フリーゲームの森

フリーゲームのレビューブログです。 ノベルゲーム・アドベンチャーゲームを中心にお勧めの作品を紹介します。
初めての方は、ぜひごあいさつをご覧ください。評価の基準については、レビューについてに記してあります。
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1時間前後

こんにちは。今回はRtt Projectさんの「プリンキピア・アルケミア」のレビューとなります。

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ジャンル:プログラミング錬金パズルゲーム
プレイ時間:メインストーリークリアまでで1時間程度
分岐:なし
ツール:Wolf RPGエディター
リリース:2021/2


本作は3年前に公開された作品で、私が本作を初めて知ったのは2021年のフリーゲームCMコレクションだったと記憶しています。私が得意そうな雰囲気を読み取れ興味を持ってはいたのですが、DLせずにそのまま3年経過していたようです。先日何のきっかけだったかは忘れたのですがフリーゲーム夢現で本作を発見し、ようやく実際にプレイしてみました。ゲーム説明から期待されるパズル的な面白さはもちろんのこと、コストの最適化に関して考察しがいのある作品だったので今回ご紹介しようと思います。



本作は基本的にはストーリーモードとパズルモードが交互に進行していきます。主人公は19世紀のイギリスで錬金術で商売しています。自分の工房を拡張したり、客からの依頼に応じたりするために錬金術を使っていくことになります。
この錬金を行うパートがパズルの面になっています。このパズルが少々癖のあるものになっていまして、プログラミングの素養のある方ならパッと飲み込めると思いますが、そうでない場合そもそも「入力」「出力」「スタック」などの意味から日常用語と違っていて困惑するかもしれません。この辺りはチュートリアルステージをやりながら覚えていくしかないでしょう。私は以前Wikipediaでなんとなく難解プログラミング言語の一覧を見ていたとき、Befungeという2次元的にソースコードを記述する言語の存在を知っていたので、システムの理解は容易でした。
今このWikipedia記事を読んでみると想像以上に本作の仕様と同じ(その拡張)になってますね。Befungeの言語仕様のうち<>^v#&+%`\$あたりの文字を使えるようにして、元素の結合/分解という操作を付け加えたゲームという感じでしょうか。作者さんもBefungeに影響を受けて作ったゲームであることをあとがきで明言していました。

という背景情報はありつつも、本作のパズル自体は特に前提知識なく解くことができます。
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やることは格子状のフィールドにユニットを配置し下の実行ボタン(右向き三角形)を押すだけ。
スタート地点から順に通った地点にあるユニットに応じて錬金素材の取得と操作、生成物の出力などを行います。その結果出てきたものが目的物と一致すればクリア。上の画像の問題の場合、ガスを2分子取り込んで片方を分解、火の元素を一つ捨てて結合したものを出力すればOK、というのを回路にしたのが正解となります。
このあたりの操作は慣れればすぐできるようになるのですが、条件分岐を使うようになってから難易度が一段階上昇します。

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この問題では入力される素材が一部ランダムとなっています。その中から空気だけを抽出して出力するには、中央にイコールの記号のある制御ユニットを使う必要があります。プログラミングでif文を使うように、スタックに積んだ元素が一致しているかどうかで処理を分けることができるのです。
この画像の場合、取ってきた分子が空気と一致しているならそのまま出力、そうでなければ分解して全部廃棄としています。

