こんにちは。大変今更ではありますが、今回はステージななさんの「Narcissu」について書いていこうと思います。いつも以上に個人的な話が多くなるかもしれませんがお付き合いいただけると幸いです。

ジャンル:シリアス系ノベルゲーム
プレイ時間:無印読了まで2時間、SIDE 2ndは3時間程度
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2005/8(無印Web版公開)
備考:2作が同梱された状態で配布中。Steam版もあり。3rd -Die Dritte Welt-以降は有償
今回扱う作品「Narcissu」はWikipediaに記事があるほどの有名作で、今から20年以上前に公開された古典的作品でもあります。このブログを見に来られる方はご存じの方が多いと思います。このような既に評価が確立された名作であり、私が最近新たにプレイしたわけでもない本作を今ブログで扱っておきたいと思ったのは、こちらの記事で書いた私自身の病気の件が一端であることは間違いありません。このことについては後述するとして、まずはいつも通り作品のあらすじ紹介をしていきましょう。
前回の記事で扱った「Robot Hospice」とはホスピスが舞台という共通の設定こそあれど全く違う雰囲気。心温まるSF、優しい世界であったRobot Hospiceに対し本作Narcissuはどうしようもない現実、厳しい世界です。

こんなところでしょう。
この作品の普通のレビューは散々書かれつくしていると思いますので最初に軽く触れるくらいにしようと思います。
本作は基本的には立ち絵の無い文章だけの硬派なノベルゲームであり、非常にシンプルと言えます。要素が少ない分、文章、ストーリー、そして音楽という根幹の部分が厳しくジャッジされてしまうスタイルでしょう。そして既に多くの場所で高評価を獲得している通り、それらのいずれも高水準であるように感じます。まず文章についてはとても読みやすいです。ゲームっぽいノリの文章ではなく小説と言っていい雰囲気です。感情の動きであったりその場の空気感であったりをしっかりと読者に伝えるのが重要なこの作品において、直接的な表現ばかりではなく情景描写による間接的な雰囲気づくりを多用。どっしりと腰を据えて読むのに向いた作品と言えるでしょう。
ストーリーと音楽については後でも触れますがどちらも非常に印象的。ホスピスの物語、登場人物は救いのないままに死んでいく、それぞれの死生観が描かれるといった重すぎるテーマがこの作品の幹として強固に根付き、読者の涙を誘います。
普通に本作をほめるのはこの辺にしておきます。
私が本作を初めてプレイしたのはおよそ10年前だったと思います。その時は、確かに良い作品だとは思いつつハマる感じではありませんでした。やはりどうしても地味なんです。一枚絵が数枚あるとはいえ基本的に人物のイラストはなし、そして最後にセツミや姫子は死ぬというのは本作を読み始める前から明かされておりそこに意外な結末はありません。私が大ファンであるむきりょくかん。さんの「Normalize Human Communication」と重なる部分があって、闘病ものはまだお腹いっぱいだったというのもあるかもしれません。
しかし作品の印象はよく残っており、数年後にもう一度読みました。その時は前よりも少しだけ好きになった気がします。そして今年の冬、自分が白い医療用リストバンドをつけることになった時、本作の記憶が一瞬でよみがえってきました。それだけ私の記憶に深く刻まれていたのです。いてもたってもいられなくなり、入院中でPCもない中なんとか話を確認しようとYouTubeで実況動画を探してスマホとイヤホンでこっそり視聴しました。そうしてみると、初めてプレイしたときとは明らかに異なる密度で本作の良さが伝わってくるのです。どんな作品でもそうですが、本作は特にプレイヤーのそれまでの人生経験に感想が左右されがちなのかなと感じました。

そして今、Steam版で再読してレビューを書いています。シナリオやイラストに変更はなく、言語選択ができるようになっています。
本作の主要人物であるセツミは、無印の開始時点で既にその死が運命づけられています。無印は、彼女の自身の命や人生に対する考え方を追っていく作品と言っていいでしょう。同じ7Fの入院患者である主人公は存在していますが、私には彼はセツミの観察者であるように思えました。10年に及ぶ闘病を経験しているセツミは既に将来の一切をあきらめてしまっていますが、7Fに入って間もない主人公はまだそこまで吹っ切れておらず、その意味ではプレイヤーと同じ側の人間です。

