伝わらないと思います。そこで、私がよいと感じた点をいくつか順に紹介していきます。


まずは何といっても、シナリオの丁寧な作りです。物語開始時点の結城は、和泉家での田舎暮らしに強い抵抗感を抱いています。中学生で反抗期の最中ということもあり、1つ年上で世話焼きな従姉の榛奈に対しても邪険にするシーンが多く登場します。両親との死別という導入がこれらの"受け入れられなさ"と結びついて描かれ、ただの同居のきっかけ以上にシナリオの方向性を示しています。
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最初はこんな感じだった結城も、当然話が進むごとに和泉家になじんでいくわけですが、その過程にしっかりとした説得力があるんですよ。都会では触れることのなかったことを"ダサい"ではなく"新鮮"と捉える描写だったり、榛奈との"雨降って地固まる"的な出来事だったり。こうした一つ一つのエピソードが点ではなく線でつながり、榛奈と距離を縮めていくというまとまった物語の流れとして感じられるのです。
そうそう、田舎の描写や農作業に関する記述なんかも嘘っぽくなくていいですね。作者さんの実体験に基づいているようで、このシナリオの質にもうなずけます。


そして登場人物が魅力的です。ヒロインの榛奈はもちろん大変にかわいいです。私は4話での浴衣を着た榛奈の笑顔に心奪われました。
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また、立秋さんや委員長といったサブのキャラクターも単に登場しましたというだけの人物ではなく、しっかりと結城の思いに影響を与えています。委員長に関してはその個性的なキャラクター性から、気持ちの良いコメディー展開ももたらしてくれます。
あと忘れられないのは「ごがつのそら。」にも登場した神明みのり。1話と2話の間に引っ越してしまう彼女ですが、その後にも榛奈からの話題に出てきたり、結城と榛奈の間を仲介する役割を持ったりする重要人物になっています。

これらの人物の立ち絵については、原作版とアプリ版で全く違うので、両方で味わってみるのもいいでしょう。アプリ版には、原作ではなかった立秋さんと委員長の立ち絵もついています。あれだけふざけた発言をしていた委員長がまさかのイケメン(笑)
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作品を通して雰囲気だったり季節感といったものがはっきりと感じられるのも本作の良いところでしょう。例えば、夏の暑さにうんざりするシーンでは、文章で描写するだけでなく、セミが鳴く環境音が入ってくる。青い空と白い雲のコントラストのきいた背景写真が使われている、など作品全体から夏を感じられるんです。また、半年経ったことを表現するのに単にそう書くのではなく、「年が明け、桜の花が咲き、散り、紫陽花の季節になった。」とすることでよりイメージしやすく物語に入り込みやすかったり、何が起きたかだけを伝える脚本のような文章ではなく、味わいのある小説としての魅力を帯びてきているように感じます。ちなみに好きな文というと、1話終わりの「返って来た「おかえり」の声を聞いて初めて、僕は"家"に帰ったのだと。そう思った。」がかなり好きです。これから和泉家になじんでいくきっかけというか、予感みたいなものを感じさせられますよね。
また、効果音について少しだけ触れましたが、BGMについても大変雰囲気に合った選曲で、曲まで好きになってしまいます。原作版の話になりますが、エンディングテーマの「あたりまえ かわりばえ」が作品世界にぴったりマッチしているということに関しては、音楽素材について書いたこちらの記事でも触れています。この記事に書かなかった曲で好きなものというと、1話プロローグ直後のシーンのBGMでしょうか。両親を失ったという大きな喪失感を抱えた状態で榛奈と寝る前の会話をするシーンですが、ここで使われているこの物悲しいピアノ曲がすごく好きです。しかも曲名が"good night"だと知った時には、うますぎるだろ…と思いました。サウンド全体に関しての評価がすごく高いです。

このサウンドだったり背景だったりといった部分については、アプリ版では全く違うので原作ファンの私としてはやや残念なところではあります。
ちなみに以前はスマホアプリ版でなくガラケーアプリ版も存在していました。数年ぶりに起動してみたところ、タイトル画面のBGMがTAM Music Factoryの「秋の野」であることに気付き、ゲームのタイトルに合わせてきたとすると面白いなと思いました。


本作の好きなところについていろいろと語ってみました。原作のプレイはやや厳しいですが、興味を持った方はぜひアプリ版からプレイしてみてください。繰り返しますが、スマホアプリも広告なし完全無料ですのでぜひ。
ちなみにFlashのサポート終了に伴い現在ではそのままでは原作をプレイすることはできない状態ですが、一応プレイ可能な方法が2通りあります。1つはブラウザにRuffleを導入すること。私が普段使っているブラウザはGoogle Chromeですが、拡張機能としてRuffleを入れることで問題なくプレイ可能であることは確認しました。(確認した環境:Windows 10 Home 20H2, Chrome 92.0.4515.159, Ruffle nightly 2021-07-03)
もう一つは、原作ページで用意されているDL版のswfファイルをDLしてきてローカルで再生する方法です。flash playerのexeファイルが必要ですが、このサイトなどから持ってくることができます。DL版のほうが画質が良いようなので、こちらをお勧めします。
同じFlash版でも、ブラウザ版とDL版ではエンドロールでの手紙の内容にほんの少しだけ違いがあります。気になった方は注目してみるといいでしょう。このエンドロールの演出もすごく好きですね。エンディングテーマのリズムに合わせて文面が表示されるのも気持ちがよいところでしょう。ただし、DL版の"看護士"は"看護師"が正しいでしょう。同じ手紙内で"看護婦"という表現も残っていて統一されていなかったのもあり、少し気になりました。ちなみに一応調べたのですが、法改正により看護婦という呼称を使用しなくなったのは2002年のようですね。2021年現在の感覚では看護師という呼び方はかなり定着しているように思いますが、作品公開時点(2007年)でどうだったかは覚えていないのでそんなに厳しく突っ込むところではないでしょうか。


長くなってきたので、今回はここまでにします。私はこの作品をプレイするまで、本格的なノベルゲームをやったことがなく、1話プレイ開始時点では適当な選択肢を選ぶミニゲーム的なものだと思っていました。それが1話を読み終えるころには純粋に物語に夢中になっていました。物語が終盤に近付くにつれ、まだ終わってほしくない、もっと読んでいたい、と強く思ったのを昨日のことのように思い出すことができます。ぜひ皆さんにもこの気持ちを味わっていただきたいと思っているところです。

それでは。

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