これができるようになると格段に回路設計の自由度が増し、様々な問題を解くことができるようになっていきます。

とはいえメインストーリー中の問題はどれもクリアだけを目指す分にはそう難しくありません。私もとりあえずスマートに解くのが難しそうなら力押しの方法でクリアしており、いったん本作はやりつくしたかなと思っていたのです。
しかし作者さんがHPなどで公開している追加問題を見て、本作の秘めた可能性と私のやり残しに気付きました。
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これは作者さん本人のおすすめ問題”金の糸”の私なりの最適解です。金の元素を6個生成してつなぎ合わせる必要があるのですが、ちょうど6個というのが曲者でなかなか苦労しました。これもコストに目をつけずとにかくクリアできればいいというやり方ならさほど難しくはないのですが、追加問題には配布時に目標コストが設定されており、それがこの問題では300Gでした。私のごり押し解法では800Gほどかかっておりコスト削減のし甲斐があるなあと思い3日ほどたった日、6回ループを行う方法の天啓がおりてきました。開始時に出力用金属元素以外にカウンタ変数用の元素をスタックに積んでおき、ループごとに1回変成することによって回路の構造化が可能になると!
これを思いついてしまえばあとは2次元のフィールド上にどうやってこの手順を実現するかを考えるのみ。300Gは多少の試行錯誤で達成することができました。さらに高価なユニットである変成を1か所にまとめて通る向きの縦横で処理を識別するなどの工夫により270Gを達成。Twitter等に上がっている情報を見る限りこれが最適っぽい気がしています。

ここまでくると、単にプログラミングの問題を解いているのとは違った、2次元的に回路を組み上げて最適化するという楽しみ、そしてコスト削減で競い合うという楽しみが加わって本作の魅力を倍にしてくれました。追加問題はまだまだたくさんあるので、やり込みの道は長そうです。

この追加問題を取り込む手順はちょっと面倒かもしれません。問題ファイルをダウンロードし実行ファイルと同階層にUserDataフォルダを作ってそこに配置。ゲームを起動してカスタム問題のフィールド上で右クリック→問題を読込をクリック→ファイル名を入力、としてようやく遊べるようになります。理想的には問題ファイルをゲーム画面上にドラッグ&ドロップしたら上記の手順を勝手にやってくれる、といった機能が欲しいですがウディタの仕様上難しいんでしょうか。手動でUserDataフォルダに配置したら自動的にカスタム問題に並ぶ、という機能でもあったら嬉しいです。

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それ以外のシステムについては不満ありません。ストーリーモード、パズルモードどちらにしても動作は軽快でクリックのレスポンスもいいですし、ストーリーを後から読み返せる機能もついているのがうれしいところです(画像の吹き出しクリックで再生できる)。これができない作品はかなり多いので好印象。
回路の仕様で引っかかった点が1点。条件分岐で、初見の時は結合した分子に対する判定を期待していたので想定していた動作にならず困惑しました。(スタックがA-B A-BならYes, A-A A-BならNoというように分子単位で判定すると思っていたが、実際にはA-Bの部分だけ見てNoと判定されたりA-Aの部分だけ見てYesと判定されたりしているようで、回路の設計を一からやり直す必要が生じてしまった)
あとは初回の名前設定時に最初にEnterを押してしまったらそのまま名前が空で進行してしまったのは微妙かなと思いました。デフォルト名とか欲しいかも。

ちなみに本作のバージョン名がv1.618033と非常に細かい値になっていますが、これは更新ごとに黄金比φ(=(1+√5)/2)の近似値を一桁ずつ増やした結果のようです。Twitter検索では誰も触れてなさそうだったのでちょっとした秘密に気付いた気分でした。


というわけで今回は「プリンキピア・アルケミア」のご紹介でした。
一通りクリアした後はぜひ各ステージのコスト最小化を目指してやり込んでみてください。頭をひねり続けて試行錯誤して、効率的な回路を考え付いた時の達成感は最高です。できればランキングなどあるとさらなるモチベーションになったかも。

それでは。

こんにちは。今回はtales&Vividさんの「コーヒーって、甘いですか?」のレビューとなります。

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★favo
ジャンル:喫茶店をめぐる日常系ノベルゲーム
プレイ時間:40分
分岐:なし
ツール:Artemis Engine
リリース:2024/8