物語中盤で、セツミは主人公に問います。
無印のほとんどは主人公の視点で語られますが、章の変わり目などでセツミのモノローグが挿入されることがあります。モノローグ内で物語冒頭から一貫して諦観が支配している様子でしたが、終盤に一瞬その思考が揺らぐ場面が描かれ、私はそこが非常に印象的に感じました。亡くなる直前まで幸せに生きて欲しいと願うのはごく自然な発想だと思います。そんなささやかな願いがやっと通じたような気がしたのです。

2ndではセツミがかつて姫子と過ごした時間が描かれ、2nd単体でも完結しているだけでなく無印の疑問を補完するような内容にもなっていると思います。やたらと車や道に詳しかったセツミが誰から影響を受けていたのか。仮退院の迎えに来た母親と7Fについて過去にどんな話をしていたのか。そんな情報があれば序盤のちょっとしたシーンにも少し違った見方が可能になるんじゃないでしょうか。
そして2ndはエピローグが素晴らしい。無印の主人公はその後どうしていたのかという疑問がありましたが、それがすべて解決とはいかないけれど物語として非常に収まりのいいエンディングと感じます。
数少ないイラストをここぞと一瞬だけ出す演出もまた上品な感じがします。視覚で察する余地があるというのは小説などのフォーマットにはないゲームの利点だなとまた感じさせるような一瞬でした。
音楽について触れ忘れていたので最後に少しだけ。
本作はBGMについてもオリジナルとなっており、本作のシリアスな雰囲気を邪魔しないながらもしっかりと耳に残ります。挿入歌も複数あり豪華。作内にBGM鑑賞モードもあるのがうれしいですね。同じタイトルを冠した「ナルキッソス」も好きですが、私は「終末の過ごし方より」が頭から離れないです。上述したセツミのモノローグでよく使われる印象で、悲しすぎず幻想的な雰囲気をまとったこの曲のおかげで全体的に暗くなりすぎていないのではないかと思ったりします。
細かいですがエピローグを読み終えてタイトル画面に戻ってきた後、BGMがそのまま残っているのも余韻があって良いですね。
Steam版にはサウンドトラックのDLCがあるので気に入った方はぜひそちらもチェックしてみてください。
最初から最後まで重い雰囲気のため人を選ぶタイプの作品だとは思いますが、それでも長年評価されてきているのも納得の名作だと思います。最後にほんのささやかに救われる感触をぜひ皆さんの目で確かめてみてください。
それでは。

