フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
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青春

こんにちは。今回はa.r.b. Gamesさん制作の「RADIANT*SIGN」をご紹介します。

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ジャンル:ドラマチックアイドル活動ADV(公式より引用)
プレイ時間:すべて読むのに1時間半程度
分岐:なし
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2019/8


本作は、新人アイドルの一之瀬夏姫がアイドル活動を通じて成長し、同じユニットのメンバーとともにFiveStarCupというイベントでの上位入賞を目指す物語となっています。最近レビューした「いちばん星の願いごと」もアイドルが主人公でしたが、あちらはスターアイドルが路線変更を目指して修行をするという内容であり、新人の活動の軌跡を描いた本作はまた違った魅力を感じさせるものになっています。

スクリーンショットを見るとまず気付くと思いますが、本作は縦長の画面となっています。おそらくスマートフォンでのプレイを念頭に置いているのでしょう。マルチプラットフォームで動作するというのはティラノスクリプトの強みの一つですね。UIもスマートフォンアプリを意識したつくりとなっており、一般的なPC向けノベルゲームとは違った形ですが、十分作りこまれており特に不満に感じる点はありませんでした。ひとつだけ、SKIPは早送りではなくそのシーンを丸ごと飛ばしてシナリオ選択画面に戻る機能なことは注意です。各シーンは短いので操作を間違えなければ特に支障はないでしょう。


最初に述べたように、オーディションを受けまくって落ちまくって、ようやく合格を掴んだ一之瀬夏姫が先輩や仲間と出会って視野を広げていき、パフォーマンスを広げていくというのが本作のメインの見どころです。一般的なノベルゲームでは主人公に感情移入して読むタイプの私ですが、本作に関してはちょっと違う視点がメインとなった気がします。それは、夏姫や彼女の所属するユニットSeventh Heavenのファンとしてのような視点です。そこの世界観づくりがこれまでになくすぐれた作品であると感じました。

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というのも、本作のメイン画面は上のスクリーンショットの画面です。普通のノベルゲームだと、はじめから、つづきから、といったボタンがあってそこから読み始めるものでしょう。しかし本作のメインストーリーは「活動記録」から読むことができます。もうこの時点で、すでに活躍しているアイドルグループの成長記録を追う、という意識に誘い込まれるんです。さらにうまいのが、「幕間」「iPedia」です。本編の舞台裏を別人物の視点で見ることができる「幕間」で本編の内容を補完できます。「iPedia」はウィキペディアのような感じですね。本作に登場する人物やグループに関する情報がシナリオ進行とともに追加されていきます。出典の脚注などもあって結構手が込んでますよ。本編内で逆にアイペディアに関する反応などもあるので(緊張してミスったところを記事に書かれて恥ずかしい~など)、読了後にまとめて読むよりは1話読むごとに追記された部分を探す感じで読むのをお勧めしたいです。


さて、ストーリーについての話をしていませんでした。メインのストーリーは、「活動記録」から全9話に分けて読むことができます。各話はさらに短く4分割されているのでサクッと読み進めることができます。これもソーシャルゲームのシナリオを意識されたのでしょうか。
1話開始の時点では、主人公夏姫はアイドルになってすらいません。オーディションの合格発表に緊張して自分で封筒を開封できず、友人のほとりに開封を依頼してしまうほどです。そこで合格であることが分かり、アイドルとして活躍するという目標に向かって歩みだします。

ところでこの友人のほとりがいい子ですね。ほめてくれるし最初のファンになるといってくれるし、実際に夏姫がステージに立つ際はいつも駆けつけてくれます。このほとりと絡んで、夏姫がアイドルを目指すことになった理由がしっかり語られたおかげで、より夏姫を応援したい気持ちになりました。

そんな夏姫ですが、とにかくアイドルの小此木陽菜に憧れているばかりで、業界についての知識が全然ありませんでした。そこから先輩だったり仲間だったり、事務所の社長だったりに影響を受け、自分なりのキャラクターやパフォーマンスを身に着けていくのですが、その過程がすごくコンパクトに凝縮されていて分かりやすかったです。それぞれの章が短めで、テーマも分かりやすい(例えば、夏姫がアイドルになるとか、グループのメンバーが増えるとか)ので、アイドルとしての成長物語のいいところをつまみ食い、という印象があります。
逆に、これだけコンパクトにまとまっているとなると、他のメンバーの葛藤だったり成長だったりを盛り込むには少々尺が足りなかった感じがします。特に晶のエピソードなどは、唐突すぎるしそんなに簡単にスカウトしてよいのかという点は気になります。晶の話にとどまらず、何か問題が発生したとしてもとんとん拍子に解決してしまう感が否めません(だからこそ、いい意味でも悪い意味でもつまみ食いと感じたのです)。癒月のエピソードについては、幕間での補足も効いていて彼女の決断に厚みを加えてくれたと感じました。