こちらの作品は昨年行われた第4回crAsM.Mビジュアルノベルオンリーで知って注目していた作品でした。当時はまだ体験版の扱いで2話までしかプレイできなかったのですがとても印象深い作品で、完成版の公開をずっと楽しみにしていました。できればフリゲ2023に投票したいなと思っていましたが結局間に合わず。
しかしつい先週、本作が正式に公開されましたので完成版でプレイしなおし満を持してのレビュー執筆となります。


郷土資料館の職員を務める主人公の溝手は喫茶店でコーヒーを飲んだり自分で淹れたりするのが趣味。仕事帰りに寄れる近所の店や、休日にお出かけした先で知っている店などいくつもの喫茶店を知っています。そんな溝手がコーヒーを飲みまくるのが本作の内容なわけです。
そんな本作の良さはなんといってもおいしそうな描写が上手いところでしょう。


ゲームファイルを起動して1話を読み始め、主人公が昼休みに職場近くの喫茶店に入るシーン。
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コーヒーカップが大きく写された写真の上に透過率高めなメッセージウィンドウ。しっかりと本作のウリであるコーヒーが印象に残る構図になっています。
そして主人公溝手による食レポもしっかりと入ります。店ごとに、豆ごとに、淹れ方の違いで、コーヒーの味わいがどんな風に変わるのかを体験談のような形式で読んでいくことができ、コーヒーの奥深さ、嗜好品たる所以を感じ取ることができます。

料理や食べ物がテーマとして扱われる作品はたびたび見かけます。本ブログで取り扱った中でいうと、「そしてパンになる」や「お菓子の国のガトー・ソルシエ」が該当しますが、料理そのものというよりはパンを作ったりお菓子を作ったりしていく中で恋愛方面の出来事があったり、トラウマを乗り越えたりといった方向に物語が進んでいきます。それに対し本作はコーヒーを味わう事そのものがテーマとなっているため食レポの深さが段違いになるのです。

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それに加えて私が驚いたのは2話の自宅でコーヒーを淹れるシーン。豆を挽いて熱湯を注ぎ、抽出したコーヒーをマグカップに移す。そんな一連の流れがなんと動画で楽しめます。スクリーンショットでは伝わらないのでぜひプレイして確かめてほしい。Spaceキーでメッセージウィンドウを隠せばお湯から立ち上る湯気までばっちり、まるでコーヒーの匂いまでしてくるようです。ノベルゲームの背景に動画を映す、こんな使い方があるのかと思ったのをよく覚えています。動きのあるシーンはシステム的に苦手なノベルゲームに動画を挿入しちゃおうという試みは見たことがありますが、本作はその手法における一つの到達点と言えるのではないでしょうか。メッセージウィンドウの表示タイミングやシーンの切り替わる位置もよく調整されていて、画面越しに自分が淹れているような感じさえします。
そうして出来上がったコーヒーを美味しそうに飲む溝手。これがまた嬉しい。やっぱり登場人物、特に主人公が幸せそうにしていると読んでいる側も幸せになれますよね。


そんなコーヒー大好きな主人公の溝手ですが、昔からそうだったわけではありませんでした。大学生のころにバイト先であまりのコーヒーを飲んでみたらめちゃくちゃまずかった、なんてちょっと笑えるエピソードもあります。私は普段コーヒーを飲まないのでこういった点は親しみやすかったです。
今では毎日のように飲んでいる溝手もコーヒーを極めたという状態ではない様子。コーヒーの味わいを表現するのによく使われる「苦味」「酸味」そして「甘み」。今はまだ「甘い」と表現される味がどんなものなのかわからないけれども、いくつもの喫茶店で様々な豆や淹れ方のものを試していくうちに、それらの言葉が意味するものをつかんでいく、そんな描写もあり、コーヒーという趣味の楽しいところを門外漢の私に教えてくれました。
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このシーン、読んでいてうんうんと頷きながらマウスを持つ手を進めていたんです。インスタントコーヒーを飲むことがある、という程度の私にはあの苦いコーヒーに「甘い」と言われる部分があるなんて想像もつきません。そんなコーヒー素人にも読んでいて楽しい作品になっていると思います。
そういえばコーヒー以外にも、例えば日本酒だったりワインだったりの嗜好品にも独特な用語が使われるように感じます。「甘口」「辛口」と言われる日本酒がどんな味に対応するのか私は分からないのですが、これらにもきっと深い趣味の世界があるのでしょう。