ジャンル:シリアス系ノベルゲーム
プレイ時間:無印読了まで2時間、SIDE 2ndは3時間程度
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2005/8(無印Web版公開)
備考:2作が同梱された状態で配布中。Steam版もあり。3rd -Die Dritte Welt-以降は有償
今回扱う作品「Narcissu」はWikipediaに記事があるほどの有名作で、今から20年以上前に公開された古典的作品でもあります。このブログを見に来られる方はご存じの方が多いと思います。このような既に評価が確立された名作であり、私が最近新たにプレイしたわけでもない本作を今ブログで扱っておきたいと思ったのは、こちらの記事で書いた私自身の病気の件が一端であることは間違いありません。このことについては後述するとして、まずはいつも通り作品のあらすじ紹介をしていきましょう。
前回の記事で扱った「Robot Hospice」とはホスピスが舞台という共通の設定こそあれど全く違う雰囲気。心温まるSF、優しい世界であったRobot Hospiceに対し本作Narcissuはどうしようもない現実、厳しい世界です。
Narcissu(以下、無印と表記)
主人公は難病に冒され完治の見込みがないとして、"7F"にやってきた。そこはいわゆるホスピス、緩和ケア病棟であり、これまでの入院生活とは全く違う世界だった。そこで出会う少女のように若く見える女性セツミと語りながら自身の最期について考えた主人公は、セツミとともに病院を脱走、病棟に飾られていたナルキッソス(スイセン)の花の本物を見るべく淡路島へと向かうのだった…Narcissu SIDE 2nd(以下、2ndと表記)
無印よりも前の時間軸。セツミが7Fに入る前、まだ完治を目指していたころの物語。外来で病院を訪れた際、7Fの住人の証拠である白いリストバンドを付けた入院患者、姫子に友達と認定され彼女の"死ぬまでにやりたい10のこと"の残り3つを見届ける役を務める。他愛もない願いを着々と叶えていくなか、"エセカトリック"である姫子の最後に残された願いとは何だったのか…
こんなところでしょう。
この作品の普通のレビューは散々書かれつくしていると思いますので最初に軽く触れるくらいにしようと思います。
本作は基本的には立ち絵の無い文章だけの硬派なノベルゲームであり、非常にシンプルと言えます。要素が少ない分、文章、ストーリー、そして音楽という根幹の部分が厳しくジャッジされてしまうスタイルでしょう。そして既に多くの場所で高評価を獲得している通り、それらのいずれも高水準であるように感じます。まず文章についてはとても読みやすいです。ゲームっぽいノリの文章ではなく小説と言っていい雰囲気です。感情の動きであったりその場の空気感であったりをしっかりと読者に伝えるのが重要なこの作品において、直接的な表現ばかりではなく情景描写による間接的な雰囲気づくりを多用。どっしりと腰を据えて読むのに向いた作品と言えるでしょう。
ストーリーと音楽については後でも触れますがどちらも非常に印象的。ホスピスの物語、登場人物は救いのないままに死んでいく、それぞれの死生観が描かれるといった重すぎるテーマがこの作品の幹として強固に根付き、読者の涙を誘います。
普通に本作をほめるのはこの辺にしておきます。
私が本作を初めてプレイしたのはおよそ10年前だったと思います。その時は、確かに良い作品だとは思いつつハマる感じではありませんでした。やはりどうしても地味なんです。一枚絵が数枚あるとはいえ基本的に人物のイラストはなし、そして最後にセツミや姫子は死ぬというのは本作を読み始める前から明かされておりそこに意外な結末はありません。私が大ファンであるむきりょくかん。さんの「Normalize Human Communication」と重なる部分があって、闘病ものはまだお腹いっぱいだったというのもあるかもしれません。
しかし作品の印象はよく残っており、数年後にもう一度読みました。その時は前よりも少しだけ好きになった気がします。そして今年の冬、自分が白い医療用リストバンドをつけることになった時、本作の記憶が一瞬でよみがえってきました。それだけ私の記憶に深く刻まれていたのです。いてもたってもいられなくなり、入院中でPCもない中なんとか話を確認しようとYouTubeで実況動画を探してスマホとイヤホンでこっそり視聴しました。そうしてみると、初めてプレイしたときとは明らかに異なる密度で本作の良さが伝わってくるのです。どんな作品でもそうですが、本作は特にプレイヤーのそれまでの人生経験に感想が左右されがちなのかなと感じました。

そして今、Steam版で再読してレビューを書いています。シナリオやイラストに変更はなく、言語選択ができるようになっています。
本作の主要人物であるセツミは、無印の開始時点で既にその死が運命づけられています。無印は、彼女の自身の命や人生に対する考え方を追っていく作品と言っていいでしょう。同じ7Fの入院患者である主人公は存在していますが、私には彼はセツミの観察者であるように思えました。10年に及ぶ闘病を経験しているセツミは既に将来の一切をあきらめてしまっていますが、7Fに入って間もない主人公はまだそこまで吹っ切れておらず、その意味ではプレイヤーと同じ側の人間です。