というわけで、今回は「RADIANT*SIGN」でした。芸能に詳しい方だと、この名前は実在の人物のもじりだな~などといったことも楽しめるのではないでしょうか(私は芸能はからきしなので、いくつか気付いたくらいですが)。また、アイドルがテーマなだけあって立ち絵やその他のイラストもとてもかわいらしいですよ。
ここ1か月ほどで紹介した作品はどれも演出面に優れたものばかりですね。ゲームという媒体だからこそできる、物語を楽しみやすくする工夫や世界観の創出にも注目して読んでみてくださいね。

今回は、ペットボトルココアさんの夏ゆめ彼方をご紹介します。
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オススメ!
ジャンル:夢を追い求める熱い青春ノベルゲーム
プレイ時間:2時間半
分岐:1か所あり。メインルートとサブルートに分岐
ツール:吉里吉里
リリース:2017/9


いやあ、本作は凄いです。ノベルゲームとの出会いという思い出補正の強いむきりょくかん。さんの作品を除くと多分本作が一番強く印象に残っています。というわけで、今回は長くなります。

本作のあらすじを簡単にまとめると、こんな感じです。

主人公の桂一は天才将棋棋士の父を持つ小学生で、自身も小学生名人戦優勝などの実績があり、神童と呼ばれ将来を期待されていた。しかし憧れの父は病に侵され、ついには名人を獲るという夢を果たせぬまま亡くなってしまい、桂一自身もそれを機に将棋とは疎遠になってしまう。毎日を無為に過ごしていたある日神社の裏山で出会った自称神様の少女"杏"との出会いをきっかけに、プロになり、そして名人になるという忘れていた夢を取り戻していく……

本作がすごいのは、この夢への想いの描き方が半端ではないことです。これほどまでに天才の努力や葛藤をまっすぐに表現した作品は初めてみました。桂一は天才とはいえ、当然ながらすべてが順調に進むわけではない。理想と現実の間で思い悩むリアルな描写の説得力が、私をこの物語に引き込んで放しませんでした。
天才が主人公の作品って、往々にしてやたらと冷静だったり超合理主義だったりして人間味が無いように感じられることも多いのですが、本作の桂一はいい意味で人間味にあふれ、泥臭い努力を重ねていきます。そんな熱心さが、読者を感情移入させるにあたっての強力な武器となっているように感じます。
私は、ゲームには感情移入しやすいというメリットがあると考えています。物語を紡ぐにはべつにノベルゲームという媒体にこだわる必要はなく、小説やアニメ、ドラマといった手法もあります。それらに比べてゲームでは必ずプレイヤー(読者)の操作が必要となり、その分主人公の行動や考えを自分に重ね合わせてストーリーを楽しむことができます。本作ではそうしたゲームの強みをさらに生かしているのではないでしょうか。

そんな本作ですが、前半部分ではそれほど夢に関して踏み込んだ描写はありません。何しろ桂一は完全に将棋をやめてしまっている状態からのスタートですからね。特に何をする気のないまま妹の晴香に振り回されてやってきた神社の裏山で杏と出会う。この杏がねえ、魅力的なんですよ。少女のような見た目をしていながら将棋がめちゃくちゃ強い。桂一を将棋でいじめたり、毒舌で唸らせたりしますが、将棋に関してきちんと助言をくれますし、それどころか学校になじめない桂一をクラスメートの大悟と友達になれるよう気遣ってくれたりします。立ち絵も可愛らしいしね。欲を言うともうすこしスチルが欲しかったでしょうか。

物語前半の描写は、コメディチックな部分も多いです。大悟たちはしっかり小学生らしくて微笑ましいですし、杏の毒舌にやり込められる桂一の様子とかも良い。私が好きなのは、「友達をなくす将棋」のところです。(注:形勢が相当に傾いた局面で、普通に相手の王様を攻めても勝てるのに、杏のように守り重視の手を指して相手に一切の逆転の望みを持たせないような棋風を俗にそう呼びます)

「『友達をなくす将棋』と思うたか?」
「でも、友達がいないのは桂一のほうでした。めでたしめでたし」
(舌鋒は攻めの棋風である。)

という軽快なやり取りについ笑ってしまいます。
ところで、舌鋒とか普通の小学生が使う語彙じゃないですよね。桂一は頭がいいという設定なのでまあわからんでもないですが、「全身が瘧のように震える」とかはさすがに…と感じました。読めなかったので調べましたし。