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本作は全6話構成。1話あたりじっくり読んでも10分かからないと思います。
最終話ではにぎわう喫茶店内で恐る恐るコーヒーに口をつける中高生たちに出会います。タイトルにある「コーヒーの甘さとは?」という問いに自分なりの答えを見つけた溝手は、コーヒーに不慣れな若者たちにコーヒーの魅力を伝えることができるのでしょうか。
そして店を出てエンディングテーマがかかってからスタッフロールに入るまでの流れもスムーズでいいですね。ボーカル入りのエンディングテーマはYouTubeでも聴けるので是非こちらもどうぞ。


というわけで今回は「コーヒーって、甘いですか?」でした。
ノベルゲームを通じてほかの趣味を体験できるようなこの感触はプレイしてみないとわからないでしょう。ぜひ皆さんもご自分の手でプレイしてみてください。全くの素人だった私でも興味がわいてくるような体験ができました。

それでは。

こんにちは。今回はHase im Hausさんの「おさななじみ Childhood Love」をレビューしていきたいと思います。

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ジャンル:幼馴染系短編乙女ゲーム
プレイ時間:1ルート10分、フルコンプまで1時間程度
分岐:ED10種
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2024/5
備考:16歳以上対象



本作はTwitterをなんとなく見ていて目に留まった作品になります。大きく可愛らしいヒロインが描かれたサムネイルとストレートなタイトル。変に凝った作品より逆に印象に残りやすかったかもしれません。

では本作をプレイしての感想の話などに移る前に……ひとつ謝らなくてはならないことがあります。
これまでに数多くのフリーゲームをプレイしてきて得た嗅覚によって私は、「この子、どんな風に闇落ちするのかな~」という気持ちでプレイし始めたのです!

薄めのピンクで統一されたイラスト、ロゴ、UIでこれでもかと乙女チックに演出されたタイトル画面。Readmeにて確かな存在感を放つ「対象年齢: 16歳以上(ほんのり大人の会話有)」の記述。そしてタイトル画面左下に控えめに鎮座するRESETボタン。
これまでの経験から、これはルート選択によってはヒロインが闇落ちorヤンデレ化してタイトル画面がホラーになるやつや…とそこそこ高い確信度を持っていました。しかし! それは私の心が汚れてしまっていただけでした。ルート分岐は多めで進展があるルートも喧嘩に至るようなルートもあるもののどれも微笑ましい内容となっており、純粋に幼馴染ものの乙女ゲームをお求めの方にぴったりだなと思いましたのでレビューを書くことにしました。


主人公のほのか(名前変更可)は高校生(多分2年生)。学年違いではあるけれども子供のころから家族ぐるみの付き合いのあった幼馴染の海とは交流が続いています。ほのかは海のことが好きだけれども海は最近ほのかと距離を置き気味。もらったお漬物を届けに行った今日も受験生は忙しいんだと追い返されそうになる始末。ほのかは海との距離を縮めることができるのでしょうか…

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さて、本作は1ルート読み終えるのに10分かからないくらいの短編ですが、その中でほのかと海の関係性がしっかりプレイヤーに伝わってくるような描写がされます。ほのかは昔から海のことが好きで、それは男も女も関係なかったあのころの気持ちとは違うんだという自覚もあるようです。しかし海から見たらほのかはまだまだ子供。そんな無邪気な様子でいられると男の欲望を抑えられなくなってしまうと危惧しています。
この、実はお互いに好きあっているのに微妙にすれ違っている関係性、いいですね。