物語中盤で、セツミは主人公に問います。
「最初に…死ぬって聞かされた時……泣いた?」
「じゃあ、どうして自分だけって…運命を呪った?」
彼女自身はどちらもしなかったそうです。その理由がこちら。
今のは一例ですが、このように物語の所々でリアリティーを感じてしまうようになりました。入院生活のつまらなさ、健康だったころのようには動かない体、それでもじっとしているだけでは耐えられない心理状態、などなど……
本作のようなシリアスな雰囲気の作品において、作内の描写にリアリティーがあるというのは非常に大事な要素だと思います。これは必ずしも真実のみを描いているという意味ではありません。特に自身の死を目前にして何を思うかなんて、人それぞれで正解はないでしょう。しかしそれでもセツミがそのような人物であるということにある種の迫力のようなものを感じるのです。彼女がそうした考え方であったり、知識、趣味をもつにいたる経緯が説得力を補強し、どうにもならないというやるせなさを強烈にします。
彼女自身はどちらもしなかったそうです。その理由がこちら。
最初から諦めていれば、落胆することもない。文面で見ると、なんと寂しくて夢の無い考え方だと感じます。実際主人公もそう言います。しかしこれも人間の防衛本能からくる自然な考えになりうるのではないかと私は感じました。ホスピスの入院患者とは状況が違いますが、私が今年救急車で運ばれて入院したときも割と似た思考だったように思います。自分の人生、ついてないなあ…とは思いますが運命を呪うっていうほどでもない。死ぬかもなあとは思いつつも取り乱すほどではない。なんというか、思考のリソースを積極的に割くことをしない、ただ時間が過ぎるのを待つ。そんな感じだった気がします。
後ろ向きでいれば楽しくもないけど、辛いこともない。
今のは一例ですが、このように物語の所々でリアリティーを感じてしまうようになりました。入院生活のつまらなさ、健康だったころのようには動かない体、それでもじっとしているだけでは耐えられない心理状態、などなど……
本作のようなシリアスな雰囲気の作品において、作内の描写にリアリティーがあるというのは非常に大事な要素だと思います。これは必ずしも真実のみを描いているという意味ではありません。特に自身の死を目前にして何を思うかなんて、人それぞれで正解はないでしょう。しかしそれでもセツミがそのような人物であるということにある種の迫力のようなものを感じるのです。彼女がそうした考え方であったり、知識、趣味をもつにいたる経緯が説得力を補強し、どうにもならないというやるせなさを強烈にします。
無印のほとんどは主人公の視点で語られますが、章の変わり目などでセツミのモノローグが挿入されることがあります。モノローグ内で物語冒頭から一貫して諦観が支配している様子でしたが、終盤に一瞬その思考が揺らぐ場面が描かれ、私はそこが非常に印象的に感じました。亡くなる直前まで幸せに生きて欲しいと願うのはごく自然な発想だと思います。そんなささやかな願いがやっと通じたような気がしたのです。

2ndではセツミがかつて姫子と過ごした時間が描かれ、2nd単体でも完結しているだけでなく無印の疑問を補完するような内容にもなっていると思います。やたらと車や道に詳しかったセツミが誰から影響を受けていたのか。仮退院の迎えに来た母親と7Fについて過去にどんな話をしていたのか。そんな情報があれば序盤のちょっとしたシーンにも少し違った見方が可能になるんじゃないでしょうか。
そして2ndはエピローグが素晴らしい。無印の主人公はその後どうしていたのかという疑問がありましたが、それがすべて解決とはいかないけれど物語として非常に収まりのいいエンディングと感じます。
数少ないイラストをここぞと一瞬だけ出す演出もまた上品な感じがします。視覚で察する余地があるというのは小説などのフォーマットにはないゲームの利点だなとまた感じさせるような一瞬でした。
音楽について触れ忘れていたので最後に少しだけ。
本作はBGMについてもオリジナルとなっており、本作のシリアスな雰囲気を邪魔しないながらもしっかりと耳に残ります。挿入歌も複数あり豪華。作内にBGM鑑賞モードもあるのがうれしいですね。同じタイトルを冠した「ナルキッソス」も好きですが、私は「終末の過ごし方より」が頭から離れないです。上述したセツミのモノローグでよく使われる印象で、悲しすぎず幻想的な雰囲気をまとったこの曲のおかげで全体的に暗くなりすぎていないのではないかと思ったりします。
細かいですがエピローグを読み終えてタイトル画面に戻ってきた後、BGMがそのまま残っているのも余韻があって良いですね。
Steam版にはサウンドトラックのDLCがあるので気に入った方はぜひそちらもチェックしてみてください。
最初から最後まで重い雰囲気のため人を選ぶタイプの作品だとは思いますが、それでも長年評価されてきているのも納得の名作だと思います。最後にほんのささやかに救われる感触をぜひ皆さんの目で確かめてみてください。
それでは。