そんな笑いのあるシナリオですが、将棋を指すシーンの面白さもまた特筆に値するでしょう。私がこの作品を最初に読んだときは、将棋についてはほとんど知識がありませんでした。駒の動かし方とルールくらいは知っているけど戦略は何も知らない、藤井聡太さんが連勝記録を打ち立てて話題になったのは知っているけどその他の将棋棋士は羽生さんくらいしか知らないというレベルです。そんな状態でもしっかり戦況が分かるような解説が入ります。将棋を知らなくても決して暇にならないのです。父の棋風を受け継いで攻めっ気たっぷりな桂一と、受け潰しの棋風で決して勝ちを焦らない杏の対比も効いて、分からないなりにも盤上で熱烈なドラマが繰り広げられていることを理解できます。すると、自宅で棋譜を振り返って研究する桂一の気持ちもなんとなくわかってきます。そして翌日研究内容を頭に入れて再度杏に挑む。その繰り返しだけで本当に面白いんです。四間飛車とか早石田とか、急戦矢倉とかの具体的な戦型が出てきますが、様々な作戦がありそれぞれに特徴があるという事がしっかり分かるように語られるので、普通に読む分ではこれだけで十分です(赤野流っていうのは横歩取り青野流のことですよね?なんでこれだけ実在の名前と変えたんだろう)

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上の画像くらい専門的なやり取りもありますが、様々な定跡が研究され続け、多様な駆け引きが行われているということが分かれば物語は十分に楽しめます。むしろ、本作において将棋が単なる味付けではなくがっつりと描写されることによって、より桂一の挑戦の真剣さが前面に押し出され、私はそれに夢中になりました。

私は趣味で囲碁をやっているのですが(アマ三~四段くらいです)、将棋には触れたことのなかったので、本作に出会ったことを1つのきっかけにして昨年将棋を始めました。現在初段あるかないかといったレベルですが、ある程度将棋が分かるようになってから本作を再読すると、前は分からなかった箇所が分かるようになっており、感動の幅が広がりました。特に第1部最後の対局ですね。
「詰めろ」を掛けられた状態でどう指し手が制限されるか、「1手を争う終盤戦」とはどういうことかを自分が将棋を指すうえで実感していると、同じテキストから得られる情報量が桁違いになります。
ちなみに、この対局にはモデルとなった実際の対局があるようです。
ややネタバレ、特に将棋に詳しい方は注意。クリックで展開それは、第60期王座戦5番勝負の第4局です。こちらから棋譜が読めるので将棋が分かる方はぜひ参照しながら該当シーンを読んでみてください。桂一が度肝を抜かれ、人間業でないと評した奇手から終局までの流れ。これが実際のタイトル戦で現れた羽生二冠(当時)の伝説の妙手だったと知ると、また新たな感動があります。作内での戦況や着手の解説も、ここのことを言っていたのかと納得できるでしょう。
将棋の内容以外の面でも、「この興奮。この充実感。これを味わうために……僕は将棋を指しているんだ。」というような一言が胸に突き刺さるようになりました。

また、本作には1か所選択肢があり、それによって杏ルートと歌音ルートに分岐します。メインの杏ルートでは桂一は将棋一直線。叶えたい夢が大きい分、リスクも大きくなります。こちらのルートでは「将棋なんてやらなきゃ良かった!」と後悔するシーンがあります。歌音ルートはまさにこの将棋の名人を目指さなかった場合のIFルートと思うことができるでしょう。誰もが桂一のように大きな夢に向かって進んでいけるわけではありません。もっと身近な幸せを目指す歌音ルートが用意されていることで、ホッとすることができました。

総じて非常に面白い作品だと思うので、未読の方はぜひプレイしてみてください。
桂一と一緒に将棋に夢中になり、挫折し、それでも非情な現実に立ち向かわなければならない、そんな激動の人生を追体験して最後には温かい気持ちになれること間違いなしです。

ちなみに全然本質的ではないですが、本作に関して一つだけ物申したい点があります。
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ふりーむさん!! いくらテーマが将棋だとしても、「囲碁・将棋ゲーム」のジャンルに本作が含まれるのはおかしくないですか!!! 明らかに浮いてますよ!
(ふりーむのジャンル分けは作者による分類ではなくふりーむ運営による分類だったはず)

以上です。それでは。

こんにちは。今回は、九州壇氏さんの君と再会した日をご紹介します。

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★favo
ジャンル:同窓会でしんみり系ノベルゲーム
プレイ時間:40分
分岐:なし
ツール:NScripter
リリース:2011/12