ほのかは確かに海のことを男の子として好きなようですが、行動も発言もまだまだ子供。部屋に入れてくれーと玄関先で泣き付いたり、勉強の邪魔したり…。海のいる部屋で着替えたり寝たりすることもあるようです。確かにこう見ると、海がほのかをお子ちゃま扱いして恋愛対象と見てくれないのも当然といった感じですが、海は海でほのかのことを好いてはいるのがまたややこしい! 好きであるからこそ、ほのかが何も分かっていないうちに手を出したくないんですよね。いい子ですね。
2人がこの関係性から前進できるのかはプレイヤーの選択にかかっています。



さて、話は変わりまして本作にはボイスがついています。ゲーム開始直後には名前入力と一緒に珍しいオプション「ヒロインのボイスを付ける」が表示されます(デフォルトはON)。
確かにフルボイスゲームって主人公にも声付きのタイプとそうでないタイプがあります。これを選べるのって初めて見たかもな~と思いました。男性主人公の作品だと付いていないものが多くて、女性の場合は体感で半々くらいですかね。本作をプレイしてこの非対称性に気付きました。

ボイスについてもう一つ珍しいと感じた点があって、それはいわゆる心の声にもボイスがついていることです。心の声には、実際にしゃべった時の声と違ってリバーブが効いた音声になっているので最初はなんだこれ?と思ったのですが、心の声と台詞の区別がされているんだと気付くとなるほどと納得したのと同時に面白い演出手法だなと感じました。



本作の通常EDは9種類あります。2人が恋人関係になる"正解ルート"みたいなものが1つだけあるのが普通かなと思っていたんですが、本作は違いました。2人が親密になるルートも疎遠になるルートも複数あって、結果的には似ているんですがそれぞれ過程が違う感じになっていました。私が好きだったのはEND3です。一旦すれ違って喧嘩別れみたいになりそうなんですが、雨降って地固まる的展開が繰り広げられて最終的にはいい感じに。ちゃんと山場があるし、何より海のほうからアプローチがあったのがうれしいですね。これまで聞き分けのない子供だったほのかがちゃんとけじめをつけるのを見て、海としても覚悟を決めたのでしょう。”ほんのり大人の会話”は本当にほんのりだったけれども、2人にはこれくらいがちょうどいい気がします。
他にも多くのルートがあるので、きっと皆さんの好みな展開もあるでしょう。全ED回収後はおまけAFTER STORYも忘れずに回収してくださいね。

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そう、おまけと言えばもう一つ、エンド回収ごとに思い出のガチャを1回回せます。出てきた可愛らしいアイテムをクリックすれば、2人の小さな思い出をのぞき見することができます。これも珍しい仕掛けで面白いですね。そして私はようやくタイトル画面にあったRESETボタンの意味を理解しました。このエンド回収履歴やガチャ入手アイテムをリセットするためのボタンだったんですね。闇落ちしたほのかの記憶を消してあげるボタンだと思っててごめんなさい…。

ほかにもEXTRAS画面にはいくつか仕掛けがあるので是非探してみてください。

ということで今回は「おさななじみ Childhood Love」でした。
さわやかで安心安全の乙女ゲームをお求めの方、成長に伴ってそれまでの関係性に変化が生じてきちゃった幼馴染が好物なんだ!という方、プレイして損はないと思いますよ。

それでは。

こんにちは。今回はちかげさんの「みちゃダメ! パンチラは絶対阻止せよ」のレビューです。

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ジャンル:女装BLアドベンチャー(ほんのりサスペンス)(※readmeより引用)
プレイ時間:1時間弱
分岐:ED2種+ゲームオーバーあり
ツール:ティラノスクリプト
リリース:2023/8



さて、本作は私がなんとなくおバカで下品なコメディをやりたい気分の時にちょうど見つけた作品です。タイトルだけ見て大体の内容が分かるこの潔さ。しかしちょっと意外な展開もあったりして予想外に面白かった作品でもあるので今回取り上げることにしました。



大まかな内容はこんな感じ。

主人公の白井ユキトはごく普通の男子高校生。ある日ひょんなことから人気若手シンガーソングライター、若王子柊(わかおうじ・しゅう)のMV撮影に雪の妖精役として出演することになります。女性の役と聞いていなかったユキトは大慌て。衣装とメイクで可愛い女の子の見た目になったユキトでしたが、恥ずかしいから他の人に自分が男であることは隠そうと誓います。ところが下着だけは自分の私物の男物を身に着けたままなことに気づいたユキト。撮影中のあらゆるパンチラの危機を乗り越えて、男であることを隠し通せ!



女の子役だと聞いて困惑しながらもセッティングしてもらったユキトの様子がこれです。
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全体的に男の子に見えない可愛らしさと背景のキラキラ演出がすごい。
肌の色もかなり白いですし雪の妖精をイメージした衣装と言われたら確かにと納得できますね。

スクリーンショットを見ていただければわかると思いますが、本作の立ち絵はすべて3Dモデルとなっています。以前レビューした「おもいをつたえるプログラム」と同じ手法ですね。本作もこの3Dモデルを活かして登場人物たちの様々なポーズを多様なアングルから見ることができるようになっています。スチル鑑賞モードもあるのでぜひプレイ後に見ていただきたいのですが、1時間に満たないプレイ時間に対して5ページにも及ぶスチルのバリエーションがあります。これは3Dモデルを使ったメリットを大いに活かしているといえるでしょう。


さて、本作のメイン攻略され対象(そんな言葉あるか?)の若王子さんはイケメン芸能人でありながらユキトの女装姿に一目ぼれの様子。こんなかわいい子が自分のMVに出てくれるなんて! となるばかりかプライベートでも近づきたいとユキトとの距離を詰めようと必死です。片やユキトは自分が男であることがばれないか常にひやひや。わかりやすいBLコメディといった感じが続きます。

風でスカートがめくれそうになったり椅子が倒れて転びそうになったりと、なぜか何度も迫るパンチラの危機。ただ笑っていればいいのかと思えば突如として意外な展開が現れました。

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全身黒塗りの謎の人物が休憩室に仕掛けをしています。そういえば本作のジャンルは「女装BLアドベンチャー(ほんのりサスペンス)」でした。ここから”ほんのりサスペンス”の部分が意味を持ってきます。

本格的なミステリーのような内容ではありませんが、ユキトを襲うハプニングには犯人の意図や動機があることがしっかり描かれるので意外に思うと同時に感心しました。よくあるラブコメネタとして流していた部分がこういう風にあとから別の意味で回収される展開、好きなんですよね。


この事件(?)の謎に迫るところでは犯人指摘パートがありますが、選択画面でよく観察すればだれが犯人なのかはすぐわかりますし、間違えてもゲームオーバーにはならないので安心です。しかし犯人の身勝手な言い分にはちょっとした怖さを感じました。ユキトたちの身に何もなくてよかったです。

これ以外にも本作では選択肢がいくつかありますが、基本的に間違えると即ゲームオーバー行きになります。コメディはこうでなくちゃ!というシステムですね。本作はさらにゲームオーバー後に直前の選択肢に戻ることができるのでセーブを分けておく必要すらありません。親切ですね。

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さて、本作のBL部分ですが、片方が常に女装姿かつ若王子さんもユキトのことを完全に女の子だと思い込んでるんですがこれはBLにカウントされるんですかね…? 普段そんなにはBLをやらないのでその辺の空気感が分かりませんでした。
また、タイトルこそ下世話な内容を想像させる本作ですが、実際にパンツが見えてしまうようなシーンはありませんし、若干の下心は見えつつも登場人物たちは基本的にみな紳士だったので下品さはほとんど感じませんでした。若王子さんがユキトの女装姿にタジタジになっている様子はなかなか笑えますが、初めての撮影に困惑するユキトをしっかりエスコートしているのでいい人なんだなあと思えて応援したくなりました。いや、ユキト側から見たらそういう目で見られるのはごめんなのかもしれませんが…