本作は15年前に卒業した小学校の思い出と同窓会での出来事を描いたノベルゲームです。立ち絵はなく、背景は基本モノクロ写真と大変シンプル。本作の画面を見た方の多くは、地味だなと感じるでしょう。しかしこの作品には、地味だからこその良さが詰まっています。丁寧に、素朴に描かれた主人公のモノローグがすんなりとプレイヤーに受け止められるのは、シナリオだけでない作品全体の雰囲気が落ち着いているからでしょう。


主人公日野村健太は人づきあいが苦手な子供だった。クラスの輪にはなかなかなじめずにいたが、クラス替えで同じクラスになった宮田さんも自分と同じように人づきあいが得意でない雰囲気を感じ取り、うれしくなって彼女とも少しずつ親しくなっていった。しかし小学校を卒業してからは何度か手紙のやり取りをしたものの次第に疎遠になり、今となっては連絡先も分からない。宮田さんに会えるかもしれない同窓会という機会に期待しながらもどこか感傷的になる主人公。このあたりの描写がすごくいいです。本作では星空を見上げるシーンが思い出深く重要な役割を担っていますが、この一人で空を見上げるという行為と過去を振り返ってモノローグを語らせるのって相性がいいですよね。人は考え事をするときに無意識に上を向いてしまうなどとも言いますし、現在の時間と回想シーンの思い出をうまくつなぐ架け橋みたいな感じがします。
また、変に飾られていない分、自分に置き換えて読んだりすることが容易です。最初はぎこちないやり取りだったけど、ちょっとしたきっかけで会話のタネができればどんどん距離が縮んでいったとか、同窓会で出会ったクラスメートが大きく変わっていて、うれしいような切ないような気持ちになるとか、自分のことと思いやすいですよね。別に作品になるようなロマンチックだったりドラマチックな子供時代を送っていなくても、大人ならほとんどの人が同窓会に行った経験はあるはずです。私は大体どんな物語でも主人公になり切って読むタイプなので、本作ではそれがしやすく私の胸の中にスーッと入ってきました。
文章は丁寧というだけでなく、ちょっと気の利いた表現なんかもあって、ゲームというより小説に近い文体かもしれません。「顔を上げると、そこにはオリオン座。昔と少しも変わることのないその姿が、今は憎らしく思えた。」とか、変わってしまった宮田さんとの対比が好きですし、「それはまるで、湖に沈殿していた泥がゆっくりと巻き上げられるような感覚。」なんかも、日野村の受けたショックと暗い気持ちがすごく伝わってくる感じがします。この文はラストシーンにもまた似た表現が出てきて、気付くとにやりとできます。

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さて、本作の魅力は心情描写だけではありません。あまり細かく書くとネタバレになってしまいますが、本作には前半からちょっとした伏線が張られています。その張り方が特殊で面白いんです。普通物語の伏線と言ったら、さりげない記述が実は後から判明する事実によって別の意味を持ってくるとか、そういった形が多いと思うのですが、本作の伏線はさりげないという感じはしません。もちろんあからさまというわけではなく、出てきた当時は別の意味でしっかり必要性のある描写になっており、構造が二重になっているのです。それが明らかになったときは結構びっくりしました。計算されたシナリオ構成だったのだなあと感じました。ただ、井上さんとの会話で真実が明らかになるシーンにはなんというか、やきもきしました。そんなに宮田さんのこと好きだったならもっと早く気づけよ! と。実際には、日野村は全然気付かないで思いにふけっているので、プレイヤーが事実に気付いた後にも主人公がわからないなあと頭をひねっているじれったいような時間が続いてしまっています。
本作にもう一つ注文を付けるとしたらサウンド面でしょう。BGMの選曲は割と私の好みなんですが、音周りの細かい部分に手が届いていない感じがするのです。具体的には、冒頭で本作は音楽ないのかなと思ったくらいのところで曲が突然始まるなど、無音の時間が目立つ感じがします。音楽のあるなしによる対比で印象的なシーンを演出するという作戦はあると思いますが、本作ではあまり力を発揮していない気がします。音楽のあるシーンとないシーンを作るにしても、その境目には多少のフェードを入れるなどすればシーンのぶつ切り感みたいなものは生まれなかったのではないかと思います。また、駅や電車内のシーンなどでは効果音もあるといいかなという気がします。そんなサウンド周りの細かい点が改善されれば、本作はさらに素晴らしい作品になったんじゃないでしょうか。

全体的に暗い雰囲気の漂うシナリオですが、読後感はむしろすっきりして希望を感じられるような作品ですので、ぜひ宮田さんの真実を見届けてください。

それでは。

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