というわけで今回は「みちゃダメ! パンチラは絶対阻止せよ」でした。
意外なところで伏線が張られていたりして、ただの一発ネタBLコメディ以上の面白さを感じられた作品なので、ぜひプレイしてみてください。

それでは。

こんにちは。今更かよと思われるほどの有名作かもしれませんが、今回はパルソニックさんの「かわいいは壊せる」です。

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ジャンル:幼女とおじさんのKENZENアドベンチャーゲーム
プレイ時間:1プレイ5~10分、フルコンプまで1時間強
分岐:エンディング10種
ツール:RPGツクール
リリース:2021/3
備考:12歳以上推奨、ニコニコ自作ゲームフェス2021優秀賞受賞作


以前「決戦前のヒトリ」をレビューしたときに少しだけ触れました。存在は以前から知っている有名作でDL済みでもあったのですが結局プレイしていない状態でした。しかし先日本作がふりーむの累計ランキングで1段目(5位)に入ったという情報を見かけ、やってみるかぁと意を決しました。
噂に聞いていた通りの(タイトル画面を見ても分かりますが…)危ない作品でしたが、単にインパクトがあるだけでもないと感じたので今回取り上げることにしました。


最初にいつも通り簡単に本作の内容を説明しておきましょう。
舞台となるのは労働環境も教育制度も崩壊した世界。週末の休みという概念がなくなり労働者は疲弊する一方。現行で9年ある義務教育は何と1年に短縮され多数の子供がまともな教育を受けられないままです。そんな貧しくなった世界ではたった1年の義務教育を終えたばかりの幼い子供をレンタル商品として貸し出してお金を取る非道な商売が横行しています。
主人公(おじさん呼びで名前は出てきません)は隣の部屋に住む子供(でここ)を1週間レンタルすることになります。毎日でここをなでてかわいがってあげるのもおしおきするのもおじさんの自由。あなたの行動によって物語は10個に分岐します。みんなが幸せになれる未来はあるのでしょうか…?

…と、こんな感じでしょうか。

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記事冒頭でインパクトだけの作品ではないと言いましたが、やはりゲーム開始直後に何の説明もなくでここと会話することになり、さらに彼女をベッドの上に連れてきたこの絵面は強烈な破壊力があることをまず言っておきましょう。


とはいえ本作は18禁ではありません(12推です)。この状態から足を動かすというきわどい操作は可能ですが、本編に関連する操作は2つだけです。なでなで、すなわち頭をなでてやること、そしておしおき、すなわちデコピンです。それ以上のことはできません。
ただ、デコピンというと大したことないように思えますが、このおじさんのデコピンは相当痛いらしいです。クリア後のおまけにそういう記載がありましたし、なによりでここの反応が作り込まれていて見るからに痛そうなのです。

登場人物がひどい目に遭う作品は珍しくありません。このブログで扱った作品でいうと「スレガル」(18禁)は代表例でしょうし、18禁まで行かなくとも「いちごみるくとあそぼうよ」や「Strange meeting!」(いずれも15禁)も十分悲惨な展開が待ち受けています。しかし本作は全年齢であるにもかかわらず、これらの作品よりもプレイしながら罪悪感を覚えるような作りになっていました。

どういうことかというと、上記の作品たちと違って本作は主人公が加虐者なんですね。しかも行動は単なる選択肢式ではありません。毎日でここを寝かしつけるためにベッドに連れていき、カーソルを操作して額付近に持っていき目をつぶらせたうえでようやくおしおきをすることができます。しかもデコピンを構えた後マウスボタン押下または決定キー長押しでパワーを溜めてから解放しないと不発になります。要は徹底的にプレイヤーの自発的操作を要求しているのです。
仮に「おしおきする」という選択肢を1回選ぶのみであったらさほどためらわずにそのボタンを押していたかもしれません。しかしこう何回も、しかも長押しまで要求していると、「お前は今からこのいたいけな子供に強烈なデコピンをお見舞いしてやろうとしてるんだぞ!」という事実を突きつけられているようで私の良心も痛めつけられたのです。
ここが本作がほかの作品と比べて特出している点と言えると思います。

この演出はホラーゲームなどにおいて良く見られると思います。有名なところでいうと「Ib」でアリの絵を橋代わりにして踏みつけるシーンであったり、「魔女の家」でカエルをいけにえにしたり、といったシーンが思い浮かびます。私は単純に驚かせたり怖い絵が出てきたりといった方法で恐怖演出をするタイプの作品より、こうした地味に嫌な展開を重ねておどろおどろしい雰囲気からプレイヤーに継続ダメージを与えてくるタイプの作品の方が好きなのですが、本作はそれに近い怖さというか雰囲気を感じ取りました。

上でフルコンプまで1時間強と書きましたが、これは少し嘘なんですよね。私はこうした演出は好きなのですがMPをかなり消費するので、プレイ中にかなり中断時間をはさんでMPを回復しました(以前Twitterに投稿した通り)。それを除くと大体1時間といった分量という意味です。

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さて、他の演出面について見ていきましょう。
イラストは、綺麗ともてはやされるタイプの絵ではないと思いますが、表情の差が分かりやすく描かれていて好きです。ベッドの上でおじさんを見つめるでここの表情は、前日までにどんな行動をとったかによって大きく変わります。単純に不安そうだったり、怯えていたり、あるいは懐いている様子だったり何かを懇願している風だったりと様々です。「なでなで」をしてあげるときも表情の変化が現れます。ギャルゲーによくある好感度システムを少しだけ見えるようにしてくれたありがたみがあるのと同時に、プレイヤーの行動如何ででここのメンタルを支配できてしまうような怖さも感じられます。
ベッドの上での表情だけでなく、マップ上での移動の様子だったり日付が変わるときのカットインだったりもでここの心境が反映されていて、しっかり考えて作られているなあと感じます。



本作をプレイしていて気になった点も少しあります。
これまで書いてきたように本作はシリアスな展開の割合が多いのですが、時々ギャグ要素が放り込まれているときがあります。シンプルに笑える場合は良いのですが私は鬱陶しいと感じてしまうシーンもありました。具体的には警官の居眠りシーンですね。エンディングで何度も見ることになるのでちょっとしんどいなと。でここが勘違いするシーンなどは面白かったです。

あとはでここのママについて最後まで詳細不明なのは若干もやもやします。その状態でハッピーエンドに行ってしまって何らかの後腐れが残らないのかなという不安につながっているように思います。「レンタル家族」が横行してろくに検挙もされない世の中なのに、主人公の部屋に隣に住む少女がいた程度で任意同行を求められているのも疑問かもしれません(END 02や09ではそうなるのも納得なのですが)。


エンディングについて書きましょう。
本作のエンディングは10種類。ただしおまけ内でいわれている通りEND05~09はほぼ同じなので実質6種類ということです。END 01がハッピーエンドと言えるでしょう。本気で攻略を目指せば初見でも可能だろうという難易度だと思います。でここは親からの愛をあまり受け取れていないようでおじさんに対しても疑心暗鬼のような状態です。ここから警戒心を解きほどいてハッピーエンドに向かうことができるかはプレイヤーの選択にかかっています。単になでなでを続ければいいわけではないのもよく練られています。

エンディングに加えて条件を満たすと、おまけ部屋で七つの大罪になぞらえたクリスタルを輝かせることができます。いわゆる実績に相当する機能です。全開放するととあるモードが解放されます。スクリーンショットは貼りませんが…………こりゃ危険度が増してきたぜ!


というわけで今回は「かわいいは壊せる」でした。
スクリーンショットを見て物怖じしない方はぜひプレイしてみてください。

それでは。

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